説明

熱硬化性ポリウレタン組成物、ポリウレタン成形品およびその製造方法

【課題】X線検知性を有しつつ優れた強度を有するポリウレタン成形品を提供すること。
【解決手段】熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを含有し、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める前記X線造影剤の割合が2質量%以上60質量%以下であることを特徴とする熱硬化性ポリウレタン組成物などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性ポリウレタン組成物、該熱硬化性ポリウレタン組成物で形成されたポリウレタン成形品、及び、該ポリウレタン成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性ポリウレタンなどのエラストマーをベースポリマーとして含有し金属や金属酸化物などの無機物粒子からなるX線造影剤を含有するポリマー組成物によって医療用チューブ等の成形品を作製し、当該成形品やその破片などに対してX線検知性を付与することが行われている(下記特許文献1参照)。
【0003】
一般的なゴムがプロセスオイルなどの可塑剤成分などによってその組成物の特性を調整しているのに対して、ポリウレタンは、ハードセグメントやソフトセグメントの構造を、その形成に用いる長鎖ポリオール成分、短鎖ポリオール成分、及びポリイソシアネート成分の選択によって適宜調整することができ、可塑剤を用いることなく成形品の特性を調整することが容易である。
したがって、下記特許文献に記載されているチューブなどのポリウレタン成形品はブリードアウトするおそれのある成分の使用を制限しつつ所望の特性を発揮させ得ることから医療用途などにおいて好適なものであるといえる。
【0004】
また、このようなX線での検知性を付与することについては、医療関係のみならず食品関連の用途においても求められている。
金属部品やその破片などが食品に混入した場合は、その発見は比較的容易であるが、樹脂やゴムで形成された成形品やその破片が食品に混入された場合には、通常、その発見は容易ではなく、例えば、食品搬送コンベヤのベルトなどに破損が生じてその破片が食品に紛れ込んだ場合には該破片が食品とともに包装されて消費者の手元にまで届き、誤飲、誤食を引き起こすおそれを有する。
そのため、食品と直接的に又は間接的に接する機器を構成するポリマー成形品に対してX線検知性を付与し、食品出荷前のX線での異物検査においてこれらの混入を検知させるような取り組みがなされている。
【0005】
一方、これまでX線検知性を付与するポリマー成形品の強度に関しては、あまり着目がされておらず優れた強度を有するポリマー成形品を作製することができる組成物については検討がされていないのが実情である。
したがって、耐久性に優れた成形品を得ることが困難な状況になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−250901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような問題を解決することを課題としており、X線造影剤を含有しつつ優れた強度を有する成形品を作製可能な組成物を提供しX線検知性を有しつつ耐久性に優れた成形品の提供を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
熱可塑性ポリウレタンとX線造影剤とを含有する従来の熱可塑性ポリウレタン組成物でポリウレタン成形品を得ようとする場合には、熱可塑性ポリウレタンが一般に高い軟化温度を有するために、該熱可塑性ポリウレタンとX線造影剤とを高温で混練してペレットなどを作製し、これを再び高温で押出し加工することが行われている。
この点に関し、本発明者らが前記課題に着目して鋭意検討したところ、この混練や押出しといった高温でのシェアストレスが加えられる工程においては、熱可塑性ポリウレタンの物性の低下がある程度生じることが予測されるもののガラス粉末や砂粒などの無機物粒子を混合する場合と違って、一般にX線造影剤として利用されている比較的原子番号の大きな金属や該金属の酸化物又はその塩からなる無機物粒子を熱可塑性ポリウレタンに分散させるべく高温での混練を実施したり、該混合物を押出ししたりする際には、本来、熱可塑性ポリウレタンが有している強度が予想を超えて低下することを見出して本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを含有し、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める前記X線造影剤の割合が2質量%以上60質量%以下であることを特徴とする熱硬化性ポリウレタン組