説明

熱接着シートと熱接着方法

【課題】熱伝導性が良好でありながら信頼性の高い接着を行い得る熱接着シートの提供。
【解決手段】エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物によって少なくとも表面が形成されており、加熱状態で前記表面が被着体に接着される熱接着シートであって、前記加熱状態においてその厚みを増大させ得るように前記エポキシ樹脂組成物には発泡剤が含有されており、さらに、該エポキシ樹脂組成物にはアルミナフィラーが40〜90質量%含有されており、該アルミナフィラーには、1μm以下の大きさの粒子が15〜40質量%、1μmを超え4μm以下の大きさの粒子が20〜60質量%、4μmを超え20μm以下の大きさの粒子が10〜50質量%となる割合で含有されていることを特徴とする熱接着シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物によって少なくとも表面が形成されており、加熱状態で前記表面が被着体に接着される熱接着シート、及び、エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物によって少なくとも表面が形成されている熱接着シートを加熱して被着体に接着させる熱接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホットメルト接着シートなどの熱接着シートが、部材どうしの接合用途などにおいて広く利用されている。
この種の熱接着シートとしては、ポリエステル樹脂組成物やエポキシ樹脂組成物がシート状に成形されたものが知られており、このような熱接着シートは、常温で半固形状の感圧接着剤(粘着剤)を基材シートに担持させた両面粘着シートのようなものと違って、通常、常温時において固体状であることから、高い接着強度で部材どうしを接着させることができる。
一方、この種の熱接着シートで部材どうしの接着を行うには、該熱接着シートを加熱することによって接着可能な軟化状態にし、表面の粘着性を発現させた上で、該加熱状態の熱接着シートを被着体の接着面に圧接させる必要があり、通常、接着させる部材どうしの間に挟んでこれらの部材で押圧しつつ熱接着させる工程が必要になる。
【0003】
そのため、例えば、2つの部材を熱接着シートで接着する場合において、前記部材の内の少なくとも一方を他方に対して接近させ得る状態となっていなければ部材と接着シートの間に圧力を作用させることが困難で、通常は、熱接着を行うことができない。
【0004】
このような問題に対して、加熱することで厚みを増大させ得るように、接着シートを形成している樹脂組成物に発泡剤を含有させることが検討されている(下記特許文献1参照)。
この種の樹脂組成物で、例えば、接着させる2つの部材間の間隙よりも薄い熱接着シートを構成させた場合には、該熱接着シートを前記間隙に介挿させた後に該熱接着シートを加熱することによって樹脂組成物を軟化させるとともに発泡させて熱接着シートの厚みを増大させることができ、前記発泡によって生じる圧力を接着界面に作用させることができる。
【0005】
すなわち、被着体を移動させて熱接着シートとの間に圧力を作用させることが難しいような場合でも発泡剤の利用によって被着体と熱接着シートとを良好なる接着状態で接着させ得る。
この種の熱接着シートは、被着体の接着面に細かな凹凸が生じているような場合においても発泡による圧力を利用することができることから、非発泡な熱接着シートを被着体の間に挟んで加圧するような場合に比べて前記接着面に対して追従させやすく、特許文献1にも示されているように、電磁鋼板が積層されてなるモーターのコアを被着体とするような場合においても良好なる熱接着を実施させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−311782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、接着シートを介した熱伝導性を考慮して、接着シートの形成材料として無機フィラーを含む樹脂組成物が用いられるようになってきている。
なお、同じ温度に加熱して樹脂組成物を軟化させる場合でも、無機フィラーを含んでいない場合と、熱伝導性の改善効果が確認できる程度に無機フィラーを樹脂組成物に含有させた場合とでは、一般には、その加熱状態における性状が大きく異なり、例えば、無機フィラーを含有する樹脂組成物は粘度が高く表面粘着力が低くなる傾向を示す。
