説明

熱変色性組成物および熱変色性インキ組成物

【課題】加熱することにより、不可逆的に消去可能な、熱変色性組成物であって、所定の温度(特に55℃程度)まで変色が開始しないインキ組成物を提供する。
【解決手段】電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、変色温度調整剤、および消色剤としての一般式(1)で示される化合物を含む熱変色性組成物。
【化1】


(式中、RおよびRは独立して、C2n+1(nは1〜22の整数)で示される炭化水素基、またはフェニル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙、プラスチックまたは陶器等の表面に筆記または印刷等した文字および塗膜等を、加熱することにより変色させることが可能であり、かつ変色した文字等が元の色に戻りにくい、熱変色性組成物および熱変色性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紙等の基材に筆記または印刷した筆跡もしくは塗膜を、加熱により消色できる熱変色性インキ組成物がこれまでに種々提案されている。熱変色性インキ組成物は、紙の再利用に資するものとして、または書き誤りを容易に訂正できるものとして、有用である。
【0003】
本出願人も、特許文献1において、1)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、消色剤、および水を含む、変色性インキ組成物、および2)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物とを含むワックス粒子、消色剤を含むワックス粒子、および水を含む、変色性インキ組成物を提案している。特許文献1においてはまた、ワックスとして、40℃〜120℃の範囲内にある融点を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸無水物、アシルグリセリン、および脂肪酸アミド等を使用することを提案している。特許文献1に記載の変色性インキ組成物は、筆記または印字された文字等の発色が安定して維持されるとともに、紙面を擦るときに生じる摩擦熱程度の熱を加えることにより消色可能であり、かつ消色の安定性が良好なものである。
【0004】
さらに、本出願人は、特許文献1の変色性インキ組成物において、高温(例えば、50〜55℃程度)で保管したときに、若干の変色を生じることがあるという課題、および選択したワックスによっては消色が開始してから終了するまでの温度範囲が比較的広くなるという課題を見出した。本出願人は、それらの課題を解決するために、特願2010−250624において、1)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む有色粒子、消色剤、および水を含む、変色性インキ組成物、ならびに2)電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む有色粒子、消色剤と融点が40℃〜120℃の芳香族化合物とを含む消色用粒子、および水を含む、変色性インキ組成物を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO/2009/060972パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特願2010−250624においては、電子供与性呈色性有機化合物と消色剤が接触することを、特定の融点を有する芳香族化合物を用いて形成した有色粒子(および場合によりこれと消色粒子)によって防止して、電子供与性呈色性有機化合物の良好な発色を維持している。一方、消色温度を決定する成分(特許文献1にいうワックス、特願2010−250624にいう融点が40℃〜120℃の芳香族化合物)の特性によることなく、他の成分によって、高温で保管したときでも良好な発色を維持することもまた求められている。それにより、消色温度を決定する成分をより多くの化合物から選択することが可能となる。
【0007】
本発明は、消色剤を特定のものとすることによって、消色温度を決定する成分を限定することなく、電子供与性呈色性有機化合物の良好な発色を維持する熱変色性組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱変色性組成物および熱変色性インキ組成物は、消色剤として、特定のヒンダードフェノールリン酸エステル化合物を使用することによって、熱変色前における電子供与性呈色性有機化合物の良好な発色を維持することを可能にしている。
【0009】
本発明は、第1の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、変色温度調整剤、および消色剤としての一般式(1)で示される化合物を含む熱変色性組成物を提供する。
【化1】

(式中、RおよびRは独立して、C2n+1(nは1〜22の整数)で示される炭化水素基、またはフェニル基である。)
【0010】
本発明は、第2の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を含む粒子、変色温度調整剤、ならびに消色剤としての前記一般式(1)で示される化合物を含む熱変色性組成物を提供する。
【0011】
本発明は、第3の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および変色温度調整剤を含む粒子、ならびに消色剤としての前記一般式(1)で示される化合物を含む熱変色性組成物を提供する。
【0012】
本発明は、第4の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、変色温度調整剤、および消色剤としての前記一般式(1)で示される化合物が水に分散されてなる、熱変色性インキ組成物を提供する。
【0013】
本発明は、第5の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を含む粒子、変色温度調整剤、ならびに消色剤としての前記一般式(1)で示される化合物が水に分散されてなる、熱変色性インキ組成物を提供する。
