説明

熱硬化型導電性コーティング用組成物、光学フィルム及びプロテクトフィルム

【課題】 耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性及び印字密着性を同時に満足する導電性被膜を、低温短時間に形成することができる熱硬化型導電性コーティング用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物は、(a)導電性ポリマー、(b)メラミン樹脂誘導体、(c)スルホン酸硬化触媒、(d)両末端ポリエーテル変性シリコーン、(e)導電性向上剤、及び、(f)溶媒又は分散媒を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型導電性コーティング用組成物、この熱硬化型導電性コーティング用組成物を用いて得られた光学フィルム及びプロテクトフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビやプラズマテレビ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、太陽電池などのフラットパネルを構成する光学フィルムには、静電破壊などのトラブルを解消するために帯電防止機能を有するコーティング層(帯電防止層)を設けることがある。
例えば、フラットパネルディスプレイの製造工程や搬送工程においては、パネル表面の傷つき、汚れや埃の付着を防止するために、光学フィルムの一種であるプロテクトフィルムをその表面に貼り合わせている。このプロテクトフィルムは、PETなどの樹脂基材の片面に粘着層を有し、粘着層側をディスプレイに貼り合わせて使用するものであるが、フィルムを剥がす際に発生する静電気によって電気製品が壊れるのを防止するため、帯電防止層が樹脂基材の粘着層側と反対側の面に形成されている。
【0003】
従来、この帯電防止層には、帯電防止機能に加えて、傷付きを防止するための耐スクラッチ性や、裁断時の粘着剤の付着防止のための防汚性、付着した粘着剤を拭き取るための耐溶剤性が求められてきたが、近年、これらの特性に加えて、プロテクトフィルム上へのロットナンバー等の印字のため、油性インクの印字密着性といった特性が要求されている。さらには、コストダウンの要求も高くなり、上述の特性を同時に満足する被膜を、1層コーティングで形成することが求められている。
【0004】
このような帯電防止層を形成する材料として、導電性ポリマーを含む導電性コーティング材が用いられている。
特許文献1には、帯電防止層を形成するための導電性ポリマー組成物が示されている。この導電性ポリマー組成物は、ポリチオフェン系の導電性ポリマーとポリエステルバインダーを含む組成物であり、100℃で1分間程度の乾燥にて、密着性に優れた帯電防止層を樹脂基材上に形成可能である。しかしながら、溶媒乾燥型の組成物であるため、形成された帯電防止層は、耐スクラッチ性と耐溶剤性が十分ではなく、これらの特性を確保するには帯電防止層の上にトップコートを積層する必要があり、1層コーティングでは、上記のすべての性能を満足することができなかった。
【0005】
特許文献2には、導電性ポリマーと水溶性のポリエーテル変性シリコーンを含む組成物が示されており、側鎖がポリエーテルで変性されたシリコーンを添加することによって、潤滑性に優れた被膜を形成可能であることが示されているが、耐スクラッチ性及び印字性については何ら言及されておらず、側鎖がポリエーテルで変性されたシリコーンを含有する導電性組成物では、耐スクラッチ性及び印字性を同時に満足することができなかった。
【0006】
特許文献3では、活性水素を有する樹脂とポリシロキサン含有ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、帯電防止剤からなる組成物によって、表面抵抗率、耐溶剤性、耐スクラッチ性、印字性を有する帯電防止層を1層コーティングで形成可能であることが示されているが、この組成物では印字密着性が不十分であり、また、帯電防止層の形成に40℃で48時間のエージングが必要であるため、生産性が低く、大量生産には適していない。
【0007】
特許文献4には、末端にヒドロキシル基などの反応性官能基を有するオルガノシロキサンを含有する組成物が開示されており、この組成物を用いて形成した被膜は、防汚性(高い対水接触角)と特定のインクにおける印字密着性が両立することが示されている。しかしながら、この組成物の硬化には、140℃で2分の条件が必要であるため、生産性が低く、大量生産には適していない。
【0008】
特許文献5には、導電性ポリマー、メラミン樹脂誘導体及び酸触媒を含む組成物が開示されており、この組成物を用いることで、帯電防止機能、耐スクラッチ性、耐溶剤性、防汚性を有する被膜を、100℃で1分程度の低温短時間で形成可能であることが示されている。しかしながら、この組成物を用いた形成した被膜では、印字性及び印字密着性と、耐スクラッチ性とを両立することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−060736号公報
【特許文献2】特開2007−308549号公報
【特許文献3】特開2006−178424号公報
【特許文献4】特開2009−107329号公報
【特許文献5】特開2009−138042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、従来提案されている導電性組成物では、1層コーティングにより導電性被膜を形成した場合、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性及び印字密着性に優れた導電性被膜を、低温短時間の硬化条件にて形成することができなかった。
特に、耐スクラッチ性と印字性及び印字密着性とは、一般的にトレードオフの関係にあり、両者を同時に満足することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性ポリマー(a)、メラミン樹脂誘導体(b)、スルホン酸硬化触媒(c)、両末端ポリエーテル変性シリコーン(d)、導電性向上剤(e)、及び、溶媒又は分散媒(f)を含有する導電性組成物が、低温短時間での熱硬化より、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性及び印字密着性に優れた導電性被膜を形成することが可能であることを見出し本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物は、
(a)導電性ポリマー、
(b)メラミン樹脂誘導体、
(c)スルホン酸硬化触媒、
(d)両末端ポリエーテル変性シリコーン、
(e)導電性向上剤、及び、
(f)溶媒又は分散媒
を含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物において、上記導電性ポリマー(a)は、以下の式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、又は、一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとの複合体であることが望ましい。
【0014】
また、上記熱硬化型導電性コーティング用組成物において、上記メラミン樹脂誘導体(b)の含有量は、導電性ポリマー100重量部に対して150〜750重量部であることが望ましい。
【0015】
また、上記熱硬化型導電性コーティング用組成物において、上記スルホン酸硬化触媒(c)は、芳香族スルホン酸であり、その含有量は、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して8〜40重量部であることが望ましい。
【0016】
また、上記熱硬化型導電性コーティング用組成物において、上記両末端ポリエーテル変性シリコーン(d)の含有量は、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して10〜60重量部であることが望ましい。
【0017】
また、上記熱硬化型導電性コーティング用組成物において、上記導電性向上剤(e)は、アミド基、スルホ基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも1つの置換基を有する化合物であることが望ましい。
【0018】
上記熱硬化型導電性コーティング用組成物は、更に、(g)水溶性酸化防止剤を含有することが望ましく、上記水溶性酸化防止剤(g)としては、アスコルビン酸又はエリソルビン酸が望ましい。
【0019】
上記熱硬化型導電性コーティング用組成物は、更に、(h)濡れ性向上剤を含有することが望ましい。
【0020】
上記熱硬化型導電性コーティング用組成物は、更に、(i)消泡剤を含有することが望ましく、上記消泡剤(i)は、シリコーンエマルジョンであることが望ましい。
【0021】
本発明の光学フィルムは、基材と、上記基材上に積層された導電性被膜とからなる光学フィルムであって、
上記導電性被膜は、本発明の熱硬化型導電性コーティング組成物を用いて形成された被膜であることを特徴とする。
