説明

熱発電携帯機器

【課題】生体への装着状態において発電効率の低下を抑制し、所望の発電量を確保する。
【解決手段】熱源と放熱先との温度差に基づき発電する熱発電部材109と、熱源と放熱先との間の伝熱経路中に設けられ、伝熱経路の熱抵抗を変更する可変抵抗部と、可変抵抗部を移動させる可変抵抗部移動機構と、を備え、可変抵抗部移動機構は、弾性部材113を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱発電携帯機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、熱発電素子を裏蓋と本体内部の放熱リングとの間に設置し、人体の腕から体温が裏蓋を介して伝達される発熱側の温度と放熱側の温度との温度差によって発電電圧を得る熱発電腕時計が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3054933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係る熱発電腕時計においては、人体の腕に装着された後に熱発電腕時計全体の温度が飽和するように熱的平衡状態に向かい変化することに伴い、熱発電素子の発熱側の温度と放熱側の温度との温度差が小さくなり、熱発電素子の発電電圧が低下することで所望の発電量を確保することができなくなると共に、発電効率が低下してしまう問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、生体への装着状態において発電効率の低下を抑制し、所望の発電量を確保することが可能な熱発電携帯機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の熱発電携帯機器は、熱源と放熱先との温度差に基づき発電する熱発電部材と、熱源と放熱先との間の伝熱経路中に設けられ、伝熱経路の熱抵抗を変更する可変抵抗部と、可変抵抗部を移動させる可変抵抗部移動機構と、を備え、可変抵抗部移動機構は、弾性部材を有する事を特徴とする。
【0007】
また、可変抵抗部移動機構は、伝熱経路の距離を制御する事を特徴とする。
また、可変抵抗部は、導熱部材である板状部材を有する事を特徴とする。
また、可変抵抗部移動機構は、可変抵抗部を伝熱経路と交差する方向を軸として回転させる事を特徴とする。
また、弾性部材は、ゴムである事を特徴とする。
【0008】
また、時間を計る計時部を有し、可変抵抗部移動機構は、計時部により可変抵抗部を移動させることを特徴とする。
また、 熱発電部材の発電電圧を検出する電圧検出部を有し、可変抵抗部移動機構は、発電電圧により可変抵抗部を移動させることを特徴とする。
また、熱発電部材の発電電力を蓄電する蓄電部を有し、可変抵抗部移動機構は、蓄電部の蓄電量により可変抵抗部を移動させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る熱発電携帯機器によれば、例えばペルチェ素子などからなる熱発電部材は、熱源である生体の温度(体温)と熱発電携帯機器外部の雰囲気などの放熱先の温度との温度差に起因して熱発電部材の熱源側位置と放熱先側位置との間に生じる温度差の大きさに応じた発電電圧を出力する。
【0010】
このため、熱源と放熱先との間の所定の温度差に対して、伝熱経路のうち局在的に熱発電部材の熱源側位置と放熱先側位置との間で温度差が増大するようにして伝熱経路の少なくとも一部の熱抵抗を変更することにより、発電電圧を増大させて所望の発電量を確保することができると共に、発電効率の低下を抑制することができる。
【0011】
例えば、先ず、熱発電携帯機器が熱源である生体に装着された初期状態においては、伝熱経路を構成する直列的な各領域(例えば、機器本体を構成する部材や機器内部の空気などにより構成される各領域)の熱抵抗を同等あるいは熱発電部材の熱抵抗よりも小さな値に設定しておくことにより、熱発電部材の熱源側位置と放熱先側位置との間の温度差を、熱源と放熱先との間の所定の温度差に応じた最大発電状態の温度差まで迅速に増大させることができ、発電効率を増大させることができる。
【0012】
