説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐熱性、透明性、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を備えると共に、特に成形時の熱安定性に優れ、かつ、高い紫外線吸収能をもつ熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と、紫外線吸収剤とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関する。より詳しくは、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と紫外線吸収剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PMMA(ポリメタクリル酸メチル)に代表されるアクリル樹脂は、高い光線透過率といった光学特性に優れ、更に機械的強度、成形加工性、表面硬度のバランスがとれているので、自動車部品や家電製品、各種工業部品などにおける透明材料や光学関連用途に幅広く使用されている。しかしながら、紫外線を含む光に晒されると、黄変により透明度が低下するという問題を抱えていた。このため、一般にアクリル樹脂には、紫外線吸収剤が添加されているが、これらの紫外線吸収剤は分子量が低いため、成形時に発泡やブリードアウトが起こるなどの問題が有った。また、成形加工時の蒸散により添加量が減少し、紫外線吸収能が低下するとともに、製造工程が汚染される等、様々な問題を有していた。
【0003】
このような問題を解決する試みとして、紫外線吸収性モノマーを単独又は共重合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、一般のアクリル樹脂では、耐熱性が十分ではないため、その樹脂そのものでは高温での形状安定性が悪く、他の樹脂に混練、積層又はコーティングする方法しかなかった。また、紫外線吸収モノマーは一般的に嵩高く、共重合した場合には樹脂の耐熱性が低下してしまう。特に、紫外線吸収能を向上させるために紫外線吸収モノマーの共重合量を多くした場合に耐熱性の低下が顕著となり、成形時に劣化しやすいという問題があった。
【0004】
他方、透明性と耐熱性とを共に兼ね備えた熱可塑性樹脂として、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体をラクトン環化縮合反応させることによって得られるラクトン環含有重合体が知られている(例えば、特許文献2〜3参照。)。しかし、これらの重合体は、耐熱性が高いため、一般のアクリル樹脂に比べ成形温度が高く、成形品に発泡やシルバーストリークスが入りやすいことが知られている。特に、嵩高い紫外線吸収性モノマーを共重合した場合には成形時の熱安定性が悪化する傾向があった。また、低分子量の紫外線吸収剤を添加すると、成形時の添加剤の蒸散やそれによる製造工程の汚染がより生じ易かった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−170941号公報
【特許文献2】特開2001−151814号公報
【特許文献3】特開2002−138106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、透明性、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を備えると共に、特に成形時の熱安定性に優れ、かつ、高い紫外線吸収能を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂が透明性と紫外線吸収能を有することに着目し、更に紫外線吸収剤を配合したところ、紫外線吸収能が向上するとともに、紫外線吸収剤の配合で懸念される発泡などの成型性の問題が見られず、上記課題が全て解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と、紫外線吸収剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【0009】
前記熱可塑樹脂組成物は、好ましくは、ガラス転移温度が120℃以上である。
【0010】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、厚さ100μmにおける500nmでの光線透過率が80%以上、380nmでの光線透過率が30%未満である。
【0011】
前記熱可塑性メタクリル系樹脂は、好ましくは、ラクトン環構造を有する。
【0012】
前記熱可塑性メタクリル系樹脂が有するラクトン環構造は、好ましくは、下記一般式(1);
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。)で示される構造である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と紫外線吸収剤とを含有しているので、高い紫外線吸収能を有し、透明性、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を備えると共に、特に成形時の熱安定性に優れた成形品を与えることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と、紫外線吸収剤とを含有する。
≪熱可塑性メタクリル樹脂≫
本発明にかかる熱可塑性メタクリル系樹脂は、紫外線吸収性単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)を有する。紫外線吸収性単量体としては、紫外線吸収性を示す単量体であればいずれも使用し得るが、ベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、又は、ベンゾフェノン誘導体に重合性基を導入したものが好ましい。
【0017】
上記紫外線吸収性単量体の具体例としては、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学製、商品名:RUVA−93)、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、下記化学式で表されるUVA−5等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収単量体;下記化学式で表されるUVA−2、UVA−3、UVA−4等のトリアジン誘導体等が挙げられる。これらの紫外線吸収性単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、トリアジン誘導体、より好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体である。紫外線吸収能や成形後の着色の点から特に好ましくは、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾールである。これらの単量体は、少量で高い紫外線吸収能を有することから、熱可塑性メタクリル系樹脂において該単量体由来の繰り返し単位が少量で充分に高い作用効果を発揮する。したがって、熱可塑性メタクリル系樹脂中の紫外線吸収単量体単位以外の構造単位の量を相対的に多くすることができるため、フィルム等の種々の用途に好適な熱可塑性を充分に有する熱可塑性メタクリル系樹脂とすることができる。また、紫外線吸収単量体に由来する構造単位が少ないことから、熱可塑性メタクリル系樹脂、及び、該樹脂から得られるフィルム等の製品の着色が充分に抑えられ、各種用途に好適に用いることができる。
UVA−2:
【0018】
【化2】

【0019】
UVA−3:
【0020】
【化3】

【0021】
UVA−4:
【0022】
【化4】

【0023】
UVA−5:
【0024】
【化5】

【0025】