【0022】
上記光学フィルムにおいて、上記導電性被膜は、上記熱硬化型導電性コーティング用組成物を上記基材に塗布し、130℃以下の温度で、乾燥・熱硬化させることにより形成されることが望ましい。また、上記導電性被膜の計算膜厚は、45nm未満であることが望ましい。
【0023】
本発明のプロテクトフィルムは、本発明の光学フィルムからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物によれば、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性及び印字密着性を同時に満足する導電性被膜を、低温短時間の加熱処理(乾燥・熱硬化)により形成することができる。
また、上記熱硬化型導電性コーティング用組成物を用いることにより、優れた耐スクラッチ性と、優れた印字性及び印字密着性とを同時に満足する導電性被膜を形成することができる。
また、本発明の光学フィルムは、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物を基材上に塗布、硬化してなるものであるため、優れた導電性を有するとともに、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性及び印字密着性に優れる導電性被膜を備える。
また、本発明の光学フィルムは、プロテクトフィルムとして極めて好適であり、上記光学フィルムからなるプロテクトフィルムもまた本発明の1つである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例28で作製した導電性被膜のTEM観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物について説明する。
本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物(以下、単に「導電性組成物」ともいう)は、(a)導電性ポリマー、(b)メラミン樹脂誘導体、(c)スルホン酸硬化触媒、(d)両末端ポリエーテル変性シリコーン、(e)導電性向上剤、及び、(f)溶媒又は分散媒を含有する。
以下、各配合物について順に説明する。
【0027】
1.導電性ポリマー(a)
上記導電性ポリマー(a)は、形成した導電性被膜(コーティング層)に導電性を付与するための配合物である。
上記導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、これらの誘導体、および、これらとドーパントとの複合体等が挙げられる。
これらのなかでは、ポリチオフェンとドーパントとの複合体からなるポリチオフェン系導電性ポリマーが好適であり、ポリチオフェン系導電性ポリマーとしては、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)とドーパントとの複合体がより好適である。
【0028】
上記ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)としては、以下の式(I):
【0029】
【化2】

【0030】
で示される反復構造単位からなる陽イオン形態のポリチオフェンが好ましい。ここで、RおよびRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す。
上記C1−4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
また、RおよびRが一緒になって形成される、置換されていてもよいC1−4のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基等が挙げられる。好適には、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基であり、1,2−エチレン基が特に好適である。上記アルキレン基を持つポリチオフェンとして、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とドーパントとからなる複合体は、導電性や透明性に加えて化学的安定性に極めて優れており、導電性ポリマーとしてこの複合体を用いて形成した導電性被膜は、湿度に依存しない極めて安定した導電性と極めて高い透明性とを有している。
さらには、導電性ポリマーとしてこの複合体を含有する導電性組成物は、低温短時間で被膜形成が可能であることから、大量生産が求められるプロテクトフィルムなどの光学フィルムの作製に極めて適した生産性も有している。
【0031】
上記ポリチオフェン系導電性ポリマーを構成するドーパントは、上述のポリチオフェンとイオン対をなすことにより複合体を形成し、ポリチオフェンを水中に安定に分散させることができる陰イオン形態のポリマーである。
このようなドーパントとしては、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸等)、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等)等が挙げられる。これらのカルボン酸ポリマー類およびスルホン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル化合物との共重合体であっても良い。中でも、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0032】
上記ポリスチレンスルホン酸は、重量平均分子量が20000より大きく、500000以下であることが好ましい。より好ましくは40000〜200000である。分子量がこの範囲外のポリスチレンスルホン酸を使用すると、ポリチオフェン系導電性ポリマーの水に対する分散安定性が低下する場合がある。尚、上記ポリマーの重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。測定にはウォーターズ社製ultrahydrogel500カラムを使用した。
【0033】
上記導電性ポリマーの含有量は、導電性組成物全体に対し、固形分として0.01〜1.2重量%であることが好ましい。より好ましくは0.03〜0.5重量%である。0.01重量%より少ないと導電性が発現しにくく、1.2重量%より多いと、他成分との混合により沈殿が発生する場合がある。
【0034】
2.メラミン樹脂誘導体(b)
上記メラミン樹脂誘導体は、導電性組成物に低温での熱硬化性を付与し、被膜外観、導電性(例えば、表面抵抗率、以下;SR)、透明性(例えば、全光線透過率、以下;Ttおよびヘイズ値、以下;Haze)、基材への密着性、耐溶剤性に優れた導電性被膜を形成することを可能とする。
【0035】
上記のメラミン樹脂誘導体は、例えば以下の式(II):
【0036】
【化3】

【0037】
(式中、R〜RはH又はCHORで表され、RはH又はC1−4のアルキル基を表す)で示される。置換基R〜Rがすべて水素原子であるメラミン樹脂誘導体がイミノ型メラミン樹脂誘導体であり、置換基R〜RがすべてCHOHであるメラミン樹脂誘導体がメチロール型メラミン樹脂誘導体であり、置換基R〜RがすべてCHORであり、RがC1−4のアルキル基で置換された構造のメラミン樹脂誘導体がフルエーテル型メラミン樹脂誘導体である。
また、上記3つの置換基のうち2つが1分子中に混在した構造のメラミン樹脂誘導体は、イミノメチロール型、メチロールエーテル型およびイミノエーテル型に分類され、すべてが混在したメラミン樹脂誘導体がイミノメチロールエーテル型である。
上記R〜Rは、CHORで表され、かつ、RがC1−4のアルキル基である場合、C1−4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などがあり、低温硬化性を考慮すると、メチル基が好ましい。上記メラミン樹脂誘導体は、式(II)を基本骨格として自己縮合したオリゴマーであっても良い。
これらのメラミン樹脂誘導体は、単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記構造のメラミン樹脂誘導体のなかでは、導電性組成物の安定性と低温での硬化性の観点から、フルエーテル型メラミンがより好ましく、特に、Rがメチル基のフルエーテル型メラミンが好ましい。また、メラミン樹脂誘導体がオリゴマーである場合、導電性組成物のポットライフを考慮すると、その平均重合度は低い方が好ましく、1.0を超え1.8未満であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、導電性組成物のポットライフとは、導電性組成物(塗布液)の外観(沈殿の有無)、形成した導電性被膜の外観、透明性、導電性、基材への密着性、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性、印字密着性などの諸性能が、導電性組成物(塗布液)を調製してから十分に維持されうる時間を示す。
【0039】