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを含有し、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める前記X線造影剤の割合が2質量%以上60質量%以下である熱硬化性ポリウレタン組成物が熱硬化された硬化体で少なくとも一部が形成されていることを特徴とするポリウレタン成形品を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを含有し、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める前記X線造影剤の割合が2質量%以上60質量%以下である熱硬化性ポリウレタン組成物を作製し、該熱硬化性ポリウレタン組成物を熱硬化させてポリウレタン成形品を作製することを特徴とするポリウレタン成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物にX線造影剤を含有させているため、熱可塑性ポリウレタンをベースポリマーとしているような場合のように、高温での混練を実施する必要性がなく、熱硬化性ポリウレタンへのX線造影剤の分散を常温付近の温度で実施することができる。
また、ポリウレタン成形品を作製するにあたっても、高温での押出し加工などをすることなく熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物を金型に注型するなどして熱硬化させるような方法を採用することができる。
すなわち、本発明によれば、高温でシェアストレスが加えられる工程を実施することなく成形品を得ることができる。
さらに、本発明によれば、X線造影剤がX線検知に適した割合で含有されることから、X線検知性を有しつつ優れた強度を有するポリウレタン成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】遠心成形機の構造を示す側面図(a)、及び、X−X’線断面図(b)。
【図2】X線検知性を評価した様子を示す写真(X線透過写真:丸い影は米菓、白く四角い物体がテストピース)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、まず、ポリウレタン成形品(以下、単に「成形品」ともいう)を構成する熱硬化性ポリウレタン組成物について説明する。
本実施形態に係る熱硬化性ポリウレタン組成物には、熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とが含有されており、前記X線造影剤は、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める割合が2質量%以上60質量%以下となるように含有されている。
すなわち、熱硬化性ポリウレタン組成物には、熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とが質量で40:60〜98:2の範囲の内のいずれかの割合となるように含有されている。
本実施形態においては、熱硬化性ポリウレタン組成物の主成分である熱硬化性ポリウレタンは、ポリオール成分とポリイソシアネート成分と架橋剤成分とで構成されている。
【0015】
前記ポリオール成分としては、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルポリオール;ポリカーボネートジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレンアジペートエステル、ポリエチレンブチレンアジペートエステル、ポリブチレンアジペートエステル、カプロラクトンエステルジオール等のポリエステルポリオール等を挙げることができ、これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中でも、ポリエステルポリオールを採用することが好ましく、特に、カプロラクトンエステルジオールを採用することが好ましい。
【0016】
このようなポリエステル系熱硬化性ポリウレタンが好ましいのは、該ポリエステル系熱硬化性ポリウレタンが、その他のポリエーテル系熱硬化性ポリウレタン等に比べて耐油性や耐熱性に優れているためである。
なかでもカプロラクトンエステルジオールを含有するポリエステル系熱硬化性ポリウレタンを採用することが好ましいのは、該ラクトン系のものが、他のアジペート系のものや芳香族系のものに比べて耐摩耗性、耐紫外線性、耐水性に優れているためである。
すなわち、異物の除去が強く求められる食品関連用途などにおいては、周辺設備に紫外線殺菌の光が当たったり、被水したりすることが多いことから、このような箇所を構成させる材料に適した熱硬化性ポリウレタン組成物を構成させうる点においてラクトン系のポリエステル系熱硬化性ポリウレタンを採用することが好ましいものである。
