説明

熱硬化性有機無機ハイブリッド透明封止材

【課題】太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の封止、光通信用の受光部の封止、発光ダイオード(LED)等の封止に使用されている透明封止材において、様々な被着体に対して密着性に優れ、吸湿試験、はんだリフロー試験、冷熱サイクル試験後に剥離やクラック等が発生せず、かつ外使いに問題ない程度の表面硬度を有する透明な接着・封止材料が求められている。
【解決手段】ハロゲン元素を含有する有機基で修飾され、さらに芳香環を含む炭化水素基または飽和炭化水素基のうち一つ以上で修飾されたシロキサン重合体を含む主剤と硬化剤を混合し、プラスチック基板および金属電極からなる被着体表面に塗布し、加熱硬化させる有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法。後工程および使用時の温度変化に伴う被着体からの剥離・クラックが発生せず、かつ外使いに問題ない程度の表面硬度を有する透明封止材が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基板および金属電極からなる被着体に対し優れた密着性を有し、かつ外使いに問題ない程度の表面硬度を有する有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の封止、光通信用の受光部の封止、発光ダイオード(LED)等の封止に使用されている透明封止材や、半導体パッケージと放熱板の接着剤等には、各種基板や被着体に対する優れた密着性が要求される。さらに、後工程および使用時の温度変化(環境変化)に対する優れた耐久性が要求される。
【0003】
後工程における温度変化としては、はんだ接続時の加熱工程がある。近年、環境問題の観点から接続用のはんだは、従来のSn−Pb共晶はんだ(融点:183℃)から、鉛フリーはんだ(融点:220℃)へ移行している。これにより、はんだリフロー温度が従来の230℃(Sn−Pb共晶はんだ)から260℃(鉛フリーはんだ)に上がり、接着剤・封止材にはより優れた耐リフロー性が要求されている。使用時の温度変化の評価方法としては、実使用環境を想定した冷熱サイクル試験がある。
【0004】
また、従来の樹脂製封止材は表面硬度が低く傷つきやすいため、最表面での使用ができなかったり、封止材表面をハードコート層で覆ったりする必要があった。
【特許文献1】特開2006−066761号公報
【特許文献2】特開2003−228076号公報
【特許文献3】特開平10−253972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の封止、光通信用の受光部の封止、発光ダイオード(LED)等の封止に使用されている透明封止材や、半導体パッケージと放熱板の接着剤等には吸湿(吸水)しやすいものが多く、あらかじめ吸湿(吸水)させた素子をはんだ接続に必要な温度に加熱すると、取り込まれていた水分が気化し急激に膨張するため、その圧力で接着界面が剥離するなどの不良が発生する。また、従来の樹脂製封止材は表面硬度が低く傷つきやすいため、最表面での使用ができない問題があった。吸湿(吸水)性が低く、はんだリフロー試験および冷熱サイクル試験により、剥離やクラック等が発生せず、かつ外使いに問題ない程度の表面硬度を有する透明な接着・封止材料はこれまでなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ハロゲン元素を含有する有機基で修飾され、さらに芳香環を含む炭化水素基または飽和炭化水素基のうち一つ以上で修飾されたシロキサン重合体を含む主剤と硬化剤を混合し、プラスチック基板および金属電極からなる被着体表面に塗布し、加熱硬化させる有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0007】
また、ハロゲン元素を含有する有機基で修飾されたSi原子の数が全Si原子のうち50%未満であることを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0008】
また、主剤の平均分子量が50000以下であることを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0009】
また、Sn系、Ti系、Al系、Zn系、Zr系、Bi系、Fe系、Co系、Mn系、P系、Ni系の有機金属化合物のうち少なくとも1種類以上を硬化剤として主剤に添加することを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0010】
また、硬化剤の添加量が50質量%以下であることを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0011】
また、300℃以下の温度で加熱することにより硬化することを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0012】
また、硬化後に被着体に対して良好な密着性を有することを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0013】
また、硬化後のショア硬度がD10以上であることを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【0014】
また、フェニル基、アミノ基のいずれか一方または両方を含有するプライマー溶液を用いて、被着体の表面にプライマー処理を施すことを特徴とする上記の有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の主剤と硬化剤を混合し、塗布し、加熱硬化することにより、後工程および使用時の温度変化(環境変化)に対して剥離やクラック等を発生させずに、かつ外使いに問題ない程度の表面硬度を有する透明な接着・封止を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、ハロゲン元素を含有する有機基で修飾され、さらに芳香環を含む炭化水素基または飽和炭化水素基のうち一つ以上で修飾されたシロキサン重合体を含む主剤と硬化剤を混合し、プラスチック基板および金属電極からなる被着体表面に塗布し、加熱硬化させる有機無機ハイブリッド透明封止材およびその製造方法に関する。ハロゲン元素として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素があるが、電気陰性度が大きいほど基板との密着性が良好となる傾向があるため特にフッ素が好ましい。
