説明

熱応答性ポリウレタン、熱応答性ポリウレタンシート、及び、調光部材

【課題】光学的な面での優れた熱応答性を示す物質を提供し、このような熱応答性を利用したシートや調光部材を提供すること。
【解決手段】融点が40〜70℃で数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応されてなり、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を有していることを特徴とする熱応答性ポリウレタン等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱応答性ポリウレタン、熱応答性ポリウレタンシート、及び、調光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、常温固体でありながら所定温度以上に加熱された際に粘土状となって易変形性が発揮され、再び常温に冷却された際に元の固体状態となるような、温度に対して可逆的に性状を変化させる熱応答性物質が種々の用途において利用されている。
例えば、下記特許文献1にはギプスのような人体の一部を固定する用途や、道路建設における土砂の固定用途、物品の搬送における搬送品の固定や保護に、加熱によって易変形性を付与することができる熱応答性ポリウレタンを用いることが記載されている。
【0003】
熱応答性物質は、加熱・冷却といった単純な操作によってその性状を変化させることができることから応用範囲が広く、特許文献1において示されているような機械的特性のみならず電気的特性や光学特性において熱応答性を示す物質の開発が期待されている。
【0004】
例えば、下記特許文献2においては、目隠し効果を有する採光窓を乳白色の樹脂板で形成させることが記載されているが、日光の照射によって到達させることのできる温度域において光透過性が熱応答性を示す物質を得ることができれば、該物質によって目隠しシートを形成させて窓ガラスに貼り付けるなどして昼間においては日光照射にともなう温度上昇によって透明性を発揮させ、屋内の様子が外部から視認されやすい夜間においては白濁を生じさせて自然と目隠し効果を発揮させることができる。
また、このような光透過性において熱応答性を示す部材が得られれば、この部材の温度を調整する温度調整機構と組み合わせて透過光量の調整可能な調光部材とすることもできる。
【0005】
さらには、常温において不透明で、高温において透明性が発揮される熱応答性物質が得られれば上記のような調光用途のみならず各種の用途への応用が期待される。
例えば、特許文献1のギプスなどのような対象物を固定するための部材を上記のような光学的熱応答性を示す物質で形成させた場合には、この固定用部材を取り除くことなく、単に加熱するだけで内部の様子を観察することが可能になる。
【0006】
しかし、このような光学的な面での優れた熱応答性を示す物質は見出されておらず調光用の部材や、固定用部材などに適した熱応答性物質はいまだ見出されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表97/003130号公報
【特許文献2】特開平05−017599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決することを課題としており、光学的な面での優れた熱応答性を示す物質を提供し、このような熱応答性を利用したシートや調光部材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、所定のポリオールとイソシアネートとを反応させてなるポリウレタンが、光透過性において優れた熱応答性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
即ち、上記課題を解決するため熱応答性ポリウレタンに係る本発明は、融点が40〜70℃で数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応されてなり、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を有していることを特徴としている。
【0011】
また、熱応答性ポリウレタンシートに係る本発明は、融点が40〜70℃で数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応されてなり、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を有している熱応答性ポリウレタンからなることを特徴としている。
【0012】
さらに、調光部材に係る本発明は、融点が40〜70℃で数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応されてなり、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を有している熱応答性ポリウレタンからなる熱応答性ポリウレタン層と、該熱応答性ポリウレタン層の温度調整をするための透明発熱層とが積層されてなり、該透明発熱層と前記熱応答性ポリウレタン層とを通じての光透過性が前記温度調整によって実施されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、比較的数平均分子量が小さく、40〜70℃の範囲内に融点を存在させるポリエステルポリオールが熱応答性ポリウレタンを形成する成分として採用されている。
