説明

熱成形容器

【課題】レトルト処理に耐えうる深絞りのポリプロピレン系熱成形容器を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系シートを用いて固相圧空成形により得られる熱成形容器であって、前記シートの主層は、下記要件(A1)及び(A2)を満たすプロピレン系樹脂(A)と無機フィラー(B)とを、プロピレン系樹脂(A)及び無機フィラー(B)の合計を100重量%として、プロピレン系樹脂(A)を50〜99重量%、無機フィラー(B)を50〜1重量%含むプロピレン系樹脂組成物(X)からなり、容器の深さ/口径の比が1.0以上の深絞り構造を有することを特徴とする熱成形容器による。
要件(A1):メルトフローレート(MFR)が0.3〜3.0g/10分
要件(A2):示差走査熱量計(DSC)で測定された融解ピーク温度が160℃以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形容器に関し、さらに詳しくは、レトルト処理に耐えうる深絞りの熱成形容器に関し、ポリプロピレン系シートを融解ピーク温度以下の温度で固相圧空成形することにより得られる熱成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を用いた容器が製造されている。熱可塑性樹脂の中でも、プロピレン系樹脂組成物は、耐熱性、剛性、耐衝撃性、衛生面などに優れていることから、食品等の容器として好適に用いられており、特に、高い耐熱性を必要とする電子レンジでのレンジアップ容器、高温充填が必要な容器等に使用範囲が広がってきている。
【0003】
食品容器として、容器の口径に対して内容物を収容する本体の深さが深い容器、いわゆる深絞り容器は、口径に比較し内容量を多くできる、持ちやすいといった点で有効である。
このような深絞り容器の成形において、射出成形が、用いる金型によって所望の形状に成形し易いという利点から、深絞り容器の成形に適している。しかし、射出成形は、多数個取りにした場合の金型費用が高い、生産スピードが熱成形と比較し遅い、薄肉成形品を生産しにくいという問題を有している。
【0004】
一方、熱可塑性樹脂をシート状に押出成形した後、そのシートを再加熱して所望の容器を得る、真空成形、真空圧空成形、固相圧空成形等の熱成形法が、成形し易く生産性が高いことから大量生産に向く上、多層化製品を得るのも容易なことから、広く普及している。
しかし、真空成形、真空圧空成形等のシートを溶融した状態で容器を成形する熱成形法は、シートを融点以上の温度まで再加熱して容器とするため、容器の深さ/口径比(以下、「深絞り比」と略記することがある。)が大きく容器として価値の高い深絞り容器を成形することが難しい。
【0005】
また、近年は食品の安全性確保のために高温レトルト処理が行われることが多く、このような高温レトルト処理に耐えられる包装材料が求められてきており、フィルム材料については、耐熱性、シール性を兼ね備えた材料が各種提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。一方、シートを熱成形して得られる熱成形容器についても各種材料の提案がなされてきている(特許文献3及び特許文献4参照)が、固相圧空成形による深絞り容器成形が可能なレトルト耐熱シート材料としては十分ではなく、特に、本発明者らの検討によれば、従来の固相圧空成形による深絞り容器においては、レトルト処理をする際の収縮が大きいという問題点が見出され、このような問題点が解決されたレトルト処理が可能な深絞り熱成形容器が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−150892号公報
【特許文献2】特開2006−307120号公報
【特許文献3】特開2006−282259号公報
【特許文献4】特開2008−207818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、ポリプロピレン系シートを圧空成形することで製造可能であり、固相圧空成形して得られるレトルト処理が可能な深絞り構造を有する熱成形容器であって、成形性が良好であり、特にレトルト処理した際の収縮率が小さい熱成形容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のプロピレン系樹脂を無機フィラーで複合化した樹脂組成物からなるポリプロピレン系シートを固相圧空成形すると、レトルト処理に対する耐熱性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリプロピレン系シートを用いて固相圧空成形により得られる熱成形容器であって、前記シートの主層は、下記要件(A1)及び(A2)を満たすプロピレン系樹脂(A)と無機フィラー(B)とを、プロピレン系樹脂(A)及び無機フィラー(B)の合計を100重量%として、プロピレン系樹脂(A)を50〜99重量%、無機フィラー(B)を50〜1重量%含むプロピレン系樹脂組成物(X)からなり、容器の深さ/口径の比が1.0以上の深絞り構造を有することを特徴とする熱成形容器が提供される。
要件(A1):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、2.16kg荷重)が0.3〜3.0g/10分
要件(A2):示差走査熱量計(DSC)で測定された融解ピーク温度が160℃以上
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリプロピレン系シートは、さらに、バリア層として、エチレン−ビニルアルコール共重合体層又はメタキシリレンアジパミド系ポリアミド樹脂層を有することを特徴とする熱成形容器が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は第2の発明において、プロピレン系樹脂組成物が、結晶核剤(C)を含有することを特徴とする熱成形容器が提供される。
【0012】