そして、熱発電携帯機器全体の温度が飽和するように熱的平衡状態に向かい変化することに伴い、熱発電部材の熱源側位置と放熱先側位置との間の温度差および熱発電部材の発電電圧が低下した後においては、例えば熱源と放熱先との間における伝熱経路で熱発電部材に対して直列接続の関係を有する適宜の領域の熱抵抗を増大させるなどによって、伝熱経路の少なくとも一部の熱抵抗を変更する。
【0013】
これにより、いわば、熱源と放熱先との間の所定の温度差が伝熱経路の全体に亘って配分されたような熱的平衡状態が変更されて、この所定の温度差が伝熱経路の一部に局在的に集中するような熱的平衡状態が形成される。
【0014】
そして、熱源と放熱先との間の所定の温度差に基づいて伝熱経路の一部に局在的な温度差が形成された後、伝熱経路の熱抵抗を変更前の状態(例えば、伝熱経路を構成する直列的な各領域の熱抵抗が同等あるいは熱発電部材の熱抵抗よりも小さい状態)などに変更する。
【0015】
これにより、熱的過渡状態において熱発電部材の熱源側位置と放熱先側位置との間の温度差および熱発電部材の発電電圧を初期状態の程度(例えば、最大発電状態での温度差および発電電圧など)まで再度増大させることができ、所望の発電量を確保することができると共に、発電効率の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
発電効率の低下を抑制し、所望の発電量を確保することが可能な熱発電携帯機器を提供することを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る第一の実施例を示す熱発電携帯機器の断面図である。
【図2】本発明に係る第二の実施例を示す熱発電携帯機器の断面図である。
【図3】本発明に係る第三の実施例を示す熱発電携帯機器の断面図である。
【図4】本発明に係る熱発電携帯機器のムーブメントの構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る熱発電携帯機器の熱抵抗を説明する等価回路図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る熱発電携帯機器が生体に装着された状態における熱抵抗モデルでの温度分布の一例を示す図である。
【図7】本発明に係る熱発電携帯機器が生体に装着された以後における熱発電部材の熱源側位置の温度と放熱先側位置の温度との間に生じる温度差ΔTpの変化の一例を示すグラフ図である。
【図8】本発明に係る熱発電携帯機器が生体に装着された以後における、弾性部材の弾性変形に伴う熱抵抗と、熱抵抗モデルでの温度分布の変化とを示す図である。
【図9】本発明に係る熱発電携帯機器が生体に装着された以後における、弾性部材の弾性変形に伴う熱抵抗と、熱発電部材の熱源側位置の温度と放熱先側位置の温度との間に生じる温度差ΔTpの変化とを示す図である。
【図10】本発明に係る変形機構部の自動駆動を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る熱発電携帯機器および熱発電携帯機器の発電制御方法について添付図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第一の実施形態)
図1、4〜10を用いて、第一の実施形態について説明する。
図1(a)、(b)は本発明に係る第一の実施形態を示す熱発電携帯機器の断面図である。熱発電携帯機器1100は、例えば人体の腕に装着される腕時計であって、図1に示すように、筐体101と、枠体102と、カバーガラス103と、裏蓋104と、保持部材105と、文字盤106と、ムーブメント107と、基板108と、熱発電部材109と、接着層110と、導熱部材111と、導熱接合層112と、弾性部材113より構成されている。実際には文字盤106の上には指針部があるが、本図にては省略されている。
【0020】
この弾性部材113は接着層110を介在して、熱発電部材109と一体接続されている。さらに、弾性部材113は、例えば金属性のばね材、ゴム材等の弾性体からなっている。
筐体101は、例えば金属などにより筒状に形成され、一方の開口端はカバーガラス103により閉塞され、他方の開口端には筒状の枠体102の一方の開口端が接続されている。
【0021】