本発明にかかる熱可塑性メタクリル系樹脂に含まれる紫外線吸収性単量体単位は、添加する紫外線吸収剤が有する紫外線吸収基と類似した構造をもつ紫外線吸収基を有することが好ましい。すなわち、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と紫外線吸収剤が、互いに類似した構造をもつ紫外線吸収基を有することが好ましい。類似した構造を有することで、熱可塑性メタクリル系樹脂と紫外線吸収剤の相溶性が向上し、紫外線吸収剤に起因する成形加工時の蒸散や発泡などの問題点が抑制出来る。具体的には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂はベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤との組合せ、トリアジン誘導体系紫外線吸収単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂はトリアジン誘導体系紫外線吸収剤との組合せが好ましい。
【0026】
本発明にかかる熱可塑性メタクリル系樹脂に含まれる紫外線吸収性単量体単位の含有率は、20重量%以下であることが好ましい。上記紫外線吸収単量体の含有量が15質量%以下である形態もまた、本発明の好ましい形態の一つである。より好ましくは、1〜15重量%、更に好ましくは、2〜10重量%、特に好ましくは3〜10重量%である。紫外線吸収性単量体単位の含有率が1重量%未満であると、得られた重合体の紫外線吸収能が不充分になり、また、添加する紫外線吸収剤との相溶性が低下するために成形時に問題が起こることがあり、好ましくない。逆に、紫外線吸収モノマー単位の含有割合が20重量%を超えると、得られた重合体の耐熱性が低くなるうえ、経済的にも好ましくない。
【0027】
本発明にかかる熱可塑性メタクリル系樹脂は、紫外線吸収性単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)を有する熱可塑性メタクリル系樹脂であれば、特に限定されるものではない。その中でもガラス転移温度が120℃以上のものが好ましく、例えば、ラクトン環含有重合体、マレイミド系重合体、無水グルタル酸系重合体、グルタルイミド系重合体等が挙げられる。その中でも、透明性、色相、その他の光学的性質の上で、ラクトン環含有重合体が好ましい。
【0028】
本発明にかかる熱可塑性メタクリル系樹脂は、重量平均分子量が好ましくは1,000〜300,000、より好ましくは5,000〜250,000、更に好ましくは10,000〜200,000、特に好ましくは、50,000〜200,000である。
【0029】
本発明にかかる熱可塑性メタクリル系樹脂が有するラクトン環構造は、下記一般式(1);
【0030】
【化6】

【0031】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。)で示される構造であることが好ましい。
【0032】
本明細書において、有機残基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等の、炭素数が1〜20のアルキル基;エテニル基、プロペニル基等の、炭素数が1〜20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が1〜20の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和炭化水素基、上記芳香族炭化水素基の水素原子のひとつ以上が、水酸基で置換された基;上記アルキル基、上記不飽和炭化水素基、上記芳香族炭化水素基の水素のひとつ以上が、カルボキシル基で置換された基;上記アルキル基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基の水素のひとつ以上が、エーテル基で置換された基;上記アルキル基、上記不飽和炭化水素基、上記芳香族炭化水素基の水素のひとつ以上が、エステル基で置換された基であることが好ましい。すなわち、炭素数が1〜20のアルキル基、炭素数が1〜20の不飽和脂肪族炭化水素基、炭素数が1〜20の芳香族炭化水素基、又は、これらの基の少なくともひとつ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基、若しくは、エステル基で置換された基であることが好ましい。
【0033】
ラクトン環含有重合体のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、更に好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。上記式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不充分になることがあり、好ましくない。
【0034】
ラクトン環含有重合体は、上記式(1)で表される構造以外の構造を有していてもよい。上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造としては、例えば、ラクトン環含有重合体の製造方法として後に説明するような(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記式(2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し単位)が好ましい。
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、又は−C−O−R基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R及びRは、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。)
ラクトン環含有重合体構造中の上記式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%,更に好ましくは、40〜90重量%、特に好ましくは50〜90重量%であり、水酸基含有単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは、0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは、0〜10重量%である。一般式(2)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは、0〜10重量%である。
【0037】
ラクトン環含有重合体の製造方法については、特に限定されないが、好ましくは、重合工程によって、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後に、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合反応工程を行うことによって得られる。
重合工程においては、下記式(3)で表される単量体を含む単量体成分の重合反応を行うことにより,分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得る。
【0038】
【化8】

【0039】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。)
上記式(3)で表される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチル等が挙げられる。これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが特に好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。上記式(3)で表される単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0040】