【0017】
また、ハロゲン元素を含有する有機基で修飾されたSi原子の数が全Si原子のうち50%未満であることが好ましい。50%以上の場合、水を吸着しやすくなり、基板との密着性に悪影響を及ぼしやすくなるためである。
【0018】
また、主剤の平均分子量が50000以下であることが好ましい。50000よりも大きい場合、塗布中にゲル化しやすい。
【0019】
また、Sn系、Ti系、Al系、Zn系、Zr系、Bi系、Fe系、Co系、Mn系、P系、Ni系の有機金属化合物のうち少なくとも1種類以上を硬化剤として主剤に添加することが好ましい。硬化剤を添加することにより、添加しない場合に比べ低温でかつ短時間に有機無機ハイブリッド材料を硬化させることができるからである。
【0020】
また、硬化剤の添加量が50質量%以下であることが好ましい。50質量%を超える場合、急激な縮合反応の進行により泡が残りやすいためである。
【0021】
また、300℃以下の温度で加熱することにより硬化することが好ましい。300℃を超える温度は被着体の耐熱温度よりも高い場合が多いからである。被着体の耐熱温度が低い場合、縮合反応の促進作用が強い硬化剤を用いることで、耐熱温度以下で硬化させることができる。加熱は、常圧下、加圧下、減圧下、不活性雰囲気下で行っても良い。また、マイクロ波加熱も有効である。
【0022】
また、硬化後に被着体に対して良好な密着性を有することが好ましい。密着性が不十分であると剥離が起こりやすくなり、外観不良、接触不良、強度不足、断線などの不具合原因となるためである。
【0023】
また、硬化後のショア硬度がD10以上であることが好ましい。ショア硬度がD10未満の場合、傷つきやすいため最表面での使用ができなかったり、封止材表面をハードコート層で覆う必要があったりするためである。
【0024】
また、フェニル基、アミノ基のいずれか一方または両方を含有するプライマー溶液を用いて、被着体の表面にプライマー処理を施すことが好ましい。被着体表面にプライマー処理を施すことは密着性の改善に有効である。プライマーとしては、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2,(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、p−[N−(2−アミノエチル)アミノメチル]フェネチルトリメトキシシラン等の1種類または2種類以上のシランカップリング剤を組み合わせたものが挙げられ、特に3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。また、希釈溶媒は、プライマーを均一に溶解する有機溶媒が好ましく、特に被着体が水に弱い場合は水に対して溶解しないあるいは難溶な有機溶媒が好ましい。
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0026】
(主剤の作製)
室温で主剤の原料アルコキシシランであるフェニルトリメトキシシラン(PhSi(OMe)3)13g、ジメチルジメトキシシラン(Me2Si(OMe)2)8g、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン3gを70gのエタノールに溶解させた後、水135g、氷酢酸9mgを加えて混合した。混合溶液を開放系で100℃で3時間加熱撹拌し無色透明な粘性液体を得た。これをジエチルエーテルに溶解し、純水で酢酸を抽出した。ジエチルエーテルを留去し、無色透明な粘性液体(以下、主剤と呼ぶ)を得た。この主剤の平均分子量は1200であった。
【0027】
(封止サンプルの作製)
3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランの酢酸イソブチル溶液を用いて、市販のプリント配線されたプラスチック基板表面をプライマー処理した。主剤に硬化剤としてジブチルスズジアセテートを1質量%添加し、この基板に塗布し、60℃で3時間、100℃で3時間、150℃で5時間、170℃で2分間、260℃で1分間加熱して封止サンプルを作製した。硬化後のショア硬度はD75であり十分な表面硬度を示した。−40℃〜100℃での冷熱サイクル試験(JIS C 0025(1988)「環境試験方法(電気・電子)温度変化試験方法」に準拠)を行ったところ、剥離やクラックは発生せず良好な密着性を示した。さらに、40℃、90%RHで10日間保持後の封止サンプルに対して260℃で10秒間はんだ耐熱試験(JIS C 60068−2−20(1979)「環境試験方法−電気・電子−はんだ付け試験方法」に準拠)を行ったところ、剥離やクラックは発生せず良好な密着性を示した。
【実施例2】
【0028】
(主剤の作製)
室温で主剤の原料アルコキシシランであるフェニルトリメトキシシラン(PhSi(OMe)3)9g、ジメチルジメトキシシラン(Me2Si(OMe)2)11g、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン3gを40gのエタノールに溶解させた後、水135g、氷酢酸9mgを加えて混合した。混合溶液を密閉系で100℃で5時間加熱撹拌し無色透明な粘性液体を得た。これをジエチルエーテルに溶解し、純水で酢酸を抽出した。ジエチルエーテルを留去し、無色透明な粘性液体(以下、主剤と呼ぶ)を得た。この主剤の平均分子量は600であった。
【0029】
(封止サンプルの作製)
3−アミノプロピルトリメトキシシランの酢酸イソブチル溶液を用いて、市販のフレキシブル基板表面をプライマー処理した。主剤に硬化剤としてビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイドを1質量%添加し、この基板に塗布し、60℃で3時間、100℃で3時間、150℃で5時間、170℃で2分間、260℃で1分間加熱して封止サンプルを作製した。硬化後のショア硬度はD62であり十分な表面硬度を示した。−40℃〜100℃での冷熱サイクル試験(JIS C 0025に準拠)を行ったところ、剥離やクラックは発生せず良好な密着性を示した。さらに、40℃、90%RHで10日間保持後の封止サンプルに対して260℃で10秒間はんだ耐熱試験(JIS C 60068−2−20に準拠)を行ったところ、剥離やクラックは発生せず良好な密着性を示した。
【実施例3】
【0030】
(主剤の作製)
