説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐衝撃性・耐熱性に優れ、かつポリ乳酸樹脂を25質量%以上配合した、環境負荷の少ないゴム強化スチレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、およびマレイミド樹脂(D)を含有する樹脂組成物であって、樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の割合が25〜50質量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)の割合が20〜65質量%、アクリル系樹脂(C)の割合が0.5〜10質量%、マレイミド樹脂(D)の割合が5〜20質量%であり、前記マレイミド樹脂(D)のメルトフローレートが、265℃、98N荷重の条件で、5g/10分以上であり、前記マレイミド樹脂(D)のガラス転移温度が、190℃以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性・耐熱性・加工性に優れ、石油系製品への依存が低いポリ乳酸樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)や耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などのゴム強化スチレン系樹脂は、耐衝撃性・耐熱性・成形加工性に優れ、電気・電子機器分野、自動車分野等において幅広く使用されている。
しかしながら、このような樹脂は石油を原料としており、環境負荷を低減する目的から、近年ではABS樹脂に、ポリ乳酸樹脂のような植物原料のバイオマス樹脂を配合することが求められている。しかし、ポリ乳酸樹脂は、ABS樹脂に比較して、一般に耐衝撃性・耐熱性が低く、またABS樹脂との相溶性も良好でない。したがって、ポリ乳酸樹脂の配合量が多すぎると、ABS樹脂のもつ優れた耐衝撃性・耐熱性などの性能を損なう問題がある。
【0003】
例えば、特許文献1および特許文献2には、ポリ乳酸樹脂とABS樹脂に、アクリル系樹脂を配合することで、耐衝撃性が改良されることが開示されているが、その改良は不十分なものであった。
【0004】
一方、従来、ABS樹脂の耐熱性を向上させる方法として、マレイミド樹脂を配合する方法が知られている(特許文献3〜6)。しかしながら、ポリ乳酸樹脂とABS樹脂に、マレイミド樹脂を配合しても、ポリ乳酸樹脂との相溶性が良好でないためか、十分な耐熱性・耐衝撃性を有する樹脂組成物は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−45485号公報
【特許文献2】特開2006−137908号公報
【特許文献3】米国特許第3642949号明細書
【特許文献4】米国特許第3652726号明細書
【特許文献5】特開昭57−98536号公報
【特許文献6】特開昭57−125241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、耐衝撃性・耐熱性に優れ、かつポリ乳酸樹脂を25質量%以上配合した、環境負荷の少ないゴム強化スチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、このような課題を解決するべく鋭意検討の結果、ポリ乳酸樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、および特定のマレイミド樹脂を、特定の組成割合で配合すると、耐衝撃性・耐熱性の優れた、低環境負荷の樹脂組成物が得られることを見出し本発明に到達した。すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、およびマレイミド樹脂(D)を含有する樹脂組成物であって、樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の割合が25〜50質量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)の割合が20〜65質量%、アクリル系樹脂(C)の割合が0.5〜10質量%、マレイミド樹脂(D)の割合が5〜20質量%であり、前記マレイミド樹脂(D)のメルトフローレートが、265℃、98N荷重の条件で、5g/10分以上であり、前記マレイミド樹脂(D)のガラス転移温度が、190℃以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(2)さらにカルボジイミド化合物(E)を含有し、その含有量が、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系樹脂(C)とマレイミド樹脂(D)の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部であることを特徴とする(1)記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形性よく、耐衝撃性、耐熱性に優れた各種の成形体を得ることが可能である。そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、天然物由来の樹脂を利用しているので、石油等の枯渇資源の節約に貢献できるなど、産業上の利用価値は極めて高い。この樹脂組成物を成形することにより、電気電子機器部品や雑貨用成形品として用いることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、およびマレイミド樹脂(D)を含有する。
【0010】
本発明に使用されるポリ乳酸樹脂(A)は、L−乳酸やD−乳酸を構成成分とする樹脂であり、さらにこれらを主成分として、他にポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート等を混合してもよい。石油資源節約という観点からは、植物由来原料がよく、なかでも耐熱性、成形性の面からポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることが望ましい。
【0011】
ポリ乳酸樹脂(A)の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレートは、0.1〜50g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.2〜20g/10分、最適には0.5〜10g/10分である。メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形物の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。一方、メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は成形加工時の負荷が高くなりすぎ、操業性が低下する場合があり、ともに好ましくない場合がある。