低温で硬化させた導電性被膜が被膜外観、導電性、透明性、基材への密着性、耐溶剤性を有するための、メラミン樹脂誘導体(b)の含有量は、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、150〜750重量部であることが好ましい。より好ましくは、250〜450重量部である。
含有量が750重量部を超えると、被膜の導電性が低下したり、被膜が白化して透明性が低下したりする場合がある。逆に、150重量部より少ない場合は、十分な耐溶剤性が被膜に付与されにくくなる。
【0040】
3.スルホン酸硬化触媒(c)
上記スルホン酸硬化触媒(c)は、乾燥・硬化時に基材上でメラミン樹脂誘導体(b)の架橋を促進させる役割を有する。スルホン酸は導電性組成物中で酸性を示すため、導電性組成物中でのメラミン樹脂誘導体の架橋を促進し、塗布液のポットライフが短くなる。
また、スルホン酸硬化触媒には、導電性組成物の基材へのレベリング性を向上させる働きもある。
よって、上記スルホン酸硬化触媒は、基材上で硬化を促進し、かつ、導電性組成物の基材へのレベリング性と導電性組成物のポットライフを維持できる構造であることが望ましい。
このようなスルホン酸硬化触媒として、脂肪族又は芳香族のスルホン酸が挙げられる。
【0041】
上記脂肪族スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸等が挙げられる。また、上記芳香族スルホン酸はしては、例えば、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
これらの中では、塗布液のポットライフと低温での硬化性の観点から、芳香族スルホン酸が好ましく、特にドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0042】
上記スルホン酸硬化触媒の含有量は、その上限がメラミン樹脂誘導体100重量部に対して40重量部であることが望ましく、33重量部であることがより望ましい。また、その下限は、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して8重量部であることが望ましい。この範囲であれば、メラミン樹脂誘導体を低温短時間で硬化可能で、かつ、塗布液のポットライフを十分に維持できるからである。
これに対して、上記含有量が40重量部を超えると、塗布液のポットライフが維持されなくなりやすく、一方、8重量部未満では、導電性組成物の成膜性が悪化し、形成された被膜にハジキが見られる場合や、被膜の耐溶剤性が低下する場合がある。
【0043】
4.両末端ポリエーテル変性シリコーン(d)
上記両末端ポリエーテル変性シリコーン(d)は、導電性被膜に耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性、印字密着性を付与する役割を有する。
特に、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物では、両末端ポリエーテル変性シリコーンを他の成分と併用しているため、形成した導電性被膜に耐スクラッチ性と印字性及び印字密着性を同時に付与することができる。
ポリエーテル変性シリコーンには、側鎖変性タイプ、両末端変性タイプがあるが、これらのなかで、両末端ポリエーテル変性シリコーンを使用した場合にのみ特異的に形成した導電性被膜に耐スクラッチ性と印字性及び印字密着性を同時に付与することができ、側鎖ポリエーテル変性シリコーンを使用してもこのような効果は享受することができない。そして、このような知見は、本願発明者によって新たに見出された知見である。
また、両末端ポリエーテル変性シリコーンを使用することにより、上述した効果を享受することができる理由については、(1)導電性被膜表面へのポリエーテル変性シリコーンの配向性が向上し、優れたスリップ性が発現するため、結果として耐スクラッチ性が向上する、(2)両末端のポリエーテル鎖によってインクの密着性が向上し、印字性と印字密着性をも高いレベルで付与することができる、ためと考えられる。
また、両末端ポリエーテル変性シリコーンを使用した場合、耐溶剤性も維持される。これは、両末端ポリエーテル変性シリコーンが表面に均一に配向するため、メラミン樹脂誘導体の架橋を阻害しないため、被膜の架橋密度が低下しないからだと考えられる。
【0044】
上記の両末端ポリエーテル変性シリコーンとしては、例えば、以下の式(III):
【0045】
【化4】

【0046】
(式中、R10はポリエーテル基であり、エチレンオキシドからなるR11(CO)12、プロピレンオキシドからなるR11(CO)12、又は、それらが混成したR11(CO)(CO)12を表す。ポリエーテル基中のR11およびR12はそれぞれ独立してアルキル基又はアルキレン基を表す。)で示されるものが挙げられる。また、上記式(III)の両末端のポリエーテル基R10は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、ポリシロキサンの重合度(n)は、380以下であることが望ましく、45〜230であることが好ましい。上記の重合度のポリシロキサンを配合することによって、形成した導電性被膜に、より優れた耐スクラッチ性を付与することができる。
また、R10に含まれるポリエーテル基の重合度(a及びb)は、上記導電性組成物において、上記両末端ポリエーテル変性シリコーンの溶解性が維持され、且つ要求の特性が発現するのであれば、特に制限されない。
上記ポリエーテル基の骨格は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、又は、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体がある。これらのなかでは、水溶性の観点からは、エチレンオキシドであることが好ましく、印字性や印字密着性を考慮すると、プロピレンオキシドやエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体が好ましい。
上述のように、最適な構造のポリエーテル変性シリコーンを選択することによって、形成した導電性被膜において、耐スクラッチ性と印字性及び印字密着性を確実に両立することができる。
【0047】
上記導電性組成物に含有される両末端ポリエーテル変性シリコーンは、耐溶剤性を落とさず耐スクラッチ性を付与し、印字性、印字密着性に優れた導電性被膜を形成することを可能にするものであり、上記式(III)で示される構造の両末端ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。上記式(III)で示される両末端ポリエーテル変性シリコーンは、1種類のものを単独で用いても良いし、分子量の異なる2種類以上の両末端ポリエーテル変性シリコーンを併用して用いてもよい。
【0048】
上記両末端ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、その上限がメラミン樹脂誘導体100重量部に対して60重量部であることが好ましく、33重量部であることがより好ましい。また、その下限はメラミン樹脂誘導体100重量部に対して10重量部であることが好ましい。
この範囲であれば、形成した被膜に、耐スクラッチ性と、印字性及び印字密着性とを同時に付与することができるからである。
これに対し、両末端ポリエーテル変性シリコーンの含有量が60重量部を超えると、形成した被膜の耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0049】
5.導電性向上剤(e)
上記導電性組成物に含有される導電性向上剤(e)は、形成した導電性被膜の導電性を向上させることができる。
上記導電性向上剤(e)としては、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン等のアミド化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のヒドロキシル基含有化合物;イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、オルト酢酸メチル、オルトギ酸エチル等のカルボニル基含有化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホ基を有する化合物などが挙げられる。
これらの中では、塗布液のポットライフや低温での硬化性、形成した導電性被膜の透明性、耐スクラッチ性、耐溶剤性などの観点から、アミド化合物、ヒドロキシル基含有化合物、スルホ基含有化合物が好ましく、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールが特に好ましい。
また、上記導電性向上剤の含有量は、特に制限はないが、通常、導電性組成物中に0.1〜60重量%の量で含有されることが好ましい。
【0050】
6.溶媒又は分散媒(f)
上記溶媒又は分散媒(f)としては、導電性組成物に含有される各成分を溶解又は分散させるものであれば特に制限されず、例えば、水、有機溶剤、これらの混和物等が挙げられる。
