説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】ポリ乳酸を25質量%以上含有する樹脂組成物でありながら、耐衝撃性、耐熱性、成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)とを含有してなる樹脂組成物であって、ポリ乳酸(A)を25〜90質量部、ゴム強化スチレン系樹脂(B)を5〜70質量部、アクリル系相溶化剤(C)を0.5〜20質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸とゴム強化スチレン系樹脂を主成分とし、耐熱性、成形性、耐衝撃性に優れ、石油系樹脂への依存が低い熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂やゴム強化ポリスチレン(HIPS)などのゴム強化スチレン系樹脂は、外観・耐衝撃性・耐熱性・成形加工性に優れ、電気・電子機器分野、自動車分野等において幅広く使用されている。しかしながら、このような樹脂は石油を原料としており、近年では環境負荷を低減する目的から、ABS樹脂にポリ乳酸樹脂のような植物原料のバイオマス樹脂を配合した樹脂組成物が求められている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は一般にABS樹脂に比較し、耐衝撃性や耐熱性が低く、またABS樹脂との相溶性に劣るので、配合量が多すぎると、ABS樹脂のもつ優れた外観・耐衝撃性・耐熱性・成形加工性などの性能を損なうという問題がある。
そこで、特許文献1や特許文献2においては、ポリ乳酸とABS樹脂にアクリル系樹脂を配合することで外観や耐衝撃性を良好にした樹脂組成物が開示されている。しかしながら、これらの樹脂組成物において、特に耐熱性、成形性が未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−45485号公報
【特許文献2】特開2006−137908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、ポリ乳酸を25質量%以上含有する樹脂組成物でありながら、耐衝撃性、耐熱性、成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討の結果、ポリ乳酸の結晶性を向上させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)とを含有してなる樹脂組成物であって、ポリ乳酸(A)を25〜90質量部、ゴム強化スチレン系樹脂(B)を5〜70質量部、アクリル系相溶化剤(C)を0.5〜20質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(2)さらに有機スルホン酸金属塩(D)を、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部含有してなる請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)ポリ乳酸(A)は、アセトン処理が施されており、残存ラクチド量が700ppm以下である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸とともにゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)とを含有しているため、耐衝撃性に優れている。そして、D体含有量が特定範囲のポリ乳酸を用いているため、立体規則性が向上することで結晶性能が向上し、耐熱性、成形性が格段に向上した樹脂組成物とすることができ、さらには耐衝撃性もより向上したものとなる。さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、有機スルホン酸金属塩(D)を含有することにより、ポリ乳酸の結晶性能をより向上させることができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)としてアセトン処理が施されており、残存ラクチド量が700ppm以下であるものを用いることにより、ポリ乳酸の結晶性能をさらに向上させることができる。このようにポリ乳酸の結晶性能をより向上させることによって、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性、成形性がより向上したものとなり、さらには耐衝撃性もより向上したものとなる。
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、天然物由来の樹脂を利用しているので、石油等の枯渇資源の節約に貢献できるなど、産業上の利用価値は極めて高い。さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて電気電子機器部品や雑貨用成形品等の各種の成形品を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物はポリ乳酸(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)を含有してなるものである。まず、ポリ乳酸(A)について説明する。
本発明におけるポリ乳酸(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または、D体含有量が99.0モル%以上であることが必要であり、中でも、0.1〜0.6モル%であるか、または、99.4〜99.9モル%であることが好ましい。D体含有量がこの範囲内であることにより、結晶性に優れるため、成形性に優れる(成形サイクルが短くなる)とともに、得られる成形体は耐熱性が向上したものとなる。さらに、後述するようなゴム強化スチレン系樹脂(B)やアクリル系樹脂(C)を含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物の組成においては、このようなD体含有量が特定範囲のポリ乳酸を用いることにより、耐衝撃性も向上する。なお、得られる成形体の耐衝撃性を向上させるには、成形体を得る際に、結晶化を十分に促進させる方法を採用することが好ましい。