【0008】
したがって、無機フィラーを含有させると、特許文献1のような発泡剤の作用を利用した接着を実施し難くなるとともに該無機フィラーによって気泡が粗くなったり、気泡膜の強度が低下したりして接着(発泡)後の熱接着シートの強度を低下させるおそれを有する。
例えば、特許文献1に記載の熱接着シートは、モーターのステーターコアに設けられた溝にコイル状に束ねた巻線(巻線コイル)を収容させて接着するような場合にも好ましく用いられ得るものではあるが、この巻線コイルが発するジュール熱をステーターコアを通じて放熱させることが求められるような場合において単に無機フィラーを含有させるだけでは熱接着シートを巻線コイルやステーターコアに対して接着させ難くなるおそれを有する。
さらには、巻線コイルやステーターコアに対して接着させることができたとしても接着強度が低いために僅かな衝撃などによって外れやすくなるおそれを有する。
【0009】
すなわち、熱伝導性の良好でありながら被着体への接着性や接着後の強度に優れた発泡性の熱接着シートを得ることが従来においては困難な状況となっている。
本発明は、上記のような問題の解決を図ることを目的としており、熱伝導性が良好でありながら信頼性の高い接着を行い得る熱接着シートの提供を目的としている。
また、熱伝導性が良好な熱接着シートを用いつつも信頼性の高い接着を行い得る熱接着方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物が用いられてなる熱接着シートとその熱接着方法とに関して鋭意検討を行ったところ、無機フィラーとしてアルミナフィラーを採用し、しかも、その粒度をある程度調整する形で配合することで被着体に対して良好なる接着性を示し、しかも、発泡後の強度に優れる熱接着シートとすることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するための熱接着シートに係る本発明は、エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物によって少なくとも表面が形成されており、加熱状態で前記表面が被着体に接着される熱接着シートであって、前記加熱状態においてその厚みを増大させ得るように前記エポキシ樹脂組成物には発泡剤が含有されており、さらに、該エポキシ樹脂組成物にはアルミナフィラーが40〜90質量%含有されており、該アルミナフィラーには、1μm以下の大きさの粒子が15〜40質量%、1μmを超え4μm以下の大きさの粒子が20〜60質量%、4μmを超え20μm以下の大きさの粒子が10〜50質量%となる割合で含有されていることを特徴としている。
【0012】
また、上記課題を解決するための熱接着方法に係る本発明は、エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物によって少なくとも表面が形成されている熱接着シートを加熱し、該加熱された前記熱接着シートの前記表面を被着体に接着させる熱接着方法であって、前記熱接着シートは、前記加熱によってその厚みを増大させ得るように前記エポキシ樹脂組成物に発泡剤が含有されており、さらに、該エポキシ樹脂組成物にはアルミナフィラーが40〜90質量%含有されており、且つ該アルミナフィラーには、1μm以下の大きさの粒子が15〜40質量%、1μmを超え4μm以下の大きさの粒子が20〜60質量%、4μmを超え20μm以下の大きさの粒子が10〜50質量%となる割合で含有されており、前記接着においては、該熱接着シートを前記加熱することによって前記エポキシ樹脂組成物を発泡させ、該発泡によって生じる圧力を前記熱接着シートと前記被着体との接着界面に作用させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無機フィラーとしてアルミナフィラーを採用し、しかも、その粒度がある程度調整された形で熱接着シートを構成するエポキシ樹脂組成物に発泡剤とともに配合されている。
なお、優れた熱伝導性を発揮させるには、ある程度の体積割合でアルミナフィラーを含有させなければならないが、粒径の大きなフィラーだけでは、加熱時における表面粘着性が十分なものにならない可能性があるとともに発泡後の気泡膜が十分な強度とならないおそれを有する。