枠体102は、例えば合成樹脂などにより筒状に形成され、他方の開口端は裏蓋104により閉塞されている。
保持部材105は、例えばアルミニウム、銅、真鍮等の金属により形成され、筐体101および枠体102の内部に収容されている。
【0022】
ムーブメント107は、例えば、文字盤106の裏面側に配置されて保持部材105により保持されている。
ムーブメント107は、例えば図4に示すように、制御部401と、針駆動部402と、昇圧部403と、蓄電部404とを備えて構成されている。
【0023】
制御部401は、例えば蓄電部404から供給される電力により作動する発振回路および分周回路およびモータ駆動パルス出力回路などを備え、分周回路から出力される計時の基準となる信号に応じて、針駆動部402を駆動するための駆動パルスをモータ駆動パルス出力回路から出力する。
針駆動部402は、例えばステッピングモータなどを備え、制御部401から出力される駆動パルスに応じて指針部405を回転駆動する。
【0024】
昇圧部403は、例えば発振回路およびチャージポンプ回路などを備え、熱発電部材109に接続され、熱発電部材109から出力される発電電圧を昇圧して昇圧電圧を出力する。蓄電部404は、例えば2次電池やコンデンサなどを備え、昇圧部403に接続され、昇圧部403から出力される電力を蓄電する。
【0025】
基板108は、例えば保持部材105により保持されている。
熱発電部材109は、例えばペルチェ素子や熱電対などからなり、保持部材105と導熱部材111とによって挟み込まれるようにして保持されている。
導熱部材111は、例えば銅などにより板状に形成され、裏蓋104の内面側に配置されている。
【0026】
弾性部材113は導熱部材111から保持部材105の伝熱経路の熱抵抗を変更する可変抵抗部である。筐体101には筐体空隙部114が形成され、この筐体空隙部114と対応した枠体ピン部115が枠体102に形成されており、この筐体空隙部114と枠体ピン部114によって、弾性体変形機構部116が形成されている。この筐体101と枠体102の接続部に設けられた弾性体変形機構部116によって、筐体101を上下に移動させる事によって、弾性部材113は弾性変形する。弾性体変形機構部116は、可変抵抗部である弾性体変形機構部116を移動させる可変抵抗部移動機構である。
【0027】
図1(a)、(b)において、図1(a)は、筐体101を下側に移動させる前の状態を示す図であって、弾性部材113が弾性変形する前の状態を示す図である。この時、弾性部材113の保持部材105との接触面積は非常に小さい状態になっている。それゆえ、生体から発生し、導熱部材111から伝わる熱流は、保持部材105に伝達しにくい状態、すなわち熱抵抗が高い状態となっている。それに対して、図1(b)は、筐体101を下側に移動させた後の状態を示す図であって、弾性部材113が圧縮によって弾性変形した状態を示す図である。この時、弾性部材113の保持部材105との接触面積は、大きな状態になっている。それゆえ、生体から発生する熱流は、保持部材105に伝達しやすい状態、すなわち熱抵抗が低い状態となっている。 図5は本発明に係る熱発電携帯機器1100における熱抵抗モデルを説明する図であって、温度Tcの熱源である生体より発生する熱流伝達に対する熱抵抗は、裏蓋104と導熱部材109による熱抵抗R5と、熱発電部材109による熱抵抗R4と、枠体102と内部雰囲気による熱抵抗R3と、弾性変形する弾性部材113が存在する保持部材105と熱発電部材109の経路間の熱抵抗Rcxと、筐体101と保持部材105による熱抵抗R2と放熱によるR1によって構成されている。弾性部材113の保持部材105との接触面積を変化させると、この熱抵抗Rcxを変化させる事になる。
【0028】
そして、熱発電部材109は、熱源である生体の温度(熱源温度Tc)と熱発電携帯機器1100の外部の雰囲気などの放熱先の温度(雰囲気温度Ta)との温度差に起因して熱発電部材109の熱源側位置の温度Tp2と放熱先側位置の温度Tp1との間に生じる温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)の大きさに応じた発電電圧を出力する。
【0029】
