説明

熱安定性、柔軟性に優れる不織布

【課題】衛生材料に用いられる吸収性物品のトップシート、バックシート又はサイドギャザー部に適した、熱安定性が高く、柔軟性に優れ、さらに加工性も良い不織布の提供。
【解決手段】ポリオレフィン系繊維からなる不織布であって、該ポリオレフィン系繊維の結晶子サイズは15nm以上50nm以下であり、かつ、該不織布の曲げ柔軟度は5mm以上100mm以下であることを特徴とする不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生材料に用いられる吸収性物品のトップシート、バックシート又はサイドギャザー部に適した加工性に優れるポリオレフィン系繊維からなる不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、使い捨てオムツの普及はめざましく、その生産量も急増してきている。このような環境下における使い捨てオムツとして、その製造ラインでのロスの減少及び品質の安定性が重要である。オムツ製造ラインにおいて、素材となる不織布の熱安定性が低いとフィルムとの貼り合わせ工程で不織布の幅寸法変化が発生し、シワの発生や湾曲など様々な不具合が生じる。更にヒートシール工程でヒートシールローラーの熱の影響で、不織布自体が収縮変形し、シワの発生や湾曲が発生するため、熱安定性の高い不織布が必要とされる。
【0003】
従来、不織布の熱安定性を良くする手段としては、熱接着温度を上げる方法や、ボンディング圧力を上げる方法、エンボス面積率を上げる方法等で不織布の繊維の接着程度を高くして寸法変化を抑える方法などが用いられているが、いずれの方法を用いても、接着程度を高くすることにより不織布の風合いは硬いものとなる。すなわち、従来の不織布の熱安定性を良好とする手段では、衛生材料に使用するには柔軟性が劣り、不織布の柔軟性と熱安定性を両立させることは非常に困難であるという問題がある。
【0004】
以下の特許文献1には、プロピレン・エチレンランダム共重合体を使用し、柔軟性と熱安定性を両立させるために、エチレン含有量を特定の狭い範囲とすることが記載されている。このように、特許文献1に記載された発明においては、極めて限定的な原料で不織布が製造されている。
また、以下の特許文献2には、熱接着温度を上げて熱収縮率を低くする方法が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載された方法では、不織布の風合いが硬くなり、衛生材料に使用するには好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−96157号公報
【特許文献2】特開2003−129364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、衛生材料に用いられる吸収性物品のトップシート、バックシート又はサイドギャザー部に適した、熱安定性が高く、柔軟性に優れ、さらに加工性も良い不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、不織布を構成するポリオレフィン系繊維の結晶子サイズを特定の大きさとし、不織布の曲げ柔軟度を特定範囲にすることで衛生材料加工工程におけるフィルムの貼り合わせ工程でホットメルト剤塗布時の熱の影響による幅寸法変化やシワの発生、不織布の湾曲などを抑制でき、さらに、後工程であるヒートシール工程でのヒートシールローラーの熱の影響による幅寸法変化やシワの発生、不織布の湾曲なども抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
また、本発明者らは、不織布の生産工程において牽引装置入口の繊維温度と牽引エアー風速を所定範囲にすることで結晶子サイズが特定範囲になり、これにより、熱安定性が高く、柔軟性に優れ、さらに加工性も良い、衛生材料に好適に使用することができる不織布が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]ポリオレフィン系繊維からなる不織布であって、該ポリオレフィン系繊維の結晶子サイズは15nm以上50nm以下であり、かつ、該不織布の曲げ柔軟度は5mm以上100mm以下であることを特徴とする不織布。
【0010】
[2]前記不織布の沸水収縮率は0%以上3.0%以下である、前記[1]に記載の不織布。
【0011】
[3]前記ポリオレフィン系繊維はポリプロピレン系繊維である、前記[1]又は[2]に記載の不織布。
【0012】
[4]前記不織布は長繊維不織布である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の不織布。
【0013】