【0014】
一方で、粒径の細かなアルミナフィラーだけでは、加熱時におけるエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、発泡剤による発泡が十分になされず、被着体との接触界面に十分な圧力を作用させることが難しくなるおそれを有する。
そして、本発明においては、熱接着シートを構成するエポキシ樹脂組成物に、所定の粒径のアルミナフィラーがバランスよく配合されているために、前記熱接着シートが被着体に対して良好なる接着性を示すとともに発泡後の熱接着シートに優れた強度が発揮され得る。
【0015】
すなわち、本発明によれば、熱伝導性が良好でありながら信頼性の高い接着を行い得る熱接着シートと、熱伝導性が良好な熱接着シートを用いつつも信頼性の高い接着を行い得る熱接着方法とが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における評価試料の作製方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、モーターやジェネレーターといった回転電機のステーターコアと巻線コイルとの接着固定に利用される熱接着シートとステーターコアに設けられたスロット溝に巻線コイルを収容させて接着固定する熱接着方法とを例に説明する。
【0018】
本実施形態に係る熱接着シートは、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂の硬化剤、独立発泡型の発泡剤、及びアルミナフィラーを含むエポキシ樹脂組成物がシート状に成形されたものである。
前記アルミナフィラーは、熱接着シートに対して優れた熱伝導性を発揮させるべくエポキシ樹脂組成物に含有される成分であり、通常、エポキシ樹脂組成物に40質量%以上の割合で含有される。
なお、より多く含有させることで熱接着シートの熱伝導率をより向上させうるものの過度に含有させると巻線コイルやステーターコアといった被着体の表面に対する接着性が十分なものにならないおそれを有する。
したがって、通常、90質量%以下の含有量とされる。
【0019】
このアルミナフィラーには、1μm以下の大きさの粒子(以下「細粒」ともいう)が15〜40質量%、1μmを超え4μm以下の大きさの粒子(以下「中間粒」ともいう)が20〜60質量%、4μmを超え20μm以下の大きさの粒子(以下「粗粒」ともいう)が10〜50質量%となる割合(ただし、「細粒」、「中間粒」、及び、「粗粒」の合計は100質量%)で含有されていることが、ステーターコアと巻線コイルとの間に優れた熱伝導性を付与しつつ高い接着力で接着させる上において重要である。
【0020】
無機フィラーを含有する樹脂組成物においては、同じ体積割合で無機フィラーを含有させた場合でも、大きな無機物粒子の割合を増大させて熱の伝導方向における樹脂と無機物粒子との界面の形成を抑制させることが熱伝導性向上を図る上で有利となる。
また、樹脂組成物を熱溶融させた場合において、無機物粒子の表面において溶融樹脂がある程度拘束されてしまい、全体的な流動特性は、このような拘束がされていない樹脂の存在割合に影響されるため、大きな無機物粒子の割合が多い方が樹脂組成物に含有される無機フィラーの合計表面積が小さくなって樹脂組成物の流動性が良好なものとなる。
一方で大きな無機物粒子を含有させると、被着体表面に対する濡れ性が低下する傾向にあるとともに樹脂組成物を発泡させた場合に、気泡膜が破れやすくなって粗大な気泡が形成される傾向になる。
したがって、同じ発泡倍率で発泡させた場合でも大きな無機物粒子の割合を増大させた場合の方が発泡後の強度を低下させるおそれを有する。
【0021】
すなわち、上記粗粒は、エポキシ樹脂組成物の熱伝導性向上と熱溶融時における流動性向上を図る上で有効な成分であり、上記細粒は、被着体との濡れ性向上と発泡後の強度の向上を図る上で有効な成分である。
そして、これらがバランスよく配合されることで該エポキシ樹脂組成物が用いられてなる熱接着シートの熱伝導性を良好なものとしつつ接着信頼性の向上を図ることができる。
【0022】
この無機フィラーを配合するエポキシ樹脂組成物のベース樹脂であるエポキシ樹脂は、その種類が特に限定されるものではないが、常温で固体状のものが好ましい。
