説明

熱可塑性長繊維複合材およびそれから得られた製品

【課題】成形品に使用した場合、改善された表面抵抗率および/または衝撃強さが得られる導電性長繊維複合材を提供する。
【解決手段】この複合材は、熱可塑性樹脂、炭素長繊維、およびガラス長繊維を含み、前記炭素長繊維および前記ガラス長繊維が、約2mmを超えるかまたはそれと等しい長さを有し、前記導電性長繊維複合材が、製品に成形した場合、約108Ω/cm2未満またはそれと等しい表面抵抗率、および約10kJ/m2を超えるかまたはそれと等しいノッチ付アイゾッド衝撃強さを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2005年6月10日に出願された米国仮出願第60/689475号に基づく優先権を主張するものであり、その全体が参照によりここに取り込まれる。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、熱可塑性長繊維複合材、その製造方法、およびそれから得られた製品に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
長繊維複合材は、その繊維強化材が他の複合材に使用した繊維強化材に比べて実質的に大きなアスペクト比を有する点で、他の複合材と異なる。このアスペクト比は、繊維の直径に対する長さの比と定義される。一般に、長繊維複合材は、熱可塑性ポリマー内にガラス長繊維を配置したものである。長繊維複合材は、種々の方法で製造することができ、そのうちの1つとして引抜成形が知られている。引抜成形された長繊維複合材は、自動車、電子機器、コンピュータなど多様な製品の製造に使用される。
【0004】
一般に、熱可塑性材料およびガラス繊維は本質的に電気絶縁性であるので、静電気放電または電磁遮蔽が必要な用途には有用でない。よって、ガラス繊維を使用する引抜成形された長繊維複合材は、導電性が求められる用途には使用できない。したがって、導電性があり、静電気放電が求められる用途に使用できる長繊維複合材を製造することが求められている。
【0005】
〔発明の概要〕
ここで開示するのは、熱可塑性樹脂、炭素長繊維およびガラス長繊維を含む導電性長繊維複合材であって、前記炭素長繊維および前記ガラス長繊維が、約2mmを超えるかまたはそれと等しい長さを有し、前記導電性長繊維複合材が、製品に成形した場合、約108オーム/平方センチメートル(Ω/cm2)未満またはそれと等しい表面抵抗率、および約10キロジュール/平方メートル(kJ/m2)を超えるかまたはそれと等しいノッチ付アイゾッド衝撃強さを示す導電性長繊維複合材である。
【0006】
また、ここで開示するのは、炭素長繊維複合材をガラス長繊維複合材とブレンドすることにより、導電性長繊維複合材を作製する工程を含む導電性長繊維複合材の製造方法であって、前記炭素長繊維複合材が、第1の熱可塑性樹脂内に配置した約2ミリメートル(mm)を超えるかまたはそれと等しい長さを有する炭素長繊維を含み、前記ガラス長繊維複合材が、第2の熱可塑性樹脂内に配置した約2mmを超えるかまたはそれと等しい長さを有するガラス長繊維を含む導電性長繊維複合材の製造方法である。
【0007】
加えて、ここで開示するのは、炭素繊維を含む第1のロービングを、第1の溶融熱可塑性ポリマーを含む第1の含浸槽を通過させて、引抜成形する工程と、前記炭素繊維に前記第1の溶融熱可塑性ポリマーを含浸させることによって、炭素長繊維複合材を作製する工程と、ガラス繊維を含む第2のロービングを、第2の溶融熱可塑性ポリマーを含む第2の含浸槽を通過させて、引抜成形する工程と、前記ガラス繊維に前記第2の溶融熱可塑性ポリマーを含浸させることによって、ガラス長繊維複合材を作製する工程と、前記炭素長繊維複合材および前記ガラス長繊維複合材を成形することによって、導電性長繊維複合材を作る工程とを含む導電性複合材の製造方法である。
【0008】