【0012】
ポリ乳酸樹脂(A)は通常公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造される。また、ポリ乳酸樹脂のメルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が使用できる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合はメルトフローレートの大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が使用できる。
【0013】
本発明の樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の含有量は、25〜50質量%であることが必要であり、中でも30〜45質量%であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の含有量が25質量%未満であると、得られる樹脂組成物は石油系製品への依存度が高いものとなる。一方、含有量が50質量%を超えると、得られる樹脂組成物は、耐衝撃性、耐熱性が低下する。
【0014】
本発明に使用されるゴム強化スチレン系樹脂(B)とは、スチレン系樹脂(B−1)がゴム系樹脂(B−2)にグラフト共重合またはランダム共重合されたゴム共重合スチレン系樹脂(B−3)、またはスチレン系樹脂(B−1)がゴム系樹脂(B−2)もしくは前記ゴム共重合スチレン系樹脂(B−3)に混合された樹脂(B−4)である。本発明において、上記のようなゴム強化スチレン系樹脂(B)を使用することで、樹脂組成物の耐衝撃性と耐熱性を向上させることができる。
【0015】
スチレン系樹脂(B−1)とは、スチレン系モノマーを主体とする樹脂である。
スチレン系樹脂(B−1)を構成するスチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体等が挙げられる。中でも、スチレン、α―メチルスチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系モノマー、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
スチレン系樹脂(B−1)中のスチレンの含有量は、特に限定されないが、40質量%以上が好ましい。
【0016】
ゴム系樹脂(B−2)とは、合成ゴムを主体とする伸縮性に優れた樹脂をいう。
ゴム系樹脂(B−2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエンの共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・イソプレン共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・イソプレン共重合体、ブタジエン・イソプレン共重合体等のジエン系共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体等のエチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレン・(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のエチレンと脂肪族カルボン酸ビニルとの共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンとの共重合体、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(以下IPN型ゴムと略称する。)等が挙げられる。これらの共重合体は、ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
【0017】
スチレン系樹脂(B−1)がゴム系樹脂(B−2)にグラフト共重合またはランダム共重合されたゴム共重合スチレン系樹脂(B−3)やゴム共重合スチレン系樹脂(B−3)に混合された樹脂(B−4)としては、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂、スチレン・ブタジエン・スチレン樹脂、水添スチレン・ブタジエン・スチレン樹脂、水添スチレン・イソプレン・スチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン樹脂、スチレン・IPN型ゴム共重合体のゴム強化スチレン樹脂が挙げられる。
ゴム強化スチレン系樹脂(B)としては、上記の中でも、成形加工性、耐衝撃性の点から、HIPS樹脂、ABS樹脂が望ましい。
【0018】
また、上記のゴム強化スチレン系樹脂(B)と他の樹脂とのアロイ物も挙げることができる。例えば、ABS/PC(ポリカーボネート)、ABS/PET(ポリエチレンテレフタレート)、ABS/PPE(ポリフェニレンエーテル)、ABS/PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ABS/PA(ポリアミド)、HIPS/PPE、HIPS/ポリオレフィン等が挙げられる。
【0019】
上記に例示したゴム強化スチレン系樹脂(B)は公知の重合法や製造法で製造できる。また、市販材料をそのまま用いても何ら問題は無い。
【0020】
本発明の樹脂組成物中のゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量は、20〜65質量%であることが必要であり、中でも30〜60質量%であることが好ましい。ゴム強化スチレン系樹脂(B)の含有量が20質量%未満であると、得られる樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(B)が有する優れた耐衝撃性・耐熱性を発現できないことがある。一方、含有量が65質量%を超えると、得られる樹脂組成物は石油系製品への依存度が高いものとなる。
【0021】
本発明に使用されるアクリル系樹脂(C)としては、(メタ)アクリル系共重合体、ゴム強化アクリル系樹脂、コアシェル型アクリル系化合物が挙げられ、これらを単独で使用してよく、2種以上併用してもよい。
本発明において、上記のようなアクリル系樹脂(C)を使用することで、樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0022】
