説明

熱安定性に優れた改質ホエイ製品およびその製造方法

【課題】熱安定性が良好であり、カルシウム含量を増大させても熱安定性が保持される改質ホエイ製品を提供する。
【解決手段】原料ホエイ液中のカルシウム含量を低減して、カルシウム含量が313mg/100g固形分以下であり、かつタンパク質含量が21g/100g固形分以下であるカルシウム低減ホエイ液を得るカルシウム低減工程と、前記カルシウム低減ホエイ液を、80〜150℃で30分〜1秒間の条件で加熱処理する加熱処理工程を有することを特徴とする熱安定性に優れた改質ホエイ製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性に優れたホエイ(乳清)製品およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、カルシウムを添加しても優れた熱安定性が得られる改質ホエイ製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホエイは、ホエイ蛋白質、または乳糖の原料として用いられる他、パン、焼き菓子の風味改良剤、飲料の原料、育児用調製粉乳の原料等として用いられている。
ホエイは乳製品を製造する際の副生成物であり、かかる副生成物の有効利用に期待が持たれるが、加熱により沈殿またはゲル化を生じやすいため、熱安定性の改善が求められる。
【0003】
特許文献1は、ホエイの熱安定性の向上を目的とするもので、イオン交換またはキレート剤添加を行って、ホエイタンパク質水溶液中のカルシウム、マグネシウムを除去または封鎖すると、95℃5分の条件で加熱してもほとんど不溶化しない程度の熱安定性が得られることが記載されている。
特許文献2は、温水または冷水を添加すると粘性溶液を形成する変性乳清タンパク濃縮物を製造する方法に関するもので、乳清タンパク質溶液から、限外濾過または陽イオン交換等によりカルシウムを除去し、70℃以上で最長60分の条件で加熱することにより乳清タンパク質を変性および凝集させて、ゲル化機能を有する乳清タンパク濃縮物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−216544号公報
【特許文献2】特表2008−525019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳製品はカルシウムの良質な供給源として期待されており、ホエイも例外ではないが、カルシウムが除去されていないホエイは、上述したように、加熱殺菌工程等の加熱により沈殿やゲル化を生じやすいという問題がある。
特許文献1の方法では、ホエイ中のカルシウムを除去することによって熱安定性の向上を図るため、カルシウム含量は原料のホエイよりも低くなってしまう。
例えば、特許文献1の実施例1〜4において、95℃5分の条件で加熱される際のホエイは、タンパク質含量が乾燥物で12〜12.6%で、カルシウム含量は乾燥物で0.35〜0.46%に低減されており、95℃5分の加熱に対して良好な熱安定性を示す。
しかしながら、本発明者等の知見によれば、該95℃5分の加熱を行った後に、カルシウム含量を増大させるべくカルシウムを添加すると、その後に再度加熱殺菌した際に沈殿を生じてしまう。
【0006】
特許文献2は、温水または冷水を添加するとゲル化する乳清タンパク濃縮物を得ることを目的とするもので、本発明とは課題が大きく異なる。また特許文献2は、乾燥物のタンパク質濃度で80%以上の高タンパク質濃度ホエイ製品を対象としている。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、熱安定性が良好であり、カルシウム含量を増大させても熱安定性が保持される改質ホエイ製品の製造方法、該製造方法で得られる改質ホエイ製品、該改質ホエイ製品を用いたカルシウム再構成改質ホエイ製品の製造方法、および該製造方法で得られるカルシウム再構成改質ホエイ製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]原料ホエイ液中のカルシウム含量を低減して、カルシウム含量が313mg/100g固形分以下であり、かつタンパク質含量が21g/100g固形分以下であるカルシウム低減ホエイ液を得るカルシウム低減工程と、前記カルシウム低減ホエイ液を、80〜150℃で30分〜1秒間の条件で加熱処理する加熱処理工程を有することを特徴とする熱安定性に優れた改質ホエイ製品の製造方法。