【0017】
前記ポリイソシアネート成分としては、例えば、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、芳香族イソシアネート等を挙げることができる。
前記脂肪族イソシアネートとしては、例えば、炭素数6〜10の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
具体例としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
また、ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体の変性体等を挙げることができる。
前記脂環族イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)等の脂環族ジイソシアネート等を挙げることができる。
前記芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、カルボジイミド変性のMDI等を挙げることができる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記架橋剤成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の低分子ジオール;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン等のジアミン等を挙げることができる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
一方で、前記X線造影剤としては、例えば、硫酸バリウムなどのバリウム系化合物;硝酸ビスマス、次硝酸ビスマス、三酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、タングステン酸ビスマスなどのビスマス系化合物;一酸化タングステン、二酸化タングステン、三酸化タングステンなどのタングステン系化合物などからなる微粒子が挙げられる。
また、タングステン、モリブデン、錫、タンタル、レニウム、白金、金、銀などの金属粒子も前記X線造影剤として採用可能である。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なかでも、硫酸バリウム、次硝酸ビスマス、三酸化ビスマス、タングステン又はその酸化物(一酸化タングステン、二酸化タングステン、三酸化タングステン)の内のいずれかからなる粒子が採用されることが好ましい。
これらは含有するビスマスの原子数が大きいことからX線検知性に優れている点において好適である。
【0020】
また、X線造影剤は、後述するように硬化前の液体状態の熱硬化性ポリウレタンに混合させるため、その分散性を考慮すると、平均粒子径が1μm〜20μmであることが好ましい。
さらに、分散性を向上させるべく、脂肪酸処理やカップリング剤処理等の表面処理を施していても良い。
【0021】
本実施形態における熱硬化性ポリウレタン組成物における前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との割合が、40:60〜98:2とされているのは、X線造影剤が下限以下では、当該熱硬化性ポリウレタン組成物を硬化させて得られるポリウレタン成形品に対して十分なX線検知性を付与することが難しくなり、上限を超えて含有させてもそれ以上にX線検知性の向上を図ることが難しいばかりでなく過度のX線造影剤の含有によってポリウレタン成形品の強度を低下させるおそれを有するためである。
【0022】
すなわち、前記上限値(60質量%)を超えてX線造影剤を含有させた場合に、例えば、食品搬送用ベルトコンベヤなどの構成部品としてこの成形品を採用すると、その破片をX線検知し易くはなるものの、X線造影剤の過度の配合によって成形品の引裂強さなどが低下して破損を生じやすくなり、食品への混入を防止するという目的に対してむしろ逆効果となるおそれを有する。
このような観点から、X線造影剤の含有量は、55質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることが特に好ましい。
【0023】
なお、本実施形態に係る熱硬化性ポリウレタン組成物には、前記熱硬化性ポリウレタンや前記X線造影剤以外に、種々の添加剤を配合し得る。
例えば、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、安定剤、顔料などの添加剤を加えることができる。
【0024】
ただし、その他の成分によって熱硬化性ポリウレタン組成物全体に占めるX線造影剤の割合や熱硬化性ポリウレタンの割合を低下させてしまうとX線検知性において問題を生じたり、ポリウレタン成形品の物性に問題を生じさせたりするおそれを有する。
