説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】フッ素樹脂本来の特長と透明性を兼ね備えた成形体を形成することができる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる無機化合物含有重合体(A)と、フッ素樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であり、さらにアクリル樹脂(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物であり、ビニル単量体(a2)がアクリル系単量体であり、フッ素樹脂(B)がポリフッ化ビニリデン樹脂である熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、特にフッ素樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、その耐候性、耐久性、難燃性、耐熱性、耐汚染性等に優れることから、特に屋外環境に晒される物品の材料として好適に用いられている。屋外環境に晒される材料の中には、建築物に長期間設置される機器等に用いられる透明部材があるが、その場合には、フッ素樹脂固有の耐候性等に加えて、更に高い透明性が要求されることになる。
【0003】
例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂は、フッ素樹脂の特長に加えて、更に熱可塑性を有することから成形加工性に優れた材料として知られている一方、透明性に劣るという欠点を有している。ポリフッ化ビニリデン樹脂の透明性の改良方法として、アクリル樹脂をブレンドする方法が知られている(非特許文献1、2)。しかしながら、アクリル樹脂自体は耐久性、難燃性、耐熱性、耐汚染性に劣るため、その配合比率の増大に伴って透明性は向上するものの、フッ素樹脂本来の特長が損なわれてしまう。すなわち、フッ素樹脂本来の特長と透明性はトレードオフの関係にあり、その両立は、当該樹脂成形体が厚くなればなるほど困難となる。
【0004】
ところで、アルミニウム系無機化合物の存在下でビニル単量体を重合することにより無機化合物含有重合体を得る方法が記載されている(特許文献1)。特に、そのような無機化合物含有重合体を、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂へ添加することにより、その熱可塑性樹脂成形体の耐傷付き性、帯電防止性等が向上することが見出されている。しかしながら、特許文献1は、上記無機化合物含有重合体をフッ素樹脂組成物と組み合わせた場合の効果、特に、上記無機化合物含有重合体がフッ素樹脂の結晶性に及ぼす影響や、当該樹脂組成物をフィルムに成形した場合にその透明性に及ぼす影響等について、何らの示唆も与えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−132897号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本化学会誌、2000年、No.2、115〜120頁
【非特許文献2】日本化学会誌、2000年、No.2、121〜126頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、フッ素樹脂に、必要に応じてアクリル樹脂を配合してなる樹脂組成物において、フッ素樹脂本来の特長を実質的に損なわずに、より厚いフィルム・シート状成形体を構成しても高い透明性が得られる手段の提供が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる無機化合物含有重合体(A)を、フッ素樹脂に配合することによって、フッ素樹脂本来の特長を実質的に損なわずに透明性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる無機化合物含有重合体(A)と、フッ素樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐候性、耐久性、難燃性、耐熱性、耐汚染性等のフッ素樹脂本来の特長と透明性とを兼ね備えた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いる無機化合物含有重合体(A)は、アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下で、ビニル単量体(a2)を重合して得られる。重合の一態様として、ビニル単量体(a2)にアルミニウム系無機化合物(a1)を分散させた状態で重合を開始する方法が挙げられる。別態様として、ビニル単量体(a2)を有機溶剤に溶解させ、その溶液中にアルミニウム系無機化合物(a1)を分散させた状態で重合を開始する方法が挙げられる。更に別の態様として、ビニル単量体(a2)とアルミニウム系無機化合物(a1)を共に水等の媒体中に分散させた状態で重合を開始する方法が挙げられる。無機化合物含有重合体(A)を得る方法としては、アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合することが好ましい。
【0011】
アルミニウム系無機化合物(a1)としては、例えば、アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトから選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトは火山灰土壌中に風化生成物として得られる天然物、又は合成されたものを用いることができる。得られる成形体の成形外観、表面硬度、帯電防止性、結晶性等が優れることから、人工的に合成されたアロフェン及びイモゴライトが好ましい。
