説明

熱安定性が改善した、薬物送達ステントマトリックスのためのポリマーブレンド

本発明の様々な実施形態は、一般的に、医療用デバイスをコーティングするのに用いられる、改善した熱安定性を示すポリマーブレンド組成物に関連する。本発明は、前述のコーティングでコーティングされた埋込型医療用デバイスも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、医療用デバイスをコーティングするために用いられる、改善した熱安定性を示すポリマー性ブレンド組成物に関する。本発明には、前述のコーティングでコーティングされた埋込型医療用デバイスも含まれる。
【背景技術】
【0002】
経皮冠動脈インターベンション(PCI)は、心臓疾患を治療するための手技である。バルーン部分を有するカテーテルアセンブリは、上腕動脈又は大腿動脈を経由して、患者の心臓血管系内に、経皮的に導入される。カテーテルアセンブリは、冠動脈構造を経由して、バルーン部分が、心筋への血流を制限している閉塞病変を横切る位置に至るまで挿入される。閉塞病変を横切る位置に至ると、病変の動脈硬化性プラークを半径方向に押し広げるように、バルーンが事前に決定されたサイズまで拡張されて、管壁が再構築される。次に、バルーンは、患者の脈管構造からカテーテルを抜去できるような、より小さい形状となるまで収縮する。
【0003】
上記手技に関連した問題として、バルーンが収縮した後に崩壊し、また血管を閉塞させるおそれのある内膜フラップ、又は剥離した動脈内膜の形成が挙げられる。さらに、手技後数カ月にわたり、動脈において血栓形成及び再狭窄が進行する可能性があり、これは、別の血管形成術、又は外科的バイパス術を必要とする場合がある。動脈内膜の崩壊による動脈の部分的又は全体的な閉塞を低減するため、及び血栓症又は再狭窄の機会を低減するために、動脈の開通性を維持するように、ステントが動脈内に埋め込まれる。
【0004】
薬物送達ステントは、PCI開始以来、介入的心臓病学で懸念されていた、PCI後のステント内再狭窄(ISR)の発生率を低減した(例えば、Serruys,P.W.ら、J. Am. Coll. Cardiol.第39巻:393〜399ページ(2002)を参照)。しかし、冠動脈インターベンションが数多く実施され、またその使用が拡大傾向にあることを考慮すると、ISRは、なおも医学界において重大な問題を抱えている。さらに、薬物及びポリマーを溶出する薬物マトリックスを使用することにより、薬物溶出性ステントについて安全上の懸念が浮上してきた。ISRの病態生理学的機構には、管壁及び血液の細胞要素と無細胞要素との間の相互作用が関わっている。PCI中に内皮に生ずる損傷は、ISRを発症させる主たる要因となり、PCI後の治癒遅延による安全上の懸念を考慮すると、同様に重要である(例えば、Kipshidze,N.ら、J.Am.Coll.Cardiol.第44巻:733〜739ページ(2004年)を参照)。
【0005】
本発明の実施形態では、このような懸念点、並びに当業者にとって明白なその他の事項を対象とする。
【発明の概要】
【0006】
本発明の様々な実施形態として、ポリマーブレンド組成物を含むコーティングが挙げられ、ポリマーブレンド組成物は、約75,000〜約300,000の重量平均分子量を有する半結晶性ポリマーと、約75,000〜約300,000の重量平均分子量を有する非結晶性、又は実質的に非結晶性のポリマーとを含み、半結晶性ポリマーは、半結晶性ポリマー、及び非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーの合計の約2重量%及び約75重量%の間である。
【0007】
いくつかの実施形態では、前述のコーティングは、約−60℃以上の同コーティングの有効ガラス転移(別のガラス転移を有することもあり得る)を有し、約0.5%〜約50重量%のポリマー結晶化度を含み、及びポリマー結晶領域について約70℃以上の融点を有する。
【0008】
別の実施形態では、前述のコーティングは、約−60℃以上の同コーティングの有効ガラス転移(別のガラス転移を有することもあり得る)を有し、同コーティングは約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を有し、同コーティングは、滅菌処理を受けた後、約10%以下の含水量を有し、半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群から選択され、及び非結晶性、又は実質的に非結晶性のポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)、D,L−ラクチド、グリコリド、及びカプロラクトンモノマーに由来する構造物を含むコポリマー(ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマーと呼ばれる)、非結晶性のポリ(L−ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、及びこれらの組合せからなる群から選択される。なおも別の実施形態では、前述のコーティングは、約−60℃以上の同コーティングの有効ガラス転移を有し、同コーティングは、約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を有し、同コーティングは生分解性であり、同コーティングが実質的に、又は完全に分解する時間が、約1カ月〜約12カ月であり、さらに、半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群から選択され、非結晶性、又は実質的に非結晶性のポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)、D,L−ラクチド、グリコリド、及びカプロラクトンモノマーに由来する構造物を含むコポリマー、及び非結晶性のポリ(L−ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0009】
本発明のなおも別の実施形態は、ポリマーブレンド組成物を含むコーティングを含み、このポリマーブレンド組成物は、約75,000〜約300,000の重量平均分子量を有する、半結晶性ポリマーと、約75,000〜約300,000の重量平均分子量を有する、非結晶性、又は実質的に非結晶性のポリマーとを含むポリマーブレンド組成物を含み、前記半結晶性ポリマーは、半結晶性ポリマー、及び非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーの合計の約2重量%及び約75重量%の間であり、半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群から選択され、非結晶性、又は実質的に非結晶性のポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)ターポリマー、非結晶性のポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、及びこれらの組合せからなる群から選択される。前述のコーティングは、さらに下記の特性、即ち、同コーティングは、約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を含み、同コーティングは生分解性であり、及び同コーティングが実質的に又は完全に分解する時間は、約1カ月〜約18カ月であり、及び同コーティングは、動的剪断損失係数、動的剪断蓄積係数の両係数をエチレンオキシド滅菌条件以下の温度で測定し、線形粘弾性領域において、1ラジアン/秒で測定した場合には、動的剪断損失係数よりも大きい動的剪断蓄積係数を有し、動的剪断損失係数は、約2×10Pa以下である、という特性を有する。
【0010】
本発明の様々な実施形態は、前述のコーティングのいずれか1つ又は複数でコーティングされた埋込型医療用デバイスも含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ステントの例示的な実施形態を示す図である。
【図2A】ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)75/25から作成した被覆を有し、エチレンオキシドで滅菌したステントの、模擬使用試験後の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図2B】ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)75/25から作成した被覆を有し、エチレンオキシドで滅菌したステントの、模擬使用試験後の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図2C】ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)75/25から作成した被覆を有し、エチレンオキシドで滅菌したステントの、模擬使用試験後の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図2D】ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)75/25から作成した被覆を有し、エチレンオキシドで滅菌したステントの、模擬使用試験後の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図3】本発明の被覆構造物の例示的な実施形態である。
【図4A】本発明の被覆の例示的な実施形態である被覆を有するステントの走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図4B】本発明の被覆の例示的な実施形態である被覆を有するステントの走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図4C】本発明の被覆の例示的な実施形態である被覆を有するステントの走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図4D】本発明の被覆の例示的な実施形態である被覆を有するステントの走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図5A】本発明の被覆の例示的な実施形態である被覆を有するステントの走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図5B】本発明の被覆の例示的な実施形態である被覆を有するステントの走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図5C】本発明の被覆の例示的な実施形態である被覆を有するステントの走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリマーブレンド組成物を含むコーティング、及び前述のコーティングを含む医療用デバイスを提供する。このポリマーブレンド組成物は、1つ又は複数の半結晶性ポリマー、及び1つ又は複数の非結晶性若しくは実質的に非結晶性のポリマーを含む。このブレンド物を利用したコーティングは、熱安定性、及び/又は上昇した温度及びエチレンオキシドに曝露したときの安定性について改善を示し、また約−60℃以上の有効T(但し、別のガラス転移を有する場合もある)、及び約0.5重量%以上のポリマー結晶化度を有する。
