説明

熱封緘性接着剤および熱封緘性蓋材

【課題】熱封緘温度の熱封緘性接着強度への影響が小さい熱封緘性接着剤およびそれを用いた熱封緘性蓋材を提供する。
【解決手段】基材16と、その表面に設けられたデザイン層16と、その裏面に設けられた熱封緘性樹脂層18とからなる熱封緘性蓋材12。熱封緘性樹脂層18は、カルボン酸変性プロピレン(共)重合体が溶剤に溶解または分散された液状組成物に、シリカを分散させた熱封緘性接着剤を基材16に塗工し、乾燥して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱封緘性接着剤および熱封緘性蓋材に関する。詳しくは、医薬品等を包装するPTP(Press Through Pack)包装材に用いられる熱封緘性接着剤および熱封緘性蓋材に関する。
【背景技術】
【0002】
PTP包装体は、内容物を格納するための容器の部分となるポケットを成形したプラスチックシートの加工成形体(プラスチック容器または包装材)と、その容器口部を密封するための蓋の部分となる、金属箔、特にアルミニウム箔の基材の一面に熱封緘性樹脂層を設けた熱封緘性蓋材との二つの部分からなる。
【0003】
加工成形体を形成するプラスチックシートとしては、加工性に優れているため古くから塩化ビニル樹脂シートが使用されている。しかし、近年、防湿性に優れかつ安価であるところから、プロピレン樹脂シートが使用されるようになってきている。一方、蓋材の基材としては、金属箔、特にアルミニウム箔が通常採用されている。なお、破裂を容易にするための加工を施したプラスチックフィルムも提案されているが、未だ実用されるに至っていない。
【0004】
前記蓋材は、通常、金属箔、特にアルミニウム箔の基材の片面又は両面に文字やデザインを印刷し、更にその上に一方の面(外側になる面)には、必要により、無色または着色した透明な耐熱性被覆剤を塗工するか、または、プラスチックフィルムを積層することにより熱封緘時に文字やデザインなどの印刷層を保護するための耐熱性樹脂層を設ける。反対の面(接着される面)には加工成形体に加熱圧着によって熱封緘させるために、文字やデザインあるいは全面着色の印刷層を印刷し、更にその上に熱封緘性接着剤を塗布して熱封緘性樹脂層を形成させることにより製造されている。
【0005】
包装作業における内容物の充填操作は、前記容器となるポケットを設けた塩化ビニル樹脂シートやプロピレン樹脂シートの加工成形体に内容物を格納した後、その開口面側に前記のアルミニウム箔を基材とする蓋材をその熱封緘性樹脂層が接触するように積層し、蓋材の耐熱封緘性樹脂層を設けた面からヒートシールバーあるいは熱封緘ドラムにより加熱下に圧着することにより加工成形体の非ポケット部分に熱融着させることによって遂行される。
【0006】
加熱加圧条件は蓋材の基材の厚みや圧着時間等の条件によって異なるが、熱封緘温度は120〜280℃の間で行われており、熱封緘圧力は0.10〜0.29Paに設定されていることが多い。
【0007】
前記蓋材の熱封緘性樹脂層は、通常、熱可塑性樹脂からなり、加工成形体の材質により、それぞれ塩化ビニル(共)重合体、プロピレン(共)重合体等の樹脂を主成分とする樹脂組成物が使用されているが、プロピレン樹脂製容器に対してはカルボン酸変性プロピレン(共)重合体が使用されてきている(特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−12651号公報
【特許文献2】特開2007−2116号公報
【特許文献3】特開2009−126924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のようにPTP包装体は蓋材の熱封緘性樹脂層を加工成形体の非ポケット部分にヒートシールバーあるいは熱封緘ドラムにより加熱圧着することにより形成されるのであるが、熱封緘強度がある熱封緘温度以上で一定値にならないで低下してくるという問題があった。
本発明は、ある熱封緘温度以上で一定の熱封緘強度が得られる安定な熱封緘性接着剤およびそれを用いた熱封緘性蓋材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱封緘性接着剤は、カルボン酸変性プロピレン(共)重合体が溶剤に溶解または分散された液状組成物に、シリカを分散させたことを特徴としている。
本発明の熱封緘性蓋材は、本発明の熱封緘性接着剤をアルミニウム箔基材に塗工し、乾燥させて得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱封緘性接着剤は、カルボン酸変性プロピレン(共)重合体が溶剤に溶解または分散された液状組成物に、シリカを分散させているため、熱封緘性接着強度が高い。比較的広い熱封緘温度で好ましい熱封緘性接着強度が得られる。
【0012】
本発明の熱封緘性蓋材は、本発明の熱封緘性接着剤を用いているため、蓋材と加工成形体とが接着したPTP包装体を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1aは本発明の熱封緘性蓋材を用いたPTP包装体を示す側面断面図であり、図1b、cは、それぞれ図1aの加工成形体および熱封緘性蓋材の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1aのPTP包装体10は、プラスチックシートからなる加工成形体11と、蓋材(熱封緘性蓋材)12とからなる。符号Tがこの包装体10に収容された錠剤である。
加工成形体11は、図1bに示すように、従来公知のものであり、複数のポケット11aが設けられている。
この加工成形体11のプラスチックシートとしては、塩化ビニル樹脂製シートおよびプロピレン樹脂製シートが主として使用される。
【0015】
蓋材12は、図1cに示すように、基材16と、その表面に設けられたデザイン層17と、その裏面に設けられた熱封緘性樹脂層18とからなる。基材16としては、金属箔、特にアルミニウム箔が用いられる。そのため、PTP包装体として用いたとき、容易に破裂させることができる。デザイン層17は、基材16の表面に設けられる文字やデザインの印刷層19と、その上に設けられる耐熱性樹脂層20とからなる。また印刷層19を設けず直接耐熱性樹脂層20を設けてもよい。
【0016】
熱封緘性樹脂層18は、熱封緘性接着剤を基材16の裏面に塗工し、乾燥して形成される。また、基材16と熱封緘性樹脂層18との間に文字やデザイン等の印刷層を設けてもよい。
熱封緘性接着剤は、カルボン酸変性プロピレン(共)重合体およびそれを溶解あるいは分散する溶剤からなる液状組成物と、その液状組成物に分散されたシリカとからなる。
【0017】