なお、本発明においては、導電性組成物に含まれる、溶媒又は分散媒以外の各成分が溶解している場合は溶媒と称し、組成物を構成する少なくとも1成分が均一に分散している場合は分散媒と称する。
上記導電性組成物においては、上記メラミン樹脂誘導体が水に溶解しない場合がある。この場合は、溶媒又は分散媒として水と有機溶剤の混和物を使用することができる。さらに、水と有機溶剤の混和物を使用する場合、有機溶剤としては、少なくとも1種の水と混和する有機溶剤を含んでいることが好ましく、水と混和する有機溶剤を含んでいれば、さらに水と混和しない(疎水性の)有機溶剤を含んでいてもよい。溶媒又は分散媒として、沸点の低いアルコール系の有機溶剤と水の混合物を使用することによって揮発性が向上し、乾燥・熱硬化の際に有利となる場合がある。また、樹脂基材を使用する場合、アルコール系有機溶媒はレベリング性の向上に寄与し得る。
なお、本願明細書において、水系の熱硬化型導電性コーティング用組成物とは、溶媒又は分散媒が水単独であるか又は水と混和する有機溶剤との混合物である熱硬化型導電性コーティング用組成物であり、溶剤系の熱硬化型導電性コーティング用組成物とは、溶媒又は分散媒が非水溶性の有機溶剤を含む熱硬化型導電性コーティング用組成物である。
【0051】
6−1.有機溶剤
上記有機溶剤としては、水に溶解し難いメラミン樹脂誘導体などの成分を均一に溶解又は分散させうるものが挙げられる。
水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、及び、これらの混和物等が挙げられる。
また、疎水性の有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル類;ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルジイソブチルケトン等のケトン類;ヘキサン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、これらの混和物等が挙げられる。
これらの有機溶剤は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
上記導電性組成物が水系の導電性組成物である場合、上記有機溶剤の含有量は、水100重量部に対して、20重量部以上であることが好ましい。20重量部未満になると、メラミン樹脂誘導体などの成分が均一に溶解又は分散せず、成膜性が悪化し、性能が発現しない場合がある。なお、上記導電性組成物が溶剤系の導電性組成物である場合には、上記溶剤の含有量に制限はない。
【0053】
6−2.水
水系の導電性組成物に用いる水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水及びイオン交換蒸留水等が挙げられる。また、上記水には、導電性ポリマーの水分散体及び他成分に含有される水分も含まれる。
上記水の含有量は、導電性組成物全体に対して、1重量%以上であることが好ましい。
【0054】
上記導電性組成物が水系の導電性用組成物である場合、導電性組成物のpHは1〜14の範囲であることが好ましく、低温での硬化性を考慮すると、より好ましくは1〜7であり、1.5〜3であることが特に好ましい。導電性組成物のpHは、塩基等のpH調整剤により調整すればよい。
上記pH調整剤としては、例えば、アンモニア、エタノールアミン、イソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられる。
ここで、pH調整剤の添加量は、塩基は酸と塩を形成し、メラミン樹脂誘導体の硬化促進効果を低下させることがあり、一方、導電性組成物のpHが高くなるほど、低温での硬化性は低下するが、メラミン樹脂誘導体の溶液中での自己架橋は抑制されるため、溶液の安定性やポットライフが良くなる場合があることを考慮して、適宜決定すればよい。なお、上記pH調整剤は、上記導電性組成物における任意成分である。
【0055】
また、ここまで説明したような(a)〜(f)成分を含有する導電性組成物は、フルエーテル型のメラミン樹脂誘導体(b)を導電性ポリマーの固形分100重量部に対して150〜750重量部含有し、スルホン酸硬化触媒(c)として芳香族スルホン酸をメラミン樹脂誘導体100重量部に対して8〜40重量部含有し、両末端ポリエーテル変性シリコーン(d)をメラミン樹脂誘導体100重量部に対して10〜60重量部含有し、導電性向上剤(e)としてアミド基、ヒドロキシル基、スルホ基のうち1つ以上を有する化合物を含有する場合には、導電性組成物のポットライフが著しく向上する点で特に好ましい。
【0056】
ここまで説明した(a)〜(f)成分は、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物における必須成分である。
そして、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物は、必要に応じて、水溶性酸化防止剤(g)、濡れ性向上剤(h)、消泡剤(i)等を含有していてもよい。
【0057】
7.水溶性酸化防止剤(g)
上記導電性組成物は、水溶性酸化防止剤(g)を含有していてもよい。上記水溶性酸化防止剤(g)は、導電性被膜を形成した際に、その被膜中の導電性ポリマーに対して、均一に存在し、空気暴露による抵抗上昇を効果的に抑制する機能を果たす。
なお、脂溶性酸化防止剤は、被膜中に均一に存在し得ず、空気暴露による抵抗上昇を効果的に抑制することができない。
【0058】
上記水溶性酸化防止剤としては、還元性又は非還元性の水溶性酸化防止剤が挙げられる。
上記還元性を有する水溶性酸化防止剤としては、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸カリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム等の2個の水酸基で置換されたラクトン環を有する化合物;マルトース、ラクトース、セロビオース、キシロース、アラビノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類又は二糖類;カテキン、ルチン、ミリセチン、クエルセチン、ケンフェロール等のフラボノイド;クルクミン、ロズマリン酸、クロロゲン酸、ヒドロキノン、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸等のフェノール性水酸基を2個以上有する化合物;システイン、グルタチオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等のチオール基を有する化合物等が挙げられる。
上記非還元性の水溶性酸化防止剤としては、例えば、フェニルイミダゾールスルホン酸、フェニルトリアゾールスルホン酸、2−ヒドロキシピリミジン、サリチル酸フェニル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸ナトリウム等の酸化劣化の原因となる紫外線を吸収する化合物が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
これらの水溶性酸化防止剤の中では、アスコルビン酸及びエリソルビン酸が望ましく、アスコルビン酸がより望ましい。
空気暴露による抵抗上昇を抑制する効果、及び、形成した導電性被膜が透明性に優れるとの効果を顕著に奏するからである。
上記水溶性酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、その上限はメラミン樹脂誘導体100重量部に対して60重量部が好ましく、40重量部がより好ましい。一方、その下限は9重量部が好ましく、20重量部がより好ましい。
上記含有量が60重量部を超えると、形成した導電性被膜の耐溶剤性が低下する場合があり、逆に9重量部よりも少ないと、空気暴露によるSR上昇率が高くなることがある。
【0060】
8.濡れ性向上剤(h)
上記導電性組成物は、濡れ性向上剤(h)を含有していてもよい。上記濡れ性向上剤(h)は、導電性組成物の基材への濡れ性を向上させ、形成される導電性被膜の均一性を向上させることを可能にする。
上記濡れ性向上剤としては、例えば、アクリル系の共重合物やポリオキシエチレン脂肪酸エステル系の化合物等が挙げられる。
これらのなかでは、アクリル系の共重合物が好ましい。導電性被膜の透明性、耐スクラッチ性、耐溶剤性に優れるからである。
上記濡れ性向上剤の固形分としての含有量は特に制限されないが、その上限はメラミン樹脂誘導体100重量部に対して70重量部であることが好ましく、40重量部であることがより好ましい。一方、その下限は、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して4重量部であること好ましい。
上記含有量が、70重量部を超えると、メラミン樹脂誘導体の架橋密度が低下し、耐溶剤性が悪化する場合があり、4重量部未満では、成膜性が向上せず、被膜が不均一になる場合がある。
【0061】
9.消泡剤(i)
上記導電性組成物は、消泡剤(i)を含有していてもよい。上記消泡剤(i)を配合することにより、効果的に消泡し、導電性組成物の泡立ちを抑制することができる。