重合工程において供する単量体成分中の上記式(3)で表される単量体の含有割合は、好ましくは、5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、更に好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは、10〜50重量%である。重合工程において供する単量体成分中の上記式(3)で表される単量体の含有割合が90重量%より多いと、重合時,ラクトン環化時にゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が乏しくなることがあり、好ましくない。
【0041】
重合工程において供する単量体成分には、上記式(3)で表される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、上記式(2)で表される単量体が挙げられる。上記式(3)で表される単量体以外の単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
メタアクリル酸エステルとしては、上記式(3)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルであれば、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;等が挙げられ、これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に耐熱性、透明性が優れる点から、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0043】
上記式(3)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは、10〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、更に好ましくは40〜90重量%である。
【0044】
水酸基含有単量体としては、上記式(3)で表される単量体以外の水酸基含有単量体であれば、特に限定されないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0045】
上記式(3)で表される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは、0〜30重量%、より好ましく0〜20重量%、更に好ましくは、0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。
【0046】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種を併用してもよい。これらの中でも、特に、本発明の効果を充分に発揮される点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0047】
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。
【0048】
上記式(2)で表される単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を充分に発揮させる点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0049】
上記式(2)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%、より好ましは0〜20重量%、更に好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。
【0050】
単量体成分を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
【0051】
重合温度、重合時間は、使用する単量体の種類、使用比率等によって異なるが、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
【0052】
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃のものが好ましい。
【0053】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、t−アミルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシアセテート、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等の有機過酸化物;2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物;等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。また、重合体の分子量制御に連鎖移動剤を用いてもよく、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンやα−スチレンダイマー等が挙げられる。
【0054】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50重量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは45重量%以下、更に好ましくは40重量%以下である。なお、重合反応混合物中の重合体の濃度があまりに低すぎると生産性が低下するため、重合反応混合物中の重合体の濃度は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。
【0055】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基とエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を充分に抑制できる。添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0056】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0057】
重合工程で得られた重合体は、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜300,000、より好ましくは5,000〜250,000、更に好ましくは10,000〜200,000、特に好ましくは50,000〜200,000である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
【0058】
重合体(a)へラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基が環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在してしまったりするので好ましくない。
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、上記式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
【0059】
重合体(a)を加熱処理する方法については特に限定されず、例えば、公知の方法を利用でき、重合工程によって得られた溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
【0060】
環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。また、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等を用いてもよい。塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等を用いる場合は、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様にすればよい。
