説明

熱応答性高分子ゲルおよび熱応答性高分子ゲルフィルム

【課題】熱刺激によって、速い速度で膨潤度が変化する又はゲル表面の水滴接触角が大きく変化する熱応答性高分子ゲルおよび熱応答性高分子ゲルフィルムを提供する。
【解決手段】熱刺激によって、質量が、300秒以内に最大含水状態から当該最大含水状態の20%以下まで減少するか、熱刺激の前後での表面の水滴接触角差が、20°以上である熱応答性高分子ゲル、および当該熱応答性高分子ゲルをフィルム状に形成してなる熱応答性高分子ゲルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱応答性の高分子ゲル及びそれをフィルム状にした熱応答性高分子ゲルフィルムに関し、特に、熱刺激によって膨潤度が変化する、または表面の水滴接触角が変化する熱応答性高分子ゲルおよび熱応答性高分子ゲルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、熱刺激によって膨潤度や体積等が変化する熱応答性高分子ゲルが提案されている。例えば、特許文献1には、十分な膨潤度変化量を有するべく、架橋点となる微粒子が、均一に分散されていることを特徴とする機能性高分子ゲルが開示されており、特許文献2には、外部刺激に応答して体積変化を生ずる新規な高分子ゲル組成物であって、互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含み、その高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、もう一種は、イオン性官能基を有し、上記液体に溶解すると共に、三次元架橋体に内在することを特徴とする高分子ゲル組成物が開示されており、特許文献3には、液体を吸収・放出して体積変化する刺激応答性高分子ゲルと、刺激応答性高分子ゲルを分散・固定するための高分子ゲル固定用樹脂組成物とを有し、その高分子ゲル固定用樹脂組成物が、重量平均分子量が100,000以上の架橋性高分子と、架橋剤とを含むことを特徴とする高分子ゲル組成物が開示されており、特許文献4には、水を吸収し、膨潤することによってゲル化し、刺激により膨潤度や体積が変化する刺激応答性高分子ハイドロゲルであって、非水溶性高分子が相分離構造により含有されていることを特徴とする刺激応答性高分子ハイドロゲルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−36811号公報
【特許文献2】特開2006−249258号公報
【特許文献3】特開2007−146000号公報
【特許文献4】特開2005−264046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の熱応答性高分子ゲルは、熱刺激によって膨潤度や体積等は変化するものの、その変化速度は必ずしも速くはなかった。なお、上記各特許文献には、熱刺激によって膨潤度や体積等が変化することの記載はあっても、その変化速度に関する記載はなく、示唆もされていない。すなわち、従来は、膨潤度や体積等が変化する速度に関しては、全く着目されておらず、その速度を向上させようとする努力は何ら試みられていなかった。
【0005】
また、上記従来の熱応答性高分子ゲルは、熱刺激によって膨潤度や体積等は変化するものの、ゲル表面の水滴接触角はほとんど変化しなかったか、仮に変化したとしても、その変化量は極めて小さかった。なお、上記各特許文献には、熱刺激によるゲル表面の水滴接触角の変化に関しては、一切記載も示唆もされていない。
【0006】
一方、上記特許文献1〜3に記載の高分子ゲルは、全て微粒子化されて液体中に分散しており、したがって、例えば特許文献2又は3に記載の封止部材等に封入しないと、保持できないものであった。そのため、高分子ゲルの体積変化は封止部材によって規制されてしまい、また、微粒子化されて液体中に分散した高分子ゲルでは、フィルム化することはできなかった。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、熱刺激によって、速い速度で膨潤度が変化する又はゲル表面の水滴接触角が大きく変化する熱応答性高分子ゲルおよび熱応答性高分子ゲルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、熱刺激によって、質量が、300秒以内に最大含水状態から当該最大含水状態の20%以下まで減少するか、熱刺激の前後での表面の水滴接触角差が、20°以上であることを特徴とする熱応答性高分子ゲルを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)において、前記熱刺激の温度は、室温以上、100℃以下であることが好ましい(発明2)。
【0010】
上記発明(発明1,2)において、前記熱応答性高分子ゲルは、10質量%以上の水分を含むことが好ましい(発明3)。
【0011】
上記発明(発明1〜3)においては、ロタキサン構造を含むことが好ましい(発明4)。
【0012】
上記発明(発明4)においては、2個以上の環状部分を有するポリマー、及び一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子を混合して得られた高分子架橋前駆体の前記直鎖状分子の重合性官能基を介して、前記直鎖状分子と熱応答性成分とを共重合させることにより得られる高分子架橋体を含有することが好ましい(発明5)。
