説明

熱的外科手術及び組成物

熱的外科手術を改良するのに有用な方法、組成物及びシステムが記述されている。該組成物は、熱的外科手術を受けることが確認される生体材料内において炎症反応を誘導させるのに有効な少なくとも1の化合物を含む。該方法及び該システムは、本発明の組成物を、生体材料に供給することと、該生体材料の少なくとも一部に炎症を誘導させるために有効な時間、量、種に関して、炎症誘導組成物を用いて生体材料を治療することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年3月26日に出願された米国仮出願番号60/457,691に基づく優先権を主張し、その全体を本明細書に採用するものである。
本発明は、概して、熱的外科手術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体材料の局部を破壊する試みにおいて、該生体材料の局部から熱エネルギーをうばう、そして/又はそこに熱エネルギーを供給する熱的外科手術が、当分野で公知であり、特に、他の手術形態に反対するか、又は他の手術形態に耐えられない等の患者の疾患の治療に有効であることが示されている。熱的外科手術には、例えば、生体材料を破壊する試みにおいて、生体材料から熱エネルギーを奪い冷却する、そして/又は該生体材料を凍結させる冷凍外科手術が含まれうる。上記手術は、体表面上の悪性腫瘍を治療するための慣例になっており、そして腎臓及び前立腺等の内臓の悪性腫瘍を治療及びマネジメントするためにも用いられている。熱的外科手術は、生体材料を破壊する試みにおいて、生体材料に熱エネルギーを加え、該生体材料を加熱する手術をも含みうる。生体材料の破壊は、該生体材料の一部又は全てを除去することに終わる場合もあれば終わらない場合もある。熱的外科手術は、肝臓ガン、腎臓ガン及び前立腺ガン等を含む種々の組織の疾患の治療に有用である。これらの技術は、外科的切除と比較して、侵襲性の少なさと病的状態の少なさとに関するポテンシャルが高く、有利である。
【0003】
生体材料の局部温度を生理学的温度より高く上げるための熱エネルギーのデリバリーを含む熱的外科手術が、悪性組織を排除するための治療に有効であることが知られている。典型的な熱的外科手術の温度には、50摂氏温度(℃)以上での熱エネルギーのデリバリーが含まれる。典型的には、該生体材料を高温に加熱し、何分間かの間隔の間、これらの温度を維持する。
【0004】
さらに、細胞及び組織(種々の組織及び臓器のガン等)を制御及び破壊するための方法として、生体材料の凍結が有効であることが、当分野で知られている。超音波及びMRI等のモニタリング技法と組み合わせた冷凍手術技法によって、肝臓、前立腺、及び腎臓を含む多くの内臓の有効な治療が提供されている。腎臓中のガンを含む冷凍外科手術の結果は、特に小さな腎臓の細胞ガンに対して、有用な技術を提供しうることを示唆している。典型的には、冷凍外科手術は、該生体材料の温度を、該生体材料の凍結温度以下(0℃以下、−20℃〜−60℃であることが多い)まで下げる。典型的には、該生体材料をこれらの温度まで冷却し、数分間隔の間、該温度を維持する。
【0005】
それにも関わらず、熱的外科治療を受けた患者が、疾患を再発する臨床上の証拠が存在する。これらの結果は、病的組織全体の治療の初期段階の試みに起因するものであろう。例えば、現在の熱的外科手術では、全ての悪性組織を除去するか又は破壊するために、病的組織の周囲に十分な外科的ゆとりを確保して、慎重を期している。これは、腫瘍を越えた凍結又は加熱を含み、周囲の正常組織への侵入を含むことが多い。しかし、特に、敏感な正常組織に近い生体材料を治療する際に、該病的組織を超えて進入しすぎないように注意すべきである。特に、直腸、膀胱、外括約筋、及び海綿(cavernosal)神経等の多くの敏感な組織体に近い前立腺の周辺領域に主に発生する前立腺ガンを治療する場合には、外科医は、周囲の組織を損傷させないよう注意しなければならない。該前立腺の治療では、直腸及び尿道領域内の過凍結は、直腸フィステル及び尿道フィステルの原因となりうるので、これは特に重要となる。一方、外科医が控えめすぎたため、冒された組織の加熱又は凍結が足りなすぎると、該疾患を有効に治療することができず、該疾患が再発する可能性が高まる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、当分野において、損傷領域をさらに有効に予測するため該生体材料の加熱又は凍結領域を有効にモニタリングすることと、再現可能な方法で、熱治療領域又は冷凍損傷内の細胞死を起こしかつ増やすことと、近接する正常組織を保護しながら殺傷領域の効果を改善するため、熱治療領域又は冷凍損傷の端部を明確にすることとが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱的外科手術において用いるための組成物、方法、システム、及び/又はキットを提供するものである。本明細書で用いる通り、熱的外科手術には、一般的に少なくとも生体材料の一部を破壊する試みにおいて生体材料の局部から熱エネルギーをうばう、そして/又は生体材料の局部に熱エネルギーを供給する外科手術が含まれるが、これらに限定されるものではない。
本発明の組成物は、該熱的外科手術内に含まれる生体材料において炎症反応を有効に誘導しうる少なくとも1の化合物を含む。本明細書で用いる通り、「化合物」は、単一成分又は2種以上の成分を含むことができる。さらに、本明細書で用いる通り、「組成物」は、1種のみの化合物又は2種以上の化合物の組み合わせを含むことができる。
【0008】
本発明の組成物、方法、及びシステムを用いて治療することができる生体材料には、細胞、腫瘍細胞、組織、腫瘍組織、内臓組織(肝臓組織、前立腺組織、乳房組織、及び腎臓組織等)が含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに、生体材料には、血管組織、胃腸組織、心筋を含む筋肉組織、皮膚の組織、及び結合組織も含まれうるが、これらに限定されるものではない。これら生体材料をその場で組み合わせることが可能であり、そして他を除外していくつかの生体材料を処理することもまた考えられる。
【0009】
種々のガン及び/又は腫瘍(前立腺ガン、肝臓ガン、腎臓ガン、乳ガン、子宮筋腫等)、並びに他の腫瘍又は組織(概して、熱的外科手術が用いられるか、又は将来的に有用性が見出されるであろう腫瘍又は組織)の治療において、本発明を用いることができる。本発明はまた、良性前立腺腫瘍(BPH)の治療、又は尿道狭窄の治療において有用でありうる。さらに、本発明はまた、任意の自己免疫及び慢性の炎症性疾患の治療に有用であり、該疾患中に含まれる関連組織が、冷却又は加熱由来の損傷を受けやすい。例には、関節リウマチ症候群、気腫、肺高血圧症及び心臓麻痺、クローン病、神経炎症性疾患(neuroinflammatory disease)を示す神経疾患、潰瘍性大腸炎、及び他の公知の自己免疫疾患が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
さらに、本発明はまた、一般的に個人を治療するために用いられる、任意のインターベンショナル手術に有用でありうる。例えば、本発明は、生体材料を破壊するために冷却又は加熱を利用する手術に有用でありうる。従って、本発明は、不整脈(rhythm irregularities of the heart)の治療のために、心筋組織上で実施される熱的外科手術に関連して使用されうる。さらに、本発明は、血管形成術、アテレクトミー、又は血管系内の閉塞を開かせるための他の手術を用いて治療された動脈の再狭窄の防止に用いられうる。
【0011】
ひとつの態様では、本発明は、熱的外科手術を実施する方法を含み、該方法は、以下のステップ:
該熱的外科手術を受ける生体材料を確定するステップ;
炎症誘導組成物に生体材料を接触させるステップ、ここで、該生体材料の少なくとも一部に炎症が誘導される;そして、
該確定された生体材料の温度を調整するステップ、ここで、該熱的外科手術を受けた後に該生体材料の少なくとも一部が破壊される:
を含む。
該温度を、加熱外科手術内のように、該生体材料の生理学的温度より高く調整することができ、又は冷凍外科手術内のように、該温度を生理学的温度よりも低く調整することができる。熱的外科手術はまた、別機会に実施される手術を伴う同一の特定生体材料上か、又は特定生体材料の別部位上のいずれかの加熱外科手術及び冷凍外科手術の両方を含みうることをも目的とする。
【0012】
他の態様では、本発明は、熱的外科手術を受けることが確認される生体材料内の炎症反応を誘導させるために有効な少なくとも1の化合物を含む組成物を含むものである。該組成物は、有効成分として単一成分か、又は有効成分の組み合わせを含むことができる。さらに、該組成物は、生理学的担体及び/又は緩衝剤等の随意選択的成分も含むことができる。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、生体材料に対し熱的外科手術を実施する方法を提供するものであり、該熱的外科手術は、加熱外科手術、冷凍外科手術、又はそれらの任意の組み合わせでありうる。