特に、軟化点60〜100℃のものが好ましく、このような軟化温度のエポキシ樹脂としては、エポキシ当量が450〜1000g/eqのビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂が特に好ましい。
なお、前記軟化点とは、JIS K 7234により求められる値を意図しており、前記エポキシ当量とはJIS K 7236により求められる値を意図している。
このような、エポキシ樹脂としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社から、商品名「エピコート1001」、「エピコート1002」、「エピコート1003」、「エピコート1004」などとして市販されているものが挙げられる。
また、ベース樹脂であるエポキシ樹脂には、上記のようなビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂に加えてクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂を含有させることが好ましい。
【0023】
また、前記エポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂以外の樹脂成分を含有させることができる。
例えば、エポキシ樹脂組成物を硬化させた後の硬化物に粘りを与えて靱性を向上させ得る成分としてフェノキシ樹脂などをさらに含有させることができる。
【0024】
また、前記発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド類などの無機系発泡剤や、トリクロロモノフルオロメタンなどのフッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドなどのヒドラジン系化合物、p−トルエンスルホニルセミカルバジドなどのセミカルバジド系化合物、5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物、N,N’−ジニトロソテレフタルアミドなどのN−ニトロソ化合物などの有機系発泡剤などの他に炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、エポキシ樹脂の軟化点近傍あるいはそれ以上の温度で気体を発生させるものが好ましい。
なかでも、炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤は、エポキシ樹脂やポリアミド樹脂をはじめとする多くの種類の樹脂に対して与える影響が小さく、例えば、エポキシ樹脂組成物の硬化を阻害させたり、加熱老化特性を低下させたりするような悪影響を与えることを抑制させることができる点において好適である。
【0025】
また、エポキシ樹脂組成物中の発泡剤の含有量は特に限定されるものではなく、必要な発泡度合いに応じて決定すればよい。
なお、熱接着シートの発泡状態は、加熱条件などによっても変化するものではあるが、発泡剤が少ないと加熱発泡条件を調整しても熱接着シートを加熱発泡させた際の厚みの増大が十分なものにならず、ステーターコアのスロット溝内壁面や巻線コイルの表面に対して十分な圧力が発生しないおそれを有する。
このことから、所定の加熱発泡条件を選択した場合に、熱接着シートを3倍以上、好ましくは5倍以上に発泡可能な量の発泡剤をエポキシ樹脂組成物に含有させることが望ましい。
【0026】
前記硬化剤としては、例えば、イミダゾール系、アミン系などの硬化剤を挙げることができ、該硬化剤は、樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂の量とエポキシ当量とから計算されるエポキシ基の数に対して、活性水素の数が0.8〜1.2倍となる量でエポキシ樹脂組成物に含有させることが好ましく、0.9〜1.1倍となる量とすることがさらに好ましい。
【0027】
さらに、本実施形態の熱接着シートを構成するエポキシ樹脂組成物には、カップリング剤、粘着性付与剤、消泡剤、各種安定剤、顔料などの添加剤をさらに添加することができる。
【0028】
