説明

熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物、熱硬化性バイオプラスチック硬化物及び熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法

【課題】従来のバイオプラスチックに特有のカーボンニュートラル等の効果と従来の硬化性プラスチックに特有の耐熱性向上等の効果とを共に満足する一方、反応系の反応速度を向上させて製造時間を短縮することで実用性を向上し、かつ、軽量化や断熱性の付与をも可能にする熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を提供する。
【解決手段】1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成された反応促進剤としてのマイクロカプセルとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物、熱硬化性バイオプラスチック硬化物及び熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法に関し、特に、強固な密着性を有すると共に耐熱性と環境性に優れ、自動車内装部品の製造、内装建材等の分野に応用することができる1液タイプの熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物、熱硬化性バイオプラスチック硬化物及び熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮やCO2濃度の増加による地球温暖化の防止等の観点から、地球生態系で循環する澱粉やセルロース等の天然高分子を利用した生分解性樹脂を主剤としたバイオプラスチックバインダーが提案されている。このうち、澱粉やセルロース等から得られるバイオプラスチックバインダーのうち、現在製品化されているものは、全て熱可塑性のものである。また、バイオプラスチックバインダー及びバイオプラスチックバインダーによる生成物としては、高分子化合物である澱粉を糖化・醗酵させて生成した乳酸を再重合して製造するポリ乳酸、澱粉やセルロースを直接アセチル化するエステル化澱粉やアセチルアセテート等が知られている。しかし、これらの熱可塑性バイオプラスチックバインダーは、石油から合成される熱可塑性プラスチックバインダーに比べて製造に大きなエネルギーを必要とし、省エネルギーによる環境配慮の点で改善する余地がある。また、これらの熱可塑性バイオプラスチックバインダーは、熱により軟化変形する等の熱可塑性樹脂特有の特徴を有し、ある程度の耐熱性や耐熱強度が要求される自動車部品等への適用においては、硬化性プラスチックと比較して改良すべき点がある。
【0003】
ここで、上記のように、現在製品化または製品開発中のバイオプラスチックバインダーは、全て熱可塑性であるが、硬化型澱粉組成物に関する提案技術としては、特許文献1及び特許文献2に記載の技術がある。
【特許文献1】特開2004−224887号公報
【特許文献2】特開2005−343939号公報
【0004】
特許文献1には、澱粉と、澱粉分子中に含まれる少なくとも1個の水酸基と相補的に反応する官能基を有するポリイソシアネート化合物等の硬化剤との混合物である硬化型澱粉組成物が開示されている。また、特許文献2には、水酸基を含有する澱粉と、ポリイソシアネート化合物及び/又は該ポリイソシアネートのイソシアネート基の一部もしくは全部がブロック化されてなるブロック化ポリイソシアネート化合物とを含有する硬化型澱粉組成物が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2は、いずれも、硬化型澱粉組成物の澱粉として、公知の澱粉や特定の置換基を有する化学的変性澱粉を使用する旨記載しているが、澱粉分子の立体構造(二重螺旋構造等)や水素結合に起因する硬化剤との反応性低下等についての考察はない。即ち、これら特許文献1及び特許文献2は、いずれも、澱粉分子特有の立体構造等に起因する硬化剤乃至架橋剤との反応性低下を克服するための手段について、なんら知見及び示唆を与えるものではない。更に、特許文献1及び特許文献2は、いずれも、同じく地球生態系を循環する豊富な天然資源であるセルロースを主剤とした硬化性バイオプラスチックバインダーについては、全く開示も示唆もしていない。
【0006】
ここで、上記のような硬化型澱粉組成物を1液型とするには、硬化剤としてブロック化ポリイソシアネートを使用する必要があるが、澱粉との反応にブロック化ポリイソシアネートを使用する場合、実際には、加熱によりブロック化ポリイソシアネートから外れたブロック剤(メチルエチルケトンオキシム等)が反応系に大量に含有されることになるため、当該ブロック剤が反応を阻害し、反応系の反応速度が非常に遅く、或いは、ほとんど反応が起こらない。したがって、従来の硬化型澱粉組成物では、硬化性バイオプラスチックの製造に多大な時間を必要とし、実用性の点で大きく改善する余地があった。また、ブロック剤は基本的にVOC(揮発性有機化合物)であるため、この点でもブロック化ポリイソシアネートを使用せずに1液型の硬化性バイオプラスチック組成物を提供できればより好ましい。
【0007】
また、ここで、耐熱性や耐熱強度の点で熱可塑性プラスチックよりも好ましいとされる硬化性プラスチックについても、自動車内装部品の製造や建築物の内装建材等に適用する場合、軽量化が求められ、或いは、上記のように、環境負荷を低減するためにカーボンニュートラルであること(二酸化炭素(CO2)の増減に影響を与えない性質)が求められる。更に、自動車内装部品の製造や建築物の内装建材等についても、用途によっては断熱効果が求められる場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、従来のバイオプラスチックに特有のカーボンニュートラル等の効果と従来の硬化性プラスチックに特有の耐熱性向上等の効果とを共に満足する一方、反応系の反応速度を向上させて製造時間を短縮することで実用性を向上し、かつ、軽量化や断熱性の付与をも可能にする熱硬化性バイオプラスチック熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物及びその硬化物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成された(反応促進剤としての)マイクロカプセルとからなる。ここで、前記糖類は、水酸基の活性化を行っていない不活性または低活性の単糖類(グルコース等)、二糖類(スクロース、マルトース等)、少糖類(各種オリゴ糖)、多糖類(澱粉、セルロース等)のうちの少なくとも一つ(これらのうちのいずれか、または、これらの任意の組み合わせ)からなり、これらを混合して調製することができる。なお、水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類とは、化学変性や物理変性等により活性化することなく、常温ではポリイソシアネートと反応しない程度の活性(例えば、天然澱粉のままの活性)を有するに止まる糖類のことをいう。不活性又は低活性の糖類のうち、多糖類としては、例えば、一般的な粉体状、粉末状乃至粒子状の未変性の澱粉やセルロース等の多糖類を好適に使用することができる。この場合、多糖類である澱粉やセルロース等は、特定の物理変性や化学変性を施さない限り、二重らせん構造等による立体障害や分子間・分子内水素結合等により水酸基の活性が失われ、不活性または低活性となっており、そのままではポリイソシアネートと反応しにくい(反応しても長期間を要する)。よって、これら澱粉やセルロースは、通常はポリイソシアネートと硬化反応しにくい(反応しても長期間を要する)ため、ポリイソシアネートとの混合状態で保存・保管することができ、必要時にのみ、マイクロカプセルへの加熱制御により硬化反応を開始・促進して硬化物を得ることができる。また、不活性または低活性の糖類のうち、単糖類、二糖類または少糖類としては、例えば、一般的な結晶粉末状乃至結晶粒子状の単糖類、二糖類、少糖類を使用することができる。この場合、グルコース(ブドウ糖)等の単糖類、マルトースやスクロース等の二糖類及びシクロデキストリン等の少糖類(オリゴ糖)は、一般的な結晶化粉末の態様(結晶粉末状)では、水酸基の殆どが結晶内部に存在して反応に寄与することがないため、不活性または低活性となっており、そのままではポリイソシアネートと反応しにくい(反応しても長期間を要する)。よって、これら単糖類、二糖類、少糖類は、通常はポリイソシアネートと硬化反応しにくい(反応しても長期間を要する)ため、ポリイソシアネートとの混合状態で保存・保管することができ、必要時にのみ、マイクロカプセルへの加熱制御により硬化反応を開始・促進して硬化物を得ることができる。即ち、本発明では、上記のような結晶性粉末状の単糖類、二糖類または少糖類、未変性の澱粉やセルロース(天然澱粉や天然セルロース等)等の多糖類を、上記不活性又は低活性の糖類として好適に使用することができる。また、ポリイソシアネートとしては各種のものを使用することができるが、特に、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を好適に使用することができる。
【0010】
前記マイクロカプセルの芯剤としては、ポリウレタン用触媒として使用されるアミン系触媒や有機金属系触媒を好適に使用することができる。また、マイクロカプセルの壁剤としては、例えば、約80℃〜約160℃の範囲内の温度で熱溶解乃至熱溶融する熱可塑性樹脂を使用することができる。この場合、本バインダ組成物を加熱して硬化物を製造する際に、硬化物自体が熱により燃焼、破壊または損傷開始する温度(使用する糖類やポリイソシアネートの種類に依存するが、通常、約200℃以上の温度)より十分に低い温度でバインダ組成物を加熱して、マイクロカプセルの壁剤が熱溶解して内部の芯剤を放出し、芯剤である反応促進剤(硬化促進剤)としての触媒により、糖類とポリイソシアネートとの硬化反応を開始・促進することができると共に、触媒放出後(硬化反応開始後)に前記温度未満の所定温度(例えば、約180℃)まで加熱昇温して、良好な品質の硬化物を迅速に製造することができる。なお、かかる熱溶解性ポリマーの種類は、マイクロカプセルの製造方法にも依存するが、例えば、水中重合法(界面重合法)、界面沈殿法、水中乾燥法、In situ重合法等を使用する場合、前記熱溶解性ポリマーとしては、ポリスチレン樹脂やメタクリル樹脂等を好適に使用することができる。また、マイクロカプセルの壁剤が所期の温度で熱溶解するよう、ポリスチレン樹脂等の熱溶解性ポリマーに温度調整用の添加剤を添加して熱溶解性ポリマーを調製することが好ましい。この場合の壁剤の熱溶解温度としては、好ましくは、約100℃〜約140℃の範囲内の温度、特に好ましくは、約120℃付近の温度とする。こうすると、本バインダ組成物を加熱して硬化物を製造する際に、硬化物自体が熱損傷等を開始する温度より更に十分に低い温度でバインダ組成物を加熱して、マイクロカプセルの壁剤を熱溶解して内部の芯剤を放出し、糖類とポリイソシアネートとの硬化反応を開始・促進することができると共に、硬化反応開始後に前記温度未満の所定温度(例えば、約180℃)に至るまで更に広い温度範囲で加熱昇温して、良好な品質の硬化物を一層迅速に製造することができる。なお、壁剤の熱溶解性ポリマーとしては、マイクロカプセルの製造方法にも依存するが、上記熱可塑性樹脂以外に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等、熱溶解性を有する任意の高分子材料を使用することができる。このように、本発明のマイクロカプセルは、所定温度(壁剤が熱溶解して芯剤が放出される温度)に至るまでは触媒反応(硬化反応の開始・促進)を行わず、所定温度で触媒反応を開始する、熱反応性の反応促進剤乃至触媒として機能する。