【0012】
アルミニウム系無機化合物(a1)は、球状(粒状)、針状(繊維状)、板状のような形状のものを用いることができる。特に、アロフェンは球状(粒状)を、イモゴライト及びハロイサイトは針状(繊維状)を有する傾向にある。
形状が球状(粒状)である場合、平均粒子径は、好ましくは1nm〜1μmであり、より好ましくは1〜100nmであり、更に好ましくは1〜50nmである。本願発明では、平均粒子径は、アルミニウム系無機化合物(a1)を脱イオン水に分散させ、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した、50%体積平均粒子径を意味する。
形状が針状(繊維状)である場合、アスペクト比5〜10,000を有することが好ましい。具体的には、繊維形状の平均口径は、好ましくは0.5〜100nmであり、より好ましくは0.5〜20nmであり、更に好ましくは0.5〜5nmである。繊維形状の平均長さ(長手方向の平均長さ)は、好ましくは5nm〜200μmであり、より好ましくは10nm〜100μmであり、更に好ましくは10nm〜50μmである。
【0013】
アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトを合成する方法としては、例えば、オルト珪酸ナトリウムと塩化アルミニウムの反応が挙げられる。
このような反応は、水溶液中において、弱酸性で、必要に応じて加熱しながら行なうことができる。また、反応生成物は、必要に応じて、濃縮、洗浄、乾燥して用いることができる。
例えば、反応後の水溶液を弱アルカリ性にして、生成物を沈降させ、上澄み液を分離することができる。また、凍結乾燥を行なって、固形物として取り出すこともできる。
【0014】
尚、本発明で得られる無機化合物含有重合体(A)の製造工程での安定性、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形外観及び物性が良好となることから、反応生成物は、濃縮、洗浄、乾燥操作を行なわずに、反応後の弱酸性水溶液のままで、次の工程に用いることが好ましい。
【0015】
生成物がアロフェン、イモゴライト又はハロイサイトであることを確認する方法としては、例えば、X線回折、透過型電子顕微鏡(TEM)、赤外吸収スペクトル(IR)の測定が挙げられる。
X線回折の測定では、回折角(2θ)6°、11°、16°付近に、イモゴラト特有のピークを確認することができる。TEMの観察では、アロフェンの場合には直径約5nmの粒子が凝集した形態を、イモゴライトの場合には繊維が凝集した形態を確認することができる。IRの測定では、Si−O−Al結合に由来する900〜1000cm−1付近の吸収を確認することができる。
【0016】
アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトはリン酸系化合物で予め処理したものであることが好ましい。リン酸系化合物での処理とは、例えば、アロフェン、イモゴライト又はハロイサイトを含む水分散液中に、リン酸系化合物を添加することにより行なうことができる。リン酸系化合物としては、後述するリン酸系化合物(a3)として例示されるものを用いることができる。リン酸系化合物による予備処理を施すことにより、得られる熱可塑性樹脂組成物中でのアルミニウム系無機化合物(a1)の分散性を向上させ、ひいてはその成形体の耐表面傷付き性、帯電防止性、耐熱変形性を改善することができる。
【0017】
本発明に用いるビニル単量体(a2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びその塩酸塩、シアノエチル(メタ)アクリレート、シアノブチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド単量体が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
これらの中では、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリルが、得られる成形体の成形外観、表面硬度、結晶性等が優れることから好ましく、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリルがより好ましい。ここで、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを示し、(メタ)アクリル酸はアクリル酸又はメタクリル酸を示す。
【0019】
アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合する際には、水分散液中にリン酸系化合物(a3)を共存させることが好ましい。リン酸系化合物を共存させることにより、アルミニウム系無機化合物(a1)がリン酸系化合物で予備処理されることで、得られる熱可塑性樹脂組成物中でのアルミニウム系無機化合物(a1)の分散性を向上させ、ひいてはその成形体の耐表面傷付き性、帯電防止性、耐熱変形性を改善することができる。
リン酸系化合物(a3)としては、リン酸基を有するものであれば、無機化合物、有機化合物いずれでもよく、リン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等のリン酸塩、有機ヒドロキシ化合物のリン酸モノエステル又はリン酸ジエステルが好ましい。
【0020】
