説明

熱硬化性樹脂粉末組成物、熱硬化性樹脂タブレット、光半導体素子搭載用基板及び光半導体装置

【課題】加工装置や成形装置への付着を十分に低減し、機械的強度の高いタブレットを作製できる熱硬化性樹脂粉末組成物、及び、これを用いて成形される熱硬化性樹脂タブレットを提供すること。
【解決手段】 本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)白色顔料及び(D)撥水性粉末を含有する熱硬化性樹脂粉末組成物であって、(A)エポキシ樹脂は、重量平均分子量500〜5000のエポキシ樹脂を含み、(B)硬化剤は、重量平均分子量500〜5000の酸無水物硬化剤を含む熱硬化性樹脂粉末組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂粉末組成物、熱硬化性樹脂タブレット及びその製造方法、光半導体素子搭載用基板及びその製造方法並びに光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)等の光半導体素子と蛍光体とを組み合わせた光半導体装置は、エネルギー効率が高く、寿命が長いことから、屋外用ディスプレイ、携帯液晶バックライト、車載用途に使用され、その需要が拡大しつつある。これに伴いLEDデバイスの高輝度化が進んでおり、素子の発熱量増大によるジャンクション温度の上昇や、直接的な光エネルギーの増大による光半導体装置の劣化を防ぐことが求められている。
【0003】
特許文献1には、硬化剤として酸無水物を含む熱硬化性樹脂組成物を、リフレクターの材料として用いた光半導体素子搭載用基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−140207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、熱硬化性樹脂組成物からリフレクターを形成する方法としては、例えば、熱硬化性樹脂組成物を粉砕して円筒状のタブレットに成形した後、トランスファーモールド成形する方式が提案されている。
【0006】
熱硬化性樹脂組成物からタブレットを成形する方法としては、例えば、図1に示すような方法が挙げられる。すなわち、熱硬化性樹脂組成物の原料を供給する工程(原料供給工程)、原料を加熱し溶融させて混合する工程(混練工程)、混練後の熱硬化性樹脂組成物を冷却する工程(冷却工程)、冷却後の熱硬化性樹脂組成物を粉砕する工程(粉砕工程)、粉砕された熱硬化性樹脂組成物の粉末を成形金型に入れ打錠してタブレットを得る工程(打錠工程)を備える方法である。
【0007】
しかしながら、上記粉砕工程においては、熱硬化性樹脂組成物が付着性を有していると粉砕装置内に付着し、粉砕が困難となる場合がある。また、上記打錠工程においては、成形金型の表面に粉末が付着し、打錠する際にタブレットが破壊されることがある。
【0008】
一方、従来の熱硬化性樹脂組成物から成形されるタブレットは、外力に対する機械的強度が低い傾向にあり、ひび割れが生じたり、表面に傷がついたりすことがある。また、作製したタブレットを同一の容器に充填した際に、タブレット同士が融着してしまったり、タブレットに変形が生じたりして、その後のトランスファーモールド成形に使用できなくなることがある。
【0009】
本発明は、加工装置や成形装置への付着を十分に低減し、機械的強度の高いタブレットを作製できる熱硬化性樹脂粉末組成物、並びに、これを用いて成形される熱硬化性樹脂タブレット及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、該熱硬化性樹脂粉末組成物を用いた光半導体搭載用基板及びその製造方法、並びに光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)白色顔料及び(D)撥水性粉末を含有する熱硬化性樹脂粉末組成物であって、(A)エポキシ樹脂は、重量平均分子量500〜5000のエポキシ樹脂を含み、(B)硬化剤は、重量平均分子量500〜5000の酸無水物硬化剤を含む熱硬化性樹脂粉末組成物を提供する。
【0011】
上記熱硬化性樹脂粉末組成物は、上記(A)〜(D)成分を含有し、かつ、特定の分子量を有するエポキシ樹脂及び酸無水物硬化剤を用いることにより、加工装置や成形装置への付着を十分に低減し、機械的強度の高いタブレットを成形することできる。
【0012】
(D)撥水性粉末が無色固体であると、本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物を光半導体搭載用基板に用いた場合に、光の反射率を向上することができる。
【0013】
また、熱硬化性樹脂粉末組成物の加工装置や成形装置への付着をより低減する観点から、(D)撥水性粉末は、金属石鹸、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む無機粉末であることが好ましい。
【0014】
さらに、(D)撥水性粉末が、下記式(I)で表される構造を有する金属石鹸であると、熱硬化性樹脂粉末組成物の加工装置や成形装置への付着をより一層低減することができる。
【0015】
(R−COO) (I)
[式中、Rは、炭素数3〜50のアルキレン基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、エポキシ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する1価の有機基、又は、炭素数3〜500のポリアルキレンエーテル基を示し、Mは、第3周期の金属元素、11族、2族、12族、3族、13族、14族、4族、8族、9族又は10族に属する金属元素を示し、qは1〜4の整数を示す。]
【0016】
上記Mは、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛であることが好ましい。
【0017】
(C)白色顔料が、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム及び炭酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物を含むことにより、熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物の反射特性を確保でき、光学材料としての性能を十分に発揮することができる。
【0018】
本発明はまた、上記熱硬化性樹脂粉末組成物を加圧成形して得られる熱硬化性樹脂タブレットを提供する。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂タブレットは、(A)エポキシ樹脂、(B)酸無水物硬化剤及び(C)白色顔料を溶融混合した後、粉砕して熱硬化性樹脂粉末を得る工程と、該熱硬化性樹脂粉末と(D)撥水性粉末とを乾式混合して熱硬化性樹脂粉末組成物を得る工程と、該熱硬化性樹脂粉末組成物を加圧成形してタブレットを作製する工程とを備える製造方法により作製することができる。
