説明

熱可塑性樹脂複合体

【課題】 例えばデッキ材のような外装建材に用いられる容器包装リサイクル材を主体とした熱可塑性樹脂複合体の線膨張係数をさらに改善し、寒暖差による熱可塑性樹脂複合体の成形体の変形を少なくする。
【解決手段】 熱可塑性樹脂複合体は、熱可塑性樹脂からなる容器包装リサイクル材と、ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーと、フライアッシュなどの無機材料とを溶融混練した複合体からなることを特徴とする。熱可塑性樹脂複合体は、さらに無水マレイン酸変性ポリエチレンなどの不飽和カルボン酸変性ポリエチレンを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器包装リサイクル材を主体とした熱可塑性樹脂複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自治体などが回収したプラスチックゴミは、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニルのような熱可塑性樹脂、無機物(金属類)を含む混合物であり、その有効な再利用法が望まれている。とりわけ、回収プラスチックゴミから得られかつポリエチレンテレフタレートを除いた容器包装リサイクル材を用いた複合材料の用途展開が求められている。
【0003】
例えばデッキ材のような外装建材の用途では、寒暖差による成形体の変形が課題であり、線膨張係数が小さいことが求められている。デッキ材であれば、隙間なく設置することが理想であるが、寒暖差による収縮を考慮して隙間を空けて設置したり、あるいは隙間が少なく熱膨張により伸びたデッキ材同士が接触し、浮き上がったり、反るなどの不具合が起こる場合がある。
【0004】
下記の特許文献1および2には、容器包装リサイクル材+フライアッシュ+マレイン酸変性ポリオレフィンによる複合材料およびその成型体、並びにデッキ材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−138137号公報
【特許文献2】特開2008−36910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、容器包装リサイクル材を主体とした熱可塑性樹脂複合体の線膨張係数をさらに改善し、寒暖差による熱可塑性樹脂複合体の成形体の変形を少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究を重ね、現在までに、容器包装リサイクル材+フライアッシュ+マレイン酸変性ポリオレフィンの構成で組成物及び成形体の特許出願を行ってきたが、容器包装リサイクル材の一部をブロックコポリマータイプのポリプロピレンで置き換えることにより、線膨張係数がさらに改善されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、熱可塑性樹脂からなる容器包装リサイクル材と、ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーと、無機材料とを溶融混練した複合体からなることを特徴とする、熱可塑性樹脂複合体である。
【0009】
請求項2に係る発明は、無機材料が、フライアッシュであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合体である。
【0010】
請求項3に係る発明は、無機材料が、熱可塑性樹脂複合体の総重量に対して40〜90重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂複合体である。
【0011】
請求項4に係る発明は、さらに、不飽和カルボン酸変性ポリエチレンを含むことを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂複合体である。
【0012】
請求項5に係る発明は、不飽和カルボン酸変性ポリエチレンが、無水マレイン酸変性ポリエチレンであることを特徴とする、請求項4に記載の熱可塑性樹脂複合体である。
【0013】
本発明において、容器包装リサイクル材とは、自治体などが回収したプラスチックゴミより得られ、ポリオレフィン樹脂のような熱可塑性樹脂を主成分とする混合物である。ただしPET樹脂を主成分とするリサイクル材を除く。回収プラスチックゴミは、分別、洗浄等の工程を経て、造粒やペレット化された後、成形工程へ送られる。分別工程において、PET、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、無機物(金属類)を極力取り除いて、ポリオレフィン樹脂を主成分とする混合物を得る。これを容器包装リサイクル材として用いる。通常は、プラスチックゴミを洗浄粉砕した後に水に浮くものを利用している。
【0014】
容器包装リサイクル材は、例えば、ポリエチレン50〜60重量%、ポリプロピレン30〜40重量%、ポリスチレン1〜5重量%により構成されていることが多い。
【0015】
容器包装リサイクル材の形状については特に限定されず、成形加工方法に応じた形状が選択されるが、押出成形においては押出量が安定化しやすいペレット形状であることが好ましい。
【0016】
請求項1に係る発明において用いられるポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーは、ポリプロピレンの重合時にポリエチレンを混ぜて、ポリプロピレンーポリエチレンをブロック化することにより得られるものであり、ポリプロピレンの強度を維持して、耐衝撃性能をポリエチレンの部分で補強している。
【0017】