リン酸系化合物(a3)としてのリン酸エステルの生成に用いる有機ヒドロキシ化合物としては、例えば、ビニル基含有アルコール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘプタノール、オクタノール、シクロオクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、メトキシエタノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロプロパノール、フェノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコールが挙げられる。これらの中では、ビニル基含有アルコールが、得られる成形体の成形外観、表面硬度、結晶性等が優れることから好ましい。かかるビニル基含有アルコールとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0021】
これらの有機ヒドロキシ化合物を用いて得られるリン酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとリン酸とからなるモノエステル及びジエステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとリン酸からなるモノエステル及びジエステルが好ましい。
【0022】
リン酸系化合物(a3)として使用できる市販品として、例えば、ホスマーM、ホスマーPE、ホスマーP(以上、ユニケミカル(株)製);JPA−514、JPA−514M(以上、城北化学工業(株)製)、ライトエステルP−1M、ライトアクリレートP−1A(以上、共栄社化学(株)製)、MR200(大八化学工業(株)製)、カヤマー(日本化薬(株)製)、エチレングリコール・メタクリレート・ホスフェート(アルドリッチ社製)が挙げられる。これらの市販品は、モノエステルとジエステルとの混合物の場合もあり、不純物として、ビニル基を含有しない成分が含まれている場合もあるが、リン酸系化合物(a3)として、そのまま用いることができる。リン酸系化合物(a3)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0023】
アルミニウム系無機化合物(a1)は、ビニル単量体(a2)100質量部に対し、0.00001〜100質量部用いることが好ましく、得られる成形体の成形外観、表面硬度、帯電防止性、結晶性等が優れることから、0.001〜50質量部用いることがより好ましく、0.01〜30質量部用いることが更に好ましく、0.05〜20質量部用いることが特に好ましい。
【0024】
リン酸系化合物(a3)は、アルミニウム系無機化合物(a1)100質量部に対し、1〜10000質量部用いることが好ましく、得られる成形体の成形外観、表面硬度、帯電防止性、結晶性等が優れることから、1〜1000質量部用いることがより好ましく、2〜500質量部用いることが更に好ましく、5〜200質量部用いることが特に好ましい。
【0025】
水分散液に分散媒として用いる水の量は特に限定されないが、重合の安定性、生産性が優れることから、ビニル単量体(a2)100質量部に対し、10〜10000質量部が好ましく、100〜2000質量部がより好ましい。
【0026】
アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合する方法として、懸濁系又は乳化系でのラジカル重合法を用いることができる。具体的には、水中に分散させたアルミニウム系無機化合物(a1)に、必要に応じて、リン酸系化合物(a3)を添加し、その後、ビニル単量体(a2)及び重合開始剤を添加、加熱してラジカル重合を行なうことができる。
【0027】
ビニル単量体(a2)の重合に用いる重合開始剤としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−アミルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;及びアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中では、t−ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル及びアゾビス2,4−ジメチルバレロニトリルが好ましい。また、上記有機過酸化物や過硫酸塩は還元剤と組み合わせてレドックス系として用いることもできる。
【0028】
ビニル単量体(a2)の重合は、65〜100℃の温度で行なうことができ、1〜10時間の重合時間で行なうことができる。
必要に応じて、重合を2段階で行なうことができ、例えば、所定温度で所定時間の重合を行なった後、より高い温度で保持して重合を完了させることもできる。
【0029】
更に、ビニル単量体(a2)の重合においては、必要に応じて連鎖移動剤、分散剤、分散助剤、乳化剤等の重合用添加剤を用いることができる。
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン及びドデシルメルカプタン及びα−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−スが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中では、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が好ましい。
分散助剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マンガンが挙げられる。
乳化剤としては、公知のアニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤を用いることができる。
【0030】
本発明においては、無機化合物含有重合体(A)の質量平均分子量は、上述の無機化合物含有重合体の製造方法を、当該無機化合物を含めないことを除き同一の操作で実施して得られた重合体の質量平均分子量と同一であると推定する。無機化合物含有重合体(A)の質量平均分子量は、ゲルパーミションクロマトグラフィー(GPC)による質量平均分子量として、1万〜100万が好ましく、3万〜50万がより好ましく、5万〜20万が特に好ましい。