最後に、ここで開示するのは、炭素繊維およびガラス繊維を有するロービングを、溶融熱可塑性ポリマーを有する含浸槽を通過させて、引抜成形する工程と、前記炭素繊維および前記ガラス繊維に、前記溶融熱可塑性ポリマーを含浸させることによって、導電性長繊維複合材を作製する工程と、前記導電性長繊維複合材を成形することによって製品を形成する工程とを含む導電性複合材の製造方法であって、前記製品が、約108Ω/cm2未満またはそれと等しい表面抵抗率、および約15kJ/m2を超えるかまたはそれと等しいノッチ付アイゾッド衝撃強さを有する導電性複合材の製造方法である。
【0009】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、以下の説明および実施例でより詳しく説明されるが、これらは単に例示を意図しているに過ぎないことを意味しており、当業者とって本発明についてなしえる多くの改変および変形は明白である。本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、単数形(「a」、「an」、および「the」)は、文脈で明確に規定しない限り複数の指示対象を含み得る。また、本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、「含む」という用語は、「からなる」および「本質的に〜からなる」の実施形態を含み得る。さらに、ここで開示する全ての範囲は、両端点を含み、互いに独立して組み合わせることができる。
【0010】
ここで使用する場合、いかなる量的表現も、それが関連する基本的機能に変化をもたらさない限り、近似的な用語を適用するように修正することができる。したがって「約」や「実質的に」のような用語を1つまたは複数使用して修飾される数値は、場合によっては特定された正確な数値に限定されないこともある。近似的な用語は、場合により、少なくともその数値を測定する装置の精密さに対応させることができる。
【0011】
ここで開示するのは、静電気放電および/または電磁遮断が求められる用途に使用できる導電性長繊維複合材である。この導電性長繊維複合材は、熱可塑性ポリマー、ガラス繊維、および炭素繊維を含む。この複合材中のガラス繊維および炭素繊維は、ともに長繊維であって、すなわち約2〜約50mmの長さを有する。一般に、引抜成形を含むプロセスが、導電性長繊維複合材の製造に使用される。これら複合材から製造した製品は、電荷を静電気的に放電する能力があるので、静電気塗装が可能である。
【0012】
長繊維複合材に使用される熱可塑性ポリマーは、電気絶縁性である。熱可塑性ポリマーは、限定されないが、オリゴマー、ポリマー、コポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、交互コポリマー、交互ブロックポリマー、グラフトコポリマー、星型ブロックコポリマー、アイオノマー、デンドリマーなど、または上記を少なくとも1つ含む組み合わせを含む任意の導電性絶縁材料であってよい。適切な熱可塑性ポリマーの例としては、ポリアリーレンスルフィド、ポリアルキッド、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジノフェノチアジン、ポリベンゾチアゾール、ポリピラジノキノキサリン、ポリピロメリット酸イミド、ポリキノキサリン、ポリベンズイミダゾール、ポリオキシンドール、ポリオキソイソインドリン、ポリジオキソイソインドリン、ポリトリアジン、ポリピリダジン、ポリピペラジン、ポリピリジン、ポリピペリジン、ポリトリアゾール、ポリピラゾール、ポリカルボラン、ポリオキサビシクロノナン、ポリジベンゾフラン、ポリフタリド、ポリアセタール、ポリ酸無水物、ポリビニルエーテル、ポリビニルチオエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルケトン、ポリビニルハライド、ポリビニルニトリル、ポリビニルエステル、ポリスルホネート、ポリスルフィド、ポリチオエステル、ポリスルホン、ポリスルホンアミド、ポリウレア、ポリホスファゼン、ポリシラザン、ポリオレフィン、ポリシロキサン、ポリブタジエン、ポリイソプレンなど、またはこれら熱可塑性ポリマーのうち少なくとも1種を含む組み合わせが挙げられる。
【0013】
