説明

熱変色性筆記具

【課題】摩擦体が筆記具の外面に露出して設けられていると、例えば筆箱や鞄等に筆記具を収納して使用するうちに、他の筆記具のインキや鉛筆の芯の粉等がその摩擦体に強固に付着することが多く、摩擦体を使用した場合には消去性のインキの筆跡は消去することができても、摩擦体に付着していた他の筆記具のインキや鉛筆の芯等が摩擦体から筆記面に転着されてしまい、筆記面を汚すことが問題とされていた。
【解決手段】ノック式筆記具において、クリップの後端部内側に摩擦体が装着されており、未使用時はノック部分により摩擦体が保護され、ノック時には摩擦体が露出し使用可能な状態になり、インキが熱消去性インキであることを特徴とするノック式筆記具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変色性インキを収容した筆記具に関するものであり、詳細には筆記具に設けられた消去具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、先端開口部が、軸筒とは異なる弾性体にて形成されているノック式の熱変色性筆記具であり、該弾性率が消去具として機能することが記載されている。
また、特許文献2には、熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具であって、軸筒内に少なくとも1本の筆記用芯体と、消去具として少なくとも1本の摩擦用芯体とを前後方向に移動可能に収容し、前記筆記用芯体のペン先と前記摩擦用芯体のチップを択一的に軸筒の前端孔から出没可能にする出没機構を備えたことを特徴とする熱変色性筆記具が記載されている。
これらの筆記具を用いて紙等に筆記してなる筆跡を弾性体又は摩擦用芯体により摺擦することによって、発生する摩擦熱をその筆跡に加えることにより、筆跡に含まれる熱変色性インキが加熱されて変色温度を超えることによって、その熱変色性インキに含まれる色素が透明化する。このような機構によって、筆跡が透明化するために、あたかも筆跡が消去されたかのようにみえる。
このように、熱変色性インキを使用する筆記具は、その本体の先端開口部等の部位に筆跡に摩擦熱を与える摩擦用の弾性体を有し、あるいは筆記具内に摩擦用芯体を備えるチップを押出可能に収納している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−143207号公報
【特許文献1】特開2008−247025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、筆記された消去性インキを、何らかの摩擦体を摺擦することによって、摩擦熱を加えることにより加熱し、その加熱によって透明とすることにより筆跡を消去するようにした筆記具は知られている。
通常はそのような摩擦体は筆記具の外面に露出するように装着されており、使用者が筆記された文字等に対して摩擦体を摺擦することにより消去しようとする際には、筆記具の向きを変えるなどしてその摩擦体を文字等に対して摺擦させていた。
このように、摩擦体が筆記具の外面に露出して設けられていると、例えば筆箱や鞄等に筆記具を収納して使用するうちに、他の筆記具のインキや鉛筆の芯の粉等がその摩擦体に強固に付着することが多く、摩擦体を使用した場合には消去性のインキの筆跡は消去することができても、摩擦体に付着していた他の筆記具のインキや鉛筆の芯等が摩擦体から筆記面に転着されてしまい、筆記面を汚すことが問題とされていた。
【0005】
また、上記特許文献2に記載のように、熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具の軸筒内に、少なくとも1本の筆記用芯体と少なくとも1本の摩擦用芯体とを前後方向に移動可能に収容し、前記筆記用芯体のペン先と前記摩擦用芯体のチップを択一的に軸筒の前端孔から出没可能にする出没機構を備えた熱変色性筆記具であれば、筆記具の外面に摩擦用の部材が露出した状態で筆記具が筆箱等に収納されることがないので、摩擦体自体は他の筆記具のインキや鉛筆の芯の粉によって汚れることはない。
しかしながら、このような構造の筆記具は、摩擦用芯体を収納し、出没可能とするための出没機構を設ける必要があるので、筆記具の構造が複雑化する。特に筆記具が1色の比較的単純な構造の筆記具である場合には、摩擦用芯体のためにあえて2色用と同様の構造の筆記具とする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
1.ノック式筆記具において、クリップの後端部内側に摩擦体が装着されており、未使用時はノック部分により摩擦体が保護され、ノック時には摩擦体が露出し使用可能な状態になり、インキが熱消去性インキであることを特徴とするノック式筆記具。
2.摩擦体がクリップの後端部内側に脱着可能に装着されてなる1記載のノック式筆記具。