【0014】
本発明は、第6の要旨において、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および変色温度調整剤を含む粒子、ならびに消色剤としての前記一般式(1)で示される化合物が水に分散されてなる、熱変色性インキ組成物を提供する。
【0015】
ここで、「変色」という用語は、色の色相、彩度および明度のうち、少なくともいずれか一つが変化することをいい、色が無色に変化すること(即ち、「消色」および「消去」)の概念を含む。また、「消色」および「消去」という用語は、色が全く認識できないようにすること(即ち、無色にすること)のみならず、色を薄くすること(より無色に近い状態にすること)をも含む意味で使用される。
【0016】
本明細書において、「熱変色性組成物」とは、液体状であるか固体状であるかを問わず、熱により変色する性質を有する組成物を広く包含する。例えば、熱変色性組成物には、固体状の複写機用トナーのほか、熱変色性インキ組成物(この意味は後述する)の筆記または印刷等により媒体(または基材)形成され、熱変色性インキ組成物から溶剤または分散媒(例えば、水性インキ組成物の場合には水)が蒸発してなる塗膜等が含まれる。
【0017】
本明細書において、「熱変色性インキ組成物」とは、着色剤を広げるための溶剤または分散媒を含む、熱により変色する性質を有する液体状(ゲルおよびゾルを含む)の組成物であり、紙等の媒体に筆記または印刷可能な組成物を指す。したがって、熱変色性組成物は、熱変色性インキ組成物を含む概念である。よって、以下の説明において、特に断りのない限り、「熱変色性組成物」という用語は、熱変色性インキ組成物を含む意味で用いられる。
【0018】
本発明の熱変色性組成物においては、加熱前、即ち、電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物により発色している状態において、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の組み合わせと消色剤とが接触することを、固体状の変色温度調整剤が防止する、またはそのような接触が生じる確率を、固体状の変色温度調整剤が防止する。それにより電子供与性呈色性有機化合物の良好な発色が維持される。変色は、変色温度調整剤を液化させることにより、消色剤を電子供与性呈色性有機化合物に接近させて、電子受容性化合物と消色剤とを相互作用させることにより行う。本発明の熱変色性組成物は、発色成分として、電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、加熱により、消色されることとなる。
【0019】
本発明の熱変色性組成物は、変色温度調整剤の融点に応じて、所定の温度に達するまで、その発色を保つ。即ち、所定の温度に達するまで、その発色が変化しにくい。このことは、発色の安定性を向上させ、前記所定の温度を例えば55℃よりも高くなるように、変色温度調整剤の融点を選択することによって、高温で、この熱変色性組成物を保管することが可能となる。
【0020】
本発明の熱変色性組成物は、加熱により変色しない着色剤をさらに含んでよい。その場合、電子供与性呈色性有機化合物が消色剤の作用によって消色状態となったときに、当該着色剤の色が現れることとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱変色性組成物は、特定の消色剤を用いることによって、変色温度調整剤の融点によって決定される変色温度までは、変色および退色せずに、良好な発色を維持し、加熱されると、液化した変色温度調整剤が媒体となって、消色剤による消色を示す。したがって、本発明の熱変色性組成物は、発色成分として電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、良好な発色の維持と、確実な消色の実行の両方を可能にする。本発明のインキ組成物が加熱により変色しない着色剤を含有する場合には、発色状態にある電子供与性呈色性有機化合物の色と着色剤の色との混色から、加熱により、その着色剤の色がより強く現れる色に変化するものとなり、加熱前後で異なる色を良好に呈する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の熱変色性組成物は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、変色温度調整剤および消色剤を少なくとも含み、本発明の熱変色性インキ組成物は、それらに加えてさらに水を少なくとも含む。本発明の熱変色性組成物において、加熱前の状態で、電子供与性呈色性有機化合物は、電子受容性化合物により呈色されており、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物は、有色の粒子(以下の説明を含む本明細書において「有色粒子」と呼ぶ)を形成している。有色粒子は、変色温度調整剤を含んでよい。即ち、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物は、変色温度調整剤とともに有色粒子を形成してよい。有色粒子が、電子供与性呈色性有機化合物と、電子受容性化合物と、変色温度調整剤とを含む場合には、安定した発色状態を得ることができる。
以下、本発明の熱変色性組成物および熱変色性インキ組成物に含まれる成分を説明する。
【0023】
本発明の熱変色性組成物は、電子供与性呈色性有機化合物を含む。電子供与性呈色性有機化合物は、電子受容性化合物により呈色する化合物であり、発色成分または発色剤ともいえる。電子供与性呈色性有機化合物は、特に限定されず、公知または市販の電子供与性呈色性有機化合物(例えば、ロイコ染料)を任意に使用できる。具体的には、例えば、下記の化合物を電子供与性呈色性有機化合物として使用できる。
【0024】
(a)フルオラン類