【0013】
ポリマーブレンド組成物は、1つ又は複数の半結晶性ポリマー、及び1つ又は複数の非結晶性ポリマーを含むが、これらのポリマーは下記で説明される。いくつかの実施形態では、温度が高くなっても、及び/又は、エチレンオキシド及び/又は水が、ポリマー性コーティング内に拡散すると共に、温度が高くなっても、これがポリマーブレンドの機械的安定性に顕著に影響を及ぼすことはないので、このポリマーブレンドは、コーティングの熱安定性を改善する。したがって、コーティングの機械的な完全性に及ぼす、温度の影響、並びにエチレンオキシド及び/又は水等の可塑剤に曝露したときの影響は、このポリマーコーティングを使用すれば低減する。いくつかの実施形態では、エチレンオキシド滅菌処理の効果、即ち、吸収されたエチレンオキシド及び/又は水、並びに上昇した温度の効果は、確かに機械特性に影響を及ぼしはするが、伸張係数又は圧縮係数、クリープコンプライアンス、及び動的剪断損失係数等の機械特性は、コーティングの機械的な完全性を維持するレベルよりも低下することはない。さらに、半結晶性ポリマーに結晶性を付加すると、ポリマーの堅牢性が高まると期待される。
【0014】
水及び/又はエチレンオキシドは、ポリマーを可塑化し、したがってポリマーのTを低下させることができる。いくつかの実施形態では、ポリマーブレンド組成物又はポリマーブレンドそのものを含むコーティングは、約−60℃以上の有効Tを有する。別の実施形態では、ポリマーブレンド組成物又はポリマーブレンド組成物そのものを含むコーティングは、機械特性に対する水の取込みの影響及び/又はエチレンオキシドの取込みの影響が限定されることを保証するように選択され得る。こうすれば、有効Tは滅菌処理条件下で低下するものの、有効Tが、ポリマーコーティングの機械的な完全性に対してより小さな影響しか有さないことが保証される。
【0015】
いくつかの実施形態では、コーティング内のポリマー結晶化度の重量%は、約0.1%〜約50%であり得る。さらに別の実施形態では、ポリマー結晶化度の重量%は、コーティングに対する重量%ではなく、コーティング中の全ポリマーに対する重量%として表すこともできる。したがって、いくつかの実施形態では、コーティング中のポリマーの約0.1重量%〜約50重量%が、結晶性のポリマードメインであり得る。
【0016】
本明細書に記載するコーティングは、分解性であっても、また耐久性であってもよい。いくつかの実施形態では、コーティングは、同コーティングを含む医療用デバイスを埋込み後、約1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、6カ月、12カ月、18カ月、又は24カ月の期間(換言すれば、コーティングが分解、又は実質的に分解してしまう期間)内に分解し得る。いくつかの実施形態では、コーティングは、コーティングを含む医療用デバイスを埋込み後、24カ月の期間内に、完全に分解し、又は吸収され得る。いくつかの実施形態では、生体吸収性ポリマー又はその他の生体吸収性材料を使用する場合、ごくわずかな痕跡物又は残渣物が残り得る。
【0017】
本明細書に記載のコーティングは、血管の病状を治療、予防、緩和、又は軽減するために、又は治癒促進効果をもたらすために、患者に埋込み可能なステント等の埋込型デバイス上に形成可能である。いくつかの実施形態では、コーティングは、1つ又は複数の生物活性薬、例えば(1つ又は複数の)薬物を含み得る。
【0018】
[定義]
適用可能な場合は常に、本発明の説明全体を通じて用いられる、以下に記載するようないくつかの用語に対する定義を適用するものとする。別途定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野において通常の技能を有する者により、一般的に理解される意味と同様の意味を有する。
【0019】
「ポリマー」は、「いくつかのより単純なユニット、マー、又はモノマーの反復により構成される分子」(Ferdinand Rodriguez、Principles of Polymer Systems、Taylor and Francis、Bristol PA 1996)として、幅広く定義されている。「ポリマー」、又は「ポリマー性」とは、重合反応生成物である化合物を指す。用語ポリマー、又はポリマー性には、ホモポリマー(即ち、1種類のモノマーを重合させることにより得られるポリマー)、コポリマー(即ち、2種類以上の異なる種類のモノマーを重合させることにより得られるポリマー)、ターポリマー(異なる3種類のモノマーを重合させることにより得られるポリマー)等が含まれ、ランダム状、交互型、ブロック型、グラフト型、樹枝状、及びこれらのその他のあらゆる変形物が含まれ、これには、架橋型ポリマー、及び相互貫入ネットワークが含まれる。
【0020】
いくつかの実施形態では、用語「ドメイン」は、「相」を指すことがある。したがって、用語「結晶性ドメイン」は、「結晶性相」とも呼ぶことができる。同様に、用語「非結晶性ドメイン」は、「非結晶性相」とも呼ぶことができる。
【0021】
「ガラス転移温度」、Tとは、ポリマーの非結晶性ドメインが、大気圧において、脆く、ガラス状の状態から固体可変形状態(又は弾性状態)に変化する温度である。換言すれば、Tは、ポリマー鎖において部分的な運動が始まる温度に対応する。あるポリマーのT測定値は、加熱速度に依存し得るが、またポリマーの温度履歴、おそらくは圧力履歴、並びにおそらくは測定時の圧力によって影響を受け得る。Tは、充填剤、溶媒、賦形剤、薬物、可塑剤、又は処理中にポリマー内に拡散する化合物、例えば、滅菌処理中の水及び/又はエチレンオキシド等によらず、ポリマーと混合したその他の化合物によっても影響を受ける。
【0022】
本明細書で用いる場合、本発明のポリマーブレンド組成物の1つ、又はポリマーブレンドそのものを含むコーティングに関する「有効T」は、別途規定しない限り、エチレンオキシドによる滅菌処理に曝露する前のT測定値を指す。ブレンドについて2つ以上のTが認められる場合には、「有効T」は、別々に認められた2つ以上のT値のうちの低いものを指す。
【0023】
ポリマーの「融点」、Tは、ポリマー中の結晶格子が安定である最も高い温度である。
【0024】
本明細書で用いる場合、用語「ポリマー結晶化度」とは、その他の材料(例えば、薬物)ではなく、ポリマー成分に由来する、ある組成物中の%結晶化度を指す。
【0025】
用語「生物学的に分解可能」(又は、「生分解性」)、「生物学的に侵食可能」(又は「生体侵食性」)、「生物学的に吸収可能」(又は、「生体吸収性」)、及び「生物学的に再吸収可能」(又は、「生体再吸収性」)、並びに分解される、侵食される、吸収される、及び溶解されるは、本明細書で言及するポリマー、コーティング、又はその他の材料に関する場合には、交換可能に用いられ、生理学的条件に曝露された場合には、やがて完全に、又は実質的に完全に分解、溶解、及び/又は侵食される能力があり、また身体によって徐々に再吸収、吸収及び/又は排除可能であり、又は動物(例えば、ヒト)の腎臓膜を通過できる断片、例えば、約40,000ダルトン(40kDa)以下の分子量を有する断片に分解可能なポリマー、コーティング、及び材料を指す。ポリマー、コーティング、又はその他の材料が分解し、最終的に吸収、排除されるプロセスは、例えば、加水分解、代謝プロセス、酸化、酵素的プロセス、バルク侵食又は表面侵食等に起因し得る。反対に、「生体安定性」ポリマー、コーティング、又は材料とは、生分解性のないポリマー、コーティング、又は材料を指す。
【0026】
本明細書で用いる場合、「埋込型デバイス」は、ヒト又はヒトではない動物に埋め込まれ得る、あらゆる適した基材であり得る。埋込型デバイスの例として、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、冠状動脈ステント、末梢血管ステント、ステント−グラフト、カテーテル、様々な体内の管腔、又は腔孔用のその他の拡張型管状デバイス、グラフト、血管グラフト、動脈−静脈グラフト、バイパスグラフト、ペースメーカー及び除細動器、前出デバイス用のリード線及び電極、人工心臓弁、吻合クリップ、動脈閉鎖デバイス、卵円孔開存閉鎖デバイス、髄液シャント、及び粒子(例えば、薬物溶出性粒子、微粒子、及びナノ粒子)が挙げられるが、但し、これらに限定されない。
【0027】
「薬物」又は「活性薬」又は「生物活性薬」又は「治療薬」の全ては交換可能に用いられ、疾患若しくは状態に苦しむ、又は医学的治療を求める固体(ヒトを含むあらゆる動物)に、治療有効量を投与した場合、(1)疾患又は状態を治癒し、(2)疾患又は状態の進行を遅延させ、(3)疾患又は状態に退化を引き起こし、(4)疾患又は状態の1つ又は複数の症状を緩和し、又は(5)固体の健康及び福祉に対してなんらかのその他の有益な効果をもたらすあらゆる物質を指す。薬物には、ある疾患に特に罹患しやすいことが知られている、又は疑われている固体に、予防有効量で投与した場合、患者の健康及び福祉に対して予防的で有益な効果を有するあらゆる物質も含まれ、これには、(1)まず、疾患又は状態の発現を予防する又は遅延させること、(2)予防有効量で用いられる物質と同一、又は異なる可能性のある物質の、治療有効量により退化したレベルが実現されたら、そのようなレベルに疾患又は状態を維持すること、又は(3)予防有効量で用いられる物質と同一、又は異なる可能性のある物質の治療有効量で治療するコースが完了した後に、疾患又は状態の再発を防止する、又は遅延させることが含まれるが、但し、これらに限定されない。添付の特許請求の範囲を含めて、本明細書において用いる場合、用語薬物には、診断薬として有用な薬剤も含まれる。用語「薬物」には、本明細書に特別に記載される、これら薬物の医薬として許容される誘導体、医薬として活性な誘導体、例えば、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物、類似体等も含まれるが、但し、これらに限定されない。本明細書で用いる場合、用語「プロドラッグ」とは、化学的な部分又は生物学的な部分により、活性が低減された薬剤を指し、当該部分は、in vivoで代謝され、又は加水分解を受けてプロドラッグ由来の薬物又は活性成分を形成する。
【0028】
