説明

熱安定性を向上させた改変型グリセロールキナーゼ

【課題】防腐剤に対する高い耐性に加えて高い熱安定性を有するグリセロールキナーゼ、及び該酵素を用いた中性脂肪の測定方法を提供する。
【解決手段】セルロモナス(Cellulomomas)属の細菌由来の野生型グリセロールキナーゼより熱安定性を向上させた改変型グリセロールキナーゼであって、特定の位置のアミノ酸が置換されているアミノ酸配列を有する改変型グリセロールキナーゼ。及び、該酵素の遺伝子とそれを導入した形質転換体、さらに該酵素を使用する中性脂肪センサーと中性脂肪の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野生型グリセロールキナーゼより熱安定性を向上させた改変型グリセロールキナーゼに関し、特に、臨床検査薬として有用な改変型グリセロールキナーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
グリセロールキナーゼ(EC 2.7.1.30)は、マグネシウムとATPに依存したリン酸化反応によりグリセロールをグリセロール−3−リン酸に変える反応を触媒する酵素である。グリセロールキナーゼは、1937年に、Kalckarによって、肝臓内に発見(例えば、非特許文献1参照)されて以来、ラット肝、ハト肝、キャンディダ・ミコデルマ(Candida mycoderma)、セルロモナス フラビゲナ(Cellulomonas flavigena)、サーマス フラバス(Thermus flavus)などからの精製が報告され(例えば、非特許文献2〜5および特許文献1参照)、生物全般に広く存在することが知られている。また、ヒト、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サーマス フラバス(Thermus flavus)などからの遺伝子のクローニングが報告されている(例えば、非特許文献6〜9参照)。特に、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)において、該酵素は詳しく研究がなされており、1967年にHayashiらによって精製され(例えば、非特許文献10参照)、1988年にそのクローニングの報告がなされている(例えば、非特許文献11参照)。また、遺伝子調節の研究、アロステリック阻害剤による阻害の研究など、広い範囲においても既に研究されている。
【0003】
一方、グリセロールキナーゼは、産業分野への応用では、臨床検査薬用の原料酵素として利用されている。例えば、血中の中性脂肪の測定では、試料中の中性脂肪(トリグリセリド)をリパーゼで加水分解して生じたグリセロールをグリセロール−3−リン酸に変換する際にグリセロールキナーゼが利用されている。
【0004】
中性脂肪測定用検査薬も含めた現在の生化学検査用臨床検査薬は、溶液状態の検査薬が主流となっており、原料の酵素に必要な特性として、検査薬溶液中での高い安定性が求められるようになっている。検査薬溶液中での酵素の安定性に寄与する特性としては、防腐剤に対する耐性が高いことが特に重要である。なぜなら、一般的に液状検査薬は長期の保存を可能にするため防腐剤を添加されており、この防腐剤が酵素を不安定化することがあるからである。
【0005】
これまで高い熱安定性を持つ酵素が液状診断薬中で高い安定性を示すと考えられてきており、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)やサーマス・フラバス(Thermus flavus)など好熱菌由来のグリセロールキナーゼが液状診断薬用のグリセロールキナーゼとして汎用されていた。しかし、これらのグリセロールキナーゼは防腐剤に対する耐性が比較的低いという問題を有していた。
【0006】
本発明者らは、セルロモナス属の細菌から、防腐剤に対する耐性の高いグリセロールキナーゼをコードする遺伝子を単離し、遺伝子組換え技術による該酵素の製造方法を確立し、該酵素の中性脂肪及びグリセロールの定量への利用を可能とすることに成功しているが、その反面、該グリセロールキナーゼは、上記好熱性細菌由来のグリセロールキナーゼと比べて熱安定性が低いという弱点を有していた(特許文献2参照)。そこで、別のアプローチとして好熱性細菌由来のグリセロールキナーゼをタンパク質工学的に改変し、高い熱安定性と防腐剤耐性を両立させる試みも行ってきた(特許文献3参照)。しかしながら、近年の臨床検査薬の海外普及などによる要求スペックの変化により、グリセロールキナーゼも一層の耐熱性、防腐剤耐性が要求されるようになり、更なる改良が望まれていた。
【特許文献1】特開昭56−121484号公報
【特許文献2】特開2004−121234号公報
【特許文献3】特開2007−195453号公報
【非特許文献1】H.Kalckar著,「Enzymologia」,1937年,第2巻,p47
【非特許文献2】C.Bublitzら著,「J.Biol.Chem.」,1954年,第211巻,p951
【非特許文献3】E.P.Kennedy著,「Methods Enzymol.」,1962年,第5巻,p476
【非特許文献4】H.U.Bergmeyerら著,「Biochem.」,1961年,第333号,p471
【非特許文献5】H.S.Huangら著,「J.Ferment.Bioeng.」,1997年,第83号,p328
【非特許文献6】C.A.Sargentら著,「Hum.Mol.Genet.」,1994年,第3巻,p1317
【非特許文献7】C.Holmbergら著,「J.Gen.Microbiol.」,1990年,第136巻,p2367