【0031】
本発明で用いるフッ素樹脂(B)としては、公知のものを用いることができ、例えば、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)等の完全フッ素化重合体;ポリ三フッ化塩化エチレン(PTCFE,CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等の部分フッ素化重合体;四フッ化エチレン−ペルフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン−三フッ化塩化エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素化共重合体等を挙げられる。本発明のフッ素樹脂(B)としては、得られる樹脂組成物の透明性、成形加工性を考慮すると、PVDF、PVF、PFA等が好ましく、PVDFが特に好ましい。これらのフッ素樹脂(B)は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明で必要に応じて用いるアクリル樹脂(C)とは、(メタ)アクリレート単量体を、単独で又は2種以上、重合して得られる重合体又は共重合体のことである。例えば、(メタ)アクリルレート単量体としては、メタクリル酸、アクリル酸及びこれらのエステル化物を用いることができ、(メタ)アクリレートエステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート;エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート等の反応性基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらのアクリル樹脂(C)は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、上記(メタ)アクリレート単量体に、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル等の他のビニル単量体を、全単量体の合計に対して50質量%未満共重合させた共重合体を用いることもできる。
【0033】
アクリル樹脂(C)としては、得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐候性を考慮すると、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等を含む重合体が好ましく、中でもポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリメチルアクリレートがより好ましい。
本発明のアクリル樹脂(C)の分子量は、GPCによる質量平均分子量として、1万〜100万が好ましく、3万〜50万がより好ましく、5万〜20万が特に好ましい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、無機化合物含有重合体(A)、フッ素樹脂(B)及び必要に応じてアクリル樹脂(C)を含有する。熱可塑性樹脂組成物(100質量%)中の、各成分の配合比率は、熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐候性、耐熱性が良好となることから、無機化合物含有重合体(A)0.01〜99質量%、フッ素樹脂(B)1〜99.99質量%、アクリル樹脂(C)0〜98.99質量%が好ましく、無機化合物含有重合体(A)0.1〜30質量%、フッ素樹脂(B)30〜94.9質量%、アクリル樹脂(C)5〜69.9質量%がより好ましく、無機化合物含有重合体(A)1〜10質量%、フッ素樹脂(B)60〜89質量%、アクリル樹脂(C)10〜39質量%が更に好ましい。
【0035】
尚、本願明細書において成形体の透明性評価に際しては、ポリフッ化ビニリデン樹脂70質量%及び無機化合物含有重合体(+存在する場合にはアクリル樹脂)30質量%からなる樹脂組成物をプレス成形して得られた厚み0.2mm(200μm)のシート状成形体を標準試料とした。また、ポリフッ化ビニリデン樹脂70質量%及び無機化合物含有重合体(+存在する場合にはアクリル樹脂)30質量%からなる樹脂組成物を、降温速度40℃/分で熱分析した際観測されるポリフッ化ビニリデンの結晶化温度を、透明化の指標(結晶化温度が低い程、透明に成形し易い)として採用した。ここでポリフッ化ビニリデン樹脂の配合比率を70質量%に固定したのは、透明性を比較する際の基準を定めるためであって、特に本発明の最良の形態を意図するものではない。具体的な形態における最適な成分配合比率は、企図される用途に応じて変動するものである。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、無機化合物含有重合体(A)、フッ素樹脂(B)及び必要に応じてアクリル樹脂(C)を配合することによって調製することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物を配合する方法としては、バッチ式のニーダー、単軸の押出機、多軸の押出機等を用いた溶融ブレンド法等を用いることができる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤、顔料等の樹脂用添加剤;ガラス繊維、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、ケナフ、バクテリアセルロース等のフィラー等を配合してもよい。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法で成形体とすることができる。成形する方法としては、例えば、押出成形、射出成形、プレス成形、インフレーション成形、カレンダ成形等が挙げられる。この成形により、シート状、フィルム状等、各種形状の成形体を得ることができる。