D体含有量がこの範囲外であるポリ乳酸であると、結晶性の向上が不十分で、成形性が向上せず、得られる成形体の耐熱性を向上させることも困難となる。また、耐衝撃性も向上しない。
【0009】
本発明において、ポリ乳酸(A)のD体含有量とは、ポリ乳酸(A)を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)である。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸(A)の場合、このポリ乳酸(A)は、D乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0010】
本発明においては、ポリ乳酸(A)のD体含有量は、実施例にて後述するように、ポリ乳酸(A)を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0011】
本発明に用いるポリ乳酸(A)としては、市販の各種ポリ乳酸樹脂のうち、D体含有量が本発明で規定する範囲のポリ乳酸を用いることができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量が十分に低いL-ラクチド、または、L体含有量が十分に低いD-ラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いることができる。
【0012】
また、本発明に用いるポリ乳酸(A)の重量平均分子量は、5万〜50万であることが好ましく、中でも重量平均分子量は10万〜30万、さらには10万〜20万であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満である場合、実用的な強度や耐久性を得ることが困難となりやすい。一方、重量平均分子量が50万を超えると、流動性が悪く、フィルムなどを作製する際、押出し機の昇圧などが問題になる。
【0013】
そして、本発明におけるポリ乳酸(A)は、アセトン処理が施されており、残存ラクチド量が700ppm以下であることが好ましい。
アセトン処理とは、ポリ乳酸をアセトンで洗浄することであり、アセトンでの洗浄方法としては、以下のような方法が好ましい。ポリ乳酸とアセトンとの質量比を1:1〜1:3とし、攪拌翼などによって30分以上の攪拌を行う。なお、攪拌時の温度は、0℃〜60℃の範囲が好ましく、中でも10℃〜40℃、より好ましくは20℃〜30℃である。温度が60℃を超える場合、アセトンの沸点を超えているため、アセトンの揮発が大きくなる。0℃未満の場合、アセトンの冷却を行わなければならないため、コスト的に不利となる。攪拌翼の攪拌速度は、50〜1000rpmが好ましく、中でも100〜500rpmが好ましく、より好ましくは150〜300rpmである。1000rpmを超える場合、攪拌速度が速すぎ、樹脂同士が激しくぶつかることによってダストの発生が多くなる。50rpm未満の場合、アセトン中に抽出されるラクチド量が少なくなり、処理時間が長時間となる。
【0014】
一般には、ポリ乳酸中の未反応ラクチドを抽出するためには、メタノール等の他の溶媒も使用できるが、本発明においては、アセトンを溶媒として使用することにより、未反応ラクチドを抽出すると同時に、ポリ乳酸の結晶化速度を向上させることも可能となる。
【0015】
アセトンは比較的安価な溶媒でありコスト的に有利であり、また、ラクチドだけでなく、ポリ乳酸中の低分子オリゴマーの抽出も可能である。また、処理後の残渣から、乳酸が検出されないため、抽出物が分解して乳酸になることがなく安定であるため、ラクチドの再利用などを考えた場合にはコスト的に有利となる。これらのことにより、上記したようなポリ乳酸の結晶化速度の向上効果が生じるものと推定される。
アセトンに代えて、メタノールなどの他の溶媒を用いた場合、残渣から乳酸が多く検出される。このため、樹脂中に乳酸が残存した場合などは、加工や保存中に分子量低下などの問題が生じることがあり、そして、このようなポリ乳酸では結晶化速度は向上していない。
【0016】
また、ポリ乳酸中の未反応ラクチドを除去する方法として、一軸押出し機、二軸押出し機などでラクチド除去を行う方法も一般的である。しかしながら、これらの方法でラクチド除去を行った場合も低分子オリゴマーがポリ乳酸中に残存しており、得られるポリ乳酸は結晶化速度がより向上したものとはならない。
【0017】
本発明におけるポリ乳酸(A)は、上記のようなアセトン処理が施されており、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下であることが好ましく、中でも500ppm以下であることが好ましい。残存ラクチド量が700ppmを超える場合、結晶化速度の向上効果が小さく、また、溶融加工時に分子量低下や着色が生じることもある。
【0018】
ポリ乳酸(A)の残存ラクチド量は以下のようにして測定、算出する。まず、試料0.1gに、塩化メチレン9ml、内部標準液1ml(2,6−ジメチル−γ−ピロンの5000ppm溶液)を加え、ポリマーを溶解させる。ポリマー溶解液にシクロヘキサン40mlを添加し、ポリマーを析出させる。HPLC用ディスクフィルター(孔径0.45μm)で濾過後、Agilent Technologies社製7890A GCSystemでGC測定し、ラクチド含有量を算出する。
