説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】脂肪族ポリエステル系樹脂を主成分として含有する熱可塑性樹脂組成物であって、機械的強度および耐寒性が改善された熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対し、官能基として、カルボン酸基、カルボン酸無水物基およびカルボン酸金属塩基の群から選ばれる少なくとも1種を含むオレフィン系樹脂(B)10重量部以上100重量部未満含有し、更に、(A)と(B)の合計100重量部に対し、一分子中にオキシラン環を2つ以上有する重合体(C)を0.2〜20重量部含有する熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関し、詳しくは、脂肪族ポリエステル系樹脂を主成分として含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリ乳酸(以下PLA)をはじめとする脂肪族ポリエステル樹脂を使用した製品の開発が盛んに行われている。特に、PLAに関しては、その高い剛性に注目し、自動車部品や家電製品などへの搭載・実用化を目指し、精力的に開発が進められている。しかしながら、耐熱性が低い、耐衝撃性に乏しい等の問題があり、PLAについても種々改良を求められている。
【0003】
一方、PLAとは異なる性能を有する脂肪族ポリエステル樹脂として、ポリブチレンサクシネート(以下PBS)やポリカプロラクトン(PCL)等が挙げられる。
【0004】
特に、PBSは、溶融挙動や機械物性がポリエチレン樹脂と類似であること、更に、ポリエチレンとは異なって生分解性を有することから、農業資材分野で好適に使用される例が増加している。
【0005】
PBSは、ポリエチレン樹脂と同等の初期物性を有することから、近年では、生分解性が必ずとも必要とされない分野においても使用されるケースが出てきている。PBSが採用される背景には、近年、当該樹脂の原料を植物から獲得する技術開発が進められており、ポリ乳酸と同様の植物由来樹脂としての可能性に期待している面がある。確かに、PBSが有する物性はポリエチレン類似とは言えるが、大きく異なる性能は耐寒衝撃性が不十分である点と考えられる。
【0006】
従来、PLAの耐寒性を改良する目的で、乳酸と他のジオール及びジカルボン酸を共重合させることにより、ガラス転移温度を下げ、耐衝撃性を向上させる手法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、耐衝撃性の改良効果は少なく、更なる改善が必要と判断される。
【0007】
更に、PLAに可塑剤を加え柔軟性を付与することにより耐衝撃性を改善する提案もなされている(特許文献2)。この場合も、耐衝撃性と強度のバランスに欠け、実用上、更なる改善が望まれる。
【0008】
【特許文献1】特開平7−173266号公報
【特許文献2】特開2002−105298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、脂肪族ポリエステル系樹脂を主成分として含有する熱可塑性樹脂組成物であって、機械的強度および耐寒性が改善された熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果、PBSを初めとする脂肪族ポリエステル樹脂と特定のオレフィン系樹脂およびオキシラン環含有化合物を各々特定の配合比率で溶融混合させることにより、脂肪族ポリエステル樹脂の機械的強度を損ねることなく耐寒衝撃性を改善し得ることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対し、官能基として、カルボン酸基、カルボン酸無水物基およびカルボン酸金属塩基の群から選ばれる少なくとも1種を含むオレフィン系樹脂(B)10重量部以上100重量部未満含有し、更に、(A)と(B)の合計100重量部に対し、一分子中にオキシラン環を2つ以上有する重合体(C)を0.2〜20重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐寒衝撃性および機械的強度に優れ、また、特別な成形加工方法や成形条件を適用する必要が無いため、多様な用途への使用が可能となり、得られた樹脂成形品は物性バランスに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で使用される脂肪族ポリエステル樹脂としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の脱水縮合で得られるポリマー、脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸および/またはこれらの無水物との脱水縮合で得られるポリマー等が挙げられる。
【0014】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが挙げられる。
【0015】
脂肪族多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、l,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル一1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、l,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0016】
脂肪族多価カルボン酸およびその無水物の具体例としては、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸およびその無水物が挙げられる。
【0017】
本発明で使用する脂肪族ポリエステル樹脂は、上記の原料の脱水縮合により得られるホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーの何れであってもよい。また、二種以上の混合物であってもよい。
【0018】
脂肪族ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常1万〜500万、好ましくは3万〜300万、更に好ましくは5万〜200万、特に好ましくは7万〜100万、顕著に好ましくは9万〜50万である。重量平均分子量が1万より小さい場合、機械物性が十分でなかったり、逆に分子量が500万より大きい場合、取扱が困難となり、また、不経済となる。