【0013】
上記発明(発明5)において、前記ポリマーの環状部分は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種、または環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミンおよび環状ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(発明6)。
【0014】
上記発明(発明5,6)においては、前記熱応答性成分が、N−イソプロピルアミド基を有する重合性化合物であることが好ましい(発明7)。
【0015】
第2に本発明は、前記熱応答性高分子ゲル(発明1〜7)をフィルム状に形成してなる熱応答性高分子ゲルフィルムを提供する(発明8)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱刺激によって、速い速度で膨潤度が変化する又はゲル表面の水滴接触角が大きく変化する熱応答性高分子ゲルおよび熱応答性高分子ゲルフィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱応答性高分子架橋体の製造工程を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る熱応答性高分子架橋体の構造を示す模式図である。
【図3】熱応答性高分子ゲルフィルムの温度と膨潤率との関係を示すグラフである。
【図4】熱応答性高分子ゲルフィルムの時間と収縮率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例において熱応答性高分子架橋体(E)のゲル状フィルムの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る熱応答性高分子ゲルは、
(1)熱刺激によって、質量が、300秒以内に最大含水状態から当該最大含水状態の20%以下まで減少、好ましくは300秒以内に15%以下まで減少又は100秒以内に20%以下まで減少するか、
(2)熱刺激の前後での表面の水滴接触角差が、20°以上、好ましくは30°以上、さらに好ましくは40°以上である
ものである。
【0019】
ここで、熱刺激の温度は、室温以上、100℃以下であることが好ましく、特に40〜100℃であることが好ましく、さらには60℃であることが好ましい。
【0020】
(1)の特性は、熱応答性高分子ゲルの膨潤度の変化速度を規定するものである。また、この膨潤度が変化(減少)することで、熱応答性高分子ゲルは水分を放出して収縮するため、(1)の特性は、熱応答性高分子ゲルの収縮速度を規定するものでもある。
【0021】
最大含水状態とは、熱応答性高分子ゲルを、室温(好ましくは23℃)で、それ以上実質的に含水させることのできないところまで含水させた状態をいう。具体的には、乾燥状態の熱応答性高分子ゲルを室温下(好ましくは23℃)で水に浸し、その膨潤速度から実質的に膨潤が停止したと判断できる状態をいう。例えば、本実施形態においては、室温下(好ましくは23℃)で水に浸し、膨潤度の変化が30分間で5%未満となった状態を最大含水状態とする。
【0022】
従来、(1)のように膨潤度の変化速度(収縮速度)の速い熱応答性高分子ゲルは知られていなかった。また、従来は、そのような特性さえも着目されておらず、熱刺激による膨潤度の変化速度(収縮速度)を向上させようとする努力は何ら試みられていなかった。
【0023】
一方、(2)の特性は、熱応答性高分子ゲルの親水性〜疎水性の変化度合を示すことができる。例えば、本実施形態では、熱応答性高分子ゲルに加熱の刺激を加えることで、水滴接触角は大きくなるため、水滴接触角差は、熱刺激後の水滴接触角から熱刺激前の水滴接触角を差し引いて算出される。なお、「熱刺激の前後」とは、熱応答性高分子ゲルの応答する温度及び水分含有量によって適宜決定されるものであるが、熱刺激に応答する温度を挟み、低温側の任意の温度と高温側の任意の温度を比較すれば足り、かつ、取りうる可能性のある水分含有量のいずれかで上記所定の水滴接触角差を満たせばよい。例えば、本実施形態では、水分含有量を20質量%とした熱応答性高分子ゲル(好ましくは、熱応答性高分子ゲルフィルム)について23℃と60℃での表面の水滴接触角の差が上記所定の範囲となることが好ましい。
【0024】
なお、本実施形態に係る熱応答性高分子ゲルは、上記(1)および(2)の両方の特性を満たしてもよいことはいうまでもない。
【0025】
本実施形態に係る熱応答性高分子ゲルは、熱応答性の高分子成分と水分とを含有するものであるが、熱応答性高分子ゲル中における水分含有量は、10質量%以上であることが好ましく、特に15〜100質量%であることが好ましく、さらには20〜90質量%であることが好ましい。熱応答性高分子ゲル中における水分含有量が10質量%以上であることで、上記(2)の特性や後述する他の特性が効果的に発揮される。
【0026】
