説明

熱可塑性重合体マトリックスの製造方法

本発明は、熱可塑性重合体マトリックスを、該重合体マトリックスの重合中にシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液を添加することにより製造する方法に関するものである。また、本発明は、この重合体マトリックスを成形することによって得られた各種物品、例えばヤーン、繊維、フィラメント、フィルム及び成形品に関するものでもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性重合体マトリックスを、該重合体マトリックスの重合中にシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液を添加することによって製造するための方法に関するものである。また、本発明は、この重合体マトリックスを成形することによって得られた各種物品、例えばヤーン、繊維、フィラメント、フィルム及び成形品に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、無機シリケート充填剤及び硫酸バリウムから選択される少なくとも1種の化合物を含有する懸濁液を熱可塑性重合体マトリックスの重合中に添加することによって熱可塑性重合体組成物を製造するための方法を開発した。
【0003】
本発明の方法によって、特に、熱可塑性重合体中におけるシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの非常に良好な分散及び分布を獲得することが可能になる。さらに、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムをその合成に導入すると、特に織物分野において重合体の製造中及び/又は重合体の成形中における分解という所定の問題をもたらす、重合体マトリックス中でのシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの凝集体の形成を防止することが可能になる。特に、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを合成に導入すると、マトリックス中におけるシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの分散を良好にすることができ、それによってダイ孔及びろ過媒体の閉塞を防止することができる。従来では、これにより、紡糸−パック圧力の増加及び得られたヤーン、繊維及び/又はフィラメントの破断に至っていた。
【0004】
また、シリケート化合物(特にトルマリン)及び硫酸バリウムには、比較的不活性で、しかも重合体マトリックスとは反応しないという利点もある。そのため、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムは、得られる物品の分解、着色又は黄変という問題を生じさせない。また、シリケート化合物(特にトルマリン)及び硫酸バリウムは、コスト、使用の容易さ及び熱可塑性マトリックスなどの重合体マトリックスへの導入という観点で所望の特性に適合することも可能である。シリケート化合物(特にトルマリン)、さらには硫酸バリウムは、赤外領域での吸収及び放射という特性も有し、しかも、重合体組成物をつや消しにすることなく、紡糸部材とヤーンとの摩擦を低減させることも可能にする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の要旨は、無機シリケート充填剤及び硫酸バリウムから選択される少なくとも1種の化合物を含有する熱可塑性重合体マトリックスを主成分とする組成物の製造方法であって、該化合物を少なくとも含有する懸濁液を該重合体マトリックスの重合前又は重合中に導入することを特徴とする方法である。
【0006】
また、本発明は、上記方法によって得ることのできる熱可塑性重合体マトリックスに関するものでもある。
【0007】
数種類の化合物を使用する場合には、これら数種の化合物は、これらの化合物を全て含有する懸濁液として、又はそれぞれが1種の化合物を含有する数種の懸濁液として導入できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
無機シリケート充填剤は、有利には、アクチノライト、トルマリン、蛇紋石、カオリン及び他のアルミノシリケートから選択される。これは、好ましくはトルマリンである。
【0009】
熱可塑性重合体マトリックスは、ポリアミド;ポリエステル;ポリビニル;ポリ塩化ビニル;ポリ酢酸ビニル;ポリビニルアルコール;PMMA、SAN又はABS共重合体などのアクリル重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレンなどのポリオレフィン;酢酸セルロース、セルロースエステルプラスチックなどのセルロース誘導体;ポリウレタン;それらの共重合体及び/又はそれらのブレンドよりなる群から選択できる。
【0010】
熱可塑性重合体としては、特に、ナイロン6、ナイロン6.6、ナイロン11又はナイロン12などのポリアミド、及び、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリエステル、それらの共重合体及び/又はそれらのブレンドが好ましい。