2’−[(2−クロロフェニル)アミノ]−6’−(ジブチルアミノ)−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9’−(9H)キサンテン]−3−オン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジメチルアミノベンゾ(a)−フルオラン、3−アミノ−5−メチルフルオラン、2−メチル−3−アミノ−6,7−ジメチルフルオラン、2−ブロモ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、6’−(エチル(4−メチルフェニル)アミノ−2’−(N−メチルフェニルアミノ)−スピロ(イソベンゾフラン1(3H),9’−(9H)キサンテン)−3−オン、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、6’−[エチル(4−メチルフェニル)]−2’メチル−スピロ[イソベンゾフラン1(3H),9’−(9H)キサンテン]−3−オン等;
【0025】
(b)フルオレン類
3,6−ビス(ジエチルアミノ)フルオレンスピロ(9.3’)−4’−アザフタリド、3,6−ビス(ジエチルアミノ)フルオレンスピロ(9.3’)−4’,7−ジアザフタリド等;
(c)ジフェニルメタンフタリド類
3,3−ビス−(p−エトキシ−4−ジメチルアミノフェニル)フタリド等;
(d)ジフェニルメタンアザフタリド類
3,3−ビス−(1−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド等;
(f)インドリルフタリド類
3,3−ビス(n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド等;
【0026】
(g)フェニルインドリルフタリド類
3−(1−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド等;
(h)フェニルインドリルアザフタリド類
3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3−[2−エトキシ−4−(N−エチルアニリノ)フェニル]−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド等;
(i)スチリルキノリン類
2−(3−メトキシ−4−ドデコキシスチリル)キノリン等;
(j)ピリジン類
2,6−ジフェニル−4−(6−ジメチルアミノフェニル)ビリジン、2,6−ジエトキシ−4−(4−ジエチルアミノフェニル)ピリジン等;
【0027】
(k)キナゾリン類
2−(4−N−メチルアニリノフェニル)−1−フェノキシキナゾリン、2−(4−ジメチルアミノフェニル)−4−(1−メトキシフェニルオキシ)キナゾリン等;
(l)ビスキナゾリン類
4,4’−(エチレンジオキシ)−ビス[2−(1−ジエチルアミノフェニル)キナゾリン]、4,4’−(エチレンジオキシ)−ビス[2−(1−ジ−n−ブチルアミノフェニル)キナゾリン]等;
(m)エチレノフタリド類
3,3−ビス[1,1−ビス−(p−ジメチルアミノフェニル)エチレノ−3]フタリド等;
(n)エチレノアザフタリド類
3,3−ビス[1,1−ビス−(p−ジメチルアミノフェニル)エチレノ−2]−4−アザフタリド、3,3−ビス[1,1−ビス−(p−ジメチルアミノフェニル)エチレノ−2]−4,7−ジアザフタリド等;
【0028】
(o)トリフェニルメタンフタリド類
クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン等;
(p)ポリアリールカルビノール類
ミヒラーヒドロール、クリスタルバイオレットカルビノール、マラカイトグリーンカルビノール等;
(q)ロイコオーラミン類
N−(2,3−ジクロロフェニニル)ロイコオーラミン、N−ベンゾイルオーラミン、N−アセチルオーラミン等;
(r)ローダミンラクタム類
ローダミンβラクタム等;
【0029】
(s)インドリン類
2−(フェニルイミノエチリデン)−3,3−ジメチルインドリン等;
(t)スピロピラン類
N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、8−メトキシ−N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン等;
また、本発明の熱変色性組成物においては、これらのほか、ジアザローダミンラクトン類、キサンテン類等を、電子供与性呈色性有機化合物として使用することができる。
【0030】
好ましくは、電子供与性呈色性有機化合物として、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、クリスタルバイオレットラクトン、6’−[エチル(4−メチルフェニル)]−2’メチル−スピロ[イソベンゾフラン1(3H),9’−(9H)キサンテン]−3−オンが用いられる。電子供与性呈色性有機化合物として、1種の化合物のみを用いてよく、あるいは複数の化合物を用いてよい。
【0031】
インキ組成物でない熱変色性組成物において、電子供与性呈色性有機化合物は、組成物全体の0.1〜50重量%の量で含まれることが好ましく、1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。
熱変色インキ組成物において、電子供与性呈色性有機化合物は、組成物全体の0.01〜50重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物が少なすぎると、発色濃度が低くなる。電子供与性呈色性有機化合物が多すぎると、変色性能が低下する。
【0032】
電子供与性呈色性有機化合物は、有色粒子中、0.01重量%〜50重量%含まれることが好ましく、0.1重量%〜20重量%含まれることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物が1つの有色粒子において、0.01重量%未満の量で含まれると、発色濃度が低下し、50重量%を超える量で含まれると、発色効率が低下する。
【0033】
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物は、電子供与性呈色性有機化合物に作用して、電子供与性呈色性有機化合物を発色させる。電子受容性化合物は、活性プロトンを有する化合物、偽酸性化合物または電子空孔を有する化合物である。
【0034】
