説明

熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法

【課題】非金属製の材料を主として用いてなるコイルであり、複雑な製造工程を経ることなく安価でかつ容易に成型が可能であり、コイル線の太さ、コイル形状、大きさなどに柔軟に対応可能なコイルを提供することにある。
【解決手段】繊維を複数本集束してなる繊維集束体を用い、該繊維集束体が低融点重合体と高融点重合体によって構成されており、該繊維集束体を所定の螺旋形状となるように巻いた後、該繊維集束体を構成している低融点重合体が溶融し、かつ高融点重合体が溶融しない温度で熱処理を施した後、冷却することを特徴とする熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性重合体からなるコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルは衝撃吸収、エネルギー蓄積、荷重調節、荷重検出、防振などの目的で、自動車、寝具、計器、筆記具、ポンプディスペンサーをはじめ、様々な器具・装置の部材として使用されている。コイルの素材としては、ステンレス鋼材、ばね鋼材、ピアノ線材、洋白線材などの金属からなるものと、合成樹脂、FRPおよび合成繊維などの非金属材料からなるものがある。
【0003】
一般的に金属製コイルは合成樹脂より材料の弾性係数が高く、合成樹脂に比べて断面積の小さい部材であっても機械的物性を発揮できる。また温度などの動作環境に対しても物性が比較的安定しているため、応用範囲が広い。しかし、薬品により腐食されやすく、錆びが生じやすいなどの耐久性に劣ることや、着色できないという問題があったまた、樹脂製品中の部材として用いられる場合、分別回収し難いという欠点があった。さらに軽量化の要望もあり、非金属製コイルの開発が進められている。
【0004】
合成樹脂は、金属と比較して耐熱性および機械的物性には劣るが、軽い、耐摩耗性、耐薬品などの耐久性に優れており、他素材との複合化、一体成型が容易、電気絶縁性が高いなどの特徴を有している。また、着色も容易に行え、特殊形状の成形が容易に行える。さらには、樹脂製品中の部材として用いられる場合、分別回収しやすいという利点がある。
【0005】
このような合成樹脂性のコイルとしては、特許文献1には、合成樹脂性のコイルが提案されている。合成樹脂製品中に組み込まれた金属製コイルを分別することは不可能に近いが、合成樹脂成形した合成樹脂製コイルにすることによってこの問題を解決している。また、複数本を螺旋中螺旋の状態に組み合わせ、かつ、一体成形することで、所要の十分な弾力を確保するものである。
【0006】
また、特許文献2には、機械的特性を有する炭素繊維を強化材とした炭素繊維強化樹脂を使用したコイルスプリングが提案されている。樹脂製コイルに比べて機械的物性に優れるものである。
【0007】
これらの合成樹脂製コイルの製法には、一体成形法、賦形軸に樹脂線状体を巻き付けた状態で加熱する方法、および加熱した賦形軸に樹脂線状体を巻き付ける方法が知られている。一体成形法では、成形金型の作成に莫大な費用を要するばかりか、得られる成形物の強度が劣るという問題があった。また、上賦形軸に樹脂線状体を巻き付けた状態で加熱する方法、および加熱した賦形軸に樹脂線状体を巻き付ける方法では、スパイラル状の溝を有する賦形軸を用いるため、線径やコイルピッチの変更への対応が困難であり、しかも特に上賦形軸に樹脂線状体を巻き付けた状態で加熱する方法では、連続的な製造プロセスを採用できないばかりか、これらの方法では樹脂線状体への熱履歴にムラを生じ易いため、寸法安定性および形状安定性が均一な成形物を得ることが困難であるという問題があった。
【0008】
特許文献3では、寸法安定性と形状安定性の良好な合成樹脂製コイルを製造する方法として、合成樹脂モノフィラメントを緊張状態で進行させ、モノフィラメント素材のガラス転移温度以上、融点以下の温度に予熱した後、直ちに回転する賦形軸に巻き取り、次いで巻き取られたモノフィラメントを急冷する方法が提案されている。しかし、この方法では、使用するモノフィラメントの直径に限界があり、また、その他性能を付与するための多素材との複合化が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−73138号