3.ノック式筆記具のクリップの後端部を被覆することによりクリップの後端部内側に摩擦体を設けるための摩擦体部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱変色性インキを収容した筆記具を使用するにつれて、筆記具に備えられた消去具が他の筆記具や鉛筆の芯の粉等によって汚されることがないので、筆記された熱変色性インキの筆跡を、消去具の摺擦によって摩擦熱を発生して消去させる際に、消去具表面に付着した他の筆記具や鉛筆の芯の粉が、紙等の表面に摺り付けられて汚れが生じることを防止することができる。
しかも、筆記具内に消去具を収納し、これを出没させる必要がないので、その出没のための機構を有することがなく、消去具のために複雑な構造を設けることを要しないので、筆記具の構造としては非常に簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のノック式筆記具でありノックが押されておらず不使用時のもの
【図2】本発明のノック式筆記具でありノックが押されておらず不使用時のもの
【図3】本発明のノック式筆記具でありノックが押されておらず不使用時のもの
【図4】本発明のノック式筆記具でありノックが押されておらず不使用時のもの
【図5】本発明のノック式筆記具を使用時にノックを押したもの
【図6】本発明のノック式筆記具を使用時にノックを押したもの
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明はノック式筆記具であって、上記の効果を奏するために特定の構造としたものである。そこで、以下において順に説明する。
本発明のノック式筆記具は、軸筒内に収納した熱変色性インキ入りレフィールを備え、かつ軸筒後部には通常のクリップ付筆記具のクリップが位置する場所と同様の位置にクリップが設けられている筆記具であることを前提とする。
【0010】
ノック式筆記具の一形態として図1〜図6に示すように、本発明のノック式筆記具は、スプリング(図示せず)により後方に弾発されたレフィール(図示せず)の先栓(1)を、軸筒(2)の後端部より外方に突出したノック部(3)へのノック操作により、軸筒の先端開口部(4)より突出させて筆記可能とするものである。
図示した形態は、一例であり、通常のノック式筆記具で用いられている構成および機構を任意に用いてよい。
【0011】
図1〜図6に示す筆記具はいずれも本発明のノック式筆記具に包含される筆記具であり、レフィールの先端がボールペンチップであるノック式ボールペンでもよく、またはレフィールの種類はこれに限定されず、ラインマーカーのチップでもよい。この場合には、ノック式筆記具はノック式マーカーとなる。
【0012】
図示した形態において、ノック式筆記具は、軸筒(2)、ノック部(3)、先栓(1)およびクリップ(5)を含み、先栓(1)の先端に先端開口部(4)が形成されている。先栓(1)は、軸筒(2)に螺着されている。先栓(1)の形状は、通常のノック式筆記具の先栓と同様の形状であってよく、一般には、図示するように、軸筒に螺着可能な円錐形状を有する。あるいは、先栓は、円筒形状、または角柱形状であってよい。もちろん先栓は軸筒と一体に成形されていても良い。
先栓(1)、軸筒(2)の材料およびノック部(3)は、通常のノック式筆記具で用いられている材料(金属または樹脂等)および方法を使用して作製することができる。
【0013】
クリップ(5)は、通常のノック式筆記具と同様に、筆記具の軸筒の後方、つまり先栓(1)とは反対側のノック部近傍に設けられており、通常の筆記具用クリップと同様に、服のポケット等を挟んでノック式筆記具を該ポケット等に固定する等の目的でも設けられている。
本発明において、クリップ(5)は軸筒(2)と接続される接続部(5a)と接続部よりも先栓(1)寄りの前方部(5b)と、接続部よりノック部よりの後端部(5c)とに分けられる。仮にクリップが接続部(5a)と接続部よりも先栓寄りの前方部(5b)とのみからなる構造を有し、後端部(5c)を有しない場合には、クリップの後端部を形成することができないので、本発明のノック式筆記具とはならない。
【0014】
図1〜6はいずれもクリップの後端部(5c)内側に摩擦体(6)を設けてなるノック式筆記具であり、図2に示すノック式筆記具は、摩擦体の形状を後方に膨出するように形成してなる形状としてなるものであり、より筆跡の摺擦を行いやすくした形状としている。またその他の図に示すように摩擦体の形状を元々のクリップの後端部の形状と同じ形状とすることもできる。
クリップの後端部(5c)は、不使用時のノック部(3)の後端よりもさらに後方に延びることはなく、使用時においてノック部(3)が押し込まれた状態において初めてノック部(3)よりも後方に位置するように設けられる。具体的に図1を示して説明すると、ノック部(3)の後端を示す線(A)はクリップの後端部(5c)の端を示す線(B)よりも更に後方に位置しており、不使用時にはノック部(3)の後端とクリップの後端部(5c)がこのような位置関係にある。