上記のようなポリエステルポリオールは、一般的にワックスライクな性状を示し、融点未満において白濁した不透明な状態でありながら融点以上の温度において透明性の高い液体となる。
そして、上記のようなポリエステルポリオールは、多官能イソシアネートとの反応によって前記融点以上の温度における流動性が抑制されるものの融点以上の温度における透明性が保持される。
即ち、本発明の熱応答性ポリウレタンは、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を示すことから熱応答性を利用して調光部材等に有効活用することができる。
また、本発明の熱応答性ポリウレタンシートは、その形成に用いられている熱応答性ポリウレタンが光学的な面での優れた熱応答性を示すことから目隠しシートなどに有効利用することができる。
さらに、本発明の調光部材は、上記のような熱応答性ポリウレタンが用いられていることからこの熱応答性ポリウレタンの温度調整によって透過光量等を簡便に調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について熱応答性ポリウレタンシートによって熱応答性ポリウレタン層を形成させた調光部材を例に説明する。
【0015】
本実施形態の熱応答性ポリウレタンシートは、融点が40〜70℃で、数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応された熱応答性ポリウレタンによって所定厚みに形成されたもので光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する熱応答性を示すものである。
まず、熱応答性ポリウレタンシートを形成するための原材料について説明する。
【0016】
本実施形態の熱応答性ポリウレタンシートを形成するために用いられる前記ポリエステルポリオールとしては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタル酸、2,6−ナフタル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピクリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカメチレンジカルボン酸、ドデカメチレンジカルボン酸等のジカルボン酸等の多価カルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール等のポリオールとの反応により得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクタムを開環重合して得られるポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0017】
これらの中でも本実施形態の熱応答性ポリウレタンシートに用いられるポリエステルポリオールとしては、ポリカプロラクトンポリオールが好ましく、該ポリカプロラクトンポリオールとしては、例えば、ダイセル化学工業社から「PLACCEL200シリーズ」として市販のものの内、融点が40〜70℃の2官能のポリカプロラクトンジオールを採用することができ、「PLACCEL210」(メーカー公表分子量:1000)、「PLACCEL220」(メーカー公表分子量:2000)、「PLACCEL230」(メーカー公表分子量:3000)、「PLACCEL240」(メーカー公表分子量:4000)などの商品名のものを採用することができる。
【0018】
なお、本実施形態において融点が40〜70℃のポリエステルポリオールを熱応答性ポリウレタンの構成成分として採用しているのは、このポリエステルポリオールの融点が、熱応答性ポリウレタンテープに熱応答性を発揮させる温度と略等しくなるためである。
即ち、このポリエステルポリオールの融点が40℃以上とされているのは、融点が40℃未満となると熱応答を示す温度域が常温に近くなり過ぎて熱応答性ポリウレタンシートの光透過性を低下させるための冷却機構を別途設ける必要が生じるおそれを有するためである。
また、このポリエステルポリオールの融点が70℃以上とされているのは、融点が70℃を超えると熱応答性ポリウレタンシートの光透過性を向上させるために多大な熱量が必要になるおそれを有するためである。
【0019】
また、本実施形態において数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールを熱応答性ポリウレタンの構成成分として採用しているのは、一般にポリエステルポリオールの数平均分子量が、該ポリエステルポリオールとイソシアネートとを反応して得られるポリウレタンの強度や該ポリエステルポリオールの溶融状態における粘度等と正の相関関係を示す傾向にあるためで、熱応答性ポリウレタンシートに十分な強度を付与し得るとともに適度な溶融粘度を発揮させて熱応答性ポリウレタンシートの製造時における作業性を良好にさせ得るためである。
なお、ポリエステルポリオールの融点が40〜70℃であることについてはJIS K7122:1987「プラスチックの転移熱測定方法」に記載の方法によって確認することができ、ポリエステルポリオールの数平均分子量が800〜10000であることについては、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)によって確認することができる。
【0020】
