説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】熱可塑性樹脂組成物を金型を用いて成型加工する際、金型からの離型性を改善し、且つ金型表面および成形品表面に汚れがつかない熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】熱可塑性樹脂に、下記A〜C成分から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
A成分:(メタ)アクリル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22である(メタ)アクリル酸エステルの重合体
B成分:フマル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルの重合体
C成分:フマル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルと、これと共重合し得るビニル系単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるビニル系単量体との共重合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物を成型加工する際、成型加工金型からの良好な離型性を発揮する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂は、射出成形、圧縮成形など各種成形方法によって目的とする形状に成形して用いられている。高い寸法精度が要求される成形品や複雑な形状を有する成形品を成形する場合、成形品が金型などに付着して離れ難くなり、生産性の低下、成形品の変形などの外観不良や破壊といった離型性不良という問題が生じることがある。離型性不良の問題を解決する手段としては、加工条件を調整して対応する場合もあるが、離型剤を用いる場合が多い。離型剤の使用方法としては、金型などに離型剤を塗布する方法、熱可塑性樹脂に予め離型剤を配合して該樹脂組成物の成形品と金型との離型性を改善する方法などが行われている。
【0003】
熱可塑性樹脂に予め離型剤を配合して該樹脂組成物の成形品と金型との離型性を改善する従来技術としては、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部、及び脂肪族カルボン酸と多価アルコールとの部分エステル0.01〜0.1重量部を含むポリカーボネート樹脂組成物(引用文献1)、合成樹脂100重量部に臭素化エポキシ系難燃剤5〜35重量部および多価アルコールと二塩基酸および/または炭素数C12〜C22の脂肪酸を反応せしめて得られるエステル化合物を0.3〜5.0重量部添加してなる金属との離型性に優れた難燃性合成樹脂組成物(引用文献2)などが開示されている。
しかし、上記した従来技術では、成型加工の際、配合している離型剤が樹脂表面に移行して金型表面および成形品表面を汚すという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−73724号公報
【特許文献2】特開平8−245829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂組成物を金型を用いて成型加工する際、金型からの離型性を改善し、且つ金型表面および成形品表面に汚れがつかない熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂組成物に、(メタ)アクリル酸エステルの重合体、フマル酸エステルの重合体などを配合することにより上記課題を解決すること見出した。本発明者は、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)熱可塑性樹脂に、下記A〜C成分から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、
A成分:(メタ)アクリル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22である(メタ)アクリル酸エステルの重合体
B成分:フマル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルの重合体
C成分:フマル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルと、これと共重合し得るビニル系単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるビニル系単量体との共重合体
(2)上記1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる熱可塑性樹脂組成物成形品、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、金型を用いて成型加工する際、金型からの離型性に優れ、且つ金型表面および成形品表面の汚れが少ない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体のいずれか単独またはこれらの混合物からなるポリオレフィン樹脂(エチレン−αオレフィン共重合体のαオレフィンとしては、炭素数4〜10でブテン−1、ペンテン−1、オクテン−1、デセン−1など)、ポリアミド樹脂(ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−11、ナイロン−12など)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、MS、AS、ABSなど)、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなど)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、フッソ樹脂、PPS樹脂、PPE樹脂などが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として用いることもできる。
