説明

熱変換組成物、熱変換組成物の製造方法、熱変換組成物塗膜の形成方法

【課題】従来の遮熱塗料は、主に高反射塗料であり、光沢のあるものか白色や灰色等の淡色でないと十分な反射効果が期待できないものであった。また、淡色であるため汚れやすく、汚れてしまうと反射性能が低下し、結果的に遮熱効果が低減してしまうという欠点を有している。
【解決手段】無機微粒子の空隙内又は/及び表面に−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を固着した熱変換粒子からなる熱変換粒子粉末を製造する熱変換粒子粉末製造ステップと、熱変換粒子粉末製造ステップにて製造された熱変換粒子粉末を、塗布後乾燥状態にて前記有機材料の融点よりも高い融点をもつ塗膜形成用結合材に混練して塗り材料とする混練ステップと、からなる熱変換組成物の製造方法と、その熱変換組成物、熱変換組成物塗膜の形成方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変換組成物、熱変換組成物の製造方法、熱変換組成物塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の増加による地球温暖化に加え、都市部における大気温度の上昇は、太陽熱を受けた地表面からの熱に人工排熱が加わって生じた問題とされている。例えば、地表面の人工化の進行に伴って生じる対流顕熱の増加、緑の減少に伴う蒸発・潜熱の減少、人工排熱の増加に伴う人工顕熱の増加が、大気温度の上昇に影響を与えているものと思われる。
【0003】
当該問題点に対して、道路、公園、建築物等における遮熱性・高反射塗料の適用がヒートアイランドの主要な対策として提唱されている。当該塗料としては種々のものが存在する。例えば、特許文献1においては、中空セラミック粒子を所定量含有することにより、塗膜の遮熱効果を向上させる塗料が開示されている。また、特許文献2においては、ガラスビーズの光の反射性能を利用して遮熱効果を高めることが可能な充填剤が開示されている。また、特許文献3においては、アルミニウム粒子を所定量含有することにより、反射性能を高め遮熱効果を向上させる塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−23277
【特許文献2】特開2004−175034
【特許文献3】特開2007−16558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在ヒートアイランド対策として推奨されている遮熱塗料は、主に高反射塗料(太陽光を高反射させることで蓄熱させない塗料)であり、光沢のあるものか白色や灰色等の淡色でないと十分な反射効果が期待できないものであった。また、淡色であるため汚れやすく、汚れてしまうと反射性能が低下し、結果的に遮熱効果が低減してしまうという欠点を有している。当該汚れの原因としては、大気中の粉塵、車塵など様々であり、それらが塗膜に堆積し、複合的に反射を阻害し、同時に遮熱・断熱効果をも阻害してしまうという問題がある。
【0006】
以上の課題を解決するため、無機微粒子の空隙内又は/及び表面に−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を固着した熱変換粒子からなる熱変換粒子粉末を製造する熱変換粒子粉末製造ステップと、熱変換粒子粉末製造ステップにて製造された熱変換粒子粉末を、塗布後乾燥状態にて前記有機材料の融点よりも高い融点をもつ塗膜形成用結合材に混練して塗り材料とする混練ステップと、からなる熱変換組成物の製造方法を提案する。また、当該熱変換組成物の製造方法にて製造された熱変換組成物を提案する。
【0007】
また、上記の熱変換組成物の製造方法にて製造された塗り材料を準備する準備ステップと、準備ステップにて準備された塗り材料を塗装対象物に対して塗布する塗布工程と、塗布工程にて塗布された塗り材料に含まれている溶媒を乾燥させて塗り材料から溶媒を除き固体状の熱変換組成物塗膜とする工程と、からなる熱変換組成物塗膜の形成方法を提案する。
【発明の効果】
【0008】