【0011】
上記請求項1においては、前記糖類として、多糖類である不活性または低活性の澱粉粒または粉末状セルロースの付着水を熱処理により飛散させて水分率を約10%以下とし、更に活性を低下させたものを使用することが好ましい。更に、上記請求項1,2または3においては、前記糖類として、多糖類である不活性または低活性の澱粉粒または粉末状セルロースの付着水を熱処理により飛散させて水分率を約1%以下とし、活性を最低限まで低下させたものを使用することが一層好ましい。即ち、澱粉粒または粉末状セルロースの水分率が高いと、これらが水分を介してポリイソシアネートとの間で硬化反応を生じるため、澱粉粒または粉末状セルロースの付着水を熱処理により予め飛散させたものを使用することが好ましい。このように付着水を飛散させた澱粉粒や粉末状セルロースは、通常はポリイソシアネートと殆ど硬化反応しない(反応しても非常に長期間を要する)ため、ポリイソシアネートとの混合状態で安定して保存・保管することができ、必要時にのみ、マイクロカプセルへの加熱制御により硬化反応を開始・促進して硬化物を得ることができる。
【0012】
請求項2に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とし、熱溶解性ポリマーを壁剤として生成された反応促進剤としてのマイクロカプセルと、前記熱溶解性ポリマーの融点よりも高い温度で発泡を開始する熱反応性発泡剤とからなる。なお、前記糖類、ポリイソシアネート及びマイクロカプセルとしては、請求項1のものと同様のものを好適に使用することができる。また、熱反応性発泡剤としては、各種無機発泡剤及び有機発泡剤を使用することができ、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、ジニトロペンタメチレンテトラミン、P,P'−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルアセトンヒドラゾン等を好適に使用することができる。
【0013】
更に、請求項2に係る発明において、熱反応性発泡剤としては、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後または近辺の温度で分解して発泡(発泡ガス成分の放出)を開始するものを使用することが好ましい。或いは、かかる熱反応性発泡剤としては、発泡温度(分解温度)が、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度を中心としてある程度の温度範囲内となるものを使用することもできる。例えば、マイクロカプセルの壁剤をポリスチレン樹脂やメタクリル樹脂で形成し、その熱溶解温度を約120℃として当該温度で芯剤を放出するよう設定した場合、熱反応性発泡剤としては、例えば、発泡温度が約100℃〜約150℃の範囲内にある炭酸水素ナトリウム(重曹)系の熱反応性発泡剤等を使用することができる。この場合、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡温度)は、壁剤の溶融温度約120℃を中心として前後(上下)に約20℃〜約30℃の幅があることになる。なお、これ以外の熱反応性発泡剤を使用する場合も、同様に、壁剤の溶融温度を中心としてある程度の温度範囲内に分解温度が存在するものを使用することができる。即ち、本発明において、熱反応性発泡剤の分解温度は、壁剤の熱溶解温度前後または近辺の温度範囲とすることができ、壁剤の熱溶解温度から上下に数十度程度の幅を有する温度範囲とすることができる。ただし、かかる温度範囲の上限は、上述した請求項1のマイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度範囲の場合と同様、熱硬化反応のための加熱時に、硬化物自体が熱損傷等を開始する温度より所定温度低い温度とする。こうすると、熱反応性発泡剤が、マイクロカプセルの芯剤が放出される前後または近辺の温度(反応段階)で発泡開始すると共に、触媒による硬化反応が進んで発泡が困難となる高粘度段階までに十分な時間的余裕をもって発泡作用を進行し、バインダ組成物が円滑な気泡形成に適した粘度範囲にあるときに、発泡を行うことができる。即ち、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡開始温度)が、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後または近辺の温度となるため、硬化反応前の粘性の低い状態で大部分が発泡したり、硬化がほぼ完了した状態で発泡したりして、最終生成物としての硬化物(発泡体)における気泡形成に支障を来たすことがない。
【0014】
請求項3に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、結晶粉末状とした不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類を少なくとも含む糖類と、前記糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とし、熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルと、前記不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類の融解温度を超える温度で発泡を開始する熱反応性発泡剤とからなる。なお、ポリイソシアネート及びマイクロカプセルとしては、請求項1のものと同様のものを好適に使用することができる。ここで、糖類としては、結晶粉末状とした(水酸基を活性化していない)不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類を少なくとも含む糖類を使用する。即ち、熱反応性発泡剤の発泡による気泡形成は液中で可能となるが、糖類が液状でない場合(粉体状乃至粉末状の場合)、気泡形成は液状のポリイソシアネート中にて行われることになる。熱反応性発泡剤の発泡による気泡形成は、(液状の)ポリイソシアネート中のみでも可能であるが、本発明では、熱反応性発泡剤として、前記不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類の融解温度を超える温度で発泡を開始するものを使用することにより、熱反応性発泡剤の発泡前に単糖類、二糖類または少糖類が融解して液状となるようにしている。これにより、融解して液状となった結晶粉末状の単糖類、二糖類または少糖類と液状のポリイソシアネートからなる混合液中で熱反応性発泡剤による発泡が進行する。このとき、熱反応性発泡剤は、触媒反応による完全硬化まで(発泡に必要な十分な)時間的余裕をもって発泡作用を進行し、バインダ組成物が円滑な気泡形成に適した粘度範囲にあるときに、発泡を行う。なお、この場合、請求項2に係る発明で追記したように、熱反応性発泡剤として、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後の温度で分解して発泡開始するものを使用すれば、同様の機序により、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡開始温度)が、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後の温度となるため、硬化反応前の粘性の低い状態で大部分が発泡したり、硬化がほぼ完了した状態で発泡したりして、最終生成物としての硬化物(発泡体)における気泡形成に支障を来たすことがない。
【0015】
請求項4に係る熱硬化性バイオプラスチック硬化物は、請求項1乃至3のいずれかの1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を加熱して硬化することにより形成したものである。
【0016】
請求項5に係る熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルとを混合してなる1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を熱硬化して得られる熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法である。本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、前記熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を、前記マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上の温度で加熱することにより、前記壁剤を熱溶解して内部の芯剤である触媒を前記糖類と前記ポリイソシアネートとの混合物中に放出し、前記糖類と前記ポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進する。なお、前記糖類、ポリイソシアネート及びマイクロカプセルとしては、請求項1または請求項2のものと同様のものを好適に使用することができる。本製造方法では、加熱によりマイクロカプセルから放出した触媒により糖類とポリイソシアネートとの間で硬化が促進されるが、これに加えて、副次的ではあるが、加熱によって糖類自体の水酸基が活性化して当該糖類とポリイソシアネートとの間の硬化反応に寄与する可能性がある。この場合、不活性または低活性の糖類として混合する単糖類、二糖類若しくは少糖類の融解温度または多糖類の軟化温度とマイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度とに応じて、融解した単糖類、二糖類若しくは少糖類または軟化した多糖類の水酸基の活性化による硬化反応への寄与が、前記マイクロカプセル内の触媒による硬化反応と相前後して或いはほぼ同時に進行する。即ち、前記糖類の融解温度または軟化温度がマイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度より低い場合、糖類自身の活性水酸基による硬化反応への寄与が先に行われ、マイクロカプセルの触媒による硬化反応がその後行われる。一方、前記糖類の融解温度または軟化温度がマイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度より高い場合、マイクロカプセルの触媒による硬化反応が開始した後、糖類自身の活性水酸基による硬化反応への寄与が行われる。なお、前記糖類の融解温度または軟化温度とマイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度とがほぼ等しい場合、糖類自身の活性水酸基による硬化反応への寄与とマイクロカプセルの触媒による硬化反応とがほぼ同時に進行する。