本実施形態に係る熱応答性高分子ゲルが含有する熱応答性の高分子成分として好ましいものは、図1に模式的に示す方法により製造される熱応答性高分子架橋体(E)である。以下、熱応答性高分子架橋体(E)の製造方法を説明する。
【0027】
最初に、2個以上の環状部分を有するポリマー(以下「ポリマー(A)」という。)と、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子(以下「直鎖状分子(B)」という。)とを用意する(図1参照)。
【0028】
ポリマー(A)の環状部分は、直鎖状分子(B)を包接することができ、その状態で当該直鎖状分子(B)上を移動できるものである。なお、本明細書において、「環状部分」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味し、直鎖状分子(B)上で移動可能であれば、環状部分は完全には閉環でなくてもよく、例えば螺旋構造であってもよい。また、ポリマー(A)は、後述するとおり比較的大きな分子量を有する環状分子を構成部分とする多量体であり、繰り返し数が少なくても自身の分子量が巨大となる。ポリマー(A)とは、このために行った便宜上の名称であって、2〜10量体程度のオリゴマー領域の繰り返し数のものも含むものである。
【0029】
環状部分を構成する分子(環状分子)としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン、あるいは、環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミン、環状ポリアミン、シクロファン等の環状分子が好ましく、これらの環状分子は、ポリマー(A)中または後述の高分子架橋前駆体(C)もしくは後述の熱応答性高分子架橋体(E)中で2種以上混在していてもよい。
【0030】
上記環状分子がシクロデキストリンである場合には、シクロデキストリンの水酸基に、ポリマー(A)の直鎖状分子(B)に対する溶解性を向上させることのできる高分子鎖および/または置換基が導入されたものであってもよい。かかる高分子鎖としては、例えば、オキシエチレン鎖、アルキル鎖、アクリル酸エステル鎖等が挙げられる。一方、上記置換基としては、例えば、アセチル基、アルキル基、トリチル基、トシル基、トリメチルシラン基、フェニル基等が挙げられる。
【0031】
上記環状分子のシクロデキストリン以外の具体例としては、クラウンエーテルまたはその誘導体、環状ラクトンまたはその誘導体、カリックスアレーンまたはその誘導体、アザシクロファンまたはその誘導体、チアシクロファンまたはその誘導体、クリプタンドまたはその誘導体等が挙げられる。
【0032】
環状分子としては、直鎖状分子が串刺し状に貫通し易いことからα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びクラウンエーテルが好ましく、水中で容易に直鎖状分子と包接錯体を形成することからα−シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンが特に好ましい。
【0033】
ポリマー(A)中における環状分子の個数は、2個以上であり、好ましくは3〜50個、特に好ましくは3〜5個である。環状分子が2個以上あることで、それによって複数の直鎖状分子(B)を包接することができ、その直鎖状分子(B)を重合させることで、直鎖状分子(B)を構成単位に有する複数の(共)重合体がポリマー(A)を介して互いに結び付けられ、架橋構造が構成される。環状分子が3個以上あると、架橋構造が密になるため、得られる熱応答性高分子架橋体(E)の応力緩和性を阻害することなく、強度を向上させることができるためにより好ましい。
【0034】
ポリマー(A)の構造としては、2個以上の環状分子が連結部分によって連結されている構造が好ましい。連結部分となる原料化合物(連結分子)は、環状分子と包接錯体を作らない又は作り難い分子であることが好ましい。このような連結分子を使用することにより、ポリマー(A)を合成するときに、環状分子の開口部を閉塞せずに、環状分子を連結することができる。
【0035】
かかる連結分子としては、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、ある程度かさ高い側鎖を有することが好ましい。例えば、上記環状分子がα-シクロデキストリンの場合には、メチル基よりかさ高い側鎖を有することが好ましい。すなわち、上記環状分子と包接錯体を作らないという観点から、好ましい連結分子としては、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリイソプレン等が挙げられ、中でも特にポリプロピレングリコールが好ましい。
【0036】
1つの連結分子の数平均分子量(Mn)は、100〜100,000であることが好ましく、特に500〜10,000であることが好ましい。連結分子の数平均分子量が100未満であると、形成されたポリマー(A)の環状分子の開口部同士が近接しすぎるため架橋構造をとり難く、また、インターロック構造に基づく効果が十分に発揮されないおそれがある。また、連結分子の数平均分子量が100,000を超えると、直鎖状分子(B)等との相溶性が悪くなり架橋構造の形成が困難となるおそれがある。
【0037】
