説明

熱可塑性樹脂複合材料及びその製造方法

【課題】機械的強度に優れた黒鉛含有熱可塑性樹脂複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】グラフェンシートが層状に積層されている層状黒鉛と、界面活性剤とを含む黒鉛原料組成物を粉砕処理し、前記層状黒鉛を解枠して薄片化黒鉛とする粉砕処理工程と、前記粉砕処理工程後に、熱可塑性樹脂に前記粉砕処理された前記黒鉛原料組成物を溶融混練し、前記薄片化黒鉛を熱可塑性樹脂中に分散させる工程とを備える、熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂中に黒鉛が配合されている熱可塑性樹脂複合材料の製造方法に関し、より詳細には、高い機械的強度を有する熱可塑性樹脂複合材料からなる成形品を製造する方法及び該熱可塑性樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂成形品は、車両内装材や、電機製品の部品または日用品などに広く用いられている。熱可塑性樹脂成形品は、金属に比べて軽量であるが、機械的強度や耐熱性が低いという問題がある。そこで、従来、熱可塑性樹脂中に、ガラス繊維や無機粒子を分散させることにより、熱可塑性樹脂成形品の機械的強度を高める方法が広く用いられている。また、このようなガラス繊維や無機粒子を配合することにより耐熱性も高められている。
【0003】
近年、上記のような機械的強度や耐熱性を高める材料としてグラフェン構造を有する炭素系材料が注目されている。黒鉛は、多数のグラフェンシートが積層されている構造を有する。この黒鉛を解枠し、薄片化黒鉛とし、該薄片化黒鉛を熱可塑性樹脂に分散させる方法が種々提案されている。解枠とは、黒鉛を、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体とする処理をいう。この薄片化黒鉛を熱可塑性樹脂に分散させることにより、熱可塑性樹脂複合材料の物性を高めることができる。このような黒鉛などの炭素系材料を熱可塑性樹脂に分散させてなるオレフィン系導電性樹脂組成物が下記の特許文献1に開示されている。特許文献1に記載のオレフィン系導電性樹脂組成物の製造方法では、熱可塑性樹脂に鱗片状の黒鉛を配合し、溶融混練することにより、オレフィン系導電性樹脂組成物が得られている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、熱可塑性樹脂とグラファイトとを含む組成物を溶融混練し、射出成形する方法が開示されている。さらに、下記の特許文献3ではポリプロピレン樹脂にフレーク状の充填剤と共に鱗片状のグラファイトを配合し、押出成形用樹脂材料の成形性を改善する方法が開示されている。
【0005】
他方、下記の特許文献4には、ベンゼン環を有する熱可塑性樹脂と、グラファイトとを有する熱可塑性樹脂組成物を溶融混練し、成形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3384151号
【特許文献2】特開2003−73557号公報
【特許文献3】特開2001−105467号公報
【特許文献4】特開2007−16093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載のように、溶融混練法により熱可塑性樹脂に黒鉛などの炭素系材料を配合する方法では、配合される炭素系材料の粒径を予め調整しておく必要があった。しかしながら、このような方法では、溶融混練時に炭素系材料が再凝集するおそれがあった。そのため、得られた熱可塑性樹脂成形品中に、微細な黒鉛を均一に分散させることができなかった。従って、微細な黒鉛を均一に分散させてなる、機械的強度に優れた成形品を提供することができなかった。
【0008】
他方、特許文献4に記載のように、ベンゼン環を有する熱可塑性樹脂を用いた場合、熱可塑性樹脂と層状黒鉛との親和性が高められる。しかしながら、ベンゼン環を有する熱可塑性樹脂は、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、または芳香族ポリアミドのようなエンプラもしくはスーパーエンプラと称されている樹脂である。従って、耐熱性や機械的強度を高めることができるものの、融点が高い。従って、成形性が低いという問題があった。加えて、このような熱可塑性樹脂は、ポリオレフィンなどの汎用プラスチック材料に比べてコストが高いという問題もあった。
【0009】