以上の構成をとる本発明により、塗り材料の成分として含有する有機材料の融点より低い温度から融点以上まで温度上昇がある場合には融解熱を吸収し、温度上昇を抑制することが可能になる。また、含有する有機材料の融点(凝固点)より高い温度から融点(凝固点)以下まで温度低下がある場合には凝固熱を放出し温度低下を抑制する効果がある。つまり、適当な融点を有する有機材料を選択することにより、大きな温度変化を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】熱変換組成物の製造方法のフローチャートを示した図
【図2】熱変換組成物塗膜の形成方法のフローチャートを示した図
【図3】熱源照射後の時間経過に伴う金属板の表面の温度上昇と裏面の温度上昇の様子を示した図
【図4】遮熱性を判定する実験結果のテーブルデータを示した図
【図5】珪藻土微粉末全体のうちラウリン酸が固着された割合と表面の温度上昇の関係を示した図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施しうる。実施例と請求項の相互の関係は、以下のとおりである。実施例1は主に請求項1、2、3、4、5、7などに関し、実施例2は主に請求項6などに関する。
【実施例1】
【0011】
<概要>
本実施例の製造方法により製造される熱変換組成物は、−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を含有しており、当該有機材料の融点より低い温度から融点以上まで温度上昇がある場合には融解熱を吸収し温度上昇を抑制する効果がある。また、有機材料の融点(凝固点)より高い温度から融点(凝固点)以下まで温度低下がある場合には凝固熱を解放し温度低下を抑制する作用がある。つまり、適当な融点を有する有機材料を選択することにより、大きな温度変化を抑制することが可能になる。
【0012】
<熱変換組成物の製造方法>
図1は、本実施例の熱変換組成物の製造方法のフローチャートを示した図である。この図にあるように、本実施例の熱変換組成物の製造方法は、「熱変換粒子粉末製造ステップ」0101と、「混練ステップ」0102と、からなる。
【0013】
「熱変換粒子粉末製造ステップ」では、無機微粒子の空隙内又は/及び表面に−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を固着した熱変換粒子からなる熱変換粒子粉末を製造する処理を行う。「混練ステップ」では、熱変換粒子粉末製造ステップにて製造された熱変換粒子粉末を、塗布後乾燥状態にて前記有機材料の融点よりも高い融点をもつ塗膜形成用結合材に混練して塗り材料とする処理を行う。以下、各ステップについて具体的に説明する。
【0014】
(熱変換粒子粉末製造ステップ)
【0015】
上記のように、熱変換粒子粉末製造ステップは、無機微粒子の空隙内又は/及び表面に−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を固着した熱変換粒子からなる熱変換粒子粉末を製造する工程である。
【0016】
無機微粒子としては、炭酸カルシウム微粉末、珪酸カルシウム水和物、ゼオライト微粉末、マイカ微粉末、軽焼マグネシア、珪藻土微粉末、バーミキュライト微粉末、などを使用することができる。また、無機物質を脂肪酸により処理されたものも含み、脂肪酸処理されたバーミキュライト・珪藻土・ゼオライト・炭酸カルシウムなども使用することができる。
【0017】
なお、無機微粒子は多孔性無機微粒子であることが好ましい。珪藻土微粉末やゼオライト微粉末、バーミキュライト微粉末等の組織内に空隙を有する物質(多孔性無機微粒子)は、空隙を有さない微粒子よりも比表面積[cm/g]が大きく、有機材料を含浸するのに特に適している。多くの有機材料を含浸することにより、多くの融解熱を吸収するため温度上昇の変化がさらに抑えられ、また多くの凝固熱を解放するため温度低下の変化がさらに抑えられることになる。
【0018】
また、炭酸カルシウム微粉末等の不定形粒子も比表面積を大きくすることが可能であるため、これを用いることも可能である。炭酸カルシウム微粉末の粒径が小さいほど比表面積が大きくなるが、具体的には粒子径で150μm以下、又は空気透過法による比表面積で5000[cm/g]以上まで細かくすることが好ましい。
【0019】