上記消泡剤としては、例えば、ポリアセチレングリコール等のグリコール系化合物、有機変性ポリシロキサン等のシロキサン系化合物、ポリジメチルシロキサンを乳化剤によって水に分散した乳化物等が挙げられる。
これらのなかでは、消泡性に優れる点から、ポリジメチルシロキサンの乳化物が好ましい。
上記消泡剤の含有量は特に制限されないが、両末端ポリエーテル変性シリコーン100重量部に対して、1〜30重量部であることが好ましい。30重量部を超えると、メラミン樹脂誘導体の架橋密度が低下し、耐溶剤性が悪化する場合があり、1重量部未満では、消泡性が向上せず、泡が長時間残る場合がある。
【0062】
本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物は、上述した成分以外に、必要に応じて、その他の成分を含有していてもよい。
10.その他成分
10−1.バインダー樹脂
上記導電性組成物には、形成した導電性被膜の成膜性や印字性を向上させる目的で、樹脂バインダーを含有させても良い。
本発明の導電性組成物においては、メラミン樹脂誘導体の自己架橋膜がバインダー機能を有しているが、バインダー樹脂を添加することにより、成膜性、被膜の可撓性および密着性、さらには印字性と印字密着性がより向上する場合がある。
上記バインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール等の単独重合体;スチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、およびアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される化合物を共重合成分とする共重合体等が挙げられる。
上記バインダー樹脂の含有量は特に限定されないが、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して、200重量部以下であることが好ましく、40重量部以下であることがより好ましい。上記バインダー樹脂の量が200重量部を超えると、メラミン樹脂誘導体の架橋密度が低下し、形成した導電性被膜の耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0063】
本発明の導電性組成物における、メラミン樹脂誘導体の熱硬化は、メラミン樹脂誘導体の自己架橋反応であることが好ましい。形成した導電性被膜が、耐スクラッチ性や耐溶剤性に優れることとなるからである。メラミン樹脂誘導体の自己架橋に形成された被膜が耐スクラッチ性や耐溶剤性に優れる理由としては、その架橋密度が高いことが考えられる。
一方、メラミン樹脂誘導体は、バインダー樹脂に含まれるカルボニル基やヒドロキシル基などの官能基と反応しうるため、バインダー樹脂の架橋剤としても機能するが、メラミン樹脂誘導体がバインダー樹脂の架橋剤として機能して形成された被膜は、耐スクラッチ性や耐溶剤性が、メラミン樹脂誘導体の自己架橋被膜と比べて低い傾向にある。
【0064】
10−2.界面活性剤
上記導電性組成物には、レベリング性を向上させる目的で界面活性剤を含有させてもよい。
上記界面活性剤としては、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体等のポリエーテル系化合物;ヤシ油脂肪酸アミン塩、ガムロジン等のカルボン酸;ヒマシ油硫酸エステル類、リン酸エステル、アルキルエーテル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、コハク酸エステル等のエステル系化合物;アルキルアリールスルホン酸アミン塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等のスルホン酸塩化合物;ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸塩化合物;ヤシ油脂肪酸エタノールアマイド等のアミド化合物;アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、シリコン変性アクリル化合物等が挙げられる。
上記界面活性剤の含有量は特に限定されないが、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して、100重量部以下であることが好ましい。100重量部を超えると、メラミン樹脂誘導体の架橋密度が低下し、形成した導電性被膜の耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0065】
10−3.シランカップリング剤
上記導電性組成物には、導電性被膜の耐溶剤性、印字性、印字密着性を向上させる目的で、シランカップリング剤を含有させてよい。
上記シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリメトキシシラン等が挙げられる。
上記シランカップリング剤の含有量は特に限定されないが、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して、100重量部以下であることが好ましい。100重量部よりも多くなると、メラミン樹脂誘導体の架橋密度が低下し、形成した導電性被膜の耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0066】
10−4.増粘剤
上記導電性組成物には、上記導電性組成物の粘度を向上させる目的で増粘剤を含有させてもよい。
上記増粘剤としては、例えば、アルギン酸の塩、および誘導体、キサンタンガム誘導体、カラギーナンやセルロースなどの糖類化合物などの水溶性高分子等が挙げられる。
上記増粘剤の含有量は特に限定されないが、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。100重量部よりも多くなると、メラミン樹脂誘導体の架橋密度が低下し、形成した導電性被膜の耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0067】
10−5.微粒子材料
上記導電性組成物には、導電性被膜の滑り性や印字性、印字密着性を向上させる目的で、コロイダルシリカや中空シリカ、フッ素樹脂微粒子、チタンなどの金属微粒子等の微粒子材料を含有させてもよい。
上記微粒子材料の含有量は特に限定されないが、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。100重量部よりも多くなると、メラミン樹脂誘導体の架橋密度が低下し、形成した導電性被膜の耐溶剤性が悪化する場合がある。
【0068】
10−6.有機カルボン酸化合物
上記導電性組成物には、導電性被膜の印字性、印字密着性を向上させる目的で、カルボキシル基を有する有機カルボン酸を含有させてもよい。
有機カルボン酸には、脂肪族と芳香族の1価、多価カルボン酸があり、分子内にヒドロキシル基やビニル基などの官能基を含んでいてもよい。上記脂肪族カルボン酸としては、例えば、酢酸、酪酸、ヘキサンカルボン酸、オクタンカルボン酸、アセト酢酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。また、上記芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、サリチル酸、没食子酸、ケイ皮酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0069】
次に、本発明の光学フィルムについて説明する。
本発明の光学フィルムは、基材と、上記基材上に積層された導電性被膜とからなる光学フィルムであって、
上記導電性被膜は、本発明の熱硬化型導電性コーティング組成物を用いて形成された被膜であることを特徴とする。
【0070】
上記光学フィルムは、基材と、上記基材上に積層された導電性被膜とからなる。
上記基材としては、例えば、樹脂基材、ガラス基材等が挙げられる。
上記樹脂基材の材料樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー共重合体、シクロオレフィン系樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオキシエチレン、変性ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィド等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン9、半芳香族ポリアミド6T6、半芳香族ポリアミド6T66、半芳香族ポリアミド9T等のポリアミド樹脂;アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル樹脂、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
また、上記基材は透明である(高い透過率を有する)ことが望ましい。
また、これらのなかで、プロテクトフィルムとして用いる光学フィルムの場合には、加工性および機能性の観点から、ポリエチレンテレフタレートやトリアセチルセルロースが好適に用いられる。
