説明

熱接着性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、並びに異種物体複合成形体

【課題】異種物体に対して接着性が高く、融着繊維が少なく、熱収縮率が低く、熱加工時の寸法安定性が高い熱接着性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、並びに異種物体複合成形体を提供する。
【解決手段】熱接着成分と繊維形成性成分を含み、前記繊維形成性成分は熱接着成分よりも10℃以上高い融点を有する熱接着性複合短繊維であって、前記熱接着成分は、(A)酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸から選ばれる少なくとも一種類とエチレンとのコポリマーであって、融点80〜110℃の範囲のエチレン共重合体樹脂を70〜94mass%と、(B)ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点100〜150℃の接着促進剤を6〜30mass%以下含む混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おむつ、ナプキン部材等の衛生材料、フィルター、ワイパー、農業用資材、食品包材、ゴミ袋、内装材、産業用資材等において、金属材料、無機材料、樹脂材料(プラスチック、発泡体等)、セルロース材料(木材等)等の異種物体との接着に適用することが可能な熱接着性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、並びに異種物体複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
低融点熱接着性繊維は様々な分野で使用されている。例えば、低メルトポリマー繊維又は二成分繊維の低融点部分を含む低メルト基材と、粘着付与材を含有するバインダーであって、粘着付与剤が、ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物及び炭化水素ベース化合物から選択されるものが特許文献1に提案されている。また、更に粘着促進剤として、マレイン酸若しくは無水マレイン酸グラフト化ポリオレフィン、エチレン−アクリル酸コポリマー、又はこれらの組み合わせから選択されるものも提案されている。
【0003】
また、エチレン酢酸ビニル系樹脂(EVA)とロジンからなるホットメルト成分の繊維が多量に積層されて不織布に成形されてなるホットメルト接着材が特許文献2に提案されている。ここではEVA樹脂の融点は70〜100℃と開示されている。ロジンは、EVAの粘着性付与の目的で使用されている。
【0004】
また、複雑な構成のプロピレン系共重合体樹脂の混合物に、脂肪族炭化水素樹脂、テルペン/フェノール樹脂、ポリテルペン、ロジン、エステルガム等を含むホットメルト接着性ポリオレフィン組成物が特許文献3に提案されている。上記テルペン/フェノール樹脂等は粘着付与材の目的で使用されている。また、粘着促進として、官能基を有するモノマー(アクリル酸、マレイン酸、ビニルアセテート)を用いても良いと記載されている。
【特許文献1】特開2003−328232号公報
【特許文献2】特開2004−149973号公報
【特許文献3】特表2001−523301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術は金属、樹脂(プラスチック、発泡体等)、セルロース(木材等)等異種材料(以下、「異種物体」という)に対する接着性が満足なものではなく、さらに繊維製造時に融着繊維が発生したり、得られた繊維を熱加工する際の熱収縮率が高く寸法安定性が低いという問題があった。さらにカードを通過させることを目的とする、捲縮を付与した短繊維(以下、「ステープル繊維」という)の場合、カード通過性が低いという問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、異種物体に対して接着性が高く、融着繊維が少なく、熱収縮率が低く、熱加工時の寸法安定性が高く、ステープル繊維の場合カード通過性が良好な熱接着性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、並びに異種物体複合成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱接着性複合繊維は、熱接着成分と繊維形成性成分を含み、前記繊維形成性成分は熱接着成分よりも10℃以上高い融点を有する熱接着性複合繊維であって、
前記熱接着成分は、
(A)酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸から選ばれる少なくとも一種類とエチレンとのコポリマーであって、融点:80℃以上110℃以下の範囲のエチレン共重合体樹脂を70mass%以上94mass%以下と、