【0019】
本発明で使用されるオレフィン系樹脂(B)は、官能基として、カルボン酸基、カルボン酸無水物基およびカルボン酸金属塩基の群から選ばれる少なくとも1種を含むオレフィン系樹脂であり、従来公知の方法に従って、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸および/またはその無水物でポリオレフィン系樹脂をグラフト変性することにより、更には、その後に中和することにより得られる。
【0020】
本発明で使用されるオレフィン系樹脂は、構成単位の主成分がエチレン又は炭素数3以上のα−オレフィンである限り、芳香族ビニル化合物およびそれから誘導される化合物などを含んでもよく、また、直鎖状であっても分岐していてもよい。 α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。オレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン(エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合体)、ポリプロピレン(単独重合体、ランダム重合体、ブロック共重合体など)、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン等を挙げることができる。これらの中では、エチレンより誘導される樹脂が好ましい。従って、オレフィン系樹脂(B)としてはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の金属塩であるアイオノマー樹脂が好ましい。
【0021】
本発明で使用され重合体(C)は、一分子中にオキシラン環を2つ以上有する重合体(オキシラン環含有重合体)であり、オキシラン環は重合体主鎖または側鎖の何れに存在してもよい。オキシラン環は加工時の熱により開環し、カルボン酸や水酸基およびアミド基等と反応する。本発明で使用される重合体(C)の重量平均分子量は、通常2,000〜20,000である。上記の重合体(C)の市販品としては、東亜合成社製「アルフォン UG4030」(グリシジル変性アクリル樹脂)がある。
【0022】
前記の各成分の使用割合は次の通りである。すなわち、成分(B)の添加量は、成分(A)100重量部に対し、10重量部以上100重量部未満であり、好ましくは10重量部以上80重量部未満、更に好ましくは20重量部以上80重量部未満である。添加量が10重量部未満の場合、添加によりもたらされる耐寒衝撃性の改良効果が十分とは言えず、100重量部以上の添加は、本発明の主旨から外れる。
【0023】
成分(C)の添加量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対し、0.2重量部以上20重量部以下、好ましくは0.5重量部以上10重量部以下、更に好ましくは0.5重量部以上5重量部以下である。添加量が0.2重量部未満の場合は、添加によりもたらされる耐寒衝撃性の改良効果が十分でなく、20重量部を超える場合は、成形加工性が著しく悪化する。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要性能を阻害しない範囲に於いて、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、増核剤、衝撃改良剤、顔料、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、可塑剤、架橋剤、架橋助剤などを配合することが出来る。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては何ら制限はない。例えば、各成分を任意の順序で又は同時に溶融混合することにより、各成分が均一に分布した組成物を得ることが出来る。なお、溶融混合手段としては公知の手段が挙げられる。例えば、単軸押出機や2軸押出機の様な連続混練機の他、ミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機が好適に使用できる。溶融混合温度は通常160℃〜250℃である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1〜4並びに比較例1及び2:
表1に示す原料を使用した。表2に示す配合比率に従って秤量した原料を、内容量20Lヘンシェルミキサー(回転数100回転、撹拌時間3分)に投入して撹拌後、混合物を同方向2軸押出機(口径30mm、L/D=30、回転数200rpm、設定温度210℃)へ挿入して溶融混練した後、得られたストランド状の樹脂を冷却、裁断することにより、組成が均一なペレットを得た。
【0028】
得られたペレットを80℃で5時間乾燥後、射出成形機(型締め圧75トン、射出容量145cm)に投入し、射出温度210℃、金型温度40℃、射出時間10秒、冷却時間40秒の成形条件にてJIS試験用サンプル片を作成した。
【0029】
引張試験はJISK7161に、脆化温度はJISK7216にそれぞれ準じた。試験結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対し、官能基として、カルボン酸基、カルボン酸無水物基およびカルボン酸金属塩基の群から選ばれる少なくとも1種を含むオレフィン系樹脂(B)10重量部以上100重量部未満含有し、更に、(A)と(B)の合計100重量部に対し、一分子中にオキシラン環を2つ以上有する重合体(C)を0.2〜20重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトンの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
オレフィン系樹脂(B)がエチレンより誘導される樹脂である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−144035(P2008−144035A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332978(P2006−332978)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(500587920)アプコ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】