(メタ)アクリル系共重合体とは、(メタ)アクリル系モノマーを単独で重合したもの、または2種以上の(メタ)アクリル系モノマーを共重合したものである。(メタ)アクリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のアルキル基(シクロアルキル基を含む)の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー、メタクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル系モノマー、メタクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル系モノマー等が挙げられる。これらを単独で使用してよく、2種以上併用してもよい。
【0023】
ゴム強化アクリル系樹脂とは、ゴム状重合体の存在下に、(メタ)アクリル系モノマーを共重合したもの、または、2種以上のモノマーを共重合したものである。ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレン共重合体、イソプレン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ブタジエン・イソプレン・スチレン共重合体、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン・非共役ジエン共重合体等のエチレン−プロピレン系ゴム、ポリブチルアクリレート等のアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム等のシリコン系ゴム、これら2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられる。中でも、ジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
コアシェル型アクリル系化合物とは、内層にゴム層を有し、外層に(メタ)アクリル系樹脂を有する層からなるものである。コアシェル構造の一例として、コア(内層)は、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分等を重合させたゴム等から構成され、シェル(外層)はメタクリル酸メチル重合体等から構成されるものが挙げられる。
【0025】
アクリル系樹脂(C)の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製アクリペット、カネカ社製カネエース、クレハ社製パラロイド、ロームアンドハース社製アクリロイド、武田薬品工業社製スタフィロイドまたはクラレ社製パラペットSAが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明の樹脂組成物中のアクリル系樹脂(C)の含有量は、0.5〜10質量%であることが必要であり、中でも1〜9質量%であることが好ましく、さらには、2〜7質量%であることが好ましい。アクリル系樹脂(C)の含有量が0.5質量%未満であると、樹脂組成物の耐衝撃性を向上できないことがある。一方、含有量が10質量%を超えると、樹脂組成物の耐衝撃性が低下することがある。
【0027】
本発明に使用されるマレイミド樹脂(D)は、芳香族ビニル単量体残基30〜70質量%、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基25〜55質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体残基0〜25質量%、及びこれら単量体と共重合可能なビニル単量体残基0〜40質量%からなることが好ましく、芳香族ビニル単量体残基40〜65質量%、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基30〜55質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体残基0〜10質量%、及びこれら単量体と共重合可能なビニル単量体残基0〜20質量%からなることがより好ましい。芳香族ビニル単量体残基が30質量%未満あるいは不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基が55質量%を超えると、衝撃強度が低くなり、成形品にシルバー等の不良現象が発生する。また、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体残基が25質量%未満あるいは芳香族ビニル単量体残基が70質量%を超えると耐熱付与効果が低くなる。更に、不飽和ジカルボン酸無水物単量体残基が25質量%を超えると、熱安定性が低くなる。
【0028】
本発明で用いるマレイミド樹脂(D)中の芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン単量体及びその置換体が挙げられ、これらの中でスチレンが特に好ましい。
不飽和ジカルボン酸イミド誘導体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド等のマレイミド系単量体が挙げられ、これらの中でN−フェニルマレイミドが特に好ましい。
また、不飽和ジカルボン酸無水物単量体としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の無水物が挙げられ、マレイン酸無水物が特に好ましい。
上記の単量体と共重合可能なビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、メチルアクリル酸エステル、エチルアクリル酸エステル、ブチルアクリル酸エステル等のアクリル酸エステル単量体、メチルメタクリル酸エステル、エチルメタクリル酸エステル等のメタクリル酸エステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸単量体、アクリル酸アミド及びメタクリル酸アミド等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いるマレイミド樹脂(D)の製造方法としては、芳香族ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体、及び必要に応じて用いる不飽和ジカルボン酸無水物単量体、これら単量体と共重合可能なビニル単量体を公知の方法で直接共重合する方法や、不飽和ジカルボン酸無水物単量体を芳香族ビニル単量体、及びこれら単量体と共重合可能なビニル単量体と共重合させた後、アンモニア及び/又は第1級アミンと反応させて不飽和ジカルボン酸イミド誘導体にする方法が挙げられる。