また、−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料としては、特殊パラフィン類、長鎖アルコール、長鎖脂肪酸、脂肪酸トリグリセリド、アシルグリセロール、長鎖脂肪酸エステル、またはこれらの物質を組み合わせて使用することができる。
【0020】
特殊パラフィン類としては、例えばn−デカン(融点:−30℃)、n−ウンデカン(融点:−25℃)、n−ドデカン(融点:−8℃)、n−トリデカン(融点:−5℃)、n−テトラデカン(融点:8℃)、n−ペンタデカン(融点:10℃)、n−ヘキサデカン(融点:17℃)、n−ヘプタデカン(融点:22℃)、n−オクタデカン(融点:28℃)、n−ナノデカン(融点:32℃)、イコサン(融点:36℃)、ドコサン(融点:44℃)、またはこれらの物質を組み合わせて使用することができる。
【0021】
また、長鎖アルコールとしては、例えばカプリルアルコール( 融点:7 ℃ )、ラウリルアルコール( 融点:24℃)、ミリスチルアルコール( 融点:38℃)、ステアリルアルコール( 融点:58℃)、またはこれらの物質を組み合わせて使用することができる。
【0022】
また、長鎖脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸(融点:44―46℃)、ミリスチン酸(融点:54℃)、マルガリン酸(融点:61℃)、パルチミン酸( 融点:63 ℃ )、ステアリン酸(融点:69−72℃)、またはこれらの物質を組み合わせて使用することができる。
【0023】
また、脂肪酸トリグリセリドとしてはやし油(融点:20−28℃)、パーム核油(融点:24−30℃)、またはこれらの物質を組み合わせて使用することができる。
【0024】
また、アシルグリセロールとしては、α、βトリカプリン(融点:−15℃、31.4℃)、α、βトリラウリン(融点:15、46.5℃)、α、βトリミリスチン(融点:33、56.9℃)、α、βトリパルミチン(融点:45、65.4℃)、α、βトリステアリン(融点:54.3、72.4℃)、またはこれらの物質を組み合わせて使用することができる。
【0025】
また、長鎖脂肪酸エステルとしては、例えばラウリン酸メチル( 融点:5℃)、ミリスチン酸メチル( 融点:19℃)、パルミチン酸メチル(融点:30℃)、ステアリン酸メチル(融点:38℃)、ステアリン酸ブチル(融点:25℃)、アラキジン酸メチル( 融点:45℃)、またはこれらの物質を組み合わせて使用することができる。
【0026】
一般的に有機材料そのものは撥水性を有し、水性媒体に均一に導入することができないため、水性媒体との相性がいい無機微粒子を有機材料の含浸材として用い、水性媒体に導入しやすいように固着処理を行う。具体的な処理としては、例えば以下のように行うことが考えられる。
【0027】
有機材料を無機微粒子の空隙又は/及び表面に固着(含浸)させるために、予め有機材料の融解温度以上にヒーター等で加熱した容器に無機微粒子を所定量投入して、攪拌混合し、有機材料と無機粒子の均整化を図る。この場合、容器の加温には熱風や熱オイルが利用できる。また、攪拌混合には容器に付設された羽根等が高速回転できるものが望ましい。なお、有機材料を別に融解させてから無機微粒子と攪拌混合することも可能である。無機微粒子と有機材料が適正に混合されれば、混合品は粉末状で、水に混合した場合に浮遊する状態となる。一方、有機材料の割合が多い場合、容器の内面に有機材料が付着する状態となる。無機微粒子と有機材料の割合が適正かどうかはその状態を見て判断することや手にとって二次粒子(粗大粒子や凝集物等)の有無より判断することが可能である。
【0028】
有機材料の無機微粒子に対する含浸量としては、無機微粒子100重量部に対して2〜100重量部とする。好ましくは、無機微粒子100重量部に対して10〜70重量部とする。例えば、炭酸カルシウム微粉末に対して有機材料を混合する場合は重量比で約10%程度導入可能である。また、珪藻土微粉末やゼオライト微粉末、バーミキュライト微粉末のような細孔を有する無機微粒子に対しては有機材料を約50〜60%程度まで導入可能である。有機材料の融解熱・凝固熱を利用する熱変換粒子を製造する場合には、無機微粒子に対して有機材料を最大の添加量まで導入することが好ましい。
【0029】