前記ポリエステルポリオールとともに熱応答性ポリウレタンを構成させるための3官能以上の多官能イソシアネートとしては、例えば、一般的な2官能イソシアネートを主たる出発材料としたものが挙げられ、2官能イソシアネートの3量体(ビウレット、アロファネート、あるいは、イソシアヌレート)、トリメチロールプロパン等の3官能アルコールとの付加物、フロログリシン等の3官能フェノールとの付加物あるいは、ベンゼンイソシアネートのホルマリン縮合物(ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート)、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等の重合性基を有するイソシアネート化合物の重合体、リジントリイソシアネート等が挙げられる。
なお、3官能以上の多官能イソシアネートの出発材料となる2官能イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルヘキサフルオロプロパンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族2官能イソシアネート;1,3−トリメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレン1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン1,3−ジイソシアネート、シクロヘキシレン1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、水添p−キシリレンジイソシアネート、水添4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4−クロロキシリレン−1,3−ジイソシアネート、2−メチルキシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂肪族2官能イソシアネート等が挙げられる。
【0021】
なお、本実施形態においてこのような3官能以上の多官能イソシアネートを用いるのは、官能基が3個以上存在することによって、前記ポリエステルポリオールとの反応後に得られる熱応答性ポリウレタンに三次元構造を付与しやすく、熱応答性ポリウレタンの架橋度をより向上させ易いためである。
そして、このことによって、熱応答性ポリウレタンシートに機械的強度や耐薬品性等を容易に付与することが可能になるためである。
このような点において、上記のような多官能イソシアネートの中でも、熱応答性ポリウレタンシートに対する優れた機械的強度の付与や柔軟性の付与が容易である点において、ジイソシアネートの3量体であるイソシアヌレート変性ポリイソシアネートが好ましい。
【0022】
本実施形態に係る熱応答性ポリウレタンシートは、前記多官能イソシアネートと前記ポリエステルポリオールとを反応させた熱応答性ポリウレタンによって形成させることができものではあるが、ポリエステルポリオールと多官能イソシアネートとの官能基の比率、即ち、イソシアネート基と水酸基との比率(以下「NCO/OH価」ともいう)が過度に高い値になるとフリーなイソシアネート基が水分と反応して揮発成分を発生させたり、熱応答性ポリウレタンが脆弱なものとなるおそれを有する。
一方で「NCO/OH価」が過度に低い値となると、熱応答性ポリウレタンの架橋密度が不十分となって熱応答性ポリウレタンシートが加熱時にシート形状を保持できなくなるおそれを有する。
このようなことから、熱応答性ポリウレタンシートに適度な強度と柔軟性を付与し得る点において、前記「NCO/OH価」は、0.5以上0.95未満とすることが好ましい。
【0023】
なお、前記ポリエステルポリオールと前記多官能イソシアネートとを反応させて熱応答性ポリウレタンシートを作製するためには、一般的なポリウレタン製の部材を作製する場合と同様の方法を採用することができ、例えば、前記ポリエステルポリオールと前記多官能イソシアネートとを、必要に応じて金属酸化物、有機金属化合物、アミン系触媒といった重合触媒を加えた上で攪拌装置の備えられた反応容器に入れて混合攪拌し、得られた混合液を所定型枠に流し込んでシート状に成形する方法を採用することができる。
より具体的には、ポリエステルポリオールを反応容器に所定量入れ、均一な温度となるように制御し得る加熱器でポリエステルポリオールの融点以上の温度(例えば、40〜90℃、好ましくは50℃〜70℃)に加熱しながら攪拌し、減圧下あるいは乾燥窒素を当該反応容器に吹き込みながら、ポリエステルポリオールの溶融及び撹拌を充分に実施した後に、所定量の多官能イソシアネート、及び重合触媒を添加し、さらに充分に撹拌し、この混合液を型枠等に流し込んで静置状態で50〜100℃、好ましくは、60〜90℃に加熱して反応させ熱応答性ポリウレタンシートを作製することができる。
【0024】
なお、熱応答性ポリウレタンシートは、その熱応答性を利用して光透過性を調整するため調光シートとして利用されることが好ましいが、このような用途に用いる場合には、熱応答性ポリウレタンシートを、23℃の条件下で測定した全光線透過率が55〜80%でヘイズが80〜99.9%となり、且つ、ポリエステルポリオールの融点以上の温度(例えば、60℃)で測定した全光線透過率が80〜99.9%で、ヘイズが0〜40%となるように調整することが好ましい。
このような光透過性の調整は、熱応答性ポリウレタンシートの厚みによって調整する方法の他に、熱応答性ポリウレタンシートに無機フィラーや着色剤などの添加剤をさらに含有させて調整することができる。
【0025】
この厚みによって熱応答性ポリウレタンシートの光透過性を調整するのに際しては、過度に厚みを減少させると熱応答性ポリウレタンシートの強度が極端に低くなるおそれを有するとともに過度に厚くすると、いかに温度が高くなるように加熱しても十分な透明性が発揮されなくなるおそれを有する。
