説明

熱接着性スパンボンド不織布およびこれを用いた繊維製品

【課題】
他素材との接着が強固で有り、特にポリエステル素材からなるシートとの接着が容易である熱接着性不織布およびそれを用いた積層体、繊維製品を提供する。またそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】
少なくとも第一成分と第二成分の二成分で構成された複合繊維であり、第一成分が繊維表面の少なくとも70%を長さ方向に連続して形成した繊維成形性熱可塑性樹脂とし、第二成分が第一成分よりも10℃以上低い融点である樹脂で構成され、第一成分/第二成分の容積比が10/90から90/10の範囲である繊維で構成される熱接着性スパンボンド不織布、およびそれを用いた積層体、繊維製品。またそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性に優れた不織布およびこれを用いた繊維製品に関する。更に詳しくは、ポリエステルから成る素材に対して優れた接着性を有する不織布及びこれを用いた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包装材料や衣料材料等で使用される素材を、異素材と接着させるために様々な接着剤が使用されている。これらの多くは、一液、二液硬化型接着剤に代表される液混合や化学反応を利用し、接着成分を硬化させて素材同士を接着させる接着剤である。しかし、これらの接着剤は、溶剤を使用することによる作業環境の悪化、及び硬化反応に時間がかかることによる加工性の低下等、環境や生産に与える影響が大きい。
【0003】
また、ホットメルト接着剤もしばしば用いられている。ホットメルト接着剤は対象物に塗布され、加熱後固化することで異素材との接着を行なうもので、前記接着剤に比べ、1)溶剤を使用しない、2)短時間で硬化する等利点も多い。しかし、種類によってはブロッキングを発生し易く、また初期接着力が不十分であることなど、改善すべき点もある。更に構成する樹脂によっては、例えばポリエステルからなる材料との接着性が見込まれない等、必ずしも万能とはいえない。更に、これらの接着剤においては特別な機器が必要となる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−61622号公報
【特許文献2】特許第2801055号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記問題点を解消し、異種素材に対しても低温度でも容易に、かつ強固に接着することができるバインダー不織布及びこれを用いた繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、少なくとも第一成分と第二成分の二成分で構成された複合繊維であり、第一成分が繊維表面の少なくとも70%を長さ方向に連続して形成した繊維成形性熱可塑性樹脂とし、第二成分が第一成分よりも10℃以上低い融点である樹脂で構成され、第一成分/第二成分の容積比が10/90から90/10の範囲である繊維で構成される熱接着性スパンボンド不織布によって前記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下によって構成される。
[1]少なくとも第一成分と第二成分の二成分で構成された複合繊維であり、第一成分が繊維表面の少なくとも70%を長さ方向に連続して形成した繊維成形性熱可塑性樹脂とし、第二成分が第一成分よりも10℃以上低い融点である樹脂で構成され、第一成分/第二成分の容積比が10/90から90/10の範囲である繊維で構成される熱接着性スパンボンド不織布。
[2]第二成分がエチレン−α−オレフィン共重合体で構成される熱可塑性エラストマーである[1]記載の熱接着性スパンボンド不織布。
[3]第二成分がエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン−α−オレフィン共重合体であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求められる分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であって、該エチレン−α−オレフィン共重合体が、下記のa)〜c)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体である[2]記載の熱接着性スパンボンド不織布。
a)密度が0.90g/cm以下であること
b)メルトフローレートの比(I10/I)が6以上であること。
c)分子量分布(Mw/Mn)とメルトフローレートの比(I10/I)が次式の関係にあること。
4.63≦(I10/I)−(Mw/Mn)