典型的な一実施形態において、熱可塑性ポリマーはポリアミドである。ポリアミドの代表例としては、ナイロン6およびナイロン6,6である。他の典型的な一実施形態において、熱可塑性ポリマーはポリアミドおよびポリアリーレンエーテルのブレンドである。ポリアリーレンエーテルの代表例としては、General Electric Advanced Materials社製のポリフェニレンエーテルである。さらに他の典型的な一実施形態において、熱可塑性ポリマーはポリアミドおよびポリアリーレンエーテルの相容化したブレンドである。
【0014】
本プロセスに適用される熱可塑性ポリマーは、約1〜約50ニュートン秒毎平方メートル(Ns/m2)の溶融粘度を有することが有効である。一実施形態において、熱可塑性ポリマーの溶融粘度は、約30Ns/m2未満またはそれと等しい。他の一実施形態において、熱可塑性ポリマーの溶融粘度は、約10Ns/m2未満またはそれと等しい。熱可塑性ポリマーの溶融粘度は、ポリマーの分子量により決まる。
【0015】
導電性長繊維複合材の重量に対し約20〜約90重量%(wt%)の量の熱可塑性ポリマーを、長繊維複合材中で使用してもよい。一実施形態において、導電性長繊維複合材の重量に対し約30〜約70重量%(wt%)の量の熱可塑性ポリマーを、長繊維複合材中で使用してもよい。他の一実施形態においては、導電性長繊維複合材の重量に対し約35〜約65重量%(wt%)の量の熱可塑性ポリマーを、長繊維複合材に使用してもよい。さらに他の一実施形態においては、導電性長繊維複合材の重量に対し約40〜約60重量%(wt%)の量の熱可塑性ポリマーを、長繊維複合材に使用してもよい。
【0016】
一実施形態において、導電性長繊維複合材はガラス繊維および炭素繊維を含む。ガラス繊維は連続繊維であってもよい。また、ガラス繊維は、複数の連続単繊維を指してもよい。「連続繊維」または「複数の連続単繊維」という用語は、使用するプロセスの条件下で十分な強さを有するロービングまたはトウが得られる程度に長い繊維を有する繊維製品を意味し、溶融ポリマーを通過させて引っ張り出す際に、プロセスを実現不可能にする恐れのある破損が頻発しないものとする。適切な繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、ジュート、および高弾性率の合成ポリマー繊維が挙げられる。
【0017】
含浸装置の溶融ポリマーを通過させて、破損せずに引っ張り出すのに十分な強さを有するためには、繊維製品の連続繊維の大部分が一方向に配置されていて、連続繊維の大部分が配列したまま、繊維製品を溶融ポリマーを通過させて引き出すことができるようにすべきである。不規則に配置した連続繊維からなるマットのような繊維製品は、繊維体積の少なくとも40%が引き出し方向に配列されていれば、本プロセスに適している。
【0018】
連続繊維は、溶融熱可塑性ポリマーを通過させて引っ張り出すのに十分な機械的品質を有していれば、いかなる形状でもよい。連続繊維は、通常、以下「ロービング」と称す個々の繊維または単繊維の束を含み、ロービング内では実質的に全ての繊維が束の長さ部分に沿って配列している。そのようなロービングは、いくつ使用してもよい。市販されているガラスロービングの場合、各ロービングは8000までのまたはそれ以上までの連続ガラス単繊維を含み得る。6000までのまたはそれ以上までの炭素繊維を含む炭素繊維テープを使用してもよい。ロービングから織った布もまた、導電性長繊維複合材に使用するのに適している。連続繊維にサイジング処理を施してもよい。通常、サイジング処理は繊維およびマトリックスポリマー間の結合を最大限にすることを目的とする。典型的なサイジング剤は、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノシラン、および/またはエポキシシランである。
【0019】
一般的には、できるだけ繊維表面を溶融ポリマーで濡らすことが望ましい。よって、繊維が複数の単繊維を含む箇所は、その繊維を形成する個々の単繊維の表面を濡らすことが最適効果を得るために有効である。単繊維がサイジング剤またはアンカー剤で処理されている箇所では、サイジング剤が繊維とポリマーと間に入りこむため、ポリマーは繊維または単繊維と直接接触しないようになる。しかし、繊維とサイジング剤との間、およびサイジング剤とポリマーとの間に良好な接着性が達成されるならば、製品は高い曲げ率を有し、サイジング剤によって向上した特性が得られることとなる。