電子受容性化合物は特に限定されず、公知又は市販のものを適宜使用することができる。例えば、下記の化合物を好適に用いることができる。
【0035】
(a)フェノール類
ビスフェノールA又はその誘導体、ビスフェノールS又はその誘導体、p−フェニルフェノール、ドデシルフェノール、o−ブロモフェノール、p−オキシ安息香酸エチル、没食子酸メチル、フェノール樹脂、4-ヒドロキシ-4'-イソプロポキシジフェニルスルホン酸、α-{4-[(ヒドロキシフェニル)スルホニル]フェニル}-ω-ヒドロキシポリ(重合度N=1〜7) (オキシエチレンオキシエチレンオキシ-p-フェニレンスルホニル-p-フェニレン)等;
(b)フェノール類の金属塩
フェノール類のNa、K、Li、Ca、Zn、Al、Mg、Ni、Co、Sn、Cu、Fe、Ti、Pb、Mo等の金属塩等;
(c)芳香族カルボン酸及び炭素数2〜5の脂肪族カルボン酸類
フタル酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、オキシ安息香酸型オリゴマー等;
【0036】
(d)カルボン酸類の金属塩
オレイン酸ナトリウム、サリチル酸亜鉛、安息香酸ニッケル、3,5-ジ(α-メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩と(スチレン)-(αメチルスチレン)共重合物の混合物等;
(e)酸性リン酸エステル類
ブチルアシッドフォスフェート、2−エチルヘキシル−アシッドフォスフェート、ドデシルアシッドフォスファイト;
(f)酸性リン酸エステル類の金属塩
酸性リン酸エステル類のNa、K、Li、Ca、Zn、Al、Mg、Ni、Co、Sn、Fe、Ti、Pb、Mo等の金属塩等;
(g)トリアゾール化合物
1,2,3−トリアゾール、1,2,3−ベンゾトリアゾール等;
【0037】
(h)チオ尿素及びその誘導体
ジフェニルチオ尿素、ジ−o−トルイル尿素等;
(i)ハロヒドリン類
2,2,2−トリクロロエタノール、1,1,1−トリブロモ−2−メチル−2−プロパノール、N−3−ピリジル−N’−(1−ヒドロキシ−2,2,2−トリクロロエチル)尿素等;
(j)ベンゾチアゾール類
2−メルカプトベンゼンチアゾール、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、2−メルカプトベンゾチアゾールのZn塩等;
(k)その他
ウレアウレタン等
【0038】
電子受容性化合物は好ましくは不揮発性であって、昇華性を有しない。電子受容性化合物が揮発性または昇華性であると、筆記または印刷した文字または塗膜の色濃度が経時的に変化することがある。
【0039】
好ましくは、電子受容性化合物として、4-ヒドロキシ-4'-イソプロポキシジフェニルスルホン酸、α-{4-[(ヒドロキシフェニル)スルホニル]フェニル}-ω-ヒドロキシポリ(重合度N=1〜7) (オキシエチレンオキシエチレンオキシ-p-フェニレンスルホニル-p-フェニレン)、ウレアウレタン、3,5-ジ(α-メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩と(スチレン)-(αメチルスチレン)共重合物の混合物、オキシ安息香酸型オリゴマーが用いられる。電子受容性化合物として、1種の化合物のみ用いてよく、あるいは複数の化合物を用いてよい。
【0040】
インキ組成物でない熱変色性組成物において、電子受容性化合物は、組成物全体の0.1〜60重量%の量で含まれることが好ましく、1〜40重量%の量で含まれることがより好ましい。
熱変色性インキ組成物において、電子受容性化合物は、組成物全体の0.01〜60重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜40重量%の量で含まれることがより好ましい。電子受容性化合物が少なすぎると、発色濃度が低くなる。電子受容性化合物が多すぎると、変色性能が低下する。
【0041】
電子受容性化合物は、有色粒子中、0.1重量%〜60重量%含まれることが好ましく、1重量%〜40重量%含まれることがより好ましい。1つの有色粒子において、電子受容性化合物が0.1重量%未満の量で含まれると、発色濃度が低下し、発色効率が低下する。
【0042】
(消色剤)
消色剤は、電子受容性化合物による顕色作用を阻害する。したがって、消色剤は、消去操作が行われたときに、電子供与性呈色性有機化合物の発色を無くす又は弱める役割を果たす。本発明の熱変色性組成物および熱変色性インキ組成物はいずれも、消色剤として、下記の一般式(1)で示される化合物を含む。
【化2】

【0043】
式中、RおよびRは独立して、C2n+1(nは1〜22の整数)で示される炭化水素基、またはフェニル基である。炭化水素基は、具体的には、直鎖の又は枝分かれしたアルキル基である。RおよびRはともに、nが1〜22の直鎖の又は枝分かれしたアルキル基であることが好ましく、n=2のエチル基であることが特に好ましい。
【0044】
インキ組成物でない熱変色性組成物において、消色剤は、組成物全体の1〜90重量%の量で含まれることが好ましく、5〜75重量%の量で含まれることがより好ましい。
熱変色性インキ組成物において、消色剤は、組成物全体の0.01〜50重量%の量で含まれることが好ましく、0.1〜20重量%の量で含まれることがより好ましい。消色剤が少なすぎると、電子供与性呈色性有機化合物を十分に消色できず、インキの変色効果が不十分となる。消色剤が多すぎると、インキ組成物の貯蔵安定性が悪化する。
また、消色剤の量は、電子受容性化合物の量も考慮して選択することが好ましく、熱変色性組成物または熱変色性インキ組成物全体において、消色剤:電子受容性化合物=1:10〜10:1(重量比)の割合となるように選択することが好ましい。
【0045】
上記一般式(1)で示される消色剤は、融点が120℃程度であり、例えば、100℃に加熱されても液化しない。したがって、この消色剤は、そのまま使用して熱変色性組成物中に分散させてよい。
【0046】
(変色温度調整剤)
変色温度調整剤は、熱変色組成物の変色温度を調節するために添加される。よって、熱変色組成物の変色温度は、その融点によって決定される。本発明の熱変色性組成物においては、変色温度調整剤として、融点が40℃〜150℃の範囲内にある化合物が好ましく用いられ、具体的には、例えば下記の化合物が用いられる。下記において、括弧内は融点を示す。