【0011】
本発明の好ましい重合体としては、半結晶性又は非晶質のポリアミド及びコポリアミド、例えば、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、及びより一般的には、脂肪族又は芳香族の飽和二酸と芳香族又は脂肪族の飽和第一級ジアミンとの重縮合により得られる線状ポリアミド、ラクタム、アミノ酸又はこれら様々な単量体の混合物の縮合により得られた線状ポリアミの縮合により得られるポリアミドが挙げられる。特に、これらのポリアミドは、例えば、ヘキサメチレンポリアジパミド、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸から得られるポリフタルアミド又はアジピン酸と、ヘキサメチレンジアミンと、カプロラクタムとから得られるコポリアミドであることができる。組成物は、好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、並びにこれらのポリアミドを主成分とするブレンド及び共重合体を基材とする。これは、特にナイロン6.6/6共重合体であることができる。
【0012】
本発明の特定の一変形例によれば、熱可塑性マトリックスは、星型、樹木型又はデンドリマー型の重合体、特に分岐高分子鎖と、必要に応じて線状高分子鎖とを有するものを含むことができる。
【0013】
また、重合体マトリックスは、例えば、補強充填剤又は増量剤、難燃剤、UV安定剤、熱安定剤、顔料及び潤滑剤であることができる、当該技術分野において一般的に使用されている添加剤を含むこともできる。
【0014】
当業者に知られている様々な熱可塑性重合体マトリックス重合方法を本発明に従って使用することができる。これらの方法は、得ることが望まれる重合体マトリックスに応じた特異性を有する。
【0015】
シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含む前記懸濁液は、重合が開始する前、或いは重合が既に開始したとき、特に重合体が低い重縮合度を有するときに、優先的に重合媒体に導入される。
【0016】
ナイロン66の製造について、その重合は、標準的な方法に従って、塩N濃縮工程と、次の段階:加圧蒸留段階、減圧段階、仕上げ段階及び随意に押出又は成形段階を含む重縮合工程とを含むことができる。シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液は、加圧蒸留段階の間に優先的に添加される。
【0017】
ナイロン6の製造について、その重合は、溶融カプロラクタムと、水及び随意の連鎖制限剤とを混合させる工程、加熱工程、随意に圧力上昇工程、その後の減圧工程、随意に真空仕上げ工程、抽出工程及び乾燥工程を含むことができる。ナイロン6の場合には、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液は、溶融カプロラクタムと水及び随意の連鎖制限剤とを混合させる最初の工程の間に優先的に添加される。
【0018】
ポリエステルの製造について、その重合は、配合工程、エステル交換又はエステル化工程、随意に濃縮工程、及び真空重縮合工程を含むことができる。ポリエステルの場合には、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液は、重縮合段階の前又は直前に優先的に添加される。
【0019】
本発明の懸濁液は、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの他に、水及び/又は界面活性剤、有機溶媒及び/又は重合体マトリックス単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことができる。少なくとも1種のシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムと、水と、界面活性剤とを含む懸濁液が特に好ましい。
【0020】
懸濁液は、主として水を含む場合には、水性懸濁液と呼ばれる。また、水性懸濁液は、上記他の1種以上の化合物を含むこともできる。また、水は含まないが、ただし別の液体、例えば有機溶媒及び/又は重合体マトリックス単量体、例えばエチレングリコールを含む懸濁液も使用できる。
【0021】
上記のように、懸濁液は、陰イオン性界面活性剤(ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、アルキルエステルスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアミド硫酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸の塩など)、非イオン性界面活性剤(ポリアルコキシル化アルキルフェノール、脂肪酸、アミン、脂肪族アミド及びアミドアミン誘導体、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドとエチレンジアミンとの縮合物、アルキルポリグルコシドなど)、両性界面活性剤(アルキルアンホアセテートなど)又は双性イオン性界面活性剤(ベタイン)などの界面活性剤を含むことができる。これらの試剤は、懸濁液の総重量に対して、沈降前に0.05重量%〜1重量%、好ましくは0.1重量%〜0.7重量%、より好ましくは0.2重量%〜0.5重量%を占めることができる。用語「界面活性剤」とは、懸濁液の表面張力を改変する化合物を意味するものとする。