該熱的外科手術は、以下の各ステップ:
熱的外科手術の前に治療すべき生体材料を確定するステップ;
該生体材料の少なくとも一部に炎症を誘導させるのに有効な時間、量及び種に関して、該生体材料を炎症誘導組成物に接触させるステップ、ここで、炎症が特定生体材料の少なくとも一部に誘導される;そして、
該特定生体材料の温度を調節するステップ、ここで、該生体材料の少なくとも一部が、熱的外科手術を受けた後に破壊される:
を含む。
【0014】
本発明は、さらに熱的外科手術を受けることが確認される生体材料において炎症を誘導させるための装置を提供するものである。
概して、この装置は;
該生体材料の少なくとも一部に、炎症を誘導させるのに有効な少なくとも1の化合物を含む組成物;そして、
該生体材料の少なくとも一部に該組成物を供給するための手段:
を含む。
該組成物は、単一の有効成分又は複数種の有効成分を含むことができ、さらに医薬として許容される担体及び/又は緩衝剤等の随意選択的な成分を含むことができる。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、ガン等の疾患を治療する方法を提供する。
ガンを治療する方法を開示し、それらは、以下の各ステップ:
さらにガンを含む生体材料を含む哺乳動物の局部を確認するステップ;
該生体材料の少なくとも一部を準備するステップ、ここで、組成物は、該生体材料の少なくとも一部において、炎症を誘導させるために有効な時間、量及び種に関して、有効成分として少なくとも1の化合物を含み、その結果、炎症が起きた生体材料が準備される;そして
炎症が起きた該生体材料の少なくとも一部に、熱的外科手術を行うステップ:
を含む。
該熱的外科手術は、加熱外科手術、冷凍外科手術等でありうる。
【0016】
さらに、本発明の方法及び組成物によって、疾患を治療することができる。例えば、本発明は、疾患を治療する方法を含み、該方法は以下の各ステップ:
典型的な該疾患の生体材料を含む哺乳動物の局部を確認するステップ;
該生体材料の少なくとも一部を準備するステップ、ここで、組成物は、該生体材料の少なくとも一部において、炎症を誘導させるために有効な時間、量及び種に関して、有効成分として少なくとも1の化合物を含み、その結果、炎症が生じた生体材料が準備される;そして
刺激された該生体材料の少なくとも一部に、熱的外科手術を実施するステップ:
を含む。
【0017】
本発明は、熱的外科手術において用いるキットをさらに開示している。
概して、上記キットは:
熱エネルギーを移動させるのに適合した熱的外科プローブ;及び、
熱的外科手術を受けることが確認される生体材料において、炎症反応を誘導させるのに有効な少なくとも1の化合物を含む組成物;
を含む。
本発明の上記要約は、それぞれの実施形態をも、本発明の全ての実施をも記述することを目的とするものではない。本発明のさらに完全な理解と共に、優位性が明らかになり、そして添付の図面と併せて記載された次の詳細な説明を参照することで、正しく評価されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
下記の一定の具体例の詳細な説明では、本発明の一部を形成し、そして具体的な説明の目的で示されている図面、本発明を実施しうる一定の実施態様が参照される。他の実施形態を利用しうることと、本発明の範囲から外れることなく方法の各段階/構造変化をなすことができることとが理解されるべきである。
【0019】
下記で論ずるように、本発明は、熱的外科手術を用いて生体材料(細胞、組織及びそれらの組み合わせ等)の治療に用いる方法、組成物、及びシステムを提供するものである。概して、本発明は、該生体材料の治療に用いられうる炎症誘導組成物を含む。該生体材料は、該熱的外科手術の主要部分であり、熱的外科手術を受けるために全体又はそれらの一部で該生体材料を確認することができ、そして該確認された生体材料の少なくとも一部で、少なくとも一部の炎症を誘導させるのに有効な時間、量及び種に関して、本発明の炎症誘導組成物を用いて該生体材料を治療する。本発明は、上記炎症を誘導させるための方法及びシステムをさらに含む。該生体材料において炎症反応を誘導させるために、本発明の該炎症誘導組成物を用いることができ、該誘導された炎症反応は、該熱的外科手術の際に該生体材料の破壊を強化する。
【0020】
本発明の方法及び組成物は、ガンを含むいくつかの疾患を治療するのに有用でありうる。本方法及び組成物によって潜在的に治療できるガンには、内臓のガン(前立腺、肝臓、及び腎臓)、骨及び軟骨のガン、皮膚ガン、口腔ガン、筋骨格ガン、乳ガン、婦人科ガン(子宮筋腫他)が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法及び組成物の利益を得ることができる他の疾患には、例えば、良性前立腺腫瘍、尿道狭窄、関節リウマチ症候群、気腫、肺高血圧症、心臓麻痺、クローン病、神経炎症性疾患を示す神経疾患、潰瘍性大腸炎、及び婦人科疾患が含まれる。
【0021】
典型的には、本明細書中で、炎症には、血管透過性増加及び血流増加伴った小動脈、毛細血管及び小静脈の拡張、血管壁を介した体液流出(血しょうタンパク及び白血球の炎症性の病巣への移動を含む)を含みうる(これらに限定されるものではない)複雑に連続した事象を含むことが理解される。さらに、分子レベルの接着に基づき、概して、分子は、内皮細胞内で上昇制御され、該分子は、白血球の動きを鈍くし(ローリングによる)、炎症領域内の血管壁に白血球捕捉する(接着による)。
【0022】
特定の理論に結び付けられることを望まないが、熱的外科手術を受ける予定の生体材料に誘導された炎症反応が、該手術の効果を増しうると考えられる。該生体材料に誘導された炎症反応の範囲及び程度を制御することで、該熱的外科手術が成功する可能性に大きな影響を及ぼしうると考えられる。例えば、生体材料内に非破壊的な炎症を誘導させる化合物を用いることで、未処理の生体材料と比較して、熱的外科手術の効果に有益な変化が提供される。従って、本発明は、熱的外科手術を受ける生体材料の損傷及び死を強化する制御可能で再現可能な技法であると考えられるものを提供することで、典型的な熱的外科手術における改良を提供するものである。
【0023】
何種類かの腫瘍組織に対して、熱的外科手術が有効な治療法であることが示されている。例えば、冷凍外科手術は、悪性組織を排除する治療として有効であることが知られている。冷凍外科手術では、該生体材料の生理学的温度未満に局部温度を下げるように、該生体材料の少なくとも一部から熱エネルギーをうばう。一般的に、該生体材料の生理学的温度とは、生体及び/又はそれらの一部の物理学的機構が機能しうる温度であると理解されている。冷凍外科手術は、該生体材料の温度を、生体材料が凍るであろう温度付近及び/又は該温度を下回る温度に下げる。冷凍外科技術に対する典型的な温度は、0℃以下の温度を含み、そしてさらに−20℃以下の温度を含むことができ、−60℃以下に下げることができる。該治療の効果を確保するため、該生体材料をそれらの温度まで冷却し、例えば、これらの温度を分間隔、又は他の好適な時間維持することができる。
【0024】
全ての腫瘍組織の除去又は破壊を確保するため、悪性組織の周囲に外科的なゆとりを十分に確保することが好ましい(該腫瘍を越えて正常組織内で過凍結させることが必要な場合も多い)が、本発明は、冷凍手術の際、正常組織を損傷する潜在的副作用を減少し、そして冷凍手術アイスボールの端部における該腫瘍の破壊、凍結に対する細胞の保護(正常細胞等)及び細胞の敏感化(腫瘍等)を最大とするものと考えられている。該アイスボール内で経験する温度からの組織の保護及び/又は敏感化によって、外科医は、周囲の組織へのダメージを減少させながら、外科的なゆとりを機能的に増すことができる。また、該アイスボール内での組織破壊効率が増すことで、増加した腫瘍細胞等が、重要組織の周縁部付近で死亡する信頼性を高めることができ、一方、近接する正常組織(前立腺冷凍手術中の直腸等)内に過凍結ダメージを与える機会を減少させる。
【0025】
本発明はまた、冷凍外科手術の際に形成された該アイスボール中における現実の細胞及び組織の死の位置のより良好な評価を提供できるものと考えられる。該位置の評価は、本発明の該炎症誘導組成物の使用によって誘導される炎症反応を受ける生体材料の部位上の一部に基づくことができる。本発明の該炎症誘導組成物を用いることによって、該冷凍手術の際に、細胞及び/又は組織の破壊パーセンテージを高めることができる。
【0026】