【0071】
上記基材の形状は特に限定されず、光学フィルムの形状に合せて適宜選択すればよく、フィルム状、板状、その他所望の形状が挙げられる。従って、上記基材としてはフィルム、シート、板、成形物等、種々のものを使用することができる。
また、上記基材の表面は、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理が施されていても良い。これらの処理を施すことにより、導電性組成物の塗布性を向上させることができる。
【0072】
上記導電性被膜は、本発明の導電性組成物を用いて形成された被膜であり、上記導電性組成物を基材に塗布し、乾燥・熱硬化させることにより形成する。
上記導電性組成物を上記基材に塗布する方法は特に限定されず、当該分野で汎用の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スピンコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング等の塗布方法が挙げられる。
また、スクリーン印刷、スプレー印刷、インクジェット印刷、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷などの印刷法を採用して、上記導電性組成物を塗布してもよい。
また、上記導電性組成物を塗布する際には、上記導電性組成物を予めアルコール等で希釈した塗布液を調製し、この塗布液を塗布してもよい。
【0073】
上記導電性被膜の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
塗工コストの観点からは、加熱乾燥後の計算膜厚が45nm以下であることが好ましく、10〜20nmであることがより好ましい。
なお、上記計算膜厚は、塗布液の比重と乾燥後の被膜の比重が1に近似できるとすると、以下の計算式から算出できる。
「膜厚=塗布液の濃度(%)÷100×ワイヤーバーの理論塗布量(μm)」
通常、ワイヤーバーの塗布量は理論値よりも少ないため、実際の膜厚は、計算値よりも薄くなる。
【0074】
上記導電性被膜は、導電性ポリマーを含有するため導電性を有しているが、その表面抵抗率は、10〜1011Ω/□であることが好ましい。この範囲の表面抵抗率を有すると、帯電防止層としての要求特性を充分に満足するからである。
【0075】
上記導電性被膜は、基材に塗布した導電性組成物を加熱し、溶媒又は分散媒を蒸発させると同時に熱硬化させる(乾燥・熱硬化)ことにより形成する。
ここで、加熱条件は、130℃以下(80〜130℃)の温度で1分程度(30〜90秒)加熱する条件であることが好ましい。本発明の導電性組成物では、上記条件で充分に導電性被膜を形成することができるとともに、上記条件は、本件技術分野においては、低温短時間な条件であるため、生産性にも優れるからである。
なお、この条件で硬化が不十分な場合は、ロールコーティング後にロールフィルムの状態で、25℃〜60℃の乾燥機又は保管庫で、1時間〜数週間ポストキュアしてもよい。
【0076】
溶媒又は分散媒を蒸発させるための乾燥、及び熱硬化には、通常の通風乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機などの乾燥機などが用いられる。乾燥および加熱を同時に行うためには、加熱手段を有する乾燥機(熱風乾燥機、赤外線乾燥機など)を用いる必要がある。また、加熱手段としては、上記乾燥機の他、加熱機能を具備する加熱・加圧ロール、プレス機などが用いてもよい。
【0077】
本発明の導電性組成物は、上述のように、導電性ポリマー、メラミン樹脂誘導体、スルホン酸硬化触媒、両末端ポリエーテル変性シリコーン、導電性向上剤、及び、溶媒又は分散媒を必須成分として、さらに、必要に応じて、水溶性酸化防止剤、濡れ性向上剤、消泡剤、バインダー樹脂、界面活性剤、シランカップリング剤、増粘剤、微粒子材料等を含有する。
このような構成からなる組成物は、通常、メラミン樹脂誘導体の溶液中での自己架橋を防ぐため、メラミン樹脂誘導体と酸性成分とを分離した状態で供給する(ここで、酸性を示す成分としては、導電性ポリマーやスルホン酸硬化触媒等が挙げられる)。
そして、上記の各成分を使用前に所定の割合で混合して、すべての成分が混合された状態で使用する。なお、塩基等で酸性成分を中和した場合には、すべての成分を混合した状態で供給しても、保存安定性は維持されうる。
通常、上記導電性組成物を調製するための塗液は、組成物のポットライフならびに保存安定性を考慮して、メラミン樹脂誘導体と酸成分を分離した2〜3液の状態で供給される。これらの塗液の成分は、コストの観点から、十分に濃縮されていてもよい。
【0078】
上記導電性組成物(塗布液)の調製方法に特に制限はないが、各成分をメカニカルスターラーやマグネティックスターラーなどの撹拌機で撹拌しながら混合して調製する。ここで、上記攪拌は約1〜60分間続けることが好ましい。
なお、攪拌時には、導電性ポリマーやスルホン酸硬化触媒、さらにはメラミン樹脂誘導体が高濃度で混合されるのを避けるため、アルコール等の希釈剤を、先に添加することが望ましい。
特に、水溶性の導電性ポリマーを含む溶液をアルコールなどの有機溶剤を含む溶液と高濃度で混ぜると、分散安定性が低下して凝集し、ポットライフが低下する場合がある。
また、メラミン樹脂誘導体と酸成分を直接混合した場合、メラミンの自己架橋が溶液中で進行し易いため、導電性組成物のポットライフが短くなる場合がある。
また、導電性組成物のポットライフは、組成物の温度にも依存するため、液温を30℃より低く保って調製することが好ましい。より好ましい液温は−5℃〜10℃である。
【0079】
上記導電性組成物は、25℃前後の常温において安定であるが、酸成分を含有する場合、メラミン樹脂誘導体の自己架橋が液中で進行し、ポットライフが悪化することがある。
ポットライフは塗布液の温度に依存するため、温度を−20℃〜20℃に維持したまま塗布することにより、ポットライフを向上させることができる。特に好ましくは−5℃〜10℃の温度を維持したまま基材に塗布するのがよい。
温度を低く保つほどポットライフは向上するが、水系の導電性組成物の場合、−20℃より低い温度では組成物が氷結する可能性がある。上記導電性組成物は調製時から温度を30℃より低く保って調製することが好ましく、−5℃〜10℃の温度が維持されることがより好ましい。
【0080】
このような構成からなる光学フィルムは、液晶ディスプレイ、偏光板、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池などに用いる、帯電防止層を備えた光学フィルムとして好適である。
また、上記光学フィルムは、プロテクトフィルムとして特に好適であり、本発明の光学フィルムからなるプロテクトフィルムもまた本発明の1つである。
なお、プロテクトフィルムの場合、その基材は、加工性及び硬さや透明性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートが好適である。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0082】
(実施例1〜27、及び、比較例1〜9)
表1に示した各成分(使用原料)を、溶媒又は分散媒に撹拌しながら1成分ずつ添加した。添加した成分が溶解又は均一に分散したことを確認してから、次の成分を添加していき、すべての成分を添加した後に、さらに5分ほど撹拌して溶液又は分散液の状態の熱硬化型導電性コーティング用組成物を調製した。その後、本組成物を80%エタノールで6倍に希釈(1:5、重量比)して塗布液を調製した。
この塗布液を調製後すぐに、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製のルミラーT−60(商品名))からなる基材上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、熱風乾燥機にて130℃で1分間乾燥・熱硬化させ、導電性被膜を形成した。
また、ポットライフの評価として、熱硬化型導電性コーティング用組成物を調製してから24時間経過時にも、同様にして導電性被膜を作製した。
【0083】
(実施例28)
表2に示した各成分(使用原料)を、実施例1〜27と同様に、1成分ずつ撹拌しながら添加し、熱硬化型導電性コーティング用組成物を調製した。その後、本組成物を80%エタノールで4倍に希釈(1:3、重量比)して塗布液を調製した。
この塗布液を調製後すぐに、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製のルミラーT−60(商品名))からなる基材上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、熱風乾燥機にて130℃で1分間乾燥・熱硬化させ、導電性被膜を形成した。
また、ポットライフの評価として、熱硬化型導電性コーティング用組成物を調製してから24時間経過時にも、同様にして導電性被膜を作製した。
さらに、作成した導電性被膜を切り出し、TEM観察を行った。結果を図1に示した。
