説明

熱変色性組成物および積層構造物

【課題】生活環境において熱変色可能な熱変色性組成物を提供する。
【解決手段】熱変色成分としての少なくとも一種の脂肪酸エステル(例えば、長鎖脂肪酸とメチルアルコールのエステル、または長鎖脂肪酸と長鎖アルコールとのエステル)、および脂肪酸エステルと相溶しない樹脂(例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)を、脂肪酸エステルをマイクロカプセル化することなく、有機溶剤に溶解させて、熱変色性組成物を得る。この熱変色組成物を層状に印刷または塗布して、有機溶剤を蒸発させると、脂肪酸エステルが樹脂中に分散した、可逆的に熱変色可能な層が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆性を有する熱変色性組成物、およびこれをインキ等として用いて形成した熱変色層を有する積層構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の物質の溶融および固化による、透光性の変化を利用して、無色(または透明)−白色(または白濁)の変色を生じさせ得る可逆感熱記録材料および樹脂組成物が、既に提案されている(特許文献1および2)。特許文献1に記載の可逆感熱記録材料は、水素結合性基を有する有機結晶粒子と水素結合性基を有するマトリックスポリマとを含み、この有機結晶粒子を加熱冷却することによって透明度を変化させるものである。特許文献2に記載の樹脂組成物は、融点が−40℃〜+90℃の範囲にある、エステル類、エーテル類、ケトン類から選ばれる結晶性の化合物の一種または二種以上を内包させたマイクロカプセル顔料が樹脂中に分散状態に固着されてなり、温度変化により白色不透明状態と無色透明状態の両状態の互変性を呈するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−106849号公報
【特許文献2】特開平8−127181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、有機結晶粒子として、融点が好ましくは60〜120℃の範囲内にある直鎖飽和脂肪酸、高級アルコール、酸アミド基を有する直鎖脂肪酸アミド、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等を使用することを提案している。これは、生活環境の中で表示された情報を消失しにくくするためである。しかし、製品の用途によっては生活環境の中で変色をさせることが望まれる場合もある。特許文献1は、生活環境の中で変色させるのに適した材料には、言及していない。
【0005】
特許文献2に記載の組成物は、前記化合物をマイクロカプセルに内包させ、マイクロカプセルを樹脂中に分散させたものである。マイクロカプセルを使用することにより、マイクロカプセルの粒子径に依存してヒステリシス幅を変化させることが可能となり、従来の熱変色性材料と同調する様相変化を呈することが可能になる。しかし、マイクロカプセルを使用すると、無色(または透明)な状態が得られにくく、結晶性の化合物の融点よりも高い温度に加熱しても、ある程度の濁りを避けられないことがわかった。これは、結晶性の化合物が溶融して透明になっても、マイクロカプセルの皮膜によって、光が乱反射することに起因すると考えられる。また、マイクロカプセルを樹脂中に分散させるには、カプセル化の工程が必要となり、かかる工程は、製造工程数を増やし、製造コストを増加させる。
【0006】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、生活環境の中で良好に変色可能な熱変色性化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、少なくとも一種の脂肪酸エステル、脂肪酸エステルと相溶しない樹脂、および有機溶剤を含み、脂肪酸エステルおよび樹脂が有機溶剤に溶解している、熱変色性組成物を提供する。本発明の熱変色性組成物は、加熱−冷却により無色−白色の変色を呈する化合物として脂肪酸エステルを用いること、脂肪酸エステルと相溶しない樹脂を用いること、および脂肪酸エステルおよび樹脂が有機溶剤に溶解していることを特徴とする。この特徴により、本発明の熱変色性組成物を、例えばインキとして用いて、支持体に印刷し、有機溶媒を蒸発させて、印刷層としての熱変色層を形成した場合に、この熱変色層は、濁りのより少ない無色の状態を、生活環境の中で呈し得る。また、この熱変色層は、繰り返しの熱変色に対して高い耐久性を示し、また、高い耐熱性を示す。