「加熱外科手術(thermosurgical procedure)」として本明細書中に記載される熱的外科手術(thermal surgical procedure)はまた、悪性組織を排除する治療に有効であることが知られている。これらの加熱外科手術では、局部温度が該生体材料の生を上回るように、該生体材料の少なくとも一部に熱エネルギーを供給する。例えば、これらの加熱外科手術に典型的な温度には、通常50℃以上の温度が含まれる。本発明の方法及び組成物によって、50℃を下回る温度(40℃以下の温度等)で有効に加熱外科手術を実施することが可能であり、その結果、近接組織の損傷を防ぐことができることに留意する。該治療の効果を確保するため、該生体材料を該温度まで加熱し、例えば分間隔、又は他の好適な時間、該温度を維持することができる。
【0027】
冷凍外科手術と同様に、熱の使用によって全ての重要な生体材料の除去又は破壊を確保するように、重要な該生体材料の周囲に十分な外科的ゆとりをとることが有益であると考える。しかし、該生体材料の周囲に十分なゆとりをとるために、概して、重要な生体材料を越えて正常組織内で加熱することが要求されることとなる。熱を供給する熱的外科手術の際に正常組織を損傷してしまう潜在的な副作用を最小化するため、そして加熱生物学系組織の端部の破壊を最大とするため、加熱に対する細胞(正常細胞等)の保護と細胞(腫瘍等)の敏感化との両方の戦略をとることがまた望ましい。
【0028】
本発明は、該アイスボールの端部又は該加熱された生体材料の端部のいずれかにおいて経験する温度から、組織を敏感にすること及び/又は組織を保護することを考慮するものである。結果として、本発明に従う熱的外科手術を実施する外科医は、該アイスボールの端部又は該加熱された生体材料の端部における組織破壊効率を高めることで、周囲の組織に対するダメージを減らしながら、潜在的、機能的に外科的ゆとりを増すことができ、そして冷凍外科手術の際に形成された該アイスボール内の現実の細胞及び組織の位置及び/又は熱的外科手術の際に形成された加熱された生物学組織の端部における現実の細胞及び組織の死の位置のより良好な評価を得ることもできる。
【0029】
本発明に従って、現実の細胞及び/又は組織の死の位置の評価を改良することには、本発明の炎症誘導組成物を使用することによって誘導され、炎症反応を受ける生体材料の部位上の一部に基づいて考えられている。本発明の該炎症誘導組成物を用いることによって、該熱的外科手術の際に、細胞及び/又は組織の破壊パーセンテージを高めることができる。
【0030】
一般的に、該熱的外科手術内に含まれる哺乳動物の局部内で、本発明の組成物を用いることができる。典型的には、該組成物は、有効成分として、重要な該生体材料(哺乳動物の天然又は人工組織等)の少なくとも一部に、炎症を少なくとも何点か有効に誘導させる少なくとも1の化合物を含み、該少なくとも1の化合物は、該哺乳動物の天然又は人工組織の局部の少なくとも一部に炎症を誘導させるのに有効でありうる。
【0031】
典型的には、本発明の組成物は、該熱的外科手術の前、間及び/又は後に、熱的手術部位の部位全体に置かれているか又は熱的手術部位の一部以上に置かれているいずれかの重要な該生体材料において、非破壊的炎症を誘導させる。例えば、熱的外科手術の前又は平行して該生体材料の局部に炎症反応を誘導させるために、本発明の組成物を用いることができる。さらに、本発明の組成物は、あらかじめ確認され、かつ熱的外科手術を受けることになる該物質内で、炎症を誘導させるのに有効な組成物の種、量及び時間に関して生体材料を治療するために哺乳動物の局部内で用いられうる。
【0032】
特定の理論によって結び付けられることを望まないが、本発明の組成物が、生体材料内に存在する血管内皮細胞の性質を変えることによって、該非破壊的炎症を誘導させることができると考えられる。特に、本発明の組成物によって誘導された該炎症が、熱的外科手術の前に生物組織の微小血管系を損傷させうると考えられる。熱的外科手術後に微小血管系が「遮断する(shut down)」ように、該誘導された炎症性損傷が、微小血管系をあらかじめ調整しうるとも考えられる。熱的外科手術と組み合わせて、本発明の組成物を使用することは、該生体材料の炎症効果なく単独で実施される熱的外科手術によって提供される破壊よりも該手術の効果を増すことで、熱的外科手術を受ける該生体材料を有効に破壊することを提供できると考えられる。
【0033】
特定の理論に支配されることなく、細胞損傷の性質を理解することによって、本明細書中に記載されるようなターゲット化分子アジュバントを利用する損傷作用を際立たせることが可能であると考えられる。さらに、凍結の際に細胞内で生じる2つの生物物理学的変化と、細胞の浸透脱水と、細胞内氷形成(IIF)とが、細胞損傷につながりうると考えられる。凍結が細胞外に遅い冷却速度で伝わるので、細胞外側の溶質濃度が高くなり、該細胞の浸透脱水の原因となる。該溶質が細胞内で濃縮され始めるので、高濃度の溶質が、細胞膜の不安定化及び酵素機構へのダメージを含むいくつかの方式において該細胞を損傷させるとの仮説が立てられている。
【0034】
第2の生物物理学的応答、IIFは、該冷却速度が十分に速く、該細胞内に水を捕捉するときに生じるものと考えられている。この場合、該細胞は、細胞外のスペースと浸透圧的に釣り合うことはない。結果として、細胞質が冷え、そして最終的に氷が該細胞内で核となり、該氷の結晶が、細胞小器官及び膜への損傷の原因となる。
【0035】
溶質効果に起因するダメージは、概して、該細胞が、相当程度完全に脱水するのに十分な時間を有する条件下で、相対的にゆっくりした冷却速度で生ずるものと考えられる。一方、IIFダメージは、概して、水が該細胞内に補足されている条件下で、相対的に速い冷却速度で生ずるものと考えられる。これにより、きわめて速い冷却速度と極めて遅い冷却速度とにおける生存度が低く、かつ両極端の間の冷却速度において生存度が高くなる細胞生存度の「逆Uカーブ」が生ずる。この冷却速度の性質は、1〜1000℃/分の規模の範囲にわたる最高生存度(すなわち、逆Uの頂部)を生じさせる冷却速度とともに細胞タイプに大きく依存する。
【0036】
細胞の損傷作用は、凍結の際、細胞が経験する熱履歴によって決まりうる。4種の熱パラメータ類:冷却速度(CR)、最終(又は最小)温度(ET)、最小温度における保持時間(保持時間、HT)、及び融解速度(TR)によって、該熱履歴を規定する(それら全てが損傷に関連する)。AT−1腫瘍細胞において、細胞懸濁液中で、ET及びHTが最も損傷させることが見出されている。しかし、調査されたそれぞれの細胞種は、典型的には、特有の熱しきい値を有し、AT−1細胞は、−80℃まで生き抜くことができ、そしてELT−3子宮筋腫細胞は、−30℃までしか生き抜くことができず、そして他の熱パラメータも同様である。上述のように、冷却及び加熱速度(CR、TR)が十分に速いと、ET及びHTに関係なく、細胞にダメージを与えることができる。
【0037】
該物質に本発明の該組成物を接触させ、それにより該物質局部内に炎症を誘導させることによる生体材料の治療は、該生体材料において種々の変化を引き起こすとも考えられる。例えば、上記治療は、哺乳動物の局部内の該生体材料の破壊点を変化させるのに有効でありうると考えられている。本明細書で用いる通り、該「破壊点」は、該手術の際又はその後すぐの(好ましくは手術の3日間以内、さらに好ましくは手術の2日間以内、さらに好ましくは手術の1日以内、さらに好ましくは手術の12時間以内)のいずれかには該熱的外科手術を受ける生体材料の生物学的機能を不可逆的作用不能状態にする温度を意味すると理解される。例によっては、手術の2時間以内、好ましくは手術の1時間以内に、生体材料の生物学的機能を不可逆的作用不能状態にすることができる場合もある。言い換えれば、該破壊点は、細胞の死が該生体材料の局部内で生ずる温度、所与の温度における保持時間、並びに/又は加熱速度及び/若しくは冷却速度である。これらの温度には、通常の生理学的温度を下回る温度と、通常の生理学的温度を上回る温度とが含まれることができ、そして該破壊点は、重要な生体材料次第で変わりうる。
【0038】
特定の理論に支配されることを望まないが、該生体材料のそのような治療が、冷凍外科手術内で該アイスボール端部における凍結後の微小血管の遮断及び内皮損傷等を介して、治療領域の端部において殺傷をより有効に誘導するものと考えられる。NMR、CT、又は超音波等のモニタリング技術を用いて、該アイスボール端部を視覚化することができる。従って、該アイスボール端部の外側で生体材料を破壊するために炎症性物質を用いることによって、手術中に損傷部位を視覚化することが可能である。従って、手術後のフォローアップよりは、熱外科技術の制御及び効果を潜在的に高めることができる。
【0039】
本発明の炎症誘導化合物は、本明細書では熱的外科手術を強化するアジュバントであると考えられている。本明細書で用いる通り、「熱的外科手術の強化」には、該生体材料の未処理部位と比較して、所与の時間内に該生体材料の局部における細胞死のパーセンテージを高めることが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