したがって、このような他の成分を含有させる場合であっても熱硬化性ポリウレタン組成物全体に占めるX線造影剤の割合を2質量%〜60質量%とすることが好ましく、熱硬化性ポリウレタンの割合を96質量%〜38質量%とすることが好ましい。
すなわち、他の成分については、その種類にもよるが熱硬化性ポリウレタン組成物全体に占める割合が2質量%以下程度となるようにすることが好ましい。
【0025】
このような熱硬化性ポリウレタン組成物は、一般的な分散装置を利用して、通常、成形品の形成直前に作製される。
例えば、ポリウレタン成形品の成形に際して、前記に示したポリオール成分、架橋剤成分、X線造影剤、場合に応じて前記添加剤を予め混合したものと前記ポリイソシアネート成分とをこれらを金型に注型するための注型装置内で混合する、いわゆる、ワンショット法による成形方法の過程において作製させることができる。
また、ポリイソシアネート成分として、遊離イソシアネートを含有する擬プレポリマーや完全プレポリマーを用意し、これに、ポリオール成分とX線造影剤とを混合して熱硬化性ポリウレタン組成物を作製するようにしても良い。
【0026】
なお、X線造影剤の含有量が多い場合には、全ての材料を一度に混合して熱硬化性ポリウレタン組成物を作製しようとすると均一混合までに時間がかかって硬化反応が進行してしまったり、空気中の水分などが取り込まれてイソシアネート成分のイソシアネート基と反応して本来ポリオール成分の活性水素と反応されるべきイソシアネート基が失われてしまったりするおそれを有する。
このようなことから、X線造影剤の含有量が多くなる場合には、予め、X線造影剤の一部、又は、全部をポリオール成分と混合して一旦混合物を作製した後、該混合物と前記ポリイソシアネート成分とを混合する方法によって前記熱硬化性ポリウレタン組成物を作製することが好ましい。
なお、イソシアネート基を失活させるおそれを低減させうる点においては、X線造影剤の含有量によらずポリオール成分に予めX線造影剤を混合して混合物を作製した後でポリイソシアネート成分と混合することが好ましい。
【0027】
また、このような手法は、擬プレポリマー法を利用して実施することが好ましい。
このことについて詳しく述べると、完全プレポリマー法においては、例えば、分子量1000〜3000程度の比較的高い分子量を有するポリオールにポリイソシアネートをそれぞれの官能基数が略等量となるような形で反応させて両末端にイソシアネート基を有する長鎖のポリイソシアネート成分を主成分として利用し、これに、当該プレポリマーよりも低分子量の、例えば、分子量数百程度のポリオール成分を反応させる方法が採用されており、このようなプレポリマーを予め作製させずにワンショット法においてポリオール成分とポリイソシアネート成分を反応させる場合に比べて反応効率を向上させることができるものである。
【0028】
一方で、前記擬プレポリマー法は、完全プレポリマーにおいて反応させる高分子量のポリオールの一部のみをポリイソシアネートと反応させて遊離ポリイソシアンートを含むプレポリマー(擬プレポリマー)を作製し、残部のポリオールと低分子量のポリオールとを前記擬プレポリマーと反応させる方法であり完全プレポリマー法と同様の効果が期待できる上にX線造影剤を予め分散させるためのポリオール成分を完全プレポリマー法に比べて多く確保できるというメリットを有する。
【0029】
また、前記擬プレポリマー法を採用することで、X線造影剤がある程度ポリオール成分に分散された後で、擬プレポリマーが混合されることになるためイソシアネート成分である前記擬プレポリマーを加えてから熱硬化性ポリウレタン組成物全体にX線造影剤が分散されるまでに要する混合時間を短期化させうる。
このことにより、凝集性の高いX線造影剤を使用する場合や、X線造影剤の含有量が高い場合において、イソシアネート基の失活を防止しつつX線造影剤の分散性向上を図ることができる。
【0030】
なお、このような組成物の調整を図る上においても、熱硬化性ポリウレタンを利用することで、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにX線造影剤を分散させる従来の方法に比べて有利な効果が発揮される。
すなわち、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにX線造影剤を分散させるには、2軸押出し機やニーダーといった混練機が使用されることになるが、そのような場合においては、例えば、タングステンの酸化物など硬質の粒子を利用すると、設備の摩耗を生じさせやすくなる結果、得られる組成物に摩耗粉を不純物として含有させることになり、場合によっては、着色してポリウレタン成形品の美観を損なうおそれを有する。