このようなエポキシ樹脂組成物を用いて熱接着シートを形成させるには、例えば、上記エポキシ樹脂と硬化剤とを(場合によってはその他の樹脂成分をも)溶解可能な有機溶媒に溶解させて樹脂溶液を作製するとともに上記アルミナフィラーを該樹脂溶液中に分散させて塗工機などで塗工可能な粘度に調整した塗工液(ワニス)を作製し、これを離型処理されたセパレータフィルムに塗布して塗膜を形成させ、これを乾燥機で乾燥させて前記塗膜をセパレータフィルムから剥離する方法などを採用することができる。
【0029】
なお、熱接着シートの厚みについては、特に限定されるものではないが、熱伝導性が求められるような用途においては、通常、その厚みが薄いことが熱伝導性の点において有利となる。
一方で、過度に薄い熱接着シートでは、十分な接着強度を確保することが難しい。
そのため、熱接着シートは、60〜250μmの厚みを有することが好ましく、60〜150μmの厚みであることが特に好ましい。
【0030】
また、先にも述べたように本実施形態に係る熱接着シートには、その厚みを5倍以上に発泡させうるように発泡剤を含有させることが好ましいが、発泡倍率を向上させると発泡後の熱接着シートの強度と熱伝導率とを低下させることになる。
したがって、その使用時には、発泡倍率が3倍以下となるように調整することが好ましい。
なお、使用時におけるエポキシ樹脂組成物の発泡倍率は、加熱温度によって調整することが可能であるとともに、スロット内壁と巻線コイルとの間の距離と、用いる熱接着シートの厚みによっても調整が可能である。
例えば、巻線コイルとスロット溝内壁との間に0.5mm程度の隙間が形成されており、この間隙に熱接着シートを収容させて前記巻線コイルとステーターコアとの熱接着を実施するような場合であれば170μm(≒0.5mm÷3)以上の厚みの熱接着シートを利用すれば発泡倍率を3倍以下とすることができ熱伝導性と接着強度とに優れた接着を実施させ得る。
【0031】
なお、巻線コイルとスロット溝との間に生じる間隙に熱接着シートを収容させるには、巻線コイルをスロット溝に収容させた後に熱接着シートを介挿させる方法や形成される間隙が予め把握できるような場合であれば、巻線コイルに所定の厚みの熱接着シートを巻き付けておいて、これをステーターコアのスロット溝に収容させる方法などが挙げられる。
その後、巻線コイルがセットされたステーターコアを熱風循環オーブンなどに収容し、前記熱接着シートを巻線コイルとステーターコアとに接着可能な温度条件、すなわち、エポキシ樹脂組成物が十分軟化可能で、前記発泡剤が発泡し、前記硬化剤による硬化反応が進行する温度となるように加熱することで前記熱接着シートを発泡させて、スロット溝内壁面ならびに巻線コイルの表面に向けてその厚みを増大させ、前記発泡に伴う圧力をその接着界面に作用させて熱接着を実施させることができる。
【0032】
この熱接着方法における加熱条件については、特に限定がされるものではないが、通常、前記エポキシ樹脂組成物が軟化して被着体に対して十分な濡れ性を発揮する程度(例えば、100〜200℃)の温度条件で、1分から1時間程度の加熱時間とされる。
なお、この熱接着方法においては、被着体への熱接着と、前記エポキシ樹脂組成物の熱硬化とを一連の工程で実施してもよく、別々の工程で実施してもよい。
例えば、巻線コイルと熱接着シートとがセットされたステーターコアを熱風循環オーブンに入れて、一旦、エポキシ樹脂組成物のベース樹脂であるエポキシ樹脂の軟化点よりも20〜50℃程度高い温度で1〜2分の加熱を行って熱接着シートを巻線コイルとスロット溝内壁面とに熱接着させた後に、このステーターコアを別に用意した熱風循環オーブンに移してこの熱風循環オーブン中でエポキシ樹脂組成物の熱硬化を完了させるようにしてもよい。
また、最初の熱風循環オーブン中でそのまま加熱を続けてエポキシ樹脂組成物の熱硬化を完了させるようにしてもよい。
【0033】
なお、このような熱接着に際しては、前記エポキシ樹脂組成物が高発泡となる温度条件で加熱発泡をさせる方が、スロット溝内壁面ならびに巻線コイルの表面において発生する圧力を向上させることができ、より良好なる接着を期待することができる。
したがって、上記熱接着方法においては、前記エポキシ樹脂組成物がその発泡に規制を受けない自然な状態において体積(発泡倍率)が5倍以上となる温度条件を選択することが好ましい。
このような温度条件を選択しながらも先に述べたようにエポキシ樹脂組成物の発泡倍率が3倍以下で被着体の接着面(スロット溝内壁面、巻線コイル表面)に前記熱接着シートの両面が接するように、用いる前記熱接着シートの厚みを選択することで該熱接着シートと被着体との間に高い圧力を作用させることができ、より信頼性の高い接着を実施させうる。