あるいは、該損傷を制御する試みによって、熱的外科手術を強化することができる。例えば、損傷を増やすのではなく、損傷を減らすために用いられる化合物の類を用いることによって、冷凍外科手術内で熱的外科手術の改良を達成することができる。これらの化合物は、凍結保護剤であり、例えば、グリセロール、ジメチルスルホキシド、種々の糖類、種々のアルコール類を含み、そして種々のポリマー類(PVP及びHES等)は、本質的に該アイスボール内から制御するのではなく、外側から該アイスボールを「彫る(sculping)」ことによって、該外科手術を強化しうる。
【0041】
本発明の組成物は少なくとも1の化合物を含み、そして哺乳動物の治療を受ける生体材料(すなわち、接触される)の少なくとも一部であって、該物質が確認され熱的外科手術を受けるものの中に、ある程度の炎症を誘導させることができる1種超の化合物を含ませることができる。例えば、該化合物には、少なくとも1のウイルス、少なくとも1のバクテリア、エタノール、サイトカイン(組織ネクロシス因子−α(TNF−α)又はTNF−αの切断変種等)、細菌リポ多糖類(LPS)、インターロイキン(IL−1β及びIL−8等)、白血球をリクルートするケモカイン、酸素フリーラジカル、及びそれらの組み合わせが含まれうるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
少なくとも1の炎症誘導化合物の選択には、該化合物の個々の作用及び特性を考慮に入れることができる。例えば、TNF−αは、炎症と、内皮損傷と、アポトーシスとを進行させることが知られており、そして単体又は所望の利益を付与するために他の化合物と組み合わせて、TNF−αを用いることができる。TNF−αは、多くの異なる細胞種、マクロファージ、腫瘍及びストロマ細胞類によって生産され、そして自己免疫及び慢性炎症性疾患の発現の原因であると考えられている。本明細書中で上述するように、本発明の実施形態のひとつでは、該熱的外科手術の効果を高めるように、TNF−αを重要な該生体材料内に直接注入することができる。あるいは、さらなる実施形態において、該生体材料の炎症によって熱的外科手術の効果を高めるために、TNF−αを生産する細胞を、重要な該生体材料に向けるか、又は注入することができる。
【0043】
該組成物を重要な該生体材料に供給する種々の方法があり、上記方法は、適切なドラッグデリバリーシステムの選択の課題である。ひとつの方法には、少なくとも1の担体の添加、特に重要な組織又は腫瘍に対する特定の受容体を有することができる担体の添加が含まれる。従って、本発明の炎症誘導組成物は、重要な物質へのデリバリーのために医薬として許容される担体を、随意選択的に含むことができる。
【0044】
本明細書で用いる通り、医薬として許容される担体には、該炎症誘導化合物を少なくとも部分的に懸濁及び/又は希釈することができる液体溶剤(液体懸濁液内への間質注入を直接供給する他の担体、及び食塩水)、IV又はIP注入、局所的又は全体的に注入すべき該組成物のマイクロビーズ若しくはナノビーズへの含浸、次いでターゲット化、ゲルフォーム、レトロウイルスDNAの注入(遺伝子治療)等、及びそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0045】
医薬として許容される担体はまた、生理的使用に許容可能な範囲内のpHを有し、得られた炎症誘導組成物を保護することが知られている緩衝剤を随意選択的に含むことができる。上記緩衝剤には、ホスフェート緩衝剤で処理された溶液が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明の炎症誘導組成物は、さらなる利益を付与する追加成分をも含むことができる。例えば、追加成分には、冷凍外科手術によって細胞及び組織の破壊をさらに強化する組成物が含まれるが、これらに限定されるものではない。米国特許第5,654,279号明細書(Rubinskyら)は、可能性のある追加の添加剤を提供している。さらなる例は、米国特許第10/461,763号明細書(CRYOSURGERY COMPOSITIONS AND METHODSと題し、2003年6月13日に出願される(Atty.Docket 110.01920101))内で提供されるように、該生体材料12の中の共融凍結(eutectic freezing)を規定できる添加剤を含む。さらに、化学療法薬を、該炎症誘導組成物とともに導入することもできる。
【0047】
詳細に上述する通り、該炎症誘導組成物を該組織内に導入することができる位置及び/又は範囲を、多くの公知技術によって、モニターすることができる。従って、該炎症誘導組成物は、視覚化及びモニタリングをアシストする化合物を、随意選択的に含むことができる。例えば、超音波イメージング、X線螢光透視装置、MRI、インピーダンス技法(例えば、Le Pivertの米国特許第4,252,130号明細書)等を強化できる化合物及び/又は溶液を、該炎症誘導組成物位置を視覚化することができる該炎症誘導組成物に添加することができる。例には、塩(すなわち、ヒパーク(hypaque))及び/又は該炎症誘導化合物と共に添加される造影剤と、蛍光マーカー、超音波造影剤で標識付けられた該炎症誘導化合物及び/又は塩と、注入と共にどのようにインピーダンスが局所的に変化するか観察するためのインピーダンスとが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
熱的外科手術を実施する前の、本発明の組成物を用いて該生体材料を処理するための時間間隔は、該組成物及び重要な生体材料にもよるが、例えば、およそ分、時間、又は日の範囲にわたることができ、そして必要な時間間隔を、殺傷の効果に従って判断する。しかし、該熱的外科手術及び該生体材料への該組成物のデリバリーの間に、約1時間以上の時間が経過すれば、改良効果を提供することができると一般に考えられる。一例として、該熱的外科手術を実施する前に、生体材料を本発明の組成物で処理するために4時間の時間間隔を用いることができる。しかし、この時間は、複数の要因に従って変化することがあり、該要因には、該生体材料の位置及び種、用いられる炎症組成物(及び/又はそのデリバリーシステム)、及び該生体材料の現在の生理的状態を含むが、これらに限定されるものではない。
【0049】
特定の理論に支配されることなく、該炎症反応は、冷凍外科手術又は熱手術後の損傷応答を強めるために、典型的には、該微小血管系の内皮中で十分に活性化されるべきであると考えられる。内皮(VCAM及びICAM)中の接着分子生産によって測定されるような該炎症反応は、典型的には、ピークまで何時間かかかりうる。しかし、ある例では、非常に短い時間(分オーダー等)で、所望の反応がもたらされることも真実である。
【0050】
本発明の方法には、熱的外科手術を実施する方法であって、該手術を受けることが確認される生体材料を本発明の炎症誘導組成物に接触させ、そして該生体材料の該温度を調整する方法が含まれる。該物質の少なくとも一部を破壊するため、該物質を生理学的温度未満に冷却するか又は生理学的温度より高く加熱するかのいずれかに該温度を調節する。選択された該組成物は、規定の時間と該組成物の量とに関して、該生体材料の少なくとも一部に炎症を誘導させ、そして上記炎症を誘導させるタイプである。上記物質の処理(すなわち、該組成物との接触)を、該外科手術の間、該手術前、該手術後、又はそれらの任意の組み合わせで行うことができる。
【0051】
該生体材料の処理は、確認された生体材料の少なくとも一部に供給するための、単一又は組み合わせ手段を含む(これらに限定されるものではない)と考えられる。上記デリバリー手段には、皮下注射器の使用により、該生体材料の1箇所以上の位置への該組成物の導入、クリオプローブに結び付けられるか又は組込まれている少なくとも1の注射針を介した導入、拡散を介した導入、及びイオン導入を介した導入(組織内の溶液流を促進するための電場の他の使用)、液体の懸濁液内への直接の間質注入、IV又はIP注入、局所的又は全体的にデリバリーすべき該組成物のマイクロビーズ若しくはナノビーズへの含浸、次いでターゲット化、ゲルフォーム、レトロウイルスDNAの注入(遺伝子治療)等、及びそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0052】
あるいは、該デリバリー手段には、局所使用のためのゲル又は泡の中へ該組成物を導入すること、又は該熱的外科手術前又は手術後に用いられる埋め込み可能な物質中に導入することが含まれうる(例えば、ゲルフォーム、培養コラーゲン、繊維素ベースの生成物等)。
【0053】
本発明の方法及びシステムに従って処理される生体材料は、概して、破壊点、すなわち、典型的には、生理学的温度を上回る又は下回る温度(すなわち、該熱的外科手術を受ける該生体材料の該生物学的機能が、不可逆的作用不能状態になる(すなわち、該生体材料の局部内の細胞の死))を用いて、細胞が該生体材料の局部で死ぬ温度若しくは所与温度における保持時間、並びに/又は加熱速度及び/若しくは冷却速度を有する。特定の理論に支配されることなく、本発明は、少なくとも部分的に、例えば、熱的外科手術を受けることが確認された生体材料を含む哺乳動物の局部の破壊点を変えるように作用すると考えられる。