なお、熱発電携帯機器1100は、例えば、各熱抵抗R1,R5および弾性変形後の熱抵抗を示す熱抵抗Rcxが、熱発電部材109の熱抵抗R4と同等あるいは熱発電部材109の熱抵抗R4よりも小さくなるように構成されている。また、熱抵抗R3は、例えば、各熱抵抗R1,R2,R4,R5、Rcxよりも大きくなるように構成されている。
【0030】
本実施の形態による熱発電携帯機器1100は上記構成を備えており、次に、この熱発電携帯機器1100の動作について説明する。
先ず、例えば図6に示すように、熱発電携帯機器1100外部の雰囲気の温度(雰囲気温度)Taに比べて、より高い温度(熱源温度)Tcを有する熱源である生体に対して、熱発電携帯機器1100が生体に装着されて裏蓋104が生体に接触すると、裏蓋104および導熱部材111からなる領域を経由して、熱源から熱発電部材109の熱源側位置に熱流が伝達される。
【0031】
この熱的過渡状態において、熱発電部材109の熱源側位置の温度Tp2が上昇し、例えば図7に示すように、熱発電部材109の熱源側位置の温度Tp2と放熱先側位置の温度Tp1との間に生じる温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)および熱発電部材109の発電電圧が極大値に向かい増大する。
【0032】
なお、温度差ΔTpの最大値は、例えば、熱源から放熱先までの間の伝熱経路全体の熱抵抗Rと、熱発電部材109の熱抵抗R4と、枠体102および枠体102内部の雰囲気からなる領域(つまり、図5に示す熱抵抗モデルにおいて熱発電部材109に対して並列接続の関係を有する領域)の熱抵抗R3と、雰囲気温度Taおよび熱源温度Tcとにより、下記[数1]に示すように記述される。
【0033】
【数1】

【0034】
そして、熱発電部材109および枠体102および枠体102内部の雰囲気からなる領域を経由して、熱発電部材109の放熱先側位置、さらに放熱先に向かい熱流が伝達されることに伴い、温度差ΔTpが極大値から低下傾向に変化し、熱発電携帯機器1100全体の温度が飽和する熱的平衡状態、いわば、熱源と放熱先との間の所定の温度差(Tc−Ta)が伝熱経路の全体に亘って配分されることで局所的な温度勾配が小さくなる熱的平衡状態が形成される。
【0035】
このような熱発電携帯機器1100全体の温度が飽和する熱的平衡状態が維持されると、温度差ΔTpおよび発電電圧が低下した状態が維持されることになるが、熱源と放熱先との間における伝熱経路の少なくとも一部の熱抵抗(例えば、熱抵抗Rcx)が弾性部材113の変形によって変更されると、再度、熱的過渡状態が生じ、温度差ΔTpおよび発電電圧が増大する。
【0036】
例えば、先ず、熱発電携帯機器1100が熱源である生体に装着された初期状態において、図1(b)に示すように弾性体変形機構部116によって、筐体101を下に移動させる事により、弾性部材113を変形させ、熱抵抗Rcxが小さな値のRcaになっていると、図8(Aa)に示すように、裏蓋104および導熱部材111からなる領域を経由して熱源から熱発電部材109の熱源側位置に熱流が伝達されて熱源側位置の温度Tp2が上昇する。一方、熱発電部材109の放熱先側位置は、変形した弾性部材113、放熱部、筐体101および保持部材105からなる領域とを介して熱発電携帯機器1100外部の雰囲気により冷却され、放熱先側位置の温度Tp1の上昇が抑制される。これにより、例えば図9に示す時刻t1に到る期間のように、熱発電部材109の熱源側位置の温度Tp2と放熱先側位置の温度Tp1との間に生じる温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)および熱発電部材109の発電電圧は極大値に向かい増大する。
【0037】
次に、熱発電携帯機器1100全体の温度が飽和するように熱的平衡状態に向かい変化することに伴い、いわば、熱源と放熱先との間の所定の温度差(Tc−Ta)が伝熱経路の全体に亘って配分されることで局所的な温度勾配が小さくなり、例えば図9に示す時刻t1から時刻t2に到る期間のように、熱発電部材109の熱源側位置の温度Tp2と放熱先側位置の温度Tp1との間に生じる温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)および熱発電部材109の発電電圧が低下傾向に変化する。