【非特許文献8】P.Pavlikら著,「Curr.Genet.」,1993年,第24巻,p21
【非特許文献9】H.S.Huangら著,「Biochim.Biophys.Acta」,1998年,第1382巻,p186
【非特許文献10】S.Hayashiら著,「J.Biol.Chem.」1967年,第242巻,p1030
【非特許文献11】D.W.Pettigrewら著,「J.Biol.Chem.」1988年,第263巻,p135
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、防腐剤に対する高い耐性に加えて高い熱安定性を有するグリセロールキナーゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、防腐剤耐性に優れた野生型グリセロールキナーゼをタンパク質工学的に改変することにより、高い熱安定性および防腐剤耐性を有する改変型グリセロールキナーゼを得ることに成功し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明によれば、セルロモナス属の細菌由来の野生型グリセロールキナーゼより熱安定性を向上させた改変型グリセロールキナーゼであって、配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列の50位、および/または137位と138位、および/または163位と164位、および/または274位、および/または386位と388位においてアミノ酸置換が導入されたアミノ酸配列を有することを特徴とする改変型グリセロールキナーゼが提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施態様によれば、アミノ酸置換は、Q50E、(G137A+P138S)、(N163T+T164I)、L274M、(T386I+F388Y)、(Q50E+L274M)、(Q50E+T386I+F388Y)、および(Q50E+L274M+T386I+F388Y)からなる群から選択される。
【0011】
本発明によれば、上記のいずれかに記載の改変型グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクター、該ベクターで形質転換された形質転換体、該形質転換体を培養することを特徴とする改変型グリセロールキナーゼの製造方法も提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記のいずれかに記載の改変型グリセロールキナーゼを使用する中性脂肪アッセイキット、中性脂肪センサー、または中性脂肪測定方法も提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の改変型グリセロールキナーゼは、セルロモナス属の細菌に由来し、しかも、特定の位置にアミノ酸置換が導入されているため、高い防腐剤耐性に加えて高い熱安定性を示す。従って、本発明の改変型グリセロールキナーゼは、溶液状態で長期間安定に保存することができ、保存性に優れた臨床検査薬として有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の改変型グリセロールキナーゼは、高い防腐剤耐性を有するが熱安定性に劣るセルロモナス属の細菌由来の野生型グリセロールキナーゼをタンパク質工学的に改変することによって安定性を向上させたものであり、具体的には、配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列の特定の位置においてアミノ酸置換を導入することによって熱安定性を向上させたものである。
【0015】
本発明の改変型グリセロールキナーゼにおいて、アミノ酸置換を導入する位置は、配列表の配列番号で示すアミノ酸配列の50位、および/または137位と138位、および/または163位と164位、および/または274位、および/または386位と388位である。導入するアミノ酸置換は、アミノ酸置換導入後のグリセロールキナーゼの熱安定性が野生型グリセロールキナーゼの熱安定性より向上するようなものを実験により適宜決定すればよく、例えばQ50E、(G137A+P138S)、(N163T+T164I)、L274M、(T386I+F388Y)、(Q50E+L274M)、(Q50E+T386I+F388Y)、および(Q50E+L274M+T386I+F388Y)からなる群から選択することができる。
【0016】
本発明における熱安定性を向上させた状態とは、例えば改変型タンパク質(a)および改変前のタンパク質(b)を各々適当な緩衝液中に溶解して、適用な温度で一定期間保存した後の残存活性率が(a)>(b)となるような状態をいう。
ここで、適当な温度で一定期間保存する条件とは、例えば、「60℃、15分間保存」などの加速(苛酷)試験の条件が選択されるが、時間が許せば、臨床検査薬が実際に長期保存される温度として汎用される2℃〜10℃の冷蔵条件下で6ヶ月以上の保存を選択しても良い。
また、適当な緩衝液とは、グリセロールキナーゼが作用するpH範囲で十分な緩衝能力を持つようにその種類と濃度を選べば特に限定されないが、例えば、50mMトリス緩衝液(pH8.0)、または、50mMのPIPES−NaOH緩衝液(pH7.0)などが選択される。診断薬用途を想定して、緩衝液は、界面活性剤、塩類、キレート剤、防腐剤などをさらに含んでいてもよい。
