説明

熱式センサ及びそれを用いた測定装置

【課題】 被測定物が水性液体である場合において、センサ外面への気泡の付着が低減され、測定精度の向上が可能な熱式センサを提供する。
【解決手段】 発熱体及び感温体を含んでなる検知素子21aと、該検知素子21aを封止する樹脂モールド23と、検知素子21a及び水性被測定液体の間での熱伝達を行う熱伝達部材21cと、を備えた熱式センサ。熱伝達部材21cの一部は樹脂モールド23から露出して露出表面部を形成しており、該露出表面部及びその周囲に位置する樹脂モールド表面部分に酸化シリコン膜からなる親水性膜50が付されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液体の熱的性質を利用して当該液体の濃度その他の特性値についての値を測定するのに使用される熱式センサ及びそれを用いた測定装置に関するものである。
【0002】
本発明の熱式センサ及び測定装置は、例えば自動車の内燃エンジンなどから排出される排ガスを浄化するシステムにおいて窒素酸化物(NOx)の分解のために排ガス浄化触媒に噴霧される尿素水溶液の尿素濃度を測定するのに利用することができる。
【背景技術】
【0003】
自動車の内燃エンジンではガソリンや軽油などの化石燃料が燃焼される。これに伴って発生する排ガス中には、水や二酸化炭素などと共に、未燃焼の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)や、硫黄酸化物(SOx)や、窒素酸化物(NOx)等の環境汚染物質が含まれる。近年、特に環境保護及び生活環境の汚染防止のため、これら自動車の排ガスを浄化すべく各種の対策が講じられている。
【0004】
このような対策の1つとして、排ガス浄化触媒装置の使用が挙げられる。これは、排気系の途中に排ガス浄化用三元触媒を配置し、ここで、CO、HC、NOx等を酸化還元により分解して、無害化を図るものである。触媒装置でのNOxの分解を継続的に維持するために、排気系の触媒装置のすぐ上流側から触媒に対して尿素水溶液が噴霧される。この尿素水溶液は、NOx分解の効果を高めるためには特定の尿素濃度範囲にあることが必要とされ、特に尿素濃度32.5%が最適であるとされている。
【0005】
尿素水溶液は、自動車に搭載される尿素水溶液タンクに収容されるのであるが、経時的に濃度変化が生ずることがあり、また、タンク内において局所的に濃度分布の不均一が発生することもある。タンクからポンプにより供給管を介して噴霧ノズルへと供給される尿素水溶液は、一般にタンクの底部に近い出口から採取されるので、この領域のものが所定の尿素濃度であることが触媒装置の効率を高めるためには重要である。
【0006】
しかるに、従来は、尿素水溶液中の尿素濃度の直接的測定はなされていない。また、排気系において、触媒装置の上流側と下流側とにそれぞれNOxセンサーを配置し、これらセンサーで検知されるNOx濃度の差異に基づきNOxの分解が最適に行われたか否かを判別することがなされている。しかし、この手法は、実際にNOxを低減した効果を測定するものであるので、尿素水溶液噴霧の前にはもちろんのこと噴霧当初においても、液体が所定の尿素濃度の尿素水溶液であるか否かの識別を行うことはできない。また、このような方法で使用されるNOxセンサーは、所定の尿素濃度範囲内の尿素水溶液の噴射を実現するためには感度が十分とは云えなかった。
【0007】
ところで、特開平11−153561号公報(特許文献1)には、通電により発熱体を発熱させ、この発熱により感温体を加熱し、発熱体から感温体への熱伝達に対し被識別流体により熱的影響を与え、感温体の電気抵抗に対応する電気的出力に基づき、被識別流体の種類を判別する流体識別方法であって、発熱体ヘの通電を周期的に行う方法が開示されている。即ち、ここでは熱式センサが使用されている。
【0008】
しかしながら、この流体識別方法は、たとえば水と空気と油などの性状のかなり異なる物質に対して、代表値によって流体識別を行うことが可能であるが、上記の様な被測定液体が所定の尿素濃度の尿素水溶液であるか否かの識別に適用して正確で迅速な識別を行うことは困難である。
【0009】