[4]該エチレン−α−オレフィン共重合体が、炭素数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種が均一に分岐しているエチレン−α−オレフィン共重合体である[2]または[3]に記載の熱接着性スパンボンド不織布。
[5]第一成分が不飽和カルボン酸、若しくは不飽和カルボン酸無水物から選られた少なくとも1種を含むビニルモノマー(以下これらを変成剤と云うことがある)でグラフト重合された変成ポリオレフィン(変成剤含量は0.05 〜2 モル/kg )を含む[1]〜[4]のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布。
[6]第一成分の変成剤が無水マレイン酸、アクリル酸、若しくはメタクリル酸の1種以上を含む[5]に記載の熱接着性スパンボンド不織布。
[7][1]〜[6]のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布を少なくとも2枚の被接着層間に挟み、第一成分の融点以上で被接着層を熱接着させる積層体の製造方法。
[8]被接着層との熱接着を、第二成分の融点より20〜80℃高い温度で行う[7]記載の積層体の製造方法。
[9][1]〜[6]のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布を用いた繊維製品。
[10][1]〜[6]のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布を少なくとも2枚の被接着層間に挟み、第一成分の融点以上で熱接着させた積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、他素材との接着が強固で有り、特にポリエステル素材からなるシートとの接着が容易である熱接着性不織布およびそれを用いた積層体、繊維製品を提供することができ、またそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の接着性スパンボンド不織布は、少なくとも第一成分と第二成分の二成分で構成された複合繊維で構成される。この複合繊維は、第一成分が繊維表面の少なくとも70%を長さ方向に連続して形成した繊維成形性熱可塑性樹脂とし、第二成分が第一成分よりも10℃以上低い融点である樹脂で構成され、第一成分/第二成分の容積比が10/90から90/10の範囲である繊維である。
【0010】
本発明の熱接着性スパンボンド不織布は、スパンボンド法により製造されるスパンボンド不織布である。このスパンボンド法は、熱可塑性樹脂を紡糸し、開繊、捕集および絡合を一工程で処理を行って不織布を形成する方法である。通常の方法とは異なり、スパンボンド法では、延伸処理がないことから、紡糸した時点で細線化が必要である。また、主に空気流を用いた延展部分では、例えばガンタイプやスロットタイプでは金属部と糸との接触が発生する。そのため、スパンボンド法に用いる繊維は、良好な紡糸性を必要とするだけでなく、金属に対する摩擦が少ない事も必要である。更に、コンベアーなどに捕集する際に繊維同士が収束や凝集を発生させないよう開繊性が必要である。
【0011】
本発明のスパンボンド不織布は、少なくとも第一成分と第二成分の二成分で構成される複合繊維により構成される。複合繊維を構成する成分は、少なくとも二成分であれば良く、三成分、四成分、またはそれ以上でも構わないが、紡糸用ノズル構造の容易性、製造コストまたは生産性の点から二成分であることが好ましい。また、第一成分は繊維表面の少なくとも70%を長さ方向に連続して配置されている。さらに該第一成分は、繊維成形性熱可塑性樹脂である。この繊維成形性熱可塑性樹脂とは、繊維に製造する事が容易な樹脂を示す。更には、スパンボンド不織布に製造する工程中での不具合を起こさない樹脂でもある。これらの樹脂としては例えば、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどがあげられる。
【0012】
前記第一成分は、繊維表面の長さ方向に連続して必ず一部(少なくとも70%)をなしている。第一成分である繊維成形性熱可塑性樹脂が繊維表面の長さ方向に連続した一部をなす事により、紡糸性と金属に対する摩擦抵抗性、および開繊性が良好となる。
【0013】
一方、第二成分は、第一成分より10℃以上低い融点をもった樹脂である。ほとんどの複合繊維は、相対的に高融点を持つ成分は芯成分として用い、熱接着時に低融点の鞘成分のみを溶融させ接着させる場合が多い。しかし、本発明の第二成分(低融点成分)は、必ずしも繊維表面にある必要はなく、最大でも繊維表面の30%を占めるに留まる。紡糸性、摩擦抵抗性、及び、開繊性の点からは、第二成分が繊維成形性熱可塑性樹脂である第一成分によって完全に覆われた構造を有するのが好ましい。