[2]前記カルシウム低減工程が、陽イオン交換処理によってカルシウム含量を低減する工程を有する[1]の熱安定性に優れた改質ホエイ製品の製造方法。
[3]前記加熱処理が120〜150℃で5分間〜1秒間の加熱処理工程を有する[1]または[2]の熱安定性に優れた熱安定性に優れた改質ホエイ製品の製造方法。
[4][1]〜[3]の製造方法で得られる改質ホエイ製品。
[5]原料ホエイ液中のカルシウム含量を低減して、カルシウム含量が313mg/100g固形分以下であり、かつタンパク質含量が21g/100g固形分以下であるカルシウム低減ホエイ液を得るカルシウム低減工程と、前記カルシウム低減ホエイ液を、80〜150℃で30分〜1秒間の条件で加熱処理する加熱処理工程と、前記加熱処理工程を経て得られる改質ホエイ製品に、カルシウム含有化合物を、全体におけるカルシウム含量が650mg/100g固形分以下となるように加えて混合する工程を有することを特徴とするカルシウム再構成改質ホエイ製品の製造方法。
[6][5]の製造方法で得られるカルシウム再構成改質ホエイ製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱安定性が良好であり、カルシウム含量を増大させても熱安定性が保持される改質ホエイ製品が得られる。
本発明によれば熱安定性に優れるとともに、カルシウム含量が高い、カルシウム再構成改質ホエイ製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
[原料ホエイ液]
ウシ、ヒツジ、ヤギ等の乳を原料として、チーズ、カゼイン、カゼインナトリウム、ヨーグルト等を製造する過程において、凝固させた乳分を取り除いて残る透明な液をホエイと言う。本発明で用いられる原料ホエイは、凝固した乳分を分離しただけの未処理のホエイでもよく、該未処理のホエイに対して、セパレーター、分離膜、イオン交換樹脂等を用いて脱脂、脱塩、脱蛋白質等の前処理を施したものでもよく、予め濃縮した濃縮液でもよい。また前記未処理のホエイ、前処理後のホエイ、または濃縮液を、噴霧乾燥や凍結乾燥等の常法により粉末化したものでもよい。市販のホエイパウダーも使用できる。
これらの中でも、製品の汎用性の点から脱脂したホエイ、又は脱脂し脱塩したホエイが好ましい。
原料ホエイをカルシウム低減工程に供する際は、液の形態(以下、原料ホエイ液という)で用いる。必要であれば水で希釈する、または水に溶解させる。
原料ホエイ液は、タンパク質含量が21g/100g固形分以下であることが好ましく、16g/100g固形分以下がより好ましい。
原料ホエイ液の固形分濃度は特に制限されないが、1〜40質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。この範囲であると乳糖の結晶沈殿などの問題が回避できる。。
【0011】
[カルシウム低減工程]
まず、原料ホエイ液中のカルシウム含量を低減して、カルシウム含量が313mg/100g固形分以下のカルシウム低減ホエイ液を得る。カルシウム低減ホエイ液におけるカルシウム含量は208mg/100g固形分以下が好ましい。カルシウム低減ホエイ液におけるカルシウム含量の下限値は特に制限されない。
【0012】
カルシウム含量を低減させる方法としては、陽イオン交換処理、電気透析法、膜分離法(脱塩処理)等、溶液中の2価の陽イオンを選択的に除去する公知の脱塩処理方法を適宜用いることができる。これらは1種を単独で行ってもよく、2種以上を順次行ってもよい。
陽イオン交換処理は、カルシウムイオンを他のイオンに交換して除去できるタイプの陽イオン交換樹脂を用いて行うことができる。カルシウムイオンと交換される他のイオンの塩(置換塩)は、カルシウムイオンを除去できるものであればよく、特に限定されない。なお該陽イオン交換処理によって、原料ホエイ液中のカルシウムイオン以外の陽イオンが同時に除去されてもよい。
陽イオン交換樹脂のタイプは強酸性、弱酸性のいずれも使用できる。置換塩は、例えばナトリウム形、カリウム形、ナトリウム・カリウム混合形が使用できる。そのほか、置換塩の一部に水素やマグネシウム等を含有するタイプも用いることができる。これらのうち、得られる改質ホエイ製品の風味のバランスの面から、ナトリウム形またはナトリウム・カリウム混合形が好ましく、ナトリウム・カリウム混合形が最も好ましい。