マレイミド樹脂(D)を製造する方法としては、後者、すなわち不飽和ジカルボン酸無水物単量体を芳香族ビニル単量体、及びこれら単量体と共重合可能なビニル単量体と共重合させた後にイミド化する方法が、共重合性及び経済性の点でより好ましい。
イミド化反応に用いる第1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロへキシルアミン、デシルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン、クロロフェニルアミン、ジクロロフェニルアミン、ブロモフェニルアミン、ジブロモフェニルアミン等が挙げられる。
イミド化反応は、オートクレーブを用いて溶液状態、塊状状態あるいは懸濁状態で反応を行うことができる。また、スクリュー押出機等の溶融混練装置を用いて、溶融状態で反応を行うことも可能である。
イミド化における溶液反応に用いられる溶媒は任意であり、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等が例示される。
イミド化の反応温度は50〜350℃の範囲が好ましく、100〜300℃の範囲が特に好ましい。
イミド化反応は触媒の存在を必ずしも必要としないが、用いるならばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の第3級アミンが好適である。
マレイミド樹脂(D)は、従来より知られている乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法のいずれの方法によって得られたものであってもよいし、またこれらの重合法の複合化した技術によるものでもよいが、溶液重合法によるものが好ましい。また、回分法重合、連続重合どちらの重合法によるものでもかまわない。
【0030】
本発明においては、マレイミド樹脂(D)として、特定のメルトフローレート、特定のガラス転移温度を有するものを使用することにより、従来不十分であったポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させることができるものである。これにより、ポリ乳酸樹脂(A)に前記したようなゴム強化スチレン系樹脂(B)やアクリル系樹脂(C)を添加することによる耐衝撃性や耐熱性の向上効果がより顕著となり、耐衝撃性や耐熱性に非常に優れた樹脂組成物を得ることが可能となる。
マレイミド樹脂(D)の温度265℃、荷重98Nの条件におけるメルトフローレートは5g/10分以上であることが必要であり、8g/10分以上であることが好ましい。メルトフローレートが5g/10分より小さいと、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性が低下し、得られる樹脂組成物の衝撃強度・耐熱性が低下する場合がある。なお、メルトフローレートは30g/10分以下であることが好ましく、20g/10分以下であることがより好ましい。メルトフローレートが30g/10分より大きいと、耐衝撃強度が低下する場合がある。
【0031】
本発明で使用するマレイミド樹脂(D)のガラス転移温度は190℃以下であることが必要であり、中でも185℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が190℃を超えるとポリ乳酸樹脂(A)との相溶性が低下し、得られる樹脂組成物の衝撃強度・耐熱性が低下する場合がある。なお、ガラス転移温度は130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が130℃未満であると、耐熱性向上効果が低下する場合がある。
【0032】
本発明の樹脂組成物中のマレイミド樹脂(D)の含有量は、5〜20質量%であることが必要であり、中でも6〜18質量%であることが好ましい。マレイミド樹脂(D)の含有量が5質量%未満であると、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性を向上させることが困難となり、得られる樹脂組成物の耐衝撃性や耐熱性を向上できないことがある。一方、含有量が20質量%を超えると、樹脂組成物の耐衝撃性が低下することがある。
【0033】
次に、カルボジイミド化合物(E)について説明する。
カルボジイミド化合物(E)は、湿熱耐久性を向上させることを目的に、熱可塑性樹脂組成物に配合されることが好ましいものである。
【0034】
カルボジイミド化合物(E)を用いる場合、その含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系樹脂(C)とマレイミド樹脂(D)の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部とすることが好ましく、0.5〜3質量部とすることがより好ましい。カルボジイミド化合物(E)の含有量がこの範囲にあると、湿熱耐久性が向上し、その他物性も良好となる。なお、カルボジイミド化合物(E)として2種以上のカルボジイミド化合物を用いる場合、その含有量は、全てのカルボジイミド化合物の合計量とする。
【0035】
カルボジイミド化合物(E)とは、(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を分子内に有する化合物をいう。なお、カルボジイミド基を分子内に1個有する化合物をモノカルボジイミド化合物と表し、カルボジイミド基を分子内に2個以上有する化合物を多価カルボジイミド化合物と表す。
【0036】
モノカルボジイミド化合物としては、N,N´−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N´−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N´−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N´−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N´−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N´−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N´−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N´−トリルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。中でも、湿熱耐久性の点から、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましい。