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、熱成形容器が、レトルト処理が施されるための容器であることを特徴とする熱成形容器が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱成形容器は、レトルト処理によっても、容器の収縮が非常に小さいため、特に食品容器や医療容器等に、広く適用することが可能である。
また、本発明の熱成形容器は、特定のポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系シートを用いて、これに固相圧空成形法を適用することによって、容器の大小、形状の違いがあるにもかかわらず、レトルト処理による変形の少ない容器状の成形品を、歩留まり良く、高速サイクルで、安定して容易に成形することができるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱成形容器は、ポリプロピレン系シートを用い、固相圧空成形により得られる熱成形容器であって、シートの主層は、下記要件(A1)及び(A2)を満たすプロピレン系樹脂(A)と無機フィラー(B)とを、プロピレン系樹脂(A)及び無機フィラー(B)の合計を100重量%として、プロピレン系樹脂(A)を50〜99重量%、無機フィラー(B)を50〜1重量%含むプロピレン系樹脂組成物(X)からなり、成形容器は、容器の深さ/口径の比が1.0以上の深絞り構造を有することを特徴とする。
要件(A1):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、2.16kg荷重)が0.3〜3.0g/10分
要件(A2):示差走査熱量計(DSC)で測定された融解ピーク温度が160℃以上
以下、本発明を項目毎に、順次説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。尚、本明細書において「〜」という表現を用いてその前後に数値を記載する場合、その前後の数値を含む意味で用いることとする。
【0015】
[プロピレン系樹脂(A)]
本発明においては、熱成形を行う材料シートの主層を構成するプロピレン系樹脂組成物(X)に用いる第1の成分として、特定のプロピレン系樹脂(A)が用いられている。
係るプロピレン系樹脂(A)は、前記要件(A1)及び(A2)に示す特性・性状を有するものである。
【0016】
・要件(A1):メルトフローレート(MFR)
本発明において使用するプロピレン系樹脂(A)は、前記要件(A1)に示すとおり、温度230℃、2.16kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が0.3〜3.0g/10分であることを特徴とする。
MFRが0.3g/10分未満では、溶融流動性が低下しシート成形が困難になる。一方、MFRが3.0g/10分を超えると、容器成形時の成形温度が低い温度となり、レトルト処理時の容器の収縮率が大きくなり好ましくない。この中でも、MFRは0.4〜2.5g/10分であることが好ましい。
【0017】
なお、メルトフローレート(MFR)は、JIS K6921−2の「プラスチック−ポリプロピレン(PP)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準拠して、試験条件:230℃、2.16kg荷重で測定した値である。
プロピレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)の制御は、従来から公知の方法で可能であり、通常は、プロピレン系樹脂(A)の重合条件である温度や圧力を調節したり、重合時に添加する水素等の連鎖移動剤の添加量を制御することにより、行うことができる。
【0018】
・要件(A2):融解ピーク温度
また、プロピレン系樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)により、測定された融解ピーク温度が160℃以上であることを特徴とする。融解ピーク温度が160℃未満の場合は、容器の剛性及び耐熱性が低下するとともに、容器成形時の成形温度が低い温度となり、レトルト処理時の容器の収縮率が大きくなる。融解ピーク温度は162℃以上がより好ましい。融解ピーク温度の上限としては、特に制限はないが、通常200℃である。融解ピーク温度は好ましくは180℃以下、より好ましくは175℃以下である。
融解ピーク温度を調整するには、重合反応系へ供給するα−オレフィン等の共重合モノマーの量を制御することにより、容易に調整することができる。
なお、融解ピーク温度の具体的測定は、セイコーインスツルメンツ社製DSCや、その他の同等のDSCを用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温し、融解させたときのピーク温度を融解ピーク温度(単位:℃)とすればよい。
【0019】
・プロピレン系樹脂(A)の製造方法
本発明で用いられるプロピレン系樹脂(A)を製造するための重合用触媒としては、チーグラーナッタ型触媒、メタロセン触媒等が挙げられ、特に限定はされないが、160℃以上の融解ピーク温度の重合体を得るためには、塩化マグネシウム担持型のチーグラーナッタ型触媒が好ましい。
プロピレン系樹脂(A)の重合方法としては、スラリー法、バルク法、溶液法、気相法等の各種汎用プロセスが適用できる。これら重合反応は、単独反応器だけでなく、複数の反応器を用いて多段にしてもよく、重合方法も例えばバルク法−気相法等、複数組み合わせて用いることもできる。
本明細書において、プロピレン系樹脂(A)という語を用いる場合、前記要件(A1)及び(A2)を満たすものであれば、プロピレン単独重合体であっても、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。但し、プロピレンを含む全α−オレフィン成分のうち、プロピレンのモル%が最も多いものを意味する。また、本明細書において、特に断らない限り、「α−オレフィン」という語は、プロピレンを除くものとし、また、エチレンを含むものとする。よって、プロピレン系樹脂(A)は、プロピレンの単独重合体、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとα−オレフィンとの共重合ゴム成分を含むブロック共重合体等が挙げられ、一種類でも、二種類以上の混合物としても、用いることができるが、プロピレンの含量が、50モル%以上であるものが好ましく、70モル%以上であるものがより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。更に、160℃以上の融解ピーク温度の重合体を得るためには、プロピレンの単独重合体が好ましい。