陽イオン交換樹脂への通液条件としては、カルシウムイオンが充分に除去できる範囲であれば特に制限されない。例えばSV(空間流速)が0.5〜10の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜7、特に好ましくは1〜5である。通液温度は、カルシウムが充分に除去できる範囲であれば、乳糖の析出やホエイタンパク質の変性が生じない範囲で適宜設定できる。例えば1〜70℃の範囲が好ましい。
膜分離法は、ナノ濾過膜モジュールを用いる方法と、ダイアフィルトレーション(透析ろ過)法が好ましく、これらを順次行うことがより好ましい。また、限外濾過モジュールにより、タンパク質とイオンを同時に除去してもよい。
【0013】
カルシウム低減ホエイ液を加熱処理工程に供する際は、タンパク質含量が21g/100g固形分以下であることが必要である。21g/100g固形分以下であると、良好な熱安定性が得られる。好ましくは16g/100g固形分以下である。カルシウム低減ホエイ液におけるタンパク質含量の下限値は特に制限されない。
【0014】
[加熱処理工程]
次に、カルシウム低減ホエイ液を、80〜150℃で30分〜1秒間の条件で加熱処理する。この条件で加熱処理することにより、良好な熱安定性が得られる。例えば、80℃以上95℃以下の処理温度まで昇温し、該処理温度に5分以上30分以下保持して加熱処理を行うことができる。
より良好な熱安定性を得るために、120〜150℃で5分間〜1秒間の条件の加熱処理工程を含むことが好ましい。例えば、80℃以上95℃以下の処理温度まで昇温し、該処理温度に5分以上30分未満保持する一次加熱処理を行った後、120〜150℃で5分間〜1秒間保持する二次加熱処理を行うことが好ましい。
【0015】
加熱処理工程は例えばバッチ式、プレート式、またはチューブラー式の殺菌機等を用いた間接加熱法や、インフュージョン式、またはインジェクション式の殺菌機を用いた直接加熱法で行うことができる。
【0016】
加熱処理工程を終えたカルシウム低減ホエイ液は、そのままの状態で液状の改質ホエイ製品として用いてもよく、必要に応じて通常の方法で濃縮したものを濃縮液状の改質ホエイ製品としてもよい。濃縮した後、凍結乾燥、噴霧乾燥等の通常の乾燥工程を経て、粉末状の改質ホエイ製品としてもよい。
【0017】
[カルシウム再構成改質ホエイ製品]
本発明の改質ホエイ製品は、それ自身が熱安定性に優れるほか、該改質ホエイ製品のほかにカルシウムが存在する液状での熱安定性にも優れ、加熱によるゲル化や沈殿が生じ難い。
したがって、本発明の改質ホエイ製品にカルシウムを添加して、該改質ホエイ製品よりもカルシウム含量が高く、熱安定性に優れたカルシウム再構成改質ホエイ製品を得ることができる。
具体的に、上記カルシウム低減工程および加熱処理工程を経た改質ホエイ製品に、カルシウム含有化合物を加えて混合することにより、改質ホエイ製品の熱安定性を維持しながら、カルシウム含量を増大させることができる。これにより、原料ホエイと同等のカルシウム含量を有する、または原料ホエイよりもカルシウム含量が高いカルシウム再構成改質ホエイ製品を実現することも可能である。
カルシウムを添加するために用いられるカルシウム含有化合物は、カルシウム塩が好ましい。
カルシウム再構成改質ホエイ製品におけるカルシウム含量の上限は、改質ホエイ製品の製造条件にもよるが、650mg/100g固形分以下が好ましい。より確実に熱安定性が得られる点では、600mg/100g固形分以下が好ましく、550mg/100g固形分以下がより好ましい。
【0018】
カルシウム再構成改質ホエイ製品は、液状または濃縮液状の改質ホエイ製品にカルシウム含有化合物を添加したものもよく、それを濃縮したものでもよく、さらに粉末状にしたものでもよい。
また粉末状の改質ホエイ製品を、カルシウム含有化合物を含有する溶液に溶解させたものでもよく、それを濃縮したものでもよく、さらに粉末状にしたものでもよい。
【0019】
本発明の改質ホエイ製品またはカルシウム再構成改質ホエイ製品は、例えば他製品の原料として用いることが可能である。他製品の具体例としては飲料、育児用調整粉乳、レトルト食品等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
チーズ製造時に得られたカード分離後の原料ホエイ液(固形分量:8.9%、タンパク質含量13g/100g固形分、カルシウム含量:506mg/100g固形分)を、ナトリウム形陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名:ダイヤイオンSK−1B)に40℃、SV=5で通液して、カルシウム含量が20mg/100g固形分となるように陽イオン交換処理を行った。次いで、陽イオン交換処理を行ったホエイ液を、バッチ式により95℃で5分間間接加熱による一次加熱処理を行い、さらに、120℃で2秒間、プレート加熱殺菌による二次加熱処理を行い、液状の改質ホエイ製品を製造した。
