説明

熱画像発生装置

【課題】 任意の熱分布パターンを発生させる熱画像発生装置において、正確な熱分布画像の発生と、熱分布の移動速度発生が可能な熱画像発生装置等を提供する。
【解決手段】 吸発熱板10aを有する多数の熱電素子10を配列して熱画像発生面15aを形成し、吸発熱板10aのそれぞれの温度を制御して熱画像発生面15aに任意の熱画像を発生させる熱画像発生装置50において、熱画像発生面15aにおける熱電素子10同士の間を埋める熱シールド18を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IR(Infrared rays:赤外線)暗視装置等の試験に用いる目標画像を発生させる熱画像発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記利用分野においては、試験用目標画像を発生するために、吸発熱板を有する多数個のペルチェ素子を平面状に配列し、このペルチェ素子に流す電流を個別に制御することにより、任意の熱分布パターンを発生させる熱画像発生装置が提案されている。
【特許文献1】特開平2−10601号公報
【特許文献2】特開平8−75398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ペルチェ素子は、2種類の金属の接合部に電流を流すことにより、片方の金属からもう片方へ熱が移動するという「ペルチェ効果」を利用した素子であるため、板状のペルチェ素子においては、表面側の板が発熱すると裏面側の板は吸熱(冷却)するという特徴を有する。
そして、従来の熱画像発生装置における熱画像発生面は、このような板状のペルチェ素子を、各ペルチェ素子同士の間に所定の隙間を設けて、平面状に多数配列して形成している。このため、IR暗視装置等で熱画像発生面を観察すると、各ペルチェ素子同士の間の隙間からペルチェ素子の側面等の熱分布が観察されてしまうという問題がある。すなわち、本来観察されるべきでなく、しかも熱画像発生面に対して温度差が大きくなるペルチェ素子の側面等の熱分布が含まれてしまうため、正確な画像を表示できないという問題があった。
また、IR暗視装置等により実際に観察する対称物(熱源体)、例えば艦船、航空機、地上走行車両等は、高速に移動するものが少なくない。しかしながら、従来の熱画像発生装置では、表示された熱分布の移動速度は遅く、試験用として使用できるほど十分なものではなかった。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、任意の熱分布パターンを発生させる熱画像発生装置において、正確な熱分布画像の発生と、熱分布の十分な移動速度発生が可能な熱画像発生装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る熱画像発生装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明は、吸発熱板を有する多数の熱電素子を配列して熱画像発生面を形成し、吸発熱板のそれぞれの表面温度を制御して熱画像発生面に任意の熱画像を発生させる熱画像発生装置において、熱画像発生面における熱電素子同士の間を埋める熱シールドを備えるようにした。
この発明によれば、熱画像発生面を形成する各熱電素子同士の間の間隙を熱シールドで埋めたので、熱画像発生面に対して温度差の大きい熱電素子の側面や熱電素子固定部材等の熱分布が熱画像発生面側に現れることが防止される。したがって、熱画像発生面をIR暗視装置等で観察した際に、正確な画像が表示されるようになり、試験を良好に行うことができる。
【0006】
また、吸発熱板の温度を制御する制御部が、吸発熱板の表面温度の追従遅れを抑える補償手段を有するものでは、熱画像発生面に発生させた熱画像を高速に移動させることができる。したがって、高速移動体を想定した熱画像を熱画像発生面に良好に発生させることができる。
また、補償手段としては、熱電素子に流す電流を調整したり、熱電素子に流す電流の入力時期を調整したりして、追従遅れによる温度誤差を抑えるようにすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