本明細書で用いる場合、表示の基材(例えば、埋込型デバイス)の「上に配置される」層又はフィルム(例えば、コーティング)として記載される材料とは、例えば、基材の表面の少なくとも一部分上に直接的又は間接的に配置される材料のコーティングを指す。直接的に配置するとは、コーティングを基材の露出表面に直接塗布することを意味する。間接的に配置するとは、基材上に直接的又は間接的に配置された中間層にコーティングを塗布することを意味する。コーティングは、デバイスの表面により支持されるが、コーティングが、直接的又は間接的にデバイスの表面上に配置されているかどうかは問わない。
【0029】
「滅菌する」又は「滅菌処理」とは、対象物のバイオバーデンを特定の無菌性保証レベル(SAL)にまで低減するプロセスであり、このSALとは、製品が滅菌処理手順を経由した後においても、製品ユニットに存在する生存微生物の確率である。必要とされるSALレベルは、物品の使用内容に依存する。
【0030】
「送達」及び「留置」。ステント等の埋込型医療用デバイスの場合、「送達」とは、ステントを身体の管腔経由で治療を必要とする管内の部位、例えば病変部等に導入、輸送することを指す。ステントの送達は、一般的にステントをカテーテル又はカテーテルバルーン上にクリンプし、カテーテルの一端を皮膚を経由して身体管腔内に挿入し、身体管腔内のカテーテルをこれが留置される所望の治療部位まで前進させることにより達成される。「留置」とは、一般的には、カテーテルバルーンを膨張させることにより、治療部位で、管腔内のステントを拡張させることに対応する。
【0031】
本明細書で用いる場合、用語ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)、及びポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLGA)は、用語ポリ(D,L−乳酸)(PLA)、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリ(D,L−乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)、及びポリ(L−乳酸−co−グリコール酸)(PLLGA)と、それぞれ交換可能に用いられる。また、「co」の使用は任意選択的で、したがって、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)は、ポリ(L−ラクチド−グリコリド)等と交換可能に用いられる。
【0032】
以下の議論では、一貫性を保って表示するのに必要な、まわりくどい言い回しを避けるために、別途、明記しない限り、本発明の様々な態様の複数形は単数形に含まれ、単数形のあらゆる言及には、その複数形も意図されており、その逆も同様であり、例えば、“a bioactive agent”又は“the bioactive agent”は、単数形のbioactive agent又は複数形のbioactive agentsを指し、“a polymer”又は“the polymer”は、単数形のpolymer又は複数形のpolymersを指し、“a coating”又は“the coating”は、単数形のcoating又は複数形のcoatings等を指す。
【0033】
本明細書で用いる場合、別途特別に定義しない限り、近似を表すあらゆる単語、例えば、「約(about)」、「本質的に(essentially)」、「実質的に(substantially)」等は、これらに限らず、そのように修飾された要素が、記載された内容の通りである必要は無く、本発明の範囲を超えずに、±15%の範囲で当該記載内容から変化し得ることを意味する。
【0034】
[ポリマー性ブレンド組成物]
本発明は、医療用デバイス、特にステント等の埋込型医療用デバイスをコーティングするためのポリマー性ブレンド組成物を提供する。ステント100の例を図1に示す。いくつかの実施形態では、ステントは、相互接続構造的要素のパターン若しくはネットワーク、又はストラット105を含むことができる。ステント100のストラット105には、管腔面又は表面110、反管腔面又は表面115、及び側壁面又は表面120が含まれる。本明細書で開示される実施形態は、図1に示すステント、又は特定のステントパターンに限定されない。この実施形態は、他のパターン及びその他のデバイスにも容易に適用できる。
【0035】
ステントは体内に埋め込まれるので、ステントは滅菌処理されなければならない。いくつかの技法が、医療用デバイスを滅菌するために用いることができる。そのようなプロセスは、当技術分野において周知されている。一般的な医療用デバイスの場合、オートクレーブ、エチレンオキシド処理、並びにγ線照射及び電子ビーム(e−ビーム)照射の両方を含む、但し、これらに限定されない照射等の、いくつかの滅菌処理方法が利用可能である。全部ではないとしても、これらプロセスのほとんどは、温度上昇を伴う可能性がある。
【0036】
ステント等の埋込型医療用デバイスの場合、エチレンオキシド滅菌処理が用いられる場合が多い。エチレンオキシド滅菌処理は、所望のSALが得られるように、液体のエチレンオキシドをデバイスに噴霧し、又はこれに浸漬することにより、又は気体状のエチレンオキシドにデバイスを曝露することにより実施される。しかし、エチレンオキシドが、滅菌を必要とする全ての部位に行き渡ることを特に複雑なデバイスについても保証する必要があり、また、エチレンオキシドが滅菌処理対象物から散逸するのを待つ必要があるので、サイクル時間は長い。このプロセスを加速するために、上昇した温度を使用することができるが、上昇した温度は、製品に対して悪影響を有するおそれがある。
【0037】
例えば、コーティングされたステントのエチレンオキシド滅菌処理は、一般的に、最高100%に達する湿度レベルで、数時間から24時間の間、50℃を超える加熱が関係する。典型的なエチレンオキシドサイクルは、最初の3〜4時間内では、密閉室内で50℃を超える高温度となり、次いで、17〜18時間、40℃〜50℃の間を変動し、その際、湿度は100%でピークに達し、サイクルが変動する時間帯では80%よりも高く保たれる。曝露時間及び曝露温度は、滅菌対象デバイスの種類、及び所望のSALにより異なる。
【0038】
ステントに塗布されるあらゆるコーティングは、エチレンオキシド滅菌処理のストレス、及び機械ストレス、及びクリンピングの上昇した温度(限られた時間で、約70℃)に曝された後にも、機能できなければならない。図2A〜2Dは、同一組成のプライマーコーティング上に配置された、ラクチド:グリコール酸のモル比が75:25であるポリ(D,L−乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)である、PLGA72/25のコーティングに対するエチレンオキシド滅菌処理の影響を示す。SEM画像が示す通り、コーティングは変形している。この変形は、エチレンオキシド及び/又は水の取込みによるものと考えられ、この取込みは、Tを低下させ、機械的完全性をもたらす結晶性が存在しないので、ポリマーの流動を可能にする。水の取込み及び/又はエチレンオキシドの取込みは、Tが滅菌処理温度よりも低くなってしまうほどにTを低下させると考えられている。
【0039】
エチレンオキシドに曝露することにより、ステントを滅菌処理すると、コーティングによるエチレンオキシド及び/又は水の吸収、又は取込みを引き起こすことが多い。多くのポリマー性材料の場合、エチレンオキシド及び/又は水等の小分子は、ポリマーのTを低下させる可塑剤として働くことができる。さらに、水が吸収され、これに続き脱離すると、コーティングが膨張、収縮するため、コーティングを変形させる可能性がある。
【0040】
可塑化とは、第2の、より低いTの、一般的により低分子量の材料をポリマーに添加することを指す。この効果は、ブレンド物のTを下げることであり、一般的に、硬く脆い材料を柔らかくゴム状の材料へ転換させることでもある。自由体積モデルによれば、ポリマーに添加される可塑剤、即ち第2の、より低いTの、一般的により低分子量の材料は、自由体積が大きい。高自由体積材料をポリマーに添加すると、ブレンド物の「自由体積」が増加し、ポリマー鎖がより大きく運動できるようになり、したがってTを低下させる。別の見方をすれば、フローリー(Flory)及びハギンズ(Huggins)により用いられたモデルと同様の格子モデルに基づくと、真の熱力学的Tは、0点配位エントロピーである。したがって、このモデルでは、第2の、より小さな分子を添加することにより得られるより低いTは、より小さな分子が共存するポリマー鎖が取り得る配置の数の方が、長鎖ポリマー分子のみが取り得る配置の数と比較して、これより大きいことに起因する。したがって、可塑化に関する理論的説明に関係なく、ポリマーよりも小さな分子である、水分子又はエチレンオキシド分子のいずれか、又は両方が取り込まれると、ポリマー鎖はより大きく運動できるようになり、その結果Tは低くなる傾向にある。
【0041】
したがって、いくつかの実施形態では、コーティング中の水の重量%として測定される、エチレンオキシド滅菌処理中の水の取込みは、15%を超えないように制限され得る。別の実施形態では、ポリマーブレンド組成物を含むコーティング中の水の重量%は、約0.1%〜15%、約0.1%〜約10%、約0.1%〜約7%、又は約0.1%〜約6%であり得る。いくつかの実施形態では、エチレンオキシド滅菌処理中に生じる水分含量の増加は、約10%以下、約5%以下、又は約0.5%以下であり得る。いくつかの実施形態では、エチレンオキシド滅菌処理後のコーティングの水分含量(重量%)は、最大約15%、最大約10%、最大約7%、又は最大約6%であり得る。
【0042】
水の取込み及び/又はエチレンオキシドの取込みは、コーティング又はポリマーブレンドのTに影響を及ぼす。ポリマー内の結晶性領域は、温度依存性の物理的架橋として機能することも知られている。ポリマーの架橋は、ガラス転移温度を上昇させ、弾性係数及び強度を増加させ、クリープ範囲又は粘性流範囲を低下させる。したがって、いくつかの実施形態では、物理的架橋として機能する、結晶性ドメインを含むことによりTが上昇し、及び/又は、水の取込みが低下し、及び/又はエチレンオキシドの取込みが低下すると、その結果、約25℃以上、約30℃以上、約35℃以上、約40℃以上、約45℃以上、約50℃以上、又は約55℃以上である有効Tを有する、ポリマーブレンド組成物を含むコーティングを得ることができる。別の実施形態では、コーティングに用いられるポリマーブレンド組成物は、水の取込み及び/又はエチレンオキシドの取込みが限定されること、及び物理的架橋として機能する結晶性ドメインによって、状況次第ではやはり影響を受け得る有効Tであって、滅菌処理条件(水及び/又はエチレンオキシドの両方に起因する、同一レベルの可塑化を伴う)の下で測定される有効Tが、滅菌処理中に遭遇する最高温度を超えて保たれること、又は滅菌処理時間の約80%、約70%、又は約60%、又は約50%の間、滅菌処理中に遭遇する温度を超えて保たれることを保証するように選択され得る。いくつかの実施形態では、結晶性ドメインのTが、エチレンオキシド滅菌処理において遭遇する最高温度よりも高い場合には、コーティングの有効Tは、約−60℃以下、約−50℃以下、約−40℃以下、又は約30℃以下であり得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、コーティングに用いられるポリマーブレンド組成物は、エチレンオキシド滅菌処理において遭遇する可塑化と同程度の可塑化条件で測定すると、非結晶性領域の有効Tが、30℃を超えて低下しない程度の量に、水の取込み及び/又はエチレンオキシドの取込みを制限する。別の実施形態では、エチレンオキシド滅菌処理中に生ずる有効Tの低下は、約15℃、約10℃、約5℃、又は約20℃であり得る。上記で概説したように、本明細書で言及する有効Tは、非結晶領域のT、又は2つ以上の個別のTが存在する場合には、最も低い個別のTとして定義される。