【0009】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22である(メタ)アクリル酸エステルの重合体(A成分)を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体は、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基にアルコールがエステル結合したものであって、結合したアルコールのアルキル基の炭素数は12〜22であり、好ましくは炭素数16〜22である。
なお、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの両方を意味する。
【0010】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルなどが挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルである。これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種または2種以上を用いることができる。
【0011】
本発明で用いられるA成分は、上記(メタ)アクリル酸エステル単量体が重合したものであり、その重量平均分子量は、重合する単量体によって異なるが、好ましくは約1000〜100000、より好ましくは2000〜60000である。上記の範囲であると、A成分の溶融粘度が低くなり、熱成形時に樹脂表面へ移行しやすくなり離型性が良くなるため好ましい。
【0012】
本発明で用いられるフマル酸エステル単量体のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルの重合体(B成分)を構成するフマル酸エステル単量体は、フマル酸のカルボキシル基にアルコールがエステル結合したものであり、結合したアルコールのアルキル基の炭素数は12〜22であり、好ましくは炭素数16〜22である。
【0013】
上記フマル酸エステル単量体としては、例えば、フマル酸モノラウリル、フマル酸モノミリスチル、フマル酸モノパルミチル、フマル酸モノステアリル、フマル酸モノベヘニル、フマル酸ジラウリル、フマル酸ジミリスチル、フマル酸ジパルミチル、フマル酸ジステアリル、フマル酸ジベヘニルなどが挙げられ、好ましくはフマル酸ジステアリルまたはフマル酸ジベヘニルである。これらのフマル酸エステル単量体は、1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
本発明で用いられるB成分は、上記フマル酸エステル単量体が重合したものであり、その重量平均分子量は、重合する単量体によって異なるが、好ましくは約1000〜50000、より好ましくは2000〜30000である。上記の範囲であると、B成分の溶融粘度が低くなり、熱成形時に樹脂表面へ移行しやすくなるため好ましい。
【0015】
本発明で用いられるフマル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルと、これと共重合し得るビニル系単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるビニル系単量体との共重合体(C成分)を構成するビニル系単量体は、フマル酸エステルと共重合し得るビニル基を分子内に有するものであり、ビニルアルコールの水酸基と脂肪酸のカルボキシル基がエステル結合したものである。結合した脂肪酸のアシル基の炭素数は12〜22であり、好ましくは炭素数16〜22である。
【0016】
上記ビニル系単量体としては、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ベヘニン酸ビニルなどの脂肪族ビニル化合物が挙げられ、好ましくステアリン酸ビニルまたはベヘニン酸ビニルである。これらのビニル系単量体は、1種または2種以上を用いることができる。
【0017】
本発明で用いられるC成分は、上記フマル酸エステル単量体とこれに共重合し得る上記ビニル系単量体とが共重合したものであり、その重量平均分子量は、重合する単量体によって異なるが、好ましくは約1000〜100000、より好ましくは2000〜60000である。上記の範囲であると、C成分の溶融粘度が低くなり、熱成形時に樹脂表面へ移行しやすくなり離型性が良くなるため好ましい。
【0018】
本発明で用いられるA成分、B成分およびC成分は、各成分を構成する単量体を、重合開始剤と所望により連鎖移動剤の存在下で塊状重合、溶液重合、懸濁重合または乳化重合など、通常用いられる重合法を行うことにより得られる。
【0019】
上記重合開始剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシヘプタノエート、クミルパーオキシネオデカノエートなどのパーオキシエステル、ジt−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどのジアルキルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキ)シクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシカーボネート、ジラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイドなどの有機化酸化物、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの無機化酸化物、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物などが挙げられる。