【0020】
プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとα−オレフィンとの共重合ゴム成分を含むブロック共重合体等のプロピレン共重合体に用いるα−オレフィンとしては、炭素数2〜20のα−オレフィンが挙げられる。好ましくはエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の炭素数2〜8のα−オレフィン、より好ましくはエチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のα−オレフィンであり、これらのα−オレフィンは、一種類での共重合体としても、二種類以上の多元系共重合体としてもよい。
具体的には、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−オクテン共重合体のような、各種二元あるいは三元共重合体が挙げられる。
プロピレン系樹脂(A)としてプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体を用いる場合、160℃以上の融解ピーク温度の重合体を得るためにはα−オレフィンの割合が、0.1〜1モル%程度が好ましい。
【0021】
また、重合に用いる触媒は、これにオレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付されたものが好ましい。予備重合処理を行うことにより、本重合を行った際に、ゲルの生成を防止できる。その理由としては、本重合を行った際の重合体粒子間で長鎖分岐を均一に分布させることができるためと考えられ、また、そのことにより溶融物性を向上させることができる。
【0022】
予備重合時に使用するオレフィンは、特に限定はないが、プロピレン、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等を例示することができる。オレフィンのフィード方法は、オレフィンを反応槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持するフィード方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせる等、任意の方法が可能である。予備重合温度、時間は、特に限定されないが、各々−20℃〜100℃、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が、触媒成分1に対する重量比で、好ましくは0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜50である。また、予備重合時に触媒成分を添加、又は追加することもできる。
また、上記の各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させる等の方法も可能である。
【0023】
・重合用触媒、重合方法
重合様式は、オレフィン重合用触媒とモノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。
具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いる、所謂バルク法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーをガス状に保つ気相法などが採用できる。また、連続重合、回分式重合を行う方法も適用される。また、反応器を1つだけ用いる単段重合以外に、2段以上の多段重合することも可能である。
【0024】
スラリー重合の場合は、重合溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素の単独又は混合物が用いられる。
また、前記要件(A−1)を満たす為に、重合温度、重合圧力、分子量調整剤を以下の条件にすることが好ましい。重合温度は、通常0℃以上、150℃以下である。特に、バルク重合を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は80℃以下が好ましく、更に好ましくは75℃以下である。
さらに、気相重合を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は100℃以下が好ましく、更に好ましくは90℃以下である。
重合圧力は、大気に対する相対圧力として、1.0MPa以上、5.0MPa以下である。特に、バルク重合を用いる場合には、1.5MPa以上が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以上である。また上限は4.0MPa以下が好ましく、更に好ましくは3.5MPa以下である。
さらに、気相重合を用いる場合には、大気に対する相対圧力として、1.5MPa以上が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以上である。また上限は2.5MPa以下が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以下である。
【0025】
さらに、分子量調節剤として、また活性向上効果のために、補助的に水素を用いることができる。水素は、プロピレンに対してフィード比で、0〜1mol%の範囲で用いるのがよく、好ましくは0.0001mol%以上であり、さらに好ましくは0.001mol%以上用いるのがよい。
使用する水素の量を変化させることで、生成する重合体の平均分子量の他に、分子量分布、分子量分布の高分子量側への偏り、非常に高い分子量成分、分岐(量、長さ、分布)を制御することができ、そのことにより、溶融張力、溶融延展性といった溶融物性を制御することができる。