上記の処理により無機微粒子の空隙内又は/及び表面に−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を固着した熱変換粒子からなる熱変換微粒子粉末が製造される。当該熱変換微粒子粉末は、以下で説明する混練ステップにて利用される。
【0030】
(混練ステップ)
【0031】
上記のように、混練ステップは、熱変換粒子粉末製造ステップにて製造された熱変換粒子粉末を、塗布後乾燥状態にて前記有機材料の融点よりも高い融点をもつ塗膜形成用結合材に混練して塗り材料とする工程である。
【0032】
塗膜形成用結合材は、塗り材料のベースとなる物質であり、有機材料の融点よりも高い融点を持つものであれば種々のものを用いることが可能である。ただし、塗膜形成用結合材は水性樹脂を主成分とするものを用いることが好ましい。水性樹脂を主成分とする塗膜形成用結合材を用いることにより、熱変換粒子の表面に対して特別な被覆加工(例えば、珪酸ゲルによる表面被覆加工など)をしなくても、有機材料が塗膜形成用結合材に溶け出すことを抑制することが可能になる。
【0033】
塗膜用形成用結合材として用いる水性樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルション及びコロイダルシリカを含有することを特徴とするものを使用することができる。コロイダルシリカは、媒体となる水の除去・蒸発により被膜を形成し、再度水に分散しない被膜を形成することが可能である。ただし、コロイダルシリカのみでは被膜形成作用が弱いため、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルション等の有機材料を配合することが好ましい。
【0034】
熱変換粒子粉末を塗膜形成結合材に混練して塗り材料とする処理としては、例えば塗膜形成用結合材に対して熱変換粒子粉末を所定量投入し、高速攪拌することにより均一に混和させることが考えられる。熱変換粒子粉末の塗膜形成用結合材に対する添加量は、塗膜形成用結合材100重量部に対して5〜60重量部とする。塗膜形成塗り材料を均整化するために、時々混和物質の粘性を確認し、極度に粘度が高い場合は少し水を加え、適正な粘度になるように調整することが好ましい。攪拌を完了した後は、ろ過装置を用いてろ過し、粗大粒子や凝集物を除去する。
【0035】
また、遮断熱効果を高めるために塗膜形成用結合材に特殊顔料(セラミック系遮熱顔料、酸化チタン系顔料、複合酸化物顔料等)や超微細な特殊バルーン(セラミックバルーン、ガラスバルーン、プラスチックバルーン等)、特殊金属酸化物等を加えることもできる。特殊顔料の使用により、日射反射率のうち特に蓄熱に影響する近赤外線領域(波長:750〜2100nm)の太陽光の反射率を高め、濃色でも60%以上の近赤外線反射率を確保することが可能になる。
【0036】
また、特殊バルーンは塗膜内部で断熱材として作用し、塗膜裏面への熱伝導を阻止し、夏季においては裏面温度の上昇を抑えることができ、冬季においては下地からの冷気の熱伝導を抑え、表面の温かみを示すことができる。また、塗料中の特殊金属酸化物(酸化チタン等)の光触媒作用により、太陽熱エネルギーが電気エネルギーに変換されるため、塗膜中での熱消費作用を行うことが可能になる。
【0037】
また、塗膜に疎水性を付与するために塗膜形成用結合材に撥水材を加えることも可能である。特に、撥水材の材料としては、トルエンフリーアルキルシリル誘導体で、反応基を有するものが好ましい。例えば、トリメチルシリルスルホン酸ソーダー、トリエチルシリルスルホン酸ソーダー、トリメチルシリルアミン、ポリアルキルシロキサン、トリメチルシリルカルボン酸ソーダー、またはこれらの化合物を溶解し、かつトルエンを除去している物質等を使用することができる。これらの物質は、コロイダルシリカ、または(メタ)アクリル酸エチル系ポリマーエマルジョンと反応して、耐候性の強い物質を形成する。また、シリカ系塗料の多孔質性能を損なうことなく、優れた超撥水性を発揮する。
【0038】
なお、塗膜形成用結合材にその他の有色顔料や体質顔料、錆び止め顔料、増量剤、充填剤、分散剤、粘土調節剤、消泡剤等の一般塗料に使用される材料を含めることも当然に可能である。
【0039】
<作用>