なお、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)とを含有する熱可塑性樹脂組成物において、ポリ乳酸(A)の残存ラクチド量を測定する際にも上記と同様に測定、算出できる。このときは、樹脂組成物を試料として用いる。
【0019】
さらに、本発明におけるポリ乳酸(A)は、ポリ乳酸に架橋構造を導入したものでもよい。架橋の形態としては、ポリ乳酸樹脂分子同士が直接架橋したものでも、架橋助剤を介して間接的に架橋したものでも、混在したものでもよく、特に限定されない。
【0020】
ポリ乳酸(A)に架橋構造を導入する方法は、電子線照射や多価イソシアネート化合物等の多官能性化合物を使用するなど公知の方法を適用できるが、架橋効率の点で過酸化物の使用によるラジカル架橋が望ましい。このような架橋構造を導入することにより、結晶化速度がより向上し、成形性(成形サイクルが短くなる)をさらに向上させることができるとともに、得られる成形体の耐熱性も向上させることができる。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸(A)の含有量は、25〜90質量部であることが必要であり、中でも50〜80質量部%であることが好ましい。ポリ乳酸(A)の含有量が25質量部未満では、環境負荷を十分に低減することができない。一方、含有量が90質量部を超えると、ゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量が少なくなるため、耐衝撃性や耐熱性に劣る樹脂組成物となる。
【0022】
次に、ゴム強化スチレン系樹脂(B)について説明する。スチレン系樹脂(B1)がゴム系樹脂(B2)にグラフト共重合またはランダム共重合されたゴム共重合スチレン系樹脂(B3)、スチレン系樹脂(B1)がゴム系樹脂(B2)または前記ゴム共重合スチレン系樹脂(B3)に混合された樹脂(B4)をいう。
【0023】
スチレン系樹脂(B1)とは、スチレン系モノマーを主体とする樹脂であり、必要に応じて、これらと共重合可能な他のモノマーおよび/またはゴム質樹脂を共重合したものをいう。
【0024】
スチレン系樹脂(B1)を構成するスチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体等が挙げられる。中でも、スチレン、α―メチルスチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
スチレン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系モノマー、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
スチレン系樹脂(B1)中のスチレンの含有量は、特に限定されないが、40質量%以上が好ましい。
【0027】
ゴム系樹脂(B2)とは、合成ゴムを主体とする伸縮性に優れた樹脂をいう。ゴム系樹脂(B2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエンの共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・イソプレン共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・イソプレン共重合体、ブタジエン・イソプレン共重合体等のジエン系共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体等のエチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレン・(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のエチレンと脂肪族カルボン酸ビニルとの共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンとの共重合体、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(以下IPN型ゴムと略称する。)等が挙げられる。これらの共重合体は、ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
【0028】
本発明におけるゴム強化スチレン系樹脂(B)は、上記のようなスチレン系樹脂(B1)がゴム系樹脂(B2)にグラフト共重合またはランダム共重合されたゴム共重合スチレン系樹脂(B3)や、スチレン系樹脂(B1)がゴム系樹脂(B2)または前記ゴム共重合スチレン系樹脂(B3)に混合された樹脂(B4)である。ゴム共重合スチレン系樹脂(B3)としては、具体的には、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、ABSと略称する。)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、MBSと略称する。)、スチレン・ブタジエン・スチレン樹脂、水添スチレン・ブタジエン・スチレン樹脂、水添スチレン・イソプレン・スチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、MABSと略称する。)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン樹脂、スチレン・IPN型ゴム共重合体のゴム強化スチレン樹脂等が挙げられる。中でも、ゴム強化スチレン系樹脂(B)としては、成形加工性、耐衝撃性の点から、ABS樹脂が好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量は、5〜70質量部であることが必要であり、中でも10〜50質量部であることが好ましい。ゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量が5質量部未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(B)による耐衝撃性や耐熱性の向上効果が得られなくなる。一方、ゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量が70質量部を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸(A)の割合が少なくなることから、環境負荷の低い樹脂組成物とならない。