【0038】
次に、図1(a)に示すように弾性体変形機構部116によって、筐体101を上に移動させると、変形した弾性部材113が元の形状に復帰する。すると熱抵抗Rcxが大きな値のRcbになる。すると、図8(b)に示すように、裏蓋104および導熱部材111からなる領域と熱発電部材109または枠体102および枠体102内部の雰囲気からなる領域とを経由して熱源から熱発電部材109の放熱先側位置に伝達された熱流は、形状復帰した弾性部材113の部分で、ほぼせき止められる。
【0039】
これにより、例えば図9に示す時刻t2から時刻t3に到る期間のように、熱発電部材109の放熱先側位置の温度Tp1は熱源側位置の温度Tp2に等しくなるように上昇し、温度差ΔTpおよび熱発電部材109の発電電圧がゼロに向かい低下傾向に変化する。一方、筐体101および保持部材105からなる領域は、熱発電携帯機器1100外部の雰囲気により冷却され易くなり、筐体101および保持部材105からなる領域の温度Tbが低下する。
【0040】
つまり、変形した弾性部材113が元の形状に復帰する事で、熱源と放熱先との間の伝熱経路での温度分布が変更されて、熱発電部材109の放熱先側位置の温度Tp1と筐体101および保持部材105からなる領域の温度Tbとの間の温度差が増大する。
【0041】
これにより、いわば、熱源と放熱先との間の所定の温度差(Tc−Ta)が伝熱経路の全体に亘って配分されたような熱的平衡状態が変更されて、この所定の温度差(Tc−Ta)が伝熱経路の一部(つまり、筐体101および保持部材105からなる領域)に局在的に集中するような熱的平衡状態が形成される。
【0042】
再度、図1(b)に示すように弾性体変形機構部116によって、筐体101を下に移動させると、弾性部材113が変形し、熱抵抗Rcxが小さな値のRcaになる。
すると、図8(c)に示すように、熱発電部材109の放熱先側位置は、放熱部と筐体101、変形した弾性部材113および保持部材105からなる領域とを介して熱発電携帯機器1100外部の雰囲気により冷却され、放熱先側位置の温度Tp1が低下する。
【0043】
これにより、例えば図9に示す時刻t3から時刻t4に到る期間のように、熱発電部材109の放熱先側位置の温度Tp1が低下する熱的過渡状態において、熱発電部材109の熱源側位置の温度Tp2と放熱先側位置の温度Tp1との間に生じる温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)および熱発電部材109の発電電圧は極大値に向かい増大する。
【0044】
そして、例えば図9に示す時刻t4以降の期間のように、温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)および熱発電部材109の発電電圧が極大値に到達した以後においては、熱発電携帯機器1100全体の温度が飽和するように熱的平衡状態に向かい変化することに伴い、いわば、熱源と放熱先との間の所定の温度差(Tc−Ta)が伝熱経路の全体に亘って配分されることで局所的な温度勾配が小さくなり、熱発電部材109の熱源側位置の温度Tp2と放熱先側位置の温度Tp1との間に生じる温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)および熱発電部材109の発電電圧が低下傾向に変化する。
【0045】
上述したように、本実施の形態による熱発電携帯機器1100によれば、弾性体変形機構部116によって筐体101を上下運動に応じて、弾性部材113の弾性変形による熱抵抗Rcxが変更され、その結果、熱源と放熱先との間の所定の温度差(Tc−Ta)に対して、局在的に熱発電部材109の熱源側位置と放熱先側位置との間で温度差ΔTp(=Tp2−Tp1)を増大させることができ、発電電圧を増大させて所望の発電量を確保することができると共に、発電効率の低下を抑制することができる。
【0046】
さらに、弾性体変形機構部116と弾性部材113を備えるだけで、機器構成が複雑化することを抑制しつつ、伝熱経路の少なくとも一部の熱抵抗を容易に変更することができる。
【0047】