本発明は、吸発熱板を有する多数の熱電素子を配列して熱画像発生面を形成し、吸発熱板のそれぞれの表面温度を制御して熱画像発生面に任意の熱画像を発生させる熱画像発生装置において、熱画像発生面における熱電素子同士の間を埋める熱シールドを備えるようにした。これにより、熱電素子の側面や熱電素子固定部材等の熱分布が熱画像発生面側に現れることが防止される。したがって、熱画像発生面をIR暗視装置等で観察した際に、正確な画像が表示されるようになり、試験を良好に行うことができる。
また、吸発熱板の温度を制御する制御部が、吸発熱板の表面温度の追従遅れを抑える補償手段を有するものでは、高速移動体を想定した熱画像を熱画像発生面に良好に発生させることができる。したがって、IR暗視装置等の試験用として十分な性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の熱画像発生装置の実施形態について図を参照して説明する。
図1は本発明の熱画像発生装置を示す概略図、図2は熱画像発生装置の拡大断面図である。
熱画像発生装置50は、熱画像を発生させる熱画像発生部15と、熱画像発生部15を支持すると共にその裏面側を一定温度に維持するヒートシンク20と、熱画像発生部15を制御する制御装置30等から構成される。
そして、熱画像発生部15は、略正方形状の吸発熱板10a,10bを有する多数の板状のペルチェ素子10と、断熱部材18とから構成される。
【0009】
ペルチェ素子10(熱電素子)は、2種類の金属板の接合部に電流を流した際に、一方の金属板から他方の金属板に熱が移動する(一方が発熱、他方が吸熱)というペルチェ効果を利用した素子であり、流す電流によって吸発熱板10a,10bに広い範囲の温度を作り出せる素子である。
各ペルチェ素子10は、一方の吸発熱板10bがヒートシンク20に密着するように固着される。また、多数のペルチェ素子10が、隣接するペルチェ素子10との間に所定の隙間Sが形成されるように、ヒートシンク20上に規則的に配列される。この隙間Sは、隣接する吸発熱板10a同士及び吸発熱板10b同士が接触することにより、熱伝達が発生することを防止するものである。
なお、ペルチェ素子10の2種類の金属板の接合部には、制御装置30と接続された不図示の配線が設けられる。
【0010】
更に、各ペルチェ素子10同士の間の隙間Sには、図2に示すように、断熱部材18が配置(充填)される。すなわち、多数のペルチェ素子10同士の間に断熱部材18が配置されることにより、各ペルチェ素子10の側面やヒートシンク20の熱が隙間Sを通して吸発熱板10a側に照射されることが防止される。なお、断熱部材(熱シールド)18としては、シリコーン系樹脂、アルミナ系或いはシリカ系樹脂を主成分とするものが挙げられる。
なお、断熱部材18は、隙間Sのみに限らず、図1に示すように、多数のペルチェ素子10の最外殻にも配置される。
このようにして、多数のペルチェ素子10の吸発熱板10aと断熱部材18とから熱画像発生面15aが形成される。
【0011】
ヒートシンク20は、アルミニウム等の金属から形成され、その所定の面に多数のペルチェ素子10及び断熱部材18を支持する。そして、ヒートシンク20には、不図示の冷却装置が連結され、一定温度に維持される。これにより、各吸発熱板10bが一定温度に維持される。
【0012】
制御装置(制御部)30は、ペルチェ素子10に印加する電圧の極性を反転させるための電圧極性切換部やペルチェ素子10に流す電流の大きさを制御するための電流制御部から構成される。
また、電流制御部は、各ペルチェ素子10の吸発熱板10a,10bの温度制御として、フィードフォワード補償を行うものである。
そして、熱画像発生部15を構成するペルチェ素子10のそれぞれの吸発熱板10aを個別に発熱或いは吸熱させて任意の表面温度にすることにより、熱画像発生部15の熱画像発生面15a上に任意の熱画像(熱パターン)を発生させる。
【0013】
続いて、熱画像発生装置50の作用について説明する。
まず、制御装置30により、ペルチェ素子10に電圧を印加すると、例えば、吸発熱板10aが発熱し、吸発熱板10bが吸熱するが、吸発熱板10bが略一定温度に保たれたヒートシンク20に密着していることから、吸発熱板10bの温度は変化せず、相対的に吸発熱板10aの温度のみが上昇する。
一方、制御装置30によりペルチェ素子10に印加する電圧の極性を切り換えると、吸発熱板10aが吸熱し、吸発熱板10bが発熱するが、上述したように吸発熱板10bの表面温度が略一定温度に保たれるため、吸発熱板10aの温度のみが相対的に低下する。