一方で、ポリオールなど、熱溶融状態の熱可塑性ポリウレタンエラストマーに比べて粘度の低い液体にX線造影剤を分散させる際には、過大なシェアストレス(せん断応力)を加えることなく均一分散させ得ることから、部品の摩滅によって設備の耐用期間を短期化させたりポリウレタン成形品の美観を損なったりするおそれを抑制させ得る。
【0031】
本実施形態に係る熱硬化性ポリウレタン組成物は、前記のようなシェアストレスを受けることを防止しつつX線造影剤が均一に分散されたポリウレタン成形品を得ることができ、このシェアストレスによって本来ポリウレタンが有している機械的強度が低下してしまうことを抑制させ得る。
また、一般にX線造影剤のような無機物粒子を熱硬化性ポリウレタンに含有させると、靱性を低下させる傾向にあり、特に、無機物粒子の凝集塊を存在させると耐摩耗性や、引裂強さ、伸び、引張強さといった機械的強度を大きく低下させるおそれを有する。
本実施形態に係る熱硬化性ポリウレタン組成物は、強くせん断が加えられるような混合攪拌を必要とせずにX線造影剤の分散が良好となることから、凝集塊の形成を防止することができ、X線検知性と機械的強度とに優れたポリウレタン成形品を形成させ得る。
【0032】
なお、X線による検知性能は、X線の透過方向に存在するX線造影剤の総量によって略決定され、例えば、X線造影剤含有率の高いポリウレタン成形品であっても、厚みが薄いものであれば、X線造影剤含有率の低い、厚手のポリウレタン成形品と同等の検出性を示すことになる。
そのような観点からは、例えば、耐摩耗性や引裂強さといった靱性が求められるポリウレタン成形品においては、その表面のX線造影剤の含有量を、内部の含有量に比べて低下させることが好ましく、X線造影剤の濃度分布を表面から内部に向かって傾斜させたポリウレタン成形品を形成させることが好ましい。
【0033】
例えば、ポリウレタン成形品としては、汎用性が高く、2次加工も容易なベルトやシートといったものが好適な事例として挙げられるが、当該シートであれば、表面部よりも背面部のX線造影剤含有率が高いものや、厚み方向両端部(表面部および背面部)よりも中央部におけるX線造影剤含有率が高いものを作製することによって同じX線検知性を有しながらも、X線造影剤が均一分散されているポリウレタン成形品に比べて強度の高いポリウレタン成形品を得ることができる。
【0034】
次に、このようなポリウレタン成形品を製造する方法について図を参照しつつ説明する。
ここでは、遠心成形機を使用して、厚み方向にX線造影剤濃度が異なるポリウレタンシートを作製する事例について説明する。
まず、遠心成形機について説明する。
【0035】
図1(a)は、遠心成形機の一例を説明するための説明図であり、遠心成形機の側面の様子を、一部切り欠いて内部の様子を示す形で表したものである。
また、図1(b)は、(a)図におけるX−X’線断面図である。
この図1に示すように、前記遠心成形機100は、一旦側が閉塞端111、他端側が開放端112とされた有底円筒形状を有し、該有底円筒が横置きされた状態で配置されている金型110と、該金型110を加熱するためヒータ120と、金型110を前記円筒形状の中心軸周りに回転させるためのモータ130とが備えられている。
【0036】
また、この遠心成形機100においては、金型110とヒータ120とが、開閉扉140を備えた全体略直方形の断熱室150内に収容されている。
該断熱室150には、前記金型110を収容するのに十分な大きさの直方形の内部空間が形成されており、前記金型110は、その開放端112を開閉扉140側に向けて断熱室150内に収容されている。
前記ヒータ120は、金型110を全方面から取り囲むべく配置されており、断熱室150の内壁六面全てに固定された状態で備えられている。
【0037】
前記断熱室150には、開閉扉140の反対側の壁面に貫通孔が設けられており、金型110は、この貫通孔を通じて断熱室150外から断熱室150内に延在するシャフト160により閉塞端111側で軸支されている。
このシャフト160は、金型110の中心軸と同軸上に配されており、メカニカルシールが用いられて貫通孔に対して回転自在に固定されている。
また、このシャフト160には、断熱室150外においてプーリ161が装着されており、モータ130の回転軸131に装着されたプーリ132の回転にともなって回転されるべく、シャフト160のプーリ161とモータ130のプーリ132との間には伝動ベルト170が張架されている。
【0038】
すなわち、この図1に例示の遠心成形機は、断熱室150の開閉扉140を開けて、金型110の開放端112側から金型110内に液状の熱硬化性ポリウレタン組成物を流入させ得ると共に、前記ヒータ120で金型110とともに流入させた熱硬化性ポリウレタン組成物を外部側から加熱しつつモータ130を駆動させることにより、金型110を中心軸周りに回転させ得るように形成されている。
【0039】
このような遠心成形機100を用いて前記のようなシート状のポリウレタン成形品(ポリウレタンシート)を作製する方法を説明する。