【0008】
本発明はまた、本発明の熱変色性組成物が支持体に印刷または塗布されてなる熱変色層を有し、熱変色層において、脂肪酸エステルが粒子として分散している、積層構造物を提供する。前述のとおり、本発明の熱変色性組成物を用いて形成した層は、生活環境の中で得られる熱源または冷却源によって、良好な変色性を示す。したがって、例えば、本発明の積層構造物は、温水(30〜50℃)に浸すと、変色して透明となり、支持体の色または熱変色層の下に位置する支持体に印刷された文字および図等が見えるような、玩具、絵本、食器、雑貨、シート、タイルおよびシール等として利用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱変色性組成物は、生活環境の中で、例えば、50℃程度までの湯、および水または氷水等により変色可能であり、また、加熱により透明になったときの濁りの度合いがより少ない熱変色層を与える。さらに、本発明の熱変色性組成物は、印刷または塗布により熱変色層を形成したときに、熱変色に寄与する脂肪酸エステルが樹脂中に直接分散される(即ち、カプセルの皮膜で保護されない)構成となるにもかかわらず、優れた耐久性を示し、繰り返しの変色に耐えることができる。さらにまた、本発明の熱変色性組成物で形成された熱変色層は、消色された状態で高温に維持された場合でも、その熱変色性が影響を受けにくく、高温に維持された後も、良好な可逆熱変色性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱変色性組成物は、少なくとも一種の脂肪酸エステル、樹脂、および有機溶剤を含み、脂肪酸エステルおよび樹脂が有機溶剤に溶解している組成物である。以下に、本発明の熱変色性組成物を構成する成分について説明する。
【0011】
[脂肪酸エステル]
本発明の熱変色性組成物において熱変色成分として用いる脂肪酸エステルは、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステルである。脂肪酸エステルは、印刷または塗布により形成された熱変色層が高温に曝されたときでも、染み出し(ブリード)が少なく、高い熱安定性を示す。脂肪酸エステルは、一種のみ用いてよく、または複数種用いてよい。脂肪族エステルは、好ましくは20℃〜50℃の融点を有する。融点が20℃未満であると、特別な装置または器具を用いて、熱変色を生じさせる必要があり、生活環境の中で手軽に熱変色を生じさせることが困難となる。融点が50℃を超えるときも同様に、生活環境の中で手軽に熱変色を生じさせることが困難となる。
【0012】
脂肪酸エステルは、例えば、示差走査熱量測定法(DSC)により融点を測定したときに現れる融解ピークが急峻となる融解特性を有するものであることが好ましい。即ち、脂肪酸エステルは、融解が開始して終了するまでの時間が短く、いわゆる「シャープな」融解特性を示すものであることが好ましい。そのような融解特性を示す脂肪酸エステルを用いると、熱変色が設定温度(狙いとする消発色温度)で完了することを、より高い精度で実現することが可能となる。すなわち、シャープな融解特性を示す脂肪酸エステルを含む熱変色組成物は、狭い温度範囲で消発色状態が変化するため、熱が熱変色層に伝わる過程で色が速やかに変化することを可能にする。
【0013】
上記のような融解特性を有する脂肪酸エステルは、具体的には、総炭素数13以上のものである。好ましい総炭素数の上限は36である。総炭素数が13未満であると、脂肪酸エステルの融点が低くなり、生活環境の中で熱変色させるのに適した熱変色組成物を得ることが困難となる。
【0014】
総炭素数が13以上36以下の脂肪酸エステルは、炭素数8〜22の長鎖脂肪酸と炭素数1〜22の脂肪族アルコールとのエステルであることが好ましい。より具体的には、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、ベヘニン酸メチル、ステアリン酸ラウリル、パルミチン酸ラウリル、ミリスチン酸ラウリル、ラウリン酸ステアリル、およびラウリン酸ラウリルが、脂肪酸エステルとして好ましく用いられる。
【0015】
脂肪酸エステルの含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、1〜30重量%であることが好ましく、5〜20重量%であることがより好ましい。脂肪酸エステルの含有率が小さすぎる場合には、発色時(白色時)の色が薄くなることがあり、大きすぎる場合には、後述する溶剤に溶解させることが困難となることがある。