なお、インターロック構造とは、非共有結合および共有結合のいずれも利用しない機械的な結合構造をいう。本実施形態のインターロック構造は、ポリマー(A)の少なくとも2つの環状分子の開口部に、直鎖状分子(B)を構成単位として有する異なる2つの重合体の各々の直鎖状分子の本体部分(後に詳述する)が各々貫通し、該本体部分の各々の末端側がブロック基により保護されていることにより上記開口部から本体部分が抜け出せない構造(ロタキサン構造)になっており、これにより上記2つの重合体が分離できない構造になっている。該インターロック構造により、上記重合体の直鎖状分子(B)の本体部分に沿って環状分子の開口部を通してポリマー(A)が移動できるが、ブロック基により抜け出せないため、上記2つの重合体は従来の共有結合による架橋構造に比べ、架橋部分の自由度が大きいにもかかわらず共有結合の架橋構造と同程度の強度の結合性を有するものとなる。
【0038】
ポリマー(A)の質量平均分子量(Mw)は、環状分子の種類にも依存するが、通常、1,000〜1,000,000であることが好ましく、特に3,000〜100,000であることが好ましい。ポリマー(A)の質量平均分子量が1,000未満であると、環状分子の個数が2未満となる場合が多く、インターロック構造を形成することができないおそれがあり、また、できたとしても架橋部分が非常に近接するためインターロック構造に基づく効果が十分に発揮できないおそれがある。一方、ポリマー(A)の質量平均分子量が1,000,000を超えると、直鎖状分子(B)等との相溶性が悪くなり架橋構造の形成が困難となるおそれがある。
【0039】
ポリマー(A)は常法によって合成することができる。例えば、官能基を有する環状分子と、当該環状分子の官能基と反応し得る反応性基を末端に有する、連結分子とを反応させることにより、ポリマー(A)が得られる。具体的には、環状分子がα−シクロデキストリンであり、連結分子がポリプロピレングリコールであるポリマー(A)を合成する場合、α−シクロデキストリンと、末端に反応性基を有するポリプロピレングリコールとを混合し、所望により触媒を加え、両者を反応させることにより、ポリマー(A)が得られる。
【0040】
連結分子と結合する環状分子の官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基等が好ましく、連結分子の末端の反応性基としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アジリジン基等が好ましい。連結分子としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物、N,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)等のアジリジン系化合物を末端に有するものを使用することができる。
【0041】
直鎖状分子(B)は、ポリマー(A)の環状分子に包接され、共有結合等の化学結合でなく機械的な結合で一体化することができる直鎖状の分子または物質であって、かつ一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有するものである。なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子(B)上でポリマー(A)の環状分子が移動可能であれば、直鎖状分子(B)は分岐鎖を有していてもよい。
【0042】
直鎖状分子(B)の両末端に該当するブロック基と重合性官能基を除いた部分(本体部分)を構成する分子としては、上記ポリマー(A)の環状分子の開口部に貫通することのできる大きさの分子であればよい。例えば、上記ポリマー(A)の環状分子がα−シクロデキストリンである場合、ポリエチレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン等が好ましく、これらから構成される本体部分を有する直鎖状分子(B)は、高分子架橋前駆体(C)または熱応答性高分子架橋体(E)中で2種以上混在していてもよい。
【0043】
直鎖状分子(B)の本体部分を構成する分子の数平均分子量(Mn)は、100〜300,000であることが好ましく、特に200〜200,000であることが好ましく、さらには300〜100,000であることが好ましい。数平均分子量が100未満であると、環状分子の直鎖状分子(B)上での移動量が小さくなり、得られる熱応答性高分子架橋体(E)において柔軟性が十分に得られないおそれがある。また、数平均分子量が300,000を超えると、溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。
【0044】
ブロック基は、直鎖状分子(B)を包接しているポリマー(A)の環状分子が離脱せず、包接錯体の形態を保持し得る基であれば、特に限定されない。このような基としては、嵩高い基、イオン性基等が挙げられる。
【0045】
ブロック基としては、例えば、ジアルキルフェニル基類、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等が好ましく、これらのブロック基は、包接錯体または高分子架橋体中で2種以上混在していてもよい。直鎖状分子(B)の片末端に結合してブロック基を形成するキャッピング剤としては、例えば、ジメチルフェニルイソシアネート、トリチルフェニルイソシアネート、2,4-ジニトロフルオロベンゼン、アダマンタンアミン等が好適に用いられる。