まず、少なくとも遠心成形機100の運転時において金型110内に作用する遠心力によって流動性を示す熱硬化性ポリウレタン組成物を、前記のような擬プレポリマー法等により作製する。
【0040】
具体的には、プレポリマーを作製するにあたり、分子量1000〜3000程度のポリオール(以下「高分子量ポリオール」ともいう)の量を完全プレポリマー法の場合に比べて減量させてイソシアネート基の数が活性水素よりも過剰となるようにしてポリイソシアネートと前記高分子量ポリオールとを反応させ、過剰なポリイソシアネートを遊離させた状態で含有する擬ポレポリマーを作製する。
次いで、この減量した分の高分子量ポリオール、あるいは、該高分子量ポリオールとともに後から前記擬プレポリマーと反応させる低分子量(1000未満)のポリオール(以下「低分子量ポリオール」ともいう)と前記高分子量ポリオールとの混合物に対してX線造影剤を混合し、前記ポリオール成分に対する前記X線造影剤の分散性がある程度確保された段階で、前記擬プレポリマー(ポリイソシアネート成分)を混合して熱硬化性ポリウレタンを作製する。
【0041】
この熱硬化性ポリウレタン組成物を前記金型110内に入れ、前記ヒータ120による加熱を実施しつつ前記金型110を回転させることによって該金型110の回転に伴って熱硬化性ポリウレタン組成物をその内周面に沿って展延させて筒状とし、この状態で熱硬化性ポリウレタン組成物を熱硬化させて筒状のポリウレタン成形品を作製する。
この筒状のポリウレタン成形品から、所望の形状に切り出してポリウレタンシートを作製することができる。
【0042】
このような遠心成形機によるポリウレタンシートの製造においては、X線造影剤に作用する遠心力を利用して、前記筒状体の外周面側におけるX線造影剤の含有量を内周面側よりも増大させることができる。
このポリウレタンシートの厚み方向におけるX線造影剤の分布状況はX線造影剤の比重や、金型110の回転数を制御することで調整が可能である。
このとき、X線造影剤として、タングステンやその酸化物、あるいは、ビスマス系化合物のような高比重の物質からなる粒子を採用することで、金型110の回転数の変更に対して敏感に分布状況を変化させることができ、ポリウレタンシートの厚み方向におけるX線造影剤の濃度変化を容易にさせ得る。
なお、比重の異なる複数種のX線造影剤を採用して分布状況の異なるポリウレタンシートを作製することも可能である。
例えば、タングステン粒子のような高比重のX線造影剤と、これよりも比重の小さい低比重のX線造影剤とを採用して、遠心成形時における回転数を調整することで、前記低比重のX線造影剤が厚み方向内側から外側まで広い範囲に存在させるとともに外側に偏った形で高比重のX線造影剤を存在させてポリウレタンシートを作製することも可能である。
【0043】
このポリウレタンシートは、シート単体や、あるいは、別の板材の表面に貼り付けて、例えば、X線異物検知装置に被検査物を搬送する搬送コンベヤ装置の側壁部材などに利用することができ、前記筒状体の内周面側に相当するX線造影剤含有量の低い側を内側に向けて側壁を構成させることによって被検査物の衝突などで摩耗や欠けといった問題の発生を抑制させ得る。
【0044】
なお、前記熱硬化性ポリウレタン組成物を遠心成形機で熱硬化させる前に当該熱硬化性ポリウレタン組成物と同種の又は異種の熱硬化性ポリウレタンを含みX線造影剤を含有していない別の熱硬化性ポリウレタン組成物を遠心成形機100で熱硬化させ、しかも、流動性は失われているが硬化が完全に終了していない半硬化な状態にさせた後に、この内側にX線造影剤を含有している前記熱硬化性ポリウレタン組成物を入れて改めて遠心成形させて熱硬化を実施することによって厚み方向中央部におけるX線造影剤の含有量が内周面側及び外周面側よりも多い筒状のポリウレタン成形品を作製することができる。
このようなポリウレタンシートは、表裏両面ともが優れた強度を有することからその利用に際して、強度面から表裏の別を考慮する必要性が低く、手軽に使用することができる。
【0045】
なお、このようにして遠心成形を利用する場合には、成形品の場所によってX線造影剤の濃度を異ならせることになるが、その場合には、最もX線造影剤の濃度の高い部分における熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤との比率が40:60〜98:2となるようにすることが好ましい。
本実施形態においては、より強度の高いウレタン成形品を製造し得る点において、前記のような遠心成形機を利用する方法を例示しているが、本発明に係るポリウレタン成形品の製造方法は、遠心成形機を利用する方法に限定されるものではなく、熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを40:60〜98:2となる質量割合で含有している熱硬化性ポリウレタン組成物を利用するものであれば、その具体的な製造方法が特に限定されるものではない。