本実施例の製造方法により製造される熱変換組成物は、−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を含有しており、当該有機材料の融点より低い温度から融点以上まで温度上昇がある場合には融解熱を吸収し温度上昇を抑制する作用を有する。また、有機材料の融点(凝固点)より高い温度から融点(凝固点)以下まで温度低下がある場合には凝固熱を解放し温度減少を抑制する作用を有する。
【0040】
例えば、有機材料としてラウリン酸(融点:44―46℃)を用いる場合、当該融点より低い温度から融点以上に向けて温度が上昇すると、融点においてラウリン酸が固体状態から液体状態へ相変化する。当該相変化を行うにあたってラウリン酸は融解熱を吸収するため、その分温度上昇が抑制されることになる。
【0041】
また、有機材料としてラウリン酸メチル( 融点:5℃)を用いる場合、当該融点よりも高い温度から融点以下に向けて温度が低下すると、融点(凝固点)においてラウリン酸メチルが液体状態から固体状態へ相変化する。当該相変化を行うにあたってラウリン酸メチルは凝固熱を放出するため、その分温度低下が抑制されることになる。
【0042】
<用途>
本実施例の製造方法により製造される熱変換組成物は、以下で述べる用途で用いることが可能である。例えば、アスファルト面やコンクリート面に塗ることにより、照り返しが少なく、夏に涼しく冬に暖かい舗装面を作ることができ、ヒートアイランド現象を抑えることが可能になる。
【0043】
また、建物の外壁に塗ることにより、遮熱性を付与し、併せて内壁や天井にも適用すれば夏涼しく冬暖かい快適な環境を作り、冷暖房等の光熱費を低減することが可能になる。また、太陽発電のパネルの裏面に塗布することによって、当該パネルを設置する屋根や壁面等の温度上昇を抑制することが可能になる。
【0044】
また、瓦・スレート・金属(鋼性波板・折半、トタン、アルミ)等の屋根面に塗ることによって、夏に涼しい作業環境を作ることができ、省エネルギー・二酸化炭素低減に貢献する。特に、家畜舎等の畜産施設では、夏季の暑熱環境下で、家畜の生態・行動・生理機能が変化し、環境温度が原因となって生産機能が低下するような疾病の発生・減産・繁殖の低下などの被害が発生することもあり、本発明の熱変換組成物の適用は特に有効である。
【0045】
<効果>
本実施例の製造方法により製造される熱変換組成物を塗り材料として用いることによって、温度上昇や温度低下を抑制したりすることが可能になり、所望の温度環境を整えやすくなる。
【実施例2】
【0046】
<概要>
本実施例の形成方法により形成される熱変換組成物塗膜は、例えば融点が30〜60℃程度の有機材料を含有する場合は、夏季などにおいて外壁の温度上昇を抑制するための塗膜として利用することが可能になる。また、例えば融点が−20〜10℃程度の有機材料を含有する場合は、冬季などにおいて室内温度の低下を抑制するための塗膜として利用することもできる。また、上記比較的高めの融点を有する有機材料と比較的低めの融点を有する有機材料を合わせて含有する塗膜を用いることにより、一年を通して温度環境をより快適に整えることも可能になる。
【0047】
<熱変換組成物塗膜の形成方法>
図2は、本実施例の熱変換組成物塗膜の形成方法のフローチャートを示した図である。この図にあるように、本実施例の熱変換組成物の製造方法は、「熱変換粒子粉末製造ステップ」0201と、「混練ステップ」0202と、「準備ステップ」0203と、「塗布ステップ」0204と、「塗膜形成ステップ」0205と、からなる。
【0048】
「熱変換粒子粉末製造ステップ」と、「混練ステップ」に関しては、基本的に実施例1で説明したものと同様である。ただし、混練ステップにて用いる塗膜形成用結合材は水性樹脂であることを特徴とする。当該水性樹脂を用いることにより、有機材料の融点よりも高い温度環境においても、塗膜形成に至る作業工程を行いやすくなる。
【0049】
「準備ステップ」では、上記「熱変換粒子粉末製造ステップ」及び「混練ステップ」の工程からなる熱変換組成物の製造方法にて製造された塗り材料を準備する処理を行う。また、「塗布ステップ」では、準備ステップにて準備された塗り材料を塗装対象物に対して塗布する処理を行う。また、「塗膜形成ステップ」では、塗布ステップにて塗布された塗り材料に含まれている溶媒を乾燥させて塗り材料から溶媒を除き固体状の熱変換組成物塗膜とする処理を行う。以下、「準備ステップ」と「熱変換粒子粉末製造ステップ」と「塗膜形成ステップ」について説明する。