本発明の目的は、微細な黒鉛を熱可塑性樹脂中に均一に分散させ、それによって、強度及び耐熱性に優れた熱可塑性樹脂成形品を安価にかつ容易な成形方法により提供することを可能とする熱可塑性樹脂複合材料の製造方法及び該熱可塑性樹脂複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料の製造方法は、グラフェンシートが層状に積層されている層状黒鉛と、界面活性剤とを含む黒鉛原料組成物を粉砕処理し、前記層状黒鉛を解枠して薄片化黒鉛とする粉砕処理工程と、前記粉砕処理工程後に、熱可塑性樹脂に前記粉砕処理された前記黒鉛原料組成物を溶融混練し、前記薄片化黒鉛を熱可塑性樹脂中に分散させる工程とを備える、熱可塑性樹脂複合材料の製造方法である。
【0011】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料のある特定の局面では、上記界面活性剤が、上記層状黒鉛及び上記熱可塑性樹脂の双方に対して親和性を有する界面活性剤である。ここで、親和性とは、マトリクス樹脂の構造であるアルキル基と、ベンゼン環やポリエンのようにπ結合を有する構造を併せ持つもの、あるいは、黒鉛表面に炭素以外の元素例えば酸素、ケイ素、窒素など分極しやすい元素を有する場合にはカルボキシル基のように分極しやすい官能基とアルキル基を併せ持つもの、などにより、類似構造に由来する化学的親和性を有するものをいうものとする。
【0012】
上記界面活性剤として、好ましくは、フェニル基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を有する。この場合には、界面活性剤が層状黒鉛と親和性を有するため、上記粉砕処理工程において層状黒鉛を容易にかつ確実に解枠することができる。
【0013】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料の製造方法では、上記熱可塑性樹脂として、好ましくはポリオレフィンが用いられる。ポリオレフィンは、融点が比較的低く成形性が高く、かつ汎用のプラスチック材料であるため熱可塑性樹脂複合材料のコストを低減することができる。
【0014】
上記熱可塑性樹脂がポリオレフィンである場合、上記界面活性剤として、好ましくは、炭化水素基または炭化水素誘導体基を官能基として有する界面活性剤を用いることが好ましい。それによって、熱可塑性樹脂であるポリオレフィンと、黒鉛との密着性を高めることができる。
【0015】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、全黒鉛原料組成物中の層状黒鉛の配合割合が0.1〜40重量部であり、前記界面活性剤の配合割合が0.01〜40重量部の範囲である。この場合には、適切な量の薄片化黒鉛が熱可塑性樹脂に分散された熱可塑性樹脂複合材料からなる成形品を確実に提供することが可能となる。
【0016】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料は、熱可塑性樹脂と、薄片化黒鉛と、界面活性剤とを含み、上記薄片化黒鉛の平均粒径が13.5μm以下の範囲にある。
【0017】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料のある特定の局面では、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、薄片化黒鉛が0.1〜40重量部、界面活性剤が0.01〜40重量部の割合で配合されている。そのため、機械的強度においてより一層優れた熱可塑性樹脂複合材料からなる成形品を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料の製造方法によれば、層状黒鉛と界面活性剤とを配合して層状黒鉛の解枠処理を施すため、層状黒鉛が確実に解枠され、薄片化黒鉛とされる。そして、上記解枠を行う粉砕処理工程後に、熱可塑性樹脂に上記粉砕処理工程後の黒鉛原料組成物を溶融混練するため、溶融混練時に界面活性剤の存在により薄片化黒鉛が再凝集し難い。従って、薄片化黒鉛が均一に分散されており、高い機械的強度を有する熱可塑性樹脂複合材料を提供することが可能となる。
【0019】
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料では、熱可塑性樹脂中に、上記薄片化黒鉛及び界面活性剤が分散されているため、溶融混練時に薄片化黒鉛の再凝集が生じ難い。従って、薄片化黒鉛が均一に分散されており、従って機械的強度の高い成形品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
本発明においては、まず、層状黒鉛と、界面活性剤とを含む黒鉛原料組成物を用意する。
【0022】