本発明によれば、容器包装リサイクル材の一部をブロックコポリマーで置き換えることにより、線膨張係数がさらに改善するものであるが、この場合、想定されるメカニズムは、上記ポリエチレン部分が、容器包装リサイクル材のポリエチレンと相溶して容器包装リサイクル材のポリエチレンの線膨張係数を低下させているためと考えられる。よって、バージンホモポリプロピレンを代わりに添加しても、容器包装リサイクル材のポリプロピレン(ホモやブロックが混在)の線膨張係数は、なんら変化せず、バージンポリエチレンを入れても、同様に容器包装リサイクル材のポリエチレンの線膨張係数は変化しない。
【0018】
なお、容器包装リサイクル材は、低密度ポリエチレンの割合が多いために、線膨張係数が高いものと考えられる。
【0019】
請求項2に係る発明において無機材料として用いられるフライアッシュは、火力発電所等で大量に発生し、再資源化が十分に行われていないために価格が安く、また粉体が微細な球状であるため、樹脂に溶融混練した際に流動性が大きく、充填量を大きくすることができ、好適に使用される。
【0020】
フライアッシュの割合(重量)は、全材料中に好ましくは40〜90%、好ましくは75〜90%の範囲である、更に好ましくは82〜87%の範囲である。
【0021】
請求項4に係る発明において、熱可塑性樹脂複合体には、さらに不飽和カルボン酸変性ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0022】
不飽和カルボン酸変性ポリエチレンとしては、無水マレイン酸変性ポリエチレン(以下、MAPEと略記する)を用いる。
【0023】
前述のように、容器包装リサイクル材中のポリエチレン量が多いと、主として弾性率が不足する傾向にあり、このような場合にはMAPEが大きな効果を発揮する。このときの無水マレイン酸によるポリエチレン変性度は1%〜15%が好ましい。1%未満であれば、充分な界面補強効果が得られない恐れがあり、15%を超えると、コストに対して顕著な効果が得られない恐れがある。
【0024】
容器包装リサイクル材はポリプロピレンとポリエチレンの双方を含有していることから、MAPEを併用して添加すると、少量の添加で最大限の向上効果が得られる。
【0025】
本発明による熱可塑性樹脂複合体の配合量は、容器包装リサイクル材5〜50重量%、好ましくは5〜25重量%、ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマー1〜50重量%、好ましくは1〜25重量%、フライアッシュなどの無機材料40〜90重量%、好ましくは75〜90重量%、不飽和カルボン酸変性ポリエチレン1〜5重量%、好ましくは3〜4重量%である。
【0026】
ここで、容器包装リサイクル材の配合量が5重量%未満であれば、リサイクル材の使用比率が下がるため、コストメリットが少ない。容器包装リサイクル材の配合量が50重量%を超えると、例えば床材(デッキ材)として充分な線膨張係数を発現しない。
【0027】
また、ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーの配合量が1重量%未満であれば、線膨張係数の改善効果が充分に得られない。ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーの配合量が50重量%を超えると、リサイクル材の使用比率が下がるため、コストメリットが少ない。
【0028】
フライアッシュなどの無機材料の配合量が40重量%未満であれば、床材に必要な弾性率を発現しない。フライアッシュなどの無機材料の配合量が90重量%を超えると、成形品に巣が入りやすくなるので、好ましくない。
【0029】
不飽和カルボン酸変性ポリエチレンの配合量が1重量%未満であれば、充分な強度が得られない。不飽和カルボン酸変性ポリエチレンの配合量が5重量%を超えると、コストが高くなる。
【0030】
本発明による熱可塑性樹脂複合体の成形方法としては、一般的な射出成形や押出成形等を利用するとよい。材料としての容器包装リサイクル材の成分が不均質かつ一定でないため、容器包装リサイクル材と、ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーと、フライアッシュと、場合によっては、不飽和カルボン酸変性ポリエチレンとを溶融混練した後に再度、押出成形機や射出成形機を用いて成形してもよい。溶融混練機としては、熱可塑性樹脂を溶融しかつフライアッシュを混合した溶融混練物とする装置であれば特に限定されず、溶融した熱可塑性樹脂にフライアッシュが混合された溶融混練物を得る溶融混練機(例えば、商品名ラボプラストミル KF100、東洋精機株式会社製)を用いる方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、容器包装リサイクル材の一部をブロックコポリマーのポリプロピレンで置き換えることにより、熱可塑性樹脂複合体の線膨張係数がさらに改善され、寒暖差による熱可塑性樹脂複合体の成形体の変形を少なくすることができるという効果を奏する。