【0026】
また、プロピレン以外に、炭素数2〜20のα−オレフィンをコモノマーとして使用する共重合を行ってもよい。プロピレン系樹脂(A)をプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合とする場合には、プロピレン系樹脂(A)中の(総)コモノマー含量は、好ましくは、0.1モル%以上、1モル%以下の範囲であり、上記コモノマーを複数種使用することも可能である。好ましいコモノマーの具体例としては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2〜8のα−オレフィン(但し、プロピレンを除く。)であり、より好ましくはエチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のα−オレフィン(但し、プロピレンを除く。)である。
プロピレン以外に、炭素数2〜20のα−オレフィンをコモノマーとして使用する共重合を行なう場合には、本発明に係るプロピレン系樹脂(A)を溶融物性と触媒活性をバランスよく得るためには、エチレンを0.5モル%以下で用いるのが好ましい。また、160℃以上の融解ピーク温度の重合体を得るためにも、エチレンを0.5モル%以下で用いるのが好ましい。
特に剛性の高い重合体を得るためには、重合体中に含まれるエチレンを0.2モル%以下になるように、エチレンを用いるのがよく、更に好ましくはプロピレン単独重合である。プロピレン系樹脂(A)は、融解ピーク温度の高いプロピレンホモ重合体が好ましく、具体的な銘柄としては、例えば、日本ポリプロ株式会社社製の商品名「ノバテック(登録商標)PP」が好ましく挙げられる。
【0027】
[無機フィラー(B)]
本発明において、熱成形を行う材料シートの主層を構成するプロピレン系樹脂組成物(X)には、無機フィラー(B)を使用する。無機フィラー(B)は熱安定性が良く、変形しないため、これをポリプロピレン系樹脂組成物(X)に配合することで熱成形容器としたときの収縮率を小さくすることができる。また、成形温度を高くすることができるため、得られる熱成形容器の収縮率が小さくなる。
【0028】
無機フィラー(B)としては、シリカ、タルク、マイカ、クレー等の天然系の無機フィラー、及び炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物の無機フィラー、珪酸ナトリウム、珪酸カルシウム等の珪酸塩の無機フィラー、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、ゼオライト等の酸化物の無機フィラー、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類、カーボンブラック、グラファイト等の炭素系の無機フィラー等が挙げられる。これらに挙げたものの中でも天然系の無機フィラーが好ましく、タルク、マイカがより好ましく、タルクが特に好ましい。以上で挙げた無機フィラーは1種のみで用いても、2種以上を組み合わせ用いることもできる。無機フィラーの粒径は特に限定されないが、好ましくは0.1〜50μmであり、より好ましくは5〜20μmである。
【0029】
無機フィラー(B)は樹脂成分との親和性を向上させて、無機フィラーの分散性や得られる成形体の機械的強度を改良したり、無機フィラーの表面を化学的に安定化させて、変色や樹脂劣化を防ぐ目的で、表面処理されたものが望ましい。表面処理剤としては、界面活性剤、カップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、高級アルコール、各種ワックス、極性ポリオレフィン等を用いることができる。中でも、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のアミノシラン、エポキシシラン、イソプロピルトリ(N−アミドエチル、アミノエチル)チタネ−トが好ましい。
【0030】
[プロピレン系複合樹脂組成物(X)]
熱成形を行う材料シートの主層を構成するプロピレン系樹脂組成物(X)は、上記プロピレン系樹脂(A)と無機フィラー(B)の各成分を混合して得られる。無機フィラー(B)の配合比率は、プロピレン系樹脂(A)及び無機フィラー(B)の合計を100重量%として、プロピレン系樹脂(A)が50〜99重量%、無機フィラー(B)が50〜1重量%である。無機フィラーの量が50重量%を超えると、樹脂材料中の無機フィラーの分散性が低下し、成形時の押出性や容器等の熱成形品の賦型性、耐寒性、耐衝撃性が劣る。一方、プロピレン系樹脂(A)が99重量%を超えると、容器等の二次成形品の剛性や耐熱性が劣るため、熱成形品の大きさに限界が生じたり、補強構造の複雑な設計を要することから金型費が高くなったり、形状付与等による容器生産性が劣る等の問題が生じる。また、プロピレン系樹脂(A)が99重量%を超えることは、無機フィラー(B)が1重量%未満となることを意味し、本明細書の実施例で示すような熱レトルト性の改良効果が不十分となる。
無機フィラー(B)の好ましい量は、プロピレン系樹脂(A)及び無機フィラー(B)の合計を100重量%として、40重量%以下、より好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以下であり、また、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%である。一方、プロピレン系樹脂(A)の配合量は、無機フィラー(B)の好ましい量に合わせて好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、また、好ましくは97重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。
【0031】
これらのプロピレン系樹脂(A)、無機フィラー(B)、及び以下に説明するその他の配合剤の混合は、例えばゲレーションミキサーやヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速撹拌機付混合機、リボンブレンダー、タンブラーなどの通常の混合装置が使用でき、さらに押出機やニーダー、カレンダーロール等も使用できる。これらの装置を単独機或いは2機併用の混合機等で溶融分散させながら混練した後にペレット化することにより、プロピレン系複合樹脂材料とすることができる。