【0044】
別の実施形態では、有効Tの低下が約30℃よりも大きい、及び/又は有効Tが、エチレンオキシド滅菌処理、又はクリンピング作業のいずれかにおいて遭遇する最高温度未満となる場合があるが、但し、この有効Tを示すポリマーの重量%は十分小さく、機械特性は、顕著には影響を受けない。別の実施形態では、低い有効T、即ち、エチレンオキシド滅菌処理、又はクリンピング作業のいずれかにおいて遭遇する最高温度、又は平均温度よりも低い有効Tは、エチレンオキシド滅菌処理、又はクリンピング作業のいずれかにおいて遭遇する最高温度、又は平均温度よりも高いTを示す、結晶性ポリマードメイン並びに非結晶ポリマードメインの両方によって、相殺されている。
【0045】
さらに別の実施形態では、物理的架橋として機能する結晶性ドメインを含むことによりTが上昇し、並びに滅菌処理中の水の取込みが低下し、及び/又はエチレンオキシドの取込みが低下すると、この両者に起因して、クリンピング及びエチレンオキシド滅菌処理後も機械的完全性を失わない、又は実質的な機械的完全性を失わないコーティングが得られる。いくつかの実施形態では、機械的完全性は、上記ポリマーブレンド単独の非結晶性ポリマーを利用したコーティングと比較して、本発明の様々な実施形態のうちの1つのポリマーブレンドを含むコーティングの方が優れていると考えられる。いくつかの実施形態では、コーティングの機械的完全性は、SEM画像を観察することにより判定される。
【0046】
様々な実施形態では、結晶性ポリマードメインのサイズは変化し得る。いくつかの実施形態では、結晶性ポリマードメインは、本質的に、又は実質的に同一のサイズであり得、別の実施形態では、いくつかのドメインが、結晶性ドメインのメジアンサイズ(数平均により決定される)を表すドメインサイズの約10倍、約8倍、又は約5倍であるように、結晶性ドメインのサイズは大きく異なり得る。いくつかの実施形態では、結晶性ドメインのサイズ分布は、大きい可能性がある。いくつかの領域においては、結晶性領域サイズの多分散性は低い場合がある一方、別の実施形態では、多分散性は高い場合もある。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリマーブレンド組成物を含むコーティングは、大型の結晶性ドメインを数個含むのではなく、結晶性小型ドメインを多数含む。したがって、いくつかの実施形態では、結晶性ドメインは、ポリマーブレンド組成物を含むコーティング全体に、均一に、又は実質的に均一に分布している場合がある。別の実施形態では、ポリマーの結晶性は、ポリマー組成物全体に、又はポリマーブレンド組成物を含むコーティング全体に、不均一に分布している場合がある。いくつかの実施形態では、ポリマーの結晶性ドメインは、コーティングのクラッキングを防ぐように分布し得る。クラッキングを防止するには、多少なりとも均一に分布した多くのより小さな結晶性ドメインが、最良であると考えられている。均一に、又はほぼ均一に分布している多数の結晶性小型ドメインの方が、少数の大型ドメイン、及び/又は均一性がより低い分布のドメインよりも好ましいと考えられている。
【0048】
いくつかの実施形態では、ポリマー結晶化度の重量%は、コーティングの約0.1%〜約50%であり得る。別の実施形態では、ポリマー結晶化度の重量%は、コーティングの約0.5%〜約50%、約0.5%〜約40%、約0.5%〜約35%、約0.5%〜約30%、約0.5%〜約25%、約0.5%〜約20%、約1%〜約35%、約1%〜約30%、約1%〜約25%、約2%〜約20%、約2%〜約35%、約2%〜約30%、約2%〜約25%、約3%〜約18%、又は約5%〜約15%、であり得る。さらに別の実施形態では、ポリマー結晶化度の重量%は、コーティングの約15%〜約25%、若しくは約10%〜約45%、若しくは約10%〜約35%、又は別の実施形態では、コーティングの約3%〜約12%であり得る。
【0049】
なおも別の実施形態では、結晶性ポリマードメイン又は相は、コーティングの重量%ではなく、コーティング内のポリマーの重量%として測定され得る。したがって、いくつかの実施形態では、コーティング内のポリマーの約0.1重量%〜約50重量%が、結晶性ポリマードメインであり得る。別の実施形態では、ポリマー結晶化度の重量%は、コーティングの一部である全ポリマーの、約0.5%〜約50%、約0.5%〜約40%、約0.5%〜約35%、約0.5%〜約30%、約0.5%〜約25%、約0.5%〜約20%、約1%〜約35%、約1%〜約30%、約1%〜約25%、約2%〜約20%、約2%〜約35%、約2%〜約30%、約2%〜約25%、約3%〜約18%、又は約5%〜約15%、であり得る。なおも別の実施形態では、ポリマー結晶化度の重量%は、コーティングの一部である全ポリマーの、約15%〜約25%、若しくは約10%〜約45%、若しくは約10%〜約35%であり得、又は別の実施形態では、コーティングの一部である全ポリマーの、約3%〜約12%であり得る。上記実施形態において、ポリマーの全重量は、コーティング中の全ポリマー、即ち半結晶性ポリマー、及び非結晶性ポリマーの両方の合計として求められる。
【0050】
コーティング又はポリマーブレンド組成物中の結晶化度の全量は、半結晶性ポリマー中の結晶化度%、及び半結晶性ポリマーであるコーティングの割合(%)、又は半結晶性ポリマー中の結晶化度の割合(%)、及び半結晶性ポリマーである全ポリマーの割合(%)の関数である。したがって、半結晶性ポリマー中の結晶化度の割合(%)は、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%から99%以上の範囲で変化し得る。
【0051】
結晶化度(%)は、結晶性ドメインのサイズに応じて変化し得る。いくつかの実施形態では、結晶性ドメインは、全く、又はほとんど、結晶性ドメインが互いに触れ合わない、又は隣接しないようであり得る。いくつかの実施形態では、結晶性相が浸出限界又は浸出閾値よりも低い、したがって、結晶性ドメインが連続相を形成しないように、コーティング中の結晶性ドメインのサイズ、結晶性ドメインの分布、及びポリマー結晶化度の重量%を組み合わせることができる。別の実施形態では、コーティング中のポリマー結晶化度の重量%は、結晶性相が浸出限界又は浸出閾値よりも高くなるように選択され得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、ポリマーの結晶性ドメインは、滅菌処理中に遭遇する最高温度よりも高いTを又は滅菌処理の少なくとも約80%、少なくとも約70%、少なくとも約60%、若しくは、少なくとも約50%の期間、滅菌処理手順において遭遇する温度を上回るTを示し得る。したがって、いくつかの実施形態では、ポリマーの結晶性ドメインのTは、約65℃以上、約70℃以上、約75℃以上、約80℃以上、約85℃以上、約90℃以上、約95℃以上、約100℃以上、約110℃以上、又は約120℃以上、であり得る。
【0053】
別の実施形態では、結晶化度を高くすると、有効Tを大きく低下させることができる。いくつかの実施形態では、有効Tの低下は、約30℃以上であり得、及び/又は、有効Tは、エチレンオキシド滅菌処理、又はクリンピング作業のいずれかにおいて遭遇する最高温度よりも低い場合もあるが、しかし、ポリマー結晶性ドメインのサイズに照らして、ポリマー結晶化度の重量%を組み合わせれば、浸出閾値(約15%〜20%以上)よりも高くなり、また結晶性ドメインは、滅菌処理中に遭遇する最高温度よりも高い、及び/又はクリンピング作業中に遭遇する温度を上回るTを有する。したがって、結晶性領域は、連続的、又は半連続的であり、これが非結晶性領域のTを低下させる効果を制限する他、結晶性領域における低拡散性に加え、これらの結晶性領域を溶解するのに必要な時間の増加により、水及び/又はエチレンオキシドの全取込み量を制限している。
【0054】
水及び/又はエチレンオキシドは、Tに影響を及ぼすことから、水及び/又はエチレンオキシドの取込みは、機械特性に影響を及ぼし得る。いくつかの実施形態では、コーティングに用いられるポリマーブレンドは、動的剪断蓄積係数、G’及び、動的剪断損失係数、G”の両方を線形粘弾性領域、及び0.01、0.1、1、10、又は100ラジアン/秒の振動数で測定した場合において、動的剪断蓄積係数、G’が、動的剪断損失係数、G”よりも、少なくとも約10倍、少なくとも約8倍、少なくとも約6倍、少なくとも約4倍、又は少なくとも約2倍、大きいように、水及び/又はエチレンオキシドの取込みを制限するように選択され得る。いくつかの実施形態では、エチレンオキシド滅菌処理手順、又は滅菌処理の影響をシミュレーションする条件(温度及び可塑化が滅菌処理中に遭遇するものに匹敵する)において0.01、0.1、又は1ラジアン/秒の振動数で測定した場合に、G”が約2×10Pa以下となるように、水及び/又はエチレンオキシドの取込みは制限され得る。いくつかの実施形態では、結晶化度が機械特性に及ぼす影響と、結晶化度がエチレンオキシド及び/又は水の取込みに及ぼす影響とが組み合わさると、その結果、G’値は、約7×10Pa以上、約8×10Pa以上、約9×10Pa以上、約1×10Pa以上、約1.5×10Pa以上、又は約2×10Pa以上、となり得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、コーティングに用いられるポリマーは、線形粘弾性領域において、0.01ラジアン/秒で、及びエチレンオキシド滅菌処理手順において遭遇する可塑化及び温度の条件下で測定した動的剪断蓄積係数、G’が、周波数に対してG’をプロットしたときの弾性領域、又は拡張プラトー領域にあるように、水及び/又はエチレンオキシドの取込みを制限するように選択され得る。
【0056】
