説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 植物由来のポリ乳酸とABS樹脂からなる樹脂組成物の物性バランス、および発色性とウエルド外観の改良。
【解決手段】 ポリ乳酸(A)1〜80重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)89〜10重量%および(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜99.5重量%と芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイン酸無水物、またはマレイミド系単量体から選ばれた1種以上のビニル系単量体0.5〜20重量%との共重合体(C)10〜60重量%からなる熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物に関するものである。詳しくは、発色性とウエルド外観に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油を原料としない環境対応型の樹脂として、とうもろこしや芋類を原料として得られる乳酸からなるポリ乳酸の利用が検討されている。しかしながら、ポリ乳酸は、高湿度環境下において長期使用に耐え得る耐久性が懸念され、またノッチ付き衝撃強度および、耐熱性に劣るといった欠点がある。
一方、ABS樹脂に代表されるゴム強化スチレン系樹脂は、優れた物性バランスおよび成形加工性を有しており、広範な分野に利用されている。
このため、近年ゴム強化スチレン系樹脂とポリ乳酸からなる樹脂組成物が多数提案されている。しかしながら、これら組成物は、耐熱性等の物性バランスならびに高湿度環境下での耐久性が不充分で、かつ着色時の発色性、さらには成形品でのウエルド外観が悪く、今後ポリ乳酸の利用分野を拡大する上で大きな障害となっている。
【特許文献1】特開2006−45485号公報
【特許文献2】特開2006−45486号公報
【特許文献3】特開2006−137908号公報
【特許文献4】特開2006−161024号公報
【特許文献5】特開2006−321988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、ポリ乳酸とABS樹脂からなる樹脂組成物における上記の品質上の問題点の改良について鋭意検討した結果、(メタ)アクリル酸エステルを特定割合で含有する他のビニル単量体との共重合体を配合することにより、耐熱性が改善し、加えて着色時の発色性、さらには成形品でのウエルド外観を著しく改善してなる熱可塑性樹脂組成物であることを見出し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸(A)1〜80重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)89〜10重量%および(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜99.5重量%と共重合可能な他のビニル系単量体0.5〜20重量%との共重合体(C)10〜60重量%からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性の改善のみならず発色性とウエルド外観に優れているため、ポリ乳酸の利用分野を拡大するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物につき詳細に説明する。
本発明におけるポリ乳酸(A)とは、ポリ乳酸および乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体を意味する。とうもろこしなどの植物から得られたでんぷんを発酵させて、乳酸とし、化学合成にてポリマー化したものである。
乳酸としては、L−および/またはD−乳酸、乳酸の二量体であるラクトンなどが挙げられる。さらに乳酸と共重合可能なヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸などが挙げられ、1種又は2種以上使用できる。
本発明においては、市販されているポリL−乳酸が好ましい。
ポリ乳酸の分子量には特に制限ないが、物理的、熱的特性の面より重量平均分子量が3万以上が好ましい。
ポリ乳酸としては、三井化学社製「LACEA」、米国Nature WorksLLC社製「Nature Works」、ユニチカ社製「テラマック」、東レ社製「エコディア」、三菱樹脂社製「エコロージュ」などの名称で市販されているのもを利用できる。
【0007】
本発明におけるゴム強化スチレン系樹脂(B)とは、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体またはそれらと他の共重合可能な単量体の1種または2種以上を重合してなる樹脂である。
ゴム強化スチレン系樹脂(B)を構成することのできるゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、イソプレン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−イソプレン−スチレン共重合体、ポリクロロプレンなどのジエン系ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1−非共役ジエン共重合体、またポリブチルアクリレートなどのアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム、さらにはこれら2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。これらのうち、特にジエン系ゴムが好ましい。
【0008】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にアクリロニトリルが好ましい。
芳香族ビニル系単量体ならびにシアン化ビニル系単量体と共に用いることのできる他の共重合可能な単量体としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸系単量体、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体などが挙げられ、それらはそれぞれ1種又2種以上用いることができる。