【特許文献2】特開平07−42778号
【特許文献3】特開平11−254520号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、非金属製の材料を主として用いてなるコイルであり、複雑な製造工程を経ることなく安価でかつ容易に成型が可能であり、コイル線の太さ、コイル形状、大きさなどに柔軟に対応可能なコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を達成するものであり、その要旨は、繊維を複数本集束してなる繊維集束体を用い、該繊維集束体が低融点重合体と高融点重合体によって構成されており、該繊維集束体を所定の螺旋形状となるように巻いた後、該繊維集束体を構成している低融点重合体が溶融し、かつ高融点重合体が溶融しない温度で熱処理を施した後、冷却することを特徴とする熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法にある。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明では、まず、複数本の繊維が集束してなる繊維集束体を用意する。本発明は、熱可塑性重合体を主たる材料としてコイルを得るものであるため、繊維集束体を構成する繊維は、熱可塑性重合体によって構成される合成繊維を用いる。合成繊維は、繊度や力学特性を調整しやすいことからも好ましく用いることができる。合成繊維としては、ポリアミド系、芳香族系ポリエステル系、脂肪族系ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系等の合成繊維が挙げられる。ポリアミド系の合成繊維は耐摩耗性に優れることから好ましい。また、ポリエステル系の合成繊維は、寸法安定性に優れることから好ましい。また、コイルの用途において、使用後に自然界で分解することを要求される用途に用いるのであれば、生分解性を有する脂肪族系ポリエステル系の合成繊維を用いることが好ましい。ポリオレフィン系の合成繊維は、比重が小さいため、軽量化に優れることから、軽量化が要される用途等に、好ましく用いられる。また、用途や目的に応じて、これらの合成繊維を複数種選択して任意に組み合わせて、繊維集束体としてもよい。また、本発明は、熱可塑性重合体を主たる材料としてコイルを得るが、コイルの用途や目的に応じて、熱可塑性重合体以外の繊維を繊維集束体中に含ませることもできる。合成繊維以外の繊維としては、天然繊維、再生繊維又は半合成繊維を等が挙げられる。また、金属線や金属繊維、ガラス繊維を含ませてもよい。
【0014】
複数本の繊維が集束してなる繊維集束体とは、繊維が集束してなるものであればよく、複数本の繊維を引き揃えた糸、複数本の繊維を撚り合わせた撚糸、紡績糸、引き揃えた糸や撚糸等を合わせた合撚糸、また、これらの糸を用いて製紐した組紐、あるいは、合撚により得られたロープ等が挙げられる。繊維集束体の太さ(線径)は、所望とするコイルの大きさ等に応じて適宜選択すればよい。本発明において、複数本の繊維が集束してなる繊維集束体を用いる理由は、繊維が単に集束してなるものを用いることにより、繊維間に融通性があり、非常に柔軟であることから、多様な形状に対応できることにある。したがって、本発明によれば、繊維集束体自体の太さが大きくとも、柔軟性があるため、様々な巻き径の大きさや巻きのピッチに応じて巻き付けることが可能となり、様々な形態のコイルを容易に得ることが可能となる。
【0015】
繊維集束体は、低融点重合体と高融点重合体によって構成される。低融点重合体は、後に熱処理されることにより、溶融固化し、繊維相互間を固着一体化させ、所定の螺旋形状を保持する役割を担い、高融点重合体は、熱処理により溶融せずに繊維形態を維持して、コイルの機械的特性を担うこととなる。このとき、繊維集束体が、低融点重合体のみから形成されるものであると、熱処理の際に、低融点重合体が溶融流動してしまい、所定の螺旋形状を得ることができなくなる。低融点重合体と高融点重合体との混合比率は、10/90〜70/30程度がよい。