【0022】
また、該懸濁液は、脂肪族又は芳香族アルコール、グリコールエーテル(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、プロパンジオール、エチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール、ブトキシプロポキシプロパノールなど)などの有機溶媒を含むこともできる。これらの溶媒は、懸濁液の重量の0.1%〜50%を占めることができる。
【0023】
重合体マトリックス単量体としては、例えば、カプロラクタム、特にポリアミドの製造用のカプロラクタム、又は、エチレングリコール、特にポリエステルの製造用のエチレングリコールが挙げられる。これらの単量体は、特に、懸濁液の重量の0.1%〜70%、好ましくは15%〜60%を占めることができる。好ましくは、重合体マトリックス単量体は、重合段階中において重合体マトリックスの製造のために使用されたものである。
【0024】
懸濁液は、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの他に、好ましくは水と、随意にカプロラクタム及び/又は界面活性剤を含み、或いは好ましくは水と界面活性剤とを含む。
【0025】
ナイロン6の製造については、好ましくは、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムと、随意にカプロラクタムと、随意に界面活性剤とを含む水性懸濁液を使用する。ナイロン66の製造については、好ましくは、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムと随意に界面活性剤とを含む水性懸濁液を使用する。
【0026】
ポリエチレンテレフタレートの製造については、好ましくは、エチレングリコール中におけるシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムと、随意に界面活性剤とを含む懸濁液を使用する。
【0027】
本発明によれば、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムは、少なくとも1種のシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含む粒子の形態にあることができる。好ましくは、該シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムは、少なくとも1種の無機及び/又は有機化合物が被覆されていてよい、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの結晶から本質的に構成される粒子の形態にある。
【0028】
トルマリンの粒子及び/又は硫酸バリウムの粒子は、2μm以下、好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.1〜0.5μm平均直径(d50)、特に約0.3〜0.5μmの平均直径を有することができる。
【0029】
懸濁液は、懸濁液の総重量に対して、5重量%〜50重量%、好ましくは10%〜40%のシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含むことができる。
【0030】
重合体組成物の総重量に対するシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの重量割合は、0.01%〜10%、好ましくは0.05%〜7%、さらに好ましくは0.1%〜5%、特に0.2〜3%であることができる。
【0031】
前記懸濁液は、次の工程を少なくとも含む方法により製造できる:
(a)少なくとも1種のシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムと、水及び/又は界面活性剤、有機溶媒及び/又は重合体マトリックス単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物とを接触させ;
(b)工程(a)で得られた混合物を、該シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムが水に均一に分散するように、特にその凝集体のサイズを減少させるように撹拌し;そして
(c)得られた懸濁液を、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも3μmの細孔径を有するフィルターを使用してろ過すること。
【0032】
表現「細孔径を有するフィルター」とは、μmの値よりも大きな直径を有する粒子を通さないフィルターを意味するものとする。例えば、1μmの細孔径を有するフィルターは、1μmを超える直径を有する粒子を通さない。
【0033】