【0046】
重合性官能基は、当該重合性官能基を介して直鎖状分子(B)と後述する熱応答性成分(D)とを共重合することができるものであれば、特に限定されない。かかる重合性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、アセチレン基、オキセタニル基等が好ましい。
【0047】
直鎖状分子(B)は常法によって合成することができる。例えば、一方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子、または両方の末端に互いに異なる重合性官能基を有する直鎖状分子と、ブロック基用のキャッピング剤とを反応させ、一方の末端に上記重合性官能基を残し、他方の末端にブロック基を付加することにより、直鎖状分子(B)を得ることができる。
【0048】
一例として、一方の末端にヒドロキシル基、他方の末端に(メタ)アクリロイル基を有する直鎖状分子と、イソシアネート基を有するジアルキルフェニル基類とを混合し、所望により触媒を加え、両者を反応させることにより、一方の末端にブロック基としてのジアルキルフェニル基、他方の末端に重合性官能基としての(メタ)アクリロイル基を有する直鎖状分子(B)が得られる。
【0049】
以上説明したポリマー(A)と直鎖状分子(B)とを用意したら、ポリマー(A)および直鎖状分子(B)を混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成することにより高分子架橋前駆体(C)を製造する。すなわち、ポリマー(A)の環状分子の1個の開口部を直鎖状分子(B)で串刺し状に貫通して、かつ、ポリマー(A)の環状分子の残りの開口部の少なくとも1個を別の直鎖状分子(B)で貫通し、上記2個以上の直鎖状分子(B)が同一のポリマー(A)の複数の環状分子に包接された構造を有する高分子架橋前駆体(C)を製造する(図1参照)。
【0050】
なお、高分子架橋前駆体(C)は上記の包接錯体が形成された構造を有することを特徴とするが、ポリマー(A)の環状分子の全ての開口部がそのような状態になっていることを要しない。すなわち、混合物としてのポリマー(A)中において、その環状分子の開口部の1個にしか直鎖状分子(B)が串刺し状に貫通されていない構造、さらには、ポリマー(A)の環状分子の開口部に直鎖状分子(B)が全く串刺し状に貫通されていない構造を有していてもよいし、あるいは、ポリマー(A)に包接されない混合物としての直鎖状分子(B)が含まれていてもよい。
【0051】
上記のような高分子架橋前駆体(C)の製造は、ポリマー(A)および直鎖状分子(B)を溶媒中、例えば水、水酸化ナトリウム水溶液、ジメチルホルムアミド(DMF)と水の混合溶液、メタノールと水の混合溶液等の中に存在させた状態にして(例えば、ポリマー(A)の溶液に直鎖状分子(B)を添加して)、その溶液を撹拌することによって行うことができる。高分子架橋前駆体(C)が得られたことは、溶液の粘度が上昇することによって判断することができる。
【0052】
撹拌方法については特に制限はなく、常温または適当に制御された温度で、機械的撹拌処理、超音波処理などの方法で撹拌することができ、特に、超音波処理で撹拌することが好ましい。撹拌時間は、数分〜1時間の条件で行うことが好ましい。超音波の照射条件については特に制限はないが、周波数20〜40kHzで行うことが好ましい。
【0053】
上記のようにして高分子架橋前駆体(C)を製造したら、ポリマー(A)の環状分子に包接された直鎖状分子(B)の重合性官能基を介して、当該直鎖状分子(B)と熱応答性成分(D)とを共重合し、熱応答性高分子架橋体(E)を得る(図1参照)。この熱応答性高分子架橋体(E)は、インターロック構造としてのロタキサン構造を含む。
【0054】
熱応答性成分(D)としては、上記(1)または(2)の熱応答性を示し、直鎖状分子(B)の重合性官能基を介して直鎖状分子(B)と共重合可能なモノマー、オリゴマーまたはポリマーが選択される。
【0055】
好ましい熱応答性成分(D)としては、N−イソプロピルアミド基を有する重合性化合物が好ましく挙げられる。該重合性化合物としては、モノマーであってもよいし、重合性官能基を有していればオリゴマーやポリマーであってもよい。該重合性化合物がポリマーである場合の質量平均分子量(Mw)は、1000000以下であることが好ましく、特に100000以下であることが好ましい。質量平均分子量(Mw)が大き過ぎると、他の成分との相溶性が悪く重合性の低下や製膜性の低下を生じ、刺激応答速度も低下するおそれがある。
【0056】
また、該重合性化合物の重合性官能基は、直鎖状分子(B)と共重合するものであれば特に限定されない。かかる重合性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、アセチレン基、オキセタニル基等が挙げられ、重合速度の速さ、入手の容易さを考慮すると(メタ)アクリロイル基、ビニル基が特に好ましい。
【0057】