【0016】
本発明においては、低融点重合体と高融点重合体とが複合されてなる複合繊維であって低融点重合体が少なくとも繊維表面に配されてなる繊維を、繊維集合体を構成する繊維として含有させることにより、繊維集合体を低融点重合体と高融点重合体によって形成させることができる。該複合繊維は、低融点重合体が溶融することにより熱バインダーとして機能することから、複合バインダー繊維ともいう。このような複合バインダー繊維は、熱処理によって、低融点重合体のみが溶融し、繊維集束体を構成している繊維相互間を固着一体化させて、繊維集束体が剛直線条体となる。繊維集束体には、該複合バインダーのみから繊維集束体を構成させてもよいし、また、他の繊維を含有させてもよい。なお、含有させる他の繊維は、熱処理によって溶融せずに繊維形態を維持している繊維を用いるとよい。複合バインダー繊維としては、低融点重合体が鞘部を形成し、高融点重合体が芯部を形成する芯鞘型複合繊維を用いることが好ましい。
【0017】
また、本発明においては、低融点重合体のみによって構成されるバインダー繊維と高融点重合体のみによって構成される高融点繊維とを、繊維集束体を構成する繊維をして含有させることにより、繊維集合体を低融点重合体と高融点重合体によって形成させることができる。バインダー繊維は、低融点重合体のみによって構成されるため、熱処理によって溶融し、繊維形態を維持している高融点繊維同士の繊維相互間を固着一体化させて、繊維集束体が剛直線条体となる。繊維集合体には、前記したバインダー繊維と高融点繊維以外に、他の繊維を含有させてもよい。なお、含有させる他の繊維は、熱処理によって溶融せずに繊維形態を維持している他の高融点繊維であっても、また、前記した複合バインダー繊維であってもよく、目的等に応じて適宜選択すればよい。
【0018】
また、本発明においては、繊維集束体の断面において、バインダー繊維を含む層とバインダー繊維を含まない層とを二層構造となるように配置した二層構造の繊維集束体を用いることもできる。このとき、(1)バインダー繊維を含む層を繊維集束体の芯の層に配置し、バインダー繊維を含まない層を繊維集束体の表面層(鞘の層)に配置するもの、あるいは、(2)バインダー繊維を含む層を繊維集束体の表面層(鞘の層)に配置し、バインダー繊維を含まない層を繊維集束体の芯の層に配置するものが挙げられる。
【0019】
前記(1)の態様では、上記した二層構造の繊維集束体は、繊維集束体の表面にバインダー繊維が露出していない。すなわち、繊維集束体の横断面において、最外層は、熱処理により熱の影響を受けない高融点繊維のみが配置し、バインダー繊維は含まれていない。これにより、熱処理によって溶融する低融点成分が繊維集束体表面に溶融露出することはないため、螺旋形状に成型するための金属軸等の成型の型に溶融接着することなく、熱処理〜冷却後に容易に脱型することができる。また、例えばコイルピッチが小さいコイルの場合等、隣り合うピッチ間におけるコイル同士が、熱処理時に溶融接着することを防ぐこともできる。また、熱処理により得られたコイルにおいて、コイルを構成する線条体の表面は、熱処理による影響を受けずに繊維の風合いを保持しているため、柔らかな風合いを有し、繊維調の温かみのある外観を呈するため、意匠的にも優れたものとなる。
【0020】
一方、前記(2)の態様では、前記した二層構造の繊維集束体は、繊維集束体の表面にバインダー繊維が露出している。熱処理により得られたコイルにおけるコイルを構成する線条体の表面部分は、バインダー繊維のみから構成されるので、繊維集束体全てをバインダー繊維のみによって構成されるものを同様の表面形態となる。したがって、得られるコイルの線条体の表面が同様の形態を呈し、またコイル性能も同等程度のものとなることから、繊維集束体におけるバインダー繊維の比率を減らせることによりコスト的に有利である。さらには、(2)の態様の二層構造の繊維集束体であって、バインダー繊維として、芯鞘型複合バインダー繊維が用いられる場合は、バネ係数等のコイル性能が向上する傾向にある。
【0021】
