説明

熱発電組成物

【課題】従来に比して熱伝導率が低く、優れた熱発電性能を有する熱発電組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されることを特徴とする熱発電組成物である。
[化1]


[一般式(1)中、Aは、Nb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせからなる。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱発電組成物に関する。詳しくは、熱伝導率が低く、優れた熱発電性能を有する熱発電組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱発電組成物は、ゼーベック効果によって、熱エネルギを電気エネルギに変換できる性質を有する。このため、熱発電組成物を用いて、例えばエンジンの排熱等から電気を取り出すことができる。この熱発電組成物によるエネルギ変換は、直接変換であることから、エネルギの高効率利用技術として注目されている。
【0003】
例えば、熱発電組成物として知られているハーフホイスラー型FeVSb系材料またはFeNbSb系材料において、VやNbの原子位置にTiやMo等を導入し、VやNbの少なくとも一部をTiやMo等で置換する技術が開示されている(非特許文献1参照)。
この技術によれば、VやNbの少なくとも一部をTiやMo等で置換してキャリア量を調整することにより、熱発電組成物の電気伝導率を高めることができ、優れた熱発電性能を有する熱発電組成物が得られるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Applied Physics, vol.87, P317−321.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、熱発電組成物の熱発電性能を向上させるためには、熱発電組成物の電気伝導率を高めるだけでは不十分であり、熱発電組成物の熱伝導率を低減させることが必要である。熱伝導率が高い場合には、素子化したときに端子間に生じる温度差を維持できないからである。
しかしながら、上記の非特許文献1では、熱発電組成物の熱伝導率の低減については全く検討されてはおらず、熱発電性能のさらなる向上が望まれる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来に比して熱伝導率が低く、優れた熱発電性能を有する熱発電組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る熱発電組成物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【化1】

[一般式(1)中、Aは、Nb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせからなる。]
【0008】
本発明では、上記一般式(1)で表される化合物により熱発電組成物を構成した。具体的には、上記一般式(1)中のAが原子質量及び原子サイズの異なる5A同族元素のNb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせからなる化合物により、熱発電組成物を構成した。
これにより、従来に比して、熱発電組成物の熱伝導率を低減できる。このため、本発明に係る熱発電組成物を素子化した場合には、素子の端子間の温度差を維持できる結果、優れた熱発電性能が得られる。
【0009】
また、本発明に係る熱発電組成物は、下記一般式(2)で表されることが好ましい。
【化2】

[一般式(2)中、x及びyは、0.2≦x≦0.8、0.2≦y≦0.8、及び0.5≦x+y≦1.0の関係を満たす。]
【0010】
本発明の好ましい態様では、上記一般式(2)で表される化合物により熱発電組成物を構成した。これにより、熱発電組成物の熱伝導率を6.5W/mK以下にまで低減できる。このため、素子化した場合に端子間で大きな温度差を確保できる結果、より優れた熱発電性能が得られる。
【0011】
また、本発明に係る熱発電組成物は、上記一般式(2)において、x及びyが、0.3≦x≦0.7、0.3≦y≦0.7、及び0.7≦x+y≦1.0の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0012】
本発明のさらに好ましい態様では、上記一般式(2)で表される化合物であって、x及びyが、0.3≦x≦0.7、0.3≦y≦0.7、及び0.7≦x+y≦1.0の関係を満たす化合物により、熱発電組成物を構成した。これにより、熱発電組成物の熱伝導率を6.0W/mK以下にまで低減できる。このため、素子化した場合に端子間でさらに大きな温度差を確保できる結果、より一層優れた熱発電性能が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来に比して熱伝導率が低く、優れた熱発電性能を有する熱発電組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】FeNbSbのNbを、V及び/またはTaで置換したときの温度と熱伝導率との関係を示す図である。
【図2】実施例及び比較例に係る熱発電組成物の室温下における熱伝導率算出結果である。
【図3】実施例及び比較例に係る熱発電組成物の元素種及び構成比率と熱伝導率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施形態に係る熱発電組成物は、下記一般式(1)で表され、下記一般式(1)中のAが、Nb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせからなることを特徴とする。
【化3】