カルボン酸変性プロピレン(共)重合体として、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等
の不飽和カルボン酸によって変性されたプロピレン(共)重合体が挙げられる。
【0018】
カルボン酸変性プロピレン(共)重合体を溶解または分散させるための溶剤は、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、N−ヘキサン、ベンジン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等のエステル類等、またそれらの混合溶剤を使用することができる。
【0019】
シリカ(二酸化ケイ素)は、天然シリカ、合成シリカが挙げられる。また、合成シリカも湿式法及び乾式法のどちらで製造されたものでもよい。いずれのシリカも熱封緘性強度に対する効果に大きな差異はないが、塗工面の透明性が求められる場合には、乾式法による合成シリカの使用が適当である。その平均粒子径としては、0.001μm〜15μmが好ましく、特に0.001μm〜5μmが好ましい。シリカへの表面処理の有無は特に影響はなく、無機物処理および有機物処理のシリカも使用できる。比表面積は、100〜700m2/gが好ましく、吸油量は10〜500ml/100gが好ましく、さらに好ましいのは100〜400ml/100gである。
このようなシリカの添加量は、酸変性ポリオレフィンとシリカとからなる固形分に対する量が、5〜35重量%、特に10〜30重量%となるようにするのが好ましい。5重量%より小さいと、シリカの効果が小さい。35重量%より大きいと熱封緘性接着強度の低下が見られるようになる。
【0020】
また、熱封緘性接着剤には、必要に応じて、接着剤、塗料、印刷インキに通常使用されるブロッキング防止剤、スリップ剤、着色剤、酸化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を入れてもよい。
【0021】
この熱封緘性接着剤の製造方法は、溶剤およびカルボン酸変性プロピレン(共)重合体を混合し、室温または加温下で攪拌しながらカルボン酸変性プロピレン(共)重合体を溶解または分散させる。カルボン酸変性プロピレン(共)重合体溶解液または分散液に一定量のシリカを混合して、分散させて製造する。
【0022】
PTP包装体10の製造方法は、加工成形体11のポケット11aに内容物を格納した後、その開口面側の非ポケット部11bに蓋材12の熱封緘性樹脂層18(裏面)が接触するように積層し、蓋材の表面からヒートシールバーあるいは熱封緘ドラム等により加熱および加圧する。これにより加工成形体11の非ポケット部11bと蓋材12の裏面とが熱融着し、ポケット11aが密閉される。
このような加熱加圧条件は積層材料によって異なるが、熱封緘温度は80〜280度、好ましくは120〜250度の間で行われ、その熱封緘圧力は0.10〜0.54MPaの間で行われる。
【実施例】
【0023】
メチルシクロヘキサン(MCH)およびメチルエチルケトン(MEK)の混合溶剤に、表1の配合に基づいて酸変性ポリプロピレン(酸変性PP)を溶解または分散させて液状組成物を生成した。その後、その液状組成物に表1に基づいた添加剤を一定量分散させて、比較例1〜5および実施例1の熱封緘性接着剤を製造した。表1において、固形分とは、酸変性ポリプロピレンとそれぞれの添加剤の量を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
比較例1〜5および実施例1の使用原料詳細は以下の通りである。
・酸変性ポリプロピレン:トーヨータック PMA−LZ(東洋紡績株式会社)
・シリカ(湿式法、平均粒子径1.5μm、給油量250ml/100g):ファインシール T−32(株式会社トクヤマ)
・タルク:ミクロエース L−1(日本タルク株式会社)
・酸化チタン:TITON R−5N(堺化学工業株式会社)
・炭酸カルシウム;白艶華 CCR(白石工業株式会社)
・沈降性硫酸バリウム:#100(堺化学工業株式会社)
【0026】
これらの熱封緘性接着剤をバーコーターにてアルミニウム箔(20μm)の艶消面に塗布し、その後、オーブンにて180度で10秒乾燥し、熱封緘性蓋材を製造した。この熱封緘性蓋材をポリプロピレンシート(住友化学製NS3451)へ、0.29MPaの圧力で140度から20度毎に260度までの温度で各1秒間熱封緘した。それぞれを裁断機にて15mm幅に切断し、オートグラフにて、剥離角度180度、剥離速度200mm/分の条件で熱封緘性接着強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例1の熱封緘性接着剤は、熱封緘温度が140℃では何も添加していない比較例1より熱封緘性接着強度が小さくなったが、160〜260℃では比較例1より高い熱封緘性接着強度が得られた。実施例1の熱封緘性接着剤は、熱封緘温度が260℃であっても比較的高い熱封緘性接着強度が得られた。また160〜260℃の熱封緘温度の範囲では、熱封緘性接着強度への影響が小さいことがわかる。さらに、実施例1の熱封緘性接着剤によって形成される熱封緘性樹脂層は、成膜直後の表面粘着性が無かった。
一方、比較例2〜5の熱封緘性接着剤は、特に顕著な結果が得られなかった。また、いずれも熱封緘温度が260℃を超えると大きく低下した。また、比較例2〜5の熱封緘性接着剤は、添加物が上手く分散されず、直ぐ沈降した。
【0029】
次に、固形物中のシリカの量による影響を検討した。実施例2〜7の熱封緘性接着剤を表3の配合に基づいて製造した。そして、それらを140度から20度毎に220度で熱封緘した熱封緘性接着強度を測定した。その結果を表4に示す。ここで、固形分とは、酸変性ポリプロピレンとシリカの総量を示す。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
実施例3〜7の熱封緘性接着剤は、熱封緘温度が160〜240℃の範囲で高い熱封緘性接着強度を示した。つまり、固形分に対するシリカの添加量が5.0〜28.3重量%で広い熱封緘温度における高い接着強度を見せた。一方、固形分に対するシリカの添加量が3.8重量%を下回るといずれの熱封緘温度でも熱封緘性接着強度が比較例1と同程度となった。さらに、固形分に対するシリカの添加量が35重量%を超えると、いずれの温度による熱封緘でも、その熱封緘性接着強度が著しく低下した。そのため、ある一定量を超えるとシリカが樹脂の接着を阻害することがわかった。
【0033】
次に、シリカの粒径による影響を検討した。実施例2〜4の熱封緘性接着剤を表5の配合に基づいて製造した。そして、それらを140度から20度毎に220度で熱封緘した熱封緘性接着強度を測定した。その結果を表6に示す。
【0034】
【表5】