製造した改質ホエイ製品に、カルシウム含量が573mg/100g固形分となるように塩化カルシウム(ナカライテスク社製)の5%水溶液を添加し、カルシウムを再構成して調製したホエイ液(カルシウム再構成改質ホエイ製品)を得た。このホエイ液に対して、121℃で10分間レトルト加熱試験を行ったところ、加熱試験後のホエイ液中に生じた沈殿量は、100ml当たり0.9mlと少なかった。また加熱試験後のホエイ液は、目視では沈殿がほとんど観察されず、熱安定性に優れていることが確認された。
なお、ホエイ液にレトルト加熱試験を施した後の沈殿量は、該ホエイ液を3000rpm(遠心力1500g)で5分間遠心分離して、生じた沈殿の量(ml/100ml)を測定した値である(以下、同様)。該沈殿量が少ないほど加熱安定性に優れることを示す。
【0021】
[実施例2]
チーズ製造時に得られたカード分離後の原料ホエイ液(固形分量:8.7%、タンパク質含量13g/100g固形分、カルシウム含量:540mg/100g固形分)を、ナトリウム形陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオンSK−1B)に10℃、SV=5で通液して陽イオン交換処理を行った。次いで、陽イオン交換処理を行ったホエイ液を、ナノ濾過膜モジュール(日東電工社製、商品名:NTR−7450HG)を備えたスパイラル式ナノ濾過装置(日東電工社製、商品名:RUW−5A)にて2倍濃縮し、その後、ダイアフィルトレーション濃縮によりさらに脱塩処理を行った。脱塩処理後のホエイ液中のカルシウム含量は93mg/100g固形分であった。
次いで、脱塩処理後のホエイ液をプレート加温にて85℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、120℃で30秒間、直接加熱殺菌(インフュージョン式加熱殺菌)による二次加熱処理を行い、加熱処理したホエイ液を遠心薄膜蒸発装置にて固形分が20%となるように濃縮し、これをドライヤーにて噴霧乾燥して、粉末状の改質ホエイ製品を製造した。
製造した改質ホエイ製品に、カルシウム含量が521mg/100g固形分となるように5%塩化カルシウム溶液を添加し、カルシウムを再構成して調製したホエイ液を、121℃で10分間レトルト加熱試験を行った。加熱試験後のホエイ液には、100ml当たり0.2mlの沈殿しか生じず、熱安定性に優れていることが確認された。
【0022】
[実施例3]
チーズ製造時に得られたカード分離後の原料ホエイ液をナノ濾過膜を用いて脱塩したホエイ液(固形分量:13.7%、タンパク質含量13g/100g固形分、カルシウム含量:518mg/100g固形分)を、ナトリウム形陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオンSK−1B)に10℃、SV=2.5で通液して陽イオン交換処理を行った。次いで、陽イオン交換処理を行ったホエイ液を、ナノ濾過膜モジュール(日東電工社製、NTR−7450HG)を備えたスパイラル式ナノ濾過装置(日東電工社製、RUW−5A)にて2倍濃縮し、その後、ダイアフィルトレーション濃縮によりさらに脱塩処理を行った。脱塩処理後のホエイ液中のカルシウム含量は82mg/100g固形分であった。
次いで、脱塩処理後のホエイ液をプレート加温にて85℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、135℃で30秒間、直接加熱殺菌(インフュージョン式加熱殺菌)による二次加熱処理を行い、加熱処理したホエイ液を遠心薄膜蒸発装置にて固形分が20%となるように濃縮し、これをドライヤーにて噴霧乾燥して、粉末状の改質ホエイ製品を製造した。
製造した改質ホエイ製品に、カルシウム含量が516mg/100g固形分となるように5%塩化カルシウム溶液を添加し、カルシウムを再構成して調製したホエイ液は、121℃で10分間レトルト加熱試験を行ったが、加熱試験後のホエイ液には沈殿が一切生じず、極めて熱安定性に優れていることが確認された。
【0023】
[実施例4]