保存におけるグリセロールキナーゼの濃度は、特に限定されないが、通常の診断試薬に使用される濃度を想定した0.2〜30U/mlが好ましく選択される。さらに好ましくは1〜10U/mlである。
【0017】
本発明の改変型グリセロールキナーゼの製造法は、特に限定されないが、以下に示すような手順で製造することが可能である。
まず、特開2004−121234号公報の教示に従って、セルロモナス・エスピーJCM2471株(理化学研究所 生物基盤研究部 微生物系統保存施設より購入可能)から染色体DNAを分離して、公知のグリセロールキナーゼの塩基配列を基に設計したPCR用プライマーを使用したPCRによりグリセロールキナーゼ遺伝子を増幅させ、配列表の配列番号1で示す塩基配列(配列番号2で示すアミノ酸配列をコードする遺伝子の配列)を得る。
【0018】
次に、この塩基配列中の塩基のうち、配列番号2で示すアミノ酸配列の上述の特定の位置のアミノ酸に相当する塩基を改変することにより、配列番号2で示すアミノ酸配列の特定の位置にアミノ酸置換が導入されたアミノ酸配列をコードする遺伝子を作製する。この塩基の改変は、例えば、市販のキット(Transformer Mutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製, Quick Change Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)やPCR法を利用することに容易に行うことができる。
【0019】
次に、このようにして作製された遺伝子を、好適なプラスミドと連結して組換えベクターを作製し、このベクターで宿主微生物を形質転換させて、改変型グリセロールキナーゼを生産する形質転換体を得る。
この際のプラスミドとしては、例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とする場合には、pBluescript、pUC18などが使用できる。宿主微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリーDH5、エシェリヒア・コリーW3110、エシェリヒア・コリーC600などが利用できるが、宿主由来のグリセロールキナーゼの混入を避けるためには、特開2007−195453号公報で開示されているグリセロールキナーゼ欠損株のエシェリヒア・コリーKM1株などを用いることが好ましい。宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば、宿主微生物がエシェリヒア・コリーに属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行う方法などを採用することができる。代わりに、エレクトロポレーション法や市販のコンピテントセル(例えばコンピテントハイJM109;東洋紡績製)を用いても良い。
【0020】
こうして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量の改変型グリセロールキナーゼを安定して生産し得る。形質転換体である宿主微生物の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は液体培養を行うが、工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが広く使用される。炭素源としては、資化可能な炭素化合物であれば特に限定はなく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。窒素源としては、利用可能な窒素化合物であれば特定に限定はなく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ分解物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。培養温度は、菌が発育し、改変型グリセロールキナーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリーの場合、好ましくは20〜42℃程度である。培養時間は、条件によって多少異なるが、改変型グリセロールキナーゼが最高収量に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地pHは、菌が発育し、改変型タンパク質を生産する範囲で適宜変更しうるが、特に好ましくはpH6.0〜9.0程度である。
【0021】
培養終了後、培養物中の改変型グリセロールキナーゼを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取して精製処理に供することもできるが、一般には常法に従って、改変型タンパク質が培養液中に存在する場合は、濾過、遠心分離などにより、改変型グリセロールキナーゼ含有溶液を微生物菌体から分離した後に精製処理に供すればよい。改変型タンパク質が菌体内に存在する場合は、得られた培養物から濾過または遠心分離などの手法により菌体を採取し、次いでこの菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また必要に応じてEDTA等のキレート剤及び/または界面活性剤を添加して改変型グリセロールキナーゼを可溶化し、水溶液として分離採取すればよい。
【0022】