[5]前記ポリオレフィン系繊維の平均単糸繊度は0.5dtex以上3.5dtex以下である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の不織布。
【0014】
[6]前記不織布の120℃での乾熱収縮率が0%以上5.0%以下である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の不織布。
【0015】
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の不織布を用いてなる衛生材料。
【0016】
[8]使い捨てオムツ、生理用ナプキン又は失禁パットの形態にある、前記[7]に記載の衛生材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明の不織布は、ポリオレフィン系繊維からなる不織布であり、ポリオレフィン系繊維の結晶子サイズを15nm以上50nm以下とし、曲げ柔軟度を5mm以上100mm以下とすることで、柔軟性を保持したまま、加工性も良好となる。
加工時の熱によるシワの発生や湾曲を抑制するためには結晶子サイズをある大きさ以上にすることが重要である。例えば、結晶化度が同等であったとしても小さいサイズの結晶が多く存在する場合には繊維全体が収縮を引き起こす。一方、結晶子サイズが大きいと結晶部がリジッドに分子の動きを抑制し、収縮を抑制することができる。
さらに加工性(加工適正)を良好とするためには適度な柔軟性が必要である。柔軟性が低すぎると、加工時の張力変動やロール周速変動などに追従することができず、シワの発生や蛇行などの問題が発生する。
本発明の不織布は、前記構成を有することにより、衛生材料に用いられる吸収性物品のトップシート、バックシート又はサイドギャザー部に適した加工性に優れる不織布である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】曲げ柔軟度の測定方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳述する。
本発明の不織布を構成するポリオレフィン系繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらのモノマーと他のα−オレフィンとの共重合体などの樹脂から成る繊維が挙げられる。なかでも、強度が強く使用時において破断し難く、且つ衛生材料の生産時における寸法安定性に優れることから、ポリプロピレン繊維を用いることが好ましい。ポリプロピレンは、一般的なチーグラナッタ触媒により合成されるポリマーでもよいし、メタロセンに代表されるシングルサイト活性触媒により合成されたポリマーであってもよい。また、エチレンランダム共重合ポリプロピレンであってもよく、エチレン含有量は2%未満、好ましくは1%未満であることが好ましい。他のα−オレフィンとしては、炭素数3〜10のものであり、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキサン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどが挙げられる。これらは1種類単独でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。あるいは、ポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、共重合ポリエステルなどのポリエステル系繊維、ナイロン−6繊維、ナイロン−66繊維、共重合ナイロンなどのポリアミド系繊維、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの生分解性繊維を1種類又は2種類以上組み合わせて用いてもよい。好ましくは1種類単独で用いることがよい。さらに、ポリオレフィン系樹脂を表面層とする芯鞘繊維でもよい。また、その繊維形状も通常の円形繊維のみでなく、捲縮繊維、異形繊維などの特殊形態の繊維であってもよい。
【0020】
強度・寸法安定性の観点から、ホモポリプロピレンを主成分とするものであることが特に好ましい。
また、ポリプロピレンの場合、MFRとして下限が20g/10分以上、好ましくは30g/10分を超え、より好ましくは40g/10分を超え、さらに好ましくは53g/10分を超えるものである。上限は100g/10分以下、好ましくは85g/10分以下、より好ましくは70g/10分以下、更に好ましくは65g/10分未満である。MFRがこの範囲にあると樹脂の流動性が良く、曲げ柔軟度の良好な不織布を得ることができる。MFRは、JIS−K7210「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」の表1、試験温度230℃、試験荷重2.16kgに準じて測定を行って求めた。
