説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】環境負荷が低く実用強度に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性デンプン(A)10〜90重量%および熱可塑性樹脂(B)90〜10重量%からなる熱可塑性樹脂組成物。熱可塑性デンプン(A)の分子量は、30000〜500000。熱可塑性樹脂(B)中に、熱可塑性デンプンと反応性を有するエポキシ基、カルボキシル基、水酸基、オキサゾリン基から選ばれた少なくとも一種の官能基を含有する単量体を0.001〜20重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関する。詳しくは、熱可塑性デンプンと熱可塑性樹脂からなる環境負荷が低く、実用強度に優れる熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂やポリスチレン、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂は、家電製品や自動車部品等広範な分野で様々な成形品に使用されているが、石油資源から製造されるものであり環境負荷を下げるための様々な試みがなされている。そのための改善手段として、例えばトウモロコシを原料としたポリ乳酸樹脂とアロイ化する試みがなされているが、分解しやすい、耐熱性が低いといった実用性に欠けるという欠点を有しているのが現状である。
【特許文献1】特開2000−327847号公報
【特許文献2】特開2004−269720号公報
【特許文献3】特開2006−45485号公報
【特許文献4】特開2006−45486号公報
【特許文献5】特開2006−137908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、植物由来ポリマーである熱可塑性デンプンと熱可塑性樹脂をアロイ化してなる、環境負荷が低く、実用強度に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはかかる課題に鑑み鋭意検討を行った結果、熱可塑性デンプンと熱可塑性樹脂を特定割合でアロイ化すること、さらには特定の熱可塑性樹脂とアロイ化することにより、上記課題を達成することを見出し本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、熱可塑性デンプン10〜90重量%および熱可塑性樹脂90〜10重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明にて得られた熱可塑性樹脂組成物は、環境負荷を大きく下げることが可能であり、更に従来の植物由来樹脂と石油系透樹脂とのアロイに比べて実用物性に優れることから、各種包材や工業用製品用材料として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0007】
本発明における熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性デンプンとしては、例えばヒドロキシアルキルデンプン、アセチルデンプンまたはカルバメートデンプン等のデンプンやデンプンに含まれるメチルヒドロキシル基を反応させて変性させたり、高温で加水分解することにより熱可塑性を付与されたデンプンが例示される。
本発明における熱可塑性デンプンの重量平均分子量は30000〜500000、好ましくは50000〜300000である。分子量が低い熱可塑性デンプンは機械的物性が低い傾向があり、分子量が高い熱可塑性デンプンは、流動性が低く、成形性に劣る傾向にある。
本発明における熱可塑性デンプンは、温度20℃、相対湿度50%の条件下で24時間放置することにより、実質的に恒量平衡に達した水分率が6重量%未満であることが好ましく、更には25℃の水中で1時間浸漬した後の膨潤率が400%未満であることが好ましい。前記膨潤率が高すぎる場合、熱可塑性デンプンは耐水性に劣る傾向があるため好ましくない。前記膨潤率は、デンプン中のグルコース単位のヒドロキシメチル基間を架橋する等の方法により調整することができる。
さらに、本発明の熱可塑性デンプンには脂肪族有機酸およびそのグリセリドなどの可塑剤を加えることにより、更に熱可塑性を向上させることも可能である。
【0008】
本発明における熱可塑性樹脂(B)としては、(ゴム強化)スチレン系樹脂(例えばポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、AAS樹脂等)、(ゴム強化)アクリル樹脂(例えばPMMA樹脂、ゴム強化PMMA樹脂等)、ポリエステル樹脂(例えばポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂等)、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド樹脂(例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12等)、ポリ塩化ビニル系樹脂等から選ばれた樹脂、あるいはこれらの樹脂を組み合わせて得られたアロイであり、特に(ゴム強化)スチレン系樹脂単独または(ゴム強化)スチレン系樹脂と(ゴム強化)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂とのアロイが最終製品に要求される物性、例えば成形性や衝撃強度の点から好ましい。