【0050】
(準備ステップ)
【0051】
上記のように、「準備ステップ」は上記熱変換組成物の製造方法にて製造された塗り材料を準備する工程である。例えば、製造された塗り材料をパレット等に広げ、ローラーへの付着の確認、塗布性の確認を行う。ここで、塗装対象物に対して均一に塗布できるように塗り材料がローラーに均一に付着するようにする。
【0052】
(塗布ステップ)
【0053】
上記のように、「塗布ステップ」は準備ステップにて準備された塗り材料を塗装対象物に対して塗布する工程である。例えば、塗装対象物に対して塗り材料を付着させたローラーで塗布する。一回の塗布量は厚みで0.1mm以下であり、以下に述べる塗膜形成ステップと塗布ステップとを交互に繰り返し、所定の塗布厚とする。塗布厚は0.1mm〜1mm程度とすることが好ましい。尚、塗布方法としてはローラーだけではなく、はけ塗りや吹きつけでも行うことができる。
【0054】
「塗膜形成ステップ」では、塗布ステップにて塗布された塗り材料に含まれている溶媒を乾燥させて塗り材料から溶媒を除き固体状の熱変換組成物塗膜とする処理を行う。ここで、乾燥させる処理は、自然乾燥によるものも考えられるが、赤外線ランプ等の熱源を用いて乾燥させることも可能である。なお、乾燥させた段階で膜厚が十分確保できなかった場合は、塗布ステップの処理を再度行う。
【0055】
<熱変換組成塗膜の遮熱性>
上記熱変換組成物塗膜の形成方法により形成された熱変換組成物塗膜の遮熱性について以下の要領で試験を行った。
(1)測定する部屋の温度が一定温度(20℃程度)に保たれていることを確認
(2)熱変換組成物塗膜が表面に形成された金属板が一定温度に保たれていることを確認
(3)熱変換組成物塗膜が表面に形成された金属板を所定位置に配置
(4)配置した金属板の表面温度・裏面温度を5分間連続して測定し、その温度変化が0.5℃以下であることを確認
(5)表面温度・裏面温度がほぼ安定化したら照射熱源にスイッチを入れ、20分後の温度上昇を測定
【0056】
図3は、熱源照射後の時間経過に伴う金属板の表面と裏面の温度上昇の様子を示した図である。この図に示すように、熱源を照射してから20分程度経過すると表面及び裏面の温度上昇は緩やかになり、ほぼ一定に達するといる。塗膜の遮熱性の評価は、熱源の照射から20分経過後の表面の温度上昇値に基づいて行うことが可能であり、当該上昇値が少ないほど遮熱性が高いことを示す。
【0057】
上記試験において、熱変換組成物を構成する無機微粒子としては、珪藻土微粉末を用いた。また、無機微粒子の表面に固着させる有機材料としては、ラウリン酸を用いた。なお、比較のため、無機微粒子に有機材料を固着させない場合と、無機微粒子の重量に対して20%の有機材料を固着させた場合と、40%の有機材料を固着させた場合、60%の有機材料を固着させた場合のそれぞれについて塗膜が形成された表面(膜厚:0.6mm)とその裏面の上昇温度について調べた。なお、塗料全体に対する珪藻土微粉末及び有機材料の合計重量比は10%にした。
【0058】
図4は、上記遮熱性を判定する実験結果のテーブルデータを示した図である。この結果が示すように、珪藻土微粉末(無機微粒子)に対してラウリン酸(有機材料)を加えなかった場合は、表面で32.7℃程温度が上昇し、裏面で29.3℃程温度が上昇していることが分かる。これに対して、珪藻土微粉末の重量に対して20%にラウリン酸を固着させた場合では、表面で31.3℃程温度が上昇し、裏面で28.7℃程温度が上昇している。つまり、珪藻土微粉末全体のうち20%にラウリン酸を固着させることにより表面温度の上昇が1.4℃程度抑えられることが分かる。
【0059】
さらに、珪藻土微粉末の重量に対して40%のラウリン酸を固着させた場合と、60%のラウリン酸を固着させた場合を見ていくと、表面の上昇温度がそれぞれ29.6℃、28.4℃と減少していくことが分かる。つまり、珪藻土微粉末に対するラウリン酸の重量比が大きい程表面の温度上昇が抑制されていることが分かる。
【0060】