【0034】
なお、このような熱接着方法においては、アルミナフィラーに粗粒と細粒とが適度なバランスで含有されることから、熱溶融時におけるエポキシ樹脂組成物が良好なる流動性を示すとともにスロット溝内壁の凹凸に対する良好なる追従性を示し、巻線コイルの線間などに対しても深く侵入することになる。
また、アルミナフィラーが含有されている熱接着シートは、熱伝導性にも優れ、しかも、上記のように巻線コイルやステーターコアに対して良好なる接着状態が形成されることによって界面での熱抵抗も低減されることになり巻線コイルにおいてジュール熱が発生したとしてもステーターコアにすばやく放熱されることになる。
【0035】
なお、本発明の熱接着シートは、上記のように実質的にエポキシ樹脂組成物のみで形成されたものであっても、他のシートとの積層品であっても良い。
例えば、本発明の熱接着シートは、合成樹脂繊維、金属繊維、ガラス繊維、カーボンファイバー、天然繊維などの各種繊維で形成された織布や不織布、あるいは、各種フィルムなどのシートで基材層を構成させ、該基材層の両面に上記エポキシ樹脂組成物で接着剤層を形成させた3層構成の積層品であってもよい。
【0036】
その場合には、一面側の接着剤層を構成するエポキシ樹脂組成物と他面側の接着剤層を構成するエポキシ樹脂組成物の配合内容を異ならせていてもよい。
なお、このような熱接着シートを作製するには、例えば、それぞれのエポキシ樹脂組成物を有機溶媒などに分散させて塗工液を作製し、基材層を形成するシートの一面側に一方の塗工液を塗布乾燥した後に他面側に他方の塗工液を塗布乾燥させる方法や、離型処理されたフィルムに塗工液を塗布乾燥させたものをそれぞれの塗工液について用意し、これらの間に基材層を構成するシートを挟んで熱プレスすることによって塗膜を基材シートに転写させる方法などが挙げられる。
また、このような貼り合せ方法を採用することで、基材層を有していない、エポキシ樹脂組成物のみで構成されながら、表裏の配合内容が異なっている熱接着シートを作製することも可能である。
【0037】
なお、本発明においては、少なくとも一面側の表面において上記のような粒子で構成されたアルミナフィラーを硬化剤と発泡剤ともに含有する発泡性のエポキシ樹脂組成物が用いられており、該エポキシ樹脂組成物で形成された表面をその発泡作用を利用して被着体に圧着させうるものであれば、熱伝導性が良好でありながら信頼性の高い熱接着を行い得る点において変わりはなく、上記のように表裏両面において用いるエポキシ樹脂組成物を異ならせる場合においては、発泡剤を含有してない非発泡性のエポキシ樹脂組成物でいずれか一方を構成させることも可能である。
さらに、要すれば、表裏いずれか一方を上記のような発泡性のエポキシ樹脂組成物で構成し他方をエポキシ樹脂組成物以外の接着剤で構成させることもできる。
【実施例】
【0038】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(熱接着シートの作製)
(実施例1)
下記のような配合内容で、厚み70μmの熱接着シートを作製した。
・エポキシ樹脂 JER社製「1004」:100質量部
・硬化剤 ジシアンジアミド : 4質量部
・発泡剤 マイクロスフェアー (※1)
・その他の成分
添加剤 :フェノキシ樹脂
硬化促進剤 :イミダゾール
・アルミナフィラー : 90質量%(※2)
構成:粒径1μm以下 25質量%
粒径1μm超、4μm以下 49質量%
粒径4μm超、20μm以下 26質量%

(※1:自然状態での発泡状態が厚みが6〜7倍となるようにエポキシ樹脂100質量部に対して1−10質量部の間で含有量を調整した。)
(※2:エポキシ樹脂組成物全体を100質量%としたときのアルミナフィラーの割合)
【0040】
なお、上記アルミナフィラーは、その構成している酸化アルミニウム粒子の大きさを、レーザー回折散乱法で測定した。
【0041】
この実施例1の熱接着シートを、その厚みの増大を何等規制することなく、自然状態で150℃×30分の加熱を実施したところ、約400〜500μmの厚みとなり、約6〜7倍の発泡倍率となることが確認できた。
【0042】