【0009】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)を構成するゴム状重合体と単量体合計(芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要により使用される他の共重合可能な単量体)との組成比率には特に制限はないが、最終組成物の加工性、耐衝撃性の面より、ゴム状重合体5〜70重量%、単量体合計95〜30重量%であることが好ましい。また耐衝撃性と耐熱性のバランスの面から、より好ましくは、ゴム状重合体10〜40重量%、単量体合計90〜60重量%である。
本発明においては上記ゴム強化スチレン系樹脂(B)中のゴム状重合体の濃度を上述の範囲内に調整するため、スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体の1種または2種以上とを共重合してなるスチレン系共重合体樹脂(D)を配合することができる。
スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体としては、上記ゴム強化スチレン系樹脂(B)の構成成分として挙げたものが挙げられる。さらに耐熱性付与を目的とした場合、スチレン系単量体としては、α−メチルスチレンが好ましく、またN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を用いることが好ましい。
【0010】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)およびスチレン系共重合体樹脂(D)の製造方法については特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、乳化重合など通常の公知の方法が用いられる。高湿度環境下での耐久性の面より、アルカリ金属含有量の少ない塊状重合法による樹脂がこの好ましい。
【0011】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)中に占めるアルカリ金属の含有量にも特に制限はないが、該含有量が高まるに伴い高湿度環境下での成形品の長時間使用において劣化傾向が認められる。このため、0.01重量%以下、特に0.005重量%以下であることが好ましい。樹脂(B)中のアルカリ金属含有量は、試料を灰化後、純水に溶解してICP法および原子吸光法により定量することができる。
【0012】
アルカリ金属含有量の低減法としては、乳化重合法では、塩析時に使用される塩析剤(アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩類)により樹脂中に残存するアルカリ金属含有量が高まるので、酸類(塩酸、硫酸等)による塩析、また、塩析後の洗浄条件を強化することが好ましい。
塊状重合法や溶液重合法では、塩析工程がないため、乳化重合法よりも本発明には適しているが、用いる原料のブタジエンゴム等には、その重合工程において使用したアルカリ金属及びアルカリ金属塩が少量残留しているので、その凝固工程において酸、例えば炭酸、クエン酸等による中和処理を強化し、水に難溶性の塩として沈殿・分離させることより、アルカリ金属含有量を低減させたブタジエンゴムを使用することが好ましい。
【0013】
本発明において必須とされる(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体(C)とは、(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜99.5重量%と芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイン酸無水物、またはマレイミド系単量体から選ばれた1種以上のビニル系単量体0.5〜20重量%を共重合してなる樹脂である。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメタクリル酸メチルが好ましい。
共重合可能な他のビニル系単量体としては、ゴム強化スチレン系樹脂(B)で記述した芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイン酸無水物、またはマレイミド系単量体から選ばれた1種以上のものを用いることができる。さらにはこれらの他にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸系単量体などが挙げられ、それらはそれぞれ1種又2種以上用いることができる。
【0015】
本発明における上記共重合体(C)は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を80〜99.5重量%含有することが重要であり、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の単独重合体、例えばポリメタクリル酸メチルでは、発色性とウエルド外観の改良には効果があるものの耐熱性が劣るものであり、また(メタ)アクリル酸エステルを80重量%未満では発色性とウエルド外観が改良されず、さらに耐衝撃性にも劣る。
本発明における樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)1〜80重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)89〜10重量%および上記共重合体(C)10〜60重量%から構成されるものであるが、かかる範囲外でも本発明の目的とする特性を発揮することができない。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記の各必須成分の他に、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂の混合時、成形時等に加水分解抑制剤(E)、安定剤、顔料、染料、補強剤(タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維等)、着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0017】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物の混合方法としては、バンバリーミキサー、押出機等公知の混練機を用いる方法が挙げられる。さらに、混合順序にも何ら制限はなく、三成分の一括混練はもちろんのこと、予め任意の二成分を混合した後に残る一成分を混合することも可能である。
【0018】
[実施例及び比較例]