また、熱式センサが利用される代表的な用途として、流体の質量流量測定が例示される。このような用途の熱式流量センサ及びそれを用いた流量計(流量測定装置)については、たとえば特開平11−153465号公報(特許文献2)、特開平11−153466号公報(特許文献3)、特開2002−202166号公報(特許文献4)、特開2003−279395号公報(特許文献5)及び特開2003−302271号公報(特許文献6)に記載がある。
【特許文献1】特開平11−153561号公報(特に、段落[0042]〜[0049])
【特許文献2】特開平11−153465号公報
【特許文献3】特開平11−153466号公報
【特許文献4】特開2002−202166号公報
【特許文献5】特開2003−279395号公報
【特許文献6】特開2003−302271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような熱式センサとくに上記特許文献1〜6に記載されているような傍熱型の熱式センサにおいては、被測定流体が液体である場合には、その中に溶存する空気等が温度上昇などにより気化して気泡となり、この気泡がセンサの外面に付着することがある。また、同様に被測定流体が液体である場合には、たとえば液体がタンク内に収容されていて該タンク内に液体の自由表面があると、該タンク内液体が揺動することで液面が波立って、該液面に接する空気などの気体が液体中に巻き込まれて液体中に気泡となって残留し、この気泡がセンサ外面に付着することもある。
【0011】
特に、上記自動車に搭載されるタンク中の尿素水溶液の場合には、自動車走行時に外力に基づく激しい揺動が繰り返されるので、上記センサ外面への気泡の付着は著しい。
【0012】
センサに気泡が付着すると、センサの発熱体から発せられる熱が熱伝達部材を介して液体に良好に伝達されなくなり、また液体から熱伝達部材を介して感温体に良好に熱伝達がなされなくなる。このように、センサと被測定液体との間の熱伝達が正常になされなくなると、被測定液体の濃度測定値に大きな誤差が発生して測定の信頼性が著しく低下するおそれがある。
【0013】
本発明は、以上のような現状に鑑みて、とくに被測定物が水性液体である場合において、センサ外面への気泡の付着が低減され、測定精度の向上が可能な熱式センサ及びそれを用いた測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、上記目的を達成するものとして、
感温体を含んでなる検知素子と、該検知素子を封止する樹脂モールドと、前記検知素子及び水性の被測定液体の間での熱伝達を行う熱伝達部材と、を備えた熱式センサであって、
前記熱伝達部材の一部は前記樹脂モールドから露出して露出表面部を形成しており、該露出表面部に親水性膜が付されていることを特徴とする熱式センサ、
が提供される。
【0015】
本発明の一態様においては、前記親水性膜は酸化シリコン膜である。本発明の一態様においては、前記熱伝達部材の露出表面部の周囲に位置する前記樹脂モールドの表面部分にも前記親水性膜が付されている。本発明の一態様においては、前記検知素子は発熱体をも含んでなる。
【0016】
更に、本発明によれば、上記目的を達成するものとして、以上のような熱式センサと、該熱式センサの出力に基づき前記被測定液体の特性値を算出する演算部とを含んでなることを特徴とする測定装置、が提供される。
【0017】
本発明の一態様においては、前記熱式センサの周囲に前記熱伝達部材の露出表面部の近傍を通る前記被測定液体のための流通路が形成されており、該流通路を形成する部材の前記熱伝達部材の露出表面部に面する表面の部分にも親水性膜が付されている。本発明の一態様においては、前記被測定液体は尿素水溶液であり、前記演算部は前記被測定液体の尿素濃度を算出するよう構成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検知素子を封止する樹脂モールドの表面から露出する熱伝達部材の露出表面部に親水性膜を付することで、該表面部の水性被測定液体に対する濡れ性を向上させることができ、かくして、水性被測定液体中の溶存空気等や該水性被測定液体とその自由表面を介して接している空気等の気体が水性被測定液体中に気泡化しても、その気泡が熱伝達部材の露出表面部に付着しにくくなり、このため検知素子と水性被測定液体との間での熱伝達が良好になされ、測定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は本発明による熱式センサ及びそれを用いた測定装置の一実施形態を示す分解斜視図であり、図2はその一部省略断面図であり、図3はそのタンクへの取り付け状態を示す図である。