【0016】
[樹脂]
本発明の熱変色性組成物において、樹脂は、熱変色性組成物を用いて支持体上に形成した熱変色層において、脂肪酸エステルを分散させる媒体となる。したがって、樹脂は、脂肪酸エステルと相溶せず、脂肪酸エステルを微粒子の状態で分散させ得るものであることを要する。樹脂が脂肪酸エステルと相溶性を有すると、熱変色をさせることができなくなり(即ち、高温にしても無色の状態が得られないことがあり)、また、高温下で熱変色層が軟化することがある。
【0017】
樹脂は、消色状態および発色状態のいずれにおいても、透明なものであることが好ましい。樹脂が透明であると、脂肪酸エステルの変色をより明確に認識することができる。さらに、樹脂は、熱変色性組成物を印刷または塗布する支持体と良好に密着するものであることが好ましい。
【0018】
樹脂は、具体的には、ビニル基を有するモノマーのホモポリマーまたはコポリマーであることが好ましい。より具体的には、樹脂は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、酢酸ビニル、もしくはポリビニルアルコール、またはこれらの樹脂の2以上の組み合わせであることが好ましい。これらの樹脂のうち、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が最も好ましく用いられる。塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、上記の性質に加えて、水で流れ落ちにくい性質を有するため、例えば、湯で熱変色させる用途の物品において、熱変色層を形成するのに適している。
【0019】
樹脂の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、1〜30重量%であることが好ましく、5〜20重量%であることがより好ましい。樹脂の含有率が小さすぎる場合には、印刷層または塗膜として熱変色層を形成することが困難となることがあり、大きすぎる場合には、後述する溶剤に溶解させることが困難となることがある。
【0020】
[有機溶剤]
有機溶剤は、脂肪酸エステルおよび樹脂を溶解させて、熱変色組成物をインキまたは塗料として用いることを可能にする。したがって、有機溶剤は、脂肪酸エステルおよび樹脂を溶解させ得る限りにおいて、特定のものに限定されない。有機溶剤は、好ましくは、室温(20℃程度)〜60℃の沸点を有する。沸点が室温以下であると、揮発性が高くなりすぎて取り扱いが困難となることがあり、60℃を超えると揮発性が小さく、熱変色層を形成する場合に、溶剤を蒸発させるのに長い時間が必要となり、取り扱いにくい、または印刷もしくは塗装作業を効率的に実施できないことがある。有機溶剤は、具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、アセトンもしくはジオキサン、またはこれらの溶剤の2以上の組み合わせであることが好ましい。
【0021】
有機溶剤の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、40〜98重量%であることが好ましく、60〜90重量%であることがより好ましい。有機溶剤の含有率が小さすぎる場合には、脂肪酸エステルおよび樹脂を十分に溶解させることが困難となることがあり、大きすぎる場合には、有機溶剤の蒸発後に形成される熱変色層の厚さが小さくなって、熱による変色が分かりにくくなることがある。
【0022】
本発明の熱変色性組成物は、通常の熱変色性組成物に含まれる、その他の成分を含んでよい。以下、その他の成分について説明する。
【0023】
[光安定剤]
本発明の組成物は、光安定剤を含んでよい。光安定剤は、紫外線によって発生するラジカルと熱変色性組成物に含まれる成分とが反応することによる、当該成分の劣化を防止する。具体的には、ヒンダードフェノールまたはヒンダードアミン等を、光安定剤として使用してよい。
【0024】
[その他]
上記に示した成分以外の成分として、酸化防止剤(フェノール系、リン系、および硫黄系等)、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、油溶性染料、および顔料のいずれか一または複数の成分を含んでよい。特に、非熱変色性の顔料が含まれると、熱変色性組成物を、例えば、パステル調の色調(例えば、ピンク)から、白味の無い、透明感を有する色調(例えば、赤色)に熱変色する組成物として、提供することができる。
【0025】