【0030】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系相溶化剤(C)を含有しており、アクリル系相溶化剤(C)は、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)の相溶性を向上させ、その結果、耐衝撃性や機械強度を高めることができるものである。
【0031】
アクリル系相溶化剤(C)としては、(メタ)アクリル系共重合体、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル系モノマーの共重合体、ゴム強化アクリル系化合物、コアシェル型アクリル系化合物、アクリル系オレフィン化合物、およびエポキシ基を有するアクリル系化合物等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル系共重合体が、相溶性を格段に向上させ、耐衝撃性や機械強度を向上させることができるので好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル系共重合体とは、(メタ)アクリル系モノマーを単独で重合したもの、または2種以上の(メタ)アクリル系モノマーを共重合したものである。(メタ)アクリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のアルキル基(シクロアルキル基を含む)の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー、メタクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル系モノマー、メタクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル系モノマー等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
スチレン系モノマーと(メタ)アクリルモノマーの共重合体とは、スチレン系モノマーと前記(メタ)アクリル系共重合体を構成するモノマーを共重合したものである。スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレンのスチレン誘導体が挙げられる。中でも、スチレン、α―メチルスチレン等が好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ゴム強化アクリル系化合物とは、ゴム状重合体の存在下に、(メタ)アクリル系モノマーを共重合したもの、または、2種以上のモノマーを共重合したものである。ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレン共重合体、イソプレン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ブタジエン・イソプレン・スチレン共重合体、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン・非共役ジエン共重合体等のエチレン−プロピレン系ゴム、ポリブチルアクリレート等のアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム等のシリコン系ゴム、これら2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられる。中でも、ジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
コアシェル型アクリル系化合物とは、内層にゴム層を有し、外層に(メタ)アクリル系樹脂を有する層からなるものである。コアシェル構造の一例として、コア(内層)は、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分等を重合させたゴム等から構成され、シェル(外層)はメタクリル酸メチル重合体等から構成されるものが挙げられる。市販品としては、例えば、三菱レイヨン製メタブレン、鐘淵化学工業製カネエース、呉羽化学工業製パラロイド、ロームアンドハース製アクリロイド、武田薬品工業製スタフィロイドまたはクラレ製パラペットSAが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
アクリル系オレフィン化合物とは、(メタ)アクリル酸エステル重合体がグラフト共重合された変性オレフィン化合物である。市販品としては、例えば、日油社製モディパー等が挙げられる。
【0037】