このような観点から、熱応答性ポリウレタンシートは0.1mm以上5mm以下の厚みとすることが好ましく、0.2mm以上4mm以下の厚みとすることがより好ましく、0.3mm以上3mm以下の厚みとすることが特に好ましい。
なお、前記無機フィラー等の添加剤によって光透過性を調整する場合には、該無機フィラーとしてガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカ、シリカ等を含有させることができる。
【0026】
また、各種特性の調整を図るべく、他の添加剤として、各種安定剤、難燃剤、帯電防止剤、防カビ剤、可塑剤、粘性付与剤、熱可塑性樹脂、硬化性オリゴマー等を本発明の効果が著しく損なわれない範囲において適宜熱応答性ポリウレタンシートに含有させることが可能である。
【0027】
なお、熱応答性ポリウレタンシートを構成する熱応答性ポリウレタンは、ポリエステルポリオールの融点近傍において、その光透過性を変化させることが可能なものであるが、この温度域における温度変化に対する光透過性の変化は急激なものとなる場合が多い。
従って、単一の熱応答性ポリウレタンシートで調光シートを構成させた場合には、光透過性を精度良くコントロールするために、精度の高い温度コントロールが求められることになる。
【0028】
このようなことから、例えば、ポリエステルポリオールの融点が異なる複数種類の熱応答性ポリウレタンシートを積層一体化させて調光シートとすることで全体的な光透過性を調整するようにしてもよい。
例えば、全光透過率が90%〜99.9%の透明発熱層が、該透明発熱層よりも全光透過率の高い透明ガラス基板の表面に形成された透明ヒーターを2枚用意するとともに、用いられているポリエステルポリオールの融点がそれぞれ異なる3枚の熱応答性ポリウレタンシートを積層した調光シートを用意し、この3層の熱応答性ポリウレタン層を備えた調光シートを前記透明発熱層が内側となるようにして2枚の前記透明ヒーターで挟み、ガラス基板/透明発熱層/3層の熱応答性ポリウレタン層/透明ヒータ層/ガラス基板の計7層の積層構造を有する調光部材を作製させることができる。
【0029】
そして、それぞれの透明ヒーターを個別に温度制御可能にするなどして3層の熱応答性ポリウレタン層の内の1層のみをその熱応答性ポリウレタンの形成に用いられているポリエステルポリオールの融点以上にして透明化させたり、逆に、2層の熱応答性ポリウレタン層をポリエステルポリオールの融点以上にして1層のみを白濁状態のままにさせたり、3層全てをポリエステルポリオールの融点以上、あるいは、融点未満の温度にさせたりして当該調光シートが用いられてなる調光部材の光透過性を細かく調整させることができる。
【0030】
この場合、中央の熱応答性ポリウレタンシートの一面に模様や図案の施された意匠フィルムを貼り付けておいて、温度制御によってこの意匠フィルムの外部からの視認性を制御したりすることも可能である。
【0031】
さらには、熱応答性を示す温度が異なる複数枚の熱応答性ポリウレタンシートを組み合わせて意匠性を施した調光シートを形成させることもできる。
例えば、抜き型でハート型や星型に打抜かれた箇所を一枚の熱応答性ポリウレタンシートに1乃至複数箇所設け、該熱応答性ポリウレタンシートよりも高温で熱応答性を示す熱応答性ポリウレタンシートをこの打抜き箇所に嵌め込んで調光シートとし、昼間は日射を受けて全体透明でありながら、夜間に温度が低下した際に透明なシートの中に白色のハート型や星型が浮かんだ状態をなる調光シートを形成させることも可能である。
また逆に、低温で熱応答性を示す熱応答性ポリウレタンシートを星型やハート型に切断して前記打抜き箇所に嵌め込んで調光シートとし、加熱した際にこのハート型部分や星型部分のみが透明性を示すような調光部材を形成させてもよい。
【0032】
なお、熱応答性ポリウレタンシートとともに前記調光部材を形成するのに用いる透明ヒーターとしては、市販品を採用することができ、例えば、U−CORPORATION社から市販のものや栄光電気株式会社製の透明ガラスヒーター(商品名「GES−FILミール」)、ハネウェル社製の透明ヒーター(商品名「78000シリーズ」)等を採用することができる。
【0033】
このような調光部材は、加熱条件によって全光線透過率といった光透過率を調整することができ、室内の窓、天井窓、テラス等の採光窓、温室などの屋根や側壁、自動車のサンルーフ等に使用することができる。
なお、本発明の熱応答性ポリウレタンは、上記例示に限定されることなく各種用途に利用可能であることは言うまでもないことである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、実施例及び比較例における各種特性の測定方法及び評価方法について説明する。
【0035】
(数平均分子量の測定方法)
「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した、ポリスチレン(PS)換算の数平均分子量を意味する。
具体的には、試料25mgをテトラヒドロフラン(THF)5mLに溶解させ(浸透時間:6.0±0.5hr(完全溶解))、非水系0.45μmのクロマトディスクで濾過した上で、クロマトグラフを用いて下記の測定条件で測定する。
そして、予め測定し、作成しておいた単分散標準ポリスチレンの検量線から試料の数平均分子量を求めることができる。

使用機器:島津製作所社製、商品名「島津高速液体クロマトグラフProminenceシステム」