【0017】
ここで、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物を得るための熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物の加熱温度は、前記マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上の温度で、かつ、硬化物自体が熱損傷等を開始する温度未満の温度とする。具体的には、熱溶解性ポリマーとしてポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂等を使用し、ポリイソシアネートとしてMDIを使用する場合、約120℃〜約200℃の範囲内の温度とすることができる。詳細には、熱溶解性ポリマーは、分子量に分布があり、また、結晶構造と非晶構造の二層構造からなるため、その熱溶解温度(融点または軟化温度に相当)には幅がある。よって、熱溶解性ポリマーからなる壁剤の熱溶解温度にも幅があるが、例えば、ポリスチレン樹脂(汎用)の場合、軟化温度乃至熱変形温度が約80〜120℃の範囲であり、メタクリル樹脂(PMMA)の場合、軟化温度乃至熱変形温度が約90〜120℃の範囲であるため、これらの樹脂から壁剤を形成した場合、当該軟化温度乃至熱変形温度を若干越える温度で、マイクロカプセルの壁剤が熱溶解して内部の芯剤を放出すると考えられる。また、ポリエチレンの場合、融点約100〜140℃であり、ポリプロピレンの場合、融点約150〜170℃(軟化温度約120〜150℃)である。いずれの樹脂を使用する場合でも、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法では、熱硬化のための前記加熱温度は、前記温度範囲(約120℃〜約200℃)のうち高い側に設定することが反応速度の点から好ましいが、目的物としての硬化物への熱損傷を確実に防止する観点から、加熱温度は約180℃前後とすることが特に好ましい。
【0018】
請求項6に係る熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類を少なくとも含む不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルと、前記不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類の融解温度を超える温度で発泡を開始する熱反応性発泡剤とを混合してなる1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を熱硬化して得られる熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法である。本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、前記熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を、前記マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上の温度で加熱することにより、前記壁剤を熱溶解して内部の芯剤である触媒を前記糖類と前記ポリイソシアネートとの混合物中に放出し、前記糖類と前記ポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進すると共に、前記結晶粉末状とした不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類を融解し、当該単糖類、二糖類または少糖類の融解後に、前記熱反応性発泡剤を熱分解して発泡を開始するようにしている。なお、前記糖類、ポリイソシアネート及びマイクロカプセルとしては、請求項1または請求項2のものと同様のものを好適に使用することができ、前記熱反応性発泡剤としては、請求項2または請求項3のものを好適に使用することができる。
【0019】
本製造方法では、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡温度)が前記単糖類、二糖類または少糖類の融解温度より高いため、単糖類、二糖類または少糖類が融解して可塑状から液状となった後に、熱反応性発泡剤による発泡が行われる。また、マイクロカプセルの触媒による硬化反応及び熱反応性発泡剤による発泡反応は、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度及び熱反応性発泡剤の分解温度に応じて、その順序が決定されるが、実施の形態2で述べたように、熱反応性発泡剤をマイクロカプセルの芯剤が放出される温度前後の温度で発泡開始するようにすれば、触媒反応による完全硬化まで十分な時間的余裕(数分程度)をもって発泡が進行し、バインダ組成物が円滑な気泡形成に適した粘度範囲にあるときに、発泡を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、従来のバイオプラスチックに特有のカーボンニュートラル等の効果と従来の硬化性プラスチックに特有の耐熱性向上等の効果とを共に満足する一方、反応系の反応速度を向上させて製造時間を短縮することで実用性を向上する。
【0021】
請求項2に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、従来のバイオプラスチックに特有のカーボンニュートラル等の効果と従来の硬化性プラスチックに特有の耐熱性向上等の効果とを共に満足する一方、反応系の反応速度を向上させて製造時間を短縮することで実用性を向上し、かつ、軽量化や断熱性の付与をも可能にする。
【0022】
請求項3に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、従来のバイオプラスチックに特有のカーボンニュートラル等の効果と従来の硬化性プラスチックに特有の耐熱性向上等の効果とを共に満足する一方、反応系の反応速度を向上させて製造時間を短縮することで実用性を向上し、かつ、軽量化や断熱性の付与をも可能にする。また、融解して液状となった糖類(単糖類、二糖類または少糖類)と液状のポリイソシアネートからなる混合液中で熱反応性発泡剤による発泡作用が行われ、気泡形成を一層円滑かつ確実に行うことができ、良好な発泡体を得ることができる。
【0023】
請求項4に係る熱硬化性バイオプラスチック硬化物は、請求項1または2の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物に起因して、耐熱性、環境性、軽量性、断熱性等、特有の効果を発揮する。
【0024】
請求項5に係る熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度以上の温度で加熱すると、触媒が放出されて糖類とポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進し、従来のバイオプラスチックに特有のカーボンニュートラル等の効果と従来の硬化性プラスチックに特有の耐熱性向上等の効果とを共に満足する熱硬化性バイオプラスチックを製造することができる一方、反応系の反応速度を向上させて製造時間を短縮することで実用性を向上し、かつ、軽量化や断熱性の付与をも可能にする。
【0025】
請求項6に係る熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度以上の温度で加熱すると、触媒が放出されて糖類とポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進し、従来のバイオプラスチックに特有のカーボンニュートラル等の効果と従来の硬化性プラスチックに特有の耐熱性向上等の効果とを共に満足する熱硬化性バイオプラスチックを製造することができる一方、反応系の反応速度を向上させて製造時間を短縮することで実用性を向上し、かつ、軽量化や断熱性の付与をも可能にする。また、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度以上の温度で加熱すると、触媒が放出されて糖類とポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始させると共に、更に加熱して昇温すると、単糖類、二糖類または少糖類が融解して、熱反応性発泡剤が、単糖類、二糖類または少糖類の融解後(液状化後)に発泡を開始するため、液状の単糖類、二糖類または少糖類と液状のポリイソシアネートとからなる適正な粘度範囲の液中で発泡ガスによる気泡が円滑に形成される。その結果、良好な発泡体としての熱硬化性バイオプラスチック硬化物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態という)を説明する。
【0027】
実施の形態1
本発明の実施の形態1に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物及びその硬化物について説明する。実施の形態1に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、主剤としての水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤乃至架橋剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成された熱反応性の反応促進剤としてのマイクロカプセルとからなる(糖類をポリイソシアネート中に混合してマイクロカプセルを添加した)1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物である。詳細には、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物に含有する不活性または低活性の糖類としては、水酸基を活性化していない不活性または低活性の単糖類、水酸基を活性化していない不活性または低活性の二糖類、水酸基を活性化していない不活性または低活性の少糖類(オリゴ糖)、水酸基(特に表面に露出する水酸基)を活性化していない不活性または低活性の多糖類がある。前記単糖類としては、グルコース、フルクトース等が代表的なものであるが、それ以外にも、ガラクトース、マンノース、リボース等がある。また、前記二糖類としては、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース等が代表的なものであるが、それ以外にも、イルマルトース、ゲンチオビース等がある。更に、前記少糖類(オリゴ糖)としては、ゲンチアノース、ラフィノース、パノース、メレジトース(以上三糖類)、スタキオース(四糖類)等があり、代表的なオリゴ糖としては、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ダイズオリゴ糖等がある。そして、前記多糖類としては、澱粉、セルロース等があり、澱粉としては、タピオカ、馬鈴薯、コーン(とうもろこし)、小麦、甘藷、米、サゴ等がある。