【0014】
このように、ペルチェ素子10に流す電流の極性を切り換えることにより、ペルチェ素子10の吸発熱板10aの発熱或いは吸熱を切り換えることができる。また、ペルチェ素子10に流す電流の大きさを調整することにより、吸発熱板10aを発熱或いは吸熱の程度、すなわち吸発熱板10aの温度を任意の温度に設定することができる。
そして、ペルチェ素子10の吸発熱板10bがヒートシンク20と密着して所定の温度に維持されているので、ペルチェ素子10に流す電流と吸発熱板10aの表面温度とが一対一に対応するようになる。
したがって、各ペルチェ素子10のそれぞれに任意の電流を個別に流し、全体として熱画像発生部15に任意の電流パターンを流すことにより、熱画像発生面15aにその電流パターンに応じた熱画像を発生させることができる。
【0015】
また、制御装置30により、各ペルチェ素子10に流す電流を個別に変化させることにより、例えば、熱画像発生面15aに発生させた熱画像を更に高温にしたり、或いは熱画像を移動させたりすることが可能となる。すなわち、熱画像発生面15aに、艦船、航空機、地上走行車両、及び人間等の熱画像を発生させ、更にこれらを移動させることができる。
【0016】
ここで、熱画像発生部15を構成する各ペルチェ素子10同士の間の隙間Sが断熱部材18により埋められており、ペルチェ素子10の側面やヒートシンク20の熱が遮蔽されているので、熱画像発生面15aをIR暗視装置等で見た場合に、熱画像発生面15aに対して温度差の大きいペルチェ素子10の側面やヒートシンク20の熱分布に基づく熱画像が表示されなくなり、正確な画像を表示することができる。
【0017】
次に、制御装置30によるペルチェ素子10の温度制御について説明する。
図3,図4は、ペルチェ素子10の温度制御を説明する図である。
上述したように、ペルチェ素子10の温度制御には、フィードフォワード補償が用いられる。
図3(a)は、吸発熱板10aの表面温度を階段状に上昇させる際の従来例を示す図である。従来の温度制御では、吸発熱板10aの表面温度を階段状に上昇させるために階段状に電流を変化させていた(線P)。しかしながら、吸発熱板10aの表面温度は、電流を通電してから徐々に変化するため、吸発熱板の表面温度の追従遅れが発生する(線Q)。
【0018】
そこで、ペルチェ素子10に流す電流を、図3(b)に示すように、温度上昇時に従来の通電電流よりも大きな電流を流す(線R)。すなわち、従来よりも過大な電流を流すことにより、急速に吸発熱板10aの表面温度を指定温度に到達(発熱)させることができる(線S)。なお、図3(b)に示すように電流を直線的に流す場合に限らず、曲線的に流しても構わない。
上述の例では、吸発熱板10aの表面温度を上昇(発熱)させる場合であったが、表面温度を低下(吸熱)させる場合も同様である。すなわち、従来よりも過小な電流を流すことにより、急速に吸発熱板10aの表面温度を指定温度に到達(吸熱)させることができる。
このように、ペルチェ素子10に流す電流を通常よりも過大或いは過小にすることにより、ペルチェ素子10の表面温度の追従遅れを抑えることができる。
【0019】
また、ペルチェ素子10に流す電流を過大或いは過小に流す場合の他、図4(a),(b)に示すように、ペルチェ素子10に流す電流の通電時期(タイミング)を変化させることにより、表面温度の追従遅れを抑えることも可能である。すなわち、表面温度の追従遅れを見越して、その遅れの分だけ基準時0より早め(Δt,Δt)にペルチェ素子10に電流を流す(線T,線V)。これにより、吸発熱板10aの表面温度を見かけ上、追従遅れがないようにすることができる(線U,線W)。つまり、基準時0には、遅れなく指定温度に達しているようになる。なお、当然のことながら、表面温度の変化量が大きい程、ペルチェ素子10への通電時期は早めになる。
このように、ペルチェ素子10への通電時期を調整することにより、ペルチェ素子10の表面温度の追従遅れを抑えることができる。
【0020】
上述したペルチェ素子10への通電電流の調整、或いは電流通電時期の調整は、フィードフォワード補償により実現される。すなわち、指令された表面温度と通電中の電流から求めた現在の表面温度との差に基づいて、指定された表面温度が実現されるまでの時間、すなわち追従遅れを推定し、その追従遅れが解消するように、ペルチェ素子10に流す電流或いは通電時期(タイミング)を変化させる。