エポキシ基を有するアクリル系化合物とは、エポキシ基とアクリル基を分子内にそれぞれ1つ以上有する化合物である。例えば、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー同士の共重合体、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとスチレンモノマーの共重合体、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体がスチレン系共重合体にグラフト共重合された化合物、(メタ)アクリル酸エステル重合体がエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体にグラフト共重合された化合物、または、コア(内層)がアクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分等を重合させたゴム等から構成され、シェル(外層)がエポキシ基を有するメタクリル酸メチル共重合体等から構成されるコアシェル構造のもの等が挙げられる。市販品としては、例えば、東亜合成社製ARUFON UG−4000シリーズ、東亞合成社製RESEDA、日油社製モディパーA4200、三菱レイヨン社製メタブレンS−2200等が挙げられる。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のアクリル系相溶化剤(C)の含有量は、0.5〜20質量部であることが必要であり、中でも3〜12質量部であることが好ましい。アクリル系相溶化剤(C)の含有量が0.5質量部未満では、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)の相溶性を向上させることができず、耐衝撃性や耐熱性を向上させることができない。一方、含有量が20質量部を超えると、耐衝撃性や成形性が悪くなる。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、さらに有機スルホン酸金属塩(D)を含有することが好ましい。有機スルホン酸金属塩(D)は結晶核剤として作用するものであり、これを含有することにより、得られる樹脂組成物の結晶化速度が速くなり、成形性が向上するとともに、得られる成形体の耐熱性も向上する。本発明に使用する有機スルホン酸金属塩(D)としてはスルホイソフタル酸塩など、種々のものを用いることができるが、中でも、結晶化促進効果の点から5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩が好ましい。さらに、金属塩としては、バリウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、ナトリウム塩などが好ましく、特に、5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウムと5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウムが好ましい。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の有機スルホン酸金属塩(D)の含有量は、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部であることが好ましく、中でも0.3〜3質量部であることが好ましい。含有量が0.1質量部未満であると、結晶化速度を向上させる効果に乏しくなる。一方、含有量が5質量部を超えると、効果が飽和してコスト的に不利になると同時に、他の性能にも悪影響を与えることとなりやすい。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、さらにグリセリン脂肪酸エステル化合物(E)を含有することが好ましく、グリセリン脂肪酸エステル化合物(E)を含有することによって、成形性、耐熱性、耐衝撃性を向上させることができる。グリセリン脂肪酸エステル(E)としては、モノグリセライド、トリグリセライド、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられるが、特にトリグリセライド化合物が成形性向上の面で好ましい。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のグリセリン脂肪酸エステル化合物(E)の含有量は、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部であることが好ましく、中でも0.3〜3質量部であることが好ましい。含有量が0.1質量部未満であると、成形性、耐熱性、耐衝撃性を向上させる効果に乏しくなる。一方、含有量が5質量部を超えると、効果が飽和してコスト的に不利になると同時に、耐熱性が低下し、ブリードアウトの問題が発生する場合がある。
【0043】
また、一般的にポリ乳酸は耐湿熱性に劣るものであるため、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、耐湿熱性を向上させる目的で、カルボジイミド化合物を含有することが好ましい。
カルボジイミド化合物とは、(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を分子内に有する化合物をいう。なお、カルボジイミド基を分子内に1個有する化合物をモノカルボジイミド化合物と表し、カルボジイミド基を分子内に2個以上有する化合物を多価カルボジイミド化合物と表す。
【0044】
モノカルボジイミド化合物としては、N,N´−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。中でも、湿熱耐久性の点から、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましい。
【0045】
多価カルボジイミド化合物としては、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミド等が挙げられる。中でも、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミドが好ましい。
【0046】