【0047】
−脂肪酸:ラウリン酸(44℃)、ミリスチン酸(54℃)、パルミチン酸(63℃)、ステアリン酸(70℃)、べヘン酸(80℃)等
−脂肪酸エステル:べヘン酸メチルエステル(53℃)、ラウリル酸ステアリル(42℃)、ステアリン酸ステアリル(55℃)、パルミチン酸ステアリル(58℃)、ベヘン酸べヘニル(73℃)等
−脂肪酸無水物:無水ミリスチン酸(53℃)、無水パルミチン酸(64℃)、無水ステアリン酸(71℃)等
−アシルグリセリン:2一モノラウリングリセリン(52℃)、2一モノミリスチングリセリン(61℃)、2一モノパルミチングリセリン(69℃)、1一パルミトイルー2一オレイングリセリン(46℃)、1一ステアロイルー2一オレイングリセリン(54℃)、グリセリンモノステアレレート(66℃)、グリセリンモノステアレレートとグリセリンジステアレートの混合物(60℃)、グリセリンジステアレレートとグリセリントリステアレートの混合物(56℃)等
【0048】
−アルコール:セチルアルコール(49℃)、ステアリルアルコール(58℃)、アラキニルアルコール(66℃)、1一ドコサノール(71℃)等
−脂肪酸アミド:リシノール酸アミド(62℃)、オレイン酸アミド(75℃)、ラウリン酸アミド(87℃)、べヘン酸アミド(110℃)、ステアリン酸アミド(101℃)、ヒドロキシステアリン酸アミド(107℃)
【0049】
−芳香族アミド:N,N-ジフェニルアセトアミド(102℃)
−ジフェニル系化合物:ベンゾフェノン(50℃)、ベンジル(96℃)ベンジルフェニルケトン(57℃)ベンゾインメチルエーテル(49℃)ベンゾインイソプロピルエーテル(81℃)、2-ベンゾイル安息香酸メチル(54℃)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(68℃)、4-メトキシベンゾフェノン(63℃)、4-メチルベンゾフェノン(58℃)、4-メチルベンジルフェニルケトン(97℃)、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン(79℃)、安息香酸p-トリル(72℃)、安息香酸フェニル(70℃)、フェニル酢酸p-トリル(76℃)、安息香酸-2-ナフチル(107℃)、炭酸ジフェニル(79℃)、フタル酸ジフェニル(74℃)、サリチル酸-4-オクチルフェニル(74℃)、4-ベンジルオキシフェニル酢酸メチルエステル(61℃)、ベンジルフェニルエーテル(40℃)、3,5-ジベンジルオキシ安息香酸メチル(72℃)、1,3-ジフェノキシベンゼン(61℃)、1,4-ジフェノキシベンゼン(77℃)、ジ-p-トリルエーテル(49℃)
−ビフェニル系化合物:ビフェニル(71℃)、4,4'-ビスメトキシメチルビフェニル(54.5℃)、4-アセトキシビフェニル(80℃)、4-ブチリルビフェニル(95℃)
−ナフタレン誘導体:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチル(71℃)
【0050】
−その他:パラフィンワックス(分子量、分岐、製法に応じて融点48℃〜112℃)、ペンタエリスリトールテトラステアレート(64℃)、ペンタエリスリトールテトラパルミテート(69℃)、エチレングリコールジステアレート(63℃)、プロピレングリコールモノベヘネート(57℃)、ジステアリルチオジプロピオネート(65℃)、ソルビタントリステアレート(54℃)、ソルビタンパルミテート(58℃)
【0051】
好ましくは、変色温度調整剤として、ラウリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドが用いられる。変色温度調整剤として、1種の化合物のみ用いてよく、あるいは複数の化合物を用いてよい。
【0052】
融点が40℃〜150℃の範囲内にある化合物は、例えば、紙面に筆記した筆跡または塗膜を、消しゴム又は軟質の弾性樹脂で擦ったときに生じる摩擦熱により、またはヒーター等による加熱により、液化する。融点が例えば40℃〜120℃程度である化合物を変色温度調整剤として用いた熱変色性組成物は、消しゴムで擦って筆跡を消す感覚で、筆跡を変色させる(例えば、消去する)ことを可能にする。融点が40℃未満であると、変色温度調整剤が固体状にならないことがあるため、発色の安定性が低下して、十分な色濃度を得られないことがあり、あるいは経時的に色が薄くなることがある。融点が150℃を超えると、加熱に必要なコストが上昇し、経済的でないことがある。また、融点が120℃を越える場合には、消しゴム又は軟質樹脂で擦っても変色温度調整剤が液化せず、簡易な作業によって熱変色性組成物を変色させることが困難となる。
【0053】
インキ組成物でない熱変色性組成物において、変色温度調整剤は、組成物全体の1〜90重量%の量で含まれることが好ましく、10〜75重量%の量で含まれることがより好ましい。
熱変色性インキ組成物において、変色温度調整剤は、組成物全体の1〜70重量%の量で含まれることが好ましく、10〜50重量%の量で含まれることがより好ましい。本発明の熱変色性インキ組成物においては、変色温度調整剤の量が少ないと、消色性能が悪化する。変色温度調整剤が多すぎると、発色濃度が低くなる。
【0054】
(非熱変色性着色剤)
本発明の熱変色性組成物は、上記の成分に加えて、加熱により色相が変化しない着色剤、即ち、非熱変色性着色剤を含んでよい。非熱変色性着色剤は、好ましくは電子受容性化合物および消色剤の影響を受けず、それらによって変色しないものである。本発明の熱変色性組成物が非熱変色性着色剤を含む場合、本発明の熱変色性組成物は、加熱前に、発色状態の電子供与性呈色性有機化合物が呈する色と、着色剤が呈する色とが混合された色を有し、加熱後に、電子供与性呈色性有機化合物の呈する色が無色化されて、着色剤の色が強く現れる熱変色性組成物となる。よって、そのような着色剤を含む熱変色性組成物は、例えば、ある色相から別の色相に変化する、熱変色性組成物となる。
【0055】