【0021】
本発明の不織布を構成するポリオレフィン系繊維には、核剤、難燃剤、無機充填剤、顔料、着色剤、耐熱安定剤、帯電防止剤などを配合してもよい。
ポリオレフィン系繊維を接合して不織布を製造する際の接合手段としては、部分熱圧着法、熱風法、溶融成分での接合(ホットメルト剤)法、その他各種の方法が挙げられるが、強度の観点から、部分熱圧着法が好ましい。
【0022】
本発明の不織布の部分熱圧着における熱圧着面積率は、強度保持及び柔軟性の点から、3%以上40%以下であり、好ましくは4%以上25%以下、より好ましくは4%以上20%以下であり、さらに好ましくは5%以上15%以下である。
【0023】
また、本発明の部分熱圧着処理は、超音波法により又は加熱エンボスロール間にウェブを通すことにより行うことができ、これにより、表裏一体化され、例えば、ピンポイント状、楕円形状、ダイヤ形状、矩形状等の浮沈模様が不織布全面に散点する。生産性の観点から、加熱エンボスロールを用いることが好ましい。
【0024】
本発明の不織布を構成するポリオレフィン系繊維の平均単糸繊度は、0.5dtex以上3.5dtex以下であることが好ましく、より好ましくは0.7dtex以上3.2dtex以下、さらに好ましくは0.9dtex以上2.8dtex以下である。紡糸安定性の観点から、0.5dtex以上であることが好ましく、繊度が細い程、不織布として糸の接着点が多くなるため強度が高く、柔軟性が良好となる。主として衛生材料に使用されるため、不織布の強力の観点から、3.5dtex以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の不織布の目付は、8g/m以上40g/m以下であり、好ましくは10g/m以上30g/m以下、より好ましくは10g/m以上25g/m以下、さらに好ましくは10g/m以上23g/m未満である。8g/m以上であれば衛生材料に使用される不織布に要求される強力要件を満足し、一方、40g/m以下であれば、衛生材料に使用される不織布の柔軟性を満足し、外観的に厚ぼったい印象を与えない。
【0026】
本発明の不織布の結晶子サイズは、15nm以上50nm以下であり、好ましくは20nmを超え50nm以下、より好ましくは25nm以上40nm以下である。結晶子サイズが15nm以上であれば、熱安定性が良好となり、衛生材料に使用される不織布の柔軟性の観点から、結晶子サイズは50nm以下である。
【0027】
本発明の不織布は、牽引装置入口の繊維温度を30℃以上とし、牽引エアー風速を5000m/min以上で強力な牽引力で牽引することにより繊維が細化し、所望の結晶子サイズを有することになる。繊維温度は、好ましくは30℃以上80℃以下であり、より好ましくは35℃以上70℃以下である。牽引エアー風速は、好ましくは6000m/min以上30000m/min以下、より好ましくは7000m/min以上20000m/min以下である。牽引装置入口の繊維温度と牽引エアー風速をこの範囲にすることで、所定の結晶子サイズにすることができ、衛生材料における加工性が良好となる。
また、本発明の不織布の牽引方法は特に制限されるものではないが、結晶子サイズが大きく、熱安定性に優れる不織布を得るには、エアジェットによる高速気流牽引装置を用いる方法が良く、矩形型の牽引装置を用いると更に良好となる。
【0028】
以下に定義する本発明の不織布のタテ方向とヨコ方向の平均「曲げ柔軟度」は、5mm以上100mm以下であり、好ましくは5mm以上90mm以下、より好ましくは10mm以上80mm以下である。曲げ柔軟度がこの範囲であれば、加工性に優れ、風合い、柔軟性に優れた不織布となる。
【0029】
本発明の不織布の沸水収縮率は、湯が繊維の周りを囲うため、熱エネルギーを効率良く伝播し、繊維の熱安定性を見るためには好適な手法である。本発明の沸水収縮率は0%以上3.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以上2.0%以下、さらに好ましくは0.1%以上1.0%以下である。沸水収縮率がこの範囲にあれば、衛生材料の製造ラインにおいてホットメルト剤塗布時やヒートシール時の熱による幅入りやシワ発生抑制され、破断することがなく、安定した加工が可能となる。
【0030】
本発明の不織布の乾熱収縮率は、120℃において0%以上5.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以上3.0%以下、さらに好ましくは0.2%以上1.5%以下である。乾熱収縮率がこの範囲であれば、衛生材料の製造ラインにおいてホットメルト剤塗布時やヒートシール時の熱による幅入りやシワ発生が抑制され、破断することがなく、安定した加工が可能となる。