カルボジイミド化合物を用いる場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物中のカルボジイミド化合物の含有量は、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部とすることが好ましく、中でも0.5〜3質量部とすることが好ましい。カルボジイミド化合物の含有量がこの範囲にあると、湿熱耐久性が向上し、耐熱性や耐衝撃性を損なうこともない。なお、カルボジイミド化合物として2種以上のカルボジイミド化合物を用いる場合、その含有量は、全てのカルボジイミド化合物の合計量とする。
【0047】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物にはその特性を大きく損なわない範囲内で、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、耐光剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材等を添加することができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、ビタミンEが挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、N含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物)が挙げられる。なお、本発明の樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中には、ポリ乳酸(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系相溶化剤(C)が含有されているが、効果を損なわない範囲であれば、これら以外の他の樹脂を含有していてもよい。例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、D体含有量が特定範囲のポリ乳酸を用いているため、結晶性が向上し、結晶速度が速いものとなり、成形体を得る際の成形サイクルが短くなるとともに、得られる成形体の耐熱性が向上する。そして、この作用、効果は、有機スルホン酸金属塩(D)を含有することにより、また、アセトン処理が施されており、残存ラクチド量が700ppm以下であるポリ乳酸(A)を用いることにより、さらに顕著となる。
このような本発明の熱可塑性樹脂組成物の優れた結晶性能を発揮させて、得られる成形体の耐熱性を向上させるためには、成形体を得る際に、結晶化を十分に促進させる方法を採用することが好ましい。つまり、成形時の熱処理温度や金型温度等を高温にして、結晶化を積極的に促進させて成形体を得ることが好ましい。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて、上記のように結晶化を十分に促進させて成形体を得ると、得られる成形体は、D体含有量が本発明で規定する特定範囲外のポリ乳酸を用いた場合と比較して、耐衝撃性も向上したものとなる。この理由は明らかではないが、本発明で用いるポリ乳酸(A)はD体含有量が特定範囲のものを用い、結晶性に優れたものであるため、また、有機スルホン酸金属塩(D)を含有していたり、アセトン処理が施されていることにより結晶性に優れたものであるため、ポリ乳酸領域の結晶化領域がより広く均一に形成される。このことによって、ポリ乳酸領域の強靭性が向上し、得られる成形体の耐衝撃性も向上するものと推察される。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、溶融紡糸、およびシート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。これらの中でも特に、射出成形体やシートとして用いることが好適である。
【0051】
射出成形体を得る場合、一般的な射出成形のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等の方法を用いることができる。射出成形条件は、樹脂の種類や含有比率によって適宜選択されるが、シリンダ温度は180〜260℃が好ましく、190〜250℃がより好ましい。そして、上記したように、結晶化を促進させて成形体を得る際には、金型温度は70℃以上とすることが好ましく、中でも80〜120℃が好ましい。金型温度が70℃以下の場合、ポリ乳酸の結晶化速度が遅くなるため、成形サイクルが長くなり、成形にかかるコストがあがり、好ましくない。金型温度が130℃以上の場合も、ポリ乳酸の結晶化速度が遅くなるため、成形速度が長くなることに加えて、金型を高温にするエネルギーも必要となるため、エネルギー的にも不利となる。
【0052】
シートを得る場合は、一般的なシート成形方法を採用することができる。シートを冷却する際のキャストロールの温度は、樹脂の種類や含有比率によって適宜選択されるが、20〜70℃の温度範囲が好ましく、中でも30〜70℃が好ましい。キャストロール温度が20℃より低い場合、ポリ乳酸のモノマーがキャストロールに付着し、シートの汚れとなってしまうため、好ましくない。また、キャストロール温度が70℃を超える場合、ポリ乳酸のガラス転移温度以上になるため、冷却が不十分となり安定した形態のシートが得られない。シートの厚みは、使用目的により適宜選択できるが、通常は200〜750μmが好ましい。
【0053】
シートの加工方法も特に限定されず、プレス成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成形など公知の方法で成形体を得ることができる。シートを上記成形法のいずれかを選択して成形する際、金型内で熱処理しながら成形してもよい。このとき、熱処理条件としては、70〜120℃が好ましく、90〜110℃がより好ましい。70℃以下では、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度が遅いため、操業性が悪化する。120℃以上の加熱温度では、エネルギー的に不利であるため好ましくない。また加熱時間としては3〜40秒が好ましく、5〜30秒がより好ましく、5〜20秒が最も好ましい。3秒以下の加熱時間では、樹脂組成物が十分に結晶化せず、耐熱性に劣る成形体しか得られないため、好ましくない。また、40秒以上の加熱時間では、時間が長すぎるためコスト面で不利になる。