以上のことを考慮すると熱応答性成分(D)としては、N−イソプロピルアクリルアミドが最も好ましい。
【0058】
上記N−イソプロピルアミド基を有する重合性化合物(好ましくはN−イソプロピルアクリルアミド)を熱応答性成分(D)として使用した熱応答性高分子架橋体(E)に水等を含ませた熱応答性高分子ゲルは、上記(1)および(2)の特性を満たし、また、熱刺激によって透明または半透明から白色に顕著に変化するという特性も示す。このとき、熱刺激前後での全光線透過率の差は、50%以上であることが好ましく、特に70%以上であることが好ましい。
【0059】
熱応答性成分(D)としてN−イソプロピルアクリルアミドを使用した熱応答性高分子架橋体(E)の一例を図2に模式的に示す。ただし、本発明の熱応答性高分子ゲルは図2の態様に限られるものではない。図2に示す熱応答性高分子架橋体(E)では、直鎖状分子(B)及び熱応答性成分(D)であるN−イソプロピルアクリルアミドを共重合することにより得られたポリマーBD、BD、及び2つ以上の環状分子が連結分子で結合されてなるポリマーAからなる。そして、ポリマーBD、BDの直鎖状分子(B)に由来するB及びBが、ポリマーAのそれぞれ別個の環状分子の開口部に貫通し、かつ、B及びBの末端に存在するブロック基により抜け出せない構造(インターロック構造)となっている。なお、図2では熱応答性成分(D)は、ポリマーBD、BDの主鎖に組み込まれた状態で図示したが、ポリマーBD、BDの側鎖に存在してもよいし、ポリマーA中に存在してもよい。
【0060】
重合反応は常法によって行えばよく、通常はラジカル重合によって反応させる。例えば、高分子架橋前駆体(C)および熱応答性成分(D)を含有する溶液に、所望により光重合開始剤を添加して紫外線を照射することにより、あるいは、熱重合開始剤を添加して加熱することにより、直鎖状分子(B)と熱応答性成分(D)とは共重合する。
【0061】
光重合開始剤としては、通常使用されるものであれば特に制限されることなく、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、(2,4,6−トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2−ベンゾチアゾール−N,N−ジエチルジチオカルバメート等を使用することができる。なお、光重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
上記紫外線は、高圧水銀ランプ、フュージョンHランプ、キセノンランプなどで得られ、照射量は、通常100〜500mJ/cmである。
【0063】
一方、熱重合開始剤としては、通常使用されるものであれば特に制限されることなく、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等を使用することができる。熱重合開始剤を使用する場合の加熱温度は、熱重合開始剤の分解温度によって適宜選択すればよいが、通常0〜130℃程度である。
【0064】
熱応答性高分子架橋体(E)の精製は常法によって行えばよく、例えば、水、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドで順次洗浄すればよい。
【0065】
以上の方法によれば、擬ロタキサンの単離精製を経ることなく、ポリマー(A)と直鎖状分子(B)とを混合攪拌するだけで、簡便に高分子架橋前駆体(C)を製造することができ、さらに得られた高分子架橋前駆体(C)の直鎖状分子(B)と熱応答性成分(D)とを共重合することで、インターロック構造を有するロタキサン構造を含む熱応答性高分子架橋体(E)を簡便に製造することができる。
【0066】
得られた熱応答性高分子架橋体(E)は、例えば上記所定量の水等を含有させることにより、上記(1)および/または(2)の特性を満たす熱応答性高分子ゲルを得ることができる。また、得られた熱応答性高分子架橋体(E)がフィルム状の場合には、同様に水等を含ませることにより、上記(1)および/または(2)の特性を満たす熱応答性高分子ゲルフィルムを得ることができる。この熱応答性高分子ゲルフィルムは、上記(1)および(2)の特性を満たすとともに、熱刺激によって透明または半透明から白色に顕著に変化するという特性も示す。
【0067】
本実施形態に係る熱応答性高分子ゲルのフィルムを得るには、例えば、上記高分子架橋前駆体(C)と熱応答性成分(D)とを混合し、鋳型に流し込むか、あるいはロール・トゥ・ロール方式で基材上に塗布し、その後、加熱または紫外線照射等によって共重合させることによりフィルム状の熱応答性高分子架橋体(E)を形成し、得られたフィルムに水分を含ませればよい。
【0068】
フィルムの厚さは、通常50〜5000μmであり、好ましくは100〜2000μmであり、特に好ましくは150〜1500μmである。
【0069】
上記熱応答性高分子ゲルおよび熱応答性高分子ゲルフィルムは、例えば、感熱センサー、医療用材料、温度応答性粘着剤、温度調整フィルム、熱応答性遮光フィルムなど幅広い分野に利用が期待できる。
【0070】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0072】
〔実施例1〕