このように設けられて初めて、クリップの後端部(5c)の内側に設けられた摩擦体(6)は、ノック式筆記具の不使用時において使用できず、ノック式筆記具の使用時にノック部(3)が押し入れられた状態となって使用が可能となる。
つまり、本発明において、未使用時はノック部により摩擦体(6)が保護されるとは、軸筒後端より出ているノック部(3)がクリップの後端部(5c)の末端よりもさらに軸筒から出ているか、あるいは、クリップの後端部(5c)の末端と同じ位置になるように出ている状態を指しており、仮にノック部(3)の後端よりもクリップの後端部(5c)の端部が後方に位置していると、筆箱等に保管された未使用時において、摩擦体のノック部(3)の後端よりも後方の表面が鉛筆の芯の粉等により汚れてしまう可能性が高くなる。
【0015】
このようなノック式筆記具が未使用の状態においては、クリップの後端部(5c)の内側に設けられた摩擦体はノック部(3)の側面に接近して対向するように位置するので、この状態において筆跡が形成された紙面等に対してクリップの後端部(5c)を摺擦させることができない。そのような状態はまさにノック部分により摩擦体が保護されている状態である。
【0016】
他方本発明のノック式筆記具を使用するときには、ノック部(3)とクリップの後端部(5c)との関係は、図5に示すように、押し込まれたノック部(3)の後端位置を示す破線A’はクリップの後端部(5c)の端部を示す線B’よりも軸筒2側に位置する。この状態においては、摩擦体が付けられた本発明のノック式筆記具が有するクリップ部の摩擦体は、筆記具のノック部(3)の後端よりも更により出ているので、筆跡を消去するためにノック式筆記具を反転して、クリップの後端部(5c)の表面を筆跡に摺擦させることができる。
特に図1、2及び5に示すように、クリップの後端部(5c)がノック部(3)から離間するように反った形状をしている場合には、摩擦体を使用する際により筆跡に接触させることができるので、使用性を向上させることができる。
【0017】
ここで、クリップの後端部(5c)の内側の摩擦体(6)は、JIS K 6253A(2006)に従って測定されるショア硬度Aが40度以上の弾性体で形成され、より好ましくは55度以上の弾性体で形成される。弾性体のショア硬度Aが45度未満であると、筆跡を擦ったときに、摩擦体(6)自身の磨耗による消しカスが生じやすくなり、摩擦体(6)が変形して、摩擦体としての機能を果たせなくなることがある。また、弾性体のショア硬度Aは、100度以下であることが好ましい。ショア硬度Aが100を超える弾性体は弾力性が小さく、その弾性体からなる摩擦体(6)は筆跡を消去しにくい。
【0018】
上記のショア硬度Aを有する摩擦体(6)は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリル、ナイロン、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、およびアクリロニトチル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂等の合成樹脂、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリスチレンとポリオレフィンのブロック共重合体、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、1,2−ポリブタジエン系エラストマー、および塩化ビニル系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマーと合成樹脂の混合物、2種以上の熱可塑性エラストマーの混合物、フッ素樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、ならびに発泡体などである。
【0019】
前記弾性体のうち、スチレン系エラストマーが好ましく用いられ、特に、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体、またはスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン(SEBS)共重合体が好ましく用いられる。スチレン系エラストマーは、特許文献2にも記載のように、加熱により消去されるインキで筆記した筆跡を消去する際に、摩擦熱の発生効率が良く、また、紙等を擦るときに滑らかに擦ることができる。さらに、スチレン系エラストマーは、剥離性も有するインキを擦るときでも、剥離したインキが付着しにくいという利点を有する。
【0020】
クリップの後端部内側の弾性体による摩擦体(6)の形成は、筆記具の製造で通常用いられている方法、例えば、押出成形、射出成形、および圧縮成形等から選択される任意の方法で作製してよい。したがって、図1に示す構成の筆記具は、クリップの後端部内側の材料を弾性体にすることを除いては、常套の方法で、各部材を作製して接着等の手段により組み立てることができる。