非熱変色性着色剤は、例えば、酸性染料、直接染料、塩基性染料などの水溶性染料のほか、カーボンブラック、酸化チタン、アルミナのシリカ、タルクなどの無機顔料;アゾ系顔料、ナフトール系顔料、フタロシアニン系顔料、スレン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インドレノン系顔料、およびアゾメチン系顔料などの有機顔料;アルミニウム粉およびブロンズ粉等などの金属粉顔料;蛍光顔料;パール顔料;ならびに光輝性顔料等である。また、これらの着色剤は、顔料分散体として用いることもできる。また本発明のインキ組成物において、これらの着色剤は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0056】
あるいは、非熱変色性着色剤として、球状、偏平状、中空等の各種形状のプラスチックピグメント(合成樹脂粒子顔料)などを用いることができる。例えば本発明では100μm以下の樹脂粉末にして用いるか又は100μm以下の樹脂粉末を水中に分散させたものを用いることができる。上記樹脂粉末は顔料または染料で着色して、着色樹脂エマルジョンとして使用することができる。
【0057】
非熱変色性着色剤が熱変色性組成物に占める量は、特に限定されず、電子供与性呈色性有機化合物が呈色しなくなったときに、所望の色が得られるように、適宜選択される。例えば、熱変色性インキ組成物における非熱変色性着色剤の量は、好ましくはインキ組成物の0.001重量%〜30重量%であり、より好ましくはインキ組成物の0.01重量%〜15重量%である。
【0058】
(その他の成分)
本発明の熱変色性組成物は、上述の成分の他に、通常用いられる成分を含んでよい。以下、通常用いられる成分について説明する。
【0059】
本発明の熱変色性組成物は、乳化により有色粒子を作製する場合には、乳化剤を含んでよい。乳化剤は、有色粒子および消色剤を分散させるために用いられる。乳化剤は、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタンポリオキシエチレン誘導体、およびポリオキシエチレンステアリルエーテルである。
【0060】
本発明の熱変色性組成物は、必要に応じて、上記以外の成分を含んでよい。具体的には、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、界面活性剤、消泡剤、溶剤(例えば、水溶性有機溶剤)、レベリング剤、増粘剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、凝集防止剤、pH調整剤、水溶性有機溶剤および界面活性剤等の公知の添加剤を組成物中に配合しても良い。
【0061】
(水)
本発明の熱変色性組成物が熱変色性インキ組成物として提供される場合、組成物は分散媒として機能する水を含む。水として、通常用いられる水、例えば、イオン交換水および蒸留水等を使用することができる。熱変色性インキ組成物における水の含有量は特に限定されず、発色粒子の含有量、および得ようとする粘度に応じて、適宜選択される。例えば、水の含有量は、95重量%〜40重量%の範囲内であってよく、好ましくは90重量%〜50重量%程度である。
【0062】
本発明の熱変色性インキ組成物は、筆記具のインキとして用いることができる。本発明の熱変色性インキ組成物をインキとして用いる筆記具で筆記した筆跡等は、筆記した後で、例えば、消しゴム又は軟質の弾性樹脂のような弾性体で擦ることにより、変色させる(例えば、消色する)ことができる。あるいは、本発明の熱変色性インキ組成物は、インクジェットプリンタ用のインキとして用いることができる。あるいはまた、本発明の熱変色性インキ組成物は、温度インジケータとして用いることができる。
【0063】
(製造方法)
次に本発明の熱変色性組成物および熱変色性インキ組成物の製造方法を説明する。
有色粒子が変色温度調整剤を含まない形態とする場合、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を、それらの融点よりも高い温度に加熱し、それらが溶融した状態で混合し、発色させる。十分に混合した後、混合物を冷却して固化させた後、粉砕することにより、有色粒子(固形物)を得る。粉砕は、例えば、乳鉢、一軸破砕機、またはボールミルを用いて実施する。
【0064】
インキ組成物でない熱変色性組成物を製造する場合には、有色粒子と、変色温度調整剤と、消色粒子とを、乾燥状態で混合する。混合は、例えば、乳鉢、ロッキングシェーカー、振動撹拌機、またはタンブラーミキサーを用いて実施する。変色温度調整剤および消色粒子は必要に応じて粉砕して、粒子化しておく。熱変色性インキ組成物を製造する場合には、乳化剤(例えばメチルセルロース)を水に溶解させた乳化剤水溶液を用意し、この乳化剤水溶液に有色粒子、変色温度調整剤、消色剤、および必要に応じて添加される他の添加剤を加えて、撹拌することにより、少なくとも有色粒子、変色温度調整剤、および消色剤が分散した熱変色性インキ組成物を得ることができる。撹拌は、例えば、フーバーマーラー、三本ロール、ビーズミル、またはニーダーを用いて実施する。有色粒子は、有色粒子:水溶液の重量比が1:99〜90:10となるように、乳化剤水溶液に加えることが好ましい。
【0065】
有色粒子が変色温度調整剤を含む形態とする場合には、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を、120〜160℃に加熱した変色温度調整剤中に溶解させ、さらに十分に混合する。これを、冷却して固化させた後、粉砕することにより、有色粒子(固形物)を得る。粉砕は、例えば、乳鉢、一軸破砕機、またはボールミルを用いて実施する。
【0066】
インキ組成物でない熱変色性組成物を製造する場合には、有色粒子と、消色粒子とを、乾燥状態で混合する。変色温度調整剤および消色粒子は必要に応じて粉砕して、粒子化しておく。混合は、例えば、乳鉢、ロッキングシェーカー、振動撹拌機、またはタンブラーミキサーを用いて実施する。熱変色性インキ組成物を製造する場合には、乳化剤(例えばメチルセルロース)を水に溶解させた乳化剤水溶液を用意し、この乳化剤水溶液を、中せん断撹拌しながら、この水溶液に有色粒子、消色剤、および必要に応じて添加される他の添加剤を加えて、撹拌することにより、有色粒子および消色剤が分散した熱変色性インキ組成物を得ることができる。撹拌は、例えば、フーバーマーラー、三本ロール、ビーズミル、またはニーダーを用いて実施する。有色粒子は、有色粒子:水溶液の重量比が1:99〜90:10となるように、乳化剤水溶液に加えることが好ましい。