【0054】
上記したような本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、電気・電子部品、機械部品、光学機器、建築部材、自動車部品および日用品等各種用途に使用することができる。特に耐熱性と耐衝撃性に優れるため、使用環境温度が比較的高く、かつ衝撃を受ける頻度が高い製品にも用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
〈原料〉
〔ポリ乳酸(A)〕
・PLA−1 トヨタ自動車社製 S−12 D体含有量=0.1モル% 残存ラクチド量=1100ppm。
・PLA−2 PLA−1に以下のようにアセトン処理を施し、PLA−2を得た。
PLA−1とアセトンの質量比が1:2になるよう計測し、PLA−1にアセトンを加え、室温条件下で1時間、150rpmで攪拌した。その後、ろ過して70℃×24時間真空乾燥(Yamato Vacuum dry DP61を使用)することでアセトンの除去を行い、ポリ乳酸(PLA−2)を得た。得られたPLA−2の残存ラクチド量は400ppmであった。
・PLA−3 トヨタ自動車社製 A−1 D体含有量=0.6モル% 残存ラクチド量=1020ppm。
・PLA−4 PLA−3にPLA−2を得たときと同様のアセトン処理を施し、PLA−4を得た。得られたPLA−4の残存ラクチド量は280ppmであった。
・PLA−5 ユニチカ社製 TE−4000 D体含有量=1.3モル% 残存ラクチド量=2000ppm
〔ゴム強化スチレン系樹脂(B)〕
・ABS−1 テクノポリマー社製 テクノABS 170(ABS樹脂)
・ABS−2 テクノポリマー社製 テクノABS 150(ABS樹脂)
〔アクリル系溶化剤(C)〕
・C−1 三菱レイヨン製 アクリペットVH−001(ポリメタクリル酸メチル樹脂)
・C−2 三菱レイヨン社製 メタブレンS−2200(エポキシ基を有するアクリル系化合物)
〔有機スルホン酸金属塩(D)〕
・D−1 竹本油脂社製 LAK−403 5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム
・D−2 竹本油脂社製 LAK−301 5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム 〔他の核剤〕
・D−3 林化成社製 MW−HST タルク
〔グリセリン脂肪酸エステル(E)〕
・E−1 太陽化学社製チラバゾールVR−01(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
・E−2 理研ビタミン社製 アクターM−1(中鎖(C8、C10)脂肪酸トリグリセライト)
【0056】
〈特性値・評価方法〉
(1)ポリ乳酸(A)のD体含有量
ポリ乳酸樹脂を1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した後、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させた。このサンプル5mL、純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemでGC測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをD体含有量(%)とした。
(2)ポリ乳酸(A)の残存ラクチド量
前記の方法により測定した。
(3)射出成形体の成形サイクル
得られた熱可塑性樹脂組成物(ペレット状のもの)を80℃×5時間真空乾燥したのち、射出成形機(東芝機械社製、IS−80G型)を用い、金型温度100℃に設定してISO準拠の一般物性測定用試験片を成形した。このとき、得られた試験片を変形することなく取り出せるまでの射出開始からの所要時間(射出時間+保圧時間+冷却時間)を測定した。
(4)射出成形体の耐衝撃性
得られた熱可塑性樹脂組成物を、(3)と同様の条件で成形し、V字型切込み付き試験片を得た。そして、ISO 179に従って、得られた試験片を用いてシャルピー衝撃強さを測定した。
(5)射出成形体の耐熱性
得られた熱可塑性樹脂組成物を、(3)と同様の条件で成形し、熱変形温度用試験片(60×10×4mm)を得た。そして、ISO 75−1、2に従って、荷重0.45MPaで熱変形温度(DTUL)を測定した。
(6)シート加工品の成形サイクル
熱可塑性樹脂組成物を、幅1000mmのTダイを装着したスクリュー径90mmの単軸押出機を用いて、押出温度215℃にて溶融押出し、40℃に設定されたキャストロールにて厚み500μmの未延伸シートを作製した。これを連続真空・圧空成形機(浅野研究所製FLPD−141−W型)に供給し、予熱温度250℃、予熱時間10秒、金型温度90℃で食品用どんぶり型容器(開口部内径=150mm、底部内径=60mm、容器の絞り比(L/D)=0.5)を成形した。このとき、容器が変形することなく取り出せるまでの、金型内での冷却時間を測定した。
(7)シート加工品の耐衝撃性
(6)の条件で得られた容器の底部分を50mm×50mmの大きさに切り出した試験片を作製し、ASTM D2794に記載の方法にしたがって耐衝撃性を評価した。
落下重錘2000kgf、撃心R1/8インチの条件下で落錘高さ(cm)を0〜100cmまで変更しながら、試験数10回毎の破壊状態を目視観察し、5回以上破壊されていない時の落錘高さから、衝撃強度(J)を算出して耐衝撃性を評価した。
(8)シート加工品の耐熱性