本実施形態は、被測定液体が尿素水溶液であり、その特性値としての尿素濃度が測定されるものである。なお、本実施形態の測定装置では検出された尿素濃度が所定範囲内のものであるか否かの識別(尿素濃度による尿素水溶液の識別または単に尿素濃度の識別ということもある)をも行っており、このため、以下の説明では尿素濃度測定または尿素濃度測定装置を尿素濃度識別または尿素濃度識別装置ということもある。
【0021】
図3に示されているように、たとえば自動車に搭載された排ガス浄化システムを構成するNOx分解用の尿素溶液タンク100の上部には開口部102が設けられており、該開口部に本発明による尿素濃度識別装置104が取り付けられている。タンク100には、尿素溶液が注入される入口配管106及び尿素溶液が取り出される出口配管108が設けられている。出口配管108は、タンク100の底部に近い高さ位置にてタンクに接続されており、尿素溶液供給ポンプ110を介して不図示の尿素溶液噴霧器に接続されている。排気系において排ガス浄化用触媒装置の直前に配置された上記尿素溶液噴霧器により触媒装置に対する尿素溶液の噴霧が行われる。
【0022】
尿素濃度識別装置は、濃度識別センサー部2と支持部4とを備えている。支持部4の一方の端部(下端部)に濃度識別センサー部2が取り付けられており、支持部4の他方の端部(上端部)にはタンク開口部102へ取り付けるための取り付け部4aが設けられている。
【0023】
濃度識別センサー部2は、発熱体及び感温体を含んでなる傍熱型濃度検知部21と尿素溶液の温度を測定する液温検知部22とを有する。傍熱型濃度検知部21と液温検知部22とは、上下方向に一定距離隔てて配置されている。図4に傍熱型濃度検知部21及び液温検知部22の部分を拡大して示し、図5にその断面図を示す。これら傍熱型濃度検知部21及び液温検知部22が、それぞれ本発明でいう熱式センサに該当する。
【0024】
図示されているように、これら傍熱型濃度検知部21と液温検知部22とは、樹脂モールド(例えばシリカ及び/またはカーボン含有エポキシ樹脂からなるもの)23によって一体化されている。図5に示されているように、傍熱型濃度検知部21は、発熱体及び感温体を含んでなる薄膜チップ21a、該薄膜チップと接合材21bにより接合された濃度検知部用熱伝達部材としての金属製フィン21c、及び薄膜チップの発熱体の電極及び感温体の電極とそれぞれボンディングワイヤー21dにより電気的に接続されている外部電極端子21eを有する。上記薄膜チップ21aが本発明でいう検知素子に該当する。即ち、傍熱型濃度検知部21において、検知素子が樹脂モールド23により封止されている。液温検知部22も、同様な構成を有しており、即ち液温検知部用熱伝達部材としての金属製フィン22c及び外部電極端子22eを有し、検知素子が樹脂モールド23により封止されている。
【0025】
図6に傍熱型濃度検知部21の薄膜チップ21aの分解斜視図を示す。薄膜チップ21aは、たとえばAlからなる基板21a1と、Ptからなる感温体21a2と、SiOからなる層間絶縁膜21a3と、TaSiOからなる発熱体21a4及びNiからなる発熱体電極21a5と、SiOからなる保護膜21a6と、Ti/Auからなる電極パッド21a7とを、順に適宜積層したものからなる。感温体21a2は、図示はされていないが蛇行パターン状に形成されている。尚、液温検知部22の薄膜チップ22aも同様な構造であるが、発熱体を作用させずに感温体22a2のみを作用させる。但し、液温検知部22としては、発熱体を設けないものを使用してもよい。
【0026】