特に、製造工程の間に、懸濁液を希釈することや懸濁液を沈殿させることが可能である。
【0034】
好ましくは、工程(c)において、特に直列的に配置された数個のフィルターを通過させることによって、又は循環ループを使用することによって懸濁液をろ過する。特に、10μmフィルター及び5μmフィルターを直列的に配置し、懸濁液を数時間にわたってループ中で再循環させることができる。また、数個の同じ又は異なる再循環ループを直列的に配置することができる。
【0035】
重合体中にシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムが存在することは、熱重量分析(灰化法)などの当業者に周知の様々な方法によって、又はX線蛍光分光分析による元素(例えばバリウム)の定性的直接分析、随意にその後の硫硝酸無機化後の元素(例えば、バリウム)の原子分光法による定量元素分析によって、それから化合物の量を推定するような方法で決定できる。また、微量分析により元素(例えば、バリウム)を定量的に決定すること及び/又は重合体マトリックスを溶媒に溶解させて添加剤を除去し、そしてそれをX線回折により分析することも可能である。
【0036】
また、本発明は、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する熱可塑性マトリックスを主成分とする組成物の、ヤーン、繊維及び/又はフィラメント、フィルム及び成形品などの物品を製造するための使用に関するものでもある。これらの組成物は、中間固化及び溶融工程なしに、重合直後に物品に成形できる。また、該組成物は、後の最終的な成形のために、例えば成形品の製造のために又はヤーン、繊維及び/又はフィラメントの製造のために、再溶融を受けることを目的とした顆粒に成形することもできる。
【0037】
全ての溶融紡糸方法、特に、本発明の組成物を、1個以上の開口を備える紡糸口金に通すことによる溶融紡糸を使用することができる。
【0038】
マルチフィラメントの製造については、紡糸速度がどうであれ、紡糸又は紡糸延伸又は紡糸延伸テクスチャリング(これを一体にしてもよい)の方法が挙げられる。ヤーンは、3000m/分以上、好ましくは4000m/分以上の紡糸速度で高速紡糸することにより製造できる。このような方法は、次の用語:POY(部分延伸ヤーン)、FOY(完全延伸ヤーン)、ISD(統合紡糸延伸)及びHOY(5500m/分を超える速度での高延伸ヤーン)で表される場合が多い。また、これらのヤーンは、目的用途に応じてテクスチャード加工されていてもよい。これらの方法によって得られたヤーンは、織布又はニット織物表面の製造に特に好適である。
【0039】
本発明によれば、熱可塑性重合体マトリックスは、6dtex/フィラメント以下、より好ましくは1.5dtex/フィラメント以下の線密度を有するマルチフィラメントを製造するために使用できる。
【0040】
繊維の製造については、フィラメントは、例えば紡糸直後に又は後の延伸、前紡、テクスチャード加工又は捲縮及び切断において一緒にすることができる。得られた繊維は、不織布又はステープル繊維ヤーンの製造のために使用できる。また、組成物は、フロッキングの製造のためにも使用できる。
【0041】
本発明のヤーン、繊維及び/又はフィラメントは、例えば、1回の連続工程又は後の操作での延伸、サイジング剤の付着、オイリング、編組、テクスチャリング、クリンプ加工、前紡、セッティング又は弛緩熱処理、撚糸、加撚及び/又は染色などの様々な処理を受けることができる。染色については、特に浴染色又はジェット染色方法が挙げられる。好ましい染料は、金属又は非金属酸性染料である。
【0042】
また、本発明は、上記ヤーン、繊維及び/又はフィラメントから少なくとも得られた物品に関するものでもある。これらの物品は、織物表面、ニット表面、不織布表面又はラグ様表面などのファブリック又は繊維表面であることができる。これらの物品は、例えば、カーペット、ラグ、家具用カバー、表面カバー、ソファー、カーテン、寝具、マットレス及び枕、衣類及び医療用布地材料であることができる。
【0043】
また、本発明は、シート又はフィルム押出などの押出方法、圧縮成形などの成形方法及び射出成形などの射出方法よりなる群から選択される方法により本発明の組成物を成形することによって得られた物品に関するものでもある。
【0044】
例えば、シートダイを使用した上記方法によりフィルムを得ることができる。好ましくは、熱可塑性マトリックスは、ポリアミド、ポリエステル又はポリオレフィンから構成される。得られたフィルムは、一軸又は二軸前紡、安定化熱処理、静電気防止処理又はサイジング処理などの1回又は数回の処理工程を受けることができる。
【0045】
また、本発明は、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液に関するものでもある。
【0046】
用語「及び/又は」は、「及び」、「又は」という意味だけでなく、この用語とつながった要素の他の可能な全ての組合せも包含する。
【0047】
本発明のそのほかの詳細又は利点は、単なる例示である以下の実施例を考慮すればさらに明確になるであろう。
【実施例】
【0048】

例1:トルマリン懸濁液(スラリー)の製造