(B)ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点:100℃以上150℃以下の接着促進剤を6mass%以上30mass%以下含む混合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、金属、樹脂(プラスチック、発泡体等)、木材等の異種物体に対して接着性が高く、融着繊維が少なく、熱収縮率が低く、熱加工時の寸法安定性が高い熱接着性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、並びに異種物体複合成形体を提供できる。さらに、ステープル繊維の場合は、カード通過性が良好な熱接着性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、並びに異種物体複合成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の接着成分のベース樹脂(A)は、酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸から選ばれる少なくとも一種類とエチレンとのコポリマーであって、融点:80℃以上110℃以下の範囲のエチレン共重合体樹脂である。例えば、酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー(EVA)、アクリル酸とエチレンとのコポリマー(EMAA)、マレイン酸とエチレンとのコポリマー(EMMA)、アクリル酸メチルとエチレンとのコポリマー(EMA)、アクリル酸エチルとエチレンとのコポリマー(EEA)を用いることができる。また、マレイン酸は無水物であっても良く、また、酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸はエステル結合されていても良く、例えば、アクリル酸と無水マレイン酸をエステル結合したものとエチレンとのコポリマー(EAAMA)が挙げられる。
【0010】
上記ベース樹脂(A)は、接着成分全体に対して70mass%以上94mass%以下が必要である。70mass%未満であると、後述する接着促進剤(B)の含有量が多くなり融着繊維が発生しやすくなる傾向にあり、94mass%を超えると、十分な異種物体に対する接着性を付与することが困難である。
【0011】
また、接着成分のベース樹脂(A)の融点は、80℃以上110℃以下であることが必要である。好ましくは90℃以上100℃以下である。融点が80℃未満であると、融着繊維が発生しやすくなる。110℃を超えると極性基が少なすぎるために異種物体に対する接着性を付与することが困難となる。
【0012】
ベース樹脂(A)におけるエチレン含量は、85mass%以上98mass%以下であることが好ましい。エチレン含量が上記範囲から外れると、前記融点の範囲を満足しないことがある。
【0013】
ベース樹脂(A)がEVAである場合、酢酸ビニル含量は、2mass%以上15mass%以下であることが好ましい。より好ましくは3mass%以上13mass%以下、とくに好ましくは5mass%以上10mass%以下である。酢酸ビニル含量が2mass%未満であると、極性基が少なすぎるため、異種物体に対する接着性付与が困難となる。一方、15mass%を超えると、樹脂の軟化点、及び融点が小さくなりすぎ、融着繊維が発生しやすくなる。
【0014】
次に本発明の接着促進剤(B)は、ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、エステルガム及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点:100℃以上150℃以下である。好ましくは110℃以上140℃以下である。より好ましくは115℃以上130℃以下である。軟化点が110℃未満であると、繊維製造時に融着繊維が発生しやすくなったり、樹脂の溶融粘度が低くなりすぎるため紡糸性が悪くなる。一方、軟化点が150℃を超えると、異種物体との接着性を発揮させるために大きな熱量が必要となったり、ベース樹脂との融点差が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0015】
接着促進剤(B)の添加量範囲は、6mass%以上30mass%以下、好ましくは10mass%以上25mass%以下であり、最も好ましくは15mass%以上20mass%以下である。6mass%未満であると異種物体に対する接着性を付与することが困難である。また30mass%を超えると融着繊維が発生し易くなる。なお、異種物体との接着性を阻害しない範囲で、前記ベース樹脂(A)及び接着促進剤(B)以外に第三成分を添加してもよい。
【0016】
接着促進剤(B)の具体例としては、例えば、ロジンの場合は、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンが挙げられる。炭化水素ベース化合物の場合は、脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。テルペンベース化合物の場合は、テルペン化合物、テルペンフェノール化合物、水添テルペン化合物が挙げられる。
【0017】
この中で、好ましい接着促進剤(B)はテルペンフェノールである。テルペンフェノールは、下記(化1)に示す一般式で表され、α−ピネン(Pinene),β−ピネン,ジペンテン(Dipentene)のテルペンモノマーとフェノールを反応させて得られる。
【0018】
【化1】

【0019】
(但し、m,nは重合度を示す。ヤスハラケミカル社製商品名「YSポリスターT」シリーズとして販売されている。)