本発明の熱変色性組成物は、有機溶剤を脂肪酸エステルおよび樹脂が溶解する温度に加熱し、加熱した有機溶剤に樹脂および脂肪酸エステルをこの順に投入して、溶解させることにより得られる。本発明の熱変色性組成物は、熱変色成分をマイクロカプセル化することを要しないため、比較的簡便な製造方法で得られる。
【0026】
本発明の熱変色性組成物は、インキとして用いるのに適している。インキとして用いる場合には、支持体(例えば、紙、布、プラスチックシート、木材、プラスチック成形体)の表面に、通常の印刷方法で印刷することができる。印刷された熱変色性組成物は、有機溶剤が蒸発して、樹脂に脂肪酸エステルが分散した熱変色層を形成する。熱変色層において、脂肪酸エステルは直径1〜4μm程度の粒子として存在する。熱変色層の熱変色は、脂肪酸エステルの溶融と凝固に起因して生じる。脂肪酸エステルが溶融すると、光が樹脂および脂肪酸エステルの両方を通過するので、熱変色層は無色(透明ないしは半透明)となる。脂肪酸エステルが凝固すると、光が脂肪酸エステルの粒子により反射されて、散乱するため、熱変色層は白色(不透明)となる。
【0027】
印刷により形成される熱変色層は、支持体の表面全体を覆う層として形成されてよく、あるいは、任意の文字、図または模様を構成するように形成されてよい。熱変色層を例えば、文字または図等が印刷された支持体の表面全体を覆う層として形成すると、熱変色により、熱変色層が透明になると、その下に位置する文字または図等を認識することができる。あるいは、熱変色層を、有色(例えば黒色)の支持体層の表面に、文字等として印刷すると、熱変色により、文字等を消す、または文字等を浮かび上がらせることが可能となる。
【0028】
本発明の熱変色性組成物はまた、塗料として用いることもできる。塗料として用いる場合には、支持体の表面に、通常の塗装方法で塗布することができる。塗料として用いる場合には、前記印刷層により形成される熱変色層と同様の視覚効果をもたらす塗膜を、熱変色層として形成することができる。
【0029】
印刷または塗膜として熱変色層を形成する支持体は、平面的なものに限定されず、立体的な形状を有してよい。したがって、支持体は、例えば、玩具、食器、小物、および調理器具のような製品、またはこれらの製品の部品であってよい。
【0030】
本発明の熱変色性組成物は、脂肪酸エステルを適宜選択することによって、0〜30℃にて発色し、30〜50℃にて消色するように構成することが好ましい。そのような熱変色性組成物は、例えば、風呂場で用いる玩具、絵本および小物類(例えば、洗面器)等において、好ましく用いられる。あるいは、本発明の熱変色性組成物は、融点の低い脂肪酸エステルを用いて、常温(20〜30℃)で消色状態にあり、氷水に浸す、または冷蔵庫に保存する等して冷却することによって、発色状態となるものであってよい。あるいはまた、本発明の熱変色性組成物は、その熱変色を利用して、所定温度以上または所定温度以下であることを示すインジケータとして利用することができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
表1に示す成分を使用して、熱変色性組成物を調製した。いずれの熱変色性組成物も、有機溶剤を40〜60℃に加温した後、樹脂を投入して樹脂を溶解させた後、熱変色成分を投入して溶解させる方法で調製した。
【0032】
(測定用サンプルの作製)
熱変色性組成物を、黒色のアート紙にドクターブレードを用いて、厚さが200μmとなるように塗布し、50℃で1時間乾燥させて、塗膜(熱変色層)を形成したものを、測定用サンプルとした。
【0033】
(性能評価)
[初期の発色状態および消色状態]
得られた測定用サンプルの初期の発色状態および消色状態を測定した。測定は、コニカミノルタ(旧ミノルタ)株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて、黒色アート紙との色差を求めることにより評価した。初期の発色および消色状態の色差は、L(明度指数)の差とした。
【0034】
[耐熱性および繰り返し耐久性]
保存後の発色状態(発色濃度)および可逆熱変色を繰り返したときの発色状態を、コニカミノルタ(旧ミノルタ)株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて、黒色アート紙との色差を求めることにより評価した。色差は、下記の式で表わされる。式中、Lは明度指数、aおよびbはクロマティクネス指数を示す。詳細は、同装置の取扱説明書(特に第77頁)に記載されている。