【0031】
本発明の不織布には、親水化剤を適用してもよい。かかる親水化剤としては、人体への安全性、工程での安全性等を考慮して、高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール等のエチレンオキサイドを付加した非イオン系活性剤、アルキルフォスフェート塩、アルキル硫酸塩等のアニオン系活性剤等が単独で又は混合物として好ましく用いられる。
【0032】
親水化剤の付着量は、要求される性能によって異なるが、通常は、繊維に対して0.1重量%以上1.0重量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.15重量%以上0.8重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以上0.6重量%以下である。付着量がこの範囲にあると、衛生材料のトップシートとしての親水性能を満足し、加工性も良好となる。
【0033】
親水化剤を塗布する方法としては、通常、希釈した親水化剤を用いて、浸漬法、噴霧法、コーティング(キスコーター、グラビアコーター)法等の既存の方法を採用することができ、必要により予め混合した親水化剤を、水等の溶媒で希釈して塗布することが好ましい。
【0034】
親水化剤を水等の溶媒で希釈して塗布すると、乾燥工程を必要とする場合がある。その際の乾燥方法としては、対流伝熱、伝導伝熱、放射伝熱等を利用した既知の方法を採用することができ、熱風や赤外線による乾燥や熱接触による乾燥方法等を用いることができる。
【0035】
本発明の不織布には、柔軟化剤を適用してもよい。かかる柔軟化剤としては、エステル化合物が好ましく、より好ましくは3〜6価のポリオールとモノカルボン酸とのエステル化合物が挙げられる。
3〜6価のポリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価のポリオール、ペンタエリスリトール、グルコース、ソルビタン、ジグリセリン、エチレングリコールジグリセリルエーテル等の4価のポリオール、トリグリセリン、トリメチロールプロパンジグリセリルエーテル等の5価のポリオール、ソルビトール、テトラグリセリン、ジペンタエリスリトール等の6価のポリオール等が挙げられる。
【0036】
モノカルボン酸としては、例えば、オクタン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタデセン酸、ドコセン酸、イソオクタデカン酸等のモノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、メチルベンゼンカルボン酸等の芳香族モノカルボン酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシオクタデセン酸等のヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸、アルキルチオプロピオン酸等の含イオウ脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
エステル化合物は、単一成分である必要はなく、2種以上の混合物であっても、天然物由来の油脂類であってもよい。但し、不飽和脂肪酸を含むエステル化合物は酸化されやすく紡糸時に酸化劣化し易いため、飽和の脂肪族モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸が好ましい。天然物由来の油脂類は、原料油に比べて、無臭で安定なため、水素添加したエステル化合物が好ましく用いられる。
【0038】
エステル化合物としては、モノカルボン酸の分子量が比較的大きく、親油性が高いものが好ましい。親油性が高いことにより、ポリオレフィン系繊維の非晶部に入り込み、結晶化を阻害して非晶領域が増加するため、曲げ柔軟度がより小さくなる効果が得られる。
かかる効果を得るためには、エステル化合物の融点は70℃以上であることが好ましく、より好ましくは80℃以上150℃以下である。エステル化合物の融点がブロードで、範囲を有する場合には、該融点は、平均の融点を意味する。また、エステル化合物には、他の組成物、例えば、融点が70℃未満のエステル化合物やその他の有機化合物が混合されていてもよい。
【0039】