【0028】
ここで、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物に含有する糖類は、反応に関与する水酸基を化学変性や物理変性等により活性化していないものをいい、通常の水酸基状態による活性(即ち、不活性または低活性)を維持している糖類のことをいう。特に、澱粉やセルロース等の多糖類の場合、澱粉粒やセルロース分子等の表面の水酸基を化学変性や物理変性等により活性化していないものをいい、通常の水酸基状態による活性(天然物の場合は通常の産生状態のままの不活性または低活性)を維持している多糖類のことをいう。即ち、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、糖類に硬化剤としてのポリイソシアネートを予め混合した1液型のものであるため、使用する糖類に、常温でポリイソシアネートと反応する程度の活性がある場合、例えば、澱粉を使用する場合においてその粒表面にポリイソシアネートのNCO基と反応する程度の活性水酸基数が存在する場合、ポリイソシアネートによる糖類の架橋・硬化反応が開始し、意図せずして硬化物が生成されてしまう。よって、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物では、通常の発想とは全く逆の発想として、あえて、水酸基の活性化処理を行っていない不活性または低活性の糖類を使用する。例えば、多糖類として容易かつ安価に大量に入手できる澱粉(主に天然澱粉であるが、人工澱粉も含む)は、そのままの状態では(化学変性等により活性化しないと)、アミロースとアミロペクチンとがヒドロキシル基(水酸基)を介した水素結合により分子間結合すると共に分子内結合することに加え、結晶部分の立体構造(立体障害)により活性を有するヒドロキシル基(活性水酸基)の官能性も阻害されるため、反応に関与する粒表面の水酸基数が非常に少なく、ポリイソシアネートと混合しても常温では反応しにくい(反応しても長期間を要する)。同様に、多糖類として容易かつ安価に大量に入手できるセルロース(主に天然セルロースであるが、人工セルロースも含む)は、そのままの状態では(化学変性等により活性化しないと)、隣接するセルロース分子が水酸基による分子間水素結合で結合する層状構造を形成して、活性を有するヒドロキシル基(活性水酸基)の官能性が阻害されるため、反応に関与する粒表面の水酸基数が非常に少なく、ポリイソシアネートと混合しても常温では反応しにくい(反応しても長期間を要する)。よって、これら澱粉やセルロース等の不活性または低活性の多糖類は、通常はポリイソシアネートと硬化反応しにくい(反応しても長期間を要する)ため、ポリイソシアネートとの混合状態で保存・保管することができ、必要時にのみ、マイクロカプセルへの加熱制御により硬化反応を開始・促進して硬化物を得ることができる。
【0029】
そこで、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物では、これら不活性または低活性の澱粉やセルロースを多糖類として使用する。同様の観点から、単糖類、二糖類、少糖類についても、一般的な結晶粉末状乃至結晶粒子状の単糖類、二糖類、少糖類を使用する。これら結晶粉末状の単糖類、二糖類、少糖類、例えば、グルコース(ブドウ糖)等の単糖類、マルトースやスクロース等の二糖類及びシクロデキストリン等の少糖類(オリゴ糖)は、一般的な結晶化粉末の態様(結晶粉末状)では、水酸基の殆どが結晶内部に存在して反応に寄与することがないため、反応に関与する粒表面の水酸基数が非常に少なく、不活性または低活性となっており、そのままではポリイソシアネートと混合しても常温では反応しにくい(反応しても長期間を要する)。よって、これら結晶粉末状の単糖類、二糖類または少糖類(以下、単に「結晶粉末状少糖類」という)は、通常はポリイソシアネートと硬化反応しにくい(反応しても長期間を要する)ため、ポリイソシアネートとの混合状態で保存・保管することができ、必要時にのみ、マイクロカプセルへの加熱制御により硬化反応を開始・促進して硬化物を得ることができる。即ち、実施の形態1を含め本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物では、上記のような結晶性粉末状糖類及び/または未変性の澱粉やセルロース(天然澱粉や天然セルロース等)等の多糖類を、上記不活性または低活性の糖類として好適に使用することができる。このように、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物では、不活性または低活性の糖類とは、そのままの状態では(化学変性等により活性化しないと)、反応に関与する粒乃至粒子表面の水酸基数が非常に少なく、ポリイソシアネートと混合しても常温では反応しにくい(反応しても長期間を要する)ものをいう。
【0030】
上記のように、ポリイソシアネートと混合する不活性または低活性の糖類のうち、単糖類、二糖類及び少糖類としては、公知の製法により結晶化した粒子状または粉末状のマルトース等を使用することができ、多糖類としては、公知の製法により粒子状または粉末状とした澱粉等を使用することができるが、前記糖類のうちでも、澱粉は、その入手容易性や価格面から、本発明において好適に使用される糖類である。また、澱粉は、ポリイソシアネート中において良好な混合性を有するため、熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物中におけるその混合比率を高くして、製造される硬化物の硬度を高くする必要がある場合には、特に、好適に使用される。また、結晶粉末状少糖類及び粒状乃至粉末状の多糖類のいずれも、水分率が高いと(約10%を超えると)、その水分によりポリイソシアネートとの間で反応する。よって、不活性または低活性の糖類としては、水分率を約10%以下、好ましくは約1%以下としてその不活性・低活性状態を維持したものを使用する。例えば、多糖類である澱粉粒は、その粒表面に付着水(H2O)が存在すると、その付着水がポリイソシアネートとの間で反応するため、付着水を所定温度での熱処理や乾燥処理により蒸発・飛散させたものをポリイソシアネートと混合して使用することがより好ましい。例えば、100℃程度での熱処理により澱粉粒の付着水を飛散させ、水分率約10%以下、好ましくは、水分率約1%以下として、ポリイソシアネートと混合するようにする。このように付着水を飛散させた澱粉等の糖類は、上記通常の糖類よりも更に活性及び反応性を落としたものとなり、ポリイソシアネートと混合したときの保存性等をより改善することができる。
【0031】
次に、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物に含有するポリイソシアネートは、上記澱粉等の糖類の水酸基と反応して糖類の分子間(澱粉等の多糖類の場合は、ユニット間及び/またはサブユニット間)を架橋するものであり、ブロック剤によりブロック化していないものである。具体的には、かかるポリイソシアネートは、一般式OCN−R−NCOにより表される化合物であり、実施の形態1では、反応性に富む芳香族系イソシアネートとして、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を好適に使用することができる。以下にMDIの一般式を示す(4,4'−MDI(化学式1)、2,4'−MDI(化学式2)、2,2'−MDI(化学式3)の順)。
【化1】

【化2】

【化3】

【0032】
しかし、これら以外にも、諸条件に応じて、または、諸条件を整えることにより、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族系イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加(水添)MDI、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水添XDI(H6XDI)等の脂環族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、ノルボルネン・ジイソシアネート(NBDI)等の脂肪族系イソシアネート等、各種有機ポリイソシアネートを使用したり、これらのビウレット化物、イソシアヌレート化物、カルボジイミド変性体を使用したり、更に、これらの混合物を使用したりすることも可能である。
【0033】
次に、実施の形態1を含め、本発明に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物に含有するマイクロカプセルにおいて、前記芯剤は、アミノ系触媒または有機金属系触媒からなる。アミノ系触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−ウンデセン−7等を使用することができる。また、有機金属系触媒としては、オクチル酸スズ、ジブチルスズジラウレート、オクチル酸鉛等を使用することができる。即ち、前記芯剤を構成する触媒としては、任意のポリウレタン用触媒を好適に使用することができる。また、マイクロカプセルにおいて、前記熱溶解性ポリマーからなる壁剤は、比較的低い温度で熱溶解乃至熱溶融する熱可塑性樹脂とすることができる。かかる壁剤用の熱溶解性ポリマーの種類は、マイクロカプセルの製造方法にも依存するが、例えば、水中重合法(界面重合法)、界面沈殿法、水中乾燥法、In situ重合法等を使用する場合、前記熱溶解性ポリマーとしては、ポリスチレン樹脂やメタクリル樹脂等を好適に使用することができる。また、マイクロカプセルの壁剤が所期の温度で熱溶解するよう、ポリスチレン樹脂等の熱溶解性ポリマーに温度調整用の添加剤を添加して熱溶解性ポリマーを調製することが好ましい。この場合の壁剤の熱溶解温度としては、約80℃〜約160℃の範囲内の温度とすることができるが、好ましくは、約100℃〜約140℃の範囲内の温度、特に好ましくは、約120℃付近の温度とする。マイクロカプセルの壁剤の添加剤については、例えば、スチレンモノマーを使用した水中重合法に関しては、生成後の壁剤の軟化温度を下げるために、アクリル酸2エチルヘキシル(EHA)を添加することができる。壁剤の熱溶解温度を約120℃とする場合のスチレンモノマーとEHAとの代表的な混合割合は、スチレン 15 : EHA 5 である。なお、EHA等の添加剤の添加量が増えるにつれて壁剤の軟化温度は低下する。こうすると、本バインダ組成物を加熱して硬化物を製造する際に、硬化物自体が熱損傷等を開始する温度より更に十分に低い温度でバインダ組成物を加熱して、マイクロカプセルの壁剤を熱溶解して内部の芯剤を放出し、糖類とポリイソシアネートとの硬化反応を開始・促進することができると共に、硬化反応開始後に前記温度未満の所定温度(例えば、約180℃)に至るまで更に広い温度範囲で加熱昇温して、良好な品質の硬化物を一層迅速に製造することができる。なお、壁剤の熱溶解性ポリマーとしては、マイクロカプセルの製造方法にも依存するが、上記熱可塑性樹脂以外に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等、熱溶解性を有する任意の高分子材料を使用することができる。このように、実施の形態1を含め、本発明のマイクロカプセルは、所定温度(壁剤が熱溶解して芯剤が放出される温度)に至るまでは触媒反応(硬化反応の開始・促進)を行わず、所定温度で触媒反応を開始する、熱反応性の反応促進剤乃至触媒として機能する。