【0037】
多価カルボジイミド化合物としては、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4´−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4´−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3´−ジメチル−4,4´−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミド等が挙げられる。中でも、ポリ(4,4´−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミドが好ましい。
【0038】
カルボジイミド化合物は、公知の方法により製造することができる。例えば、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により製造する方法が挙げられる。
カルボジイミド化合物には、末端にイソシアネート基が残存していてもよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、上記のようにポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、およびマレイミド樹脂(D)を含有し、また必要に応じてカルボジイミド化合物(E)を含有する樹脂組成物であるが、その特性を大きく損なわない範囲であれば、これら以外の他の樹脂を含有していてもよい。また、本発明の樹脂組成物を使用する際には、本発明の樹脂組成物と他の樹脂成分とを配合して使用することもできる。
【0040】
このような他の樹脂成分としては、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。
また、本発明の樹脂組成物にはその特性を大きく損なわない範囲内で、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、耐光剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核材等を添加することができる。
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、ビタミンEが挙げられる。
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、N含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物)が挙げられる。
無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。
無機結晶核材としては、タルク、カオリン等が挙げられ、有機結晶核材としては、ソルビトール化合物、安息香酸およびその化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物等が挙げられる。
なお、本発明の樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、およびシート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件であるが、シリンダ温度を180〜240℃、より好ましくは190〜230℃の範囲とするのが適当である。金型温度は120℃以下が好ましい。成形温度が低すぎると成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生する場合がある。
【0042】
具体的な成形体の用途例としては、電気・電子部品としては、コピー機、パソコン、プリンター、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品等、雑貨用成形品としては、トレイ・キャビネット・ボックスなど各種収納ボックス、フック用品、カバー用品、ハンガー、結束バンド、玩具等、建築部材としては、カーテン部品、ブラインド部品、ルーフパネル、断熱壁、アジャスター、プラ束、天井釣り具等、自動車部品としては、各種レバー、各種ハンドル、内装ガーニッシュ、ホイールキャップ、各種ファスナー、各種グロメット等、機械部品では、歯車、ねじ、バネ、軸受、レバー、カム、ラチェット、ローラー等、日用品では、各種カトラリー、各種トイレタリー部品等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
(1)材料
(1.1)ポリ乳酸樹脂(A)
・(A1)ポリ(L−乳酸):ユニチカ社製 テラマック TE−4000(D−乳酸含有量1.4モル%、MFR(190℃、21.2N)=10g/10分)
・(A2)ポリ(L−乳酸):NATURE WORKS社製 6302D(D−乳酸含有量9.5モル%、MFR(190℃、21.2N)=12g/10分)
【0045】
(1.2)ゴム強化スチレン系樹脂(B)
・(B1)ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂):テクノポリマー社製 テクノABS170
・(B2)ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂):テクノポリマー社製 テクノABS130
・(B3)HIPS樹脂(耐衝撃性ポリスチレン樹脂):東洋スチレン製 トーヨースチロールHI H650
【0046】
(1.3)アクリル系樹脂(C)
・(C1)ポリメタクル酸メチル樹脂:三菱レイヨン社製 アクリペットVH−001
・(C2)アクリル−ブタジエン系ゴム成分を含有するメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体:三菱レイヨン社製 アクリペットVRL−20
【0047】
(1.4)マレイミド樹脂(D)
・(D1)マレイミド樹脂(スチレン−Nフェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体):電気化学工業社製 MS−NI(MFR(265℃、98N)=11g/10分、ガラス転移温度185℃)
・(D2)マレイミド樹脂(スチレン−Nフェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体):電気化学工業社製 MS−NC(MFR(265℃、98N)=16g/10分、ガラス転移温度162℃)
・(D3)マレイミド樹脂(スチレン−Nフェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体):電気化学工業社製 MS−NB(MFR(265℃、98N)=3g/10分、ガラス転移温度196℃)