基本構成:LC‐20AD、DGU−20A3、CTO−20A、SIL−20A、RID−10A、CBM−20A、LCsolution Ver.1.25、GPCオプションソフト
ガードカラム:島津製作所社製、商品名「SHIMAZU Shim−pack GPC−800P」1本(4.6mmI.D.×10mm)
カラム:島津製作所社製、商品名「SHIMAZU Shim−pack GPC−803」1本(8mmI.D.×300mm)、「SHIMAZU Shim−pack GPC−804」1本(8mmI.D.×300mm)
カラム温度:40℃
検出器セル温度:40℃
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
移動相流量:1.0mL/min
検出器:RI
試料濃度:0.5wt%
注入量:50μL
測定時間:30min

なお、検量線用単分散標準ポリスチレン試料は、昭和電工社製、商品名「shodex」平均分子量が631000、365000、118000、54000、17000、7660、3250、1320を用いた。
具体的には、上記検量線用単分散標準ポリスチレンをA(631000, 118000,17000,3250),B(365000,54000,7660,1320)にグループ分けし、 各4種類の単分散標準ポリスチレンの合計濃度が0.05wt%濃度になるようにTHFで溶解し、該溶液を50μL注入して得られた結果に基づいて検量線を作成した。
即ち、これらの保持時間から較正曲線(三次式)を作成し平均分子量を測定した。
【0036】
(融点測定(DSC測定))
融点は、JIS K7122:1987「プラスチックの転移熱測定方法」記載の方法に準拠し測定した。
即ち、測定装置(示差走査熱量計装置 DSC6220型(SIIナノテクノロジー株式会社製)を用い測定容器に試料を6.5±0.5mg充てんして、窒素ガス流量30ml/minのもと、10℃/minの昇温速度で融点を測定した。
融点は得られたDSC曲線の吸熱ピークのピークトップから求められる値とした。
【0037】
(全光線透過率測定)
全光線透過率は、JIS K7361−1:1997「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法−第1部:シングルビーム法」記載の方法により測定した。
即ち、ヘーズメーターHM−150型(株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて50×50mmの試験片を測定した。
【0038】
(ヘイズ)
ヘイズは、JIS K7136に記載の方法により測定した。
即ち、ヘーズメーターHM−150型(株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて50×50mmの試験片を測定した。
【0039】
(熱応答性)
常温状態(23℃)と高温状態(60℃)での物性の違いについて以下の基準で熱応答性を判断した。
○:常温時では硬くゴム弾性を有せず、高温時はゴム弾性を有しており、また、白濁から透明への状態変化が見られ、これが可逆的に変化する。
×:常温時、高温時で弾性や透明性に違いがほぼ見られない。
【0040】
(実施例1)
次に記載する方法で熱応答性ポリウレタンを重合した。
ポリカプロカクトンポリオール20g(ダイセル化学工業社製、商品名「プラクセル240」、数平均分子量4000、融点60℃、水酸基価 28(KOHmg/g))を100mlのフラスコに入れ、該フラスコ内を窒素置換して、60℃で均一に溶解するまで撹拌した。
次に、多官能イソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート3量体のイソシアヌレート型ポリイソシアネート)1.47g(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA−100」(イソシアネート、NCO%=23.1))、触媒として、有機ジルコニア化合物1.0g(KING Industries社製 K−CAT 4205)を入れ充分に混合撹拌させたのち、この混合液を減圧脱泡し、シリコン処理した100μm厚さのポリエチレンテレフタレート離型フィルム間に挟んで70℃で6時間静置反応させることで、熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
なお、離型フィルム間での反応に際しては、1mm厚みのシリコーンスペーサーをフィルム間に挟んで、熱応答性ポリウレタンシートの厚みが1mmとなるように調整した。
【0041】
(実施例2)
用いるシリコーンスペーサーを0.5mm厚みのものに変更し、0.5mm厚みの熱応答性ポリウレタンシートを作製した以外は実施例1と同様に熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
【0042】
(実施例3)
用いるシリコーンスペーサーを0.3mm厚みのものに変更し、0.3mm厚みの熱応答性ポリウレタンシートを作製した以外は実施例1と同様に熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
【0043】
(実施例4)
用いるシリコーンスペーサーを3mm厚みのものに変更し、3mm厚みの熱応答性ポリウレタンシートを作製した以外は実施例1と同様に熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
【0044】
(実施例5)