図5は、珪藻土微粉末全体のうちラウリン酸が固着された割合と塗膜が形成された表面の温度上昇の関係を示した図である。上記のように、珪藻土微粉末に対するラウリン酸の重量比が大きくなるにつれて表面の温度上昇の値が小さくなる。この減少割合は、図に示すように、ラウリン酸が固着された珪藻土微粉末の割合をxとし、表面の温度上昇値をyとすると、「y=−0.0715x+32.67」、の関係式で表される。
【0061】
上記の温度上昇の抑制効果は、融点でのラウリン酸の溶解によって溶解熱が吸収されることに起因する。ラウリン酸の融点は、44―46℃であるため、当該融点より低い温度から融点以上に温度が上昇すると融解熱が吸収されることになり、その分温度上昇が抑制される。上記実験においては、20℃程度の温度から50℃程度まで温度変化をさせているため、当該効果が表れている。また、ラウリン酸が増えるにつれて、融点において吸収される融解熱が増え、結果として温度上昇がその分抑制されることになる。
【0062】
なお、上記の温度上昇の抑制作用は、融点より低い温度から融点以上に温度が上昇する場合を想定した作用であるが、融点(凝固点)より高い温度から融点(凝固点)以下に温度が下がる場合を想定すると、温度低下を抑制する作用とみなすこともできる。つまり、上記実験結果は、温度上昇の抑制作用と温度低下の抑制作用を同時に示しているものである。
【0063】
<効果>
本実施例の形成方法により形成される塗膜によって、塗装対象物の温度上昇や温度低下を抑制することが可能になり、所望の温度環境を整えやすくなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子の空隙内又は/及び表面に−30℃〜75℃の融点をもつ有機材料を固着した熱変換粒子からなる熱変換粒子粉末を製造する熱変換粒子粉末製造ステップと、
熱変換粒子粉末製造ステップにて製造された熱変換粒子粉末を、塗布後乾燥状態にて前記有機材料の融点よりも高い融点をもつ塗膜形成用結合材に混練して塗り材料とする混練ステップと、
からなる熱変換組成物の製造方法。
【請求項2】
前記無機微粒子は、多孔性無機微粒子または不定形無機微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の熱変換組成物の製造方法。
【請求項3】
前記有機材料は、特殊パラフィン類、長鎖アルコール、長鎖脂肪酸、脂肪酸トリグリセリド、アシルグリセロール、長鎖脂肪酸エステルのいずれか一種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱変換組成物の製造方法。
【請求項4】
前記塗膜形成用結合材は、水性樹脂であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一に記載の熱変換組成物の製造方法。
【請求項5】
前記塗膜形成用結合材は、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルション及びコロイダルシリカを含有することを特徴とする請求項4に記載の熱変換組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の熱変換組成物の製造方法にて製造された塗り材料を準備する準備ステップと、
準備ステップにて準備された塗り材料を塗装対象物に対して塗布する塗布ステップと、
塗布工程にて塗布された塗り材料に含まれている溶媒を乾燥させて塗り材料から溶媒を除き固体状の熱変換組成物塗膜とする塗膜形成ステップと、
からなる熱変換組成物塗膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一に記載の熱変換組成物の製造方法にて製造された熱変換組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225705(P2011−225705A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96112(P2010−96112)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(398008114)旭鉱末株式会社 (2)
【出願人】(596052935)大日技研工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】