39%のトリマリン懸濁液を次の方法で製造した:
0.18重量%の濃度のピロ燐酸ナトリウム水溶液を、8.52kgの脱イオン水と15.3gのピロ燐酸ナトリウムとを混合させることによって製造する。混合を、高速分散器を備えた容器中において、15分にわたり1000rpmの撹拌速度で撹拌しながら実施し、10kgの粉末状トリマリンを添加して18.5kgの懸濁液(54%)を得た。添加の終了時に、この懸濁液を70分にわたって撹拌(2000rpm)した状態で保持する。続いて、この懸濁液を、7.1kgの0.18重量%ピロ燐酸ナトリウム含有水溶液を添加することにより希釈して、39%の懸濁液を得た。次いで、この39%懸濁液を沈殿高さが16cmの沈殿槽(20℃)に移し、そこで68時間保持する。
【0049】
例2:重合の間に導入されたトルマリンを含むナイロン66
ナイロン66を主成分とする共重合体を、30.2kgのカプロラクタム水溶液が特に添加された1395.9kgのヘキサメチレンジアミンアジピン酸塩(塩N)水溶液から製造した。
ポリアミドを、エバポレーターで溶液を濃縮する工程と、次の段階を含む、非撹拌オートクレーブ反応器内での重縮合工程とを含む慣用方法に従って製造する:
18.5barの静圧での加圧蒸留段階、
少なくとも264℃の最終温度による18.5barから1barまでの減圧段階、
少なくとも268℃の最終温度による仕上げ段階、
5.5barの窒素圧力下での押出段階。
加圧蒸留段階において、10分後に、例1で製造したトリマリンの水性懸濁液12.5kg、続いて20%のTiO2水性懸濁液を添加する。2.5重量%のナイロン6単位を含むナイロン66を主成分とする共重合体を得る。
得られた重合体を通常の方法により分析する。その特徴は次のとおりである:
・相対粘度=44(25℃の90%蟻酸中8.4%)
・アミン末端基=42.7meq/kg
・カルボキシル末端基=78.5meq/kg
・トルマリン=0.2%(灰分により測定)。
【0050】
例3:重合中に導入されたトルマリンを有するナイロン66の押出
質量で98.3%のポリアミドと、1.5%のTiO2と、0.2%のトルマリンとの最終組成を有する例2で得られたポリアミドを一軸押出器内で再溶融させ、そしてろ過部材を通して290℃で押し出す。このろ過部材は、2cm2の表面積及び18ミクロンの細孔径を有する、商品番号Y−610としてAcoplast社が販売するレップから構成される。
【0051】
比較例4:マスターバッチによりトリマリンが添加されたナイロン66の押出
例2で説明した方法と同様の方法によって製造された、1.5%のTiO2を含有するポリアミドナイロン66と、トリマリンマスターバッチ(同じナイロン66中20%のトリマリン)とを、質量で99%のナイロン66及び1%のトリマリンマスターバッチの割合に従って、最終組成が質量で98.3%のナイロン66、1.5%のTiO2及び0.2%のトルマリンとなるように混合させる。次いで、この混合物を一軸押出器内で再溶融させ、そして例3と同じ条件下で押し出す。
紡糸パックを通したろ過性に関するろ過性指数Fを例3及び比較例4のナイロン66組成物について決定し、そして測定パラメーター(特にパック圧力)から次のとおりに算出する:
F=(Pf−Pi)/(Mt*Pi)
ここで、
・Piは初期パック圧力(bar)であり、
・Pfは最終パック圧力(bar)であり、
・Mtは押し出された組成物の最終質量である。
例3及び比較例4の組成物について測定されたパラメーターに基づくろ過性指数を以下の表1に与える:
【0052】
【表1】

【0053】
このように、重合プロセスにおいてトルマリンを導入した本発明に従う組成物では、トリマリンをポリアミドマトリックスと混合させることによって導入した組成物と比較して、非常に良好な組成物のろ過性が観察される。
【0054】
この良好なろ過性は、フィルターの寿命を延ばし、かつ、紡糸パック圧力の増加及び得られたフィラメント/繊維/ヤーンの破断を制限することによって紡糸プロセスを改善させることを可能にする。
【0055】
例5:硫酸バリウム懸濁液(スラリー)の製造
懸濁液を、例1で製造したとおりに、2.13kgの粉末状硫酸バリウムと8.52kgのピロ燐酸ナトリウム水溶液(0.18重量%の濃度)とを混合させることによって製造する。この混合物を3時間にわたって撹拌(1500rpm)に保持する。
【0056】
例6:トルマリン及び硫酸バリウム懸濁液(スラリー)の製造
例1のトルマリン懸濁液を、例1で製造したとおり、20%にまで0.18重量%濃度のピロ燐酸ナトリウム水溶液で希釈する。
懸濁液を、20kgのこの20%懸濁液と40kgの例5の硫酸バリウム懸濁液とを混合させることによって製造する。この混合物を3時間にわたって撹拌(1500rpm)に保持する。
【0057】
例7:トルマリン及び二酸化チタン懸濁液(スラリー)の製造
例1のトルマリン懸濁液を、例1で製造したとおり、20%にまで0.18重量%濃度のピロ燐酸ナトリウム水溶液で希釈する。
懸濁液をを、この20%懸濁液5kgと、20%の二酸化チタン水性懸濁液75kgとを混合させることによって製造する。この混合物を3時間にわたって撹拌(1500rpm)に保持する。
【0058】
例8:トルマリン、硫酸バリウム及び二酸化チタン懸濁液(スラリー)