【0034】
上記のように構成した実施の形態1に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、主剤としての前記糖類と、硬化剤としての前記ポリイソシアネートと、熱反応性の反応促進剤としての前記マイクロカプセルとを各々所定の配合量で予め混合した1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物である。この1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、糖類とポリイソシアネートとを約1対1の割合或いはその近辺の割合で混合し、その混合物にマイクロカプセルを微量割合(例えば、約0.3重量%〜約6重量%の範囲、好ましくは、約2重量%〜約4重量%の範囲)で添加混合する。例えば、糖類としてのマルトース30〜70重量部または澱粉30〜70重量部に対し、ポリイソシアネートとしてのMDIを30〜70重量部の範囲で混合し、更に、その混合物に芯剤をオクチル酸スズとしたマイクロカプセルを2〜4重量部の範囲で添加して混合する。なお、実施の形態1を含め、本発明に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物の実際の調製においては、必要に応じて、その他の添加物(例えば、糖類としての澱粉等の混合比率を上げるための界面活性剤等)を混合することも無論可能である。また、この際、マルトースまたはスクロース等の単糖類、二糖類、少糖類や、澱粉またはセルロース等の多糖類は、水分率を約10%以下とし、その不活性または低活性を維持するようにする。特に、これら不活性または低活性の糖類は、上述のように、熱処理や乾燥処理により付着水を飛散させて水分率を1%以下とすることが、保存時乃至非使用時におけるポリイソシアネートとの反応を確実に防止する点で好ましい。このように調製した1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、糖類が不活性または低活性であるため、ポリイソシアネートと混合しても反応しにくい(反応しても長期間を要する)ため、常温で良好な保存性を発揮する。また、反応促進剤としての触媒も、芯剤としてマイクロカプセルの壁剤中に封入されるため、常温では(壁剤の融点以上に加熱しない限り)その機能を発揮することがない。このように、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、非使用時には、糖類、ポリイソシアネート及びマイクロカプセルが混合分散されて安定化している。
【0035】
硬化物(中実体)の製造方法
実施の形態1に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、所定温度以上(マイクロカプセルの壁剤を構成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上)に加熱することにより、マイクロカプセルの壁剤が溶解し、内部の触媒が糖類とポリイソシアネートとの混合液中に放出される。例えば、マイクロカプセルの壁剤として、熱溶解温度が約120℃のポリスチレン樹脂等を使用した場合、加熱して約120℃の温度まで昇温すると、壁剤が溶解して内部の芯剤である触媒が放出される。これにより、糖類の表面の水酸基とポリイソシアネートのイソシアネート基とが触媒により活性化され、それらの間での架橋反応が開始及び進行する。この状態から、加熱を継続して更に昇温していくと、糖類の水酸基とポリイソシアネートのイソシアネート基との架橋反応が触媒により更に促進される。このときの加熱昇温は、最終生成物としての良好な硬化物の生成を阻害しないようにする。即ち、加熱温度は、マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上の温度で、かつ、硬化物自体が熱破壊や熱損傷等を開始する温度未満の温度とする。具体的には、熱溶解性ポリマーとしてポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂等を使用し、ポリイソシアネートとしてMDIを使用する場合、約120℃〜約200℃の範囲内の温度とすることができる。なお、熱溶解性ポリマーは、分子量に分布があり、また、結晶構造と非晶構造の二層構造からなるため、その熱溶解温度(融点または軟化温度に相当)には幅がある。よって、熱溶解性ポリマーからなる壁剤の熱溶解温度にも幅があるが、例えば、ポリスチレン樹脂(汎用)の場合、軟化温度乃至熱変形温度が約80〜120℃の範囲であり、メタクリル樹脂(PMMA)の場合、軟化温度乃至熱変形温度が約90〜120℃の範囲であるため、これらの樹脂から壁剤を形成した場合、当該軟化温度乃至熱変形温度を若干越える温度で、マイクロカプセルの壁剤が熱溶解して内部の芯剤を放出すると考えられる。なお、ポリエチレンの場合、融点約100〜140℃であり、ポリプロピレンの場合、融点約150〜170℃(軟化温度約120〜150℃)である。いずれの樹脂を使用する場合でも、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法では、熱硬化のための前記加熱温度は、前記温度範囲(約120℃〜約200℃)のうち高い側に設定することが反応速度の点から好ましいが、目的物としての硬化物への熱損傷を確実に防止する観点から、加熱温度は約180℃前後とすることが特に好ましい。
【0036】
前記加熱により、最終的に、糖類表面の活性水酸基(OH)とポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)とがウレタン結合(NHCOO)することで、糖類分子間がポリイソシアネートにより架橋され、3次元網目構造を形成して硬化し、熱硬化性バイオプラスチック硬化物が形成される。なお、上記のように、硬化のための加熱温度は、一般的な熱可塑性樹脂からなる熱溶解性ポリマーをマイクロカプセルの壁剤として使用し、MDIをポリイソシアネートとして使用する場合、約120℃〜約200℃の範囲の温度とし、特に約180℃とすることが好ましい。加熱温度が約120℃未満では、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解が完全に行われず、芯剤としての触媒の放出が完全に行われない可能性がある。一方、加熱温度が約200℃を超えると、最終生成物としての硬化物自体に熱破壊や熱損傷等の悪影響が生じる恐れがあるため、好ましくない。
【0037】
上記のように、実施の形態1に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を使用した熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、結晶性粉末状の不活性または低活性の単糖類、二糖類、少糖類、及び、不活性または低活性の澱粉粒等の多糖類の一種または二種以上の組合せからなる不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのMDI等のポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に硬化のための加熱時に所定温度で熱溶解する熱溶解性ポリマーを壁剤として生成された熱反応性反応促進剤としてのマイクロカプセルとからなる1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を熱硬化して得られる熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法である。また、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、前記熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を、前記マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマー(例えば、ポリスチレン樹脂)の熱溶解温度(例えば、約120℃)以上の温度で加熱することにより、前記壁剤を熱溶解して内部の芯剤である触媒を前記糖類と前記ポリイソシアネートとの混合物中に放出し、前記糖類と前記ポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進し、中実体としての熱硬化性バイオプラスチック硬化物を形成する。その結果、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法によれば、公知の所定の成形法を使用することで、中実体からなる板状、ブロック状等の任意の形状の熱硬化性バイオプラスチック硬化物を、迅速に、かつ、良好な品質で得ることができる。
【0038】
実施の形態2
本発明の実施の形態2に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物及びその硬化物について説明する。実施の形態2に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、主剤としての水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤乃至架橋剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成された熱反応性の反応促進剤としてのマイクロカプセルと、熱反応性発泡剤とからなる(糖類をポリイソシアネート中に混合してマイクロカプセル及び熱反応性発泡剤を添加した)1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物である。詳細には、糖類、ポリイソシアネート及びマイクロカプセルとしては、実施の形態1に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物の糖類、ポリイソシアネート及びマイクロカプセルを好適に使用することができる。また、熱反応性発泡剤としては、各種無機発泡剤及び有機発泡剤を使用することができ、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、ジニトロペンタメチレンテトラミン、P,P'−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルアセトンヒドラゾン等を好適に使用することができる。
【0039】