チーズ製造時に得られたカード分離後の原料ホエイ液をナノ濾過膜を用いて脱塩したホエイ液(固形分量:13.3%、タンパク質含量13g/100g固形分、カルシウム含量:571mg/100g固形分)を、ナトリウム・カリウム形陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオンSK−1B)に10℃、SV=2.5で通液して陽イオン交換処理を行った。次いで、陽イオン交換処理を行ったホエイ液を、ナノ濾過膜モジュール(日東電工社製、NTR−7450HG)を備えたスパイラル式ナノ濾過装置(日東電工社製、RUW−5A)にて2倍濃縮し、その後、ダイアフィルトレーション濃縮によりさらに脱塩処理を行った。脱塩処理後のホエイ液中のカルシウム含量は66mg/100g固形分であった。
次いで、脱塩処理後のホエイ液をプレート加温にて85℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、135℃で30秒間、直接加熱殺菌(インフュージョン式加熱殺菌)による二次加熱処理を行い、加熱処理したホエイ液を遠心薄膜蒸発装置にて固形分が20%となるように濃縮し、これをドライヤーにて噴霧乾燥して、粉末状の改質ホエイ製品を製造した。
製造した改質ホエイ製品に、カルシウム含量が516mg/100g固形分となるように5%塩化カルシウム溶液を添加し、カルシウムを再構成して調製したホエイ液は、121℃で10分間レトルト加熱試験を行ったが、加熱試験後のホエイ液には沈殿が一切生じず、極めて熱安定性に優れていることが確認された。
【0024】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[試験例1]
本試験は、加熱処理条件によるホエイ液の熱安定性への影響を確認するために行った。
(1)試料の調製
前記実施例4で製造した二次加熱処理後のホエイ液を試験試料1とした。
前記実施例3で製造した二次加熱処理後のホエイ液を試験試料2とした。
前記実施例2で製造した二次加熱処理後のホエイ液を試験試料3とした。
前記実施例1で製造した二次加熱処理後のホエイ液を試験試料4とした。
前記実施例1において加熱処理を、バッチ式により95℃で5分間間接加熱による一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間、プレート加熱殺菌による二次加熱処理を行った事以外は同様の方法で製造した加熱処理後のホエイ液を試験試料5とした。
前記実施例1において加熱処理を、バッチ式により95℃で5分間間接加熱処理を行った事以外は同様の方法で製造した加熱処理後のホエイ液を試験試料6とした。
前記実施例1において加熱処理を、バッチ式により82℃で21分間間接加熱処理を行った事以外は同様の方法で製造した加熱処理後のホエイ液を試験試料7とした。
前記実施例1において加熱処理を、バッチ式により75℃(達温)に間接加熱処理を行った事以外は同様の方法で製造した加熱処理後のホエイ液を試験試料8とした。
前記実施例1において加熱処理を行わなかったこと以外は同様の方法で製造したホエイ液を対照試料1とした。
実施例1において用いられた原料ホエイ液(陽イオン交換処理、加熱処理を一切行っていない)を陰性試料1とした。
【0025】
(2)試験方法
試験試料1、2における総カルシウム含量が516mg/100g固形分となるように、各試料に5%塩化カルシウム溶液を添加して、カルシウムを再構成したホエイ液を調製した。また、試験試料3における総カルシウム含量が521mg/100g固形分となるように、各試料に5%塩化カルシウム溶液を添加して、カルシウムを再構成したホエイ液を調製した。さらに、試験試料4〜8及び対照試料1中における総カルシウム含量が573mg/100g固形分となるように、各試料に5%塩化カルシウム溶液を添加して、カルシウムを再構成したホエイ液を調製した。
その後、カルシウムを再構成した各試料に対してオートクレーブ装置にて121℃10分間レトルト加熱試験を実施し、沈殿量を測定した。
また、陰性試料1はカルシウムの再構成を行わずに直接加熱試験を行って、加熱安定性を検討した。
さらに、熱安定性の評価について、以下に示す基準(以下、同様)で目視による評価を行った。
◎:目視で沈殿、ゲル化等が殆ど観察されず、溶液として極めて安定。
○:目視で沈殿が僅かに観察されるが、溶液として安定。
×:目視で沈殿、又はゲル化等が明らかに観察され、溶液として不安定。
【0026】
(3)試験結果
本試験の結果は表1に示すとおりである。「<0.05」は0.05ml/100mlよりも少ないことを示す。その結果、試験試料1〜7の沈殿量が示すとおり、加熱処理の温度が高いほど、又は加熱処理の時間が長いほど、陽イオン交換処理にて一旦カルシウムを除去し、その後、カルシウムを再構成したホエイの熱安定性は良好であることが判明した。