本発明の成形体は、自動車、家電、OA機器の部品に用いることができる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、塗料、トナー等のバインダー樹脂として用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これによって本発明が制限されるものではない。実施例中の「部」、「%」の表記は、それぞれ「質量部」、「質量%」を意味する。
【0040】
[X線回折]
X線回折装置((株)リガク製RINT2500(商品名))を用いて、加速電圧は40kV、加速電流は300mAにより、Cu−Kα線を照射し、回折角(2θ)5〜85°の範囲における回折パターンを測定した。
【0041】
[TEM]
透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM-1200EXII(商品名))を用いて、加速電圧100KV、倍率10万倍で観察した。
【0042】
[IR]
フーリエ変換赤外分光光度計((株)島津製作所製FTIR−8700(商品名))を用いて、KBr法で調整した試料を、透過法により400〜4000cm-1の範囲における吸収スペクトルを測定した。
【0043】
[BET比表面積]
比表面積測定装置(ユアサアイオニクス(株)製モノソーブ(商品名))を用いて、試料を120℃、2時間脱気した後に測定した。
【0044】
[質量平均分子量]
重合体の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製GPC150C(商品名))を用いて測定した。尚、スタンダードとしてポリメチルメタクリレート、移動相としてクロロホルムを用いた。
【0045】
[無機化合物の分散状態]
各実施例で得られたフィルム(厚み200μm)の外観を目視観察した。以下の基準により評価を行った。
○:原料として用いた無機成分の存在を、目視では確認できなかった。
△:原料として用いた無機成分の存在は、目視で確認可能であり、凝集・偏在していたが、明らかな材料強度低下には至っておらず、物性評価を続けた。
×:原料として用いた無機成分の存在は、目視で確認可能であり、凝集・偏在しており、材料強度低下が認められ、物性評価は中止した。
【0046】
[結晶性]
原料として用いた樹脂、あるいは、得られた樹脂組成物を測定試料として、熱分析装置(セイコー電子工業(株)製DSC220(商品名))を用い、窒素気流下、200℃に昇温後、40℃/分で冷却しながら、ポリフッ化ビニリデン成分の結晶化温度(Tc)を求めた。
【0047】
[透明性]
得られたフィルム(厚み200μm)を試料として、全光線透過率(Tt)及びヘーズ(Hz)を、JIS−K7105に準拠して測定した。
【0048】
[耐傷付き性]
各実施例で得られたフィルム(厚み200μm)について、JIS−K5400に準拠して、成形品表面で鉛筆引っ掻き試験を行った。測定は、基材としてPMMA製シート(厚み3mm)の上に、フィルム試験片を載せて実施した。なお、「2B−B」は2Bでは傷が付くことはないが、Bでは傷が僅かについたり、つかなかったりすることを意味する。
【0049】
[帯電防止性]
各実施例で得られたフィルム(厚み200μm)の表面を乾いた綿布で10回摩擦した後、成形体表面を平面上のたばこの灰に一定の距離を隔てて近づけた際の、灰の付着性を評価した。尚、評価は、23℃、50%RHの環境下で行なった。また、成形体は、予めこの環境下で一日放置して用いた。
○ 50mmの距離まで近づけても灰が付着しないが、10mmの距離まで近づけると灰が付着する。
× 50mmの距離で灰が付着する。
【0050】
[略号の説明]
PVDF ポリフッ化ビニリデン:アルケマ社製カイナー720(商品名)
PMMA ポリメチルメタクリレート:三菱レイヨン(株)製アクリペット、VH(商品名)
【0051】
[製造例1]アルミニウム系無機化合物(a−1)の水分散液の製造
金属チタン製の撹拌機付き反応容器(内容積60L) にSi濃度0.01Mのオルト珪酸ナトリウム溶液9.0Lを入れ、撹拌した。次にAl濃度0.01Mの塩化アルミニウム溶液を20L入れ、30分撹拌した。
次いで、0.01MのNaOH溶液20.0Lを1時間かけて添加した。このときのサスペンションのpHは5.7(25℃)であった。そして、このサスペンションを95℃に昇温させ、48時間保持した後、24時間かけて室温まで冷却した。このときの反応サスペンションは、極めて透明度の高いものであった。固形分は0.04%であった。
【0052】
[製造例2]アルミニウム系無機化合物単体(A’1)の粉体の製造
製造例1で得られたアルミニウム系無機化合物(a1)の水分散液を、凍結乾燥機でマイナス40℃から徐々に昇温して、28時間の乾燥を行ない、粉体を得た。
得られた粉体について以下の分析を行った。この分析結果から、アルミニウム系無機化合物(a1)がイモゴライトであることを確認した。
X線回折:回折角(2θ)6°、11°、16°付近にブロードなピークがみられた。
TEM:繊維状の像がみられた。
IR:Si−O−Al結合に由来する950〜1000cm-1付近のダブレット吸収がみられた。
これらの特徴はイモゴライト特有のものである。
また得られたアルミニウム系無機化合物(a1)のBET比表面積を測定したところ、325m/gであった。
【0053】
[製造例3]無機化合物含有重合体(A1)の製造