【0020】
有用なガラス繊維は、繊維化可能なガラス組成物であればいかなる種類からも形成することができ、「Eガラス」、「Aガラス」、「Cガラス」、「Dガラス」、「Rガラス」、「Sガラス」、およびフッ素フリーおよび/またはホウ素フリーのEガラス誘導体として一般に知られる繊維化可能なガラス組成物から調製したものを含む。大部分の補強用マットは、Eガラスから形成したガラス繊維を有し、本発明の導電性組成物に含まれる。そのような組成物およびそれからガラス単繊維を作製する方法は、当業者に周知である。通常約4〜約35マイクロメートル(μm)の単繊維の公称径を有する製品化されたガラス繊維を、導電性長繊維複合材に使用してもよい。一実施形態において、通常約9〜約35μmの単繊維の公称径を有するガラス繊維を、導電性長繊維複合材に使用してもよい。
【0021】
一実施形態において、ガラス繊維はサイジング剤を塗布したガラスストランドを含む。他の一実施形態において、ガラス繊維はサイジング剤を塗布されていない。使用するサイジング剤の量は、一般にガラス単繊維を束ねて連続ストランドとするのに十分な量である。繊維がサイジング剤を塗布されている場合、一般に、ガラス繊維には、ガラス繊維およびサイジング剤を合わせた重量に対し約0.1〜約5重量%のサイジング剤を使用することが有効である。
【0022】
一実施形態において、導電性長繊維複合材の総重量に対して約75重量%までの重量のガラス繊維が、導電性長繊維複合材中に存在する。一実施形態において、導電性長繊維複合材の総重量に対して約5〜約60重量%のガラス繊維が、導電性長繊維複合材中に存在する。他の一実施形態において、導電性長繊維複合材の総重量に対して約10〜約40重量%のガラス繊維が、導電性長繊維複合材中に存在する。
【0023】
様々な種類の導電性炭素繊維も、導電性長繊維複合材に使用することができる。炭素繊維は、通常その直径、形態、および黒鉛化の程度(形態と黒鉛化の程度は相互関連がある)に従って分類される。現在、これらの特性は、炭素繊維を合成する際に使用する方法によって決定される。例えば、約5μmまで小さくなった直径を有する炭素繊維、および繊維軸に平行なグラフェンリボン(放射状、平面、または円周上に配置)が、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、またはピッチを含む繊維形状の有機前駆体の熱分解により、商業生産されている。必要に応じて、炭素繊維は任意選択でサイジング剤を塗布されていてもよい。
【0024】
炭素繊維は、通常約1000ナノメートル(1μm)を超えるかまたはそれと等しく、約30μmまでの直径を有する。一実施形態において、繊維は約2〜約10μmの直径を有することができる。他の一実施形態では、繊維は約3〜約8μmの直径を有することができる。
【0025】
一実施形態において、導電性長繊維複合材の総重量の約60重量%までの量の炭素繊維が使用されている。一実施形態において、導電性長繊維複合材の重量に対して約1重量%〜約50重量%の量の炭素繊維が使用されている。他の一実施形態では、導電性長繊維複合材の重量に対して約2重量%〜約30重量%の量の炭素繊維が使用されている。さらに他の一実施形態では、導電性長繊維複合材の重量に対して約3重量%〜約25重量%の量の炭素繊維が使用されている。
【0026】
長繊維複合材中のガラス繊維および炭素繊維は、両方とも長い繊維長を有することができる。本開示において、長い繊維長とは約2mm〜約50mmである。一実施形態において、ガラス長繊維は炭素短繊維と混合することができる。短い繊維長とは、約2mm未満またはそれと等しい長さである。炭素短繊維を炭素長繊維と組み合わせて使用することにより、長繊維複合材に導電性を発現させることができるが、このときの炭素繊維の添加量は炭素長繊維を使用した場合の添加量とは異なる。炭素長繊維と炭素短繊維との様々な組み合わせを導電性長繊維複合材に使用することによって、数々の物性を実現することができる。典型的な一実施形態では、炭素繊維は長繊維である。
【0027】