【0032】
[その他の配合剤]
ポリプロピレン系樹脂組成物(X)には、本発明の効果を著しく阻害しない範囲であれば、上記ポリプロピレン系樹脂(A)及び無機フィラー(B)以外の配合剤(本明細書において「その他の配合剤」と称することがある。)を使用することができる。
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物(X)には、ポリプロピレン系樹脂(A)以外の他の重合体を例えば0〜20重量%の割合で配合することができる。
他の重合体としては、プロピレン単独あるいはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体(但し、プロピレン系樹脂(A)に該当するものを除く。)、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等の重合体、各種熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
詳細には、プロピレン系樹脂組成物(X)を80重量%以上、残りの0〜20重量%の部分は、汎用の各種プロピレン(共)重合体、エチレン−プロピレン共重合体(但し、プロピレン系樹脂(A)に該当するものを除く。)、低密度又は高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリレート共重合体、各種エラストマー等のような樹脂、エラストマー、充填剤、添加剤のような材料を任意に配合できる。これらの配合材料は、主層である基材層としての役割を果たす特性を備えたものである。
【0033】
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物(X)には、熱レトルト性を向上させるために、結晶核剤(C)が配合されていることが好ましい。
結晶核剤(C)の好ましい配合量は、プロピレン系樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部の範囲であり、より好ましくは0.02〜0.8重量部、さらに好ましくは0.04〜0.5重量部である。結晶核剤の配合量がこの範囲未満の場合、熱レトルト性の向上効果が十分に得られにくく、この範囲を超えると経済性の観点から好ましくない。
【0034】
本発明において好ましく用いられる結晶核剤としては、有機カルボン酸金属塩系、有機リン酸金属塩系、ソルビトール系、ロジンの金属塩系、アミド系等の結晶核剤を挙げることができる。
【0035】
有機カルボン酸金属塩系の結晶核剤としては、例えば安息香酸アルミニウム、安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸リチウム、ジ−パラ−t−ブチル安息香酸アルミニウム、ジ−パラ−t−ブチル安息香酸チタン、ジ−パラ−t−ブチル安息香酸クロム、ヒドロキシ−ジ−t−ブチル安息香酸アルミニウム、アルミニウム−p−ブチルベンゾエート、β−ナフトエ酸ナトリウムなどの芳香族カルボン酸金属塩が好ましく挙げられる。
【0036】
有機リン酸金属塩系結晶核剤としては、例えばビス(4−t−ブチルフェニル)リン酸ナトリウム塩、ビス(4−t−ブチルフェニル)リン酸リチウム塩、ビス(4−t−ブチルフェニル)リン酸アルミニウム塩、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)リン酸ナトリウム塩、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)リン酸リチウム塩、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)リン酸アルミニウム塩、2,2’−メチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)リン酸カルシウム塩、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)リン酸ナトリウム塩、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)リン酸塩リチウム、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)リン酸アルミニウム塩、ビス−(4−t−ブチルフェニル)リン酸カルシウム塩などの芳香族カルボン酸金属塩が好ましく挙げられる。これらは市販されているものを使用でき、例えばADEKA社製商品名「アデカスタブNA−11」(リン酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム塩)、同「アデカスタブNA−21」(リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)アルミニウム塩)等が、好ましく挙げられる。
【0037】
ソルビトール系結晶核剤としては、例えば、ジベンジリデンソルビトール、1,3−ジ(メチルベンジリデン)ソルビトール、2,4−ジ(メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−ジ(エチルベンジリデン)ソルビトール、2,4−ジ(エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−ジ(ブチルベンジリデン)ソルビトール、2,4−ジ(ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−ジ(メトキシベンジリデン)ソルビトール、2,4−ジ(メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3−ジ(エトキシベンジリデン)ソルビトール、2,4−ジ(エトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3−クロルベンジリデン−2.4−メチルベンジリデンソルビトール、モノ(メチル)ジベンジリデンソルビトール等が好ましく挙げられる。これらは市販されているものを使用でき、例えば新日本理化社製商品名「ゲルオールMD」、ミリケン社製商品名「ミラッドNX3988」等が好ましく挙げられる。
