説明

熱物性測定装置

【課題】断熱材の熱伝導率が短時間で測定可能な熱物性測定装置を提供する。
【解決手段】熱源102の温度と熱流密度センサー107の温度の平均温度を算出し、被測定物101を平均温度から熱源102温度の間の温度になるように予め温度調節したあと、熱源102上に配置するとともに熱流密度センサー107を被測定物101に接触させ、被測定物101を伝わる熱流密度を測定するものであり、断熱材などの被測定物は、最終的に到達する温度に近似した温度になるように予め調節されるため、熱物性測定装置各部の温度が設定値と近くなるので、簡単な小型な構成で、さらに短時間で熱物性を測定可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ポリウレタンや真空断熱材の断熱性能を評価する熱物性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題への関心が高まり、冷蔵庫、自動販売機などの冷凍冷蔵機器やジャーポットなどの温熱機器の省エネ設計に対する社会的な要望が高まっている。これを受けて、機器メーカーでは、競って断熱技術の開発に注力している。
【0003】
代表的な断熱技術としては、冷蔵庫などの冷凍冷蔵機器の箱体壁面に使用されている発泡ポリウレタンがある。また、最近ではグラスウールやシリカ粉末を芯材として、この芯材を樹脂と金属箔のラミネートフィルムなどのガスバリア性に優れたフィルムで覆い、また余分な水分を吸着する水分吸着剤を同封したあと、内部を真空状態にして作製される真空断熱材が高性能な断熱材として利用されている。
【0004】
一般にこれらの断熱材の断熱性能は、断熱材の片面から反対面への単位面積当たりの熱流密度を厚みで除した熱伝導率で評価される。この熱伝導率が小さいものほど断熱性能が高いことを意味する。熱伝導率の測定は、断熱材を温度調整可能な平行平板で挟み、断熱材の厚み方向に所定の温度差をつけたときの単位面積当たりの熱流密度を測定する。同時に平行平板間の厚みを測定し、熱伝導率を算出する。
【0005】
この測定方法は、断熱材両面の温度差が一定、つまり定常状態になったときの熱流密度を測定するものである。このため、測定開始から定常状態になるまでの時間が必要となる。この時間を短縮するために、測定対象の断熱材上に、熱源を挟んで温度による素材変化が生じにくいシリカなどの熱抵抗材を配置し、熱抵抗材内部の2点以上の温度差から断熱材の熱伝導率を推定する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図2は、従来の熱伝導率測定装置の説明図である。熱伝導率測定装置1は、熱発生装置2と熱抵抗材3を備えている。熱抵抗材3は、内部の温度差を測定するものである。
【0007】
熱発生装置2により被測定物4と熱抵抗材3との間で熱を発生させ、被測定物4と熱抵抗材3に熱を流し、熱抵抗材3の内部の熱流によって生じる温度差を温度差測定装置5によって測定し、この温度差から被測定物4の熱伝導率を求めることができる。また、熱抵抗材3上部には、熱発生装置2と熱抵抗材3および被測定物4とを上方から荷重をかけて密着させる密着付与材6を備えている。
【0008】
例えば、被測定物4の熱伝導率が高いと、熱抵抗材3に流れる熱流は少なくなるので、熱抵抗材3の内部の温度差は小さくなる。逆に、被測定物4の熱伝導率が小さいと、熱抵抗材3の内部に流れる熱流は多くなるので、熱抵抗材3の内部の温度差が大きくなる。この原理を利用して、間接的に被測定物4の熱伝導率を測定することができる。
【0009】
また、同時に複数の熱伝導率を測定できる装置として、両面に加熱源を有し、その両面に被測定物を配置するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002―131257号公報
【特許文献2】特開2005−227010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の構成では、断熱材など測定対象物の加熱面と冷却面の温度が一定となった定常状態での熱伝導率を測定している。このため、測定対象物の温度が測定毎に異なる場合、これを定常状態に制御しなければならず、測定対象物の測定温度とその熱容量に応じて加熱、冷却を制御し、安定までに時間を要するという課題があった。
【0011】
また。この時間を短縮しようとすると、測定対象物に対して十分な加熱および冷却能力を有する温度制御手段が必要となり、装置全体が大型化し、さらに装置のエネルギー消費量も増大するという課題があった。