【0067】
(熱変色性組成物の用途および使用方法)
本発明の熱変色性組成物が熱変色性インキ組成物である場合、組成物は、好ましくは、各種筆記具のインキとして用いられる。筆記具は、例えば、インキをペン先から滲出させる、マーカー及びサインペンのような中芯式筆記具、またはボールペンの形態であることが好ましい。ボールペンは、インキを装填したインキ収容管が軸内に設けられ、小さい球を装着したペン先から、インキを滲出させて筆記を行う筆記具である。中芯式筆記具は、インキ収容部として繊維束が収束された中芯、および中芯に貯蔵されたインキを流出するペン先(チップ)を有し、ペン先として、例えば、ボール、繊維、プラスチック芯、ブラシ状物、または筆状物を備える筆記具である。
【0068】
筆記具は、公知の部材を使用して、組み立てることができる。例えば、ボールペンは、公知の材料で公知の寸法に形成されたインキ収容管に、インキを装填して、公知の材料から成る公知の構造のボールペンチップとともに、公知の組立方法で組み立てて作製できる。インキ収容管は、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の合成樹脂製パイプ、または金属製パイプである。ボールペンチップは、通常のものであってよく、ボール直径とボールハウス内径との差が、例えば、0.01mm以上のものを使用できる。
【0069】
あるいは、本発明の熱変色性インキ組成物は、印刷インキ(特にインクジェットプリンタ用のインキ)、絵の具、または塗料として利用することもできる。インキ組成物ではない熱変色性組成物は例えば、複写機のトナーとして使用することができる。
【0070】
本発明の熱変色性組成物からなる筆跡又は塗膜を形成する媒体は、好ましくは紙である。あるいは媒体は、合成紙、布、プラスチックから成るフィルム、シートもしくは板、金属から成るシートもしくは板、またはガラスから成るシートもしくは板であってよい。これらの媒体に形成した本発明の熱変色性組成物からなる筆跡または塗膜は、所定の雰囲気(例えば、ガスまたは液体中)において、温度インジケータ(当該雰囲気が所定の温度に達したことを変色により示すもの)として使用してよい。
【0071】
本発明の熱変色性組成物が発色成分として電子供与性呈色性有機化合物のみを含む場合には、熱変色性組成物からなる筆跡または塗膜は、変色温度調整剤が融点以上の温度に加熱されたときに、消色される。より具体的には、変色温度調整剤の液化により、固体の変色温度調整剤で隔てられていた有色粒子の内部にある電子受容性化合物と消色剤とが接近し、電子受容性化合物に、消色剤が作用して、熱変色性組成物が消色される。変色温度調整剤の融点が40℃〜150℃である場合、加熱温度は、好ましくは変色温度調整剤の融点以上であり、より好ましくは1℃〜5℃程度高い温度である。変色温度調整剤の融点が40〜120℃程度であると、例えば、ゴム又は弾性樹脂で、筆跡または塗膜を擦ることによって、加熱を実施できる。消去用のゴムまたは樹脂は、筆記具の筆先とは反対側の端部に予め取り付けておいてよい。それにより、例えば、書き損じた文字等を消して修正することや、一度マーキングした箇所を、後で消すことが容易となる。消去用の樹脂は、紙面に対する摩擦抵抗の大きい樹脂(例えば、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体又はスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体)であることが好ましい。
【0072】
あるいは、加熱は、ヒーターで加熱する、加熱したロールの上を通過させる、または熱風を吹き付ける等の方法により、実施してよい。ロールまたは熱風を用いると、比較的大きな面積内に筆記された筆跡または比較的大きな面積を有する塗膜等を、一度に消去できる。よって、本発明の熱変色性組成物と加熱装置を組み合わせて使用することにより、筆記または印刷された紙を繰り返し使用するための、リサイクルシステムを構築することが可能である。
【0073】
前述のとおり、「消去」および「消色」には、色を薄くすることも含まれ、用途によっては完全に無色化されなくても、熱変色性組成物として実用可能である。例えば、筆記した文字であれば、完全に無色とならず、一部に色が残っていても、加熱後の筆跡が判読不能であれば、筆記した内容を機密上の理由から消去する目的で使用するうえでは十分である。
【0074】
本発明の熱変色性組成物が、前述のように非熱変色性着色剤を含み、加熱により非熱変色性着色剤の色が強く現れるように変色させる目的で用いられる場合も、上記と同様に、筆跡または塗膜は、弾性樹脂で擦って変色温度調整剤を液化させることにより、変色する。あるいは、本発明の熱変色性組成物は、複数種類の電子供与性呈色性有機化合物と、それぞれ融点の異なる変色温度調整剤と、電子受容性化合物とを用いて、複数種類の有色粒子を含むものであってよい。そのような熱変色性組成物は、加熱温度を段階的に変化させたときに、それぞれ異なる色が現れる、多段階変色を示す。
【実施例】
【0075】
(各成分の準備)
電子供与性呈色性有機化合物として、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオランを準備し;
電子受容性化合物として、2,2'-ビス[4-(4-ヒドロキシフェニルスルホニル)フェノキシ]ジエチルエーテルを準備し;
変色温度調整剤として、ベヘニン酸アミドを準備し;
乳化剤としてメチルセルロースを準備し;
消色剤として下記の3種類の化合物を準備した。
【0076】
消色剤A:下記の式で示される、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル
【化3】

消色剤B:ジアミノデカン
消色剤C:硬化牛脂プロピレンジアミン
【0077】
(実施例1)