攪拌装置、加熱装置、温度センサー、コンデンサー、窒素導入口を備えた反応容器に、製造例1で得られたアルミニウム系無機化合物(a1)の水分散液1000部((a1)の固形分として0.4部)を仕込み、室温で攪拌した。
10%アンモニア水溶液10部(固形分換算)を加えて30分攪拌した後、アシッドホスホオキシエチルメタクリル酸エステル(商品名「ホスマーM」、ユニケミカル(株)製)0.04部を加えて30分攪拌した。
次いで、メチルメタクリレート(MMA)99部、メチルアクリレート(MA)1部、オクチルメルカプタン(OM)0.1部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.05部を添加した。窒素気流下で80℃に昇温して、2時間攪拌した後、90℃に昇温して30分攪拌した。内容物を冷却した後、生成物を分離、乾燥し、無機化合物含有重合体(A1)を得た。
得られた無機化合物含有重合体(A1)の分子量を推定するため、製造例3を、アルミニウム系無機化合物(a1)を含めないことを除き、同一の操作で実施した。得られた重合体の質量平均分子量をGPCにより測定したところ10万であり、これを無機化合物含有重合体(A1)の質量平均分子量とした。
【0054】
[製造例4]無機化合物含有重合体(A2)の製造
アルミニウム系無機化合物(a1)の水分散液を300部、((a1)の固形分として0.12部)、水601部、アシッドホスホオキシエチルメタクリル酸エステル(商品名「ホスマーM」、ユニケミカル(株)製)を0.012部用いたこと以外は、製造例3と同様にして、無機化合物含有重合体(A2)を得た。
得られた無機化合物含有重合体(A2)の分子量を推定するため、製造例4を、アルミニウム系無機化合物(a1)を含めないことを除き、同一の操作で実施した。得られた重合体の質量平均分子量をGPCにより測定したところ10万であり、これを無機化合物含有重合体(A2)の質量平均分子量とした。
【0055】
[比較例1]
PVDFを、金型(厚み2mmの鉄板2枚、スペーサー)に挟んで、200℃に加熱したプレス盤(王子機械(株)製油圧プレス機、最大荷重37トン、最高使用圧力210kg/cm)の間で、5分かけて、ゲージ圧を30kg/cmまで上昇させた。金型ごと、20℃に冷却したプレス盤(庄司鉄工(株)製油圧プレス機、最大荷重100トン、常用圧力200kg/cm、水冷式)へ移動し、5分間保持した後、金型から、フィルム状の成形物を取り外した。尚、0.2mmの厚みになるように成形条件を調整した。得られたフィルムを用いて、物性を評価した結果を、表1に示す。
【0056】
[比較例2]
PVDF及びPMMAを表1に示す割合で混合し、ニーダー(商品名「プラスチコーダー」、ブラベンダー社製、内容積50cm)を用いて、バレル温度190℃で溶融混練した。得られたブレンド物を、比較例1と同様に成形し、物性を評価した。物性評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例1〜4]
製造例3で得られた無機化合物含有重合体(A1)又は製造例4で得られた無機化合物含有重合体(A2)と、PVDFと、PMMAとを表1に示す割合で混合し、比較例2と同様の操作を行った。物性評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例3〜4]
製造例2で得られた無機化合物単体(A’1)、PVDF及びPMMAを、表1に示す割合で混合し、実施例1と同様の操作を行った。物性評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
比較例1及び2で示されるように、フッ素樹脂単独及びフッ素樹脂にアクリル樹脂を30%配合した従来型の熱可塑性樹脂は、ヘーズ値が高く、透明性に劣っていた。
実施例1〜3で示されるように、本発明の無機化合物含有重合体(A)、フッ素樹脂及びアクリル樹脂からなる樹脂組成物は、無機成分の分散状態が良好であり、そして透明性、耐傷付き性、帯電防止性に優れることが明らかとなった。特に、本発明による無機化合物含有重合体(A)を添加すると、アクリル樹脂成分の配合量を削減しても、樹脂組成物成形体の透明性が顕著に向上することが明らかとなった。また、アクリル樹脂(C)に替えて無機化合物含有アクリル重合体(A)を配合した実施例4では、比較例2と比較して、無機成分の分散状態が良好であり、透明性、耐傷付き性、帯電防止性に優れることが明らかとなった。
比較例3及び4で示されるように、本発明で使用される無機化合物含有重合体(A)の替わりに、無機化合物単体を用いた場合には、無機成分が不均一に凝集した樹脂組成物しか得られないため、本発明のような物性発現効果を見出すことはできない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる無機化合物含有重合体(A)と、フッ素樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
さらにアクリル樹脂(C)を含有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ビニル単量体(a2)がアクリル系単量体である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
フッ素樹脂(B)がポリフッ化ビニリデン樹脂である、請求項1〜3いずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2012−233136(P2012−233136A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104434(P2011−104434)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】