本発明の熱接着性スパンボンド不織布は、被接着層との熱接着性に優れる。本発明の熱接着性スパンボンド不織布と被接着層との熱接着においては、両者を重ね合わせ、必要によって圧力を加えながら第一成分の融点以上の温度で加熱することにより両者を熱接着させる。この熱接着の温度は、本発明の熱接着性スパンボンド不織布の第二成分の融点よりも20〜80℃高い温度であることが好ましく、40〜80℃高い温度であることが更に好ましい。本発明で用いる第二成分は、比較的低温においてさえ高い流動性を有するものであるため、前記のような高い熱接着温度においては形状を保ち得ず溶融流動化する。このときの熱接着温度が、第一成分も溶融流動化するほどに充分に高い温度、例えば第一成分の融点より10℃以上高い温度であれば、第一成分と第二成分は共に元の形状を留めることなく、互いに溶融し一体化する。これによって、第二成分が、被接着層との界面で接着媒体として寄与しうるようになるために、被接着層との接着性が向上するのである。また、本発明においては、第一成分が完全には溶融流動化しないような熱接着温度、例えば、第一成分の融点より10℃を越えない範囲で高い温度においても、被接着層との間で良好な熱接着性を奏しうることが確認されている。この理由は定かではないが、第一成分の一部が裂け、その亀裂を介して第二成分が繊維表面へと滲み出て、これが被接着層との接着性に寄与しているのではないかと推定される。
本発明において、第一成分は、繊維成形性を担保するという条件のもと、本発明における接着性発現の機構からは、その融点は比較的低いほうが好ましく、好ましいのは110〜170℃、更に好ましくは110〜130℃であり、第二成分の融点は好ましくは60〜100℃、更に好ましくは70〜90℃であり、また、第一成分の融点が、第二成分の融点より10℃以上高いことが好ましく、さらに、20〜40℃高いことが、接着性、紡糸性、摩擦抵抗性、及び、開繊性の点で好ましい。
本発明の熱接着性スパンボンド不織布は、他の繊維集合体、若しくは他のシートなど、他の被接着層同士の間に挟んで熱接着によりこれらを積層することができる。被接着層としては、編織物、不織布、発砲ウレタン、フィルム、紙状物羊毛成形物、金属板、木板、プラスチック板等が例示でき、特に、特に本発明の熱接着性スパンボンド不織布は、ポリエステル素材との接着性に優れる点でその工業的意義が大きい。
【0014】
本発明の第一成分と第二成分の容積比は、第一成分/第二成分=10/90から90/10の範囲である事が好ましい。繊維成形性を確保しスパンボンド不織布の製造を容易にするためには第一成分が10容積%以上であることが好ましく、良好な熱接着性を確保するためには第二成分が10容積%以上であることが好ましいからである。
【0015】
本発明の第二成分に使用される好ましい樹脂としては、エチレンとα−オレフィンの共重合体であるエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体に使用されるコモノマーであるα−オレフィンとしては、炭素数3〜20のオレフィンが挙げられ、具体例としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等との共重合体が挙げられる。前記、α−オレフィンの中では、特に1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましい。これらのα−オレフィンは、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
また、本発明の第二成分に使用されるエチレン−α−オレフィン共重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィー( GPC)により求められる分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.5〜3.0である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にあるエチレン−α−オレフィン共重合体を用いると、スパンボンド法における製造工程の紡糸性が良好で、粘着性の少ない不織布が得られる。
【0017】
本発明の第二成分に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体は、実質的に線状である事が好ましい。実質的に線状であるとは、ポリマーの主鎖が、炭素1000個当り0.01〜3個の長鎖の分岐、より好ましくは0.01〜1個の長鎖の分岐、特に好ましくは0.05〜1個の長鎖の分岐を有することを意味する。このようなエチレン−α−オレフィン共重合体は、従来の均一ポリマーと同様に、単一の融点を有する。
【0018】