図1及び図2に示されているように、濃度識別センサー部2は支持部4の下端部に取り付けられる基体2aを有しており、この基体の取り付けに際してはO−リング2bが介在せしめられる。基体2aの側面にはO−リング2cを介して上記傍熱型濃度検知部21及び液温検知部22の樹脂モールド23が取り付けられている。基体2aには、濃度検知部用フィン21c及び液温検知部用フィン22cを囲むようにカバー部材2dが付設されている。このカバー部材により、濃度検知部用フィン21c及び液温検知部用フィン22cを順次通って上下方向に延びた上下両端開放の尿素溶液流通路24が形成される。尚、カバー部材2dを基体2aに取り付けることで樹脂モールド23のフランジ部が基体2aの方へと押圧され、これにより樹脂モールド23が基体2aに対して固定されている。
【0027】
図4及び図5に示されているように、金属製フィン21c,22cの一部は樹脂モールド23から露出して露出表面部を形成しており、該露出表面部に親水性膜50が付されている。更に好ましくは、金属製フィン21c,22cの露出表面部の周囲に位置する樹脂モールド23の表面部分にも親水性膜50が付されている。即ち、親水性膜50は、金属製フィン21c,22cの露出表面部及びその周囲の樹脂モールド23の表面部分にわたって形成されている。なお、図1及び図2では、親水性膜50は図示を省略されている。
【0028】
親水性膜50は、例えば酸化シリコン膜である。該酸化シリコン膜50の厚さは、例えば0.01μm〜1μmである。酸化シリコン膜50は、金属製フィン21c,22c及び樹脂モールド23の双方との密着性が良好であり、膜強度も高い。また、酸化シリコン膜50の表面は、金属製フィン21c,22c及び樹脂モールド23のいずれの表面よりも親水性の程度が高い。親水性の程度は対水接触角で表すことができ、一般に対水接触角40°程度以下を親水性としている。酸化シリコン膜50の対水接触角は、40°以下とすることができ、酸化シリコン膜50は親水性を示す。本発明においては、親水性膜50の対水接触角は、好ましくは35°以下であり、より好ましくは30°以下であり、更に好ましくは25°以下であり、特に好ましくは20°以下である。
【0029】
酸化シリコン膜50は、例えばスパッタ、CVD(化学的気相成長法)または塗布剤塗布により形成することができる。このうち、スパッタ及びCVDは、実処理時間が長くかかり、大きな厚さの膜は形成が困難であり、膜形成のための装置構成が大型化する。これに対して塗布剤塗布は、処理が簡単であり、放置時間を別にすれば実処理時間は比較的短くて済むなど、実用上の利点が多い。塗布剤としては、有機珪素化合物を含み、塗布後の反応で酸化シリコン膜が形成されるものを使用することができる。このような塗布剤としては、ポリシラザン例えばパーヒドロポリシラザンと必要に応じて添加されるシランカップリング剤と有機溶媒と必要に応じて使用されるパラジウム触媒またはアミン触媒とを含むもの(例えば、クラリアントジャパン株式会社より入手可能なアクアミカ[登録商標])が例示される。塗布剤塗布及びそれに関連する前後処理の具体的な工程の一例を示せば、次の通りである:
(1)エタノール洗浄工程(塗布剤を塗布すべき表面部分の汚れ除去のため)
(2)キシレン洗浄工程(表面部分の脱脂のため)
(3)乾燥工程(表面部分の水分除去のため:100℃程度、1時間程度)
(4)塗布剤塗布工程(スプレー塗布、刷毛またはウエスによる塗布、フローコート、浸漬塗布などにより行う)
(5)加熱工程(溶媒除去及び酸化シリコン転化のため:125〜200℃、1時間程度)
(6)加熱加湿工程(酸化シリコン転化のため:50〜90℃、80〜95%、3時間程度)
(7)放冷工程
尚、洗浄工程としては、洗浄溶剤として上記のようなエタノールやキシレンを使用するものの他に、洗浄溶剤としてアセトン、イソプロピルアルコールまたはヘキサン等の有機溶剤を使用するものが例示される。
【0030】
上記加熱工程及び加熱加湿工程では、周囲大気中の水(自然に存在するもの又は加湿によるもの)と以下のような転化反応を生じて、酸化シリコン膜が形成される:
-(-SiHNH-)- + 2HO → -(-SiO-)- +NH+ 2H
加熱加湿工程を使用することで、加熱工程の加熱温度を低下させることができる。例えば、加熱加湿工程を使用しない場合には、加熱工程の加熱温度は250℃程度となる。
【0031】
形成される酸化シリコン膜の厚さは、上記のように例えば0.01μm〜1μmであるが、厚すぎると剥離が生じやすくなり、一方薄すぎると親水性の長期にわたる維持が困難になることがあるので、更に好ましくは0.05μm〜0.8μmである。