【0054】
本発明は、現実の細胞位置の評価及び/又は確認される生体材料の組織死をの改良について提供するものと考えられている。該炎症誘導組成物が、該組織内に導入された範囲を決定及び/又は見つけることができる公知のモニタリング技術(超音波イメージング、X線螢光透視装置、MRI、及びインピーダンス技法)を用いることで、特に血管のかん流造影剤等の画像処理化合物(imaging enhancing compound)を含む組成物と共に用いられるときに、上記評価を補助することになる。従って、視覚化することによって、例えば、改良された手術中のイメージング及び損傷評価を提供しつつ、冷凍外科手術の際のアイスボール端部、該手術の際の損傷端部を、該手術の最中にモニターすることができる。
【0055】
本発明は、本発明の組成物と、該生体材料に該組成物を供給するための手段とをさらに含む熱的外科手術を受ける予定の生体材料の少なくとも一部に、炎症を誘導させるシステムを提供するものである。上記デリバリー手段は、例えば、カテーテルによる該組成物のデリバリー(例えば、所望の位置に配置されたバルーン又は他のチャンバー内でルーメンによるデリバリー)、注射針によるデリバリー、及び熱エネルギーを移動させるのに適合した熱的外科プローブによるデリバリー(クリオプローブ等)を含むことができる。
【0056】
該組成物を、該熱的外科手術の部位に直接供給することができるか、又は他の部位(熱的外科手術の位置に近接する部位)に供給することができるか、又は適切な場合には全身に供給することができる。さらに、該炎症誘導組成物を、熱的外科手術の前、間、及び/又は後に、該生体材料に供給することができる。
【0057】
本発明のシステムは、熱エネルギーを生体材料に供給する(熱源)か、又は生体材料から熱エネルギーを取り出す(ヒートシンク)熱エネルギー移動手段をさらに含むことができる。上記手段には、例えば、熱的外科プローブ、カテーテル、移植可能な装置等が含まれうる。本発明の方法及びシステムにおいて、熱エネルギーを供給及び/又は取り出す有効な手段は、熱的外科プローブであることができ、ここで、目的とする熱的外科手術の種類にもよるが、加熱又は冷却を提供するための速度で、該プローブは、重要な該生体材料の少なくとも一部から熱エネルギーを除去するか、又はそこに熱エネルギーを供給するいずれかに関して有効であり、該熱的外科手術の位置で、生体材料の少なくとも一部の破壊が生じることになる。上記プローブには、例えば、カテーテル、中空針、クリオプローブ、移植可能な装置等が含まれうる。
【0058】
本発明には、熱的外科手術において用いるキットが含まれうる。該キットには、冷凍外科手術において用いるために熱エネルギーを取り出すか、又は加熱外科手術において用いるために熱エネルギーを供給するかのいずれかによって、適切に熱エネルギーを移動させるのに適合した熱的外科プローブが含まれうる。該キットには、熱的外科手術を受けることが確認される生体材料内に、炎症反応を誘導させるために有効な少なくとも1の化合物を含む組成物が含まれることが好ましい。上記組成物は、少なくとも1のウイルス、少なくとも1のバクテリア、エタノール、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、酸素フリーラジカル、細菌リポ多糖、及びそれらの任意の組み合わせの群から選択される少なくとも1の化合物が含まれうる。使用にサイトカインが選択された場合、使用される該サイトカインは、TNF−α、TNF−αの切断変種、及びそれらの任意の組み合わせであることが好ましい。使用にインターロイキンが選択された場合、用いられる該インターロイキンは、IL−β、IL−8、及びそれらの任意の組み合わせであることが好ましい。該組成物は、随意選択的に医薬として許容される担体及び/又は上述の任意の随意選択的な成分をさらに含むことができる。用いられる該プローブは、カテーテル、中空針、クリオプローブ、移植可能な医療装置等の、熱的外科手術に用いるために適合されうる任意のプローブであるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
一例として、図1は、熱的外科手術を受けることが確認される部位14を含む生体材料12に炎症を誘導させるため、本発明に従うシステム10の実施形態のひとつを示すものである。本明細書で述べるように、該生体材料12は、少なくとも部分的に熱的外科手術を受ける予定の細胞を含む組織を含むことができる。生体材料12の部位14は、周囲の生体材料12のセグメントと同様の細胞及び/又は組織構造を有しうる。あるいは、該部位14は、該生体材料12の残ったセグメントと比較して、少なくとも1の形態学的に明確に区別できる細胞及び/又は組織構造を有することができる。ひとつの例では、該部位14は、腫瘍でありうる。
【0060】
該生体材料12の部位14の炎症状態は、本発明のシステム10の炎症誘導組成物の使用により、該生体材料12の残ったセグメントと比較して変化しうる。該確認された生体材料の少なくとも一部に炎症を誘導させるのに有効なタイプの時間及び量に関して、本発明の炎症誘導組成物を用いて、該生体材料12を処理することができる。一例として、該炎症誘導組成物は、本明細書中に記述するように、炎症反応を誘導させるための少なくとも1の化合物であることができる。
【0061】
該熱的外科手術の一部として炎症誘導組成物を用いて処理すべきである該生体材料12の部位14を、多くの公知技術によって確認することができる。例えば、腫瘍組織体を、組織構造、生物学的マーカー、超音波、又は他の多くの技術によって確認することができる。さらに、該炎症誘導組成物を該組織に導入する位置及び/又は範囲(例えば、図1の部位14)を、要求に応じて用いることができる多数の技術、並びに少なくとも1の識別技術及び/又はモニタリング技術によってモニターすることができる。
【0062】
一度確認されれば、該炎症誘導組成物を、該生体材料12の部位14にデリバリーすることができる。考えられる実施形態のひとつでは、カテーテル16のようなデリバリー装置を用いることで、該組成物をデリバリーすることができる。一般に、該カテーテル16はルーメンを含み、該炎症誘導組成物は該カテーテル16のルーメンを進み、そして該炎症反応が望ましい該生体材料12に入ることができる。本発明のカテーテル16は、該炎症誘導組成物をデリバリーするために該カテーテル16の遠位末端に注射針を含みうる。あるいは、該カテーテル16は、該カテーテル16の一部を、該炎症反応が望ましい該生体材料12に容易にデリバリーするため、該カテーテル16の該ルーメン内に套管針をさらに含みうる。米国特許第5,807,395号明細書は、本発明の該炎症誘導組成物を注入するために好適でありうるカテーテル16の例をいくつか提供している。
【0063】
該システム10は、少なくとも1のプローブ18を含むことができ、該プローブ18は、熱的外科手術のための位置において冷却又は加熱を受けさせるのに十分な速度で、生体材料12に熱的外科手術の位置から熱エネルギーを取り出す及び/又はそこにデリバリーすることができる。実施形態のひとつでは、1〜100℃/分の速度において、該プローブの周囲の組織の冷却をするのに十分な速度で、熱を取り出すことができる。さらなる実施形態では、1〜100℃/分の速度において、該プローブの周囲の組織を加熱させるのに十分な速度で熱エネルギーを供給することができる。一部の実施形態では、該炎症誘導組成物をデリバリーするために用いられる該カテーテル16(又は他の装置)を、本明細書中で述べるように、熱エネルギーをデリバリー又は取り出すためにも用いることができる。
【0064】
使用する環境によっては、本発明の方法及びシステムで、他の速度も考えられる。冷凍外科手術の際、例えば、細胞内の氷生成は、速い速度(典型的には、約30℃/分超、さらに典型的には、50℃/分超)で生じうる。この損傷作用は、冷凍手術プローブのすぐ近くに生じうる。しかし、該プローブから離れると、該速度が直ちに減少するので、広い範囲の速度の影響は、該プローブのすぐ近くで強く感じられ、一方、治療される該生体材料より外側領域の速度は、該プローブ又は他の装置が冷却又は加熱される速度とは無関係により低くなりうる(例えば、1〜10℃/分の範囲)。
【0065】
少なくとも1のプローブ18を用いて、治療される生体材料の少なくとも部位14を破壊するのに有効な速度で、該生体材料12を冷却及び/又は加熱する。さらなる実施形態では、例えば、該生体材料12を、該プローブ18で冷却すると、アイスボールが形成される。該アイスボールは、典型的には、それぞれのプローブ18の先端の最も近くで形成が始まる。該組織から熱エネルギーが取り出され、該アイスボールが成長する。該アイスボール構造体のサイズを視覚化することによって、熱的外科手術の際に殺傷される組織及び細胞物質の範囲又は量を決定する手助けとなりうる。該アイスボールサイズの視覚化を、X線透視検査を用いたヒパーク、超音波イメージング、MRI、MRIを用いたガドリニウム、インピーダンス技法、又は他の適用可能な技術を用いることによって達成することができる。