電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を180℃に加熱して、それらを溶解させた後、ディスパーを用いて混合した。混合物が発色するように十分に混合してから、混合物を冷却して固化させた後、乳鉢を用いて粉砕し、有色粒子を得た。フーバーマーラーを用いて、有色粒子、消色剤Aおよび変色温度調整剤を、乳化剤を15重量%の割合で溶解させた水溶液中に分散させて、熱変色性インキ組成物を得た。電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、消色剤Aおよび変色温度調整剤は、熱変色性インキ組成物における割合がそれぞれ表1に示す割合となる量で混合した。
【0078】
(実施例2)
変色温度調整剤を130℃に加熱して溶解させた後、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を変色温度調整剤と混合した。混合物が発色するように混合物を冷却して固化させた後、乳鉢を用いて粉砕し、有色粒子を得た。フーバーマーラーを用いて、有色粒子および消色剤Aを、乳化剤を15重量%の割合で溶解させた水溶液中に分散させて、熱変色性インキ組成物を得た。
【0079】
(比較例1)
消色剤Aに代えて消色剤Bを用いたことを除いては、実施例1と同様の手順に従って、熱変色性インキ組成物を得た。
【0080】
(比較例2)
消色剤Aに代えて消色剤Cを用いたことを除いては、実施例1と同様の手順に従って、熱変色性インキ組成物を得た。
【0081】
(比較例3)
消色剤Aに代えて消色剤Bを用いたことを除いては、実施例2と同様の手順に従って、熱変色性インキ組成物を得た。
【0082】
(比較例4)
消色剤Aに代えて消色剤Cを用いたことを除いては、実施例2と同様の手順に従って、熱変色性インキ組成物を得た。
【0083】
(消色性能の評価)
各実施例および各比較例で得た熱変色性インキ組成物を、20μmのバーコータを用いて、ケント紙に塗布して塗膜を形成し、室温で乾燥させた。乾燥後、ケント紙を、温度110℃に設定した温度調節プレート上に乗せて加熱し、塗膜の状態を目視により観察し、下記の基準に従って、消色性能を評価した。
○:塗膜の消色が観察される。
×:塗膜の消色が観察されない。
【0084】
(貯蔵安定性の評価)
1)各実施例および各比較例で得た熱変色性インキ組成物、および2)各実施例および各比較例で得た熱変色性インキ組成物を用いて、消色性能の評価における手順と同様の手順に従って形成し、かつ乾燥させた塗膜(即ち、液状体ではない熱変色性組成物)を、ギヤーオーブンを用いて50℃に加熱した状態で1週間保存し、保存後の状態を目視により観察し、下記の基準に従って、消色性能を評価した。
○:ほとんど変化なし。
×:退色が観察される。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例および比較例において、消色性能においては差が生じなかった。しかし、比較例の熱変色性インキ組成物およびこれを用いて形成した塗膜はいずれも、実施例よりも貯蔵安定性の点で劣っていた。このことは、消色剤としての一般式(1)で示される化合物が、熱変色性組成物および熱変色性インキ組成物の消色性能と貯蔵安定性の両方を確保することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の熱変色性組成物は、所定の温度(特に55℃程度)までは変色せず、加熱により、実質的には不可逆的に、無色または他の色に変色可能であり、複写機のトナー、または筆記具のインキ、もしくはインクジェットプリンタ用のインキのような印刷用インキ等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、変色温度調整剤、および消色剤としての一般式(1)で示される化合物を含む熱変色性組成物。
【化1】

(式中、RおよびRは独立して、C2n+1(nは1〜22の整数)で示される炭化水素基、またはフェニル基である。)
【請求項2】
電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物が、それらを含む粒子を形成している、請求項1に記載の熱変色性組成物。
【請求項3】
電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物および変色温度調整剤が、それらを含む粒子を形成している、請求項1に記載の熱変色性組成物。
【請求項4】
電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を含む粒子、変色温度調整剤、ならびに消色剤としての一般式(1)で示される化合物が水に分散されてなる、熱変色性インキ組成物。
【化2】

(式中、RおよびRは独立して、C2n+1(nは1〜22の整数)で示される炭化水素基、またはフェニル基である。)
【請求項5】
電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物が、それらを含む粒子を形成している、請求項4に記載の熱変色性インキ組成物。
【請求項6】
電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物および変色温度調整剤が、それらを含む粒子を形成している、請求項4に記載の熱変色性インキ組成物。
【請求項7】
加熱により変色しない着色剤をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱変色性組成物。
【請求項8】
加熱により変色しない着色剤をさらに含む、請求項4〜6のいずれか1項に記載の熱変色性インキ組成物。

【公開番号】特開2013−10812(P2013−10812A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142679(P2011−142679)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【出願人】(000225267)内外カーボンインキ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】