【0038】
これらの結晶核剤の中で、有機リン酸金属塩系結晶核剤が熱レトルト性向上効果の面で特に好ましい。
【0039】
また、プロピレン系樹脂組成物(X)には、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤、金属不活性剤など、通常ポリプロピレンに用いることのできる各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤及びチオ系酸化防止剤などが例示でき、中和剤としては、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩類が例示でき、光安定剤及び紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン類、ニッケル錯化合物、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類などが例示できる。
【0040】
[ポリプロピレン系シート]
本発明で使用されるポリプロピレン系シートは、少なくともプロピレン系樹脂組成物(X)を用いた主層からなるシートであり、2層以上の多層構造であってもなんら差し支えない。例えば、主層と最内層との間に、エチレン−ビニルアルコール共重合体やMXD6ポリアミド(MXD6ポリアミドは、メタキシリレンジアミンとアジピン酸を主成分として用いて得られるメタキシリレンアジパミド系ポリアミドである。)といったバリア性(バリア性樹脂層)及び接着層を配置したバリアシートを設けても、最外層に高光沢層や低光沢層といった意匠性を持たせた層を配置することも可能である。
【0041】
特にレトルト処理を行う医療容器、食品容器では、内容物の酸化劣化を防ぐために、バリア性樹脂をバリア層とする多層構成にすることが好ましい。このため、本発明のプロピレン系シートは、容器本体部分を構成する主層と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、MXD6ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン(PVDC),無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、非結晶ポリエチレンテレフタレート、低発泡ポリスチレンなどからなる各種材料を積層した、ガスバリヤー性を考慮した、いわゆる3層構造、4層構造の積層体とすることもできる。
ガスバリヤー性の層としては、前記のうち、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)あるいはMXD6ポリアミドが好ましい。
【0042】
本発明で使用されるポリプロピレン系シートの厚みは、0.3〜4mmであることが好ましく、0.5〜3.5mmがさらに好ましく、0.8〜3mmが特に好ましい。厚みが0.3mmを下回る場合は、得られる容器の剛性が損なわれるおそれがある。一方、厚みが4mmを上回る場合は、シート成形が困難になるおそれがある。
さらに、本発明で使用されるポリプロピレン系シートがバリア層を有する場合、バリア層と主層の厚み比(バリア層/主層)は、0.02以上2以下であることが好ましく、0.04以上0.15以下がより好ましく、0.06以上0.12以下がさらに好ましい。バリア層と主層の厚み比が0.02未満になると、レトルト処理時にバリア性樹脂が吸水しバリア性能が低下する恐れがある。2を超えると、容器成形時のバリア層の伸びムラが発生し、容器の商品価値が低下する恐れがある。
なお、本発明においてポリプロピレン系シートが主層とバリア層からなる時、バリア層及び/又は主層の外側に、本発明の効果を損なわない範囲で他の層があってもよい。同様に、主層とバリア層との間においても他の層があってもよい。
【0043】
このようなポリプロピレン系シートを得るには、ポリプロピレンの成形に通常用いられる複数のダイを備えた押出機を用い、フィードブロックやマルチマニホールドを用いて複数層のポリプロピレン系シートに成形することができる。
ポリプロピレン系シートの具体的製造法の例としては、プロピレン系樹脂組成物(X)を、公知の単軸又は二軸のスクリュー押出機に通して、コートハンガーダイからシート状に押出した後、(内部で冷却水や油が循環している)金属ロール表面に、エアーナイフ、エアーチャンバー、硬質ゴムロール、スチールベルト、金属ロールにて押さえつけ冷却固化されることによって得ることができる。又、シート両面をスチールベルトで挟んで冷却固化することもできる。
このようなシートの冷却方法の中では、シート両面に金属ロール及び/又はスチールベルトを使用する方法が表面凹凸の少ないシート表面、つまり透明性に優れたシートを得られることから最も好ましい方法である。
【0044】
[熱成形容器]
本発明の熱成形容器は、ポリプロピレン系シートを用い、固相圧空成形により得られる、容器の深さ/口径の比が1.0以上の深絞り構造を有するものである。
本発明の熱成形容器は、容器の形状が角型や丸型に関係無く、容器本体の底面部までの(最大)深さと容器本体の(最大)幅(口径)との比である絞り比が1.0以上である必要があり、1.2以上であることが望ましい。深絞り比は本明細書の実施例で例示するように、ノギス等で測定することができる。絞り比が1.0以上であるものは、一般に深絞り容器と呼ばれ、好ましくはプラグアシスト固相圧空成形で得られ、容器の剛性、衝撃強度に優れたものであるが、固相圧空成形では通常はレトルト処理による収縮の小さな容器は得られにくい。しかし、本発明の熱成形容器はレトルト処理による収縮の小さな容器である。
【0045】
この様な熱成形容器は、ポリプロピレン系シートを用い、好ましくは該シートを主層の融解ピーク温度以下の温度で軟化させ、ポリプロピレンシートの成形に用いられ、好ましくはプラグアシスト固相圧空成形機により得ることができる。