(1)ポリマー(A)の合成
α−シクロデキストリン(ナカライテスク社製)5gをジメチルホルムアミド50mlに溶解させ、この溶液にトリレン2,4−ジイソシアネート末端ポリプロピレングリコール(Aldrich社製,Mn:1,000)3.4gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)200mgとを加え、一晩室温で攪拌した。
【0073】
上記反応溶液をエーテルに注いで沈殿させ、回収した固体を乾燥させた後、水で洗浄して再び乾燥させ、環状分子としてα−シクロデキストリン、連結分子としてポリプロピレングリコールを有し、連結分子を介して環状分子が3〜5個繋がったポリマー(A)4.6gを得た。
【0074】
(2)直鎖状分子(B)の合成
ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製,Mn:1000)5gを塩化メチレン50mlに溶解させ、この溶液に3,5−ジメチルフェニルイソシアネート(Aldrich社製)1.6gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)200mgとを加え、一晩室温で攪拌した。
【0075】
次いで、上記溶液に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製,カレンズMOI)1.7gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)100mgとを加え、さらに一晩室温で攪拌した。
【0076】
得られた溶液を濃縮した後、−75℃に冷却したジエチルエーテル中に注ぐことにより沈澱させ、その沈澱物を回収した。これにより、一方の末端に3,5−ジメチルフェニル基からなるブロック基を有し、他方の末端にメタクリロイル基を有するポリエチレングリコール(MA−PEG−DPI;直鎖状分子(B))3.8gを得た。
【0077】
(3)高分子架橋前駆体(C)の製造
ポリマー(A)300mgを0.4wt%の水酸化ナトリウム水溶液1mlに溶解させ、この溶液に直鎖状分子(B)112mgを加え、機械的に攪拌しながら超音波照射(35Hz)を300秒行ったところ、溶液が白濁し、粘性が上昇した。このような粘度上昇した白濁物は、ポリマー(A)の環状分子が直鎖状分子(B)を包接してなる高分子架橋前駆体(C)であると考えられる。
【0078】
(4)熱応答性高分子架橋体(E)の製造
高分子架橋前駆体(C)と考えられる上記白濁物に、熱応答性成分(D)としてN−イソプロピルアクリルアミド2.0gを加え、均一になるまで攪拌した。次いで、光重合開始剤である1−ヒドロキシ-シクロヘキシル−フェニル−ケトン及びベンゾフェノンの1:1共融混合物(チバスペシャリティーケミカルズ社製,IRUGACURE 500)40μlを加え、撹拌後、真空ポンプにて脱気を行った。その後、上記操作により得られた混合溶液を、図5に示すように、ガラス板上のシリコーンゴム製型(厚さ1mm)の内側に流し込み、空気が入らない様にガラス板で蓋をし、紫外線を3分間照射(照射条件:照度3.0mW/cm,光量300mJ/cm)することにより、ゲル状のフィルムを得た。
【0079】
得られたゲル状のフィルムは、上記高分子架橋前駆体(C)における直鎖状分子(B)の重合性官能基(メタクリロイル基)を介して、直鎖状分子(B)と熱応答性成分(D)とが共重合してなる熱応答性高分子架橋体(E)(ポリマー(A)の環状分子に、末端にブロック基を有する高分子の側鎖が包接され、熱応答性成分(D)の重合体がその高分子の主鎖を構成してなる熱応答性高分子架橋体(E))であると考えられる。
【0080】
得られたゲル状のフィルムからなる熱応答性高分子架橋体(E)は、図5に示す上側のガラス板を取り外すことにより取り出し、水、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドに順次浸漬して洗浄し、その後乾燥させて透明の熱応答性高分子架橋体フィルム(厚さ:1.0mm,非延伸)を得た。
【0081】
さらに、該熱応答性高分子架橋体フィルムに対して、室温下(23℃)、水分含有量が20質量%になるように水分を含有させることにより、透明な熱応答性高分子ゲルフィルムを得た。
【0082】
〔比較例1〕
実施例1におけるポリマー(A)の替わりにポリエチレングリコールジアクリレート44mg(架橋剤に該当)を使用する以外、実施例1と同様にして熱応答性高分子架橋体フィルム(厚さ:1.0mm,非延伸)を作製した。さらに、該熱応答性高分子架橋体フィルムに対して、室温下(23℃)、水分含有量が20質量%になるように水分を含有させることにより、透明な熱応答性高分子ゲルフィルムを得た。
【0083】
〔試験例1〕(膨潤率の測定)
実施例および比較例で得られた熱応答性高分子ゲルフィルムを水に浸漬し、30分間での膨潤度の変化が5%以下になったのを確認し、水温を昇温速度1℃/minで室温から50℃まで上昇させた。そのとき、各温度での熱応答性高分子架橋体フィルムの質量を測定し、膨潤率を算出した。
【0084】
膨潤率は、乾燥したフィルムの質量(Wdry)と膨潤後のフィルムの質量(Wswell)との差から求めた。計算式は以下の通りである。