半結晶性ポリマーは、ポリ(L−乳酸)(PLLA)であり得る。ポリ(L−乳酸)は、約55℃のT、及び140℃のTを有する。PLLAの結晶化度は、数%〜約65%まで変化し得るが、またPLLAは、疎水的であると一般的に考えられている。その他のポリマーとしてポリ(D−乳酸)(PDLA)が挙げられる。ポリ(D−乳酸)は、約55℃のT、及び140℃のTを有する。PDLAの結晶化度は、数%〜約65%まで変化するが、またPDLAも、疎水的であると一般的に考えられている。その他のポリマーとして、少なくとも70%のL−ラクチドを含む、ポリ(L−ラクチド−グリコリド)コポリマー(PLLGA)が挙げられる。具体例として、82モル%のL−ラクチド及び18モル%のグリコリドを含む、PLLGA82/18が挙げられる。或いは、ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)コポリマー(PLGA)82/18が利用可能であり得る。利用可能な別の半結晶性ポリマーとしては、ポリ(L−ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)(PLLA−GA−CL)が挙げられる。
【0057】
非結晶性ポリマー、又は実質的に非結晶性のポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)コポリマー(PLGA)、ポリエチレングリコールとポリ(D,L−乳酸)とのブロックコポリマー(PEG−PLA)、ポリエチレングリコールとポリ(ラクチド−co−グリコール酸)とのブロックコポリマー(PEG−PLGA)、及びポリ(D,L−ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、であり得る。非結晶性のポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)コポリマー(PLGA)の場合、グリコリドに対するD,L−ラクチドのモル比は、10:90、20:80、25:75、40:60、50:50、60:50、75:25、80:20、又は90:10の範囲であり得る。
【0058】
特に好ましい非結晶性ポリマークラスは、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマーのクラスである。これらのポリマーは、非結晶性、又は実質的に非結晶性で、−40〜50℃の範囲のTを有する。このコポリマーは疎水的である。
【0059】
D−ラクチド、及びL−ラクチドの両方を含む全てのポリマーにおいて、2つのジアステレオマーの比は、0〜100まで変化する可能性があり、例えば、0.10、0.50、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、99.5、99.9又はその他のあらゆる比であり得る。これまでに記載した、いずれのポリマーにおいても、D−又はL−ラクチドは、代わりにメソ−ラクチドで置換され得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、重量平均分子量の範囲は、半結晶性ポリマー、及び非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーの両方について、約75,000〜約300,000、約75,000〜約150,000、約100,000〜約200,000、約100,000〜約250,000、約150,000〜約300,000、約200,000〜約300,000、又は約200,000〜約350,000、であり得る。別の実施形態では、重量平均分子量は、半結晶性ポリマー、及び非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーの両方について、約75,000未満、また別の実施形態では、それは約300,000超であり得る。
【0061】
本発明の様々な実施形態では、コーティングに用いられるポリマーブレンド中の半結晶性ポリマーの重量%は、約5%〜約75%の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、全非結晶性ポリマー及び全半結晶性ポリマーの合計である、全ポリマーに対する半結晶性ポリマーの重量%は、約5%〜約25%、約5%〜約20%、約10%〜約20%、約20%〜約30%、約30%〜約50%、約45%〜約75%、及び約50%〜約75%、の範囲であり得る。
【0062】
様々な実施形態では、ポリマーブレンド及び薬物の合計は、コーティングの重量%として、約10%〜約100%、約20%〜約100%、約20%〜約90%、約20%〜約80%、約30%〜約100%、約30%〜約90%、約30%〜約80%、約40%〜約100%、約40%〜約90%、約40%〜約80%、約50%〜約100%、約50%〜約90%、約50%〜約80%、約60%〜約100%、約60%〜約90%、約60%〜約80%、約70%〜約100%、約70%〜約90%、約70%〜約80%、約80%〜約100%、約80%〜約95%、約80%〜約90%、約90%〜約100%、及び約95%〜約100%、であり得る。
【0063】
以下で議論するように、活性薬もコーティングに添加することができる。非結晶性ポリマーの全て、及び半結晶性ポリマーの全ての合計である、全ポリマーに対する薬物の比は、約1:1〜約1:5の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、ポリマーに対する薬物の比は、上記のような比の間にあり得るが、又はポリマーに対する薬物の比は、約1:2、約1:3、若しくは約1:4、又はこのように規定された比の中間の任意の比であり得る。いくつかの実施形態では、薬物の用量は、ポリマーに対する薬物の比が、約1:7、約1:8、若しくは約1:10、又はこれ未満等のように、約1:5よりも低くなるように低用量であり得る。別の事例では、ポリマーに対する薬物の比は、1:1よりも大きい場合があり、即ち、最大約4:3若しくは3:2又はこれよりも高い。
【0064】
[活性薬]
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する埋込型デバイスは、任意選択的に、少なくとも1種類の生物活性薬を含み得る。ステント等の埋込型デバイスは、治療薬の局所送達用として設計可能である。薬物処理された埋込型デバイスは、部分的に、例えば、活性薬を含むコーティング材料でデバイスをコーティングすることにより、構築可能である。デバイスの本体も、活性薬を含むことができる。
【0065】
適する生物活性薬の例として、治療上、予防上、又は診断上の活性を有する、合成無機化合物及び合成有機化合物、タンパク質及びペプチド、多糖類及びその他の糖類、脂質、並びにDNA及びRNA核酸配列が挙げられるが、但し、これらに限定されない。核酸配列としては、遺伝子、転写を阻害するように相補的DNAに結合するアンチセンス分子、及びリボザイムが挙げられる。その他の生物活性薬に関するいくつかのその他の例として、抗体、受容体リガンド、酵素、接着性ペプチド、血液凝固因子、ストレプトキナーゼ及び組織プラスミノゲン活性化因子等の阻害剤又は血栓溶解剤、予防接種用抗原、ホルモン及び成長因子、アンチセンスオリゴヌクレオチド等のオリゴヌクレオチド、及びリボザイム、及び遺伝子療法に用いられるレトロウイルスベクターが挙げられる。
【0066】
特定の実施形態では、任意選択的に、本明細書の1つ又は複数のその他の実施形態と組み合わせながら、埋込型デバイスは、抗増殖性、抗腫瘍性、抗有糸分裂性、抗炎症性、抗血小板性、抗凝固性、抗フィブリン性、抗トロンビン性の物質、抗生物質、抗アレルギー性物質、及び抗酸化性物質から選択される、少なくとも1種類の生物活性薬を含むことができる。抗炎症薬は、ステロイド系抗炎症薬、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)であり得、又はステロイド系抗炎症薬及び非ステロイド系抗炎症薬を組み合わせて使用することができる。
【0067】
さらに、生物活性薬は、抗増殖薬又は抗炎症薬以外のものであり得る。いくつかの実施形態では、そのようなその他の薬剤は、抗増殖薬又は抗炎症薬と併用して用いることができ、及び/又は抗炎症薬及び抗増殖薬のそれぞれについて、1つ又は複数をデバイスに含めることができる。このようなその他の生物活性薬は、抗腫瘍性、抗有糸分裂性、細胞増殖抑制性、抗血小板性、抗凝固性、抗フィブリン性、抗トロンビン性、抗生性、抗アレルギー性、及び/又は抗酸化性等のその他特性を有し得る。
【0068】
使用可能なその他の生物活性薬として、α−インターフェロン、遺伝子工学による上皮細胞、及びデキサメタゾンが挙げられる。別の種類の活性薬は、「治癒促進性」薬物又は薬剤であり、これは、血液に接触する埋込型デバイスにおいては、動脈血管の再内皮化を促進又は強化して、血管組織の治癒を促進する特性を有する薬物又は薬剤を指す。
【0069】
さらに具体的な実施形態では、任意選択的に、本明細書に記載する1つ又は複数のその他の実施形態と組み合わせながら、本発明の埋込型デバイス、又はコーティングは、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(2−エトキシ)エチル−ラパマイシン(バイオリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ゾタロリムス)、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、クロベタゾール、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、フェノフィブリン酸、フェノフィブラート、前駆細胞捕捉抗体、治癒促進性薬物、cRGD、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、及びこれらの組合せから選択される、少なくとも1種類の生物活性薬を含む。具体的な実施形態では、生物活性薬はエベロリムスである。別の具体的な実施形態では、生物活性薬はゾタロリムスである。別の具体的な実施形態では、生物活性薬は、別の種類の薬物と併用されるリムス薬物である。別の具体的な実施形態では、生物活性薬は、抗炎症薬と併用されるリムス薬である。「リムス薬」は、シロリムス及びその誘導体のグループに含まれる薬物で、例えば、エベロリムス、タクロリムス、バイオリムス、及びゾタロリムス等であるが、但し、これらに限定されない。
【0070】
上記生物活性薬は、例示目的で掲載しており、限定することを意味しない。現在入手可能な、又は将来開発される可能性のあるその他の生物活性薬も、同様に適用可能である。
【0071】
[コーティング構築物]
いくつかの実施形態では、ポリマーブレンド組成物を含むコーティングは、本明細書に記載する埋込型デバイス(例えば、ステント)上に、コーティングの任意の設計に基づく層として配置される。図3は、基材上の複数コーティングを図示したものである。このコーティングは多層構造であり得、これには、図3を参照すると、少なくとも1つのリザーバー層(2)、及び任意選択的に下記の1つ又は複数の層、即ち基材(6)上に直接塗布され、リザーバー層の下に位置するプライマー層(1)、及びリザーバー層の上部の放出制御層(3)、これらと共に任意選択的なトップコート層(4)、及び任意選択的な仕上げ層(5)が含まれる。