なお、上述した実施の形態においては、変形前の弾性部材113の断面形状が半円状であるが、形状に関して、これに限定されない事は言うまでも無い。さらに変形前の状態、すなわち、弾性体変形機構部116を下側移動させる前の状態において、弾性部材113は保持部材105と極めて小さな接触面積で接しているが、完全に空隙を形成している状態でもなんら問題ない。この弾性部材113の材質は願わくば、弾性変形率の大きなゴムなどが好ましいが、金属性の弾性部材や、樹脂性の弾性部材であってもよい。
【0048】
なお、弾性体を保持部材105と熱発電部材109を、弾性部材113を用いず、弾性体変形機構部116を用いて接触させる方法もあるが、この場合は直接、熱発電部材109に保持部材105が接触させるので、熱発電部材109が破損したり、劣化する危険性がある。それにたいして、本発明の如く弾性変形しやすい弾性体を用いると、弾性体が緩衝材の役割をはたし過度の接触圧力が緩和されるので、熱発電部材109の破損や劣化を防ぐことができる。それゆえ、本発明にかかる弾性体のヤング率は、少なくとも保持部材105よりも小さい材料である事が望ましい。
【0049】
本発明に係る熱発電携帯機器1100の弾性変形を促す筐体101の上下駆動は、手動操作機構部を設けても良い。
なお、弾性体変形機構部116(以下、変形機構部と呼ぶ)を自動的に駆動する変形機構駆動部を備えてもよい。以下、変形機構部の自動駆動に関して説明する。
【0050】
図10は、本発明に係る変形機構部の自動駆動を説明するためのブロック図である。
本図において、熱発電部材109の発電電圧を検出する電圧センサ1002と、蓄電部404の蓄電量を検出する蓄電量センサ1003及び変形機構駆動部1001とを備えている。この変形機構駆動部1001は、例えばムーブメント107に備えられ、変形機構部1004を駆動するモータなどを備え、制御部401から出力される計時の基準となる信号と、電圧センサ1002から出力される発電電圧の検出結果の信号と、蓄電量センサ1003から出力される蓄電量の検出結果の信号とのうち、少なくとも何れか1つに応じて、変形機構部1004を駆動するタイミングおよび速度などを制御しつつ変形機構部1004を自動的に駆動する。この変形機構部1004に手動により操作可能な手動操作部材を備えてもよい。
【0051】
以下に、本発明に係る変形機構部1004の自動駆動のための発電制御方法について、図1記載の本発明に係る熱発電携帯機器1100を用いて説明する。
例えば、変形機構駆動部1001は、制御部401から出力される計時の基準となる信号に基づき、予め設定された時間に応じて、あるいは指針部405の秒針と分針と時針とのうち少なくとも何れか1つに連動して、変形機構部1004を駆動し、弾性部材113が存在する保持部材105と熱発電部材109の経路の熱抵抗Rcxを変更し、図1(a)(b)に示すように、熱抵抗Rcxが、熱抵抗Rcbと熱抵抗Rcaとに切り替えられる。ここで、熱抵抗Rcxを低減させる変形機構部1004の駆動を正駆動、熱抵抗Rcxを増大させる変形機構部1004の駆動を逆駆動として、以下説明をつづける。
【0052】
また、例えば、変形機構駆動部1001は、電圧センサ1002から出力される発電電圧の検出結果の信号に基づき、発電電圧が所定の閾値(例えば、昇圧部403の昇圧動作が可能な下限電圧や熱発電携帯機器1100の作動に要する下限電圧など)以上である場合には、図8(a)に示すように、熱抵抗R2が小さな値の熱抵抗Rcaとなるように変形機構部1004を正駆動させる。そして、発電電圧が所定の閾値未満になった以後においては、一時的に(例えば、図9に示す時刻t2から時刻t3に亘る所定期間などにおいて)、図8(b)に示すように変形機構部1004を逆駆動して、熱抵抗Rcxを一時的に大きな値の熱抵抗Rcbに増大させる。
【0053】
そして、例えば所定期間の経過後などにおいて、再度、図8(c)に示すように、変形機構部1004を再度、正駆動して、熱抵抗R2を小さな値の弾性変形後熱抵抗R21に設定する。
また、例えば、変形機構駆動部1001は、蓄電量センサ1003から出力される蓄電量の検出結果の信号に基づき、蓄電量が所定の閾値(例えば、熱発電携帯機器1100の作動の要する下限電力など)以上である場合には、図8(a)に示すように熱流が変形機構部1004を経由するように変形機構部1004を正駆動して、熱抵抗Rcxを小さな値の熱抵抗R2caに設定する。