【0048】
(1.5)カルボジイミド化合物(E)
・(E1)芳香族モノカルボジイミド化合物:ラインケミー社製 スタバクゾールI
・(E2)芳香族多価カルボジイミド化合物:ラインケミー社製 スタバクゾールP
・(E3)脂肪族多価カルボジイミド化合物:日清紡社製 カルボジライトLA−1
【0049】
(2)評価方法
(2.1)メルトフローレート(MFR)
JIS規格K−7210(試験条件4)に従い、ポリ乳酸樹脂(A)は、190℃、荷重21.2Nで測定し、マレイミド樹脂(D)は、265℃、荷重98Nで測定した。
【0050】
(2.2)ガラス転移温度
DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製Pyrisl DSC)を用いて、0℃から300℃まで20℃/分で昇温し、次に0℃まで50℃/分で降温し、続いて0℃から300℃まで20℃/分で昇温した。2回目の昇温時に得られた曲線のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求めこれをガラス転移温度とした。
【0051】
(2.3)シャルピー衝撃強さ
得られたペレットを80℃×5時間真空乾燥したのち、東芝機械社製IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を50℃に調整しながら、ISO準拠の試験片を得た。そして、ISO規格179に従い、シャルピー衝撃強さを測定した。シャルピー衝撃強さは15kJ/m以上であることが好ましい。
【0052】
(2.4)ウェルド強度
得られたペレットを80℃×5時間真空乾燥したのち、東芝機械社製IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を50℃に調整しながら、両サイドにゲートがあり、中央部で両側から流れてきた樹脂が衝突し、ウェルドが形成されるような、ウェルドダンベル試験片を使用した。得られた試験片を用い、ASTM Dに準拠して引張強度を測定した。ウェルド強度は、実用上30MPa以上が望ましい。
【0053】
(2.5)曲げ強度
上記(2.3)シャルピー衝撃強さで作製した試験片と同様にして、タテ60mm、ヨコ10mm、高さ4mmの曲げ強度試験片を得た。そして、この試験片を使用して変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ強度を測定した。
【0054】
(2.6)耐湿熱性
上記(2.5)で得られた試験片を2本用意し、1本は上記(2.5)と同様の方法で曲げ強度を測定した(未処理の曲げ強度とする)。もう1本を60℃、95%RHの恒温恒湿条件にて500時間保存処理を行った後、上記(2.5)と同様の方法で曲げ強度を測定した(処理後の曲げ強度とする)。そして、以下の式により、曲げ強度保持率を算出した。耐湿熱性能が必要な場合、実用上、90%以上が好ましい。
曲げ強度保持率(%)=〔(処理後の曲げ強度)/(未処理の曲げ強度)〕×100
【0055】
(2.7)耐熱性
上記(2.5)で得られた試験片を用い、ISO規格75−1、2にしたがい、荷重0.45MPaで熱変形温度(DTUL)を測定した。実用上、80℃以上が好ましい。
【0056】
実施例1〜18、比較例1〜8
二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、マレイミド樹脂(D)、カルボジイミド化合物(E)を表1に示した種類と割合で押出機の根元供給口からトップフィードし、バレル温度200〜250℃、スクリュー回転数100〜250rpm、吐出15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水で満たしたバットを通過させて冷却固化した後、ペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。
実施例1〜18および比較例1〜8の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜18ではシャルピー衝撃強度、ウェルド強度、DTULともに良好な値であった。さらにカルボジイミド化合物を配合した実施例13〜18に関しては、耐湿熱性も優れていた。
【0059】
比較例1は、ポリ乳酸樹脂(A)の配合割合が多すぎるため、シャルピー衝撃強度、DTULが低かった。比較例2は、アクリル系樹脂(C)の配合割合が少なすぎるため、シャルピー衝撃強度、ウェルド強度が低く、比較例3は、アクリル系樹脂(C)の配合割合が多すぎるため、シャルピー衝撃強度が低かった。比較例4はマレイミド樹脂(D)の配合割合が少なすぎるため、DTULが低く、比較例5は、マレイミド樹脂(D)の配合割合が多すぎるため、シャルピー衝撃強度が低かった。比較例6〜8は、メルトフローレートが5g/10分より小さく、ガラス転移温度が190℃を超えるマレイミド樹脂を使用したため、シャルピー衝撃強度、DTULが低かった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、アクリル系樹脂(C)、およびマレイミド樹脂(D)を含有する樹脂組成物であって、樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の割合が25〜50質量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)の割合が20〜65質量%、アクリル系樹脂(C)の割合が0.5〜10質量%、マレイミド樹脂(D)の割合が5〜20質量%であり、前記マレイミド樹脂(D)のメルトフローレートが、265℃、98N荷重の条件で、5g/10分以上であり、前記マレイミド樹脂(D)のガラス転移温度が、190℃以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
さらにカルボジイミド化合物(E)を含有し、その含有量が、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化スチレン系樹脂(B)とアクリル系樹脂(C)とマレイミド樹脂(D)の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。



【公開番号】特開2013−95847(P2013−95847A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239849(P2011−239849)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】