柔軟化剤としてのエステル化合物の含有率は、ポリオレフィン系繊維に対し、0.3重量%以上5.0重量%以下であることが好ましい。エステル化合物は、少量の添加でも曲げ柔軟度や滑り易さが著しく向上し、含有量を増やしても含有量に見合った性能向上は見られない。そのため、紡糸性及び発煙性を加味し、5.0重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上3.5重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上2.0重量%以下である。
【0040】
本発明の不織布の製造方法は、特に限定されないが、主に衛生材料に使用されるため、強度の観点から、スパンボンド(S)法であることが好ましく、SS、SSS、SSSSと積層することで分散が向上するため、より好ましい。また、目的に応じて、スパンボンド(S)繊維をメルトブローン(M)繊維と積層してもよく、SM、SMS、SMMS、SMSMSと積層した構造であってもよい。
【0041】
本発明の紡糸温度は190℃以上260℃以下、好ましくは200℃以上255℃以下、より好ましくは205℃以上230℃以下、さらに好ましくは210℃以上225℃以下である。紡糸温度は260℃以下であれば、樹脂分解物による紡口表面の汚れが少なく、さらに樹脂の粘度が低くなることによる糸切れの発生を抑制することができる。また、紡糸温度が高いと、作製した不織布は樹脂分解物による影響のため、曲げ柔軟度が高くなり、不織布として硬い傾向を示す。紡糸温度が190℃以上であれば、樹脂の粘度が高くなることによる糸切れの発生を抑制し、さらに紡糸時の紡口内圧力が高くなることによる樹脂漏れなどを抑制することができる。
【0042】
本発明の不織布は、目的に応じて長繊維であっても、短繊維であっても特に限定されるものではないが、主に衛生材料に使用されるため、強度の観点から、長繊維不織布であることが好ましい。
【0043】
本発明の不織布は、熱安定性が非常に高いため衛生材料の製造に好適に使用することができ、衛生材料としては、使い捨てオムツ、生理用ナプキン又は失禁パットが挙げられ、それらの表面のトップシート、外側のバックシート、足回りのサイドギャザー等に好適に使用される。
また、本発明の不織布の用途は前記用途に限られず、例えば、マスク、カイロ、テープ基布、防水シート基布、貼布薬基布、救急絆基布、包装材、ワイプ製品、医療用ガウン、包帯、衣料、スキンケア用シートなどに使用することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
尚、実施例及び比較例において使用した各種特性の評価方法は下記のとおりであり、得られた物性を以下の表1に示す。
【0045】
1.平均単糸繊度(dtex)
製造した不織布の両端10cmを除き、幅方向にほぼ5等分して1cm角の試験片をサンプリングし、顕微鏡で繊維の直径を各20点ずつ測定し、その平均値から繊度を算出した。
【0046】
2.目付(g/m2
JIS−L1906に準じ、タテ20cm×ヨコ5cmの試験片を任意に5枚採取して質量を測定し、その平均値を単位面積当たりの重量に換算して求めた。
【0047】
3.沸水収縮率(%)
タテ25cm×ヨコ25cmの試験片を任意に3枚採取して、試料のタテ、ヨコ各々3ヶ所に正確に20cmの長さを表す印を付ける。
試料を適当な容器中で沸騰水中に3分間浸漬した後、試料を取り出し、濾紙等で軽く水を切り、一端をクリップでつかみ、室温で吊り下げ、乾燥させる。次に始めに印した、タテ、ヨコ方向各々3ヶ所の長さを測定する。以下の式によりタテ方向の収縮率を算出して、平均値を求めた。
沸水収縮率(%)=(L−L’)/L×100
{式中、L:処理前の3線の長さの合計(mm)、そしてL’:処理後の3線の長さの合計(mm)である。}。
【0048】
4.乾熱収縮率(%)
タテ25cm×ヨコ25cmの試験片を任意に3枚採取して、試料にタテ、ヨコ各々3ヶ所に正確に20cmの長さを表す印を付ける。
恒温乾燥機を120℃に設定し、乾燥機中に試料を吊り下げ、乾燥機の指示目盛りが規定の温度になった後、3分間乾燥機内に放置し、取り出して室温まで冷却する。次に始めに印した、タテ、ヨコ方向各々3ヶ所の長さを測定する。以下の式によりタテ方向の収縮率を算出し、平均値を求めた。
乾熱収縮率(%)=(L−L’)/L×100
{式中L:処理前の3線の長さの合計(mm)、そしてL’:処理後の3線の長さの合計(mm)である}。
【0049】
5.曲げ柔軟度(mm)
不織布試料から幅10cm、長さ30cmの試験片を任意に5枚採取し(測定方向が30cmとなる様に試料を採取)、図1のように平らな台の上に置き、試験片の中央部に長手方向に直交するようにステンレス製の定規を載せる。定規は幅2.5cm、測定目盛30cmのものが好ましい(1)。次いで試験片の一方の端を持ち上げてステンレス製の定規を境にした反対側の試験片の上に折り目をつけず、ループを形成させた状態でゆっくりと重ねる(2)。次にステンレス製の定規を折り重ねられて生じたループの方向へ、長手方向に直交した状態でゆっくりとスライドさせ(3)、試料の反発力でループが伸びて折り重ねが無くなったときの状態を終点とし、試験片の端と定規間の距離(L)をスケールで読む(4)。表裏タテ方向及びヨコ方向のn=5の各測定値の平均値により曲げ柔軟度を算出した。曲げ柔軟度(mm)の値が小さいほど柔軟であることを示す。