更に、実施の形態2において、熱反応性発泡剤としては、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後または近辺の温度で分解して発泡(発泡ガス成分の放出)を開始するものを使用することが好ましい。或いは、かかる熱反応性発泡剤としては、発泡温度(分解温度)が、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度を中心としてある程度の温度範囲内となるものを使用することもできる。例えば、マイクロカプセルの壁剤をポリスチレン樹脂やメタクリル樹脂で形成し、その熱溶解温度を約120℃として当該温度で芯剤を放出するよう設定した場合、熱反応性発泡剤としては、例えば、発泡温度が約100℃〜約150℃の範囲内、好ましくは約120℃前後の範囲内となる炭酸水素ナトリウム(重曹)系の熱反応性発泡剤等を使用することができる。この場合、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡温度)は、壁剤の溶融温度約120℃を中心として前後(上下)に約約20℃〜約30℃の幅、或いは、数℃〜約10℃程度の幅があることになる。なお、これ以外の熱反応性発泡剤を使用する場合も、同様に、壁剤の溶融温度を中心としてある程度の温度範囲内に分解温度が存在するものを使用することができる。即ち、本実施の形態において、熱反応性発泡剤の分解温度は、壁剤の熱溶解温度前後または近辺の温度範囲とすることができ、壁剤の熱溶解温度から上下に数十度程度の幅を有する温度範囲とすることができる。ただし、かかる温度範囲の上限は、熱硬化反応のための加熱時に、硬化物自体が熱損傷等を開始する温度より十分低い温度とする。こうすると、熱反応性発泡剤が、マイクロカプセルの芯剤が放出される温度前後または近辺の温度(反応段階)で発泡開始すると共に、触媒による硬化反応が進んで発泡が困難となる高粘度段階までに十分な時間的余裕をもって発泡作用を進行し、バインダ組成物が円滑な気泡形成に適した粘度範囲にあるときに、発泡を行うことができる。即ち、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡開始温度)が、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後または近辺の温度となるため、硬化反応前の粘性の低い状態で大部分が発泡したり、硬化がほぼ完了した状態で発泡したりして、最終生成物としての硬化物(発泡体)における気泡形成に支障を来たすことがない。
【0040】
ここで、実施の形態2に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、不活性または低活性の糖類として、前記結晶粉末状少糖類を少なくとも含む糖類を使用することが好ましく、特に、結晶粉末状少糖類のみを使用することが一層好ましい。この場合、熱反応性発泡剤として、前記結晶粉末状少糖類の融解温度を超える温度で発泡を開始する熱反応性発泡剤を使用する。即ち、熱反応性発泡剤の発泡による気泡形成は液中で可能となるが、糖類が液状でない場合(澱粉等のように粉体状乃至粉末状の場合)、気泡形成は液状のポリイソシアネート中のみにて行われることになる。熱反応性発泡剤の発泡による気泡形成は、液状のポリイソシアネート中のみでも可能であるが、糖類として前記結晶粉末状少糖類を使用し、かつ、熱反応性発泡剤として当該結晶粉末状少糖類の融解温度を超える温度で発泡開始するものを使用することにより、熱反応性発泡剤の発泡前に結晶粉末状少糖類が融解して可塑状から液状となるようにしている。これにより、融解して液状となった結晶粉末状少糖類と液状のポリイソシアネートとからなる混合液中で熱反応性発泡剤による発泡が進行する。このとき、熱反応性発泡剤は、触媒反応による完全硬化まで(発泡に必要な十分な)時間的余裕をもって発泡作用を進行し、バインダ組成物が円滑な気泡形成に適した粘度範囲にあるときに、発泡を行う。よって、熱反応性発泡剤の発泡前に結晶粉末状少糖類を完全に融解し、発泡開始時におけるバインダ組成物の粘度範囲をより適正なものとすべく、結晶粉末状少糖類としては、融点の低いものを使用することが好ましい。例えば、結晶粉末状少糖類としては、融点が110℃以下であるマルトースを好適に使用することができる。また、上記のように、熱反応性発泡剤として、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後の温度で分解して発泡開始するものを使用すれば、同様の機序により、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡開始温度)が、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度前後の温度となるため、硬化反応前の粘性の低い状態で大部分が発泡したり、硬化がほぼ完了した状態で発泡したりして、最終生成物としての硬化物(発泡体)における気泡形成に支障を来たすことがない。
【0041】
上記のように構成した実施の形態2に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、主剤としての(好ましくは結晶粉末状少糖類を含む、或いは、結晶粉末状少糖類のみからなる)糖類と、硬化剤としてのポリイソシアネートと、熱反応性の反応促進剤としてのマイクロカプセルと、(好ましくは前記結晶粉末状少糖類の融点よりも高い温度で発泡を開始する)熱反応性発泡剤とを各々所定の配合量で予め混合した1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物である。この1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、糖類とポリイソシアネートとを約1対1の割合或いはその近辺の割合で混合し、その混合物にマイクロカプセルを実施の形態1と同様の微量割合で添加混合すると共に、熱反応性発泡剤を所定割合(例えば、約5重量%〜約15重量%の範囲)で混合する。例えば、糖類としてのマルトース50重量部に対し、ポリイソシアネートとしてのMDIを30〜70重量部の範囲で混合し、更に、その混合物に、芯剤をオクチル酸スズとしたマイクロカプセルを2〜4重量部の範囲で添加して混合すると共に、熱反応性発泡剤としての炭酸水素ナトリウムを5〜15重量部の範囲で混合する。なお、実施の形態2に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物の実際の調製においても、必要に応じて、その他の添加物(例えば、糖類としての澱粉等の混合比率を上げるための界面活性剤等)を混合することも無論可能である。また、実施の形態2においても、マルトース等の結晶化少糖類や、澱粉等の多糖類は、水分率を約10%以下(特に、約1%以下)とし、その不活性または低活性を維持するようにすることが好ましい。このように調製した1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、糖類が不活性または低活性であるため、ポリイソシアネートと混合しても反応しにくい(反応しても長期間を要する)ため、良好な保存性を発揮する。また、反応促進剤としての触媒も、芯剤としてマイクロカプセルの壁剤中に封入されるため、常温では(壁剤の融点以上に加熱しない限り)その機能を発揮することがない。また、熱反応性発泡剤も、常温では(その発泡開始温度以上に加熱しない限り)その機能を発揮することがない。このように、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、非使用時には、糖類、ポリイソシアネート、マイクロカプセル及び熱反応性発泡剤が混合分散されて安定化している。
【0042】
硬化物(発泡体)の製造方法
実施の形態2に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、所定温度以上(マイクロカプセルの壁剤を構成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上)に加熱することにより、マイクロカプセルの壁剤が溶解し、内部の触媒が糖類とポリイソシアネートとの混合液中に放出される。例えば、マイクロカプセルの壁剤として、熱溶解温度が約120℃のポリスチレン樹脂等を使用した場合、加熱して約120℃の温度まで昇温すると、壁剤が溶解して内部の芯剤である触媒が放出される。これにより、糖類の表面の水酸基とポリイソシアネートのイソシアネート基とが触媒により活性化され、それらの間での架橋・硬化反応が開始及び進行する。また、熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物が加熱により熱反応性発泡剤の分解温度以上に昇温したときに、熱反応性発泡剤が熱分解して発泡ガスを放出し、硬化反応が進行して所定粘度範囲(気泡形成が可能な範囲)にある糖類とポリイソシアネートとの混合物中に気泡を形成する。これにより、糖類とポリイソシアネートとの硬化反応が終了して完全に硬化したときに、多数の気泡を内包する熱硬化性バイオプラスチック硬化物が形成される。
【0043】
ここで、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、上記のように、糖類として前記結晶粉末状少糖類を使用し、かつ、当該結晶粉末状少糖類の融点より高い分解温度を有する熱反応性発泡剤を使用すると、当該結晶粉末状少糖類が融解した後に熱反応性発泡剤が熱分解して発泡を開始する。即ち、この場合、熱反応性発泡剤の分解温度(発泡温度)が前記結晶粉末状少糖類の融解温度より高いため、結晶粉末状少糖類が融解して可塑状から液状となった後に、熱反応性発泡剤による発泡が行われる。なお、このとき、マイクロカプセルの触媒による硬化反応及び熱反応性発泡剤による発泡反応は、マイクロカプセルの壁剤の熱溶解温度及び熱反応性発泡剤の分解温度に応じて、その順序が決定されるが、実施の形態2で述べたように、熱反応性発泡剤をマイクロカプセルの芯剤が放出される温度前後の温度で発泡開始するようにすれば、触媒反応による完全硬化まで十分な時間的余裕(数分程度)をもって発泡が進行し、バインダ組成物が円滑な気泡形成に適した粘度範囲にあるときに、発泡を行うことができる。なお、硬化のための加熱は、実施の形態1で述べたと同様の理由により、マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上の温度で、かつ、硬化物自体が熱破壊や熱損傷等を開始する温度未満の温度とする。具体的には、熱硬化のための前記加熱温度は、前記温度範囲(約120℃〜約200℃)のうち高い側に設定することが反応速度の点から好ましいが、目的物としての硬化物への熱損傷を確実に防止する観点から、加熱温度は約180℃前後とすることが特に好ましい。すると、最終的に、熱反応性発泡剤による発泡ガスを内部に閉じ込めて多数の気泡を形成した状態で、糖類表面の活性水酸基(OH)とポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)とがウレタン結合(NHCOO)することで、糖類分子間がポリイソシアネートにより架橋され、3次元網目構造を形成して硬化し、発泡体としての熱硬化性バイオプラスチック硬化物が形成される。