【0046】
また、作製されるポリウレタン成形品の形態についても、シートに限定されるものではなく、本実施形態に係るポリウレタン成形品は、3次元構造を有するものや種々の形態のものをその対象としている。
例えば、芯金を収容させた金型に前記熱硬化性ポリウレタン組成物を注型して熱硬化させ、前記熱硬化性ポリウレタン組成物の硬化体からなる弾性体層を有する食品搬送ローラーを作製することもできる。
さらには、上記に具体的に例示していない技術事項であっても、本発明の効果を著しく損なわない範囲においては、従来公知の技術事項を採用が可能なものである。
【実施例】
【0047】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
(ポリウレタン成形品の作製1)
下記表1に示す配合により、厚み1mmのポリウレタンシートを作製した。
具体的には、比較例1のもの以外は、次のようにして作製した。
スクリューキャップ付きポリ容器(容量:2リットル)に、表1の「ポリオール1」、「架橋剤」、「X線造影剤」を70℃の温度で混合した混合物を1000g入れるとともに70℃に加熱した平均粒径約5mmのジルコニアビーズ600gを入れ、該容器をターブラーミキサー((株)シンマルエンタープライゼス製、T2F型)にセットして30分間攪拌させた。
得られた混合物からジルコニアビーズを取り除きしばらく70℃の温度を保って保管した。
次に、これを100℃に加熱したものと、表1の「プレポリマー1〜3」を100℃に加熱したものとをエアの巻き込みがないように注意しながらプロペラにて攪拌し、得られた熱硬化性ポリウレタン組成物を150℃に加熱された遠心成形機の金型内に入れ該金型を回転させて遠心成形を実施しポリウレタン成形品を作製した。
具体的には、60分から90分かけて熱硬化し筒状の硬化体を得、これを110℃のオーブン中で12時間から24時間かけてポストキュアを行った。
【0049】
一方で、表1の熱可塑性ポリウレタンを押出し成形機(田辺プラスチック機械株式会社製)にて200℃の温度で溶融混練し、ダイスより押出して1.0mmの厚みを有する比較例1のポリウレタンシートを作製した。
【0050】
このようにして得られたポリウレタンシートについては、以下のような評価を実施した。
・DIN摩耗:
JIS K 6264に規定のDIN摩耗試験の方法にて実施した。
但し、試験片は、シート厚み1mmのまま実施し、試験面は、遠心成形における、内側の面とした。
・引裂き試験:
JIS K 7312に規定の切り込みなしB形試験片を用いた試験を実施した。
但し試験片厚みは1mmにて実施した。

・X線での検知性:
各ポリウレタンシートから、1cm×1cmのテストピースを切り出し、これを、米菓74gがアルミラミネート袋に収容された包装菓子の下において、該包装菓子の上からX線により前記テストピールの存在を認識することが可能かどうかを確認した。
これらの結果を併せて、表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
なお、上記実施例3のテストピースについてX線検知性を評価した様子を示す写真を図2に示す(丸い影は米菓、白く四角い物体がテストピース)。
この図2は、X線検査装置に映し出されたX線透過画像を示すもので、この図からもわかるように、本発明のウレタンシートは、その存在を明確に把握することができX線検知性に優れていることがわかる。
【0053】
上記表1や図2の結果からも、熱可塑性ポリウレタンを用いた場合(比較例1)は、耐摩耗性も低く強度も十分ではなく、X線造影剤を過度に少なくする(比較例2)と、逆にとこれらの強度においては問題がなくなる一方でX線検知性において問題が生じることがわかる。
そして、本発明によれば、X線検知性を有しつつ優れた強度を有するポリウレタン成形品を得られることがわかる。
【0054】
(ポリウレタン成形品の作製2)
表2に示すように、遠心成形機においてX線造影剤を含有していない熱硬化性ポリウレタン組成物を入れて0.5mm厚みの筒状体(1層目)を作製し、その内側に、X線造影剤を含有している熱硬化性ポリウレタン組成物を0.5mm厚み(2層目)となるように入れて遠心成形を行い、厚み1mmのポリウレタンシートを作製したこと以外は、実施例1〜5と同様の手順でポリウレタンシートを作製し、同様に評価を行った。
なお、DIN摩耗については、X線造影剤を含有していない1層目に対して評価を実施した。
結果を、表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
この表2の結果からも、本発明によれば、X線検知性を有しつつ優れた強度を有するポリウレタン成形品を得られることがわかる。
【符号の説明】
【0057】