【0050】
6.結晶子サイズ(nm)
XRD解析装置を用い〔装置:株式会社リガク製 NanoViewer、光学系:ピンホールコリメーション(confocalミラー+第1スリット:0.4mmφ+第2スリット:0.3mmφ)、X線源:CuKα線、45kV60mA、検出器:イメージングプレート、カメラ長:80.8mm〕繊維1本をセルにセットして繊維軸垂直方向からX線を入射し、透過散乱(回折)光を検出した。バックグラウンド散乱の影響を減らすために第2スリットより下流は全て真空として、第2スリットから検出器間のX線パス上に試料以外の散乱体がない状態で測定を行った。
【0051】
測定時間10〜12時間で、2次元パターンから円環平均により1次元WAXSプロフィールを求め、ピーク分離を行った後、(040)面由来の回折ピーク幅より(040)面に垂直方向の結晶子サイズを以下の式で算出した。
【数1】

{式中、K:シェラー定数(結晶子の形状等に依存する定数:0.9を使用)、λ:X線波長、β:ピークの半価幅(半価全幅:FWHM)(rad)、そしてb:入射ビームの広がりの半価幅(半価全幅:FWHM)(rad)である。}。
【0052】
7.加工時の熱によるシワ発生評価(加工性(加工適正))
幅30cmの不織布試料に160℃で溶融したポリオレフィン系のホットメルト剤をライン速度50m/minで当業者に知られている通常のホットメルト塗布方法によって不織布に塗布した。塗布時の不織布のシワの状況を以下の評価基準に従って評価した:
◎:シワの発生がない
○:ライン方向にシワが発生するが塗工可能
×:ライン方向にシワが発生し、塗工不可
【0053】
〔実施例1〕
MFRが60g/10分(JIS−K7210に準じ、温度230℃、荷重2.16kgで測定)のポリプロピレン樹脂をスパンボンド法により、ノズル径φ0.4mm、単孔吐出量0.56g/min・Hole、紡糸温度215℃で押出し、このフィラメント群をエアジェットによる高速気流牽引装置を使用して牽引装置入口の繊維温度を40℃、牽引エアー風速を17,500m/minで牽引し、移動捕集面に向けて押し出し、平均単糸繊度1.1dtexの長繊維ウェブを調製した。
【0054】
次いで、得られたウェブを、フラットロールとエンボスロール(パターン仕様:直径0.425mm円形、千鳥配列、横ピッチ2.1mm、縦ピッチ1.1mm、圧着面積率6.3%)の間に通して温度135℃と線圧35kgf/cmで繊維同士を接着し、目付17g/mの長繊維不織布を得た。
【0055】
〔実施例2〕
牽引装置入口の繊維温度を50℃、牽引エアー風速を15,000m/minとし、実施例1と同様にして平均単糸繊度1.5dtex、目付11g/mの長繊維不織布を得た。
【0056】
〔実施例3〕
単孔吐出量0.90g/min・Hole、牽引装置入口の繊維温度を65℃、牽引エアー風速を12,500m/minとし、実施例1と同様にして平均単糸繊度2.0dtex、目付25g/mの長繊維不織布を得た。
【0057】
〔実施例4〕
MFRが60g/10分(JIS−K7210に準じ、温度230℃、荷重2.16kgで測定)のポリプロピレン樹脂をスパンボンド法により、ノズル径φ0.48mm、単孔吐出量0.33g/min・Hole、紡糸温度230℃で押出し、このフィラメント群を冷風の押込み方式により、牽引装置入口の繊維温度を40℃、牽引エアー風速を6,400m/minで牽引し、移動捕集面に向けて押し出し、平均単糸繊度1.1dtexの長繊維ウェブを調製した。
次いで、実施例1と同様にして繊維同士を接着し、目付17g/mの長繊維不織布を得た。
【0058】
〔実施例5〕
単孔吐出量0.66g/min・Hole、牽引装置入口の繊維温度を60℃、牽引エアー風速を5,500m/minとし、実施例4と同様にして平均単糸繊度2.2dtex、目付20g/mの長繊維不織布を得た。
【0059】
〔実施例6〕
牽引装置入口の繊維温度を50℃、牽引エアー風速を10,000m/minとし、実施例3と同様にして平均単糸繊度2.8dtex、目付18g/mの長繊維不織布を得た。得られた不織布を、室温22℃の雰囲気下にて放電量40W・min/m(放電度4.0W/cm)の条件でコロナ放電処理機に通し、濡れ張力39mN/mの不織布を得た。