上記層状黒鉛としては、多数のグラフェンシートが積層されている構造を有する通常の黒鉛が用いられる。このような層状黒鉛としては、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノコーンなどを挙げることができる。また、用いる層状黒鉛は、表面に結合している不純物が極めて少ないものであっても良く、酸素などの不純物が結合しているものであってもよい。
【0023】
また、本発明において用いる界面活性剤は、黒鉛を構成しているグラフェンシートと熱可塑性樹脂との界面における密着性を高めるように作用する限り、特に限定されるものではない。好ましくは、層状黒鉛に対する親和性に優れた界面活性剤を用いることが望ましい。ここで、親和性とは、層状黒鉛を構成しているグラフェンシートに対する吸着性あるいは結合力が高いことを意味する。このような層状黒鉛との親和性に優れた界面活性剤としては、官能基としてフェニル基を有するもの、層状黒鉛表面に存在する酸素や窒素などの不純物に結合し得るカルボキシル基、水酸基及びアミノ基などを有するものが望ましい。すなわち、本発明では、好ましくは、官能基としてフェニル基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基の少なくとも1種の官能基を有する界面活性剤を用いることが好ましい。
【0024】
上記界面活性剤の具体的な例としては、脂肪酸金属類、カルボン酸をグラフトにより付加してなるオレフィン、アルキル基とアミノ基とを両有する脂肪酸アミド、フェニル基とアルキル基とを有するポリフェノール類、ポリスチレン、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体)、SIBS(スチレン・イソブチレンブロック共重合体)などの様々な界面活性剤を用いることができる。
【0025】
上記界面活性剤の構成要素としての脂肪酸としては、オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸、ラウリン酸等を挙げることができる。また、上記脂肪酸金属における金属としては、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛等を挙げることができる。上記オレフィンに付加されるカルボン酸としては、マレイン酸または無水マレイン酸などを挙げることができる。上記オレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等が挙げられる。
【0026】
上記層状黒鉛の大きさについては特に限定されないが、平均粒径で、1μm〜1mm程度のものを用いることができる。このような平均粒径の層状黒鉛は容易に入手することができる。
【0027】
上記薄片化黒鉛は、層状黒鉛を解枠することにより得られ、その平均粒径は0.5μm〜13.5μmの範囲である。薄片化黒鉛の平均粒径が13.5μm以下である場合、微細な薄片化黒鉛が熱可塑性樹脂中に均一に分散することになり、本発明に従って機械的強度に優れた成形品を得ることができる。なお、上記薄片化黒鉛の平均粒径の好ましい下限は特に存在しない。すなわち、薄片化黒鉛の平均粒径が小さいほど、微細な薄片化黒鉛を均一に分散させることができる。
【0028】
なお、「平均粒径」とは、粒度分布計により測定された値である。もっとも、層状黒鉛を解枠して得られた薄片化黒鉛では、グラフェンシートの面方向寸法のグラフェンシートが積層されている厚み方向寸法すなわち積層方向寸法であるアスペクト比がかなり大きい。すなわち、大きなアスペクト比を有するため、上記平均粒径とは、粒度分布計により測定された面方向の寸法をいうものとする。
【0029】
ここで使用した粒度分布計は、微粒子を溶媒中に分散し、所定の流量でカラムを通過させ、流動方向に対して直角方向からレーザー光を照射し、その反対側からレーザー光を受けることで、レーザー光が遮断された時間を測定することで、通過する微粒子の長さを測定する原理で動作する。微粒子を含む溶媒が狭隘なカラムを通過する場合には、最も流動抵抗の小さい方向で流れる形態が最も安定すると考えられる。これが層流の場合、かつ本発明で取り扱っている微粒子のように構成単位が平坦な形状の場合は、流れの向きに対して最も投影面積の小さい形態が安定すると考えられることから、このような原理の粒度分布計を使用する場合は面の長さを測定していることになる。
【0030】
但し、上記のような原理から肉厚方向の寸法は粒度分布計では測定できないので、電子顕微鏡による測定など他の測定方法を併用して評価する必要がある。
【0031】
また、上記界面活性剤としては、熱可塑性樹脂との親和性に優れた界面活性剤が望ましい。例えば、熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いる場合、アルキル基やエチレンオキサイド基のような炭化水素基もしくは炭化水素誘導体基を官能基として有する界面活性剤が好ましい。