【0061】
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。有機リン化合物を触媒として用いる場合は、特開2001−151814号公報に示されているようにすればよい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。更に、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
【0062】
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5重量%、より好ましくは0.01〜2.5重量%、更に好ましくは0,01〜1重量%、特に好ましくは0.05〜0.5重量%である。触媒の使用量が0.001重量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が充分に図れないおそれがあり、一方、5重量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融賦形しにくくなったりするので、好ましくない。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
【0063】
環化縮合反応を溶剤の存存下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、及び、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0064】
上記脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不充分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こったりする問題等が生じる。
【0065】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、上記脱揮装置と上記押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置又はベント付き押付機を用いることがより好ましい。
【0066】
上記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲が好ましく、200〜300℃の範囲がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多<なるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
【0067】
上記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲がより好ましい。上記圧力が931hPaより低いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
【0068】
上記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
上記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲が好ましく、200〜300℃の範囲がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
【0069】
上記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処埋時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
【0070】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
【0071】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)を溶剤とともに環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。
【0072】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体(a)を製造した装置を、更に加熱し、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0073】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体(a)を、二軸押出機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が悪くなるおそれがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基をあらかじめ環化縮合反応させた環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応の触媒が存在していることがより好ましい。
【0074】
上述のように、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基を予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。
【0075】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、更に、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。より好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0076】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させるガ法、および、上記(i)又は(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。
【0077】
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去したのちに環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよいことを意味する。
【0078】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前にあらかじめ行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類:クロロホルム、DMSO(ジメチルスルホキシド)、テトラヒドロフラン等でもよいが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
【0079】
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等が挙げられるが、本発明においては、上述の有機リン化合物を用いることが好ましい。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体(a)の重量に対し、好ましくは0.001〜5重量%、より好ましくは0.01〜2.5重量%、更に好ましくは0.01〜1重量%、特に好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0080】
上記方法(i)の加熱温度と加熱時間は特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上、より好ましくは50℃以上であり、加熱時間としては、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0081】