本発明の第二成分に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体は、分岐を有している事が好ましい。また、該分岐は長鎖分岐である事が好ましい。前記の長鎖分岐とは、少なくとも6個の炭素からなる分岐鎖を示す。この6個以上の炭素からなる長鎖分岐は、13C核磁気共鳴(NMR)分光法とRandall法(「Rev.Macromol.Chem.Phys.」、C29(2&3)、第285−297頁)を用いて定量を行うことができる。長鎖分岐を有するエチレン−α−オレフィン共重合体を用いると、スパンボンド法における製造工程の紡糸性が良好で、粘着性の少ない不織布が得られる。
【0019】
また、本発明の第二成分に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体は、密度(ASTMD1 505)が0.90g/cm以下、好ましくは0.85〜0.90g/cmであることが好ましい。密度を上記の0.85g/cm以上とすることにより、不織布のベタツキを十分に抑えることができ、また0.90g/cm以下とすることで、本発明の目的とする不織布の接着性を十分に保つことができる。
【0020】
また、本発明の第二成分に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体は、メルトフローレートの比(以下メルトフロー比という)(I10/I)が6以上であることが好ましい。I10とは、温度190℃、荷重10kg重(98.07N)で測定されたメルトフローレート(メルトインデックスともいい、ASTMD1238に定義されている)を示す。Iとは、温度190℃、荷重2.16kg重(21.18N)で測定されたメルトフローレート(ASTMD1238)を示す。これら2つのメルトフローレート値の比がメルトフロー比(I10/I)である。このメルトフロー比(I10/I)が大きくなればなるほど、ポリマー中の長鎖分岐が増えることを示す。より好ましくはメルトフロー比(I10/I)は7以上、特に好ましくは8以上である。また、(I10/I)の上限は一般に50またはそれ以下、好ましくは30またはそれ以下、特に好ましくは20またはそれ以下である。
【0021】
また、本発明の第二成分に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体は、分子量分布(Mw/Mn)とメルトフロー比((I10/I)が4.63≦(I10/I)−(Mw/Mn)の関係にあることが好ましい。この前記関係式は、メルトフロー比(I10/I)が分子量分布(Mw/Mn)に基本的に依存していないことを示している。このことは、長鎖分岐を有さないエチレン−α−オレフィン共重合体や不均一に長鎖分岐を有している線状ポリエチレン類(LDPE)の場合、メルトフロー比(I10/I)を高くするには、分子量分布(Mw/Mn)もまた高くする必要があることを示している。前記の関係式を満たす長鎖分岐を有するエチレン−α−オレフィン共重合体は、良好な加工性を示すと共に、高せん断押出時においても紡糸口金を通過する時の圧力降下が小さくなり好ましい物である。
【0022】
本発明の第二成分に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体の温度190℃、荷重2.16kg重(21.18N)で測定されたメルトフローレート(ASTMD1238)Iは、特に限定はされないが、加工性の点から5〜100g/10分、好ましくは、15〜8 0である。
【0023】
本発明で用いられる第一成分は、変性ポリオレフィンを含む樹脂から構成される事が好ましい。変成ポリオレフィンに用いられる変成剤は不飽和カルボン酸、その酸無水物から選ばれた少なくとも1種を含むビニルモノマーであり、具体的には無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等から選択された不飽和カルボン酸、若しくはその無水物を必須成分とし、それ以外のビニルモノマーをも含む事ができる。それ以外のビニルモノマーとしては、ラジカル重合性に優れた汎用モノマーを使用することができる。
【0024】
例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、或いは同様なアクリル酸エステル等を挙げることができる。これらのビニルモノマーの変成ポリオレフィン中の濃度は0.05〜2モル/kgである。そのうち不飽和カルボン酸若しくは酸無水物の合計量は、0.03〜2モル/kgである。変成ポリオレフィン中のカルボン酸若しくは酸無水物は、接着性に直接寄与する成分であり、他のビニルモノマーは酸のポリマー中への均一分散を助けることによって、接着性を側面から助けることと共に、極性の乏しいポリオレフィンに極性を付与し、他成分との親和性を向上させる効果があり、接着性に間接的に寄与する成分である。
これらのビニルモノマーを幹ポリマーにグラフト重合するのは通常の方法で行なうことができ、ラジカル開始剤を用いて、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸若しくは酸無水物とビニルモノマーを混合してランダム共重合体からなる側鎖を導入し、あるいは異種モノマーを順次重合することによるブロック共重合体からなる側鎖を導入することができる。