図1は、実施例28で作製した導電性被膜のTEM観察画像である。
【0084】
I.使用原料
I.1 導電性ポリマー(a)
導電性材料を含む水分散液として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体からなる導電性ポリマーの水分散液である、H.C.スタルク社製のClevios P(商品名)(1.3重量%ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量=150000)の複合体分散水溶液、水98.7重量%)、を用いた。
【0085】
I.2 メラミン樹脂誘導体(b)
メラミン樹脂誘導体として、日本カーバイド工業社製のニカラックMW−390(フルエーテル型、式(II)中のRがメチル基、重合度:1.00)、ニカラックMS−11(メチロール型、60重量%品、式(II)中のRが水素原子、重合度:1.80)および日本サイテックインダストリーズ社製のサイメル300(フルエーテル型、式(II)中のRがメチル基、重合度:1.35)、サイメル301(フルエーテル型、式(II)中のRがメチル基、重合度:1.40)を使用した。(上記の名称は全て商品名)。
【0086】
I.3 スルホン酸硬化触媒(c)
スルホン酸硬化触媒として、テイカ社製のテイカトックスT−500(商品名)(分子量187.2;化合物名、クメンスルホン酸;以下、QS)、花王社製のネオペレックスGS(商品名)(分子量326.8;化合物名、ドデシルベンゼンスルホン酸;以下、DBS)を使用した。また、比較例の一部では、酸触媒として和光純薬工業社製の硝酸(分子量63.01;60重量%品)を2重量%に希釈したものも使用した。
【0087】
I.4 ポリエーテル変性シリコーン(d)
両末端ポリエーテル変性シリコーンとして、東レ・ダウコーニング社製の8029additive(商品名)、共栄社化学工業社製のポリフローKL−402(商品名)、又は、BYK社製のBYK−378(商品名)を使用した。
比較例の一部では、側鎖ポリエーテル変性シリコーンとして、信越化学工業社製のKF−355A(商品名)、BYK社製のBYK−348(商品名)とBYK−307(商品名)、又は、モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製のYF−3842(商品名)も使用した。
【0088】
I.5 水溶性酸化防止剤(g)
水溶性酸化防止剤として、和光純薬工業社製のアスコルビン酸、又は、エリソルビン酸を使用した。
有機溶剤可溶型の酸化防止剤として、理研ビタミン社製のドライミックスFS−20(商品名)(主成分;ビタミンE)も使用した。
【0089】
I.6 導電性向上剤(e)
導電性向上剤として、和光純薬工業社製のN−メチルピロリドン(以下、NMP)、ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)、又は、エチレングリコール(以下、EG)、N−メチルホルムアミド(以下、NMF)を使用した。
【0090】
I.7 有機溶剤(f)
有機溶剤として、和光純薬工業社製の1級エタノールを使用した。
【0091】
I.8 水(f)
水の大半は、導電性ポリマーの水分散体、Clevios Pに含まれる水であるが、新たに加える水はイオン交換処理をした純水を用いた。
表1、2に記載の水は、新たに添加した水である。
【0092】
I.9 濡れ性向上剤(h)
濡れ性向上剤として、BYK社製のBYK−380N(商品名)(化合物名:アクリル系共重合体)を使用した。
【0093】
I.10 消泡剤(i)
消泡剤として、東レ・ダウコーニング社製のアンチフォーム013A(商品名)(化合物名:ポリジメチルシロキサンの乳化物、以下、013A)を使用した。
【0094】
I.11 その他の添加剤
その他の添加剤として、シランカップリング剤であるモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のSIRQUEST A−189(商品名)(化合物名:3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン)、微粒子材料である日産化学社製のスノーテックスOXS(商品名)(化合物名:コロイダルシリカの水分散体)、有機カルボン酸である三菱ガス化社製のトリメリット酸(商品名)を使用した。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
II.評価
実施例1〜28、及び、比較例1〜9で調製した塗布液の液外観、それを用いて得た導電性被膜の被膜外観、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性、印字密着性については、下記の3段階で評価した。また、SR、Tt、Hazeは、その値を測定した。基材への密着性はJIS K 5400に沿って評価した。ポットライフは、液調製時から24時間経過時の塗布液およびその塗布液を用いて形成した被膜を評価した。塗布液のポットライフは、塗布液の外観、被膜の外観、密着性、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性、印字密着性に関しては、初期値と同様に評価した。一方で、被膜のSR、Tt、Hazeは、測定値の初期値からの変動を、下記の3段階で評価した。なお、初期評価で1つでも「×」評価があった実施例及び比較例についてはポットライフを評価しなかった。
評価結果は、下記表3及び4に示した。
【0098】
II.1 導電性コーティング用組成物の外観
組成物調製後の液外観を目視にて3段階で評価した。ポットライフも同様に評価した。
◎:沈殿物の発生なし
○:少量の沈殿物が発生
×:ゲル化
【0099】
II.2 被膜外観
塗布後の導電性被膜の外観(均一性)を目視にて次の3段階で評価した。ポットライフも同様に評価した。
◎:被膜が均一に塗工されており、塗工ムラが見えない
○:塗工ムラが若干ある
×:ハジキによって被膜が形成されない
【0100】
II.3 表面抵抗率/SR(Ω/□)
表面抵抗率は、JIS K 7194に従い、三菱化学社製ハイレスタUP(MCP−HT450型、商品名)のUAプローブを用いて100Vの印加電圧にて測定し、測定値で評価した。ポットライフは初期値に対する上昇倍率を以下の3段階で評価した。
◎:10倍以下
○:10倍を超えて100倍未満
×:100倍以上
【0101】
II.4 全光線透過率(Tt:%)
全光線透過率は、JIS K 7150に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定し、測定値で評価した。ポットライフは初期値に対する変化量を以下の3段階で評価した。
◎:―0.5より大きく、+0.5未満
○:−1.0〜−0.5、又は、+0.5〜+1.0
×:−1.0未満、又は、+1.0より大
【0102】
II.5 Haze(%)
Hazeは、JIS K 7150に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定し、測定値で評価した。ポットライフは初期値に対する変化量を以下の3段階で評価した。
◎:−0.5より大きく、+0.5未満
○:−1.0〜−0.5、又は、+0.5〜+1.0
×:−1.0未満、又は、+1.0より大
【0103】
II.6 基材への密着性
導電性被膜の基材への密着性は、JIS K 5400の碁盤目剥離試験に従って評価し、規定の点数にて評価した。ポットライフは、以下の3段階で評価した。
◎:初期値から変動なし
○:初期値から2点未満の範囲で低下
×:初期値から2点以上の範囲で低下
【0104】
II.7 耐スクラッチ性試験
基材上に形成した導電性被膜について、爪にて、10cmの長さを約200gの加重で擦り、傷の入りと、粉の発生を以下の3段階で評価した。ポットライフについても、同様に評価した。
◎:傷が入らない
○:薄く擦った跡は見えるが粉の発生なし
×:傷が入り、粉が発生する
【0105】
II.8 耐溶剤性試験
基材上に形成した導電性被膜について、エタノール拭き試験、酢酸エチル(以下、酢エチ)拭き試験、メチルエチルケトン(以下、MEK)拭き試験、ヘキサン拭き試験を行った。具体的には、各溶剤を染み込ませたベンコットにて、10cmの長さを約200gの加重で15回擦り、試験後の被膜外観を以下の3段階で評価した。ポットライフについても、同様に評価した。
◎:被膜に変化なし
○:わずかに擦った跡が見える
×:被膜が剥がれる
【0106】
II.9 印字性試験
印字性試験は、三菱鉛筆社製の油性マジック(ピース、細字)を用いて、導電性被膜の表面に印字した際のハジキ具合を、以下の3段階で評価した。
◎:印字のハジキが全くない
○:印字がわずかにはじいて不均一
×:ハジキが大きく、印字ができない
【0107】
II.10 印字密着性試験
印字密着性試験は、三菱鉛筆社製の油性マジック(ピース、細字)を導電性被膜の表面に印字し、1分後にキムワイプを用いて約500gの加重で擦った際の印字の状態を目視にて、以下の3段階で評価した。
◎:印字の剥がれなし
○:印字に擦れた跡が残る