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜等を用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。加熱温度としては、好ましくは100℃以上、更に好ましくは150℃以上である。加熱時間としては、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0082】
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0083】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、更に好ましくは1%以下である。重量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下するおそれがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0084】
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基を予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、上記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
【0085】
脱揮工程は環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0086】
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率が1重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは0.3重量%以下である。
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。更に、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるため、得られたラクトン環含有重合体が充分に高い耐熱性を有している。
【0087】
触媒を添加し環化縮合反応を十分行った後にも微量の未反応の反応性基が残存し、成形時に発泡やポリマー間の架橋での増粘などの問題が起きることがあるため、環化縮合触媒の失活剤を添加することが好ましい。環化縮合反応には酸性触媒、あるいは、塩基性触媒が用いられることが多く、その場合、失活剤は中和反応により触媒を失活させるため、触媒が酸性物質である場合、失活剤は塩基性物質を用いればよく、逆に触媒が塩基性物質である場合、失活剤は酸性物質を用いればよい。失活剤としては、熱加工時に樹脂組成物を阻害する物質などを発生しない限り、特に限定されるものではないが、失活剤に塩基性物質を用いる場合、例えば、金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物などが挙げられ、金属カルボン酸塩と金属酸化物が好ましく、金属カルボン酸塩が特に好ましい。ここで、金属としては、樹脂組成物の物性を阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛;ジルコニウム;などが挙げられる。金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸などが挙げられる。金属錯体における有機成分としては、特に限定されるものではないが、アセチルアセトンなどが挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどが挙げられ、酸化亜鉛が好ましい。他方、失活剤に酸性物質を用いる場合には、例えば、有機リン酸化合物やカルボン酸などが挙げられる。失活剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、失活剤は固形物、粉末状、分散体、懸濁液、水溶液など、いずれの形態で添加しても良く、特に限定されるものではない。
【0088】
失活剤の配合量は、環化縮合に使用した触媒に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくはメタクリル系樹脂に対して、10〜10,000ppm、より好ましくは50〜5,000ppm、さらに好ましくは100〜3,000ppmである。失活剤の配合量が10ppm未満であると、失活剤の作用が不十分になり、成形時に発泡やポリマー間の架橋での増粘が起こることがある。逆に、失活剤の配合量が10,000を越えると、必要以上に失活剤を使用することになり、分子量低下が起こるなど樹脂組成物の物性を阻害することがある。
【0089】
失活剤を添加するタイミングは、メタクリル系樹脂の製造にあたり、触媒を添加し環化縮合反応を十分行った後であり、かつ得られた樹脂組成物が熱加工される前である限り、特に限定されるものではない。例えば、メタクリル系樹脂を製造中に所定の段階で失活剤を添加するか、あるいは、メタクリル系樹脂を製造した後、メタクリル系樹脂、失活剤、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;メタクリル系樹脂、その他の成分などを加熱溶融させておき、そこに失活剤を添加して混練する方法;メタクリル系樹脂を加熱溶融させておき、そこに失活剤、その他の成分などを添加して混練する方法;などが挙げられる。この場合、熱可塑性樹脂と失活剤を混練した後に、脱揮工程を設けることが好ましい。得られた熱可塑性樹脂が熱加工時に発泡現象をほとんど起こさなくなるからである。脱揮工程としては、例えば、ラクトン環含有重合体の製造に際して行う脱揮工程として説明した上記のような脱揮工程が挙げられる。
≪紫外線吸収剤≫
本発明にかかる紫外線吸収剤としては、公知の紫外線吸収剤を用いることができる。好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤より選択される紫外線吸収剤を用いる。例えば、特開2001−154017、特表2002−543265、および、特開2003−43259に記載の紫外線吸収剤を挙げられる。紫外線吸収剤は単独で用いても2種類以上併用しても良い。紫外線吸収剤は、熱安定性が高く、高温での成形時に蒸散しにくいものが好ましい。
【0090】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として具体的には、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖および側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール等が挙げられ、その中でも特に、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましい。
トリアジン系紫外線吸収剤として具体的には、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(へキシル)オキシ]−フェノールが好ましい。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等が挙げられる
本発明にかかる紫外線吸収剤は、前記熱可塑性メタクリル系樹脂に含まれる紫外線吸収性単量体単位を有する紫外線吸収基と類似した構造をもつ紫外線吸収基を有することが好ましい。すなわち、紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と紫外線吸収剤が、互いに類似した構造をもつ紫外線吸収基を有することが好ましい。類似した構造を有することで、樹脂と紫外線吸収剤の相溶性が向上し、紫外線吸収剤に起因する成形加工時の蒸散や発泡などの問題点が抑制出来る。具体的には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂はベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤との組合せ、トリアジン誘導体系紫外線吸収単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂はトリアジン誘導体系紫外線吸収剤との組合せが好ましい。