また、クリップ外面や前方を形成する材料と共にいわゆる2色成形により形成することもでき、ノック式筆記具のクリップの後端部内側に別に成形した摩擦体を圧入、嵌着、係着、螺着、接着、溶着等の手段により一体化させることができる。
このような摩擦体(6)の厚さは特に限定されるものではなく、0.5〜4.0mm程度でも良い。クリップの後端部内側という摩擦体を設ける位置を考慮すると、厚すぎると、ノック部(3)と密着する可能性があるので好ましくない。またあまり薄すぎると、摺擦時に加えられる力によって摩擦体(6)がクリップ部後端から剥がれる可能性が高くなるので好ましくない。
【0021】
また、例えば嵌着や螺着等のように、摩擦体を脱着させることが可能な手段を採用する場合には、摩擦体のみの取り替えが可能となるので、例えば、ノック式筆記具のレフィールのみを新品に交換すると同時に摩擦体も交換することにより、新品のレフィールに充填された熱消去性インキを使い切るまでの間、新たな摩擦体も汚れることがなく使用できる。
本発明における摩擦体自体は、筆記具の他の箇所を摩擦体とした場合と比較して小さいので、替え用のレフィールと共に個別包装袋に封入することで嵩張らずに店頭に並べることが可能である。
特に摩擦体の形状をノック式筆記具のクリップの後端部に被せて使用するような形状とすることで、通常のノック式筆記具に対しても、熱消去性インキを充填したレフィールの交換と同時にクリップの後端部内側に摩擦体を有する摩擦体部材を装着することで、新たに本発明のノック式筆記具とすることもできる。
また、摩擦体(6)とそれを保持してクリップの後端部に固定可能とする部分からなる摩擦体部材をクリップの後端部に固定させることもできる。その場合例えば該固定可能な部分をクリップの後端部に固定できる筒状ないしは袋状の部材、あるいはベルト状の部材とし、その部材に摩擦体(6)を固定してなる摩擦体部材とすることもできる。また、固定可能な部分と摩擦体(6)を同一の材料から形成してもよく、あるいは異なる材料から形成しても良い。
【0022】
レフィールには、消去性インキが充填されている。本発明において、「消去性インキ」とは、それを用いて筆記した筆跡を、加熱することにより消去できるインキをいう。
加熱により消去するインキは、例えば、電子受容性化合物と、電子供与性呈色性有機化合物(例えば、ロイコ染料)と、消色剤を含み、常温では、電子受容性化合物により発色状態にされた電子供与性呈色性有機化合物が消色剤から分離されており、加熱したときに、消色剤が電子受容性化合物に作用して、無色になる又は色が薄くなるものであってよい。
電子受容性化合物により発色状態にされた電子供与性呈色性有機化合物は、例えば、ワックス粒子に包含されることにより、消色剤から分離させることができる。その場合、さらに消色剤をワックス粒子に包含させてよい。あるいは、消去性インキは、特許文献1に記載のような感温変色性色彩記憶性インキ組成物であってよい。本発明のノック式筆記具において、加熱により消去可能なインキを使用する場合には、摩擦体(6)で擦るときに生じる摩擦熱によって、消去可能なように、インキの組成を決定する。
【0023】
本発明のノック式筆記具に収納されるレフィールは先端がボールペンチップのボールペンでも良く、この場合には、本発明のノック式筆記具はノック式ボールペンであり、またレフィールとしてラインマーカー用のもの等でも良く、その場合には本発明のノック式筆記具はノック式ラインマーカーである。
【符号の説明】
【0024】
1・・・・先栓
2・・・・軸筒
3・・・・ノック部
4・・・・先端開口部
5・・・・クリップ
5a・・・クリップの接続部
5b・・・クリップの前方部
5c・・・クリップの後端部
6・・・・摩擦体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノック式筆記具において、クリップの後端部内側に摩擦体が装着されており、未使用時はノック部分により摩擦体が保護され、ノック時には摩擦体が露出し使用可能な状態になり、インキが熱消去性インキであることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
摩擦体がクリップの後端部内側に脱着可能に装着されてなる請求項1記載のノック式筆記具。
【請求項3】
ノック式筆記具のクリップの後端部を被覆することによりクリップの後端部内側に摩擦体を設けるための摩擦体部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−22815(P2013−22815A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159281(P2011−159281)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】