【0020】
上記連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノール、オクタンチオール、ドデカンチオール、オクタデカンチオールなどのチオール類を挙げることができる。
【0021】
以下に、本発明で用いられるA成分、B成分およびC成分を得る方法を例示する。
A成分を溶液重合により得る方法としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体と連鎖移動剤と溶剤をフラスコに仕込み、所定温度(例えば約60〜130℃)に加熱して均一に溶解し、攪拌しながら30分以上窒素置換する。次いで少量の溶剤に溶解した重合開始剤を滴下で加え、未反応の単量体が1%以下になるまで重合反応を行う。重合体と溶剤を分離するため、反応終了液を大過剰の重合体の貧溶媒に加えて重合体を晶析する。析出した重合物をろ別して乾燥することによりA成分を得ることができる。
ここで溶剤とは、物質を溶解する用途に用いられる常温で液体の有機化合物であり、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピルなどのエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤が挙げられ、溶解する物質に応じて適宜選択して用いることができる。
【0022】
B成分を塊状重合により得る方法としては、フマル酸エステル単量体をフラスコに仕込み所定温度(例えば約60〜130℃)に加熱して、攪拌しながら30分以上窒素置換する。次いで少量の溶剤に溶解した重合開始剤を滴下で加え、未反応の単量体が1%以下になるまで重合反応を行うことによりB成分を得ることができる。
【0023】
C成分を溶液重合により得る方法としては、フマル酸エステル単量体とこれに共重合し得るビニル系単量体と連鎖移動剤と溶剤をフラスコに仕込み、所定温度(例えば約60〜130℃)に加熱して均一に溶解し、攪拌しながら30分以上窒素置換する。次いで少量の溶剤に溶解した重合開始剤を滴下で加え、未反応の単量体が1%以下になるまで重合反応を行う。重合体と溶剤を分離するため、反応終了液を大過剰の重合体の貧溶媒に加えて重合体を晶析する。析出した重合物をろ別して乾燥することによりC成分を得ることができる。
【0024】
本発明で用いられるA成分、B成分およびC成分には、各成分を構成する単量体以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種単量体を配合して重合することができる。具体的には、A成分には、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸の芳香族アルコールエステルや、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸の脂環式アルコールエステルなどが挙げられる。B成分には、マレイン酸モノラウリル、マレイン酸モノミリスチル、マレイン酸モノパルミチル、マレイン酸モノステアリル、マレイン酸モノベヘニル、マレイン酸ジラウリル、マレイン酸ジミリスチル、マレイン酸ジパルミチル、マレイン酸ジステアリル、マレイン酸ジベヘニルなどのマレイン酸エステルなどが挙げられる。C成分には、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレンなどの芳香族ビニル化合物や、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物などが挙げられる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とA〜C成分から選択される1種または2種以上(以下、「本発明に用いられる離型剤」という。)を配合することにより得られる。本発明で用いられる離型剤の配合量としては、熱可塑性樹脂100質量部に対して好ましくは0.1〜5質量部であり、より好ましくは約0.2〜3質量部である。上記範囲内であると金型からの離型性に優れ、且つ金型表面および成形品表面の汚れを改善することができるため好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常熱可塑性樹脂に用いられる添加剤を配合することができる。具体的には、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤、着色剤などが挙げられる。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と本発明で用いられる離型剤を加熱混合することにより得られる。混合する方法としては、これらを均一に混合できる方法であれば特に制限はなく、例えば、押し出し機、バンバリーミキサー、加熱ロールなどの各種混合用機械による混合、混練機を用いて加熱混合する方法が挙げられる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、金型を用いた各種成型加工を行い成形品として用いられる。成型加工の方法としては特に制限はなく、例えば、射出成形、真空成形、ブロー成形などの成型加工方法が挙げられる。上記成型加工によって得られた成形品は、自動車分野、OA機器分野、電子・電気分野など各種用途に用いることができる。