【0035】
【数1】

【0036】
発色状態における色差の測定は−5℃のクーラーボックス内で行い、消色状態における色差の測定は100℃のホットプレート上で行った。熱変色層の経時安定性は、70℃で1ヶ月間保存してから、色差を測定して評価した。保存前後の色差から、発色状態における色差の変化率を下式に従って算出した。
【0037】
【数2】

【0038】
さらに、変化率の値(絶対値)から、発色濃度の経時安定性を、次の基準に従って、評価した。
良好(○):|変化率|≦10
悪い(×):|変化率|>10
【0039】
可逆熱変色を繰り返したときの耐久性は、測定用サンプルを5℃に冷却して発色させたることと、70℃に加熱して消色させることを500回繰り返した後、発色濃度の色差を測定して評価した。繰り返し熱変色させる前後の色差から、発色濃度の変化率を下式に従って算出した。
【0040】
【数3】

【0041】
さらに、変化率の値(絶対値)から、繰り返しの熱変色に対する耐久性を、次の基準に従って、評価した。
良好(○):|変化率|≦10
悪い(×):|変化率|>10
【0042】
各実施例および各比較例の熱変色性組成物で作製した測定用サンプルの評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、熱変色成分として、脂肪酸エステルを用いた実施例1〜3はいずれも、30〜40℃の範囲内にある温度で消色し、かつ10℃前後の温度で発色し、生活環境の中で熱変色させ得るものであった。また、耐熱性および繰り返し熱変色させたときの耐久性においても優れていた。脂肪酸および脂肪酸アミドを用いた比較例1は、高い変色温度および発色温度を示し、生活環境の中で手軽に熱変色させ得るものではなかった。高級アルコールを使用した比較例2は、熱変色を生活環境の中で発現させ得るものではあったが、耐熱性および繰り返し耐久性において劣っていた。これは、高級アルコールのブリードに起因すると考えられる。
【0045】
(実施例4、比較例3)
熱変色成分として、脂肪酸エステルおよび高級アルコールを使用したときのブリードの差を確認した。実施例1で使用した熱変色性組成物を用いて、測定用サンプルを作製し、サンプルから、2cm×2cmの寸法の塗膜を剥離し、これの質量を測定した。次いで、塗膜を濾紙で包み、100℃にて30分間加熱した。加熱後、塗膜の質量を測定し、加熱前後の質量差を求めた。この測定を3回繰り返して、質量差の平均を算出した(実施例4)。同様の測定および質量差の平均の算出を、比較例2で使用した熱変色性組成物を用いて実施した(比較例3)。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、実施例4と比較して、比較例3は、加熱前後の質量差が大きく、このことは高級アルコールのブリードがより生じやすいことを示している。また、比較例3の塗膜は、加熱後、発色状態にさせたときの発色性が、加熱前のそれより劣っており、脱色が生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の熱変色性組成物は、生活環境において熱変色可能であり、かつ耐熱性および耐久性において優れている熱変色層を、印刷又は塗布により与え得る。したがって、本発明の熱変色性組成物は、繰り返しの熱変色が可能な熱変色層を形成するインキおよび塗料、ならびに温度表示用のインジケータとして、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の脂肪酸エステル、脂肪酸エステルと相溶しない樹脂、および有機溶剤を含み、脂肪酸エステルがおよび樹脂が有機溶剤に溶解している、熱変色性組成物。
【請求項2】
前記少なくとも一種の脂肪酸エステルが、総炭素数13以上の脂肪酸エステルである、請求項1に記載の熱変色性組成物。
【請求項3】
0〜30℃にて発色し、30〜50℃にて消色する、請求項1または2に記載の熱変色性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱変色性組成物が支持体に印刷または塗布されてなる熱変色層を有し、熱変色層において、脂肪酸エステルが粒子として分散している、積層構造物。

【公開番号】特開2011−184524(P2011−184524A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49534(P2010−49534)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】