【0054】
そして、蓄電量が所定の閾値未満になった以後においては、一時的に(例えば、図9に示す時刻t2から時刻t3に亘る所定期間などにおいて)、図8(b)に示すように変形機構部1004を逆駆動して、熱抵抗Rcxを一時的に大きな値の熱抵抗Rcbに増大させる。
そして、例えば所定期間の経過後などにおいて、再度、図8(c)に示すように熱流が変形機構部1004を経由するように変形機構部1004を再度、正駆動して、熱抵抗R2を小さな値の弾性変形後熱抵抗R2aに設定する。
【0055】
この構成によれば、例えば所定の時間や時刻に応じて、あるいは、例えば熱発電部材109の発電電圧の低下に応じて、あるいは、例えば蓄電部404の蓄電量の低下に応じて、自動的に伝熱経路の少なくとも一部(つまり、保持部材105と熱発電部材109の伝熱経路からなる領域)の熱抵抗Rcxを変更することにより、所望の発電電圧および発電量を容易に確保することができると共に、発電効率の低下を抑制することができる。
【0056】
さらに、変形機構駆動部1001は、例えば針駆動部402の動力により変形機構部1004を回転駆動する駆動機構であってもよく、例えば変形機構部1004に対する針駆動部402の動力の伝達を断接する機構と変速機構となどを備えて構成されてもよい。
また、この第3変形例において、少なくとも電圧センサ1002または蓄電量センサ1003は省略されてもよい。この場合には、少なくとも制御部401から出力される計時の基準となる信号に基づき変形機構部1004の駆動が制御される。
【0057】
なお、上述した実施の形態においては、熱発電携帯機器1100を指針部405によるアナログ表示の腕時計としたが、これに限定されず、例えば液晶表示などによるデジタル表示の腕時計であってもよい。
また、上述した実施の形態においては、熱発電携帯機器1100を人体に装着される腕時計としたが、これに限定されず、人体や動物に装着される携帯型の電子機器として、例えば、ヘッドフォンや、立体視用の眼鏡や、脈拍と心拍数と呼吸数と血圧と体温となどの生体情報を計測して計測結果を無線送信する電子機器などであってもよい。
【0058】
(第二の実施形態)
図2に基づいて、第二の実施形態について説明する。
図2(a)(b)は、本発明に係る第二の実施形態を示す熱発電携帯機器2100の断面図である。本図記載の熱発電携帯機器2100においては、基板108と板状部材202がコイル状の弾性部材201を介して接続されており、弾性体変形機構部116の上下運動によって、保持部材105と熱発電部材109の離間距離が変化し、弾性部材201が変形すると、板状部材202を介して、保持部材105と熱発電部材109が熱的に接続される。すなわち、図2(a)においては、板状部材202は、保持部材105と熱発電部材109の双方に接触しておらず、熱抵抗Rcxは極めて高い状態が実現される。それに対して、図2(b)においては、弾性体変形機構部116の下側への移動によって、保持部材105と熱発電部材109の離間距離が減少し、その結果、弾性部材201の弾性変形によって、板状部材202は、保持部材105と熱発電部材109の双方に接触し、熱抵抗Rcxが極めて低い状態が実現される。この本発明に係る熱発電携帯機器2100の熱的な動作および効果は、図1(a)(b)記載の熱発電携帯機器1100と全く同じであるので省略する。
【0059】
本発明に係る熱発電携帯機器2100においては、基板108に弾性部材201が接続されているが、この構造に限定されるものではなく、弾性部材201は保持部材105と接続されていてもよい。さらに本図記載の弾性部材201はスプリング形状をしているが、この形状に限定されるものではない。また、板状部材202の表裏面に板状部材202に弾性ゴム材を貼り付ける事によって、さらに強力な熱発電部材109の劣化防止を行ってもよい。
【0060】
(第三の実施形態)
図3に基づいて、第三の実施形態について説明する。