【0066】
図2は、該アイスボール中心からの距離と温度との関係の例を描写したものである。ライン100は、炎症誘導組成物で処理されなかった生体材料に対して、概して細胞が死ぬことになる該アイスボール中心からの距離(例えば、該プローブの位置)を具体的に説明するものである。言及するように、腫瘍内で該細胞が死んだことを示唆する距離における温度は、描写例では、約−20℃〜約−60℃である。対照的に、本明細書に記載するように、該生体材料を該炎症誘導組成物で処理すると、概して、細胞が死ぬことになる該アイスボールからの距離(例えば、該プローブの位置)は、該細胞が死ぬ温度に従って増加しうる。これは、ライン120によって、具体的に説明される。従って、該炎症誘導組成物は、該プローブ又は他の装置からの距離を伸ばすのに有効であり、該アイスボールの直径に対応した増加がなくとも、概して、細胞が死ぬことになる。
【0067】
概して、細胞死が死ぬ容量の増加に加え、該炎症誘導組成物を使用すると、該アイスボールサイズ又は範囲を変化させる(該組成物の使用によって、該アイスボールのサイズを小さくできる等)ことが可能であると考えられる。特定の理論に拘束されることは望まないが、これは、該炎症誘導組成物の導入によって生じた該生体材料に関する該微小血管系の前処理状態に、少なくとも部分的には起因しうると考えられる。冷凍手術アイスボール内で、概して細胞が死ぬ容量の増加に加え、該アイスボール構造体のサイズを減少させることで、現実に細胞が死ぬ容量とさらに密接に関連したサイズを伴うアイスボールが生ずることになる。さらに、該炎症組成物は、該アイスボールにさらに密接に調和するように損傷領域を増大させるか、あるいは、相変化温度を修正することによって、細胞が死ぬ温度(「破壊点」)を変えうるとも考えられ、その結果、所与のプローブ操作に関して、該アイスボールサイズを潜在的に小さくすることができる。
【0068】
図3は、本発明の方法、組成物及びシステムに従うアイスボールのサイズに関して、何が生じていると考えられるのか具体的に説明するものである。該アイスボールを、一般的に150のところに示す。プローブ160は、該アイスボール150を作成するように、該生体材料から熱エネルギーを取り出すために用いられている。該アイスボールが、該炎症誘導組成物で未処理の生体材料内に形成されると、殺傷領域170が該アイスボール150の境界180内で、該プローブ160の先端を囲むことになる。図3で具体的に説明するように、該アイスボール150の該境界180が、該殺傷領域170の端部から距離190のところに配置されている。
【0069】
対照的に、該生体材料が、本発明に従う該炎症誘導組成物で処理されると、殺傷領域170と比較して、該殺傷領域200は大きくなりうる。さらに該アイスボール150の該境界210を、該境界180と比較して小さくすることができる。従って、本発明の炎症誘導組成物を投与すると、該アイスボールのサイズを小さくすることができ、そして該アイスボール内の該殺傷領域のサイズを大きくすることができる。殺傷領域及びアイスボールサイズにおけるこれらの変化に関する潜在的利益の結果のひとつは、該殺傷領域が該アイスボールサイズとさらに密接に対応できることである。これにより、外科医が、該熱的外科手術の際に作られる現実の殺傷領域をさらに詳しく予測することができ、そして隣接する正常組織を損傷から保護しながら、さらに有効に病変組織を治療することができる。
【0070】
例えば、前立腺及び他の多くの臓器(肝臓、腎臓又は脳等)の冷凍外科手術の際、超音波又はMRIが、該冷凍手術アイスボール範囲をモニターするために用いられ、そしてある程度ではあるが、該手術の結果を予測するために用いられる。しかし、該アイスボール境界は、概して、約−0.5℃の温度であり、一方、前立腺ガンの破壊のしきい値は、概して約−20℃〜−60℃、そして場合によってはさらに低いことが報告されている(Hoffmann N,Bischof J.2002.Urology 60(Supplement2A):40−9;Saliken J,Donnelly B,Rewcastle JC.2002.Urology(Supplement2A):26−33)。従って、モニタリングが、該アイスボールのイメージングと、該手術の結果の見込みの予測とに対して有用である一方、凍結された組織の全てがまた、有効に治療されたとは限らないとの結果に関して、助力しない。組織(肝臓及び時には腎臓等)によっては、該アイスボールが、該腫瘍を越えて、正常組織の端に進むことが許されることもある。しかし、前立腺の場合には事情が異なる、というのは直腸及び尿道等の敏感な近接組織体内への過凍結は、直腸及び尿道フィステル等の合併症の原因となりうるからである。一方、外科医が控えめすぎ、そして該前立腺内で該アイスボールを単に保持するだけで、凍結に満たない場合には、腺の端部において前立線被膜の下に存在することが多いガンを有効に治療することはできず、一定の場合には、疾患の再発がもたらされてしまう。本発明のアプローチのひとつは、共に使用することができる炎症誘導組成物及び共晶凝固点変動剤(eutectic freezing point changing agent)(例えば、2003年6月13日に出願された「CRYOSURGERY COMPOSITIONS AND METHODS」と題する、米国特許出願番号第10/461,763号(代理人整理番号110.01920101)に記載される)の両方の形の冷凍手術アジュバントの使用を含むことができる。該組み合わせによって、該生体材料に炎症が生じ、凍結破壊を増大させ(塩及びTNF−α)、かつ該アイスボール端部における温度を下げることができる。該組み合わせは、正常組織を過度及び/又は不必要な損傷から保護しながら、該殺傷領域の効果及び予測可能性を改良することができる。
【0071】
人の前立腺ガン(ヌードマウス中で増殖させたLNCaP)内の冷凍手術の後、0℃を上回る平均温度まで破壊のしきい温度を高めるため、サイトカインTNF−αを含む組成物を用いることができる。事前に炎症を起こした前立腺ガンにTNF−αを局部的に使用することで、該がんを破壊するための凍結能力が増すことになる。従って、該アイスボール端部に焦点を合わせるモニタリング技術(超音波、CT、MR等)は、TNF−αの存在下で、該アイスボールの端部を測定するのと同時に該損傷の端部を測定することによって、該治療の結果を予測することもできる。
【0072】
生物組織の事前炎症は、熱的外科手術の際に、血管損傷を強めるのに有用な作用でありうる。ドーサルスキンフォールドチャンバー(DSFC)に取付けられ、コペンハーゲンラット内で増殖させた前立腺ガン(Dunning AT−1)に、微小血管の供給の遮断に該内皮が果たす役割がありうる(Hoffmann N,Bischof J.2002.Urology 60(Supplement2A):40−9)。該がん及び正常ラットの皮膚の両方を体内で凍結させた後3日で評価されるように、該腫瘍が、ある凍結/解凍条件の下、生体外で−80℃以下の凍結を生き抜くことができるが、約−20℃への穏やかな凍結及び解凍は、虚血による組織のネクロシス及び血管のうっ血をもたらすことを、これらの研究データは示している。
【0073】
炎症に焦点を合わせることで、該血管の損傷作用の増強が、アプローチされている。該内皮の役割が、該凍結前に該組織内で非破壊的な事前炎症を起こす可能性を示唆している。該サイトカインTNF−αは、内皮の中で種々の接着分子及びNF−kBを上方制御することが知られており、そして該サイトカインTNF−αはまた、近年、該DSFC内で使用されている(フクムラ Dら、1995.Cancer Reserch 55:4824−9)。本明細書に記述するように、TNF−αの局部デリバリーは、熱的外科手術の前に事前炎症を起こすために有効な手段である。
【実施例】
【0074】
下記例は、本発明を具体的に説明するために提供され、そしていかなる方法においても、それらは本発明を制限することを目的とするものではない。
例1
雄の胸腺欠損ヌードマウスのドーサルスキンフラップチャンバー(DSFC)を、腫瘍LNCaP Pro 5の人前立腺ガンを接種し、TNF−αを用いて炎症を発生させ、冷凍外科手術を行い、そして下記手順に従って評価した。
雄の胸腺欠損ヌードマウスの背面皮膚を、同一の陽極酸化されたアルミニウムフレーム相互間に挟み、19ミリメートル(mm)×22mmのチャンバーを、3つのねじによって該マウス上にマウントし、縫合穴を用いて、該皮膚を4−Oシルクと共に該チャンバーに取付け、そして見える部位側上の皮膚を取り除き、該皮膚の対辺上の微小血管系を含む真皮をさらした。
【0075】