このようにして得られた改変型グリセロールキナーゼ含有溶液から本発明の改変型グリセロールキナーゼを精製するには、溶液を例えば、減圧濃縮、膜濃縮、さらに、硫酸アンモニム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、或いは親水性有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトンなど)による分別沈殿法に供して溶液中の改変型グリセロールキナーゼを沈殿せしめればよい。また、加温処理や等電点処理、吸着剤或いはゲル濾過剤などによるゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーも、有効な精製手段である。
【0023】
以上のようにして精製された本発明の改変型グリセロールキナーゼは、従来公知の中性脂肪アッセイキット、中性脂肪センサー、または中性脂肪測定方法において従来のグリセロールキナーゼの代替として使用することができ、これらのキットやセンサーの保存性を高めることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。なお、実施例で使用した試薬のうち、ATPはロシュ・ダイアグノスティックス社より購入したものを、牛血清アルブミンはシグマアルドリッチ社より購入したものを、4アミノアンチピリンは第一化学薬品社より購入したものを、グリセロール−3−リン酸酸化酵素(コード番号G3O−301)、ペルオキシダーゼ(コード番号PEO−301)は東洋紡績製のものを使用し、その他の試薬はナカライテスク社より購入したものを使用した。
【0025】
実施例中、グリセロールキナーゼの活性は、以下のように測定した。グリセロールキナーゼの活性は、グリセロールを基質とし、グリセロール−3−リン酸の生成量によって測定した。0.23mM 4アミノアンチピリン、1.5mMフェノ−ル、2mM MgCl、0.15mMEDTA・2Na、0.2%牛血清アルブミン、4mM ATP、7U/mlグリセロール−3−リン酸酸化酵素、5U/mlペルオキシダーゼを含む100mM HEPES緩衝液(pH7.9)を調製し、これを測定のための原液とした。この測定原液3mlにグリセロールキナーゼ酵素溶液0.1mlを加えて混和した。37℃で約5分間予備加温した後、これに33mMグリセリン水溶液0.45mlを加え、混和後、37℃に制御された分光光度計で500nmの吸光度を3〜4分間記録し、その初期直線部分から1分間当たりの吸光度変化を求めた(ΔODtest)。盲検は酵素溶液の代わりに酵素希釈液(0.2%牛血清アルブミンを含む20mMリン酸カリウム緩衝液,pH7.5)0.1mlを使用し、上記同様に操作を行って1分間当りの吸光度変化を求めた(ΔODblank)。得られた吸光度変化量より、下記計算式に基づき、グリセロールキナーゼの酵素活性を算出した。なお、上記条件で1分間に1マイクロモルのグリセロールをリン酸化する酵素量を1単位(U)とした。
計算式:
活性値(U/ml)={(ΔODtest−ΔODblank)×3.55(ml)×希釈倍率}/{13.3×1/2×1.0(cm)×0.1(ml)}
3.55(ml):反応混液液量
13.3:キノン色素を上記測定条件下で測定した時のミリモル吸光係数
1/2:酵素反応で生成した過酸化水素の1分子から形成するキノン色素が1/2分子であることによる係数
1.0cm:セルの光路長
0.1(ml):酵素サンプル液量
【0026】
実施例1:グリセロールキナーゼの発現プラスミドpCGK14の構築
特開2004−121234号公報に開示されている、セルロモナス・エスピーJCM2471株由来のグリセロールキナーゼをコードするDNA配列から推定されるアミノ酸配列と同じアミノ酸配列をコードするDNA配列であって、コドン使用が大腸菌での発現に最適となるように修正され、その5’末端側と3’側に、各々制限酵素NcoIとNotIの認識配列が付与されたDNAを人工的に合成した。この合成DNAをNcoIとNotIで切断して得たDNA断片と、プラスミドpSE380(インビトロゲン社製)をNcoIとNotIで切断したものとを、Ligation Highキットにて16℃,1時間反応させて連結して組換えプラスミドpCGK14を得、この組換えベクターで、エシェリヒア・コリーJM109株(E.coli JM109)のコンピテントセル(東洋紡績製)を形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃,終夜培養して形質転換体を取得した。
【0027】
次いで、取得した形質転換体を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地(5ml/30ml試験管仕込み)に植菌し、37℃で終夜振とう培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を回収し、MagExtractor−Plasmid−キット(東洋紡績製)を用いてpCGK14を精製した。組換えプラスミドpCGK14のグリセロールキナーゼ遺伝子をコードするオープンリーディングフレームに該当する塩基配列を配列表の配列番号1に、また該塩基配列から推定されるグリセロールキナーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。
【0028】
実施例2:改変型グリセロールキナーゼをコードする組換え発現プラスミドの構築(1)
(a)上記グリセロールキナーゼ遺伝子を含む組換えプラスミドpCGK14と、配列表の配列番号3記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って変異処理操作を行い、更に塩基配列を決定して、配列番号2記載のアミノ酸配列の50番目のグルタミンがグルタミン酸に置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M1)を取得した。