このように、フィードフォワード補償を用いることにより、表面温度の追従遅れを抑えることができる。
また、指定された表面温度と実際に表面温度との温度差を求めて、PID制御等のフィードバック補償を用いてもよい。
【0021】
以上、説明したように、本実施形態の熱画像発生装置50によれば、ペルチェ素子10の吸発熱板10aの温度を精密に制御できるので、多数の吸発熱板10aにより構成される熱画像発生面15aに発生させる熱画像を精密に制御できる。
また、ペルチェ素子10の吸発熱板10a温度変化に追従遅れを抑えることができるので、熱画像の更新が短時間で可能となり、熱画像の動画(高速移動)が可能となる。
更に、ペルチェ素子10は比較的安価なので、熱画像発生装置50の製造コストも低く抑えることができる。また、熱画像発生部15を構成するペルチェ素子10の配列密度を上げることにより、真の熱画像に限りなく近づけることが可能になるとともに、小規模でも十分な熱画像を得ることができる。
【0022】
なお、本発明は、上述の実施の形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0023】
例えば、熱画像発生部15を形成する吸発熱板10aの形状としては、四角形には限らず、三角形、六角形、或いは円形であってもよい。
【0024】
また、熱画像発生面15aにおける断熱部材18の上に、凹面や平面上の熱反射板等を設置してもよい。吸発熱板10aで発生した熱をこれら熱反射板で反射さることにより、熱を熱画像発生面15aに対して任意の方向、例えば直交する方向に照射させるようにしてもよい。
また、吸発熱面10aに対応する領域に多数の孔を設けた平面板を熱画像発生面15aの前面に配置してもよい。
【0025】
また、熱シールドを所定の温度に変化させてもよい。ただし、熱画像発生部15の温度変化に比べて微少かつ緩やかな変化である。例えば、熱画像発生装置50を室外で使用する際に、設置場所の外気温と同一温度に維持するようにしてもよい。
【0026】
また、ヒートシンク20は、常に一定温度である必要はない。ヒートシンク20の温度を可変とすることで、熱画像発生部15の全体を発熱或いは吸熱させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】熱画像発生装置50を示す概略図
【図2】熱画像発生部15の拡大断面図
【図3】ペルチェ素子10の温度制御を説明する図
【図4】ペルチェ素子10の温度制御の他の例を説明する図
【符号の説明】
【0028】
10 ペルチェ素子(熱電素子)
10a,10b 吸発熱板
15 熱画像発生部
15a 熱画像発生面
18 断熱部材(熱シールド)
30 制御装置(制御部)
50 熱画像発生装置




【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸発熱板を有する多数の熱電素子を配列して熱画像発生面を形成し、前記吸発熱板のそれぞれの表面温度を制御して前記熱画像発生面に任意の熱画像を発生させる熱画像発生装置において、
前記熱画像発生面における前記熱電素子同士の間を埋める熱シールドを備えることを特徴とする熱画像発生装置。
【請求項2】
前記吸発熱板の温度を制御する制御部は、前記吸発熱板の表面温度の追従遅れを抑える補償手段を有することを特徴とする請求項1に記載の熱画像発生装置。
【請求項3】
前記補償手段は、前記熱電素子に流す電流を調整して、追従遅れによる温度誤差を抑えることを特徴とする請求項2に記載の熱画像発生装置。
【請求項4】
前記補償手段は、前記熱電素子に流す電流の入力時期を調整して、追従遅れによる温度誤差を抑えることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の熱画像発生装置。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−3031(P2006−3031A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181141(P2004−181141)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】