【0091】
本発明にかかる紫外線吸収剤の配合量は、必要な紫外線吸収能に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくはメタクリル系樹脂に対して、0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%である。紫外線吸収剤の配合量が0.01重量%未満であると、紫外線吸収能が不十分になることがある。逆に、紫外線吸収剤の配合量が10重量%を越えると、成形時に発泡やブリードアウトが起こることがある。
【0092】
紫外線吸収剤を添加するタイミングは、樹脂組成物の物性を阻害しない限り、特に限定されるものではない。例えば、メタクリル系樹脂を製造中に所定の段階で紫外線吸収剤を添加するか、あるいは、メタクリル系樹脂を製造した後、メタクリル系樹脂、紫外線吸収剤、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;メタクリル系樹脂、その他の成分などを加熱溶融させておき、そこに紫外線吸収剤を添加して混練する方法;メタクリル系樹脂を加熱溶融させておき、そこに紫外線吸収剤、その他の成分などを添加して混練する方法;などが挙げられる。
≪熱可塑性樹脂組成物≫
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、更に好ましくは、130℃以上、更に好ましくは135℃以上、最も好ましくは140℃以上である。ここで、ガラス転移温度とは、ポリマー分子がミクロブラウン運動を始める温度であり、各種の測定方法があるが、本発明においては、示差走査熱熱量計(DSC)によって、JIS−K7121に準拠して、始点法で求めた温度と定義する。
【0093】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、熱重量分析(TG)における5%重量減少温度が、280℃以上であることが好ましく、より好ましくは290℃以上、更に好ましくは300℃以上である。熱重量分析(TG)における5%重量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが、280℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないおそれがある。
【0094】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下である。残存揮発分の総量が5000ppmよりも多いと、形成時の変質等によって、着色したり、揮発したり、シルバーストリーク等の形成不良の原因となることがある。
【0095】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性メタクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。これらの熱可塑性樹脂は、特に種類は問わないが、熱力学的に相溶する熱可塑性メタクリル系樹脂の方が、透明性や機械強度を向上させる点において好ましい。
【0096】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性メタクリル系樹脂中とその他の熱可塑性樹脂の含有割合は、好ましくは60〜99:1〜40重量%、より好ましくは70〜97:3〜30重量%、さらに好ましくは80〜95:5〜20重量%である。熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性メタクリル系樹脂の含有割合が60重量%よりも少ないと、本発明の効果を十分に発揮できないおそれがある。
【0097】
本発明にかかるその他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール:ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン:ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;などが挙げられる。ゴム質重合体は、表面に本発明のラクトン環重合体と相溶し得る組成のグラフト部を有するのが好ましく、また、ゴム質重合体の平均粒子径は、押し出しフィルム状とした際の透明性向上の観点から、300nm以下である事が好ましく、150nm以下である事が更に好ましい。
【0098】
熱可塑性メタクリル系樹脂、特にラクトン環含有重合体と熱力学的に相溶しやすい熱可塑性樹脂としては、シアン化ビニル系単量体単位体と芳香族ビニル系単量体単位とを含む共重合体、具体的にはアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50重量%以上含有する重合体を用いるとよい。それらの中でもアクリロニトリル−スチレン系共重合体が広範囲の共重合組成で相溶性が良く好ましい。なお、熱可塑性メタクリル系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた熱可塑性樹脂組成物のガラス転移点を測定することによって確認することができる。具体的には、示差走査熱量測定器により測定されるガラス転移点が熱可塑性メタクリル系樹脂とその他の熱可塑性樹脂との混合物について1点のみ観測されることによって、熱力学的に相溶していると言える。
【0099】
その他の熱可塑性樹脂としてアクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いる場合、その製造方法は、乳化重合法や懸濁重合法、溶液重合法、バルク重合法等を用いる事が可能であるが、得られる光学フィルムの透明性や光学性能の観点から溶液重合法かバルク重合法で得られたものである事が好ましい。
【0100】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、酸化防止剤を含むことが好ましい。酸化防止剤としては特に限定されるものではないが、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の公知の酸化防止剤を単独で用いても2種類以上併用しても良いが、その中でも、下記一般式(4)
【0101】
【化9】

【0102】
(式(4)中、Rは炭素数1〜5個からなるアルキル基、R10は炭素数1〜8個からなるアルキル基、R11は水素原子または炭素数1〜8個のアルキル基及びR13は水素原子またはメチル基を表す。)で示される酸化防止剤が特に好ましい。
【0103】
具体的には、例えば、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ブチル]フェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)プロピル]フェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0104】
特に好ましくは、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート(住友化学工業(株)製、商品名:スミライザーGS)及び2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学工業(株)製、商品名:スミライザーGM)である。
【0105】
酸化防止剤の添加量は、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%である。