【0025】
変性ポリオレフィンの幹ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンー1等が用いられる。ポリエチレンとしては高密度、直鎖状低密度、低密度ポリエチレンが用いられる。これらは密度0.90〜0.97g/cmのホモ若しくは他のα−オレフィンとの共重合体であり、融点は100〜135℃程度のポリマーである。ポリプロピレンは、融点130〜170℃の結晶性重合体であり、ホモ若しくは他のオレフィンとの共重合体である。ポリブテン−1は、融点110〜130℃の結晶性重合体であり、ホモ若しくは他のオレフィンとの共重合体である。これらのポリマーの中では、融点範囲、グラフト反応の容易性を考慮するとポリエチレンが好ましい。
【0026】
第1成分として用いられる変成ポリオレフィンは、単一で、上記変成ポリオレフィンの2種以上の混合物、若しくは変成ポリオレフィンと幹ポリマーの混合物として用いることができる。異種ポリマーの混合物であった場合にもポリマー中の変成剤の含量が0.05〜2モル/kgの範囲に入っていれば良い。
【0027】
ポリオレフィン中のグラフト重合された変性剤の量は、赤外吸収スペクトルを測定するこ
とで算出することができる。例えば、変性ポリオレフィンが、ポリエチレンを無水マレイ
ン酸でグラフト重合させた変性ポリエチレンの場合には、以下の操作によって、グラフト
重合された変性剤の量を測定することができる。
変性ポリエチレンを沸騰キシレンに溶解させ、その溶解液を3 倍量の常温のアセトンに注ぎ、充分に冷却する。この液の濾過物を更にアセトンで洗浄し、真空乾燥することで、未反応の無水マレイン酸が除去された粉末状の変性ポリエチレンが得られる。この粉末をフィルム成形し、それを用いてフーリエ変換赤外吸収スペクトルを測定することで無水マレイン酸のグラフト量が算出できる。
【0028】
該熱接着性スパンボンド不織布と被接着層と熱接着させる方法としての限定はないが、第一成分の融点以上で熱接着させる事が好ましい。第一成分の融点以上で加工する事により、被接着層との接着が良好となり、更に第一成分より10℃以上低い融点である第二成分も十分に溶融しアンカー効果を発揮できる事により、接着強度は最大限に発揮できる。
【0029】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消剤、着色剤、ゴム等の柔軟性付与剤、その他の各種改良剤等も必要に応じて配合しても良い。
【0030】
本発明の熱接着性スパンボンド不織布の目付は、特に限定されないが、5〜50g/m、好ましくは10〜20g/mである。
【0031】
本発明の熱接着性スパンボンド不織布を用いた繊維製品としては、例えば使い捨てオムツ、オムツ、生理用品、オムツカバー等の衛生材料、テープ、絆創膏、衣服等の他に、衣料用芯地、衣料用絶縁材や保温材、防護服、帽子、マスク、手袋、サポーター、振動吸収材、クリーンルーム用エアフィルター、血液フィルター、油水分離フィルター等の各種フィルター、エレクトレット加工をほどこしたエレクトレットフィルター、セパレーター、断熱材、コーヒーバッグ、食品包装材料、自動車用天井表皮材、防音材、基材、クッション材、スピーカー防塵材、エア・クリーナー材、インシュレーター表皮、バッキング材、ドアトリム等の各種自動車用部材、複写機のクリーニング材等の各種クリーニング材、カーペットの表材・裏材、農業捲布、木材ドレーン材、スポーツシューズ表皮等の靴用部材、カバン用部材、工業用シール材、ワイピング材、シーツ等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例における測定結果は下記の方法に従った。
【0033】
(i)融点
JIS K 7122に準拠して測定した。
(ii)他素材との接着強度(剥離強度)
各実施例、比較例で得られた試料と被接着試料(他素材)とをそれぞれ10cm×5cmの大きさに切断した。被接着試料2枚の間に試料を挟み、四隅が揃うように重ね合わせ、その重ね合わせた試料の短辺方向、つまり幅方向に細長いヒートシールを施す(ヒートシール面積1cm×5cm)。ヒートシール装置としてヒートシールテスターTP−701(商品名、テスター産業株式会社製)を用い、ヒートシール条件は、温度140℃(上下とも)、圧力0.4MPa、加圧時間3秒とした。この方法で得られた被接着試料を、ヒートシールを施した側の他辺の短辺側から開き、被接着試料のそれぞれの端辺を10cm間隔に設定した引張試験機オートグラフAG−G(商品名、(株)島津製作所製)のチャック間に固定した。剥離強さの測定は引っ張り速度100m/分で測定し、剥離強度の計算方法はJIS L1086−1983に準拠した。