×:印字が完全に剥がれる
【0108】
II.11 耐空気暴露試験
空気暴露試験は、導電性被膜を壁に貼り付け、1週間後のSRを以下の3段階で評価した。ポットライフについても同様に評価した。
◎:1×1010Ω/□より低い
○:1×1010Ω/□以上、1×1011Ω/□より低い
×:1×1011Ω/□以上
【0109】
II.12 消泡試験
消泡試験は、塗布液を5回振盪し、発生した大きな泡がすべて消失するまでの時間を、以下の3段階で評価した。ポットライフも同様に評価した。
◎:20秒以内に消泡
○:20分以内に消泡
×:1時間以上たっても消泡しない
【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
比較例1〜4と実施例1〜3から、メラミン樹脂誘導体、スルホン酸硬化触媒、両末端ポリエーテル変性シリコーン、導電性向上剤のうち一つでも欠けると、被膜外観、導電性、全光線透過率、Haze、基材への密着性、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性、印字密着性のすべて同時に満足できないことが明らかとなった。導電性ポリマーと導電性向上剤がないとSRが発現せず、メラミン樹脂誘導体とスルホン酸硬化触媒がないと被膜が硬化しない。両末端ポリエーテル変性シリコーンは、耐スクラッチ性と印字性、印字密着性とを両立するために必須の成分である。
【0113】
実施例1及び4〜6から、メラミン樹脂誘導体がフルエーテル型の方が塗布液の安定性が優れており、24時間後の塗膜の物性も低下しないことが明らかとなった。
実施例1及び7〜10から、メラミン樹脂誘導体の含有量が多くなるとポットライフが悪化する傾向にあり、導電性ポリマー固形分100重量部に対し、150重量部より少なくなると、初期から耐溶剤性が低いことが明らかとなった。
【0114】
比較例5および実施例8から、硬化触媒はスルホン酸であることが好ましいことが明らかとなり、更に、実施例11から、QSは塗布液のポットライフが若干悪く、24時間後には特性が低下している部分があるため、硬化触媒としてはDBSが特に好適であることが明らかとなった。
さらには、実施例1及び12〜15から、その含有量がメラミン樹脂誘導体100重量部に対して40重量部以下であることが、ポットライフの維持において好ましいことが明らかとなった。
【0115】
実施例1及び16〜18から、両末端ポリエーテル変性シリコーンを用いることが、耐スクラッチ性と印字性及び印字密着性とを同時に満足するためには必須であり、比較例6〜9のように側鎖ポリエーテル変性シリコーンを用いても、耐スクラッチ性と印字性及び印字密着性とを同時に満足できないことが明らかとなった。
さらに、実施例1と比較例9とで使用しているポリエーテル変性シリコーンは、ともにポリジメチルシロキサンの分子量がほぼ同程度で、変性部位が異なる構造のものである。そして、実施例1は両末端ポリエーテル変性シリコーンであり、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性及び印字密着性を同時に満足できているのに対し、比較例9の側鎖ポリエーテル変性シリコーンでは同時に満足できなかった。この結果から、ポリエーテル変性シリコーンとして、両末端ポリエーテル変性シリコーンを用いることで、特異的に本発明の効果を奏することが明らかとなった。
また、実施例1及び19〜21から、両末端ポリエーテル変性シリコーンの含有量がメラミン樹脂誘導体100重量部に対して60重量部以下であることが、耐溶剤性において好ましいことが明らかとなった。
【0116】
実施例1及び22〜24から、導電性向上剤として、アミド基、ヒドロキシル基、スルホ基を有する化合物を用いることで、導電性被膜の導電性をより向上することが明らかとなった。
実施例1、25と実施例2を比較すると、水溶性酸化防止剤のアスコルビン酸やエリソルビン酸を添加することで、空気暴露でのSR上昇が抑えられることが明らかとなった。また、実施例26のように油溶性酸化防止剤ではこのような効果が見られなかった。
また、実施例3では若干のハジキを確認しており、その他の実施例を比較すると、濡れ性向上剤を含有している方が成膜性に優れていることが明らかであり、さらには、消泡剤を加えることで、発生した泡を効果的に消泡できることが、実施例27から明らかとなった。
また、実施例28と図1から、計算膜厚で約30nmの被膜をTEMで分析した結果、実測では約12nmであることが明らかとなった。本条件で成膜した組成物の膜厚は、計算値よりもはるかに薄いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の導電性組成物は、耐スクラッチ性、耐溶剤性、印字性及び印字密着性を同時に満足する導電性被覆を低温短時間で形成することができるため、例えば、プロテクトフィルム等の各種光学フィルム等を構成する導電性被膜(帯電防止層)等の形成に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)導電性ポリマー、
(b)メラミン樹脂誘導体、
(c)スルホン酸硬化触媒、
(d)両末端ポリエーテル変性シリコーン、
(e)導電性向上剤、及び、
(f)溶媒又は分散媒
を含有することを特徴とする熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項2】
導電性ポリマー(a)は、以下の式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、又は、一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとの複合体である請求項1に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項3】
メラミン樹脂誘導体(b)の含有量は、導電性ポリマー100重量部に対して150〜750重量部である請求項1又は2に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項4】
スルホン酸硬化触媒(c)は、芳香族スルホン酸であり、
その含有量は、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して8〜40重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項5】
両末端ポリエーテル変性シリコーン(d)の含有量は、メラミン樹脂誘導体100重量部に対して10〜60重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項6】
導電性向上剤(e)は、アミド基、スルホ基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも1つの置換基を有する化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項7】
更に、(g)水溶性酸化防止剤を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項8】
水溶性酸化防止剤(g)は、アスコルビン酸又はエリソルビン酸である請求項7に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項9】
更に、(h)濡れ性向上剤を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項10】
更に、(i)消泡剤を含有する請求項1〜9のいずれかに記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項11】
消泡剤(i)は、シリコーンエマルジョンである請求項10に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項12】
基材と、前記基材上に積層された導電性被膜とからなる光学フィルムであって、
前記導電性被膜は、請求項1〜11のいずれかに記載の熱硬化型導電性コーティング組成物を用いて形成された被膜であることを特徴とする光学フィルム。
【請求項13】
前記導電性被膜は、前記熱硬化型導電性コーティング用組成物を前記基材に塗布し、130℃以下の温度で、乾燥・熱硬化させることにより形成される請求項12に記載の光学フィルム。
【請求項14】
前記導電性被膜の計算膜厚は、45nm未満である請求項12又は13に記載の光学フィルム。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の光学フィルムからなることを特徴とするプロテクトフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−97132(P2012−97132A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243352(P2010−243352)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】