【0032】
このように、本発明は、容器包装リサイクル樹脂を扱うことで、コスト的におよび社会的に大きな意義を有する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例を挙げる。
【0034】
実施例1〜3
本発明の熱可塑性樹脂複合体の材料として、熱可塑性樹脂からなる容器包装リサイクル材(商品名PP−RTS−R8、大誠樹脂株式会社製)、ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマー(ブロックPP−PE:商品名J466HP、プライムポリプロ株式会社製)、フライアッシュ(商品名ファイナッシュ、四国電力株式会社製)、および無水マレイン酸変性ポリエチレン(商品名アドテックスDH0200、日本ポリエチレン株式会社製)を、下記の表1に示す実施例1〜3の3種類の配合割合(重量%)でそれぞれ配合し、各材料配合物の総量が50gとなるようにした。
【0035】
なお、実施例1では、容器包装リサイクル材の配合量を7重量%とし、PPーPEブロックコポリマーの配合量を6重量%としたのに対し、実施例2では、容器包装リサイクル材の配合量を3重量%およびPPーPEブロックコポリマーの配合量を10重量%とし、実施例3では、容器包装リサイクル材の配合量を11重量%およびPPーPEブロックコポリマーの配合量を2重量%とした。
【0036】
フライアッシュの配合量は、実施例1〜3では、それぞれ85重量%であるとした。無水マレイン酸変性ポリエチレンの配合量は、実施例1〜3においてそれぞれ同一の2重量%とした。
【0037】
ついで、実施例1〜3の各配合物を溶融混練機(商品名ラボプラストミル KF100、東洋精機株式会社製)を用いて、200℃で、3分間、30rpmで溶融混練した。
【0038】
得られた塊状の溶融混練物を冷却プレス装置を用いて冷却しつつ、50kg/cmの圧力で加圧して、200mm×200mmの正方形のプレート状熱可塑性樹脂複合体成形品を得た。
【0039】
比較例1〜3
比較のために、上記実施例1〜3の場合と同様にプレート状熱可塑性樹脂複合体成形品を製造するが、比較例1〜3では、いずれもポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーを添加しなかった。
【0040】
そして、比較例1では、容器包装リサイクル材の配合量を13重量%とした。また比較例2では、容器包装リサイクル材の配合量を7重量%とするが、これにホモポリプロピレン(ホモPP:商品名E200GP、プライムポリプロ株式会社製))を6重量%添加した。比較例3では、容器包装リサイクル材の配合量を7重量%とするが、これに高密度ポリエチレン(高密度PE:商品名B780、日本ポリエチレン株式会社製))を6重量%添加した。 フライアッシュの配合量は、比較例1〜3は、それぞれ85重量%である。無水マレイン酸変性ポリエチレンの配合量は、比較例1〜3においてそれぞれ同一の2重量%とした。
【0041】
性能評価試験
上記の実施例1〜3および比較例1〜3で得られた各プレート状熱可塑性樹脂複合体成形品より試験片を切り出し、それぞれ線膨張係数を測定した。ここで、線膨張係数は、JIS K 7197に基づいて測定し、得られた結果を、下記の表1にまとめて示した。
【表1】

【0042】
上記の表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜3で得られた熱可塑性樹脂複合体成形品によれば、比較例1〜3で得られた熱可塑性樹脂複合体成形品に比べて格段に線膨張係数が小さいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる容器包装リサイクル材と、ポリプロピレンーポリエチレンのブロックコポリマーと、無機材料とを溶融混練した複合体からなることを特徴とする、熱可塑性樹脂複合体。
【請求項2】
無機材料が、フライアッシュであることを特徴とする、請求項2に記載の熱可塑性樹脂複合体。
【請求項3】
無機材料が、熱可塑性樹脂複合体の総重量に対して40〜90重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂複合体。
【請求項4】
さらに、不飽和カルボン酸変性ポリエチレンを含むことを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂複合体。
【請求項5】
不飽和カルボン酸変性ポリエチレンが、無水マレイン酸変性ポリエチレンであることを特徴とする、請求項4に記載の熱可塑性樹脂複合体。

【公開番号】特開2011−195758(P2011−195758A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66372(P2010−66372)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】