例1のトルマリン懸濁液を、例1で製造したとおり、20%にまで0.18重量%濃度のピロ燐酸ナトリウム水溶液で希釈する。
懸濁液を、この20%懸濁液60kgと、例5の硫酸バリウム懸濁液15kgと、20%の二酸化チタン水性懸濁液15kgとを混合させることによって製造する。この混合物を3時間にわたって撹拌(1500rpm)に保持する。
【0059】
例9:重合において導入されたトルマリンを含むナイロン66
ナイロン66を主成分とする共重合体を例2と同様に製造するが、ただし、加圧蒸留の少なくとも10分後に、例7の懸濁液を、例1の懸濁液及び二酸化チタン懸濁液の代わりに導入する。
1.5%の二酸化チタン及び0.1%のトルマリンを含むポリアミドを得る。
【0060】
例10〜12:重合において導入されたトルマリン及び硫酸バリウムを含むナイロン66
ナイロン66を主成分とする共重合体を例2と同様に製造するが、ただし、加圧蒸留の少なくとも10分後に、例1の懸濁液及び二酸化チタン懸濁液の代わりに次のものを導入する:
【0061】
例10:例5の懸濁液、例1の懸濁液及び20%の二酸化チタン水性懸濁液。1.7%の二酸化チタン、1%のトルマリン及び0.3%の硫酸バリウムを含むポリアミドを得る。
【0062】
例11:例6の懸濁液及び20%の二酸化チタン水性懸濁液。1.5%の二酸化チタン、0.4%のトルマリン及び0.8%の硫酸バリウムを含むポリアミドを得る。
【0063】
例12:例8の懸濁液。0.3%の二酸化チタン、1.2%のトルマリン及び0.3%の硫酸バリウムを含むポリアミドを得る。
【0064】
例13:重合において導入されたトルマリンと押出において導入された硫酸バリウムとを含むナイロン66
ナイロン66を主成分とする共重合体を例2と同様に製造するが、ただし、加圧蒸留の少なくとも10分後に、例7の懸濁液を例1の懸濁液及び二酸化チタン懸濁液の代わりに導入する。
得られたポリアミドと、硫酸バリウムのマスターバッチ(40%の硫酸バリウム及び60%のナイロン66)とを、最終組成が質量で1.5%のTiO2、0.1%のトリマリン及び0.8%の硫酸バリウムとなるように混合させる。次いで、この混合物を一軸押出器内で再溶融させ、そして例3と同じ条件下で押し出す。
【0065】
例14:重合において導入されたトルマリンと押出において導入された硫酸バリウムとを含むナイロン66
ナイロン66を主成分とする共重合体を例2と同様に製造する。
得られたポリアミドと、硫酸バリウムのマスターバッチ(40%の硫酸バリウム及び60%のナイロン66)とを、最終組成が質量で0.4%のTiO2、0.7%のトリマリン及び1.5%の硫酸バリウムとなるように混合させる。次いで、この混合物を一軸押出器内で再溶融させ、そして例3と同じ条件下で押し出す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機シリケート充填剤及び硫酸バリウムから選択される少なくとも1種の化合物を含有する熱可塑性重合体マトリックスを主成分とする組成物の製造方法であって、該化合物を少なくとも含有する懸濁液を該重合体マトリックスの重合前又は重合中に導入することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記シリケートが、アクチノライト、トルマリン、蛇紋石、カオリン及び他のアルミノシリケートから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリケートがトルマリンであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱可塑性重合体マトリックスが、ポリアミド;ポリエステル;ポリビニル;ポリ塩化ビニル;ポリ酢酸ビニル;ポリビニルアルコール;PMMA、SAN又はABS共重合体などのアクリル重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレンなどのポリオレフィン;酢酸セルロース、セルロースエステルプラスチックなどのセルロース誘導体;ポリウレタン;それらの共重合体及び/又はそれらのブレンドよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記熱可塑性重合体マトリックスが、ナイロン6、ナイロン6.6、ナイロン11、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、それらの共重合体及び/又はそれらのブレンドよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ナイロン66の重合方法が、塩N濃縮工程と、次の段階:加圧蒸留段階、減圧段階、仕上げ段階及び随意の押出又は成形段階を含む重縮合工程とを含み、前記懸濁液を該蒸留段階の間に添加することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ナイロン6の重合方法が、溶融カプロラクタムと、水及び随意の連鎖制限剤とを混合させる工程、加熱工程、随意に圧力上昇工程、その後の減圧工程、随意に真空仕上げ工程、抽出工程及び乾燥工程を含み、前記懸濁液を該溶融カプロラクタムと水及び随意に連鎖制限剤とを混合させる該最初の工程で添加することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリエステルの重合方法が、配合工程、エステル交換又はエステル化工程、随意に濃縮工程、及び真空重縮合工程を含み、前記懸濁液を該重縮合段階の前又は直前に添加することを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項9】