(b)また、pCGK14と、配列表の配列番号4記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、上記と同様の操作により、配列番号2記載のアミノ酸配列の137番目のグリシンと138番目のプロリンがそれぞれアラニンとセリンに置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M2)を取得した。
(c)また、pCGK14と、配列表の配列番号5記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、上記と同様の操作により、配列番号2記載のアミノ酸配列の163番目のアスパラギンと164番目のスレオニンがそれぞれスレオニンとイソロイシンに置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M3)を取得した。
(d)また、pCGK14と、配列表の配列番号6記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、上記と同様の操作により、配列番号2記載のアミノ酸配列の274番目のロイシンがメチオニンに置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M4)を取得した。
(e)また、pCGK14と、配列表の配列番号7記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、上記と同様の操作により、配列番号2記載のアミノ酸配列の386番目のスレオニンと388番目のフェニルアラニンがそれぞれイソロイシンとチロシンに置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M5)を取得した。
【0029】
実施例3:改変型グリセロールキナーゼの製造(1)
pCGK14M1、pCGK14M2、pCGK14M3、pCGK14M4、pCGK14M5の各組換えプラスミドで、グリセロールキナーゼ欠損株であるエシェリヒア・コリーKM1株(特開平11−9279号公報参照)を、ジーン・パルサーを用いたエレクトロポレーション法により形質転換し、形質転換体をそれぞれ取得した。
【0030】
5mlのTerrific培地を20ml容坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後、別途無菌濾過したアンピシリンとイソプロピル−β−D−チオガラクトシドをそれぞれ終濃度が100μl/mlと1mMになるように添加した。この培地に100μl/mlのアンピシリンを含むLB培地で予め37℃で12時間培養した各形質転換体の培養液を50μlを接種し、37℃で24時間振とう培養を行った。培養終了後、菌体を遠心分離により集菌し、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁した後、超音波にて破砕し、更に遠心分離を行い、改変型グリセロールキナーゼCGKM1、CGKM2、CGKM3、CGKM4、CGKM5を含む上清を粗酵素液として得た。
【0031】
比較例1:野生型グリセロールキナーゼの製造
比較例として、pCGK14によりエシェリヒア・コリーKM1株を形質転換し、実施例3の方法と同様にして形質転換体を培養し、培養液からグリセロールキナーゼを抽出して野生型グリセロールキナーゼを取得した。
【0032】
実施例4:グリセロールキナーゼ改変体の評価(1)
実施例3で取得した改変型グリセロールキナーゼ(CGKM1、CGKM2、CGKM3、CGKM4、CGKM5)および比較例1で取得した野生型グリセロールキナーゼをそれぞれ、40℃〜70℃の範囲で各15分間熱処理した後の残存酵素活性率(%)を測定し、各温度処理による残存活性率のプロットから残存活性率が50%になる温度(Tm(℃))を算出した。その結果を以下の表1に示す。表1から判るように、実施例3で取得した改変型グリセロールキナーゼは、改変前の野生型グリセロールキナーゼと比べて熱安定性が向上していることが確認された。
【0033】

【0034】
実施例5:改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミドの構築(2)
(a)実施例2で取得した改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミドpCGK14M1と、配列表の配列番号6記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、実施例2と同様の操作により、配列番号2記載のアミノ酸配列の50番目のグルタミンと274番目のロイシンがそれぞれグルタミン酸とメチオニンに置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M6)を取得した。
(b)また、pCGK14M1と、配列表の配列番号7記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、実施例2と同様の操作により、配列番号2記載のアミノ酸配列の50番目のグルタミン、386番目のスレオニンおよび388番目のフェニルアラニンがそれぞれグルタミン酸、イソロイシンおよびチロシンに置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M7)を取得した。