さらに、特に(ゴム強化)スチレン系樹脂としては、ゴム状重合体として共役ジエン系ゴム、非共役ジエン系ゴム、シリコン系ゴムから選ばれた少なくとも1種のゴム状重合体を含有するゴム強化スチレン系樹脂であることが好ましく、またその構造、分子量および分子量分布、ゴム状重合体の含有量やグラフト率、グラフト側鎖の組成や分子量等には特に制限は無く、最終製品の要求性能によって任意の組成・構造のものを使用することが可能である。
【0009】
また、上記熱可塑性樹脂(B)中には、熱可塑性デンプンと反応性を有する官能基を含有する単量体を0.0001〜20重量%含有することが、最終製品での層状剥離現象を防止する点で好ましい。熱可塑性デンプン(A)と反応性を有する官能基としては、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、オキサゾリン基、アミノ基、アミド基等が例示されるが、中でも熱可塑性デンプンとの反応性の点からエポキシ基、カルボキシル基、水酸基、オキサゾリン基が好ましい。
上記熱可塑性樹脂(B)中にこれら官能基を含有する単量体を導入する方法については特に制限は無く、官能基を含有する単量体を熱可塑性樹脂(B)の重合時に添加することにより共重合させることが可能であり、またこれら官能基を含有する熱可塑性樹脂と他の熱可塑性樹脂を混合すること、さらには熱可塑性樹脂と官能基を含有する単量体とを押出機内で溶融混練する際にラジカル開始剤(例えば、t−ブチルー2−エチルーパーペキサノエート等)を添加して反応させる方法等を採用することが可能である。
なお、上記の官能基を含有する単量体として、エポキシ基を有する単量体としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が、カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が、水酸基を有する有単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレート等が、オキサゾリン基を有する単量体としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等が、アミノ基を有する単量体としては、アミノメチルアクリレート、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等が、アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−N−ジメチルアクリルアミド等が挙げられ、それぞれ一種または二種以上用いることができる。
【0010】
本発明においては、上記熱可塑性樹脂(B)中のアルカリ金属塩の含有量は0.5重量%未満であることが熱可塑性デンプンの分解を防止する点から好ましい。
【0011】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性デンプン(A)10〜90重量%および熱可塑性樹脂(B)90〜10重量%からなるからなるものであり、この組成の範囲外では本発明の目的とする最終製品で要求される実用強度に優れた樹脂組成物が得られないため好ましくない。
【0012】
また本発明における熱可塑性樹脂組成物には、上記各成分の他に、その物性を損なわない限りにおいて、安定剤、顔料、染料、補強剤(タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維等の無機系添加剤、木粉、竹粉、セルロース、ケナフ等の植物繊維、液晶ポリマー等)、着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤を配合することができる
【0013】
本発明における上記熱可塑性デンプン(A)および熱可塑性樹脂(B)の混合方法としては特に制限は無く、バンバリーミキサー、押出機等公知の混練機を用いる方法が挙げられる。
本発明における熱可塑性樹脂組成物の成形方法には特に制限は無く目的に応じて公知の成形方法、例えば射出成形、シート成形、異型押出し成形、パイプ成形、インフレーション成形、T−ダイ押出し成形等を用いることが可能である。
また、最終製品における目的に応じて、多色成形機あるいは多層押出機を使用して、本発明における熱可塑性樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂からなる多色成形品あるいは多層成形品を成形することも可能である。
【0014】
[実施例]
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0015】
熱可塑性デンプン(A)
A−1:ゴールデンスターチ(E−ラボ社製)
A−2:バイオプラスHSC(林商事(株))
【0016】
熱可塑性樹脂(B)
b−1−1:ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 サンタックAT−08)
b−1−2:AES樹脂(日本エイアンドエル(株)製 ユニブライトUB−311)
b−1−3:ASA樹脂 公知の乳化重合法により、ブチルアクリレートゴムラテックス40重量部(ゴム状重合体の平均粒子径0.2μm、固形分50%)、アクリロニトリル20重量部、スチレン60重量部を重合し、ASA樹脂を得た。