このような二層構造のものとして、具体的には、エア加工糸、混紡糸、カバリング撚糸などが挙げられる。前記(1)の態様では、これらの糸の糸断面の芯の層に、バインダー繊維や複合バインダー繊維のみを配置させ、あるいはバインダー繊維や複合バインダー繊維と高融点繊維とを配置させ、鞘の層には、バインダー繊維や複合バインダー繊維は含ませずに高融点繊維のみを配置させる。(2)の態様では、その配置が逆になる。
また、別の具体例としては、組紐やロープが挙げられる。前記(1)の態様では、組紐においては、少なくともバインダー繊維あるいは複合バインダー繊維を含むマルチフィラメント糸、もしくは該マルチフィラメント糸を複数本引き揃えあるいは合燃したもの、あるいは該マルチフィラメント糸を用いて作成した組紐等を芯材(芯の層)として用い、その外層(鞘の層)にバインダー繊維および複合バインダー繊維を含まず高融点繊維のみから構成されるマルチフィラメント糸を用いて組紐を作製し、バインダー繊維を含む層とバインダー繊維を含まない層とが二層構造となるように配置させた二層構造の組紐により構成される繊維集束体が挙げられる。ロープにおいては、バインダー繊維を含む繊維群に撚りをかけたヤーンと、バインダー繊維を含まない高融点繊維のみから構成される繊維群に撚りをかけたヤーンとを用意し、バインダー繊維を含むヤーンがロープの中心部(芯の層)に配するように、かつ高融点繊維のみから構成されるヤーンがロープの外層(鞘の層)を配するようにそれぞれ配置させて、ヤーンと反対方向に撚り合わせることにより複合ストランドを構成し、この複合ストランドを3本合わせてストランドと反対方向に撚り合わせることによりロープを得る。(2)の態様では、その配置が逆になる。
【0022】
低融点重合体としては、溶融紡糸による製糸性を有するものであればよく、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリブチラール系重合体、ポリアクリル系重合体、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン系重合体等が挙げられる。なお、低融点重合体の融点は、高融点重合体の融点よりも20℃以上低いことが好ましい。これは、高融点重合体が熱処理によって物性に影響を及ぼさないためである。また、低融点重合体の融点は、加工性や物性等を考慮すると、80〜160℃の範囲が好ましい。また、接着性を考慮すると、低融点重合体/高融点重合体の好ましい組合せとしては、低融点ポリエステル/高融点ポリエステル、低融点ポリプロピレン/高融点ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン、低融点ナイロン/高融点ナイロンの組合せが挙げられる。さらに具体的には、融点240℃以上の高融点ポリエステルを芯部に、融点が110〜200℃の低融点の共重合ポリエステルを鞘部に配した芯鞘型複合繊維や、融点180℃以上の高融点ポリアミドを芯部に、融点80〜150℃の低融点ポリアミドを鞘部に配した芯鞘型複合繊維が好適に用いられる。
【0023】
繊維集束体を構成する繊維は、同系の繊維を用いることが好ましい。低融点重合体と高融点重合体とにおける、熱接着性が良好なため、繊維同士がより強く固着一体化させることができ、より剛直な線条体を得ることが可能となる。また、同系の繊維を用いることによって、リサイクルの観点でも好ましい。したがって、熱融着繊維以外に繊維を用いる場合は、熱処理時に熱融着繊維の溶融成分と接着性に優れる繊維を選択することが重要である。
【0024】
繊維集束体を構成する繊維の繊度は、螺旋状に巻くときの柔軟性があればよく、3〜20デシテックス程度がよい。また、繊維集束体の繊度もまた、螺旋状に巻くときの柔軟性があればよく、また、コイルを構成する線条体の繊度となるため、コイルの用途等に応じて適宜選択すればよいが、下限は500デシテックス程度、上限は500万デシテックス程度がよい。繊維集束体は、繊維を25本〜数百万本集束させて得るとよい。
【0025】
繊維集束体を構成する繊維の形態は、短繊維であっても連続繊維であってもよいが、連続繊維が好ましい。連続繊維は、毛羽がないため、繊維集束体を熱処理により剛直化させた線条体の表面に毛羽を形成させることがない。