なお、ホエイの熱安定性を十分に確保するためには、120℃以上の温度で加熱処理を行うことがより好ましいことも明らかとなった。
また、75℃で加熱処理した試験試料8は、未加熱の対照試料1や陰性試料1と同様の結果となり、いずれもカルシウム再構成後のホエイは加熱試験で変性して、加熱により不安定になることが明らかとなった。
【0027】
【表1】

【0028】
[試験例2]
本試験は、原料ホエイ中のカルシウム低減の程度違いによる製造したホエイの熱安定性への影響を確認するために行った。
(1)試料の調製
原料ホエイパウダー(森永乳業社製、カルシウム含量:573mg/100g固形分)を固形分が9%となるように溶解してホエイ液を調製し、これをナトリウム形陽イオン交換樹脂によりカルシウム低減を行って調製したカルシウム低減ホエイ液1(タンパク質含量:13g/100g固形分、カルシウム含量:52mg/100g固形分)を調製した。
このカルシウム低減ホエイ液1(カルシウム含量:52mg/100g固形分)と、原料ホエイパウダー(森永乳業社製、カルシウム含量:573mg/100g固形分)を固形分が9%となるように溶解したホエイ液とを混合し、次いで、95℃で5分間、間接加熱による一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間、プレート加熱殺菌による二次加熱処理を行って、カルシウム含量が208mg/100g固形分(試験試料9)、313mg/100g固形分(試験試料10)、365mg/100g固形分(試験試料11)、417mg/100g固形分(試験試料12)、469mg/100g固形分(試験試料13)を調製して各試験試料とした。
【0029】
(2)試験方法
試験試料9〜13中における総カルシウム含量が573mg/100g固形分となるように、各試料に5%塩化カルシウム溶液を添加して、カルシウムを再構成したホエイ液を調製した。
その後、カルシウムを再構成した各試料に対してオートクレーブ装置にて121℃10分間レトルト加熱試験を実施し、沈殿量を測定した。
さらに、熱安定性の評価について、目視による評価を行った。
【0030】
(3)試験結果
本試験の結果は表2に示すとおりである。その結果、試験試料9〜13の沈殿量が示すとおり、陽イオン交換によるカルシウムの除去後のホエイ中のカルシウム含量が、313mg/100g固形分以下である時、沈殿量は3.4ml以下となり、熱安定性は良好であることが確認された。
なお、カルシウム含量が365mg/100g固形分以上である時は、沈殿量は8.0ml以上となり、いずれもカルシウム再構成後の加熱により不安定となり、著しく沈殿することが明らかとなった。
【0031】
【表2】

【0032】
[試験例3]
本試験は、カルシウムを除去したホエイに添加するカルシウム量によるホエイの熱安定性への影響を確認するために行った。
(1)試料の調製
前記実施例4で製造したホエイ(ホエイパウダー、カルシウム含量:66mg/100g固形分)に、総カルシウム含量がそれぞれ、110、211、316、421、526、632、737、842、947、1053(mg/100g固形分)となるように5%塩化カルシウム溶液を添加して、カルシウムを再構成したホエイ液を調製して試験試料とした。
(2)試験方法
カルシウムを再構成した各試験試料に対してオートクレーブ装置にて121℃10分間レトルト加熱試験を実施し、沈殿量を測定した。
(3)試験結果
本試験の結果は表3に示すとおりである。その結果、各試験試料の沈殿量が示すとおり、ホエイへ添加されるカルシウム総含量が632mg/100g固形分以下である場合に加熱試験後の沈殿は殆ど確認されず、加熱に対して安定であることが明らかとなった。
【0033】
【表3】

【0034】
[試験例4]
本試験は、原料ホエイ中のタンパク質含量の違いによる製造したホエイの熱安定性への影響を確認するために行った。
(1)試料の調製
1−1)試験試料14:原料ホエイパウダー(森永乳業社製、固形分:96%、タンパク質含量:13g/100g固形分、カルシウム含量:573mg/100g固形分)を固形分が9%となるように溶解してホエイ液を調製し、これをナトリウム形陽イオン交換樹脂によりカルシウム低減を行って調製したカルシウム低減ホエイ液1(タンパク質含量:13g/100g固形分、カルシウム含量:52mg/100g固形分)について、95℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間保持して二次加熱処理したホエイ液を試験試料14とした。