(6)の条件で得られた容器に水50mlを入れ、食品包装用ラップフィルムで表面をシールし、500Wの電子レンジで2分間加熱し、加熱後の容器の状態を目視観察した。また、加熱前後に容器を水で満たし、その水の容積を測定し加熱前後の容積変化率を測定した。
◎:全く変形しておらず、容積変化率3%未満。
○:容器の端部が僅かに変形しており、容積変化率3%以上、7%未満。
△:容器の端部が明らかに変形しており、容積変化率7%以上、15%未満。
×:容器が大きく変形しており、容積変化率15%以上。
【0057】
実施例1〜52、比較例1〜20
二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、ポリ乳酸(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系相溶化剤(C)、有機スルホン酸金属塩(D)、グリセリン脂肪酸エステル化合物(E)のそれぞれについて、表1、2に示す種類のものを、表1、2に示す割合で押出機の根元供給口から供給し、表1、2に示すバレル温度、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、吐出15kg/hの条件でベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水で満たしたバットを通過させて冷却固化させた後、ペレット状にカッティングして熱可塑性樹脂組成物(ペレット状のもの)を得た。
【0058】
実施例1〜52で得られた熱可塑性樹脂組成物の組成、特性値を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
比較例1〜20で得られた熱可塑性樹脂組成物の組成、特性値を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表1から明らかなように、実施例1〜52で得られた熱可塑性樹脂組成物は、射出成形体を得る際の成形サイクルが短く、また、シートを得る際の冷却時間も短く、成形性に優れていた。そして、得られた成形体(射出成形体、シート)は、耐熱性に優れるものであり、耐衝撃性にも優れていた。中でも、アセトン処理を施し、残存ラクチド量が700ppm以下であるポリ乳酸(PLA−2やPLA−4)を用いて得られた熱可塑性樹脂組成物は、結晶性能に優れるため、成形サイクル、冷却時間ともに短く、成形性に優れていると同時に、得られた成形体、シートは、ともに耐熱性、耐衝撃性がより優れていた。
また、実施例13〜44で得られた熱可塑性樹脂組成物は、有機スルホン酸金属塩(D)を含有しているため結晶性能に優れており、成形サイクル、冷却時間ともに短く、成形性に優れるものであった。そして、得られた成形体、シートは、ともに耐熱性、耐衝撃性により優れるものであった。
実施例24〜34、39〜44で得られた熱可塑性樹脂組成物は、さらにグリセリン脂肪酸エステル化合物(E)を含有するため、成形性、耐熱性、耐衝撃性のいずれもより向上したものであった。
【0063】
一方、比較例1〜15で得られた熱可塑性樹脂組成物は、D体含有量が1.3モル%のポリ乳酸を使用したものであったため、結晶性能に劣るものであり、射出成形体を得る際の成形サイクルが長く、また、シートを得る際の冷却時間も長く、成形性に劣るものであった。また、得られた成形体(射出成形体、シート)は、耐熱性や耐衝撃性に劣るものであった。比較例16〜17で得られた熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系相溶化剤(C)を含有していないか、もしくは含有量が少ないものであったため、いずれも得られた成形体は耐衝撃性に劣るものであった。比較例18で得られた熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系相溶化剤(C)の含有量が多すぎるものであったため、成形性に劣るものであり、また、得られた成形体は耐衝撃性に劣るものであった。比較例19で得られた熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量が少ないものであったため、耐衝撃性に劣るものであった。比較例20で得られた熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量が多く、ポリ乳酸(A)の含有量が少ないものであったため、石油系樹脂への依存が低い樹脂組成物とすることができないものであり、また耐熱性にも劣るものであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)とを含有してなる樹脂組成物であって、ポリ乳酸(A)を25〜90質量部、ゴム強化スチレン系樹脂(B)を5〜70質量部、アクリル系相溶化剤(C)を0.5〜20質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに有機スルホン酸金属塩(D)を、ポリ乳酸(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系相溶化剤(C)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部含有してなる請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸(A)は、アセトン処理が施されており、残存ラクチド量が700ppm以下である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。



【公開番号】特開2013−32488(P2013−32488A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62077(P2012−62077)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】