(c)また、上記(b)で取得したpCGK14M7と、配列表の配列番号6記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、実施例2と同様の操作により、配列番号2記載のアミノ酸配列の50番目のグルタミン、274番目のロイシン、386番目のスレオニンおよび388番目のフェニルアラニンがそれぞれグルタミン酸、メチオニン、イソロイシンおよびチロシンに置換された改変型グリセロールキナーゼをコードする組換えプラスミド(pCGK14M8)を取得した。
【0035】
実施例6:改変型グリセロールキナーゼの製造(2)
pCGK14M6、pCGK14M7、pCGK14M8の各組換えプラスミドで、エシェリヒア・コリーKM1株(特開平11−9279号公報参照)を実施例3と同様の手順で形質転換して、形質転換体を取得し、実施例3と同様の手順で培養、抽出することにより、各改変型グリセロールキナーゼCGKM6、CGKM7、CGKM8の粗酵素標品を取得した。
【0036】
実施例7:改変型グリセロールキナーゼの評価(2)
実施例6で取得した改変型グリセロールキナーゼ(CGKM6、CGKM7、CGKM8)をそれぞれ、40℃〜70℃の範囲で各15分間熱処理した後の残存酵素活性率(%)を測定し、各温度処理による残存活性率のプロットから残存活性率が50%になる温度(Tm(℃))を算出した。その結果を、実施例3で取得した改変型グリセロールキナーゼCGKM1、CGKM4、CGKM5のTmおよび比較例1で取得した野生型グリセロールキナーゼのTmのデータと共に表2に示す。表2から判るように、実施例6で取得した改変型グリセロールキナーゼCGKM6、CGKM7、CGKM8は、改変前の野生型グリセロールキナーゼおよび実施例3で取得した改変型グリセロールキナーゼCGKM1、CGKM4、CGKM5と比べて熱安定性が向上していることが確認された。
【0037】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のグリセロールキナーゼは、高い防腐剤耐性に加えて高い熱安定性を有するため、グリセロールキナーゼの液体状態での長期安定保存が要求される中性脂肪アッセイキットや中性脂肪センサーなどの臨床検査薬の分野において貢献するところ大である。
【配列表フリーテキスト】
【0039】
配列番号1は、実施例1で作製したプラスミドpCGK14に含まれるグリセロールキナーゼ遺伝子の配列である。
配列番号2は、配列番号1の遺伝子によってコードされるグリセロールキナーゼのアミノ酸配列である。
配列番号3〜7は、実施例2または5で変異処理のために使用した合成オリゴヌクレオチドの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロモナス属の細菌由来の野生型グリセロールキナーゼより熱安定性を向上させた改変型グリセロールキナーゼであって、配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列の50位、および/または137位と138位、および/または163位と164位、および/または274位、および/または386位と388位においてアミノ酸置換が導入されたアミノ酸配列を有することを特徴とする改変型グリセロールキナーゼ。
【請求項2】
アミノ酸置換が、Q50E、(G137A+P138S)、(N163T+T164I)、L274M、(T386I+F388Y)、(Q50E+L274M)、(Q50E+T386I+F388Y)、および(Q50E+L274M+T386I+F388Y)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の改変型グリセロールキナーゼ。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の改変型グリセロールキナーゼをコードすることを特徴とする遺伝子。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子を含むことを特徴とする組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターで形質転換されたことを特徴とする形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養することを特徴とする改変型グリセロールキナーゼの製造方法。
【請求項7】
グリセロールキナーゼを使用する中性脂肪アッセイキットであって、グリセロールキナーゼとして請求項1または2に記載の改変型グリセロールキナーゼを使用することを特徴とする中性脂肪アッセイキット。
【請求項8】
グリセロールキナーゼを使用する中性脂肪センサーであって、グリセロールキナーゼとして請求項1または2に記載の改変型グリセロールキナーゼを使用することを特徴とする中性脂肪センサー。
【請求項9】
グリセロールキナーゼを使用する中性脂肪測定方法であって、グリセロールキナーゼとして請求項1または2に記載の改変型グリセロールキナーゼを使用することを特徴とする中性脂肪測定方法。

【公開番号】特開2010−88303(P2010−88303A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258226(P2008−258226)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月11日 社団法人日本生物工学会発行の「第60回 日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】