【0026】
なお、用いる繊維には、一般に使用されている難燃剤、着色剤、顔料、滑剤、耐候剤、酸化防止剤、耐熱剤などを本発明の効果を損なわない範囲内で適宜添加してもよい。また、繊維断面形状は丸断面、異形断面、中空断面等のいずれであってもよい。また、繊維に仮撚加工やタスラン加工などの加工を施した繊維を用いることもできる。
【0027】
本発明においては、前記した繊維集束体を所定の螺旋形状となるように巻いた後、低融点重合体が溶融し、かつ高融点重合体が溶融しない温度で熱処理を施した後、冷却することで、繊維集束体中の繊維相互間を溶融固化した低融点重合体によって固着一体化させて、繊維集束体が剛直な線条体となり、螺旋形状が固定化されて、熱可塑性重合体からなるコイルを得ることができる。
【0028】
繊維集束体を螺旋形状となるように巻くにあたっては、所定の賦形軸を用いればよい。本発明においては、繊維集束体が、繊維間に融通性があるため、どのような形状にも対応が可能となる。よって、所望のコイルを得るために、賦形軸の直径や螺旋のピッチ、軸の種々の断面形状に応じて、また、軸径の変化やピッチ変化に応じて、適宜設定可能である。また、加熱の方法は、特に限定されないが、アイロン、熱風溶接機、熱風乾燥機、テンターマシンなど周知の手段を用いればよい。また、熱処理温度については、熱処理時間との関係で適宜設定すればよいが、低融点重合体の融点以上の温度であって、高融点重合体の融点を超えない温度に設定する。
【0029】
熱処理後は、冷却する。冷却により、溶融した低融点重合体が固化し、繊維集束体を構成する繊維相互間が固着して一体化し、繊維集束体は、剛直な線条体(剛直線条体)となる。この処理により、熱可塑性重合体によって構成される剛直線条体が任意の螺旋形状を呈したコイルが得られる。なお、冷却の手段としては、空冷、水冷等の周知の手段を用いればよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、特定の繊維を複数本集束してなる柔軟性のある繊維集束体を用いて、任意の螺旋形状となるように巻いた後、熱処理を施して、繊維集束体を構成する繊維相互間を固着一体化させて剛直線条体としてコイルを得たものであり、螺旋形状を呈する剛直な線条体に、線条体の直径の太さ、螺旋形状や螺旋のピッチ等、様々な任意の螺旋形状を所望に応じて付与することができる。また、熱可塑性重合体によって構成されるコイルにおいて、複雑な製造工程を経ることなく安価でかつ容易に螺旋形状に成型が可能である。
【実施例】
【0031】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例で得られたコイルについて、ばね特性を下記により評価した。
<ばね定数>
JIS B 2704に準じ、荷重をかけた際のたわみが自然高さに対して30〜70%の間となる2種の荷重A、Bを用い、下式によりばね定数(N/mm)を求めた。
C=(MA−MB)÷(LA−LB)
(C:ばね定数、
MA:荷重Aの質量(N)、
MB:荷重Bの質量(N)、
LA:荷重Aをかけた時のたわみ(mm)、
LB:荷重Bをかけた時のたわみ(mm))
【0032】
実施例1
繊維集束体を構成する繊維として、低融点重合体を鞘部、高融点重合体を芯部に配した同心型の芯鞘型複合繊維(バインダー繊維)のみを用いた。芯鞘型複合繊維は、鞘部がエチレンテレフタレートとブチレンテレフタレート(モル比1/1)によって構成されるアルキレンテレフタレート単位全体とε−カプロラクトンの総モル数に対し、ε−カプロラクトンを12モル%共重合した共重合ポリエステル(融点161℃)、芯部がポリエチレンテレフタレート(融点260℃)が配され、芯部と鞘部の質量比を2.7/1として複合紡糸されたものであり、この繊維からなる1670デシテックス/192fのマルチフィラメント糸を用意した。
【0033】
前記マルチフィラメント糸を用いて角8本打ちとして製紐し、外径1.4mmの組紐を得、これを繊維集束体とした。
【0034】
金属製軸に繊維集束体(組紐)を巻きつけ、この巻きつけた状態で180℃×10分の条件で熱風処理を施し、空冷後に脱型して、内径9.5mm、自然高さ10mm、有効巻き数5の熱可塑性重合体によって構成されるコイルを得た。得られたコイルのばね定数は0.032N/mmであった。