b−1−4:PS樹脂(日本ポリスチレン(株)製 日本ポリスチH430)
b−1−5:PC樹脂(住友ダウ(株)製 カリバー301−22)
b−1−6:PA−11樹脂(アルケマ(株)製 リルサンB BMNO)
b−1−7:PBT樹脂 (三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ノバデュラン5010)
b−1−8:ゴム強化PMMA樹脂(住友化学(株)製 スミペックスHT55X)
b−1−9:PE樹脂(住友化学(株)製 スミカセンG401)
b−1−10:PP樹脂(住友化学社(株)製 住友ノーブレンY101)
b−1−11:ポリ乳酸樹脂(三井化学(株)製 レイシアH400)
官能基を有する共重合体
b−2−1:エポキシ基含有スチレンーアクリロニトリル共重合体
公知の乳化重合法により、アクリロニトリル25重量部、スチレン70重量部、グリシジルメタアクレート5重量部を重合した。得られたラテックスを塩酸カルシウムを用いて塩析後、更に10倍量の洗浄水にて洗浄を行なったものを乾燥してパウダーを得た。
b−2−2:カルボキシル基含有スチレンーアクリロニトリル共重合体
公知の乳化重合法により、アクリロニトリル25重量部、スチレン70重量部、メタアクリル酸5重量部を重合した。得られたラテックスを塩酸カルシウムを用いて塩析後、更に10倍量の洗浄水にて洗浄を行なったものを乾燥してパウダーを得た
b−2−3:カルボキシル基含有オレフィン共重合体(住友化学(株)製 ボンダインAX−8390)
b−2−4:エポキシ基含有オレフィン共重合体(住友化学(株)製 ボンドファースト7B)
b−5:オキサゾリン基含有スチレン共重合体(日本触媒(株)製 エポクロスRPS−1005)
【0017】
〔実施例1〜19、比較例1〜5〕
上記各成分につき、表1〜3に示す配合割合で混合したものに、顔料としてカーボンブラックを1部添加し、40mm単軸押出機を用いて180〜230℃で溶融混合しペレット化した後、200〜230℃に設定された射出成形機(山城精機製SAV−100)を用いて試験片を作成し評価した結果を表1〜3に示した。なお、それぞれの評価方法を以下に示す。
【0018】
曲げ破断歪:AGS−500(島津製作所製)を用いてISO178に準じ曲げ破断歪を測定した。尚試験の最大曲げ歪量は6%に設定した。単位%
耐熱性:ISO75に準じ荷重たわみ温度を測定した。単位:℃
ウエルド外観:成形品のウエルド外観を目視により判定した。
○:問題なし
×:ウエルドが非常に目立つ
層状剥離:JIS K5400に準じ、碁盤目試験を行いセロハンテープ剥離後の100マス中で剥がれたマス目を測定した。
○:剥がれたマス目が10マス未満
△:剥がれたマス目が10〜20
×:剥がれたマス目が21以上
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0022】
以上のように、本発明は環境負荷が低く、実用強度に優れる樹脂組成物が得られるものであり、本発明による樹脂組成物は各種包材や工業用部品用材料として最適に使用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性デンプン(A)10〜90重量%および熱可塑性樹脂(B)90〜10重量%からなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性デンプン(A)の重量平均分子量が30000〜500000であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(B)中に熱可塑性デンプンと反応性を有する官能基を含有する単量体を0.0001〜20重量%含有することを特徴とする請求項1又は2何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性デンプンと反応性を有する官能基が、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、オキサゾリン基から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(B)が(ゴム強化)スチレン系樹脂、(ゴム強化)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(B)が(ゴム強化)スチレン系樹脂単独または(ゴム強化)スチレン系樹脂と(ゴム強化)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂とのアロイであることを特徴とする請求項1〜5何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
(ゴム強化)スチレン系樹脂が、ゴム状重合体として共役ジエン系ゴム、非共役ジエン系ゴム、シリコン系ゴムから選ばれた少なくとも1種のゴム状重合体を含有するゴム強化スチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜6何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−13270(P2009−13270A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175808(P2007−175808)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】