【0106】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤:ガラス繊維、炭素繊維等の補強材:近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー:樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。熱可塑性メタクリル系樹脂成形体中のその他の添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5重量%、より好ましくは0〜2重量%、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
【0107】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、厚さ100μmにおける500nmでの光線透過率が80%以上、380nmでの光線透過率が30%未満であることが好ましい。光透過率をこのような範囲のものとすることにより、種々の用途、特に光学材料等の光学用途に好適に用いることができる。光学材料としては、より無色に近いことが好ましく、熱可塑性樹脂組成物が着色していると著しく光学材料としての製品価値を下げることとなる。500nmは可視光領域の波長であることから、この波長の光線透過率が80%以上である、すなわち、吸収が20%未満であることは、可視光の吸収が少なく、熱可塑性樹脂組成物が無色に近いものとなることことを意味する。500nmでの光線透過率が80%未満であると、可視光を吸収し、熱可塑性樹脂組成物の着色が顕著となり、透明性が低下し、光学材料として好適に使用できないおそれがある。本発明の熱可塑性樹脂組成物はまた、紫外線カット機能を有する光学材料として好適に用いられるものである。紫外線はエネルギーが高いため、各種材料の劣化の原因となる。紫外線から材料を保護するために紫外線をカットする材料が求められており、紫外線カットの材料とするためには、少なくとも380nmの透過率を30%未満にすることが好ましい。380nmの透過率が30%以上であると、紫外線カット機能として充分とはいえず、紫外線から充分に材料を保護できず、材料の黄変等の劣化を引き起こすおそれがある。上記熱可塑性樹脂組成物は、380nmでの光線透過率が30%未満であることにより、紫外線領域の波長である380nmの光の透過を30%未満に抑制し、紫外線の透過を抑制することができる。このように、熱可塑性樹脂組成物の光線透過率が上記範囲であることが好ましく、透明な外観を有する、紫外線カット機能を持ったフィルム又はシート等として好適に用いることができる。
【0108】
すなわち、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、厚さ100μmにおける500nmでの光線透過率が、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは95%以上である。500nmでの光線透過率が80%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。また、厚さ100μmにおける380nmでの光線透過率が好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満である。380nmでの光線透過率が30%以上であると、紫外線が充分にカットできず、黄変のおそれがある。
〔熱可塑性樹脂組成物の用途および成形〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、耐熱性に優れるだけでなく、低着色性、機械的強度、成型加工性などの特性を備えるとともに、紫外線吸収能を有するので、押し出しフィルム又はシートとしても有用である。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい実施形態としては、上記熱可塑性樹脂組成物からなる押し出しフィルム又はシートである。
【0109】
以下に好ましい用途である一例として、本発明の熱可塑性樹脂組成物から押し出しフィルムを製造する方法について詳しく説明する。
〔押し出しフィルム〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物から押し出しフィルムを製造する方法は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂組成物と、その他の熱可塑性樹脂やその他の添加剤などを、従来公知の混合方法にて混合し、予め熱可塑性樹脂組成物としてから、押し出しフィルムを製造する事ができる。この熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、例えば、オムニミキサー等の混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する方法を採用することができる。この場合、押出混練に用いる混練機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機や加圧ニーダー等、例えば、従来公知の混練機を用いることができる。
【0110】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の、押し出しフィルムの成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
上記Tダイ法で押し出しフィルム成形する場合は、公知の単軸押出し機や2軸押出し機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出したフィルムを巻取りロール状のフィルムを得る事ができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出し方向に延伸を加えることで、一軸延伸工程とする事も可能である。また、押出し方向と垂直な方向にフィルムを延伸する工程を加える事で、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの工程を加えることも可能である。
【0111】
本発明の押し出しフィルムは、未延伸フィルムであっても良いし、廷伸フィルムであっても良い。延伸する場合は、一軸延伸フィルムでも良いし、2軸延伸フィルムでも良い。2軸延伸フィルムとする場合は、同時2軸延伸したものでも良いし、逐次2軸廷伸したものでも良い。2軸延伸した場合は、機械強度が向上しフィルム性能が向上する。本発明の光学フィルムは、その他の熱可塑性樹脂組成物を混合する事により、延伸しても位相差の増大を抑制する事ができ、光学等方性を保つ事ができる。
【0112】
廷伸温度としては、押し出しフィルム原料の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度近辺で行うことが好ましく、具体的には、(ガラス転移温度−30)℃〜(ガラス転移温度+100)℃で行うことが好ましく、より好ましくは(ガラス転移温度−20)℃〜(ガラス転移温度+80)℃である。(ガラス転移温度−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。(ガラス転移湿度+100)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
面積比で定義した廷伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲、より好ましくは1.3〜10倍の範囲で行われる。1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う靱性の向上につながらないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められない。
【0113】
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、延伸押し出しフィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
【0114】
押し出しフィルムの光学等方性や力学特性を安定化させるため、廷伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うこともできる。