他の導電性フィラーを長繊維複合材に添加することによって、複合材の導電性を高めることができる。このような導電性フィラーの例としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、金属フィラー、導電性非金属フィラーなど、またはこれら導電性フィラーの少なくとも1種を含む組み合わせがある。
【0028】
導電性フィラーは、導電性長繊維複合材の重量に対して約0.01〜約50重量%の添加量で使用してもよい。一実施形態において、導電性フィラーは、導電性長繊維複合材の重量に対して約0.25重量%〜約30重量%の量で使用してもよい。他の一実施形態において、導電性フィラーは、導電性長繊維複合材の重量に対して約0.5重量%〜約20重量%の量で使用してもよい。さらに他の一実施形態において、導電性フィラーは、導電性長繊維複合材の重量に対して約1重量%〜約10重量%の量を使用してもよい。
【0029】
一実施形態において、導電性長繊維複合材の一製造方法では、熱可塑性樹脂をバインダーとして使用して、ガラス繊維および炭素繊維を含むロービングを一緒におよび同時に引抜成形することができる。熱可塑性樹脂は、溶融の状態または粉末懸濁の状態でもよい。したがって、引抜成形プロセスによって製造された単一のペレットは、ガラス長繊維および炭素長繊維の両方を含有することとなる。代わりに、ガラス長繊維および炭素長繊維を含む別々のロービングを、別々の工程で引抜成形することも可能である。含浸後に形成した複合材を、ペレタイザーでペレット化することができる。
【0030】
それぞれのペレットは、ペレット長と同じ長さの繊維を含む。一般に、ペレットは約2mm〜約50mmの長さを有する。典型的なペレット長は25mmである。ガラス長繊維または炭素長繊維を含むペレットをさらに成形機で混合することにより、導電性長繊維複合材を含有する製品を製造することができる。
【0031】
本実施形態において、炭素繊維を含む第1のロービングは、第1の溶融熱可塑性ポリマーを含む第1の含浸槽を通過させて引抜成形する。炭素繊維に第1の溶融熱可塑性ポリマーを含浸させることによって、炭素長繊維複合材を作製する。炭素長繊維複合材は、第1のダイを通過させて引っ張り出した後、ペレット化する。さらに、ガラス繊維を含む第2のロービングは、第2の溶融熱可塑性ポリマーを含む第2の含浸槽を通過させて引抜成形する。ガラス繊維に第2の溶融熱可塑性ポリマーを含浸させることによって、ガラス長繊維複合材を作製する。炭素長繊維複合材は、第2のダイを通過させて引っ張り出した後、ペレット化する。その後、ガラス長繊維複合材および炭素長繊維複合材は、成形機内で導電性長繊維複合材へと成形される。典型的な成形機は、射出成形機である。
【0032】
一実施形態において、第1のロービングおよび第2のロービングは同一でもよく、異なってもよい。第1のロービングおよび第2のロービングが同一であるとき、炭素繊維およびガラス繊維は同一のロービングに含まれる。同様に、第1の含浸槽および第2の含浸槽は同一でもよく、異なってもよい。言い換えれば、炭素繊維およびガラス繊維のストランドは、一緒かつ同時に、同一の含浸槽で含浸することができる。ペレット化の後で、ペレットを射出成形機で成形して、導電性長繊維複合材を形成することができる。
【0033】
第1のロービングが第2のロービングと同一でないとき、第1のロービングおよび第2のロービングは、別々の含浸槽で含浸することができる。炭素長繊維複合材およびガラス長繊維複合材は、その後ペレット化され、射出成形機で一緒に成形されることによって、導電性長繊維複合材を形成する。
【0034】
さらに他の一実施形態において、導電性長繊維複合材の他の製造方法では、ガラス繊維を別々に単一の工程で引抜成形することでガラス長繊維複合材ペレットを形成することができる。同様に、炭素繊維を別々に単一の工程で引抜成形することで、炭素長繊維複合材ペレットを形成することができる。ただし、ガラス長繊維複合材および炭素長繊維複合材に含浸する溶融熱可塑性樹脂は、導電性フィラーを含んでもよい。したがって、導電性長繊維複合材は、炭素長繊維の他に、導電性フィラーを追加的に含んでいる。
【0035】