腫瘍を有するチャンバーを供給するために、Limら(Prostate、22:109−118(1993))によって記述されるように、約5×106のLNCaP Pro 5の人前立腺腫瘍細胞をMATRIGELマトリックス(BD Biosciences,Bedford MA)に混合した。初期チャンバーインプランテーションの後すぐに、約30μlの細胞懸濁液を、微小血管床の表面に供給し、そして該腫瘍を10日間増殖させた。該皮膚は、約450マイクロメーター(μm)のトータル厚に到達し、該腫瘍は、直径約10mmに広がった。
【0076】
10ng/mlのTNF−αを20μl(0.2ngのトータル適用)、約15分間、該DSFC内の該腫瘍組織に局部的に適用し、その後、該TNF−α溶液を外に出し(wicked off)、そして該組織を、ガラスウィンドでカバーした。4時間後、該マウスに麻酔をかけ、TNF−αに誘導された炎症を、白血球ローリングを観察することで測定し、その後、該炎症組織内で即座に冷凍外科手術を実施した。
【0077】
アルゴンで冷却された、直径5mmのクリオプローブ(EndoCare,Irvine,CA)を用いて該冷凍外科手術を実施し、−160℃のターゲット温度(約−125℃の外部プローブ末端平均温度に相当)で、5分の冷却時間の間、作動させた。0.5mmのビーズ(bead)直径を有する「T」型の熱電対(Omega Tech.Corp,Stamford,CT)を該組織に挿入し、そして外部プローブの末端平均温度を測定するために用いた。それぞれの熱電対における温度を、HYDRA DATA LOGGER SERIES 2(Fluke、Everett、WA)を用いて記録した。
【0078】
該冷凍外科手術の後、該プローブを止め、そして室温で、該組織を受動的に解凍させた。
70kDフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識化デキストラン(分子プローブ、Eugene OR)を用いて該血管系を投影した。治療後3日で、FITC標識化デキストラン溶液(デキストラン10mg/PBS ml(Gibco BRL,Gaithersburg,MD))を0.05ml、該マウスの尾静脈内に注入した。次いで、蛍光コントラストを調べるために、該ドーサルスキンフラップチャンバーを、水銀ランプ及びFITCシグナル強化フィルター(k=470〜490nm)を用いて照らした。Silicon Intensified Transmission camera(Hamamatsu,North Central Instruments,Twin Cities,MN)を用いて、蛍光シグナルを検出し、そして該シグナルをJVCのS−VHSビデオレコーダー(JVC Company of America,Aurora,IL)で記録した。
【0079】
Hoffmannら(ASME J.Biomechanical Engineering 123:310−316(2001))に従って、冷凍外科手術後3日で、組織全体の組織学系分析を実施し、該組織のイメージをOlympus BX−50 upright microscope(Leeds Precision Instruments,Minneapolis,MN)上で撮影した。該冷凍手術アイスボール内の熱パラメータ及び凍結損傷の終点温度を、Chaoらの方法(Cryobiology,2004(印刷中))に従って計算した。
【0080】
上記例を計9回繰り返し、TNF−αで処理された腫瘍組織に関するデータを提供し、そしてTNF−α処理せずに、計13回繰り返した。
【0081】
結果:
血管損傷領域を、FITC標識化デキストランを用いて観察した。該結果は、該病変の中心において血管系の実質的に完全な破壊と、放射状に外側に広がる正常な開存性の急激な変化とを示している。血管のうっ血部位が、直接、組織ネクロシスをもたらすことが測定された。さらに、TNF−αを用いて炎症が起きた組織において、冷凍外科手術後3日で停滞領域(すなわち、血管のうっ血領域)の端部は、TNF−αを用いて炎症が起きなかった組織に対する半径よりも半径が大きかった(TNF−α処理しないLNCaP Pro 5腫瘍組織において、r=3.81±0.29mm、そしてTNF−α処理した組織においてr=4.07±0.34mm)。さらに、該停滞領域の端部は、TNF−α処理したLNCaP Pro 5腫瘍組織に対して該アイスボールの端部を越えて広がり、一方、該停滞領域の端部は、TNF−α処理した炎症を起こした正常な皮膚組織内において、該アイスボール端部内にとどまった(次の、例2)。
【0082】
ネクロシスを生じさせるために必要な最小温度は、TNF−αで処理したLNCaP Pro 5腫瘍組織では、3.5±6.9℃であった。TNF−α処理した組織と比較して、LNCaP Pro 5腫瘍組織において、ネクロシスを生じさせるために必要な最小温度は、16.5±4.3℃であり、当該結果は、TNF−αを局部的に使用することで、凍結破壊のしきい温度を10℃超、高くすることができる。
【0083】
例2
治療を受けた該生体材料が、正常なヌードマウスの下皮(すなわち正常皮膚)であることを除いて、例1に従って、該手順を繰り返した。
例2を計9回繰り返し、TNF−αで処理した正常組織に関するデータを提供し、そしてTNF−α処理せずに、計14回繰り返した。
【0084】
結果:
同様に、腫瘍なしで正常ヌードマウスの下皮中で結果を得た。TNF−αによって誘導された炎症が、該冷凍手術アイスボール端部に近い停滞領域の端部を移動させ(TNF−α未処理組織の3.13±0.39mmと比較して、TNF−α処理組織のr=3.99±0.13mm)、そして凍結破壊のために必要な最小温度は、未処理の正常皮膚の−24.4±7.0℃と比較して、TNF−α処理の正常組織で−9.8±5.8℃であった。
人の内皮細胞の細胞懸濁液(MVECs)を用い、アジュバントを用いることによる直接細胞損傷(DCI)の強化について評価した。用いた該アジュバントは、TNF−αである。
【0085】
例3 TNF−α添加によるLNCaP Pro 5前立腺ガン細胞、MCF−7乳ガン、及びMVEC内皮におけるDCIの強化の測定
ヒト皮膚微小血管内皮細胞(MVEC)を調製し、そしてGuptaらのExperimental Cell Reserch,230:244−251(1997)に記載されるような、接着性(adherent)単層として増殖させ、20%の加熱不活性化した人の男性の血清、ヒドロコルチゾン、cAMP、L−グルタミン、ヘパリン、内皮細胞増殖サプリメント(Vec Tec,Schenectady,NY)及び抗生物質で補ったMCDB131培地中で、1%のゼラチンでプレコートしたT型フラスコ内で、37℃/5%CO2/95%加湿空気環境下で保持した。10%のFBS、抗生物質及びジヒドロテストステロン(DHT)で補ったDMEM/F12培地内の接着性単層として、LNCaP細胞を培養した。MCF−7細胞を、下記例外:5%のFBS(10%ではない)、抗生物質及びインスリン(DHTでない)を伴う類似の培地中で増殖させた。細胞を、ハンクの(Hank’s)平衡塩類溶液(HBSS)でリンスすることで二次培養し、光トリプシン処理(light trypsinization)、酵素的中性化(enzyme neutralization)、及び再接種が続いた。
【0086】
TNF−α暴露及び/又は凍結前の1〜3日に、アポトーシス/ネクロシスアッセイのために、96ウェルのプレート上と、単層又はペトリ皿中のコラーゲンゲル(生死アッセイ)としてのEMSA又はウェスタンブロットのためにT型フラスコ上とに、細胞を再接種した。次いで、それぞれの試料を、10ng/ml〜1μg/mlの濃度で、4〜48時間、TNF−αを用いた媒体にさらした。
【0087】
次いで、対照及び実験のF/T群を、処置後の始動3時間の様々な時点において細胞の生存度を評価した。アポトーシス/ネクロシスアッセイによる蛍光染料アッセイ(細胞の生存度アッセイ)によって、細胞の生存度を顕微鏡で測定した。
【0088】
Hoechst33342及びプロピジウムイオジド(propidium iodide、PI)を使用して、F/Tの前(コントロール)及び後のすぐに細胞の原形質膜の完全性(integrity)を評価するために、蛍光染料アッセイを用いた。それぞれの染料は、核酸へのアフィニティーを有し、すなわち、生存度と無関係に、全ての細胞がHoechstを吸収し、そして細胞がコンプロマイズされた原形質膜のみがPIを吸収する。9μMのHoechst33342と7μMのPIを用いて、15分間、37°Cにおいて、細胞を培養し、マイクロスライド上に置き、カバースリップをのせ、そして死亡した細胞/範囲のパーセンテージを、蛍光顕微鏡(オリンパスBX−50、東京、日本)を用いて、200×で測定した。
【0089】
アポトーシス/ネクロシスアッセイを用い、アポトーシスを引き起こす熱/アジュバント条件をマップ化した。該細胞を、蛍光性のAnnexin Vを用いて、染色した。