【0012】
また、定常状態までの制御時間は従来どおりで、同時に複数のものを測定する場合には、測定対象物の複雑な配置が必要であり、手作業か専用の装置も必要となるという課題があった。
【0013】
本発明は、測定対象物の温度管理を予め行うことにより、測定時間を大幅に短縮でき、さらには小型かつ簡単な構成でありながら高い精度で熱伝導率を測定できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来の課題を解決するために、本発明の熱物性測定装置は、上部が平らな熱源と、熱源の上方に設けられ上下に可動する熱流密度センサーで構成され、熱源の温度と熱流密度センサーの温度の平均温度を算出し、被測定物を平均温度から熱源温度の間の温度になるように予め温度調節したあと、熱源上に配置するとともに熱流密度センサーを被測定物に接触させ、熱源から被測定物を介して熱流密度センサーに伝わる熱流密度を測定するものであり、熱源上に置かれた断熱材などの被測定物は、熱源から供給される熱によって加熱されて温度が上昇する。熱流密度センサーもまた被測定物を通過して伝わる熱によって次第に昇温する。このため、測定開始時と測定終了時の熱流密度センサーと熱源の平均温度を比較すると、測定終了時の方が高くなる。つまり、被測定物を予め測定終了時の熱流密度センサーと熱源の平均温度に調整しておくことで、熱流密度センサー(低温側)の温度制御をしなくても、簡単な小型の構成で熱物性を測定可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被測定物を予め測定終了時に近い温度に調整するため、簡単な構成でありながら、測定時間を大幅に短縮し、測定精度を向上した小型な熱物性測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
請求項1に記載の熱物性測定装置の発明は、上部が平らな熱源と、前記熱源の上方に設けられ上下に可動する熱流密度センサーで構成され、前記熱源の温度と前記熱流密度センサーの温度の平均温度を算出し、被測定物を前記平均温度から前記熱源温度の間の温度になるように予め温度調節したあと、前記熱源上に配置するとともに前記熱流密度センサーを前記被測定物に接触させ、前記熱源から前記被測定物を介して前記熱流密度センサーに伝わる熱流密度を測定することを特徴とするものであり、断熱材などの被測定物は、熱物性測定によって最終的に到達する温度に近似した温度になるように測定前の待機時間に調節される。このため、熱物性測定装置各部の温度が設定値と近くなるので、簡単な小型な構成で、さらに短時間で熱物性を測定可能となる。
【0017】
請求項2に記載の熱物性測定装置の発明は、請求項1に記載の発明において、被測定物の厚みを測定する厚み測定手段を備え、熱流密度センサーで測定される熱流密度を、前記厚み測定手段で測定される被測定物の厚みおよび熱源の温度と前記熱流密度センサーの温度差で除して前記被測定物の熱伝導率を算出する演算手段を備えることを特徴とするものであり、熱物性の一つである熱伝導率を測定可能である。このことにより、各種被測定物の断熱または伝熱性能を簡単な小型な構成で、さらに短時間で測定できることに加えて、同一の指標で比較できるので、その物性値の優劣を精度良く評価できる。
【0018】
請求項3に記載の熱物性測定装置の発明は、請求項2に記載の発明において、演算手段は、予め記憶させた値と前記演算手段で算出された値とを比較して、被測定物が所望の熱物性を有しているか否かを判定する判定手段に接続されていることを特徴とするものであり、被測定物の熱伝導率を測定するとともに、その測定値が所望の値であるか否かを自動的に判定できる。このことから、熱伝導率を簡単な小型な構成で、さらに短時間で測定できることに加えて、被測定物の品質を定量的に判定することができる。
【0019】
請求項4に記載の熱物性測定装置の発明は、請求項3に記載の発明において、判定手段で判定した結果を表示する表示手段を備えることを特徴とするものであり、短時間で測定、評価した結果を視覚的に認識できるので、簡単な小型な構成で、さらに精度良く被測定物の品質を定量的に判定することができる。
【0020】