【0032】
図2に示されているように、支持部4の上端部には、後述する濃度検知回路を構成する回路基板6が配置されており、該回路基板を覆って蓋部材8が取り付けられている。支持部4には、濃度識別センサー部2の傍熱型濃度検知部21及び液温検知部22と回路基板6とを電気的に接続する配線10が収納されている。回路基板6には、後述する識別演算部を構成するマイクロコンピュータ(マイコン)が搭載されている。蓋部材8に設けられたコネクタ12を介して、回路基板6と外部との通信のための配線14が設けられている。識別演算部を、回路基板6上ではなしに、外部に配置することもでき、この場合には配線14を介して回路基板6と識別演算部とが接続される。
【0033】
以上の濃度識別センサー部2の基体2a及びカバー部材2d、支持部4及び蓋部材8は、いずれも耐腐食性材料たとえばステンレススチールからなる。
【0034】
図7に、本実施形態における濃度識別ための回路の構成を示す。上記の傍熱型濃度検知部21の感温体21a2、液温検知部22の感温体22a2、及び2つの抵抗体64,66によりブリッジ回路68が形成されている。このブリッジ回路68の出力が差動増幅器70に入力され、該差動増幅器の出力(濃度検知回路出力またはセンサー出力ともいう)が不図示のA/D変換器を介して識別演算部を構成するマイコン(マイクロコンピュータ)72に入力される。また、マイコン72には液温検知部22の感温体22a2から液温検知増幅器71を経て尿素水溶液の液温に対応する液温対応出力値が入力される。一方、マイコン72からは傍熱型濃度検知部21の発熱体21a4への通電経路に位置するスイッチ74に対してその開閉を制御するヒーター制御信号が出力される。
【0035】
以下、本実施形態における尿素濃度測定動作さらには濃度識別動作につき説明する。
【0036】
タンク100内に尿素水溶液USが収容されると、濃度識別センサー部2のカバー部材2dにより形成される尿素水溶液導入路24内にも尿素水溶液USが満たされる。尿素水溶液導入路24内を含めてタンク100内の尿素水溶液USは実質上流動しない。
【0037】
マイコン72からスイッチ74に対して出力されるヒーター制御信号により、該スイッチ74を所定時間(たとえば4秒間)閉じることで、発熱体21a4に対して所定高さ(たとえば10V)の単一パルス電圧Pを印加して該発熱体を発熱させる。この時の差動増幅器70の出力電圧(センサー出力)Qは、図8に示されるように、発熱体21a4への電圧印加中は次第に増加し、発熱体21a4への電圧印加終了後は次第に減少する。
【0038】
マイコン72では、図8に示されているように、発熱体21a4への電圧印加の開始前の所定時間(たとえば0.1秒間)センサー出力を所定回数(たとえば256回)サンプリングし、その平均値を得る演算を行って平均初期電圧値V1を得る。この平均初期電圧値V1は、感温体21a2の初期温度に対応する。また、図8に示されているように、発熱体21a4への電圧印加の停止前の所定時間(たとえば0.1秒間)センサー出力を所定回数(たとえば256回)サンプリングし、その平均値をとる演算を行って平均ピーク電圧値V2を得る。この平均ピーク電圧値V2は、感温体21a2のピーク温度に対応する。そして、平均初期電圧値V1と平均ピーク電圧値V2との差V0(=V2−V1)を濃度対応電圧値として得る。
【0039】
一方、このような方法で、尿素濃度既知の幾つかの尿素水溶液(参照尿素水溶液)について、温度と濃度対応電圧値V0との関係を示す検量線を予め得ておき、この検量線をマイコン72の記憶手段に記憶しておく。検量線の例を図9に示す。この例では、尿素濃度0%、20%及び40%の参照尿素水溶液について、検量線が作成されている。
【0040】
図9に示されているように、濃度対応電圧値V0は温度に依存するので、この検量線を用いて測定対象の尿素水溶液の濃度を測定する際には、液温検知部22の感温体22a2から液温検知増幅器71を介して入力される液温対応出力値Tをも用いる。液温対応出力値Tの一例を図10に示す。このような検量線をもマイコン72の記憶手段に記憶しておく。また、互いに異なる温度及び尿素濃度の尿素水溶液で得られた濃度対応電圧値V0と実際の濃度との関係の一例を図11に示す。