【0035】
実施例2
実施例1で用いた芯鞘型複合繊維を用い、1100デシテックス/96fのマルチフィラメント糸として、該マルチフィラメント糸を用いて角8本打ちとして製紐し、外径1.1mmの組紐を得、これを繊維集束体とした。
得られた繊維集束体(組紐)用いて、実施例1と同様にして、内径9.5mm、自然高さ10mm、有効巻き数5の熱可塑性重合体によって構成されるコイルを得た。得られたコイルのばね定数は0.022N/mmであった。
【0036】
実施例3
実施例1で用いた芯鞘型複合繊維を用い、560デシテックス/48fのマルチフィラメント糸として、該マルチフィラメント糸を用いて角8本打ちとして製紐し、外径0.7mmの組紐を得、これを繊維集束体とした。
得られた繊維集束体(組紐)を用いて、実施例1と同様にして、内径9.5mm、自然高さ10mm、有効巻き数5の熱可塑性重合体によって構成されるコイルを得た。得られたコイルのばね定数は0.0051N/mmであった。
【0037】
実施例4
繊維集束体を構成する繊維として、低融点重合体のみから構成されるバインダー繊維と、高融点重合体のみから構成される高融点繊維とを用いた。バインダー繊維は、エチレンテレフタレートとブチレンテレフタレート(モル比1/1)によって構成されるアルキレンテレフタレート単位全体とε−カプロラクトンの総モル数に対し、ε−カプロラクトンを12モル%共重合した共重合ポリエステル(融点161℃)によって構成されるものであり、高融点繊維は、ポリエチレンテレフタレート(融点260℃)によって構成されるものである。バインダー繊維を引き揃えたマルチフィラメント糸(560デシテックス/60f)と高融点繊維を引き揃えたマルチフィラメント糸(560デシテックス/96f)とを1/1の混合比率(質量比)で引き揃えて1120デシテックス/156fのマルチフィラメント糸を用意した。
【0038】
前記混合したマルチフィラメント糸を用いて角8本打ちとして製紐し、外径1.1mmの組紐を得、これを繊維集束体とした。
得られた繊維集束体(組紐)を用いて、実施例1と同様にして、内径9.5mm、自然高さ10mm、有効巻き数5の熱可塑性重合体によって構成されるコイルを得た。得られたコイルのばね定数は0.011N/mmであった。
【0039】
実施例5
繊維集束体を構成する繊維として、実施例4で用いた低融点重合体のみから構成されるバインダー繊維と、高融点重合体のみから構成される高融点繊維とを用いた。高融点繊維のみによって構成する560デシテックス/96fのマルチフィラメント糸、バインダー繊維のみによって構成する560デシテックス/60fのマルチフィラメント糸をそれぞれ用意した。
【0040】
高融点繊維のみにより構成されるマルチフィラメント糸を用いて角8本打ちとして製紐を行い、得られた組紐を芯部分として、さらに、鞘部分に、バインダー繊維のみにより構成されるマルチフィラメント糸を8本組みにして、2層構造の組紐を得た。得られた外径1.1mmの2層構造の組紐を繊維集束体とした。
得られた繊維集束体(組紐)を用いて、実施例1と同様にして、内径9.5mm、自然高さ10mm、有効巻き数5の熱可塑性重合体によって構成されるコイルを得た。得られたコイルのばね定数は0.0072N/mmであった。また、コイル表面は、繊維が完全に溶融しており、凹凸がほぼなく、滑らかな表面を呈していた。
【0041】
実施例6
繊維集束体を構成する繊維として、実施例1で用いた芯鞘型複合繊維を用いて、560デシテックス/48fのマルチフィラメント糸とした。また、実施例4で用いた高融点重合体のみから構成される高融点繊維を用いて、高融点繊維のみによって構成する560デシテックス/96fのマルチフィラメント糸とした。
芯鞘型複合繊維のみにより構成されるマルチフィラメント糸を用いて角8本打ちとして製紐を行い、外径1.1mmの組紐を得、この組紐を芯部分として、さらに、鞘部分に、高融点繊維のみにより構成されるマルチフィラメント糸を8本組みにして、2層構造の組紐を得た。得られた2層構造の組紐を繊維集束体とした。