該蛍光染料アッセイを、典型的な範囲の5箇所以上で実施し、そして100〜200の細胞/試料の数を数えた。全ての試料を、4つ又は6つの複製で実施し、そして得られた値を平均化した。
【0090】
結果:
TNF−αは、生体外で、MVEC、MCF−7及びLNCaP Pro5細胞の凍結感度を増すことが示された。該TNF−αの作用は、主に細胞に炎症を起こし、そして該炎症を起こした細胞は、生体外で、ネクロシスの増加を示す。
本明細書中で明らかにした記載の全てを、それぞれを別個に組み込むように全体を参照することによって、本明細書中に組み込む。本発明を、具体例に関連して記述するが、限定された意義を構成することを目的とするものでは無い。本明細書を参照することで、具体例の種々の改良、並びに本発明のさらなる実施形態が、当分野に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、本発明に従うシステムの実施形態のひとつを示すものである。
【図2】図2は、本発明に従うアイスボール中心の距離と温度との関係を示す一例である。
【図3】図3は、本発明に従うアイスボールの一例の断面図を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱的外科手術を受けることが確認される生体材料において、炎症誘導システムであって、以下の;
該生体材料の少なくとも一部に炎症を誘導するために有効な少なくとも1の化合物を含む組成物;及び
該組成物を該生体材料の少なくとも一部にデリバリーするための手段:
を含む前記装置。
【請求項2】
前記組成物が、医薬として許容される担体をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記組成物をデリバリーするための手段が、ルーメンを含むカテーテルを含み、さらに該組成物は、該カテーテルの該ルーメンを通してデリバリーされうる、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記生体材料の生理学的温度を下回る温度に該生体材料を冷却するために十分な速度で、該生体材料の少なくとも一部から熱エネルギーを除去するために有効な手段をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記生体材料の生理学的温度を上回る温度に該生体材料を加熱するために十分な速度で、該生体材料の少なくとも一部に熱エネルギーを供給するために有効な手段をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
該生体材料の少なくとも一部から熱エネルギーを除去するために有効な手段が、プローブを含む、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記生体材料の少なくとも一部に熱エネルギーを供給するために有効な手段が、プローブを含む、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
熱的外科手術に用いるキットであって、以下の;
熱エネルギーを移動させるのに適合した熱的外科プローブ;及び
熱的外科手術を受けることが確認される生体材料内で炎症反応を誘導させるために有効な少なくとも1の化合物を含む組成物:
を含む前記キット。
【請求項9】
前記組成物が、少なくとも1のウイルス、少なくとも1のバクテリア、エタノール、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、酸素フリーラジカル、細菌リポ多糖、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される化合物を含む、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記サイトカインが、TNF−α、TNF−αの切断変種、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記インターロイキンが、IL−β、IL−8、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項9に記載のキット。
【請求項12】
前記組成物が、医薬として許容される担体をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【請求項13】
前記プローブがカテーテルを含む、請求項8に記載のキット。
【請求項14】
前記プローブが中空針を含む、請求項8に記載のキット。
【請求項15】
前記プローブが、クリオプローブを含む、請求項8に記載のキット。
【請求項16】
前記プローブが、移植可能な装置を含む、請求項8に記載のキット。
【請求項17】
前記組成物をデリバリーするための手段をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【請求項18】
前記組成物をデリバリーするための手段が、熱エネルギーを移動するのに適合したものである、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
熱的外科手術を受けることが確認される生体材料において炎症反応を誘導させるのに有効な少なくとも1の化合物を含む組成物。
【請求項20】
炎症反応を誘導させるのに有効な該少なくとも1の化合物が、少なくとも1のウイルス、少なくとも1のバクテリア、エタノール、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、酸素フリーラジカル、細菌リポ多糖、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記サイトカインが、TNF−α、TNF−αの切断変種、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記インターロイキンが、IL−β、IL−8、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
医薬として許容される担体をさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
前記医薬として許容される担体が、生理食塩水、マイクロビーズ内への封入、ナノビーズ内への封入、レトロウイルスの遺伝子治療、含浸ゲルフォーム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
緩衝剤、化学療法薬、塩、造影剤、蛍光マーカー、インピーダンス計測デバイス、超音波造影剤、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される化合物をさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項26】
熱的外科手術の実施方法であって、以下のステップ;
熱的外科手術を受ける生体材料を確定するステップ;
炎症誘導組成物に、該生体材料を接触させるステップ、ここで該確定された生体材料の少なくとも一部に炎症が誘導される;そして、
該確定された生体材料の温度を調整するステップ、ここで、該熱的外科手術を受けた後、該生体材料の少なくとも一部が破壊される:
を含む前記方法。
【請求項27】
前記温度調整が、前記生体材料の生理学的温度未満に該温度を下げさせることを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記温度調整が、前記生体材料の生理学的温度以上に該温度を高めることを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記生体材料が、細胞、組織、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞が、腫瘍細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記組織が、腫瘍組織、肝臓組織、前立腺組織、乳房組織、腎臓組織、血管組織、胃腸組織、筋肉組織、皮膚組織、結合組織、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−521184(P2006−521184A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509392(P2006−509392)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/009440
【国際公開番号】WO2004/088233
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(305023366)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (39)
【Fターム(参考)】