【0034】
・PP:ポリプロピレン、MFR=40g/10min(230℃、2.16kg)、融点161℃
・LLDPE1:直鎖状低密度ポリエチレン、MI=20g/10min(190℃、2.16kg)、融点122℃、密度0.935g/cm3
・LLDPE2:メタロセン触媒の一種である拘束幾何触媒を用いて得られたエチレン−α−オレフィン共重合体(エチレンと1−オクテンからなる)、MI=30g/10min(190℃、2.16kg)、融点76℃
a)密度0.885g/cm
b)メルトフローレートの比(I10/I)7.9
c)分子量分布(Mw/Mn)2.05であり下記式を満たす。
4.63≦(I10/I)−(Mw/Mn)=5.85
・HDPE:高密度ポリエチレン、MI=40g/10min(190℃、2.16kg)、融点132℃、密度0.955g/cm
・変性PE1:変性ポリエチレン、MI=9.6g/10min(190℃、2.16kg)、高密度ポリエチレンを幹ポリマーとして無水マレイン酸をグラフト重合したポリマー(変性剤含量=1モル/kg)
・変性PE2:変性ポリエチレン、MI=2g/10min(190℃、2.16kg)、高密度ポリエチレンを幹ポリマーとして無水マレイン酸をグラフト重合したポリマー(変性剤含量=1モル/kg)
【0035】
実施例1
第一成分および第二成分に表1の実施例1項に記載の樹脂を用いスパンボンド法にて作成した。具体的には、表1記載の条件により、2機の押出機にそれぞれの樹脂を投入し、同芯鞘芯型の断面になる紡糸口金を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が50/50となるようにギアポンプを調整し、紡糸口金から吐出した複合繊維郡をエアーサッカーに導入して索引延伸し、3.3dtexの長繊維を得、続いてエアーサッカーにより排出された前記長繊維郡を帯電装置により同電荷を付与させ帯電させた後、反射板に衝突させて開繊し、開繊した長繊維郡を裏面に吸引装置を設けた無端ネット状コンベアー上に、長繊維ウェッブとして捕集し、線圧80N/mm、圧着面積率15%のエンボスロール(凸部)/フラットロールでポイントボンド加工しスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0036】
実施例2
第一成分および第二成分に実施例2項の樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0037】
実施例3
第一成分および第二成分に実施例3項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が90/10となるようにギアポンプを調整した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0038】
実施例4
第一成分および第二成分に実施例4項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が10/90となるようにギアポンプを調整した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0039】
実施例5
第一成分および第二成分に実施例5項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が60/40となるようにギアポンプを調整した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0040】
実施例6
第一成分および第二成分に実施例6項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が40/60となるようにギアポンプを調整した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0041】
実施例7
第一成分および第二成分に実施例7項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が50/50となるようにギアポンプを調整した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0042】
実施例8
第一成分および第二成分に実施例8項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が50/50となるようにギアポンプを調整し、断面形状が並列型となるノズルを用いた以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。剥離強度が強く、接着性能に優れたスパンボンド不織布であった。
【0043】
比較例1