【0017】
本実施形態に係る熱発電組成物の熱伝導率について説明する。
図1は、FeNbSbのNb原子位置を、Nbと同族の5A族元素であるV及び/またはTaで置換したときの温度(K)と熱伝導率(W/mK)との関係を示した図である。置換率%は、Nb原子位置におけるNbに対する置換元素のモル%である。
【0018】
また、ULVAC理工社製の「TC−7000」を用いて、室温から約973Kの温度範囲で、各熱発電組成物の熱伝導率の測定を実施したものである。
【0019】
図1から分かるように、NbをV及び/またはTaで置換したものは、FeNbSb(無置換)に比して、熱伝導率が大きく低減している。即ち、上記一般式FeASbで表され、且つAが、原子質量及び原子サイズの異なる5A同族元素のNb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせからなる熱発電組成物は、従来に比して熱伝導率が大きく低減している。従って、本実施形態に係る熱発電組成物によれば、素子化したときに端子間に生じる温度差を維持でき、優れた熱発電性能が得られることが分かる。
ここで、熱発電組成物の熱伝導率は、格子熱伝導率とキャリア熱伝導率との和で表される。本実施形態における熱伝導率の低減は、後述する実施例で示すように、概ね格子熱伝導率の減少によるものであると推察される。
【0020】
また、V10%置換、V20%置換、及びV30%置換したものを比較すれば分かるように、置換率が高まるにつれて、熱伝導率が低減する。これは、V5%,Ta5%置換、V10%,Ta10%置換、及びV15%,Ta15%置換でも同様の傾向が認められ、トータルの置換率が高いほど熱伝導率が低減する。
さらには、トータルの置換率が同一である場合には、V及びTaの2種の元素で置換した場合の方が、Vのみで置換した場合よりも熱伝導率が低減する。
【0021】
また、本実施形態に係る熱発電組成物は、上記一般式(1)で表される化合物のうち、下記一般式(2)で表され、下記一般式(2)中のx及びyが、0.2≦x≦0.8、0.2≦y≦0.8、及び0.5≦x+y≦1.0の関係(以下、Iの関係という)を満たす化合物であることが好ましい。
【化4】

【0022】
後述する実施例で示すように、上記一般式(2)で表される化合物であって、x及びyが上記Iの関係を満たす場合には、熱発電組成物の熱伝導率を6.5W/mK以下にまで低減できる。これにより、素子化した場合に端子間で大きな温度差を確保できる結果、より優れた熱発電性能が得られる。
【0023】
また、本発明に係る熱発電組成物は、上記一般式(2)において、x及びyが、0.3≦x≦0.7、0.3≦y≦0.7、及び0.7≦x+y≦1.0の関係(以下、IIの関係という)を満たすことがさらに好ましい。
後述する実施例で示すように、上記一般式(2)で表される化合物であって、x及びyが上記IIの関係を満たす場合には、熱発電組成物の熱伝導率を6.0W/mK以下にまで低減できる。これにより、素子化した場合に端子間でさらに大きな温度差を確保できる結果、より一層優れた熱発電性能が得られる。
【0024】
次に、本実施形態に係る熱発電組成物の熱発電性能について説明する。
通常、熱発電組成物の熱発電性能の評価では、下記数式(1)により算出される性能指数Zが利用される。
【数1】