請求項5に記載の熱物性測定装置の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、被測定物は、熱伝導率が0.045W/mK以下の断熱材であることを特徴とするものであり、熱が伝わりにくい被測定物を熱源から供給される熱流のみで昇温させるときでも、予め測定温度付近まで温度調節されていることから、簡単な小型な構成で、さらに短時間で熱物性を測定することができる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1における熱物性測定装置の構成図である。
【0023】
図1に示すように、被測定物101は、熱伝導率が0.045W/mK以下の断熱材である。冷蔵庫や住宅用の断熱材として一般的に用いられる発泡ポリウレタンがある。また、粉末やグラスウールを焼成して板状にした芯材を樹脂とアルミ箔のラミネートフィルムで袋状に作製した外被材に挿入し、内部を真空状態にしたあと開口部を熱溶着してシールした真空断熱材などがある。熱源102は、上面にステンレスや鉄製の金属板103が備えられ、その上部に被測定物101を載せることができる。また、金属板103下部に接触して電気ヒーター104が備えられ、金属板103を加熱する。金属板103は熱電対105で温度が検知され、温度調整器106を介して金属板103が所定の温度になるように電気ヒーター104の出力を調整することができる。
【0024】
被測定物102上方には、熱流密度センサー107が備えられている。熱流密度センサー107は、内部に熱電対が埋設されており、上下面の温度差によって熱電対に発生する起電力から単位面積当たりに通過した熱流を測定するものである。また、熱流密度センサー107は、梁108に固定され、空気圧によって上下動が可能なエアシリンダー109の先端にバネ110を介して設けられたフレーム111下面に備えられている。梁108は、略中央部に集中荷重がかかるので、上面にリブを立てるなどの補強構造になっている。また、エアシリンダー109にはチューブ112を介して、コンプレッサ113に接続されている。フレーム111は、金属製で断面形状がコの字型になっており、熱流密度センサー107上面の大部分が空気と接触している。
【0025】
被測定物101上方には厚み測定手段114が複数備えられている。厚み測定手段114は、光学非接触式である。コンプレッサ113を除く各部品は、ケーシング115内に収められている。
【0026】
熱流密度センサー107と厚み測定手段114は、信号線116でケーシング115外にある演算手段117に接続されている。演算手段117は、熱流密度センサー107と厚み測定手段114で検出される被測定物101の熱流密度と厚みおよび上下面の温度差から熱伝導率を算出し、さらに予め記憶させておいた値と算出値を比較し、被測定物101が所望の熱物性を有しているか否かを判定する判定手段118を備えている。また、判定手段118の判定結果を表示する表示手段119を備えている。
【0027】
以上のように構成された熱物性測定装置について、以下その動作について説明する。
【0028】
まず、被測定物101の熱伝導率を測定するために、熱源102(高温側)の温度を調整する。例えば、上面の金属板103が40℃〜70℃になるように温度調整器106で電気ヒーター104の出力を調整するとよい。金属板103から放出される熱は、ケーシング115内の温度を僅かに上昇させる。このとき、ケーシング115内の温度は、熱流密度センサー107によって検出される温度とほぼ同等になっている。
【0029】
金属板103および熱流密度センサー107の温度が安定すれば、その平均値を算出する。そして、この平均値と金属板103の温度の間で被測定物101を予備加熱する。例えば、金属板103を50℃に設定し、ケーシング115内温度が30℃とすると、被測定物101は40℃〜50℃に予備加熱すればよい。なお、予備加熱の手段はどのような方法でも構わないが、実験室などの小規模な場合は、恒温炉などに数分放置すればよい。工場のように大量かつ連続的に生産する場合においては、生産ラインの最終工程に加熱工程を設けるとよい。
【0030】
このようにして、予備加熱された被測定物101は、金属板103上に設置される。その後、コンプレッサ113からチューブ112を介して圧縮空気をエアシリンダー112に供給し、熱流密度センサー107を被測定物101表面に接するように降下させる。このとき、被測定物101表面が傾斜していたとしても、複数のバネ110によって熱流密度センサー107と被測定物101が密着できる。なお、被測定物101への圧縮力が強すぎる場合には、被測定物101が変形する恐れがあるので、被測定物101の圧縮変形挙動に応じて、予めコンプレッサ113からの空気圧を調整する。