以下に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0019】
ポリ乳酸(A)
A−1:三井化学(株)製 LACEA H−400
【0020】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)
B−1:公知の塊状重合法に基づき、スチレン51重量部、アクリロニトリル18重量部、エチルベンゼン25重量部、スチレン・ブタジエンゴム10重量部を反応原料とし、ゴム分19重量%、スチレン61重量%、アクリロニトリル20重量%のゴム強化スチレン系樹脂を得た。得られた樹脂中のアルカリ金属含有量は、0.003重量%であった。
【0021】
B−2:公知の乳化重合法に基づき、ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.3μ、ゲル含有量85%)50重量部<固形分>、アクリロニトリル15重量部、スチレン35重量部を反応原料とし、ゴム分50重量%、スチレン37重量%、アクリロニトリル13重量%のゴム強化スチレン系樹脂を得た。得られた樹脂中のアルカリ金属含有量は、0.07重量%であった。
【0022】
共重合体(C)
C−1:メタアクリル酸メチル85重量部およびスチレン15重量部を公知の塊状重合法により共重合を行い共重合体C−1を製造した。
C−2:メタアクリル酸メチル95重量部およびスチレン5重量部を公知の塊状重合法により共重合を行い共重合体C−2を製造した。
C−3:メタアクリル酸メチル85重量部、スチレン10重量部、N−フェニルマレイミド5重量部を公知の塊状重合法により共重合を行い共重合体C−3を製造した。
C−4:メタアクリル酸メチル70重量部およびスチレン30重量部を公知の塊状重合法により共重合を行い共重合体C−4を製造した。
C−5:ポリメタクリル酸メチル(住友化学(株)製 スミペックスMG−SS)
【0023】
スチレン系共重合体樹脂(D)
D−1:スチレン75重量部およびアクリロニトリル25重量部を公知の塊状重合法により共重合を行い共重合体D−1を製造した。
D−2:電気化学(株)製スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体、デンカIP MS−NC
【0024】
加水分解抑制剤(E)
E−1:日清紡績(株)製カルボジライトLA−1
【0025】
〔実施例1〜7、比較例1〜6〕
上記のポリ乳酸(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、共重合体(C)、スチレン系共重合体樹脂(D)、加水分解抑制剤(E)を表1に示す配合割合で混合し、30mmニ軸押出機を用いて220℃で溶融混練し、ペレット化した後、射出成形機にて各種試験片を作成した。物性を評価した結果を表1に示す。なお、評価方法は以下のとおり。
【0026】
○加工性: ISO 1133に基づきメルトインデックス(220℃、10Kg)を測定した。単位:g/10分
○耐衝撃性: ISO 179に準拠し、ノッチ付きのシャルピー衝撃値を測定した。単位:kJ/m
○耐熱性: ISO 75に準拠し、荷重0.45MPaの荷重たわみ温度を測定した。
○耐久性: 65℃、95%RHにて湿熱テストを実施し、耐衝撃性の保持率が90%以下になる時間を耐久性能とした。
○発色性: 表1に示したポリ乳酸(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、ゴム強化(未強化)アクリル系樹脂(C)、加水分解抑制剤(D)の混合物100重量部に対して、1重量部のカーボンブラック(三菱化学(株)製カーボンブラックMA600B)を配合して、上記同様に混練し、ペレット化した後、射出成形機にて90mm×150mm×3mmtの成型品を作成した。得られた成型品を、分光光度計(村上色彩技術研究所製)により、L*を測定した。なお、黒色成型品であるので、L*の値が10以下を発色性○、11〜15を△、15以上を×とした。
○ウエルド外観: 2点ゲートの90mm×150mm×3mmtの成型品中央部を、目視にてウエルドラインが確認できないものを○、確認できるものを×とした。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のとおり、ポリ乳酸をゴム強化スチレン系樹脂および特定組成の(メタ)アクリル酸エステルとビニル化合物との共重合体と配合した組成物は、物性バランスのみならず、発色性、ウエルド外観に優れており、植物由来樹脂であるポリ乳酸の使用分野を大きく広げるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)1〜80重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)89〜10重量%および(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜99.5重量%と共重合可能な他のビニル系単量体0.5〜20重量%との共重合体(C)10〜60重量%からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
共重合体(C)が(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜99.5重量%と芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイン酸無水物、またはマレイミド系単量体から選ばれた1種以上のビニル系単量体0.5〜20重量%との共重合体である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
共重合体(C)が(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜99.5重量%と芳香族ビニル系単量体0.5〜20重量%との共重合体である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)のアルカリ金属含有量が0.01重量%以下である請求項1〜3何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−209263(P2009−209263A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53582(P2008−53582)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】