【0072】
リザーバー層は、「マトリックス層」又は「薬物マトリックス」とも呼ばれ、少なくとも1種類のポリマー(薬物−ポリマー層)を含む薬物−ポリマー層、或いは、ポリマーを含まない薬物層であり得る。いくつかの実施形態では、本発明のコーティングは、2つ以上の上記リザーバー層を含むことが可能で、各層は、本明細書に記載の活性薬を含むことができる。同様に、いくつかの実施形態では、2つ以上のプライマー層、トップコート層、放出制御層、及び/又は仕上げ層が存在し得る。いくつかの実施形態では、上記で具体的に命名され、又は識別されなかった追加のコーティング層が存在する。例えば、それぞれが薬物を含む2つ以上のリザーバー層は、製造中、及び保管中に2種類の薬物間で生じる相互作用を制限するために、中間層により分離され得る。
【0073】
ステントコーティングの各層は、ポリマーブレンド組成物を任意選択的に、1つ又は複数のその他のポリマー及び/又はその他の添加物と共に、溶媒中、又は溶媒混合物中(溶媒が液体又は流体の場合)に溶解又は分散し、そしてステントに噴霧する、又は溶液中にステントを浸漬する等の手順により、得られたコーティング溶液をステント上に配置することにより、埋込型デバイス(例えば、ステント)上に配置することができる。そのようなコーティング手順は、当技術分野において周知されている。溶液がステント上に配置された後、溶媒は、蒸発により除去、又は実質的に除去される。溶媒が除去されたら、残渣物、又は本質的残渣物は、埋込型デバイスの表面上に、層、フィルム、又はコーティングを直接的又は間接的によらず形成する固体の材料である。乾燥のプロセスは、溶媒の物質移動を促進するように、上昇した温度で、及び/又は、デバイス上又は近傍に空気、別の気体、又は流体の流れを付加して乾燥を行う場合には、加速され得る。
【0074】
完成した埋込型医療用デバイス(例えば、ステント)のコーティングを約40℃と約150℃との間の温度で、約5分と約180分との間の時間、任意選択的にアニーリングすることができ、望むならば、ポリマーコーティングの結晶化を可能にし、及び/又はコーティングの熱力学的長期安定性を改善する。
【0075】
生物活性薬(例えば、薬物)をリザーバー層に組み込むために、薬物をポリマー溶液又はポリマー分散物と混合することができ、又は、薬物溶液若しくは溶媒中の薬物分散物を調製することができ、次に、この薬物溶液又は薬物分散物は、任意選択的にポリマーを含め、上記のように、埋込型デバイス上に配置される。
【0076】
リザーバー層中に組み込まれる、少なくとも1種類の生物活性薬(例えば、薬物)のためのリザーバーとして機能するように、薬物−ポリマー層をステント表面の少なくとも一部分上に、直接的又は間接的に塗布することができる。任意選択的なプライマー層をステントとリザーバーの間に、薬物−ポリマー層のステントとの接着性を改善するように塗布可能である。任意選択的なトップコート層をリザーバー層の少なくとも一部分上に塗布することができ、薬物の放出速度を制御するのに役立つ速度制限膜として機能することができる。一実施形態では、トップコート層は、実質的に、生物活性薬剤又は薬物を全く含まなくてもよい。トップコート層を用いる場合には、任意選択的な上塗り層を薬物放出速度をさらに制御するために、またコーティングの生体適合性を改善するために、トップコート層の少なくとも一部分上に塗布することができる。トップコート層がなければ、上塗り層をリザーバー層上に直接配置することができる。いずれの層も、任意選択的に1種類以上の薬物を含むことができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する薬物−ポリマー層、又は他の任意の層は、埋込型医療用デバイスの全表面、又は実質的に全表面を被覆することができる。完全に、又は実質的に完全にコーティング又は被覆されるのは、露出表面又は予めコーティングされた表面であるかどうかを問わず、表面である。別の実施形態では、表面のある部分のみ、例えば、約30%、約50%、約60%、約70%、又は約80%等をコーティングすることができる。いくつかの実施形態では、デバイス表面の一部分を選択的にコーティング(直接的又は間接的に)することができ、例えば、反管腔表面を選択的にコーティングすることができ、又は管腔表面を選択的にコーティングすることもできる。
【0078】
本発明の様々な実施形態では、埋込型デバイス上にある幅の厚さを有するポリマーブレンド組成物を含むコーティングが含まれる。特定の実施形態では、埋込型デバイスの少なくとも一部分上に配置されたコーティングは、約30ミクロン以下、又は約20ミクロン以下、又は約10ミクロン以下、又は約5ミクロン以下、又は約3ミクロン以下の厚さを有する。この寸法は、2つ以上の層が、医療用デバイスの表面上に、直接的又は間接的、いずれかにより配置される場合には、個別の層のそれぞれに適用される。
【0079】
薬物は、コーティングを形成する(1つ又は複数の)層が分解、溶解、及び/又は侵食されることにより、或いは薬物が、(1つ又は複数の)層中のポリマーブレンド組成物を経由して移動(拡散)することにより、血管中又は組織内に放出可能となる。活性薬は、任意の数の機構により放出可能であり、同機構には、上記放出機構の任意の1つ、又は任意の組合せが、これらに限定されずに含まれるが、またさらに、活性薬は、具体的には記載されていないが、当技術分野で既知のその他の機構、例えば浸透圧効果による放出等、但しこれに限定されない機構によっても、放出可能である。
【0080】
一実施形態では、埋込型医療用デバイスコーティング、又はステントコーティングの任意の又は全ての層は、本明細書に記載のポリマーブレンド組成物を含むコーティングを原料として作製可能である。いくつかの実施形態では、層は、生物学的に分解可能/侵食可能/吸収可能/再吸収可能である特性を有することができ、また別の実施形態では、層は、非分解性/生体安定性ポリマーとしての特性を有することができる。いくつかの実施形態では、層は、分解性のポリマー又はその他の材料、並びに生体安定性のある、ある種のポリマー及び/又は材料を含むことができる。別の実施形態では、コーティングの最外層は、上記で定義するポリマーブレンド組成物の実施形態に関連するポリマーブレンド組成物を含むコーティングに限定され得る。いくつかの実施形態では、特定の層中の(1つ又は複数の)ポリマーは、任意の別の層中のポリマーと同一であっても、また異なってもよい。いくつかの実施形態では、別の生体吸収性の層の外側の層も、生体吸収性であり得、また内側の層に比較して、これと同じ、又はこれよりも速く分解し得る。いくつかの実施形態では、内側層は、生体吸収性であり得、また外側の層は、生分解性であり得、同一速度以下で分解することができ、そのような実施形態では、内側層の分解生成物は、外側の層を経由して拡散することができる。コーティングの任意の層は、本明細書に記載するポリマーブレンド組成物の任意の量を含むことができる。いくつかの実施形態では、ステントコーティングの任意の層も、任意の量の非分解性ポリマー、又は2種類以上のそのようなポリマーのブレンド物を含むことができるが、但し、非分解性ポリマーは、生体吸収性ポリマーと混合することがないように、また非分解性層の下にある任意の層が、生体吸収性ポリマーを含むことも無いようにすることができる。別の実施形態では、層は、ポリマーの分解生成物が、層中の残りの非分解性ポリマーを経由して拡散し、及び/又は該当する層の上にある任意の層を経由して拡散することができるような量で、非分解性ポリマー、及び分解性ポリマーの両方を含むことができる。いくつかの実施形態では、生体吸収性ポリマー、及び/又は層は、非分解性層の下、及び/又は分解性及び非分解性のポリマー又は材料を含む層の下に位置することができ、分解性ポリマーの分解生成物は非分解性層を経由して拡散する。
【0081】
生体吸収性ポリマー、及び生体適合性ポリマーの限定されない例として、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、co−ポリ(エーテル−エステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、生体分子、例えば、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、セロファン、デンプン、コラーゲン、ヒアルロン酸、及びこれらの誘導体(例えば、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、及びカルボキシメチルセルロース)、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(D,L−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(D,L−乳酸−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L−乳酸−グリコール酸)(PLLGA)、ポリ(D,L−乳酸−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(D−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PLLA−GA−CL)、ポリ(D,L−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(D,L−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA−CL)、又はこれらの任意のコポリマー、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0082】
非分解性ポリマーの限定されない例として、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコール(PEG)アクリレート、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びn−ビニルピロリドン、メタクリル酸、アクリル酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート、及びこれらのコポリマー、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0083】
上記リスト中のポリマー(及び/又は上記リスト中のポリマーの構成モノマー)の任意の1つ又は複数を含む、あらゆるコポリマーも、ランダム状、グラフト型、又はブロック型コポリマーであるかを問わず、コポリマーをどのようなその他の1つのポリマー、複数のポリマー、又は複数のモノマーが含むかに関係なく、またその他の1つのポリマー、複数のポリマー、又は複数のモノマーが、本明細書で具体的に掲載されているかいないかに関係なく、本発明に含まれる。本発明の様々な実施形態には、架橋ポリマー及び非架橋ポリマーも含まれる。