1−2)試験試料15:乳清タンパク質濃縮物(ミライ社製、固形分:96%、タンパク質含量:83.3g/100g固形分、カルシウム含量:438mg/100g固形分)を固形分が9%となるように溶解してホエイ液2を調製し、これをナトリウム形陽イオン交換樹脂によりカルシウム低減を行って調製したカルシウム低減ホエイ液2(タンパク質含量:83.3g/100g固形分、カルシウム含量:48mg/100g固形分)について、95℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間保持して二次加熱処理したホエイ液を試験試料15とした。
1−3)試験試料16:試験試料14の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液1(タンパク質含量:13g/100g固形分、カルシウム含量:52mg/100g固形分)と、試験試料15の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液2(タンパク質含量:83.3g/100g固形分、カルシウム含量:48mg/100g固形分)を、所定量配合してタンパク質含量が62.5g/100g固形分となるように調製したカルシウム低減ホエイ液3について、95℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間保持して二次加熱処理したホエイ液を試験試料16とした。
【0035】
1−4)試験試料17:試験試料14の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液1(タンパク質含量:13g/100g固形分、カルシウム含量:52mg/100g固形分)と、試験試料15の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液2(タンパク質含量:83.3g/100g固形分、カルシウム含量:48mg/100g固形分)を、所定量配合してタンパク質含量が41.6g/100g固形分となるように調製したカルシウム低減ホエイ液3について、95℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間保持して二次加熱処理したホエイ液を試験試料17とした。
1−5)試験試料18:試験試料14の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液1(タンパク質含量:13g/100g固形分、カルシウム含量:52mg/100g固形分)と、試験試料15の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液2(タンパク質含量:83.3g/100g固形分、カルシウム含量:48mg/100g固形分)を、所定量配合してタンパク質含量が20.8g/100g固形分となるように調製したカルシウム低減ホエイ液3について、95℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間保持して二次加熱処理したホエイ液を試験試料18とした。
1−6)試験試料19:試験試料14の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液1(タンパク質含量:13g/100g固形分、カルシウム含量:52mg/100g固形分)と、試験試料15の調製に使用したカルシウム低減ホエイ液2(タンパク質含量:83.3g/100g固形分、カルシウム含量:48mg/100g固形分)を、所定量配合してタンパク質含量が16.0g/100g固形分となるように調製したカルシウム低減ホエイ液4について、95℃で5分間保持して一次加熱処理を行い、さらに、130℃で2秒間保持して二次加熱処理したホエイ液を試験試料19とした。
【0036】
(2)試験方法
試験試料14〜19中における総カルシウム含量が573mg/100g固形分となるように、各試料に5%塩化カルシウム溶液を添加して、カルシウムを再構成したホエイ液を調製した。
また、試験試料17および試験試料18に、それぞれ5%塩化カルシウム溶液を添加して、いずれも総カルシウム含量が480mg/100g固形分となるようにカルシウムを再構成したホエイ液を、それぞれ試験試料20、21とした。