このような成形における加熱方法としては、間接加熱、熱板加熱、熱ロール加熱などが挙げられる。該シートの融解ピーク温度を越える温度で成形を行うと、得られる熱成形容器の透明性、光沢、肉厚均一性が悪化し、アシストプラグに付着し、成形不能となる場合がある。
本発明の熱成形容器は、このような固相圧空成形を、ポリプロピレン系シートを構成する主層のプロピレン系樹脂組成物(X)の融解ピーク温度より低い温度でプラグアシスト成形にて行い、製造することが好ましい。
【0046】
好ましい成形方法であるプラグアシスト熱成形は、プロピレン系樹脂組成物(X)からなる主層の融解ピーク温度以下で行う際、好ましくは融解ピーク温度較差5〜30℃の範囲になるような温度で加熱をすることにより主層を軟化させ、次に、アシストプラグを押し下げることにより、ポリプロピレン系シートを容器状にし、固相圧空成形により容器状に予備賦形をして、引き続き、該予備賦形部分に対して、空気圧を付加して該ポリプロピレン系シートを金型キャビティ表面に密着させることにより深絞り構造の容器を成形することができる。
【0047】
[熱成形容器の用途]
本発明の熱成形容器は、意匠性に優れレトルト処理が可能なため、食品容器、洗剤容器、医療用容器等の各種分野の容器に用いることができ、特に、飲料食品分野などにおいて、広く用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
なお、実施例及び比較例において、熱成形容器又はその構成成分についての諸物性は、下記の評価方法に従って測定、評価し、また、使用した樹脂(使用材料)としては下記のものを用いた。
【0049】
[1.評価方法]
(1)メルトフローレート(MFR)[単位:g/10分]:
プロピレン系樹脂(A)は、JIS K7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した。
【0050】
(2)融解ピーク温度(Tm):
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を使用し、プロピレン系樹脂組成物を5mgアルミパンに充填し、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で40℃まで降温して、結晶化させた時の結晶最大ピーク温度(℃)として結晶化温度(Tc)を求め、その後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)として融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0051】
(3)容器の絞り比:
深絞り成形体の口部外径及び深さをノギスで測定し、その比(深さ/外径)を絞り比とした。
【0052】
(4)容器成形温度:
容器成形機内の成形直前のシート表面温度を非接触式放射温度計で測定した。
【0053】
(5)成形性(プラグ付着性):
実施各例によって得られたポリプロピレン系シートを用いて30分間連続して12shot/minのスピードで容器成形を行い、ポリプロピレン系シートがプラグへ付着するかどうかを確認した。
○:ポリプロピレン系シートの付着なし
×:ポリプロピレン系シートの付着があり、成形不能
【0054】
(6)熱レトルト性:
得られた熱成形容器を温度125℃のオーブン中で30分間処理し、その前後の容積を測定し、体積収縮率を測定した。体積収縮率が小さいほど熱レトルト性に優れると評価される。
○:2.5%未満
×:2.5%以上
【0055】
[2.使用材料]
(1)プロピレン系樹脂(A)
プロピレン系樹脂(A)として、以下のプロピレン樹脂を使用した。
「EA6A」(商品名、日本ポリプロ社製、プロピレン単独重合体)
MFR=1.9g/10分 融解ピーク温度:168℃
「EA9H」(商品名、日本ポリプロ社製、プロピレン単独重合体)
MFR=0.5g/10分 融解ピーク温度:161℃
「MA3」(商品名、日本ポリプロ社製、プロピレン単独重合体)
MFR=11g/10分 融解ピーク温度:160℃
「EG8B」(商品名、日本ポリプロ社製、エチレン−プロピレンランダム共重合体)
MFR=0.75g/10分 融解ピーク温度:143℃
なお、MA3及びEG8Bは、プロピレン系樹脂(A)としての要件を満たさないものである。
【0056】
(2)タルク
富士タルク社製のタルク(平均粒径10μm)を使用した。
【0057】
(実施例1)
上記EA6A:94重量%とタルク:6重量%からなる混合物100重量部に対して、中和剤としてステアリン酸カルシウムを0.05重量部、酸化防止剤としてテトラキス―[メチレン―3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.1重量部、酸化防止剤としてトリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフアイトを0.1重量部配合したものを、温度170℃のゲレーションミキサーで溶融分散させ、溶融分散された混合物を口径60mmφの単軸押出機で、温度230℃で、押し出し、プロピレン系複合樹脂ペレットを得た。
スクリュー口径50mmの押出機にこのプロピレン系複合樹脂ペレットを投入し、樹脂温度230℃にて加熱溶融可塑化してT型ダイスより押出して得たポリプロピレン系シートを、表面温度が60℃に制御された鏡面仕上げの金属製キャストロ−ルにて挟み、冷却固化させながら、1m/分の速度で連続的に引き取り、幅500mm、全体厚み2.0mmのシートを得た。
次いで、このシートを用いて、固相圧空成形機RDM50K(イーリッヒ社製)で口径75mmφ、深さが105mmの熱成形容器(絞り比1.4)を成形した。容器成形温度は162.7℃であった。
この熱成形容器について、前述の各種評価を行った。その結果を表−1に示す。
【0058】
(実施例2)
EA6A:98重量%とタルク:2重量%にした以外は、実施例1と同様に実施した。
(実施例3)
EA6A:88重量%とタルク:12重量%にした以外は、実施例1と同様に実施した。
(実施例4)
EA6A:80重量%とタルク:20重量%にした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0059】