導電性長繊維複合材は、滑らかな表面仕上げになるように成形することができる。一実施形態において、導電性長繊維複合材は、成形後にクラスAの表面仕上げを有していてもよい。導電性長繊維複合材から成形した製品は、約1012Ω・cm未満またはそれと等しい電気的体積固有抵抗(SVR)を有していてもよい。一実施形態において、成形品は約108Ω・cm未満またはそれと等しい電気的体積抵抗を有していてもよい。他の一実施形態において、成形品は約105Ω・cm未満またはそれと等しい電気的体積抵抗を有していてもよい。成形品は、また、約1012オーム/平方センチメートル(Ω/cm2)未満またはそれと等しい表面抵抗率を有していてもよい。一実施形態において、成形品は、また、約108Ω/cm2未満またはそれと等しい表面抵抗率を有していてもよい。他の一実施形態において、成形品は、また、約104Ω/cm2未満またはそれと等しい表面抵抗率を有していてもよい。さらに他の一実施形態において、成形品は、また、約102Ω/cm2未満またはそれと等しい表面抵抗率を有していてもよい。
【0036】
導電性長繊維複合材は、また、多数の高温、高強度の用途に好都合の機械的性質を示す。一実施形態において、導電性長繊維複合材は、約10キロジュール/平方メートル(kJ/m2)を超えるかまたはそれと等しいノッチ付アイゾッド衝撃強さを有する。他の一実施形態において、導電性長繊維複合材は、また、約15kJ/m2を超えるかまたはそれと等しいノッチ付アイゾッド衝撃強さを有することが有効である。さらに他の一実施形態において、導電性長繊維複合材は、また、約20kJ/m2を超えるかまたはそれと等しいノッチ付アイゾッド衝撃強さを有することが有効である。さらなる他の一実施形態において、導電性長繊維複合材は、また、約30kJ/m2を超えるかまたはそれと等しいノッチ付アイゾッド衝撃強さを有することが有効である。
【0037】
導電性長繊維複合材は、約8ギガパスカル(GPa)を超えるかまたはそれと等しい曲げ弾性率を示すことが有効である。一実施形態において、導電性長繊維複合材は、約10GPaを超えるかまたはそれと等しい曲げ弾性率を示す。
【0038】
上記の通り、ここに記載された熱可塑性組成物は、多様な商業製品の製造に有効に用いることができる。一実施形態において、典型的な製品はチップトレイである。また、自動車の内装、航空機、ランプの笠など、寸法安定性および/または導電性を有することが有効な他の用途にも使用できる。他の一実施形態において、典型的な製品は、静電塗装する自動車の外装ボディパネルである。
【0039】
典型であって限定されない以下の実施例は、ここで記載された導電性長繊維複合材を製造するための組成および方法を例示するものである。
【0040】
〔実施例〕
(実施例1)
本実施例は、ガラス長繊維および炭素長繊維の両方を含む、引抜成形された導電性長繊維複合材の製造を実証するために実施した。最初に、炭素長繊維およびガラス長繊維をナイロン6,6を通過させて引き抜くことにより、引抜成形された複合材を作製した。引抜成形された複合材は25重量%の炭素長繊維および30重量%のガラス長繊維を含んでいた。引抜成形された複合材は、ガラス長繊維のみを含むナイロン6,6[General Electric Advanced Materials社製のVERTON RF−7007 EM HS BK9001(登録商標)]、またはカーボンブラックを含むナイロン6,6[やはりGeneral Electric Advanced Materials社製のSTAT−KON R−1 HI(登録商標)]のいずれかとブレンドして、長繊維複合材を作製した。この長繊維複合材は、10cm×12.5cmの寸法で長方形に成形されたプラークの形状を有していた。この試料を、220 Ton Milacron射出成形機で成形した。表1は、成形した組成、およびこれら試料の体積固有抵抗値を示している。
【0041】
表1の試料#1〜7は、引抜成形された複合材を、VERTON RF−7007 EM HS BK9001(登録商標)と一緒に成型して得られた成形組成物であり、一方、表1の試料#8〜15は、引抜成形された複合材をSTAT−KON R−1 HI(登録商標)とブレンドすることによって得られたものであった。試料#1〜15は、導電性長繊維複合材の総重量に対し、3.5〜11重量%の炭素繊維を含む。