【0044】
上記のように、実施の形態2に係る熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、(好ましくは、結晶化少糖類を少なくとも含み、或いは、結晶化糖類のみからなる)不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成された熱反応性の反応促進剤としてのマイクロカプセルと、(好ましくは結晶化少糖類の融点を超える温度で発泡を開始する)熱反応性発泡剤とからなる1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を熱硬化して得られる熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法である。また、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法は、前記熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を、前記マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマー(例えば、ポリスチレン樹脂)の熱溶解温度(例えば、約120℃)以上の温度で加熱することにより、前記壁剤を熱溶解して内部の芯剤である触媒を前記糖類と前記ポリイソシアネートとの混合物中に放出し、前記糖類と前記ポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進すると共に、熱反応性発泡剤を熱分解して発泡ガスにより気泡を形成し、発泡体としての熱硬化性バイオプラスチック硬化物を形成する。その結果、本熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法によれば、公知の所定の成形法を使用することで、発泡体からなる板状、ブロック状等の任意の形状の熱硬化性バイオプラスチック硬化物を、迅速に、かつ、良好な品質で得ることができる。また、このようにして製造された発泡体からなる熱硬化性バイオプラスチック硬化物は、軽量性、断熱性等の特有の効果を発揮する。
【実施例】
【0045】
実施例1
実施例1は、実施の形態1に対応する実施例である。実施例1では、主剤である不活性または低活性の糖類としての結晶粉末状のマルトース(二糖類)50重量部に対し、硬化剤としてMDIを55重量部加えて混合し、更に、反応促進剤としてマイクロカプセルを3重量部添加混合して、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を調整した。なお、マイクロカプセルの芯剤である触媒としては、有機金属系触媒であるオクチル酸スズ(II)(2−エチルヘキサン酸スズ(II)とも呼ばれる)([CH3(CH2)CH(C25)CO22Sn、CAS No.301−10−0)を使用した。なお、マイクロカプセルの芯剤である触媒として、アミン系触媒であるトリエチレンジアミン(C6122、CAS No.280−57−9/110−64−4)を使用した事例も実施した。また、マイクロカプセルの壁剤である熱溶解性ポリマーとしては、ポリスチレンポリマー(溶解温度約120℃)を使用した。
【0046】
次に、このように調製した1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を最高温度180℃となるまで加熱した。すると、加熱昇温に伴い、まず、約100℃〜110℃近辺の温度で結晶粉末状のマルトース(融解温度103℃または108℃)が融解して可塑状から液状となり、約120℃近辺の温度でマイクロカプセルの壁剤(スチレンポリマー)が熱溶解し、芯剤である内部の触媒をマルトースとMDIとの混合液中に放出した。これにより、マルトースの水酸基とMDIのイソシアネート基との反応が開始及び促進され、マルトースの分子間がポリイソシアネートにより架橋されてウレタン結合し、硬化が迅速に進行した。なお、前記結晶粉末状のマルトースが融解すると、上記のように、結晶内部の水酸基が露出して活性化され、副次的に硬化反応に寄与していると考えられる。そして、その後の加熱継続により、最終的に、マルトースの分子間がポリイソシアネートにより架橋されてウレタン結合し、中実体としての熱反応性バイオプラスチック硬化物が形成された。このときの反応式は次式(1)で表される。
【0047】
触媒
2 Mal-OH + OCN-R-NCO → Mal-O-OCHN-R-NHCO-O-Mal ・・・(1)
なお、式(1)中「Mal」はマルトース分子を示す。また、式(1)中、Rは以下の化学式により示される。
【化4】

【0048】
実施例2
実施例2は、実施の形態2に対応する実施例である。実施例2では、主剤である不活性または低活性の糖類としてのマルトース(二糖類)50重量部に対し、硬化剤としてMDIを55重量部加えて混合し、更に、反応促進剤としてマイクロカプセルを3重量部添加混合すると共に、熱反応性発泡剤として炭酸水素ナトリウムを10重量部混合して、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を調整した。なお、マイクロカプセルの芯剤である触媒及び壁剤としては、それぞれ、実施例1で使用したものと同様のものを使用した。次に、このように調製した1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を最高温度180℃となるまで加熱した。すると、加熱昇温に伴い、まず、約100℃〜110℃近辺の温度で結晶粉末状のマルトース(融解温度103℃または108℃)が融解して可塑状から液状となり、約120℃近辺の温度でマイクロカプセルの壁剤(スチレンポリマー)が熱溶解し、芯剤である内部の触媒をマルトースとMDIとの混合液中に放出した。これにより、マルトースの水酸基とMDIのイソシアネート基との反応が開始及び促進され、マルトースの分子間がポリイソシアネートにより架橋されてウレタン結合し、硬化が迅速に進行した。一方、加熱により、約100℃で熱反応性発泡剤である炭酸水素ナトリウムが熱分解して二酸化炭素(炭酸ガス)を放出し、発泡作用を開始・進行した。そして、その後の加熱継続により、最終的に、内部に発泡ガスによる多数の気泡を形成した状態で硬化が迅速に進行し、マルトースの分子間がポリイソシアネートにより架橋されてウレタン結合し、発泡体としての熱反応性バイオプラスチック硬化物が形成された。このときの反応式は次式(2)で表される。
触媒
2Mal-OH +OCN-R-NCO → Mal-O-OCHN-R-NHCO-O-Mal ・・・(2)
なお、式(2)中「Mal」はマルトース分子を示す。また、式(2)中、Rは以下の化学式により示される。

【化5】

更に、このときの発泡反応は次式(3)で表される。
100℃
3NaHCO3 + H2O → Na3H(CO3)2・2H2O +CO2↑ (3)
【0049】
実施例3
実施例3では、実施の形態1に対応する各種実施例に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物の熱硬化特性を、各種比較例に係るバイオプラスチックバインダー組成物の熱硬化特性と比較して検証した。詳細には、本発明の実施の形態1に対応する実施例3に係る熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物として、硬化剤(MDI)及び触媒を内包したマイクロカプセル(マイクロカプセル化触媒)に異なる種類の糖類を混合してなる3種類の試料1〜3を用意した。具体的には、糖類としての不活性化澱粉(水分率を1%以下とした天然澱粉粒)50重量部に硬化剤としてのMDIを50重量部混合し、これに、触媒としてオクチル酸スズ(SnOc)を使用したマイクロカプセル化触媒を3重量部添加して混合物を調製し、第1の試料とした。また、糖類としてのスクロース(結晶粉末状)50重量部に硬化剤として試料1と同様のMDIを50重量部混合し、これに、試料1と同様のマイクロカプセル化触媒を3重量部添加して混合物を調製し、第2の試料とした。更に、糖類としてのマルトース(結晶粉末状)50重量部に硬化剤として試料1と同様のMDIを50重量部混合し、これに、試料1と同様のマイクロカプセル化触媒を3重量部添加して混合物を調製し、第3の試料とした。一方、比較例に係るバイオプラスチックバインダー組成物(従来例ではなく発明者等が比較検討のために用意したもの)として、試料1〜3と同様の糖類を試料1〜3と同様の硬化剤(MDI)に混合してなる3種類の比較試料1〜3と、試料1〜3と同様の糖類を試料1〜3と同様の硬化剤(MDI)に混合すると共に、試料1〜3のマイクロカプセルに内包する触媒と同様の触媒を添加した3種類の比較試料4〜6を用意した。具体的には、糖類としての不活性化澱粉(水分率を1%以下とした天然澱粉粒)50重量部に硬化剤としてのMDIを50重量部混合し、第1の比較試料とした。また、糖類としてのスクロース(結晶粉末状)50重量部に硬化剤としてMDIを50重量部混合し、第2の比較試料とした。更に、糖類としてのマルトース(結晶粉末状)50重量部に硬化剤としてMDIを50重量部混合し、第3の比較試料とした。また、糖類としての不活性化澱粉(水分率を1%以下とした天然澱粉粒)50重量部に硬化剤としてのMDIを50重量部混合し、これに、オクチル酸スズ(SnOc)からなる触媒を3重量部添加して混合物を調製し、第4の比較試料とした。更に、糖類としてのスクロース(結晶粉末状)50重量部に硬化剤としてMDIを50重量部混合し、これに、比較試料4と同様の触媒を3重量部添加して混合物を調製し、第5の比較試料とした。更に、糖類としてのマルトース(結晶粉末状)50重量部に硬化剤としてMDIを50重量部混合し、これに、比較試料4と同様の触媒を3重量部添加して混合物を調製し、第6の比較試料とした。
【0050】
そして、上記のように、糖類、硬化剤及び硬化促進触媒(マイクロカプセル化触媒)の各種組合せからなる試料1〜3と、糖類及び硬化剤の各種組合せからなる比較試料1〜3と、糖類、硬化剤及び硬化促進触媒(非マイクロカプセル化触媒)の各種組合せからなる比較試料4〜6とについて、それぞれ、常温での硬化特性(硬化時間)を測定し、また、試料1〜3と比較試料1〜3とについて、それぞれ、所定温度(180℃)での加熱による常温での硬化特性(硬化時間)を測定した。表1中、No.1〜No.15は、それぞれ、各試料についての硬化特性試験の試験番号を示す。なお、従来の触媒を添加した比較試料4〜6については、常温で硬化するため、加熱による硬化特性は測定していない。その結果、各試料1〜3及び各比較試料1〜6は、表1のような硬化特性を示した。
【表1】

【0051】