(実施例5)
EA6A:60重量%とタルク:40重量%にした以外は、実施例1と同様に実施した。
(実施例6)
EA9H:94重量%とタルク:6重量%にした以外は、実施例1と同様に実施した。(実施例7)
EA9H:94重量%とタルク:6重量%からなる混合物100重量部としたものに、造核剤として、リン酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム塩(NA−11、ADEKA社製商品名)を0.1重量部添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0060】
(実施例8)
上記EA6A:94重量%とタルク:6重量%からなる混合物100重量部に対して、中和剤としてステアリン酸カルシウムを0.05重量部、酸化防止剤としてテトラキス―[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.1重量部、酸化防止剤としてトリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフアイトを0.1重量部配合したものを、温度170℃のゲレーションミキサーで溶融分散させ、溶融分散された混合物を口径60mmφの単軸押出機で、温度230℃で、押し出し、プロピレン系複合樹脂ペレットを得た。
スクリュー口径50mmの押出機にこのプロピレン系複合樹脂ペレットを投入し、またスクリュー口径40mmの押出機にEVOHペレット(「BX6804B」、商品名、日本合成化学工業社製)を投入し、さらに、接着性層用として他のスクリュー口径40mmの押出機に接着性樹脂「モディックP604V」、商品名、三菱化学社製、接着性ポリプロピレン樹脂)を投入し、樹脂温度230℃にて加熱溶融可塑化してT型ダイスより共押出して得たポリプロピレン系シートを、表面温度が60℃に制御された鏡面仕上げの金属製キャストロ−ルにて挟み、冷却固化させながら、1m/分の速度で連続的に引き取り、幅500mm、全体厚み2.0mm(プロピレン系複合樹脂層/接着性層/EVOH層/接着性層/プロピレン系複合樹脂層=0.88mm/0.06mm/0.12mm/0.06mm/0.88mm)の3種5層からなる多層シートを得た。
次いで、この多層シートを用いて、固相圧空成形機RDM50K(イーリッヒ社製)で口径75mmφ、深さが105mmの熱成形容器(絞り比1.4)を成形した。容器成形温度は162.5℃であった。
この熱成形容器について、前述の各種評価を行った。その結果を表−1に示す。
【0061】
(実施例9)
EVOHの代わりに、メタキシリリレンアジパミド樹脂(商品名「MXD6 S7007」、三菱ガス化学社製)を用いた以外は、実施例7と同様に実施した。
評価結果を表−1に示す。
【0062】
(比較例1)
タルクを使用しなかった以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表−2に示す。
(比較例2)
EA6Aの代わりに、MA3:35重量%とEA6A:65重量%からなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
(比較例3)
EA6Aの代わりにEG8Bを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
(比較例4)
EA6Aの代わりにEA9Hを用いた以外は、比較例1と同様に実施した。
以上の結果を表−2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
上記表−1、表−2から明らかなように、本発明の規定を満足する実施例1〜9では、固相圧空成形でレトルト処理を想定した熱処理による収縮の小さな熱成形容器が安定的に得られたのに対し、本発明の規定を満たさない比較例1〜4で得られた熱成形容器は、レトルト処理を想定した熱処理で大きな収縮が起こり、商品価値の劣る熱成形容器であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の熱成形容器は、固相圧空成形による意匠性に優れた、レトルト処理が可能な容器であるため、食品容器や飲料容器分野などにおいて、広く用いることができる。そのため、その産業上の利用可能性は非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系シートを用いて固相圧空成形により得られる熱成形容器であって、前記シートの主層は、下記要件(A1)及び(A2)を満たすプロピレン系樹脂(A)と無機フィラー(B)とを、プロピレン系樹脂(A)及び無機フィラー(B)の合計を100重量%として、プロピレン系樹脂(A)を50〜99重量%、無機フィラー(B)を50〜1重量%含むプロピレン系樹脂組成物(X)からなり、容器の深さ/口径の比が1.0以上の深絞り構造を有することを特徴とする熱成形容器。
要件(A1):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、2.16kg荷重)が0.3〜3.0g/10分
要件(A2):示差走査熱量計(DSC)で測定された融解ピーク温度が160℃以上
【請求項2】
ポリプロピレン系シートは、さらに、バリア層として、エチレン−ビニルアルコール共重合体層又はメタキシリレンアジパミド系ポリアミド樹脂層を有することを特徴とする請求項1に記載の熱成形容器。
【請求項3】
前記プロピレン系樹脂組成物が、結晶核剤(C)を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱成形容器。
【請求項4】
熱成形容器が、レトルト処理が施されるための容器であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱成形容器。

【公開番号】特開2013−18547(P2013−18547A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134552(P2012−134552)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】