【0032】
さらに好ましくは、上記界面活性剤は、上記層状黒鉛及び熱可塑性樹脂の双方に対して親和性を有するものを用いることが望ましい。従って、上記フェニル基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の官能基と、炭化水素基や炭化水素誘導体基の少なくとも1種の双方を官能基として有する界面活性剤が望ましい。
【0033】
本発明の製造方法では、上記のような層状黒鉛と、上記界面活性剤とを配合し、粉砕処理し、層状黒鉛を解枠する。なお、解枠とは、上述したように、粉砕処理により、層状黒鉛を、元の層状黒鉛よりもグラフェンシートの積層数が少ない薄片化黒鉛とする処理をいうものとする。
【0034】
粉砕処理は、従来より適宜の粉砕方法により行うことができる。例えば、ボールミルもしくはビーズミルを用いた混練方法や、ジェットミルを用いた方法などを挙げることができる。さらには、溶媒に層状黒鉛及び界面活性剤を分散させた後、超音波を照射することにより上記粉砕処理を行ってもよい。
【0035】
なお、上記粉砕処理に際しては、溶媒を用いた湿式法を用いてもよく、溶媒を用いない乾式法を用いてもよい。湿式法では、解枠により生じた薄片化黒鉛の再凝集が生じるおそれがあるが、本発明では、上記界面活性剤が配合されていることにより、薄片化黒鉛の再凝集を抑制することができる。
【0036】
(溶融混練工程)
本発明の製造方法では、上記粉砕処理工程後に溶融混練工程を実施する。上記のように、粉砕処理工程において、黒鉛原料組成物中の層状黒鉛が薄片化黒鉛とされている。溶融混練工程では、層状黒鉛が解枠されて薄片化黒鉛とされている上記黒鉛原料組成物を熱可塑性樹脂と共に溶融混練する。溶融混練方法は特に限定されるものではない。すなわち、周知の溶融混練装置を用いることができる。
【0037】
上記熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等をあげることができる。もっとも、好ましくは、上記熱可塑性樹脂として、ポリオレフィンを用いる。ポリオレフィンは、比較的低い温度で成形することができる。また、ポリオレフィンは汎用のプラスチック材料であるため、熱可塑性樹脂複合材料のコストを低減することができる。
【0038】
もっとも、本発明では、層状黒鉛が解枠とは、解枠により薄片化黒鉛とされており、分散性に優れているため、熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテルや芳香族ポリアミドのようなエンプラもしくはスーパーエンプラと称されている熱可塑性樹脂を用いることもできる。その場合においても、層状黒鉛が薄片化黒鉛とされているため、容易に成形することができる。
【0039】
上記熱可塑性樹脂と上記薄片化黒鉛すなわち原料中の層状黒鉛との配合割合については、好ましくは、熱可塑性樹脂100重量部に対し、層状黒鉛は0.1〜40重量部の範囲である。層状黒鉛の使用量が0.1重量部未満では、熱可塑性樹脂複合材料からなる成形品の機械的強度を充分に高めることができないことがあり、40重量部を超えると、成形性が低下するおそれがある。上記界面活性剤の配合割合を、熱可塑性樹脂100重量部に対し0.1〜40重量部の割合とすることにより、解枠後の薄片化黒鉛の再凝集を充分に抑制でき、かつ熱可塑性樹脂に薄片化黒鉛を容易にかつ均一に分散させることができる。
【0040】
溶融混練に際しての加熱温度については、用いる熱可塑性樹脂の融点以上の温度であればよく、特に限定されるものではない。なお、融点とは、熱可塑性樹脂が高分子であるため、例えばDSCによる融解熱の測定により得られる融解熱のピーク時の温度である。
【0041】
本発明の製造方法では、上記界面活性剤が配合されているため、溶融混練時に、薄片化黒鉛の再凝集が各確実に抑制される。従って、溶融混練後の熱可塑性樹脂複合材料中に、薄片化黒鉛を均一かつ微細に分散させることができる。従って、溶融混練された熱可塑性樹脂複合材料を成形することにより、機械的強度に優れた成形品を得ることができる。
【0042】
なお、上記成形方法は特に限定されず、溶融押出成形、熱成形等の適宜の成形方法を用いることができる。
【0043】
(成形品)
本発明に係る熱可塑性樹脂複合材料の製造方法では、上記のように、薄片化黒鉛を熱可塑性樹脂と溶融混練した後、成形することにより成形品を得ることができる。成形方法は特に限定されず、射出成形や押出成形を用いることができる。このような成形品は、車両用内装材、電子機器の部品など様々な用途に広く用いることができる。特に、薄片化黒鉛が熱可塑性樹脂中に均一かつ微細に分散されているため、前述したように、高い機械的強度及び高い耐熱性を発現する。