【0041】
図9の検量線において、測定対象の尿素水溶液について得た液温対応出力値Tから図10の検量線を用いて得た温度値tに対応する各検量線の濃度対応電圧値V0(0%;t),V0(20%;t),V0(40%;t)を得る。そして、測定対象の尿素水溶液について得た濃度対応電圧値V0(X;t)が尿素濃度何%に該当するかを、各検量線の濃度対応電圧値V0(0%;t),V0(20%;t),V0(40%;t)の少なくとも2つ(たとえばV0(20%;t),V0(40%;t))を用いた比例演算を行って、決定する。以上のようにして尿素濃度の測定ひいては識別を正確に且つ迅速に(瞬時に)行うことができる。尚、図9の検量線として温度の代わりに液温対応出力値Tを用いたものを採用することで、図10の検量線の記憶を省略することもできる。
【0042】
このようにして得られた濃度値を示す信号が不図示のD/A変換器を介して、図7に示される出力バッファ回路76へと出力され、ここからアナログ出力として不図示の自動車のエンジンの燃焼制御などを行うメインコンピュータ(ECU)へと出力される。図12に、この濃度対応のアナログ出力電圧値V0’と実際の濃度との関係の一例を示す。この関係における温度による差異は小さく、十分に実用可能であることが分かる。また、図13に、液温対応のアナログ出力電圧値T’と実際の温度との関係の一例を示す。この液温対応のアナログ出力電圧値T’も上記メインコンピュータ(ECU)へと出力される。一方、濃度値及び液温値を示す信号は、必要に応じてデジタル出力として取り出して、表示、警報その他の動作を行う機器へと入力することができる。
【0043】
更に、液温検知部22から入力される液温対応出力値Tに基づき、尿素水溶液が凍結する温度(−13℃程度)の近くまで温度低下したことが検知された場合に警告を発するようにすることができる。
【0044】
なお、以上の尿素水溶液の尿素濃度識別は、自然対流を利用して尿素水溶液の動粘度とセンサー出力とが相関関係を有するという原理を利用している。このような濃度識別の精度を高めるためには、濃度検知部用フィン21c及び液温検知部用フィン22cの周囲の尿素水溶液にできるだけ外的要因に基づく強制流動が生じにくくするのが好ましく、この点からカバー部材2dとくに上下方向の尿素水溶液流通路を形成するようにしたものの使用は好ましい。尚、カバー部材2dは、異物の接触を防止する保護部材としても機能する。
【0045】
図4に示されているように、カバー部材2dの濃度検知部用フィン21c及び液温検知部用フィン22cの露出表面部に面する表面の部分(即ち内面部分)にも親水性膜50’が付されている。該親水性膜50’は、上記親水性膜50と同様なものである。
【0046】
上記のように、排ガス浄化システムにおいて使用される尿素水溶液の尿素濃度は32.5%が最適とされており、たとえば25%〜40%または30%〜35%を適正範囲として定め、この適正範囲を外れた識別結果が得られた場合には、警告を発するようにすることができる。また、タンク内の尿素水溶液が減少して、尿素水溶液流通路24内に尿素水溶液がなくなった場合には、以上のような濃度識別の際に、上記尿素水溶液の濃度適正範囲の場合とは著しくかけ離れた濃度対応電圧値が得られ、この場合にも所要の警告を発するようにすることができる。
【0047】
以上のように、本実施形態においては、金属製フィン21c,22cの露出表面部及びその周囲の樹脂モールド23の表面部分に親水性膜50が付されており、更にカバー部材2dの内面部分にも親水性膜50’が付されているので、これらの表面部、表面部分及び内面部分の尿素水溶液に対する濡れ性を向上させることができる。従って、尿素水溶液中で気泡が発生しても、その気泡は親水性膜50,50’に付着しにくく、更に気泡が付着したとしても上記親水性膜50,50’の濡れ性に基づき気泡は素早く容易に脱落する。このため、検知素子と尿素水溶液との間での熱伝達は良好になされ、高い測定精度が得られる。
【0048】
図14は本発明による熱式センサの更に別の実施形態を示す斜視図であり、図15はその断面図である。これらの図において、上記図1〜図13に関して説明した実施形態のものと同様な機能を有する部材または部分には同一の符号が付されている。