第一成分および第二成分に比較例1項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が50/50となるようにギアポンプを調整した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。第二成分に第一成分より融点の高いポリプロピレンを用いた為、剥離強度が低く、接着性能に劣るスパンボンド不織布であった。
【0044】
比較例2
第一成分および第二成分に比較例2項の樹脂を用い、第一成分/第二成分の断面容積比が50/50となるようにギアポンプを調整した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。得られたスパンボンド不織布に対して被接着材試料にポリエステルスパンボンド不織布を用いて、剥離試験を行った。その結果を表1に示す。第二成分に第一成分より融点の高いポリプロピレンを用いた為、剥離強度が低く、接着性能に劣るスパンボンド不織布であった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、不織布およびこれを用いた繊維製品に関する技術分野に利用することができる。更に詳しくは、優れた接着性を有する不織布及びこれを用いた繊維製品として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一成分と第二成分の二成分で構成された複合繊維であり、第一成分が繊維表面の少なくとも70%を長さ方向に連続して形成した繊維成形性熱可塑性樹脂とし、第二成分が第一成分よりも10℃以上低い融点である樹脂で構成され、第一成分/第二成分の容積比が10/90から90/10の範囲である繊維で構成される熱接着性スパンボンド不織布。
【請求項2】
第二成分がエチレン−α−オレフィン共重合体で構成される熱可塑性エラストマーである請求項1記載の熱接着性スパンボンド不織布。
【請求項3】
第二成分がエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとからなるエチレン−α−オレフィン共重合体であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求められる分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であって、該エチレン−α−オレフィン共重合体が、下記のa)〜c)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体である請求項2記載の熱接着性スパンボンド不織布。
a)密度が0.90g/cm以下であること
b)メルトフローレートの比(I10/I)が6以上であること。
c)分子量分布(Mw/Mn)とメルトフローレートの比(I10/I)が次式の関係にあること。
4.63≦(I10/I)−(Mw/Mn)
【請求項4】
該エチレン−α−オレフィン共重合体が、炭素数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種が均一に分岐しているエチレン−α−オレフィン共重合体である請求項2または3に記載の熱接着性スパンボンド不織布。
【請求項5】
第一成分が不飽和カルボン酸、若しくは不飽和カルボン酸無水物から選られた少なくとも1種を含むビニルモノマー(以下これらを変成剤と云うことがある)でグラフト重合された変成ポリオレフィン(変成剤含量は0.05 〜2モル/kg )を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布。
【請求項6】
第一成分の変成剤が無水マレイン酸、アクリル酸、若しくはメタクリル酸の1種以上を含む請求項5に記載の熱接着性スパンボンド不織布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布を少なくとも2枚の被接着層間に挟み、第一成分の融点以上で被接着層を熱接着させる積層体の製造方法。
【請求項8】
被接着層との熱接着を、第二成分の融点より20〜80℃高い温度で行う請求項7記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布を用いた繊維製品。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項記載の熱接着性スパンボンド不織布を少なくとも2枚の被接着層間に挟み、第一成分の融点以上で熱接着させた積層体。

【公開番号】特開2009−30209(P2009−30209A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197286(P2007−197286)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(399120660)チッソポリプロ繊維株式会社 (41)
【Fターム(参考)】