・シリカ1(乾式法、平均粒子径約7nm、疎水性):AEROSIL 300(日本アエロジル株式会社)
・シリカ2(乾式法、平均粒子径約16nm、疎水性):AEROSIL R972(日本アエロジル株式会社)
・シリカ3(湿式法、平均粒子径1.5μm、給油量250ml/100g):ファインシール T−32(株式会社トクヤマ)
・シリカ4(湿式法、平均粒子径2.0μm、給油量250ml/100g):ファインシール T−50(株式会社トクヤマ)
・シリカ5(湿式法、平均粒子径4.5μm、給油量290ml/100g):サイロスフェア C−1504(富士シリシア化学株式会社)
【0035】
【表6】

【0036】
実施例10〜14の熱封緘性接着剤を160〜260℃で熱封緘した場合、いずれも高い熱封緘性接着強度が得られた。そのため、粒径0.007μm〜4.5μmの範囲においては、粒径はあまり影響がないことがわかる。また、製法(乾式法または湿式法)による合成シリカの種類も影響がないことがわかった。
【符号の説明】
【0037】
T 錠剤
10 PTP包装材
11 加工成形体
11a ポケット
11b 非ポケット部
12 蓋材
16 基材
17 デザイン層
18 熱封緘性樹脂層
19 印刷層
20 耐熱性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸変性プロピレン(共)重合体が溶剤に溶解または分散された液状組成物に、シリカを分散させた熱封緘性接着剤。
【請求項2】
請求項1記載の接着剤をアルミニウム箔基材に塗工し、乾燥させて得られる熱封緘性蓋材。


【図1】
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【公開番号】特開2012−1576(P2012−1576A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135512(P2010−135512)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【特許番号】特許第4712902号(P4712902)
【特許公報発行日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000138989)株式会社リーダー (5)
【Fターム(参考)】