【0025】
ここで、上記数式(1)中、Sはゼーベック係数、σは電気伝導率、kは熱伝導率である。この数式(1)から分かるように、熱発電組成物において、熱伝導率の低下は性能指数Zの向上を意味する。後述する実施例で示すように、本実施形態に係る熱発電組成物によれば、熱伝導率を最大で70%低減することができるため、性能指数Zはおよそ3倍以上向上することを意味する。
【0026】
本実施形態に係る熱発電組成物の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法により製造される。出発物質である各金属素材としては、市販の高純度金属素材を用いることができる。金属素材の形状は特に限定されず、例えばチャンク形状やフレーク形状等の金属素材を用いることができる。
具体的な製造手順について、一例を挙げて説明する。
先ず、所望の元素構成比率となるように、上記の金属素材を化学量論比で秤量する。秤量後、例えば希薄アルゴン雰囲気下でアーク溶解して溶融・反応させる。得られたインゴットに対して、所定の条件で均質化熱処理を施した後、粉砕して粒系制御を行う。次いで、得られた粉末に対して、プラズマ等を利用した焼結処理を所定の条件下で行う。得られた焼結体を切断・整形・研磨することにより、目的とする熱発電組成物を得る。
【0027】
以上説明したような本実施形態に係る熱発電組成物によれば、所望の形状に加工した後、外部電極と接合して素子化することにより、熱発電装置として利用することができる。また、複数の素子を電気的に直列に接続してモジュール化することにより、より大きな電力を得ることができる。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
<実施例1〜63及び比較例1>
[熱発電組成物の製造]
任意の熱発電組成物が得られる下記製造方法により、実施例及び比較例の各熱発電組成物を得た。
具体的には、先ず、実施例及び比較例に係る熱発電組成物の出発物質として、下記の各金属素材を準備した。なお、素材形状は、いずれもチャンク形状またはフレーク形状とした。
V:フルウチ化学社製、純度99.99%
Nb:フルウチ化学社製、純度99.99%
Ta:高純度化学社製、純度99.95%
Fe:フルウチ化学、純度99.9%
Sb:フルウチ化学、純度99.9%
【0031】
上記一般式(1)のFeASbで表される化合物のうち、Aが、図2に示す元素種及び構成比率となるように、上記の各金属素材を化学量論比で秤量した。即ち、Aが、Nb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせからなる熱発電組成物を実施例1〜63とし、AがNb100%の熱発電組成物を比較例1とした。
秤量後、希薄アルゴン雰囲気下でアーク溶解して溶融・反応させた。得られたインゴットを石英管に真空封入した後、850℃×3日間で均質化熱処理を施した。熱処理後のインゴットをWC製の乳鉢で粉砕し、目の開きが53μmのふるいを通すことにより、粉末の粒径を揃えた。次いで、得られた粉末を放電プラズマ焼結することにより、多結晶バルク体を得た。得られた焼結体の焼結密度はいずれも97%以上であった。焼結の条件は、成型圧力50MPa、アルゴン気流下、1173Kで実施した。得られた焼結体を、切断・整形・研磨することにより、実施例及び比較例の各熱発電組成物を得た。
【0032】
また、実施例の各熱発電組成物の電気伝導率測定結果を用いて、キャリア熱伝導率を算出した結果、概ねキャリア熱伝導率は0.5W/mK以下であった。この結果から、実施例の各熱発電組成物の熱伝導率の低減は、概ね格子熱伝導率の減少によるものであることが推察された。
【0033】
[熱伝導率の算出]
M.Zhou et.al, J.Appl.Phys.98,013708(2005)の2頁〜3頁に記載の方法により、具体的には、同文献中の式(8)及び(9)を用いて熱伝導率κの推算を行った。その際に必要となるパラメータγ1及びβは、それぞれ同文献中の式(6)及び(7)により得た。その際、デバイ温度及び格子定数は、無置換FeNbSbから実験的に求められたデバイ温度394K及び格子定数0.595nmを用いた。また、分子量は270.56とした。εについては、実験を行った全ての成分に対して独立にフィッティングを行い、推算にはそれらの平均値εave=53を用いた。
【0034】
図2は、実施例及び比較例に係る各熱発電組成物の室温下における熱伝導率算出結果を示した図である。また、図3は、実施例及び比較例に係る各熱発電組成物の元素種及び構成比率(モル%)と、熱伝導率との関係を示した図である。
ここで、図3は、図2の各組成と熱伝導率算出結果に基づいて作成したものであり、正三角形の各頂点は、それぞれ、FeNbSb、FeVSb、及びFeTaSbに対応する。FeNbSbの頂点からFeVSbの頂点に向かうにつれて、Vのモル%が増加することを意味する。同様に、FeVSbの頂点からFeTaSbの頂点に向かうにつれて、Taのモル%が増加し、FeTaSbの頂点からFeNbSbの頂点に向かうにつれて、Nbのモル%が増加することを意味する。また、頂点を含む各点に記載されている数値は、各点に対応する組成を有する熱発電組成物の熱伝導率を表す。
【0035】
これら図2及び図3に示したように、実施例1〜63の熱発電組成物は、比較例1の熱発電組成物に比して熱伝導率が小さいことが分かった。この結果から、上記一般式(1)中のAが、Nb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせで表される熱発電組成物によれば、従来に比して低い熱伝導率が得られ、優れた熱発電性能が得られることが確認された。
【0036】
また、実施例20〜26,38〜42,44〜48,50〜53,55〜57,59〜60,及び62(図3の黒丸部分)のように、Vが20%〜80%、Taが20%〜80%、及びVとTaの合計が50%〜100%の場合には、熱伝導率が6.5W/mK以下であることが分かった。この結果から、上記一般式(2)中のx及びyが、0.2≦x≦0.8、0.2≦y≦0.8、及び0.5≦x+y≦1.0の関係を満たす化合物からなる熱発電組成物によれば、熱伝導率が大きく低減され、より優れた熱発電性能が得られることが確認された。
【0037】
また、実施例21〜25,45〜48,51〜53,56〜57,及び60のように、Vが30%〜70%、Taが30%〜70%、及びVとTaの合計が70%〜100%の場合には、熱伝導率が6.0W/mK以下であることが分かった。この結果から、上記一般式(2)中のx及びyが、0.3≦x≦0.7、0.3≦y≦0.7、及び0.7≦x+y≦1.0の関係を満たす化合物からなる熱発電組成物によれば、熱伝導率がさらに大きく低減され、さらに優れた熱発電性能が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする熱発電組成物。
【化1】

[一般式(1)中、Aは、Nb、Ta、及びVからなる群より選択される2種以上の元素の組み合わせからなる。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1記載の熱発電組成物。
【化2】

[一般式(2)中、x及びyは、0.2≦x≦0.8、0.2≦y≦0.8、及び0.5≦x+y≦1.0の関係を満たす。]
【請求項3】
前記一般式(2)において、前記x及びyが、0.3≦x≦0.7、0.3≦y≦0.7、及び0.7≦x+y≦1.0の関係を満たすことを特徴とする請求項2記載の熱発電組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−84759(P2011−84759A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236219(P2009−236219)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)