【0084】
全ての実施形態は、追加の成分、例えば、平滑剤、充填剤、可塑剤、界面活性剤、希釈剤、離型剤、活性薬の担体又はバインダーとして機能する薬剤、抗粘剤、消泡剤、粘度調整剤、酸化防止剤、残留レベルで存在し得る溶媒、及び材料の処理に役立つ、又は望ましい、及び/又は最終製品の成分として有用又は望ましいと考えられるその他の任意の薬剤も、これらに限定されずに含むことができる。界面活性剤は、溶媒又は液体中にポリマー分散物及び/又は薬物分散物を調製するのに役立ち得る。
【0085】
[疾患を治療又は予防する方法]
本発明に基づく埋込型デバイスは、様々な健康状態、又は疾患を治療、予防、緩和、軽減、又は診断するために、又は治癒促進性効果をもたらすために利用可能である。そのような健康状態又は疾患の例として、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管剥離、血管穿孔、動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、卵円孔開存症、跛行、血管及び人工グラフトにおける吻合部増殖、動静脈吻合、胆管障害、尿管閉鎖、及び腫瘍性閉塞が挙げられるが、但し、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、血管の病状、又は血管の状態は、冠動脈疾患(CAD)及び/又は末梢血管疾患(PVD)である。
【0086】
埋込型デバイスの一部、又は全デバイスそのものを本明細書に記載するように、任意選択的に1つ又は複数の活性薬を含むポリマーブレンド組成物である材料から形成可能である。例えば、前記材料は、デバイスの少なくとも一部分上に配置されたコーティングであり得る。
【0087】
本発明の様々な実施形態は、ステントについて規定しているが、コーティングは、埋込型医療用デバイス、例えば、ステント、グラフト、ステント−グラフト、カテーテル、リード線及び電極、クリップ、シャント、閉鎖用器具、弁、及び粒子等、但し、これらに限定されずに、一般的な埋込型医療用デバイスに適用され得る。別の具体的な用途には、一時閉鎖デバイス、封止用具、及びグラフト、又はポリマー性コーティングが必要、有用、又は有利であるあらゆる医療用デバイスが含まれる。ステントについての言及に関し、いずれの場合も、ステントは、神経、頸動脈、静脈移植血管、冠動脈、大動脈、腎臓、腸骨、大腿骨、膝窩血管系、及び尿道に関する流路を含む、体内のあらゆる管腔を対象とすることが意図され得る。
【実施例】
【0088】
以下の実施例は説明の目的のためのみであり、本発明を限定することを意味するものでは全くない。以下の実施例は、本発明の理解を助けるために与えられるものであるが、本発明は実施例の特定の材料又は方法に限定されないことを理解されたい。
【0089】
[実施例1]
小さな(12mm)VISION(商標)ステント(Advanced Cardiovascular Systems社製)に所望の表面積当たりの用量(100μg/cm)のエベロリムスを担持させるために、以下の被覆を調製する。第1ステップは、約55μgのプライマー(ラクチド/グリコリドのモル比が75/25のPLGA非晶質ポリマー)でステントの外面を被覆することであり、このプライマーをアセトン/メチルイソブチルケトン(比9:1)混合物の溶液(固形分2重量%)からスプレーした。ステントを140℃のオーブンに30分間入れて熱処理した。次に、PLGA50/50をクロロホルム中で半結晶性PLLAと90:10の重量:重量比で混合する。溶媒中のポリマー混合物に薬剤であるエベロリムスを加えた。1重量%のPLGA/PLLA/エベロリムス溶液(又は分散液)をステントにスプレーし、溶媒を除去した。ステント上に沈着した付加的な材料の量は約112μgであり、そのうち約56μgは薬剤であるエベロリムスであった。残りはポリマー混合組成物である。次にステントを50℃で2時間熱処理した。全体の厚みは約3〜4μmと推定される。ステントを送達のためのカテーテルバルーンに圧着し、全体のアセンブリを最終包装に入れた後に、ステントをエチレンオキシドで滅菌した。ステントを模擬動脈に設置し、ステントを公称直径に拡張し、ステントを37℃で1時間、PBS、脱イオン水、又は血清の流れにさらすことからなる使用試験の後に、SEMを実施した。PBSは緩衝液、即ち生化学で一般に用いられるリン酸緩衝生理食塩液であり、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸カリウムを含む。濃度は通常、人体と等張である。
【0090】
図4A〜図4Dは、滅菌後の被覆のSEM像である。図4A〜図4Dを図2A〜図2Dと比較して分かるように、本発明のポリマー混合物の実施形態の1つを用いることによって、被覆の外観が改善される。
【0091】
[実施例2]
小さな(12mm)VISION(商標)ステント(Advanced Cardiovascular Systems社製)に所望の表面積当たりの用量(100μg/cm)のエベロリムスを担持させるために、以下の被覆を調製する。第1ステップは、約55μgのプライマー(ラクチド/グリコリドのモル比が75/25のPLGA非晶質ポリマー)でステントの外面を被覆することであり、このプライマーをアセトン/メチルイソブチルケトン(比9:1)混合物の溶液からスプレーした。ステントを140℃のオーブンに30分間入れて熱処理した。次に、PLGA75/25をクロロホルム中で半結晶性PLLAと90:10の重量:重量比で混合した。溶媒中のポリマー混合物に薬剤であるエベロリムスを加えた。1重量%のPLGA/PLLA/エベロリムス溶液(又は分散液)をステントにスプレーし、溶媒を除去した。ステント上に沈着した付加的な材料の量は約112μgであり、そのうち約56μgは薬剤であるエベロリムスであった。残りはポリマー混合組成物である。次にステントを50℃で2時間熱処理する。厚みは約3〜4μmと推定される。ステントを送達のためのカテーテルバルーンに圧着し、全体のアセンブリを最終包装に入れた後に、ステントをエチレンオキシドで滅菌した。使用試験の後にSEMを実施した(実施例1に上記した)。
【0092】
図5A〜図5Cは、滅菌後の被覆のSEM像である。図5A〜図5Cを図2A〜図2Dと比較して分かるように、本発明のポリマー混合物の実施形態の1つを用いることによって、被覆の外観が改善される。
【0093】
[実施例3(被覆調製の予想的実施例)]
この予想的実施例は、本発明の被覆の例示的な実施形態をいかにして策定するかの説明である。
【0094】
小さな(12mm)VISION(商標)ステント(Advanced Cardiovascular Systems社製)に所望の表面積当たりの用量(100μg/cm)のエベロリムスを担持させるために、以下の被覆を調製する。第1ステップは、約55μgのプライマー(ラクチド/グリコリドのモル比が75/25のPLGA非晶質ポリマー)でステントの外面を被覆することであり、このプライマーをアセトン/メチルイソブチルケトン(比9:1)混合物の溶液からスプレーする。ステントを140℃のオーブンに30分間入れて熱処理する。次に、PLGA50/50をクロロホルム中で半結晶性PLLAと75/25の重量(PLLA):重量(PLGA)比で混合する。溶媒中のポリマー混合物に薬剤であるエベロリムスを加える。溶液をステントにスプレーする。ステント上に沈着する付加的な材料の量は約112μgであり、そのうち約56μgは薬剤であるエベロリムスである。残りはポリマー混合組成物である。次にステントを50℃で2時間熱処理する。厚みは約3μmと推定される。
【0095】
[実施例4(被覆調製の予想的実施例)]
この予想的実施例は、本発明の被覆の例示的な実施形態をいかにして策定するかの説明である。
【0096】
小さな(12mm)VISION(商標)ステント(Advanced Cardiovascular Systems社製)に所望の表面積当たりの用量(100μg/cm)のエベロリムスを担持させるために、以下の被覆を調製する。第1ステップは、約55μgのプライマー(ラクチド/グリコリドのモル比が75/25のPLGA非晶質ポリマー)でステントの外面を被覆することであり、このプライマーをアセトン/メチルイソブチルケトン(比9:1)混合物の溶液からスプレーする。ステントを140℃のオーブンに30分間入れて熱処理する。次に、PLGA75/25をクロロホルム中で半結晶性PLLAと50:50の重量:重量比で混合する。溶媒中のポリマー混合物に薬剤であるエベロリムスを加える。ステント上に沈着する付加的な材料の量は約168μgであり、そのうち約56μgは薬剤であるエベロリムスである。残りはポリマー混合組成物である。次にステントを50℃で2時間熱処理する。厚みは約4μmと推定される。
【0097】
[実施例5(被覆調製の予想的実施例)]
この予想的実施例は、本発明の被覆の例示的な実施形態をいかにして策定するかの説明である。
【0098】
小さな(12mm)VISION(商標)ステント(Advanced Cardiovascular Systems社製)に所望の表面積当たりの用量(100μg/cm)のエベロリムスを担持させるために、以下の被覆を調製する。第1ステップは、約55μgのプライマー(ラクチド/グリコリドのモル比が75/25のPLGA非晶質ポリマー)でステントの外面を被覆することであり、このプライマーをアセトン/メチルイソブチルケトン(比9:1)混合物の溶液からスプレーする。ステントを140℃のオーブンに30分間入れて熱処理する。次に、PLGA75/25をクロロホルム中で半結晶性PLLGA(82/18)と50:50の重量:重量比で混合する。溶媒中のポリマー混合物に薬剤であるエベロリムスを加える。ステント上に沈着する付加的な材料の量は約168μgであり、そのうち約56μgは薬剤であるエベロリムスである。残りはポリマー混合組成物である。次にステントを50℃で2時間熱処理する。厚みは約4μmと推定される。
【0099】
本発明の特定の実施形態を示し、記述したが、そのより広い態様において本発明から逸脱することなく変更及び改良をなし得ることは当業者には明らかであろう。したがって、特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲に含まれる全ての変更及び改良をその範囲の中に包含するためのものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーブレンド組成物を含むコーティングであって、
前記ポリマーブレンド組成物は、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である半結晶性ポリマーと、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとを、前記半結晶性ポリマーと前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとの合計に対して前記半結晶性ポリマーが約2重量%〜約75重量%となるように含有し、