【0049】
本実施形態では、濃度検知部用の熱伝達部材21c’及び液温検知部用の熱伝達部材22c’として、外部へと突出しておらず片面のみが樹脂モールド23から露出しているものが使用されている。上記実施形態と同様に、本実施形態においても熱伝達部材21c’,22c’の露出表面部及びその周囲の樹脂モールド23の表面部分に親水性膜50が付されている。尚、図14では親水性膜50は図示を省略されている。
【0050】
以上の実施形態では、被測定液体として尿素水溶液が用いられているが、本発明においては、その他の水性液体を使用してもよい。例えば、図16に示されているように、食塩水溶液や砂糖水溶液などを使用した場合においても、尿素水溶液の場合と同様に、食塩濃度や砂糖濃度が異なる場合には、それに対応して変化するセンサー出力値を得ることができる。但し、図16では、センサー出力値として、尿素水溶液の尿素濃度測定用の検量線を用いたものを示した。しかし、尿素水溶液の場合と同様にして食塩水溶液や砂糖水溶液につきそれぞれ予め作成された検量線を用いることで、正確な食塩濃度値や砂糖濃度値が得られることは当業者にとって自明であろう。
【0051】
また、以上の実施形態では被測定液体の測定される特性値として水溶液の濃度が採用されているが、本発明で測定される特性値としては、濃度以外に例えば上記動粘度、比重等を挙げることができる。これらの測定に際しては、それぞれの特性項目につき濃度の場合と同様にして予め作成された検量線を用いればよい。また、以上の実施形態では、熱式センサにより測定される特性値として温度(液温検知部22により測定される)も採用されている。
【0052】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0053】
[実施例]
図14〜図15に関し説明した実施形態の熱式センサを用いて図1〜図13に関し説明した実施形態のような尿素濃度測定装置(尿素濃度識別装置)を作製した。ここで、熱式センサの濃度検知部用熱伝達部材21c’及び液温検知部用熱伝達部材22c’は、ステンレススチール(SUS316L)からなる厚さ0.3mmのものであり、樹脂モールドから露出する露出面部の寸法が幅5mmで高さ3mmのものであった。また、樹脂モールド23はシリカ及びカーボン含有エポキシ樹脂からなるものであった。濃度検知部用熱伝達部材21c’及び液温検知部用熱伝達部材22c’、更にはそれらの周囲の樹脂モールド23の表面部分に形成された酸化シリコン膜50は、厚さが0.5μmで、対水接触角が28°であった。酸化シリコン膜50の形成は、アクアミカ[登録商標]NL150Aを用いて、(1)エタノール洗浄工程、(2)キシレン洗浄工程、(3)乾燥工程(100℃、1時間)、(4)アクアミカ塗布工程(スプレーによる塗布)、(5)加熱工程(175℃、1時間)、(6)加熱加湿工程(70℃、90%、3時間)及び(7)放冷工程により行った。
【0054】
尿素濃度測定装置の濃度識別センサー部を尿素濃度32.5%の尿素水溶液中に入れ、該尿素水溶液を35℃に加温した。加温開始から1時間後に、測定装置出力としての尿素濃度値を得た。以上のような測定サイクルを10回実行し、それぞれの測定で得られた尿素濃度値の真値(32.5%)からのずれ量の絶対値の10回測定についての平均値を得たところ、1%であった。測定精度は十分に高い。
【0055】
[比較例]
熱式センサに酸化シリコン膜50を付さないこと以外は実施例と同様にして、熱式センサ及び尿素濃度測定装置(尿素濃度識別装置)を作製した。
【0056】
実施例と同様な測定サイクルを5回繰り返し、それぞれの測定で得られた尿素濃度値の真値(32.5%)からのずれ量の絶対値の10測定についての平均値を得たところ、18%であった。測定精度は低い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による尿素濃度測定装置の一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1の尿素濃度測定装置の一部省略断面図である。
【図3】図1の尿素濃度測定装置のタンクへの取り付け状態を示す図である。
【図4】傍熱型濃度検知部及び液温検知部の部分の拡大図である。