表1の実験結果に示すように、常温での硬化特性について、比較試料1〜3のいずれも、常温では硬化時間が無限大であり、全く硬化反応を確認できなかった(試験番号1〜3)。一方、比較試料4〜6は、常温でも硬化が進行し完了した(試験番号4〜6)。即ち、比較試料4及び比較試料は、それぞれ、常温でも290秒及び390秒という非常に短時間で硬化した。また、比較試料5は常温で硬化したが、硬化時間3600秒と非常に長時間を必要とした。これに対し、本発明に係る試料1〜3のいずれも、常温では硬化時間が無限大であり、全く硬化反応を確認できなかった(試験番号7〜9)。また、加熱温度180℃による硬化特性については、比較試料1は、加熱により硬化したが、硬化時間1800秒と非常に長時間を必要とした(試験番号10)。なお、比較試料2及び3は、いずれも、加熱しても硬化時間が無限大であり、全く硬化反応を確認できなかった(試験番号11〜12)。これに対し、本発明に係る試料1及び3は、それぞれ、加熱により240秒及び360秒という非常に短時間で硬化した(試験番号13,15)。なお、本発明に係る試料2は、加熱により硬化したが、硬化時間1800秒と非常に長時間を必要とした。
【0052】
上記硬化特性に関する実験結果から、まず、本発明に係る試料1〜3は、常温では全く硬化反応を生じることがなく、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物として必要な保存性・保管性を発揮することが確認された。また、本発明に係る試料1及び3は、加熱により非常に短時間で硬化し、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物として必要な硬化特性を発揮することが確認された。一方、本発明に係る試料2は、加熱により硬化するものの非常に長時間を必要とするため、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物として実用的ではない。これに対し、比較例としての比較試料2及び3は、常温及び加熱のいずれによっても全く硬化せず、比較試料1は、過熱により硬化するが非常に長時間を要するため、いずれも、熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物としての硬化特性を備えていない。また、比較例としての比較試料4〜6は、いずれも常温で硬化するため、1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物としては実施できない。このように、本発明に係る1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、比較例と比較して、良好で実用的な保存性・保管性及び硬化特性を発揮することができる。なお、糖類の種類と硬化時間との関係について考察すると、上記表1の実験結果から、硬化時間は、澱粉を使用する場合が最短となり、二糖類のマルトースを使用する場合、澱粉の場合より若干時間がかかるものの非常に短時間になる。一方、同じ二糖類でもスクロースを使用する場合は、硬化時間が非常に長時間となる。よって、実用性の点からは、澱粉またはマルトースを使用することが好ましいと判断できる。
【0053】
ここで、同じ二糖類でも、マルトースを使用するものは短時間で硬化し、スクロースを使用するものは硬化時間が非常に長くなる理由として、まず、マルトースはグルコースがα−1,4−グリコシド結合したものであり還元性を示すのに対し、スクロースはグルコースとフルクトースがα−1−β2−グリコシド結合したものであり還元性を示さないことが考えられる。また、結晶粉末状のマルトースは、融点(103℃または108℃)が加熱温度(180℃)より非常に低く、加熱の初期段階で融解して可塑状から液状となるため、結晶内部の水酸基が外部に露出して活性化し硬化反応に寄与するのに対し、結晶粉末状のスクロースは、融点(約180℃)が加熱温度(180℃)と同等であり、加熱によっても融解せず結晶内部の水酸基が硬化反応に寄与しないことも理由の一つと考えられる。よって、本発明において糖類として結晶粉末状少糖類を使用する場合、融点が加熱温度よりある程度低いもの(マルトース等)を使用することにより、加熱時(硬化時)に結晶粉末状少糖類を融解して結晶内部の水酸基により硬化反応を促進することができると考えられる。なお、結晶化少糖類の融解温度(融点)は、結晶粉末状の単糖類、二糖類または少糖類の種類に依存し、また、生成方法等により相違する場合があるが、単糖類のうち、例えば、グルコース(ブドウ糖)の融点は146℃、フルクトース(果糖)の融点は104℃とされ、また、二糖類のうち、例えば、マルトース(麦芽糖)の融点は103℃(β形)または108℃(α形)、スクロース(蔗糖)の融点は約180℃前後(一定ではない)とされている(いずれも無水物)。更に、少糖類のうち、例えば、大豆オリゴ糖の融点は110℃(四水和物)とされている。よって、これらの融点と加熱温度とを考慮して、結晶化少糖類の種類を選択することが好ましい。これに加え、本発明では、不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類として、少なくとも、硬化物自体が熱損傷等を開始する一定温度より十分低い融解温度(好ましくは約150℃以下の温度、更に好ましくは約120℃以下の温度)を有するものを使用し、熱硬化反応のための加熱時に、前記一定温度に至るまでの広い温度範囲で、融解した単糖類、二糖類または少糖類による硬化反応への寄与を行うようにすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、自動車等の各種車両用部品(内装品、外装品)となる成形品、建築用材料(内装材、外装材)等、従来の石油系硬化性樹脂が使用される分野におけるバインダー組成物として好適に適用することができ、また、建築内装材の接着等、接着分野においても好適に適用することができる。その他、従来の樹脂バインダー組成物が使用される任意の分野に適用することができる。更に、本発明の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物は、中実体としてのバイオプラスチックバインダー硬化物に加え発泡体としてのバイオプラスチックバインダー硬化物としても実施できるため、従来の中実体状及び発泡体状の各種成形品の製造に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類と、
前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、
触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルと
からなることを特徴とする1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物。
【請求項2】
水酸基を活性化していない不活性または低活性の糖類と、
前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、
触媒を芯剤とし、熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルと、
熱反応性発泡剤と
からなることを特徴とする1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物。
【請求項3】
結晶粉末状とした不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類を少なくとも含む糖類と、
前記糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、
触媒を芯剤とし、熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルと、
前記不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類の融解温度を超える温度で発泡を開始する熱反応性発泡剤と
からなることを特徴とする1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を加熱して硬化することにより形成したことを特徴とする熱硬化性バイオプラスチック硬化物。
【請求項5】
不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルとを混合してなる1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を熱硬化して得られる熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法であって、
前記熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を、前記マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上の温度で加熱することにより、前記壁剤を熱溶解して内部の芯剤である触媒を前記糖類と前記ポリイソシアネートとの混合物中に放出し、前記糖類と前記ポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進するようにしたことを特徴とする熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法。
【請求項6】
不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類を少なくとも含む不活性または低活性の糖類と、前記不活性または低活性の糖類を架橋する硬化剤としてのポリイソシアネートと、触媒を芯剤とすると共に熱溶解性ポリマーを壁剤として生成されたマイクロカプセルと、前記不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類の融解温度を超える温度で発泡を開始する熱反応性発泡剤とを混合してなる1液型の熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を熱硬化して得られる熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法であって、
前記熱硬化性バイオプラスチックバインダー組成物を、前記マイクロカプセルの壁剤を形成する熱溶解性ポリマーの熱溶解温度以上の温度で加熱することにより、前記壁剤を熱溶解して内部の芯剤である触媒を前記糖類と前記ポリイソシアネートとの混合物中に放出し、前記糖類と前記ポリイソシアネートとの間の架橋反応を開始及び促進すると共に、前記結晶粉末状とした不活性または低活性の単糖類、二糖類または少糖類を融解し、当該単糖類、二糖類または少糖類の融解後に、前記熱反応性発泡剤を熱分解して発泡を開始するようにしたことを特徴とする熱硬化性バイオプラスチック硬化物の製造方法。

【公開番号】特開2008−179736(P2008−179736A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15698(P2007−15698)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(500450613)大榮産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】