図3(a)(b)は、本発明に係る第三の実施形態を示す熱発電携帯機器3100の断面図である。本図記載の熱発電携帯機器3100においては、保持部材105と熱発電部材109との離間距離の変化はない。そのかわりに、弾性体回転機構部303が具備されている。すなわち、弾性部材301は回転シャフト302に接続され、この回転シャフト302は枠体102に取り付けられており、この回転シャフト302の回転によって、保持部材105と熱発電部材109の間の熱抵抗Rcxを可変させる事ができる。一定の離間距離の下で、その間の熱抵抗を可変させ低熱抵抗を実現すると共に、熱発電部材109の劣化防止を防ぐためには、本特許記載の如く弾性変形を伴った弾性体回転機構が必要不可欠である。
【0061】
すなわち、図3(a)においては、弾性部材301は、保持部材105と熱発電部材109の双方に接触していない状態を示しており、熱抵抗Rcxは極めて高い状態が実現されている。それに対して、図3(b)においては、回転シャフト302が回転させて、弾性部材301を、保持部材105と熱発電部材109の双方に接触させた状態を示している。この接触状態は、弾性部材301が弾性変形を伴っているので、十分な接触圧が実現されている。それゆえ熱抵抗Rcxは極めて低い状態が実現されている。この本発明に係る熱発電携帯機器3100の熱的な動作および効果は、図1(a)(b)記載の熱発電携帯機器1100と全く同じであるので省略する。また、熱発電携帯機器3100における弾性部材301の材質は願わくば、弾性変形率の大きなゴムなどが好ましいが、金属性の弾性部材や、樹脂性の弾性部材であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1100 熱発電携帯機器
101 筐体
102 枠体
103 カバーガラス
104 裏蓋
105 保持部材
106 文字盤
107 ムーブメント
108 基板
109 熱発電部材
110 接着層
111 導熱部材
112 導熱接合層
113 弾性部材
114 筐体空隙部
115 枠体ピン部
116 弾性体変形機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と放熱先との温度差に基づき発電する熱発電部材と、
前記熱源と前記放熱先との間の伝熱経路中に設けられ、前記伝熱経路の熱抵抗を変更する前記可変抵抗部と、
前記可変抵抗部を移動させる可変抵抗部移動機構と、を備え、
前記可変抵抗部移動機構は、弾性部材を有する事を特徴とする熱発電携帯機器。
【請求項2】
前記可変抵抗部移動機構は、前記伝熱経路の距離を制御する事を特徴とする請求項1に記載の熱発電携帯機器。
【請求項3】
前記可変抵抗部は、導熱部材である板状部材を有する事を特徴とした請求項2に記載の熱発電携帯機器。
【請求項4】
前記可変抵抗部移動機構は、前記可変抵抗部を前記伝熱経路と交差する方向を軸として回転させる事を特徴とする請求項1に記載の熱発電携帯機器。
【請求項5】
前記弾性部材は、ゴムである事を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱発電携帯機器。
【請求項6】
時間を計る計時部を有し、
前記可変抵抗部移動機構は、前記計時部により前記可変抵抗部を移動させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の熱発電携帯機器。
【請求項7】
前記熱発電部材の発電電圧を検出する電圧検出部を有し、
前記可変抵抗部移動機構は、前記発電電圧により前記可変抵抗部を移動させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の熱発電携帯機器。
【請求項8】
熱発電部材の発電電力を蓄電する蓄電部を有し、
前記可変抵抗部移動機構は、前記蓄電部の蓄電量により前記可変抵抗部を移動させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の熱発電携帯機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−110867(P2013−110867A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254288(P2011−254288)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】