ポリカプロカクトンポリオール20gをダイセル化学工業社製の「プラクセル220」(数平均分子量2000、融点56℃、水酸基価56(KOHmg/g))に変更したこと、多官能イソシアネート(商品名「デュラネートTPA−100」)の量を2.92gに変更したこと以外は、実施例1と同様に厚み1mmの熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
【0045】
(実施例6)
ポリカプロカクトンポリオール20gをダイセル化学工業社製の「プラクセル210」(数平均分子量1000、融点48℃、水酸基価112(KOHmg/g))に変更したこと、多官能イソシアネート(商品名「デュラネートTPA−100」)の量を5.81gに変更したこと以外は、実施例1と同様に厚み1mmの熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
【0046】
(比較例1)
ポリカプロカクトンポリオール20gをダイセル化学工業社製の「プラクセル220AL」(数平均分子量2000、融点0〜5℃)に変更したこと、多官能イソシアネート(商品名「デュラネートTPA−100」)の量を3.65gに変更したこと以外は、実施例1と同様に厚み1mmの熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
【0047】
(比較例2)
ポリカプロカクトンポリオール20gをダイセル化学工業社製の「プラクセル205」(数平均分子量530、融点35℃、水酸基価 213(KOHmg/g))に変更したこと、多官能イソシアネート(商品名「デュラネートTPA−100」)の量を11.02gに変更したこと以外は、実施例1と同様に厚み1mmの熱応答性ポリウレタンシートを作製した。
以上の熱応答性ポリウレタンシートの評価結果を、下記表1、2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
なお、実施例1〜6では、23℃において白濁状態で60℃では透明状態に変化しており熱による応答性を示している。
一方で、比較例1、比較例2では23℃、60℃での外観変化がほとんどない。
【0051】
(調光部材(調光窓)の評価)
以下の方法で、調光窓を作製し、その評価を行った。
【0052】
(調光窓の作製)
実施例1、及び、比較例1の熱応答性ポリウレタンシートを50mm×50mmにカットし、栄光電気株式会社製の透明ガラスヒーター(定格:48V−24W、外寸法:140mm(w)×110mm(h)×3mm(t)、発熱面:110mm×85mm)に貼り付けて調光窓とした。
【0053】
(評価方法)
各熱応答性ポリウレタンシートを調光シートとして使用し、上記の透明ガラスヒーターを60℃まで加熱した時、調光シートの外観変化を目視で確認した。
その結果を以下の基準で判定し、下記表3に示す。
○:常温時は「白濁」しており、加熱すると「透明」になる。
×:温度による変化が見られない。
【0054】
【表3】

【0055】
以上のことからも、実施例1の熱応答性ポリウレタンシートは調光シートとして使用可能であることが確認できる。
また、これまでの結果と併せて、本発明によれば光学的な面での優れた熱応答性を示す物質を提供し、熱応答性を利用したシートや調光部材を提供し得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が40〜70℃で数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応されてなり、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を有していることを特徴とする熱応答性ポリウレタン。
【請求項2】
前記ポリエステルポリオールがポリカプロラクトンポリオールである請求項1記載の熱応答性ポリウレタン。
【請求項3】
融点が40〜70℃で数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応されてなり、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を有している熱応答性ポリウレタンからなることを特徴とする熱応答性ポリウレタンシート。
【請求項4】
0.2mm以上4mm以下の厚みを有する請求項3記載の熱応答性ポリウレタンシート。
【請求項5】
前記熱応答性ポリウレタンの温度を変化させることによって光透過性が調整される調光シートとして用いられる請求項3又は4記載の熱応答性ポリウレタンシート。
【請求項6】
融点が40〜70℃で数平均分子量が800〜10000のポリエステルポリオールと、3官能以上の多官能イソシアネートとが反応されてなり、光透過性に可逆的な熱応答性を示し、前記ポリエステルポリオールの融点以上の温度に加熱した際に光透過性が増大し、前記融点未満に冷却した際に光透過性が低下する前記熱応答性を有している熱応答性ポリウレタンからなる熱応答性ポリウレタン層と、該熱応答性ポリウレタン層の温度調整をするための透明発熱層とが積層されてなり、該透明発熱層と前記熱応答性ポリウレタン層とを通じての光透過性が前記温度調整によって実施されることを特徴とする調光部材。

【公開番号】特開2013−14641(P2013−14641A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146340(P2011−146340)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】