得られた繊維集束体(組紐)を用いて、実施例1と同様にして、内径9.5mm、自然高さ10mm、有効巻き数5の熱可塑性重合体によって構成されるコイルを得た。得られたコイルのばね定数は0.019N/mmであった。コイル表面の繊維は溶融しておらず、繊維の風合いを残した表面柔らかなものであった。
【0042】
実施例7
実施例6で用いた高融点繊維のみによって構成する560デシテックス/96fのマルチフィラメント糸を用いて、角8本打ちとして製紐を行い、外径1.1mmの組紐を得、この組紐を芯部分として、さらに、鞘部分に、実施例6で用いた芯鞘型複合繊維のみからなる560デシテックス/48fのマルチフィラメント糸を8本組みにして、2層構造の組紐を得た。得られた2層構造の組紐を繊維集束体とした。
得られた繊維集束体(組紐)を用いて、実施例1と同様にして、内径9.5mm、自然高さ10mm、有効巻き数5の熱可塑性重合体によって構成されるコイルを得た。得られたコイルのばね定数は0.034N/mmであった。コイル表面の芯鞘型複合繊維の鞘成分は溶融しており、コイル線条体の表面形態は、実施例1と同様の表面形態であった。
【0043】
比較例
繊維集束体を構成する繊維として、実施例4に用いたバインダー繊維のみとし、バインダー繊維のみによって構成する1100デシテックス/120fのマルチフィラメント糸を用意した。このマルチフィラメント糸を用いて角8本打ちとして製紐し、外径1.1mmの組紐を得、これを繊維集束体とした。
得られた繊維集束体(組紐)を用いて、実施例1と同様にして、熱処理したところ、繊維が全て溶融して、金属製軸から、溶融物が流れ落ちてしまい、コイルを得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を複数本集束してなる繊維集束体を用い、該繊維集束体が低融点重合体と高融点重合体によって構成されており、該繊維集束体を所定の螺旋形状となるように巻いた後、該繊維集束体を構成している低融点重合体が溶融し、かつ高融点重合体が溶融しない温度で熱処理を施した後、冷却することを特徴とする熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。
【請求項2】
熱処理を施すことにより、繊維集束体中の繊維相互間は、低融点重合体の溶融固化により固着一体化させて、該繊維集束体を剛直線条体とすることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。
【請求項3】
低融点重合体が鞘部を形成し、高融点重合体が芯部を形成する芯鞘型複合繊維が、繊維集束体に含まれることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。
【請求項4】
低融点重合体のみかなるバインダー繊維および高融点重合体のみからなる高融点繊維が、繊維集束体に含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。
【請求項5】
繊維集束体が、その断面において、バインダー繊維を含む層とバインダー繊維を含まない層とを二層構造となるように配置した二層構造の繊維集束体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。
【請求項6】
繊維集束体の断面における最外層に、バインダー繊維を含まない層が配置されていることを特徴とする請求項5記載の熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。
【請求項7】
繊維集合体を構成する繊維が、連続繊維であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体からなるコイルの製造方法により得られたコイル。


【公開番号】特開2012−214007(P2012−214007A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175984(P2011−175984)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】