その後、カルシウムを再構成した各試料に対してオートクレーブ装置にて121℃10分間レトルト加熱試験を実施し、沈殿量を測定した。
さらに、熱安定性の評価について、目視による評価を行った。
【0037】
(3)試験結果
本試験の結果は表4に示すとおりである。その結果、試験試料14〜21の沈殿量(ゲル化含む)が示すとおり、試験試料14(タンパク質含量:13g/100g固形分、総カルシウム含量:573mg/100g固形分)は沈殿量が0.6ml/100mlとなり、また試験試料19(タンパク質含量:16g/100g固形分、総カルシウム含量:573mg/100g固形分)は沈殿量が0.8ml/100mlとなった。
さらに、試験試料21(タンパク質含量:20.8g/100g固形分、総カルシウム含量:480mg/100g固形分)は沈殿量が0.8ml/100mlとなった。
以上の結果から、これら試験試料14、19、21は熱安定性が良好であることが確認された。
なお、試験試料18(タンパク質含量:20.8g/100g固形分、総カルシウム含量:573mg/100g固形分)は沈殿量が10.0ml/100mlとなり、加熱により不安定となり、著しく沈殿することが明らかとなった。
また、試験試料15〜17(タンパク質含量:83.3〜41.6g/100g固形分、総カルシウム含量:573mg/100g固形分)、および試験試料20(タンパク質含量:41.6g/100g固形分、総カルシウム含量:480mg/100g固形分)は、加熱試験によりゲル化し、ホエイは加熱により不安定になることが明らかとなった。
すなわち、本発明による熱安定性に優れた改質ホエイ製品を製造するにあたっては、再構成された後の総カルシウム含量が573mg/100g固形分であるとき、加熱処理されるカルシウム低減ホエイ液におけるタンパク質含量が16g/100g固形分以下の範囲で、熱安定性が良好になることが認められる。
また、再構成された後の総カルシウム含量が480mg/100g固形分であるときは、該カルシウム低減ホエイ液におけるタンパク質含量が21g/100g固形分以下の範囲で、熱安定性が良好になることが認められる。
【0038】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ホエイ液中のカルシウム含量を低減して、カルシウム含量が313mg/100g固形分以下であり、かつタンパク質含量が21g/100g固形分以下であるカルシウム低減ホエイ液を得るカルシウム低減工程と、
前記カルシウム低減ホエイ液を、80〜150℃で30分〜1秒間の条件で加熱処理する加熱処理工程を有することを特徴とする熱安定性に優れた改質ホエイ製品の製造方法。
【請求項2】
前記カルシウム低減工程が、陽イオン交換処理によってカルシウム含量を低減する工程を有する、請求項1に記載の熱安定性に優れた改質ホエイ製品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理が120〜150℃で5分間〜1秒間の加熱処理工程を有する、請求項1または2に記載の熱安定性に優れた熱安定性に優れた改質ホエイ製品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された製造方法で得られる改質ホエイ製品。
【請求項5】
原料ホエイ液中のカルシウム含量を低減して、カルシウム含量が313mg/100g固形分以下であり、かつタンパク質含量が21g/100g固形分以下であるカルシウム低減ホエイ液を得るカルシウム低減工程と、
前記カルシウム低減ホエイ液を、80〜150℃で30分〜1秒間の条件で加熱処理する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程を経て得られる改質ホエイ製品に、カルシウム含有化合物を、全体におけるカルシウム含量が650mg/100g固形分以下となるように加えて混合する工程を有することを特徴とするカルシウム再構成改質ホエイ製品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法で得られるカルシウム再構成改質ホエイ製品。

【公開番号】特開2010−166843(P2010−166843A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11376(P2009−11376)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】