前記コーティングの有効ガラス転移温度は、約−60℃以上であり、
結晶性ポリマー領域の融解転移温度が約70℃以上であるか、又は、2つ以上のポリマー融解転移が存在する場合には少なくとも一つの結晶性ポリマー領域の融解転移温度が約70℃以上であり、
前記コーティングは、約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を有する、
コーティング。
【請求項2】
前記半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、PLGA、PEG−PDLA、PEG−PLGA、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、PLGAである、請求項3に記載のコーティング。
【請求項5】
前記PLGAは、PLGA50/50、PLGA75/25、PLGA90/10、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項4に記載のコーティング。
【請求項6】
前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマーである、請求項3に記載のコーティング。
【請求項7】
約1重量%〜約35重量%のポリマー結晶化度を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
約2重量%〜約30重量%のポリマー結晶化度を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項9】
線形粘弾性領域において振動数1ラジアン/秒で測定したときの動的剪弾損失係数は、約2×10以下である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項10】
前記コーティングは、生分解性を有し、
前記コーティングが実質的に又は完全に分解するまでの時間は、約1ヶ月〜約18ヶ月である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項11】
薬物をさらに含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項12】
前記薬物は、エベロリムス、ゾタロリムス、デキサメタゾン、これらの薬物の任意の誘導体、又はこれらの組合せからなる群より選択される、請求項11に記載のコーティング。
【請求項13】
コーティングを備える埋込型医療用デバイスであって、
前記コーティングは、ポリマーブレンド組成物を含み、
前記ポリマーブレンド組成物は、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である半結晶性ポリマーと、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとを、前記半結晶性ポリマーと前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとの合計に対して前記半結晶性ポリマーが約2重量%〜約75重量%となるように含有し、
前記コーティングの有効ガラス転移温度は、約−60℃以上であり、
結晶性ポリマー領域の融解転移温度が約70℃以上であるか、又は、2つ以上のポリマー融解転移が存在する場合には少なくとも一つの結晶性ポリマー領域の融解転移温度が約70℃以上であり、
前記コーティングは、約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を有する、
埋込型医療用デバイス。
【請求項14】
前記コーティング中の前記半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記コーティング中の前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、PLGA、PEG−PDLA、PEG−PLGA、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項13に記載のデバイス。
【請求項16】
前記コーティング中の前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、PLGAである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項17】
前記PLGAが、PLGA50/50、PLGA75/25、PLGA90/10、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記コーティング中の前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマーである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項19】
前記コーティングは、約1重量%〜約35重量%のポリマー結晶化度を有する、請求項13に記載のデバイス。
【請求項20】
前記コーティングは、約2重量%〜約30重量%のポリマー結晶化度を有する、請求項13に記載のデバイス。
【請求項21】
線形粘弾性領域において振動数1ラジアン/秒で測定したときの、前記コーティングの動的剪弾損失係数は、約2×10以下である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項22】
前記コーティングは、生分解性を有し、
前記コーティングが分解又は実質的に分解するまでの時間は、約2カ月〜約12カ月である、請求項12に記載のデバイス。
【請求項23】
コーティングを備える埋込型医療用デバイスであって、
前記コーティングは、ポリマーブレンド組成物を含み、
前記ポリマーブレンド組成物は、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である半結晶性ポリマーと、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとを、前記半結晶性ポリマーと前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとの合計に対して前記半結晶性ポリマーが約2重量%〜約75重量%となるように含有し、
前記半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群より選択され、
前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−グリコリド)、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
前記コーティングの有効ガラス転移温度は、約−60℃以上であり、
前記コーティングは、約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を有し、
前記コーティングは、滅菌処理後に約10%以下の水分含量を有する、
埋込型医療用デバイス。
【請求項24】
コーティングを含む埋込型医療用デバイスであって、
前記コーティングは、ポリマーブレンド組成物を含み、
前記ポリマーブレンド組成物は、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である半結晶性ポリマーと、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとを、前記半結晶性ポリマーと前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとの合計に対して前記半結晶性ポリマーが約2重量%〜約75重量%となるように含有し、
前記半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群より選択され、
前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、PLGA、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、及びこれらの組合せからなる群より選択され、
前記コーティングの有効ガラス転移は、約−60℃以上であり、
前記コーティングは、約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を有し、
前記コーティングは、生分解性を有し、前記コーティングが実質的に又は完全に分解するまでの時間は、約1カ月〜約18カ月である、
埋込型医療用デバイス。
【請求項25】
コーティングを含む埋込型医療用デバイスであって、
前記コーティングは、ポリマーブレンド組成物を含み、
前記ポリマーブレンド組成物は、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である半結晶性ポリマーと、重量平均分子量が約75,000〜約300,000である非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとを、前記半結晶性ポリマーと前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーとの合計に対して前記半結晶性ポリマーが約2重量%〜約75重量%となるように含有し、
前記半結晶性ポリマーは、PDLA、PLLA、PLLGA、PLLA−GA−CL、及びこれらの組合せからなる群より選択され、
前記非結晶性又は実質的に非結晶性のポリマーは、PLGA、ポリ(ラクチド−グリコリド−カプロラクトン)ターポリマー、及びこれらの組合せからなる群より選択され、
前記コーティングは、約0.5重量%〜約50重量%のポリマー結晶化度を有し、
前記コーティングは、生分解性を有し、前記コーティングが実質的に又は完全に分解するまでの時間は、約1カ月〜約18カ月であり、
前記コーティングは、エチレンオキシド滅菌処理条件以下の温度で、線形粘弾性領域において振動数1ラジアン/秒で測定したとき、動的剪断損失係数よりも大きい動的剪断蓄積係数を有し、
前記動的剪断損失係数は、約2×10Pa以下である、
埋込型医療用デバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公表番号】特表2011−502195(P2011−502195A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531327(P2010−531327)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/081469
【国際公開番号】WO2009/058786
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】