得られた不織布にポリエーテル系の親水化剤を噴霧法により付与し、次いで80℃で5分間熱風乾燥し、剤濃度付着量が0.3重量%となる長繊維不織布を得た。
【0060】
〔実施例7〕
牽引装置入口の繊維温度を50℃、牽引エアー風速を12,500m/minとし、実施例6と同様にして平均単糸繊度2.0dtex、目付15g/mの剤濃度付着量が0.5重量%となる長繊維不織布を得た。
【0061】
〔実施例8〕
牽引装置入口の繊維温度を60℃、牽引エアー風速を5,000m/minとし、実施例5と同様にして平均単糸繊度2.6dtex、目付17g/mの長繊維不織布を得た。得られた不織布を、室温22℃の雰囲気下にて放電量40W・min/m(放電度4.0W/cm)の条件でコロナ放電処理機に通し、濡れ張力39mN/mの不織布を得た。得られた不織布にポリエーテル系の親水化剤をキスコーター法により付与し、次いで80℃で5分間熱風乾燥し、剤濃度付着量が0.3重量%となる長繊維不織布を得た。
【0062】
〔実施例9〕
融点が86〜90℃(平均融点88℃)のオクタデカン酸のグリセリド(水添動植物油脂)を1.25重量%混合し、牽引装置入口の繊維温度を40℃、牽引エアー風速を17,500m/minとし、実施例1と同様にして平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/mの長繊維不織布を得た。
【0063】
〔実施例10〕
オクタデカン酸のグリセリド(水添動植物油脂)を3.50重量%混合し、牽引装置入口の繊維温度を40℃、牽引エアー風速を17,500m/minとし、実施例1と同様にして平均単糸繊度1.1dtexの長繊維ウェブを調整した。
次いで、得られたウェブを、フラットロールとエンボスロール(パターン仕様:斜め絣柄、圧着面積率14%)の間に通して温度135℃と線圧35kgf/cmで繊維同士を接着し、目付15g/mの長繊維不織布を得た。
【0064】
〔比較例1〕
単孔吐出量0.22g/min・Hole、牽引装置入口の繊維温度を40℃、牽引エアー風速を5,500m/minとし、実施例1と同様にして平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/mの長繊維不織布を得た。
【0065】
〔比較例2〕
単孔吐出量0.4g/min・Hole、牽引装置入口の繊維温度を40℃、牽引エアー風速を4,000m/minとし、実施例1と同様にして平均単糸繊度2.0dtex、目付20g/mの長繊維不織布を得た。
【0066】
〔比較例3〕
牽引装置入口の繊維温度を40℃、牽引エアー風速を17,500m/minとし、実施例1と同様にして平均単糸繊度1.1dtexの長繊維ウェブを得た。
得られたウェブを、フラットロールとエンボスロール(パターン仕様:織目柄、横ピッチ2.0mm、縦ピッチ2.0mm、圧着面積14.4%)の間に通して温度を148℃で線圧を50kgf/cmとし、目付17g/mの長繊維不織布を得た。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の不織布は、熱安定性が高く、柔軟性に優れ、さらに加工性も良いため、衛生材料のトップシート、バックシート、サイドギャザーなどに好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系繊維からなる不織布であって、該ポリオレフィン系繊維の結晶子サイズは15nm以上50nm以下であり、かつ、該不織布の曲げ柔軟度は5mm以上100mm以下であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
前記不織布の沸水収縮率は0%以上3.0%以下である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系繊維はポリプロピレン系繊維である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
前記不織布は長繊維不織布である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系繊維の平均単糸繊度は0.5dtex以上3.5dtex以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
前記不織布の120℃での乾熱収縮率が0%以上5.0%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の不織布を用いてなる衛生材料。
【請求項8】
使い捨てオムツ、生理用ナプキン又は失禁パットの形態にある、請求項7に記載の衛生材料。

【図1】
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