前記懸濁液が、前記化合物の他に、水及び/又は次の群:界面活性剤、有機溶媒及び/又は重合体マトリックス単量体から選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記懸濁液が、水と、随意にカプロラクタム及び/又は界面活性剤とを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記懸濁液が、前記シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの他に、少なくとも水及び界面活性剤を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記懸濁液が水及び/又はカプロラクタムを含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムが、少なくとも1種の無機及び/又は有機化合物が被覆されていてよい、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムの結晶から本質的に構成される粒子の形態にあることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記粒子が2μm以下、好ましくは0.8μm以下の平均直径(d50)を有することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記懸濁液が、該懸濁液の総重量に対して、5重量%〜50重量%、好ましくは10重量%〜40重量%のシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記熱可塑性重合体マトリックスを主成分とする組成物が0.01重量%〜10重量%のシリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の方法によって得ることができる、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する熱可塑性重合体マトリックスを主成分とする組成物。
【請求項18】
シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液の製造方法であって、少なくとも次の工程:
(a)少なくとも、前記シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムと、水及び/又は次の群:界面活性剤、有機溶媒及び/又は重合体マトリックス単量体から選択される少なくとも1種の化合物とを接触させ;
(b)工程(a)で得られた混合物を、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムが水に均一に分散するように撹拌し;そして
(c)得られた懸濁液を、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも3μmの細孔径を有するフィルターを使用してろ過すること
を含む方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法によって得ることができる、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する懸濁液。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれかに記載の製造方法によって得られた、シリケート化合物及び/又は硫酸バリウムを含有する熱可塑性マトリックスを主成分とする組成物の、ヤーン、繊維及び/又はフィラメント、フィルム及び成形品などの物品を製造するための使用。

【公表番号】特表2011−529524(P2011−529524A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520612(P2011−520612)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006298
【国際公開番号】WO2010/013107
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(509221319)ロディア・ポリアミダ・エ・エスペシアリダデス・リミターダ (9)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA POLIAMIDA E ESPECIALIDADES LTDA
【住所又は居所原語表記】Av.Maria Coelho Aguiar,215,Bloco B−1 andar,Parte 1−Jardim Sao Luiz,Sao Paulo−SP BRAZIL
【Fターム(参考)】