室温で主剤の原料アルコキシシランであるフェニルトリメトキシシラン(PhSi(OMe)3)13g、ジメチルジメトキシシラン(Me2Si(OMe)2)8g、(3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロプロピル)トリメトキシシラン5gを70gのエタノールに溶解させた後、水135g、氷酢酸9mgを加えて混合した。混合溶液を開放系で100℃で3時間加熱撹拌し無色透明な粘性液体を得た。これをジエチルエーテルに溶解し、純水で酸を抽出した。ジエチルエーテルを留去し、無色透明な粘性液体(以下、主剤と呼ぶ)を得た。この主剤の平均分子量は630であった。
【0031】
(封止サンプルの作製)
3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランのトルエン溶液を用いて、市販のフレキシブル基板表面をプライマー処理した。主剤に硬化剤としてアセチルアセトンアルミニウムを2質量%添加し、この基板に塗布し、60℃で3時間、100℃で3時間、150℃で5時間、170℃で2分間、260℃で1分間加熱して封止サンプルを作製した。硬化後のショア硬度はD77であり十分な表面硬度を示した。−40℃〜100℃での冷熱サイクル試験(JIS C 0025に準拠)を行ったところ、剥離やクラックは発生せず良好な密着性を示した。さらに、40℃、90%RHで10日間保持後の封止サンプルに対して260℃で10秒間はんだ耐熱試験(JIS C 60068−2−20に準拠)を行ったところ、剥離やクラックは発生せず良好な密着性を示した。
【0032】
(比較例1)
市販のフレキシブル基板表面を3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランのトルエン溶液でプライマー処理した。封止・接着用に市販されているシリコーン樹脂を用いてこの基板に塗布し、封止サンプルを作製した。硬化後のショア硬度はD5であり傷つきやすかった。この封止サンプルを用いて−40℃〜100℃での冷熱サイクル試験、および、40℃、90%RHで10日間保持した後に260℃で10秒間はんだ耐熱試験を行ったところ、剥離およびクラックが全数にわたって発生した。
【0033】
(比較例2)
市販のプリント配線されたプラスチック基板表面を3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランの酢酸イソブチル溶液でプライマー処理した。封止・接着用に市販されているエポキシ樹脂を用いてこの基板に塗布し、封止サンプルを作製した。この封止サンプルを用いて−40℃〜100℃での冷熱サイクル試験、および、40℃、90%RHで10日間保持した後に260℃で10秒間はんだ耐熱試験を行ったところ、剥離およびクラックが全数にわたって発生した。
【0034】
(比較例3)
市販のプリント配線されたプラスチック基板表面を3−アミノプロピルトリメトキシシランの酢酸イソブチル溶液でプライマー処理した。封止・接着用に市販されているウレタン樹脂を用いてこの基板に塗布し、封止サンプルを作製した。この封止サンプルを40℃、90%RHで10日間保持したところ、剥離が発生した。さらにこのサンプルを用いて260℃で10秒間はんだ耐熱試験を行ったところ、剥離およびクラックが全数にわたって発生した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
バックライト、表示板、ディスプレイ、各種インジケーター等に使用されている発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子の封止、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の封止、光通信用の受光部の封止等に使用されている透明封止材や、半導体パッケージと放熱板の接着剤等に使用することができる。また、PDPを始めとするディスプレイ部品の封着・被覆用材料、光スイッチや光結合器を始めとする光情報通信デバイス材料、光学機器材料、光機能性(非線形)光学材料、接着材料等、低融点ガラスが使われている分野、エポキシ樹脂等の有機材料が使われている分野に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン元素を含有する有機基で修飾され、さらに芳香環を含む炭化水素基または飽和炭化水素基のうち一つ以上で修飾されたシロキサン重合体を含む主剤と硬化剤を混合し、プラスチック基板および金属電極からなる被着体表面に塗布し、加熱硬化させる有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項2】
ハロゲン元素を含有する有機基で修飾されたSi原子の数が全Si原子のうち50%未満であることを特徴とする請求項1に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項3】
主剤の平均分子量が50000以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項4】
Sn系、Ti系、Al系、Zn系、Zr系、Bi系、Fe系、Co系、Mn系、P系、Ni系の有機金属化合物のうち少なくとも1種類以上を硬化剤として主剤に添加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項5】
硬化剤の添加量が50質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項6】
300℃以下の温度で加熱することにより硬化することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項7】
硬化後に被着体に対して良好な密着性を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項8】
硬化後のショア硬度がD10以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。
【請求項9】
フェニル基、アミノ基のいずれか一方または両方を含有するプライマー溶液を用いて、被着体の表面にプライマー処理を施すことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド透明封止材。

【公開番号】特開2010−70714(P2010−70714A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242288(P2008−242288)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】