【実施例】
【0115】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。
(透過率)
熱プレスにより、樹脂ペレットを240℃でプレス成型し、厚さ100μm のフィルムを作成した。得られたフィルムを、分光光度計(島津製作所社製、装置名:UV−3100)を用いて380nmと500nmの透過率を測定した。
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC−8230 (株)リガク社製)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとしてJIS−K7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度20℃/minで昇温して得られたDSC曲線から始点法で算出した。
(発泡性評価)
樹脂ペレットを循環型熱風乾燥機により80℃で5時間乾燥した。270℃に調温したJIS−K7120に規定されるメルトインデクサーに乾燥したペレット6gを投入し、20分間270℃で保持した。その後、荷重10kgで樹脂をストランド状に押出し、ストランドの発泡状態を目視で観察して発泡性を評価した。
(合成例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、40部のメタクリル酸メチル(MMA)、6部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、4部の2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、商品名:RUVA-93)、50部のトルエン、0.025部のアデカスタブ2112(旭電化工業(株)製)、0.025部のn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させ、還流したところで、開始剤として0.05部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富(株)製、商品名:ルパゾール570)を添加すると同時に、0.10部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0116】
得られた重合体溶液に、0.05部のリン酸2-エチルヘキシル(堺化学工業(株)製、商品名:Phoslex A−8)を加え、還流下(約90〜110℃)で2時間、環化縮合反応を行った。引き続きオートクレーブにより240℃で30分間加熱処理を行い、環化縮合反応を完全に行った。
【0117】
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度240℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、脱揮を行った。そのとき、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を、第1ベントの後から高圧ポンプを用いて0.02kg/時間の投入速度で注入した。また、第3ベントの後から高圧ポンプを用いてイオン交換水を0.01kg/時間の投入速度で注入した。
【0118】
酸化防止剤・失活剤混合溶液はスミライザーGS(住友化学(株)製)40部、オクチル酸亜鉛(ニッカオクチクス亜鉛3.6% 日本化学産業(株)製)29部をトルエン200部に溶解したものである。
【0119】
上記脱揮操作により、透明で紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂(A)のペレットを得た。
(合成例2)
モノマー組成をMMA35部、MHMA7.5部、RUVA-93 7.5部とした以外は合成例1と同様にして、透明で紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂(B)のペレットを得た。
(合成例3)
モノマー組成をMMA40部、MHMA10部とした以外は合成例1と同様にして、透明な樹脂(C) のペレットを得た。
〔実施例1〕
合成例1で得られた樹脂(A)のペレット100部に対して、紫外線吸収剤として旭電化(株)製アデカスタブLA−31 0.5部をドライブレンドし、20mmφのスクリューを有する2軸押出し機を用いて、バレル温度250℃で溶融混練した。
【0120】
得られた樹脂組成物のペレットの物性を評価した。結果を表1にまとめた。
[比較例1]
合成例2で得られた樹脂(B)について、紫外線吸収剤を添加せずに物性を評価した。結果を表1にまとめた。
[比較例2]
合成例3で得られた樹脂(C)100部に紫外線吸収剤2部を実施例1と同様に混練し、得られた樹脂組成物のペレットの物性を評価した。結果を表1にまとめた。
[比較例3]
合成例3で得られた樹脂(C)について、紫外線吸収剤を添加せずに物性を評価した。結果を表1にまとめた。
【0121】
【表1】

【0122】
(参考例)
実施例1で得られた樹脂組成物のペレットを280℃の押出温度でシリンダー径が20mmの単軸押出機を用い下記条件で押出成形し、200μmの厚みの未延伸フィルムを作製した(ダイ:温度280℃、幅120mm、成膜:つや付き2本ロール、ロール温度110℃、引き取り速度:2.5m/分)。得られた未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機(株)製)により、175℃の延伸温度、一方向200%/分の延伸速度、一方向2倍の延伸倍率で同時二軸延伸し、45μmの厚みの延伸フィルムを作製した。得られたフィルムは透明で折り曲げても割れず、高いガラス転移温度と紫外線吸収能を有していた。
【0123】
このようにして実施例で得られたペレットから、透明で可とう性があり、紫外線吸収能と耐熱性を有するフィルムが作成できた。このように、本発明は各種のフィルム用途、特に光学フィルムにも好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、紫外線吸収能を有し、耐熱性、透明性、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を備えると共に、特に成形時の熱安定性に優れ、泡が入らない成形品を与えることができるので、耐光性が必要な透明材料や光学関連用途に幅広く使用することができ、光学材料に関連する分野、特に紫外線吸収能が必要とされる用途に関して多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性メタクリル系樹脂と、紫外線吸収剤とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が120℃以上である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物は、厚さ100μmにおける500nmでの光線透過率が80%以上、380nmでの光線透過率が30%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性メタクリル系樹脂は、ラクトン環構造を有する請求項1〜3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性メタクリル系樹脂が有するラクトン環構造は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。)で示される構造である請求項1〜4に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−138044(P2008−138044A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324123(P2006−324123)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】