【図5】図4の傍熱型濃度検知部の断面図である。
【図6】傍熱型濃度検知部の薄膜チップの分解斜視図である。
【図7】濃度識別ための回路の構成図である。
【図8】発熱体に印加される単一パルス電圧Pとセンサー出力Qとの関係を示す図である。
【図9】検量線の例を示す図である。
【図10】液温対応出力値Tの一例を示す図である。
【図11】濃度対応電圧値V0と実際の濃度との関係の一例を示す図である。
【図12】濃度対応のアナログ出力電圧値V0’と実際の濃度との関係の一例を示す図である。
【図13】液温対応のアナログ出力電圧値T’と実際温度との関係の一例を示す図である。
【図14】本発明による熱式センサの一実施形態を示す斜視図である。
【図15】図14の熱式センサの断面図である。
【図16】各種の被測定液体についての実際の濃度とセンサー表示濃度値との関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
2 濃度識別センサー部
2a 基体
2b,2c O−リング
2d カバー部材
21 傍熱型濃度検知部
21a 薄膜チップ
21b 接合材
21c,22c 金属製フィン
21c’,22c’ 熱伝達部材
21d ボンディングワイヤー
21e,22e 外部電極端子
21a1 基板
21a2,22a2 感温体
21a3 層間絶縁膜
21a4 発熱体
21a5 発熱体電極
21a6 保護膜
21a7 電極パッド
22 液温検知部
23 樹脂モールド
24 尿素水溶液流通路
4 支持部
4a 取り付け部
6 回路基板
8 蓋部材
10,14 配線
12 コネクタ
50,50’ 親水性膜
64,66 抵抗体
68 ブリッジ回路
70 差動増幅器
71 液温検知増幅器
72 マイコン(マイクロコンピュータ)
74 スイッチ
76 出力バッファ回路
100 尿素水溶液タンク
102 開口部
104 尿素濃度識別装置
106 入口配管
108 出口配管
110 尿素水溶液供給ポンプ
US 尿素水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温体を含んでなる検知素子と、該検知素子を封止する樹脂モールドと、前記検知素子及び水性の被測定液体の間での熱伝達を行う熱伝達部材と、を備えた熱式センサであって、
前記熱伝達部材の一部は前記樹脂モールドから露出して露出表面部を形成しており、該露出表面部に親水性膜が付されていることを特徴とする熱式センサ。
【請求項2】
前記親水性膜は酸化シリコン膜であることを特徴とする、請求項1に記載の熱式センサ。
【請求項3】
前記熱伝達部材の露出表面部の周囲に位置する前記樹脂モールドの表面部分にも前記親水性膜が付されていることを特徴とする、請求項1〜2の何れかに記載の熱式センサ。
【請求項4】
前記検知素子は発熱体をも含んでなることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の熱式センサ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の熱式センサと、該熱式センサの出力に基づき前記被測定液体の特性値を算出する演算部とを含んでなることを特徴とする測定装置。
【請求項6】
前記熱式センサの周囲に前記熱伝達部材の露出表面部の近傍を通る前記被測定液体のための流通路が形成されており、該流通路を形成する部材の前記熱伝達部材の露出表面部に面する表面の部分にも親水性膜が付されていることを特徴とする、請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記被測定液体は尿素水溶液であり、前記演算部は前記被測定液体の尿素濃度を算出するよう構成されていることを特徴とする、請求項5〜6の何れかに記載の測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2006−29956(P2006−29956A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208666(P2004−208666)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】