【0029】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
<離型剤(A〜C成分)の作製>
(1)原材料
ステアリルアクリレート(商品名:ビスコートSTA;大阪有機化学工業社製)
ラウリルアクリレート(商品名:ビスコートLA;大阪有機化学工業社製)
フマル酸ジステアリル(下記方法で作製したもの)
ステアリン酸ビニル(商品名:ステアリン酸ビニル;日本酢ビ・ポバール社製)
キシレン(商品名:キシレン;和光純薬工業社製)
2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名:ルペロックス101:アルケマ吉富社製)
1−オクタデンカンチオール(商品名:1−オクタデカンチオール;和光純薬工業社製)
【0031】
(2)フマル酸ジステアリルの作製
フマル酸(商品名:フマル酸;和光純薬工業社製)69.6g、ステアリルアルコール(商品名:カルコール8098;花王社製)330.4g、p−トルエンスルフォン酸(商品名:p−トルエンスルホン酸一水和物;和光純薬工業社製)0.4g、ヒドロキノン(商品名:ヒドロキノン;和光純薬工業社製)0.008gを500mL容の四つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、170℃で6時間反応を行った。反応生成物を500mLのキシレンに加熱溶解した後、500mLのメタノールで再沈殿させ、析出物をろ別、乾燥してフマル酸ジステアリルを得た。ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下GPC)を用いて下記条件で分子量を測定したところ、フマル酸ジステアリル成分を示すピーク面積の比率から純度は98.1%であった。
(GPC測定条件)
カラム:SHODEX GPC KF−801, KF−802 300×7.5mm(昭和電工社製)
移動相:THF
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(RID−10A/島津製作所社製)
【0032】
(3)離型剤の作製
[離型剤1:A成分]
ステアリルアクリレート50g、キシレン50gをフラスコに仕込み、120℃に昇温して攪拌しながら30分以上窒素置換した。次いで、キシレン1gに溶解した2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.05gを滴下で仕込み、未反応のモノマーが1%以下になるまで10時間重合反応を行った。反応終了液を100mLのメタノールによく攪拌しながら投入し、析出した重合物をろ別、乾燥してステアリルアクリレート重合体(離型剤1)を得た。得られた重合体をGPCを用いて下記条件で分子量を測定した結果、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は約35000、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で表される多分散度は約2.0であった。
ここで、重合体の組成中に分子量Miの分子がNi個存在する混合物の場合、重量平均分子量(Mw)は、Mw=Σ(Ni×Mi)/Σ(Ni×Mi)で表され、数平均分子量(Mn)は、Mn=Σ(Ni×Mi)/ΣNiで表される。また、多分散度(Mw/Mn)は分子量分布の広がりを示す指標であり、多分散度の値が1に近いほど分子量分布が狭いことを意味する。
(GPC測定条件)
カラム:TSKgel GMHHR−M 300×7.8mm 2本(東ソー社製)
移動相:THF
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(RI8020/東ソー社製)
【0033】
[離型剤2:A成分]
離型剤1の作製において、ステアリルアクリレート50g、キシレン50gをフラスコに仕込む際、1−オクタデンカンチオール0.5gを追加して仕込む以外は同様の操作を行い、ステアリルアクリレート重合体(離型剤2)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は約24000、多分散度(Mw/Mn)は約1.7であった。
【0034】
[離型剤3:A成分]
離型剤2の作製において、1−オクタデンカンチオール0.5gを2.5gに替えた以外は同様の操作を行い、ステアリルアクリレート重合体(離型剤3)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は約14000、多分散度(Mw/Mn)は約1.4であった。
【0035】
[離型剤4:A成分]
離型剤3の作製において、ステアリルアクリレート50gを、ステアリルアクリレート40.1gとラウリルアクリレート9.9gに替えた以外は同様の操作を行い、ステアリルアクリレートとラウリルアクリレートの重合体(離型剤4)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は約14000、多分散度(Mw/Mn)は約1.4であった。
【0036】
[離型剤5:B成分]
フマル酸ジステアリル50gをフラスコに仕込み、120℃に昇温して攪拌しながら30分以上窒素置換した。次いで、キシレン1gに溶解した2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.25gを滴下で仕込み、未反応のモノマーが1%以下になるまで10時間重合反応を行った。反応終了液を100mLのメタノールによく攪拌しながら投入し、析出した重合物をろ別、乾燥してステアリルアクリレート重合体(離型剤5)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は約17000、多分散度(Mw/Mn)は約1.4であった。