100:遠心成形機、110:金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを含有し、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める前記X線造影剤の割合が2質量%以上60質量%以下であることを特徴とする熱硬化性ポリウレタン組成物。
【請求項2】
前記X線造影剤が、硫酸バリウム、次硝酸ビスマス、三酸化ビスマス、タングステン又はその酸化物の内のいずれかからなる粒子である請求項1記載の熱硬化性ポリウレタン組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性ポリウレタンがポリエステル系熱硬化性ポリウレタンである請求項1又は2記載の熱硬化性ポリウレタン組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル系熱硬化性ポリウレタンを構成するポリエステルポリオールが、ポリカプロラクトンポリオールである請求項3記載の熱硬化性ポリウレタン組成物。
【請求項5】
熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを含有し、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める前記X線造影剤の割合が2質量%以上60質量%以下である熱硬化性ポリウレタン組成物が熱硬化された硬化体で少なくとも一部が形成されていることを特徴とするポリウレタン成形品。
【請求項6】
前記X線造影剤が、硫酸バリウム、次硝酸ビスマス、三酸化ビスマス、タングステン又はその酸化物の内のいずれかからなる粒子である請求項5記載のポリウレタン成形品。
【請求項7】
前記熱硬化性ポリウレタンがポリエステル系熱硬化性ポリウレタンである請求項5又は6記載のポリウレタン成形品。
【請求項8】
前記ポリエステル系熱硬化性ポリウレタンを構成するポリエステルポリオールが、ポリカプロラクトンポリオールである請求項7記載のポリウレタン成形品。
【請求項9】
シート、又はベルトである請求項5乃至8のいずれか1項に記載のポリウレタン成形品。
【請求項10】
熱硬化性ポリウレタンとX線造影剤とを含有し、前記熱硬化性ポリウレタンと前記X線造影剤との合計量に占める前記X線造影剤の割合が2質量%以上60質量%以下である熱硬化性ポリウレタン組成物を作製し、該熱硬化性ポリウレタン組成物を熱硬化させてポリウレタン成形品を作製することを特徴とするポリウレタン成形品の製造方法。
【請求項11】
前記X線造影剤が、硫酸バリウム、次硝酸ビスマス、三酸化ビスマス、タングステン又はその酸化物の内のいずれかからなる粒子である請求項10記載のポリウレタン成形品の製造方法。
【請求項12】
前記熱硬化性ポリウレタンがポリエステル系熱硬化性ポリウレタンである請求項10又は11記載のポリウレタン成形品の製造方法。
【請求項13】
前記ポリエステル系熱硬化性ポリウレタンを構成するポリエステルポリオールが、ポリカプロラクトンポリオールである請求項12記載のポリウレタン成形品の製造方法。
【請求項14】
前記熱硬化性ポリウレタンを構成するポリオール成分とポリイソシアネート成分の内の前記ポリオール成分と前記X線造影剤とを混合して一旦混合物を作製した後、該混合物と前記ポリイソシアネート成分とを混合する方法によって前記熱硬化性ポリウレタン組成物を作製する請求項10乃至13のいずれか1項に記載のポリウレタン成形品の製造方法。
【請求項15】
前記ポリイソシアネート成分が、遊離ポリイソシアネートを含有する擬プレポリマーである請求項14記載のポリウレタン成形品の製造方法。
【請求項16】
流動性を有する前記熱硬化性ポリウレタン組成物を作製し、該熱硬化性ポリウレタン組成物を遠心成形機で遠心成形して前記熱硬化させ、外周面側におけるX線造影剤の含有量が内周面側よりも多い筒状のポリウレタン成形品を作製する請求項10乃至15のいずれか1項に記載のポリウレタン成形品の製造方法。
【請求項17】
前記熱硬化性ポリウレタン組成物を遠心成形機で熱硬化させる前にX線造影剤を含有していない熱硬化性ポリウレタン組成物を前記遠心成形機内で遠心成形して半硬化させ、該半硬化の熱硬化性ポリウレタン組成物の内側にX線造影剤を含有する前記熱硬化性ポリウレタン組成物を入れて遠心成形することにより、厚み方向中央部におけるX線造影剤の含有量が内周面側及び外周面側よりも多い筒状のポリウレタン成形品を作製する請求項16に記載のポリウレタン成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12519(P2012−12519A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151058(P2010−151058)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】