本発明の熱接着性複合繊維は、繊維形成性成分を含む複合繊維である。繊維形成性成分を含むことによって、熱加工する場合の熱収縮率が低く、寸法安定性に優れ、ステープル繊維の場合、優れたカード通過性を付与することができる。
【0020】
前記繊維形成性成分の融点は、熱接着成分よりも高い融点を有する。繊維形成性成分の好ましい融点は、熱接着成分の融点+10℃以上である。より好ましい融点は、熱接着成分の融点+20℃以上である。最も好ましい融点は、熱接着成分の融点+30℃以上である。繊維形成性成分と熱接着性成分の融点差が大きくなるほど、熱加工する場合の熱収縮率が低く、寸法安定性に優れる。
【0021】
前記繊維形成性成分としては、熱可塑性を示し、溶融紡糸ができるものであれば特に限定しない。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂などが挙げられる。これらの成分には、例えば、ポリプロピレンにポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートにコハク酸等第二成分が共重合、若しくはグラフト重合されたものであっても構わない。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートが、生産性、コスト、及びステープル繊維の場合はカード通過性に優れる点で特に好ましく用いられる。
【0022】
また、繊維形成性成分と熱接着成分の質量比は、80:20〜20:80であることが好ましい。より好ましくは70:30〜30:70である。繊維形成性成分の含有量が20mass%未満であると熱収縮性が悪くなったり、ステープル繊維の場合にはカード通過性が悪くなる傾向がある。一方、繊維形成性成分の含有量が80mass%を超えると異種物体との接着性が悪くなる傾向がある。
【0023】
熱接着成分は、繊維表面の50%以上を占めることが好ましい。より好ましい熱接着成分の繊維表面に対して占める割合は70%以上である。最も好ましい熱接着成分の繊維表面に対して占める割合は100%(熱接着成分を鞘成分とし、繊維形成性成分を芯成分とする鞘芯型)である。熱接着成分の繊維表面に対して占める割合が50%未満であると異種物体との接着性が悪くなる傾向がある。
【0024】
本発明の熱接着性複合繊維の繊維長は、何れでも良いが、ステープル繊維の場合は、20mm以上、100mm以下であることが好ましい。ステープル繊維のより好ましい繊維長は40mm以上、80mm以下である。ステープル繊維の繊維長が20mm未満であると、カードでの繊維同士の絡みが弱くなりすぎ、均一な繊維構造物が得られない傾向がある。一方。ステープル繊維の繊維長が100mmを超えると、カードでの繊維同士の絡みが大きくなりすぎ固着繊維(いわゆるネップ)が発生し、均一なカードウェブが得られない場合がある。また、湿式抄紙不織布や、エアレイド不織布を得る場合は、1mm以上、30mm以下であることが好ましい。より好ましくは2mm以上、20mm以下である。繊維長が1mm未満である場合、繊維同士の絡みが弱くなりすぎ、均一な不織布が得られない場合がある。一方、繊維長が30mmを超えると繊維同士の絡みが大きくなりすぎ、均一な不織布が得られない場合がある。
【0025】
本発明の熱接着性複合繊維の繊度は、特にこだわらないが、ステープル繊維や、湿式抄紙不織布、及びエアレイ不織布用繊維を得る場合は、0.5dtex以上、100dtex以下であることが好ましい。より好ましくは、1dtex以上、70dtex以下である。繊度が0.5dtex未満であると、繊維が細すぎ、均一な繊維構造物が得られない恐れがある。一方、100dtexを超えると、繊維が太すぎ、異種物体との接着性が悪くなる恐れがある。
【0026】
次に、本発明の熱接着性複合繊維の製造方法について説明する。本発明の熱接着性複合繊維は、常套の溶融紡糸機を用いて溶融紡糸されて、紡糸フィラメントを得る。次いで、必要に応じて、紡糸フィラメントには延伸処理が施される。延伸温度は、好ましくは30℃以上、70℃以下である。より好ましくは40℃以上、60℃以下である。延伸温度が30℃未満であると、延伸比が低くなりすぎたり、熱収縮が大きい傾向がある。一方、延伸温度が70℃より高いと融着しやすい傾向がある。これは、テルペンのガラス転移点、若しくはEVAの軟化点が関係していると考えられる。繊維形成性成分がポリエステルの場合、ガラス転移点温度より高い温度で延伸処理することが好ましい。ガラス転移点温度よりも低い温度であると、熱収縮が大きくなりすぎる傾向がある。従って、例えば、繊維形成性成分がポリエチレンテレフタレートを使用した場合、ガラス転移点温度が約65℃であるため、60℃の延伸温度では、ガラス転移点以上で緊張熱処理することが好ましい。緊張熱処理の好ましい範囲は、繊維形成性成分のガラス転移点以上、熱接着成分の融点未満である。より好ましい範囲は、繊維形成性成分のガラス転移点温度+5℃以上、熱接着成分の融点−5℃以下である。最も好ましい範囲は、繊維形成性成分のガラス転移点温度+10℃以上、熱接着成分の融点−10℃以下である。
【0027】
ステープル繊維を得る場合は、延伸処理、及び捲縮付与処理後に乾燥処理が施される。乾燥温度は、40℃以上、熱接着成分の融点未満であることが好ましい。乾燥温度のより好ましい範囲は、50℃以上、熱接着成分の融点−5℃以下である。乾燥温度の最も好ましい範囲は、60℃以上、熱接着成分の融点−10℃である。乾燥温度が40℃未満であると、乾燥不良となり得られた繊維の水分率が高くなりすぎるため、カード工程でトラブルを引き起こし易くなる。一方、乾燥温度が熱接着成分の融点を超えると、融着を引き起こしやすくなる。