膨潤率[%]={(Wswell−Wdry)/Wdry}×100
これにより得られた温度と膨潤率との関係を図3のグラフに示す。
【0085】
図3のグラフより、実施例の熱応答性高分子ゲルフィルムは、室温(23℃)で膨潤率1500%の状態から、40℃に達した時点で膨潤率20%以下に変化していることが分る。これに対して、比較例の熱応答性高分子ゲルフィルムは、室温(23℃)で膨潤率600%を超える一方、40℃でも膨潤率300%である。すなわち、実施例の熱応答性高分子ゲルフィルムは、比較例のものと比較して、温度に応じて非常に大きい膨潤・収縮挙動を示すことが分かる。
【0086】
〔試験例2〕(収縮挙動の評価)
実施例および比較例で得られた熱応答性高分子ゲルフィルム(室温:23℃)を50℃の水に浸漬し、膨潤率S(t)を経時的に測定して、収縮率Snを算出した。
【0087】
収縮率Snは、以下の式によって求めた。
収縮率Sn=時間(t)での膨潤率S(t)/最大含水状態での膨潤率S(max)
これにより得られた時間と収縮率Snとの関係(収縮挙動)を図4のグラフに示す。なお、最大含水状態とは、室温(23℃)において水に浸したときの膨潤度の変化が30分間で5%未満となった状態をいうものとする。
【0088】
図4のグラフより、実施例の熱応答性高分子ゲルフィルムは、比較例の熱応答性高分子ゲルフィルムと比較して、温度刺激に対する収縮速度が著しく速く、本発明の要件を満たすことが分かる。
【0089】
〔試験例3〕(水滴接触角の測定)
実施例および比較例で得られた熱応答性高分子架橋体フィルムの表面の純水に対する接触角を、23℃(室温)および60℃(加熱)にて、接触角計(KRUSS社製,DSA100)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1より、比較例と比べて実施例の熱応答性高分子ゲルフィルムでは、加熱により接触角の差が40°以上に達し、表面状態が親水性から疎水性に大きく変化し、本発明の要件を満たすことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る熱応答性高分子ゲルおよび熱応答性高分子ゲルフィルムは、感熱センサー、医療用材料、温度応答性粘着剤、温度調整フィルム、熱応答性遮光フィルムなど幅広い分野に利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱刺激によって、質量が、300秒以内に最大含水状態から当該最大含水状態の20%以下まで減少するか、
熱刺激の前後での表面の水滴接触角差が、20°以上である
ことを特徴とする熱応答性高分子ゲル。
【請求項2】
前記熱刺激の温度は、室温以上、100℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱応答性高分子ゲル。
【請求項3】
前記熱応答性高分子ゲルは、10質量%以上の水分を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱応答性高分子ゲル。
【請求項4】
ロタキサン構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱応答性高分子ゲル。
【請求項5】
2個以上の環状部分を有するポリマー、及び一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子を混合して得られた高分子架橋前駆体の前記直鎖状分子の重合性官能基を介して、前記直鎖状分子と熱応答性成分とを共重合させることにより得られる高分子架橋体を含有することを特徴とする請求項4に記載の熱応答性高分子ゲル。
【請求項6】
前記ポリマーの環状部分は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種、または環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミンおよび環状ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の熱応答性高分子ゲル。
【請求項7】
前記熱応答性成分が、N−イソプロピルアミド基を有する重合性化合物であることを特徴とする請求項5または6に記載の熱応答性高分子ゲル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱応答性高分子ゲルをフィルム状に形成してなる熱応答性高分子ゲルフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−159336(P2010−159336A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1782(P2009−1782)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第57回高分子討論会 主催:社団法人高分子学会 開催日:平成20年9月24日 会場:大阪市立大学 文書の種類:高分子学会予稿集57巻 5363頁/LCDコピー
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】