【0042】
表1は、各試料の表面抵抗率を示している。表面抵抗率の測定は、Keithley抵抗率計を用いて行った。以下の表1は、驚くほど少量の導電性添加剤しか使用していないものの十分な電導性を有していることを示している。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果によると、炭素長繊維およびガラス長繊維のみを含む試料#1〜7は、炭素長繊維およびガラス長繊維の他にカーボンブラックをも含む試料#8〜15と、概ね同等またはより高い表面抵抗率を有する。
【0045】
(実施例2)
本実施例は、炭素長繊維を含む導電性複合材の特性と、炭素短繊維を含む導電性複合材の特性とを比較するために実施した。前述の通り、炭素長繊維は約2mmより長いかまたはそれと等しい長さを有し、一方、炭素短繊維は2mm未満の長さである。実験用プラークは、ガラス長繊維複合材と、炭素長繊維複合材または炭素短繊維複合材のいずれかとのブレンドを射出成形することにより製造した。空気焼失度はガラス繊維がどれだけ存在するかを表し、窒素焼失度は繊維が全部でどれだけ存在するかを表す。実験の詳細は、以下の表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から、炭素長繊維を有する試料(試料#16)は、炭素短繊維を有する試料(試料#17)よりも改善した衝撃および弾性特性を示すことが明らかであろう。したがって、ガラス長繊維および炭素長繊維を含む導電性長繊維複合材は、ガラス長繊維および炭素短繊維を含む複合材よりも優れた特性を実現する。
【0048】
(実施例3)
本実施例は、導電性長繊維複合材が様々の異なる樹脂と組み合わせて製造可能であることを実証するために実施した。表は、2種類の組成を示しており、試料#18はナイロン6,6を含み、試料#19はナイロン6,6とポリフェニレンエーテルとの相容化したブレンドを含む。それぞれの導電性長繊維複合材の組成および特性を、以下の表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3から、導電性長繊維複合材は、様々な熱可塑性樹脂と組み合わせて効果的に製造できることが明白であろう。
【0051】
(実施例4)
本実施例では、広い範囲の添加量の炭素長繊維を使用して導電性長繊維複合材を製造することが可能なことを示している。炭素長繊維の量は、導電性長繊維複合材の総重量に対して約3.5〜約10.5重量%まで変化している。ガラス長繊維の量は、導電性長繊維複合材の総重量に対して約19〜約48重量%まで変化している。これらの例は、また、本発明が繊維の総添加量について狭い範囲に限定しないことを示している。これらの例を表4に示す
【0052】
【表4】

【0053】
表4に示す結果により、炭素長繊維は、導電性長繊維複合材中で効果的に機械的および電気的特性を発現させることが証明される。これら相乗効果による特性は、炭素短繊維と、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素粒子のみを含む他の長繊維複合材では通常達成することはできない。導電性長繊維複合材は、静電塗装される外装ボディパネルなどの自動車用途に有効に使用することができる。これらは、また、集積回路用トレイなどに使用することもできる。
【0054】
本発明について典型的な実施形態を示して説明してきたが、本発明において、その範囲から逸脱することなく、様々な変更をなしえることおよびその要素を等価物で代用し得ることは、当業者であれば理解されよう。さらに、特定の状況または素材を本発明の教示に適応させるために、本発明の本質的範囲から逸脱することなく、多くの改変を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を遂行するのに最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されないことを意味している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、炭素長繊維、およびガラス長繊維を含む導電性長繊維複合材であって、前記炭素長繊維および前記ガラス長繊維が、2mm以上の長さを有し、