【0028】
本発明の繊維構造物は、前記熱接着性複合繊維が少なくとも30mass%以上含むと、異種物体との接着性が高い。好ましい熱接着性複合繊維の含有量は、50mass%以上である。より好ましい熱接着性複合繊維の含有量は、70mass%以上である。最も好ましい熱接着性複合繊維の含有量は、100mass%である。前記熱接着性複合繊維の含有量が30mass%未満であると、異種物体との接着性が悪くなる恐れがある。
【0029】
本発明の繊維構造物の形態としては、スパンボンド不織布,メルトブローン不織布,短繊維を使用したカードやエアレイド等の乾式不織布,及び湿式抄紙不織布等の不織布、織物、編物、及び成形体等何れであっても構わない。本発明の効果を最も発揮できるのは、乾式不織布、湿式抄紙不織布、紡績糸からなる織物、及び編物等のシート状物である。シート状物であれば、異種物体と接着するときの加工性が高く、さらに異種物体と接着と同時に成形するときの成形性が高いからである。
【0030】
本発明の異種物体複合成形体は、前記繊維構造物の少なくとも一部の表面に、金属材料、無機材料、前記エチレン共重合体樹脂以外の樹脂材料、及びセルロース材料から選ばれる少なくとも1種類の異種物体を積層し、熱接着して一体化した異種物体複合成形体である。前記熱接着性複合繊維を含む繊維構造物を用いれば、従来では接着が困難であった金属材料、無機材料、セルロース材料といった非樹脂材料に繊維構造物を強固に接着することができ、従来にはなかった独特の風合いや機能を有する。さらに、樹脂材料であっても、従来は同族樹脂材料同士の接着性は高くても異族樹脂材料との接着性は高いとはいえなかったが、前記熱接着性複合繊維を含む繊維構造物を用いれば、異族樹脂材料との接着性は高く、例えば異種物体間の接着材料として用いることができる。前記複合成形体としては、シート状に成形したもの、立体状に成形したもの等を形状を採ることができる。
【実施例】
【0031】
以下実施例を用いて具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されない。
【0032】
(実施例1〜3、比較例1〜6)
(1)使用樹脂
(1−1)芯樹脂:ポリプロピレン(PP)(サンアロマー製「PL901C」融点160℃、MFR26)又は、ポリエチレンテレフタレート(PET)(東レ製「T200E」融点256℃、IV値0.65)
(1−2)鞘樹脂
樹脂A=EVA(東ソー製「ウルトラセン539」、酢酸ビニル含量6mass%
融点95℃、MI(at.190℃)28、D=0.924)
樹脂B=HDPE(日本ポリエチレン製「HE490」、MI20、D=0.95、mp.130℃)
(1−3)粘着付与材
D=テルペンフェノール(ヤスハラケミカル製「YSポリスターT115」)、軟化点115℃、平均分子量600、ガラス転移点57℃)
E=水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル製「クリアロンP115」 軟化点115℃ 平均分子量650 ガラス転移点61℃)
F=トールレジン(ハリマ化成製「ネオトール101K」、軟化点95℃)
(2)繊維製造条件
A.芯鞘型ノズルを用い、芯鞘複合比(質量比)50:50とした。
B.紡糸温度:
芯PPの場合:PP280℃、EVA+テルペン260℃、ノズルヘッド270℃
芯PETの場合:PET290℃、EVA+テルペン260℃、ノズルヘッド295℃
C.引取速度:330m/min
D.未延伸繊度:7.8dtex
E.繊度、繊維長:繊度3.3dtex、繊維長51mm
F.延伸温度:60℃
G.延伸倍率:2.8倍
延伸後、捲縮付与装置により捲縮付与後、80℃に加熱した乾燥機にて15分間乾燥熱処理し、カットし原綿を得た。
(3)不織布の製造
ヒートシール用不織布の作製:得られた繊維を、ローラーカードにて乾式ウェブを作製し、シリンダードライヤーで鞘成分の融点+10℃で30秒間熱処理を実施して、目付40g/m2のヒートシール加工用不織布を得た。
(4)異種物体との接着性評価条件
(4−1)ヒートシール加工方法:得られたシートを、縦70mm、横30mmにカットし、縦方向の一端より50mmの位置で、異種物体とヒートシールし、その剥離強力を測定した。ヒートシール条件は、テスター産業社製、TP701−3 ヒートシールテスターを使用し、幅5mm、圧力0.1MPa、時間1秒とした。
(4−2)接着対象物
クラフト紙:目付60g/m2、厚み0.15mm
ベニヤ板:目付1300g/m2、厚み2.5mm
アルミシート:目付500g/m2、厚み0.25mm
ガラス板:スライドグラス
スチレンシート:目付50 g/m2、厚み0.20mm
(4−3)剥離強力:ヒートシールした試料のヒートシール部から50mm離れた側の端部を開き、幅30mm、つかみ間隔100mmで把持し、定速伸長型引張試験機を用い、引っ張り速度100mm/minで伸長し、切断時の極大平均荷重値を剥離強力とした。
(5)その他の測定方法
(5−1)MI:ASTM−D−1238に準じて、190℃で21.2Nで測定される繊維製造前の樹脂のメルトインデックスを測定した。
(5−2)融点:JIS−K−7122に準じて、DSC法により測定される繊維製造前の樹脂の融点を測定した。