【0044】
(実施例及び比較例)
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げることにより、本発明の効果を明らかにする。
【0045】
(実施例1)
平均粒径60〜70μmの層状黒鉛を用意した。この層状黒鉛を電子顕微鏡観察により3,000倍に拡大して観察したところ、多数のグラフェンシートが積層しており、かつ複数の層状黒鉛が凝集していることが認められた。上記層状黒鉛20重量部と、界面活性剤としてポリビニルフェノール(積水化学工業(株)製アレルバスター(R))1重量部とを配合し、ビーズミルを用い、粉砕処理により、層状黒鉛を解枠した。粉砕処理に際しては、遊星型ボールミルを用い、直径500μmのジルコ二ア球を粉砕メディアとして用い、100rpmの公転速度で100分間層状黒鉛と界面活性剤とを混練することにより行った。粉砕処理後、ボールミルから解枠された層状黒鉛と界面活性剤とを含む黒鉛原料組成物を取り出した。
【0046】
上記黒鉛原料組成物は、解枠された層状黒鉛すなわち薄片化黒鉛と、界面活性剤との混合粒子からなる。上記粉砕処理後の黒鉛原料組成物を熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン100重量部と共に、ラボプラストミルを用い180℃、60rpmで10分間混練した。得られた混練物を、加熱プレス(神藤金属社製)を用い、190℃、10MPaの圧力下で、2分間加圧し、しかる後30℃の温度で2分間冷却し、170×170×厚み0.5mmのシートを成形した。このシートから75mm×6mm×厚み0.5mmの短冊形のサンプルを打ち抜き、該サンプルを引張試験片とした。
【0047】
万能試験機を用い、10kNのロードセルを用いて5mm/分のクロスヘッド速度で引張試験を行った。このようにして引張弾性率(単位はMPa)を求めた。複数のサンプルにより引張弾性率を求め、その標準偏差を求めた。結果を下記の表1に示す。
【0048】
(実施例2及び3)
用いた界面活性剤を、実施例2では、ステアリン酸マグネシウムに変更したこと、実施例3ではポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王(株)社製エマルゲンA60)に変更したこと、並びに配合割合を1重量部から0.2重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてシートを成形し、かつサンプルを切り出した。また、実施例1と同様にして引張弾性率を測定した。
【0049】
(比較例1,2)
比較例1及び2では、粉砕処理に際し界面活性剤を添加せず、溶融混練時に熱可塑性樹脂としてのポリプロピレンと共に、界面活性剤を添加したこと、界面活性剤として比較例1ではマレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成(株)社製ユーメックス1010)を、比較例2ではスチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)(クラレ(株)社製セプトン2104)3重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを成形し、評価した。
【0050】
(比較例3)
界面活性剤を用いなかったことを除いては、実施例1と同様にしてシートを成形し、評価した。
【0051】
(比較例4)
実施例1で用意した層状黒鉛を粉砕処理しなかったこと、界面活性剤を用いなかったことを除いては、実施例1と同様にしてシートを成形し、評価した。
【0052】
また、実施例1〜3及び比較例1〜4において、粉砕処理後の黒鉛の平均粒径を測定した結果を下記の表1に併せて示す。この黒鉛の粒径の評価には、粒度分布計(インターナショナルビジネス社製、品番アキュサイザーA780)を用いた。
【0053】
上記各評価結果を、下記の表1にあわせて示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から明らかなように、粉砕処理すなわち解枠処理をしていない比較例4に比べ、実施例1〜3及び比較例1〜3では、層状黒鉛の平均粒径が小さくなっていることがわかる。特に、実施例1〜3では、界面活性剤を添加して粉砕処理を行い、層状黒鉛を解枠したため、解枠後の層状黒鉛の平均粒径が非常に小さく、従って薄片化黒鉛となっていることがわかる。なお、実施例1〜3においても、他の層状黒鉛に比べて、解枠により層状黒鉛の平均粒径か小さくなっているが、再凝集したためか、実施例1〜3に比べて、平均粒径は大きくなっている。また、比較例3では、比較例4に比べて、引張弾性率が高くなっている。すなわち、層状黒鉛の解枠により引張弾性率が高められていることがわかる。