前記導電性長繊維複合材から成形された製品が、108Ω/cm2以下の表面抵抗率、および10kJ/m2以上のノッチ付アイゾッド衝撃強さを示す導電性長繊維複合材。
【請求項2】
前記導電性長繊維複合材から成形された製品が、104Ω/cm2以下の表面抵抗率、および15kJ/m2以上のノッチ付アイゾッド衝撃強さを有する請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記導電性長繊維複合材から成形された製品が、104Ω/cm2以下の体積固有抵抗率、および20kJ/m2以上のノッチ付アイゾッド衝撃強さを有する請求項1に記載の複合材。
【請求項4】
前記炭素長繊維が、繊維状の有機前駆体の熱分解によって製造される請求項1に記載の複合材。
【請求項5】
前記炭素長繊維が、ピッチ、フェノール樹脂、またはポリアクリロニトリルから得られる請求項1に記載の複合材。
【請求項6】
前記導電性長繊維複合材の重量に対して、炭素長繊維を50重量%までの量で含む請求項1に記載の複合材。
【請求項7】
前記ガラス長繊維が、Eガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラス、Rガラス、Sガラス、またはこれらガラス繊維のうち少なくとも1種を含む組み合わせである請求項1に記載の複合材。
【請求項8】
前記導電性長繊維複合材の重量に対して、ガラス長繊維を75重量%までの量で含む請求項1に記載の複合材。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリアリーレンスルフィド、ポリアルキッド、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジノフェノチアジン、ポリベンゾチアゾール、ポリピラジノキノキサリン、ポリピロメリット酸イミド、ポリキノキサリン、ポリベンズイミダゾール、ポリオキシンドール、ポリオキソイソインドリン、ポリジオキソイソインドリン、ポリトリアジン、ポリピリダジン、ポリピペラジン、ポリピリジン、ポリピペリジン、ポリトリアゾール、ポリピラゾール、ポリカルボラン、ポリオキサビシクロノナン、ポリジベンゾフラン、ポリフタリド、ポリアセタール、ポリ酸無水物、ポリビニルエーテル、ポリビニルチオエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルケトン、ポリビニルハライド、ポリビニルニトリル、ポリビニルエステル、ポリスルホネート、ポリスルフィド、ポリスルホンアミド、ポリウレア、ポリホスファゼン、ポリシラザン、ポリシロキサン、ポリオレフィン、またはこれら熱可塑性ポリマーの少なくとも1種を含む組み合わせである請求項1に記載の複合材。
【請求項10】
少なくとも1種の導電性フィラーをさらに含む請求項1に記載の複合材。
【請求項11】
前記少なくとも1種の導電性フィラーが、2mm未満の長さを有する炭素短繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、金属フィラー、導電性非金属フィラー、またはこれらの導電性フィラーのうちの少なくとも1種を含む組み合わせから選択される請求項1に記載の複合材。
【請求項12】
請求項1の複合材から得られた製品。
【請求項13】
自動車に使用される請求項12に記載の製品。

【公開番号】特開2011−174081(P2011−174081A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89049(P2011−89049)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【分割の表示】特願2008−513845(P2008−513845)の分割
【原出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(309001610)サビック イノベーティブ プラスチックス イーペー ベスローテン フェンノートシャップ (16)
【Fターム(参考)】