(5−3)ガラス転移点:繊維製造前の樹脂について、示差走査熱量計(DSC)を用いて、−20℃から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温した時のガラス転移点温度をガラス転移点した。
(5−4)軟化点:繊維製造前の樹脂について、JIS−K−6863に準じて、測定した。
(5−5)単繊維強度:JIS L 1015に準じ、引っ張り試験機を用い試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値を測定し、単繊維強度とした。
(5−6)厚み:ミツトヨ社製ID−C1012Cの厚み測定器を用い、印可加重2.94cN/cm2の条件下で5秒経過時点の厚みを測定した。
【0033】
以上の結果を下記の表1〜2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
なお表1〜2中、「−」は未測定であることを示す。また、「剥離強力」の欄の温度の表示はヒートシール時の温度を示す。
【0037】
表1〜2から明らかなとおり、本発明の実施例1〜3は異種物体に対して接着性が高く、融着繊維が少なく、熱収縮率が低く、熱加工時の寸法安定性が高く、ステープル繊維の場合カード通過性が良好な熱接着性複合短繊維とすることができた。
【0038】
これに対して比較例1、及び3は接着促進剤を使用しなかったため、異種物体との剥離強力が低く、接着性に問題があった。
【0039】
また比較例2は接着促進剤が少なすぎたため、異種物体との剥離強力が低く、接着性に問題があった。
【0040】
また比較例4、及び5はベース樹脂に、酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸が共重合されていないため、異種物体との剥離強力が低く、接着性に問題があった。
【0041】
(実施例4)
実施例1において、テルペンフェノールの添加量を表3に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして目付40g/m2のヒートシール加工用不織布を得た。異種物体として目付60g/m2、厚み0.15mmのクラフト紙に圧力0.9MPa、温度130℃、時間1秒でヒートシールした。その後剥離強力を測定した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3から明らかに通り、テルペンフェノールの添加量が6〜30mass%の範囲において、高い剥離強力を示した。一方、テルペンフェノールの添加量が35mass%になると、EVAの樹脂粘度が低くなりすぎ、繊維を引き取ることができなかった。さらに、融着繊維も発生した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱接着成分と繊維形成性成分を含み、前記繊維形成性成分は熱接着成分よりも10℃以上高い融点を有する熱接着性複合繊維であって、
前記熱接着成分は、
(A)酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸から選ばれる少なくとも一種類とエチレンとのコポリマーであって、融点:80℃以上110℃以下の範囲のエチレン共重合体樹脂を70mass%以上94mass%以下と、
(B)ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点:100℃以上150℃以下の接着促進剤を6mass%以上30mass%以下含む混合物であることを特徴とする熱接着性複合繊維。
【請求項2】
前記エチレン共重合体樹脂が、酢酸ビニルを含むエチレン酢酸ビニル系樹脂である請求項1に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項3】
前記酢酸ビニルの含有量が、2mass%以上15mass%以下である請求項3に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項4】
前記接着促進剤が、テルペンフェノールである請求項1に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項5】
前記A成分は、酢酸ビニルを2mass%以上15mass%以下含むエチレン酢酸ビニル系樹脂であり、
前記B成分は、軟化点が115℃以上130℃以下であるテルペンフェノールを6mass%以上30mass%以下含む請求項1に記載の熱接着性複合短繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱接着性複合繊維を少なくとも30mass%含む繊維構造物。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維構造物の少なくとも一部の表面に、金属材料、無機材料、前記エチレン共重合体樹脂以外の樹脂材料、及びセルロース材料から選ばれる少なくとも1種類の異種物体を積層し、熱接着して一体化した異種物体複合成形体。


【公開番号】特開2006−144199(P2006−144199A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339329(P2004−339329)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】