【0031】
被測定物101の厚みは、上方に備えられた厚み測定手段114によって測定される。
【0032】
このように測定された被測定物101の熱流密度と厚みおよび被測定物両面の温度差は、演算手段117に信号線116を介して電気信号で送信される。演算手段117内では、送信された各データから判別手段118で被測定物101の熱伝導率を算出し、予め記録した所望の値と比較することによって、被測定物101の断熱性能の良し悪しを判断する。また、この判断結果は、表示手段109によって視覚的にわかりやすいように表示される。
【0033】
以上のように、上部が平らな熱源102と、熱源102の上方に設けられ上下に可動する熱流密度センサー107で構成され、熱源102の温度と熱流密度センサー107の温度の平均温度を算出し、被測定物101を平均温度から熱源102温度の間の温度になるように予め温度調節したあと、熱源102上に配置するとともに熱流密度センサー107を被測定物101に接触させ、熱源102から被測定物101を介して熱流密度センサー107に伝わる熱流密度を測定するものであり、断熱材などの被測定物は、熱物性測定によって最終的に到達する温度に近似した温度になるように測定前の待機時間に調節される。このため、熱物性測定装置各部の温度が設定値と近くなるので、簡単な小型な構成で、さらに短時間で熱物性を測定可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明にかかる熱物性測定装置は、断熱材などの熱伝導率を短時間で測定できる。このため、断熱材の量産工場などにおいて、品質検査を短時間で行うことができるので、検査品数を増やしたり、全品検査が可能になることから、断熱材の品質向上に貢献でき、さらに断熱材を使用する冷蔵庫や住宅の品質も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1における熱物性測定装置の構成図
【図2】従来の熱伝導率測定装置の説明図
【符号の説明】
【0036】
101 被測定物(断熱材)
102 熱源
107 熱流密度センサー
114 厚み測定手段
117 演算手段
118 判定手段
119 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が平らな熱源と、前記熱源の上方に設けられ上下に可動する熱流密度センサーで構成され、前記熱源の温度と前記熱流密度センサーの温度の平均温度を算出し、被測定物を前記平均温度から前記熱源温度の間の温度になるように予め温度調節したあと、前記熱源上に配置するとともに前記熱流密度センサーを前記被測定物に接触させ、前記熱源から前記被測定物を介して前記熱流密度センサーに伝わる熱流密度を測定することを特徴とする熱物性測定装置。
【請求項2】
被測定物の厚みを測定する厚み測定手段を備え、熱流密度センサーで測定される熱流密度を、前記厚み測定手段で測定される被測定物の厚みおよび熱源の温度と前記熱流密度センサーの温度差で除して前記被測定物の熱伝導率を算出する演算手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の熱物性測定装置。
【請求項3】
演算手段は、予め記憶させた値と前記演算手段で算出された値とを比較して、被測定物が所望の熱物性を有しているか否かを判定する判定手段に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の熱物性測定装置。
【請求項4】
判定手段で判定した結果を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の熱物性測定装置。
【請求項5】
被測定物は、熱伝導率が0.045W/mK以下の断熱材であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の熱物性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−281908(P2009−281908A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135143(P2008−135143)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能、高機能真空断熱材」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】