【0056】
また、比較例1と比較例3とを対比すれば、マレイン酸変性ポリプロピレンを界面活性剤として添加した比較例1によれば、引張弾性率が比較例3に比べて高められていることがわかる。
【0057】
さらに、界面活性剤の存在下で解枠した実施例1〜3では、上記のように黒鉛の平均粒径が著しく小さくなっており、それによって引張弾性率が高められていることがわかる。
【0058】
すなわち、実施例1と比較例1とを対比すれば、界面活性剤は異なるが、界面活性剤の量が同じであるが、引張弾性率が実施例1の方が高くなっている。また、実施例2では、界面活性剤の量が0.2重量部と非常に少ないにも関わらず、高い引張弾性率を占めしている。
【0059】
なお、実施例3において、引張弾性率が比較例1よりも低くなっているのは、界面活性剤の配合割合が0.2重量部と少ないことによると考えられる。
【0060】
比較例1,2では、層状黒鉛を単独で粉砕処理した後に、溶融混練時に界面活性剤を添加しているが、比較例2では、両末端にスチレン基、主骨格にエチレン−プロピレン構造を有する界面活性剤を用いているものであり、界面活性剤が層状黒鉛及びポリプロピレンとの親和性は高い。しかしながら、エチレン−プロピレン骨格は柔軟であり、従って、比較例2では引張弾性率が低くなっている。
【0061】
従って、以上の結果から、解枠により層状黒鉛の平均粒径が小さくなるほど、すなわち解枠により形成される薄片化黒鉛の粒径が小さくなるほど、引張弾性率を高め得ることがわかる。
【0062】
また、界面活性剤の存在により、粉砕処理して得られた黒鉛原料組成物中における解枠処理後の層状黒鉛の凝集を防止することができることもわかる。
【0063】
実施例1〜3で用いた各界面活性剤は、層状黒鉛及びポリプロピレンの双方に親和性を有するので、解枠後の薄片化黒鉛とポリプロピレンに対する密着性に優れ、従って、それによっても引張弾性率が高められていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンシートが層状に積層されている層状黒鉛と、界面活性剤とを含む黒鉛原料組成物を粉砕処理し、前記層状黒鉛を解枠して薄片化黒鉛とする粉砕処理工程と、
前記粉砕処理工程後に、熱可塑性樹脂に前記粉砕処理された前記黒鉛原料組成物を溶融混練し、前記薄片化黒鉛を熱可塑性樹脂中に分散させる工程とを備える、熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が、前記層状黒鉛及び前記熱可塑性樹脂の双方に親和性を有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、官能基として、フェニル基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を有する請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記界面活性剤が、官能基として、炭化水素基及び炭化水素誘導体基の少なくとも1方を含む請求項4に記載の熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、全黒鉛原料組成物中の層状黒鉛の配合割合が0.1〜40重量部であり、前記界面活性剤の配合割合が0.01〜40重量部の範囲である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記溶融混練工程の後に、溶融混練された熱可塑性樹脂複合材料を成形する成形工程をさらに備える、熱可塑性樹脂複合材料の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂中に分散されており、層状黒鉛を解枠処理することにより得られた薄片化黒鉛と、界面活性剤とを含み、前記薄片化黒鉛の平均粒径が13.5μm以下である、熱可塑性樹脂複合材料。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、前記薄片化黒鉛が0.1〜40重量部、前記界面活性剤が0.1〜40重量部の割合で配合されている、請求項8に記載の熱可塑性樹脂複合材料。

【公開番号】特開2012−62452(P2012−62452A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210260(P2010−210260)
【出願日】平成22年9月18日(2010.9.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】