幅20mm×長さ100mm×厚み1.6mmの2枚の表面平滑な金属板(図1の「A」)を脱脂処理し、一方の金属板(A1)の端部に厚み0.188mmの2本のスペーサー(図1の「B」)を、20mmの間をあけて平行に並べ、この間に20mm×20mmに切断した実施例1の熱接着シート(図1の「X」)を置いた。
そして、もう一枚の金属板(A2)の端部をこの2本のスペーサーが隠れるようにして載せ、この重ね合わせた部分をクリップで固定した。
【0043】
この状態で、先程と同様に150℃×30分の加熱を実施して、前記実施例1の熱接着シートを発泡させて2枚の金属板を熱接着させた(発泡倍率:188÷70≒2.7倍)。
そして、冷却の後、クリップを取り除き、引張り試験機にかけて、2枚の金属板の端部をそれぞれチャッキングして、引張速度200m/分での引張り試験を実施し接着強度を求めた。
なお、試料は5個作製し、接着強度は、全ての測定結果の算術平均により求めた。
【0044】
(熱伝導率測定用試料の作製)
70μmの熱接着シートを表面に離型処理がされたセパレータフィルムに挟んで150℃×30分の加熱を実施し、188μmの厚みとなるように発泡、熱硬化させて試料を作製した。
この試料の熱伝導率を、ASTM E 1530に準拠し、定常法にて測定した。
【0045】
(実施例2、比較例1〜2)
熱接着シートのアルミナフィラーの配合割合を、下記のように変更した以外は、実施例1と同様に接着強度と熱伝導率とを求めた。
(実施例2)
アルミナフィラー 90質量%
構成:粒径1μm以下 30質量%
粒径1μm超、4μm以下 50質量%
粒径4μm超、20μm以下 20質量%
(比較例1)
アルミナフィラー 90質量%
構成:粒径1μm以下 10質量%
粒径1μm超、4μm以下 45質量%
粒径4μm超、20μm以下 45質量%
(比較例2)
アルミナフィラー 0質量%(使用せず)

これらの結果を、下記表に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
以上のことからも、本発明によれば 熱伝導性の良好でありながら被着体への接着性や接着後の強度に優れた発泡性の熱接着シートが得られることがわかる。
また、本発明によれば熱伝導性が良好な熱接着シートを用いつつも信頼性の高い接着を行い得る熱接着方法が提供され得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物によって少なくとも表面が形成されており、加熱状態で前記表面が被着体に接着される熱接着シートであって、
前記加熱状態においてその厚みを増大させ得るように前記エポキシ樹脂組成物には発泡剤が含有されており、さらに、該エポキシ樹脂組成物にはアルミナフィラーが40〜90質量%含有されており、該アルミナフィラーには、1μm以下の大きさの粒子が15〜40質量%、1μmを超え4μm以下の大きさの粒子が20〜60質量%、4μmを超え20μm以下の大きさの粒子が10〜50質量%となる割合で含有されていることを特徴とする熱接着シート。
【請求項2】
エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物によって少なくとも表面が形成されている熱接着シートを加熱し、該加熱された前記熱接着シートの前記表面を被着体に接着させる熱接着方法であって、
前記熱接着シートは、前記加熱によってその厚みを増大させ得るように前記エポキシ樹脂組成物に発泡剤が含有されており、さらに、該エポキシ樹脂組成物にはアルミナフィラーが40〜90質量%含有されており、且つ該アルミナフィラーには、1μm以下の大きさの粒子が15〜40質量%、1μmを超え4μm以下の大きさの粒子が20〜60質量%、4μmを超え20μm以下の大きさの粒子が10〜50質量%となる割合で含有されており、前記接着においては、該熱接着シートを前記加熱することによって前記エポキシ樹脂組成物を発泡させ、該発泡によって生じる圧力を前記熱接着シートと前記被着体との接着界面に作用させることを特徴とする熱接着方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−103964(P2013−103964A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247541(P2011−247541)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】