【0037】
[離型剤6:C成分]
離型剤5の作製において、フマル酸ジステアリル50gを、フマル酸ジステアリル40gとステアリル酸ビニル10gに、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを0.05gに替え、これらをフラスコに仕込む際、1−オクタデカンチオール0.5gを追加して仕込む以外は同様の操作を行い、ジステアリルフマルレートとステアリン酸ビニルの共重合体(離型剤6)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は約35000、多分散度(Mw/Mn)は約2.0であった。
【0038】
[離型剤7:C成分]
離型剤6の作製において、フマル酸ジステアリル40gとステアリン酸ビニル10gを、フマル酸ジステアリル33.3gとステアリル酸ビニル16.7gに替えた以外は同様の操作を行い、ジステアリルフマルレートとステアリン酸ビニルの共重合体(離型剤7)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は約57000、多分散度(Mw/Mn)は約4.5であった。
【0039】
<熱可塑性樹脂組成物の作製>
ABS樹脂(商品名:トヨラック300;東レ社製)
難燃剤1(商品名:フレームカット120G;東ソー社製、テトラブロモビスフェノールA)
難燃剤2(商品名:酸化アンチモン(III);和光純薬工業社製、三酸化アンチモン)
離型剤1〜7
離型剤8(商品名:リケマールS−100A:理研ビタミン社製、グリセリンモノステアレート)
離型剤9(商品名:リケスターEW−440A;理研ビタミン社製、ペンタエリスリトールテトラステアレート)
【0040】
(2)配合
上記原材料を用いて作製した熱可塑性樹脂組成物(実施例品1〜10、比較例品1〜6)の配合組成を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(3)熱可塑性樹脂組成物の作製
[実施例品1〜10、比較例品1〜5]
上記表1の8倍量の原材料を用いて下記方法にて作成した。
各原材料を混合した混合物を、ストランドダイを備える二軸押出機(型式:TP20−T;サーモ・プラスチック社製)をスクリュー回転数80rpm、成形温度170〜220℃(C1:170℃、C2:200℃、C3:220℃、DH:200℃)の条件で溶融混練して押出し、ストランドを切断してペレット状の熱可塑性樹脂組成物(実施例品1〜10、比較例品1〜5)を得た。
【0043】
<熱可塑性樹脂組成物の評価>
(1)離型性の評価
得られた熱可塑性樹脂組成物(実施例1〜10、比較例品1〜5)約500gを、離型力評価装置(FUTABA CORPORATION社製)を備えた金型と射出成形機(型式:IS 55EPN;東芝機械社製)を用いて、下記成型加工条件でカップ型の成形品を作製し、成形品を金型から取り出すのに要する力(離型力)を測定した。離型力は、数値が小さいほど離型性が良いことを示す。測定は10回行い平均値として数値化した。結果を表2に示す。

(射出成形機の成型加工条件)
成形温度:NH/H1/H2/H3=220℃/220℃/200℃/180℃
射出圧:27MPa
保圧:66MPa
背圧:11MPa
スクリュー回転数:94rpm
金型温度:40℃
冷却時間:50秒
【0044】
(2)金型および成形品の汚れ具合の評価
「(1)離型性の評価」で得られた成形品表面の汚れ具合、および成形品を10回作製した後の金型の汚れ具合について目視にて評価した。評価は、下記評価基準で行った。結果を表2に示す。
(評価基準)
金型表面(成形品表面)には、汚れがほとんどない。 : ○
金型表面(成形品表面)には、わずかに汚れがある。 : △
金型表面(成形品表面)には、汚れがある。 : ×
【0045】
【表2】

結果より、実施例品を用いた成形品は、離型剤を含まない比較例品1を用いた成形品より成形品を金型から取り出すのに要する力(離型力)の数値が小さく離型性が改善された。また、実施例品を用いた成形品を作製した後の金型表面および成形品表面の汚れは、ほとんどなく良好な状態であった。
一方、比較例品2〜5を用いた成形品は、離型性はあるものの、成形品を作製した後の金型表面および成形品表面の汚れがある状態であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に、下記A〜C成分から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
A成分:(メタ)アクリル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22である(メタ)アクリル酸エステルの重合体
B成分:フマル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルの重合体
C成分:フマル酸エステル単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるフマル酸エステルと、これと共重合し得るビニル系単量体中のアルキル基の炭素数が12〜22であるビニル系単量体との共重合体
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる熱可塑性樹脂組成物成形品。

【公開番号】特開2013−56956(P2013−56956A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194706(P2011−194706)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】