【0020】
本発明はさらに、底面及び壁面から構成される凹部を有し、凹部の底面が光半導体素子搭載部であり、凹部の壁面の少なくとも一部が上記本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物からなる光半導体素子搭載用基板を提供する。
【0021】
また、本発明は、底面及び壁面から構成される凹部を有する光半導体素子搭載用基板の製造方法であって、凹部の壁面の少なくとも一部を、上記熱硬化性樹脂粉末組成物をトランスファー成形して形成する工程を備える光半導体素子搭載用基板の製造方法を提供する。
【0022】
さらに、本発明は、上記光半導体素子搭載用基板と、光半導体素子搭載用基板に搭載された光半導体素子と、凹部を充填して前記光半導体素子を封止する封止樹脂部とを備える、光半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加工装置や成形装置への付着を十分に低減し、機械的強度の高いタブレットを作製できる熱硬化性樹脂粉末組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記熱硬化性樹脂粉末組成物を用いた成形される機械的強度の高い熱硬化性樹脂タブレット、光半導体搭載用基板及び光半導体搭載用基板の製造方法、並びに光半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】熱硬化性樹脂組成物からタブレットを作製する工程を示すフローチャートで ある。
【図2】熱硬化性樹脂粉末組成物からタブレットを成形する工程を示す概略断面図である。
【図3】本発明の光半導体素子搭載用基板の一実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の光半導体素子搭載用基板を製造する工程の一実施形態を示す概略図 である。
【図5】本発明の光半導体素子搭載用基板に光半導体素子を搭載した状態の一実施形 態を示す斜視図である。
【図6】本発明の光半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。
【図7】本発明の光半導体装置の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【図8】本発明の光半導体装置の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により標準ポリスチレンによる検量線を用いて下記条件で測定することで得られる。
(GPC条件)
ポンプ:L−6200型(株式会社日立製作所製、商品名)
カラム:TSKgel―G5000HXL及びTSKgel−G2000HXL(東ソー株式会社製、商品名)
検出器:L−3300RI型(株式会社日立製作所製、商品名)
溶離液:テトラヒドロフラン
測定温度:30℃
流量:1.0mL/分
【0027】
[熱硬化性樹脂粉末組成物]
本実施形態の熱硬化性樹脂粉末組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)白色顔料及び(D)撥水性粉末を含有する。以下、本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物の構成成分について詳述する。
【0028】
<(A)エポキシ樹脂>
(A)エポキシ樹脂としては、特に限定されず、光反射用熱硬化性樹脂組成物や電子部品封止用成形材料で一般に使用されているものを用いることができる。ただし、(A)成分は、重量平均分子量(以下、「Mw」と表記する)500〜5000のエポキシ樹脂を含み、Mwが500〜3000のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。このようなエポキシ樹脂を含むことで、熱硬化性樹脂粉末組成物の加工装置や成形装置への付着を十分に低減し、機械的強度の高いタブレットを成形することできる。
【0029】
エポキシ樹脂として、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のフェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS及びアルキル置換ビスフェノール等のジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタン及びイソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、並びに脂環族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物の着色を抑制する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート及び脂環族エポキシ樹脂を用いることができる。
【0031】
また、(A)エポキシ樹脂として、重量平均分子量500〜5000のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を併用することができる。
【0032】
<(B)硬化剤>
(B)硬化剤は、重量平均分子量500〜5000の酸無水物硬化剤を含む。
【0033】
Mw500〜5000の酸無水物硬化剤として、2つ以上の多価カルボン酸が縮合した多価カルボン酸縮合縮合体を用いることができる。「多価カルボン酸縮合体」とは、2以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸の1種又は2種以上が分子間で縮合して形成される重合体を意味する。より詳細には、多価カルボン酸縮合体は、2以上のカルボキル基を有する2分子以上のモノマーの分子間で、それぞれが有するカルボキシ基が脱水縮合することにより酸無水物基(酸無水物結合)を生成し、生成した酸無水物基によって各モノマー単位が鎖状又は環状に連結されている重合体である。多価カルボン酸縮合体は、通常、重合度の異なる複数の成分から構成され、繰り返し単位及び末端基の構成が異なる。下記式(2)で表される成分の割合は、多価カルボン酸縮合体全量を基準として60質量%以上である。
【0034】
【化1】

【0035】
上記式(2)中、Rxは、2価の有機基であり、Ryは、1価の有機基であり、n1は1以上の整数を示す。n1は、1〜200の整数であることが好ましい。
【0036】
Rxは飽和炭化水素環を有する2価の飽和炭化水素基であることが好ましい。Rxが飽和炭化水素環を有する飽和炭化水素基であることにより、当該多価カルボン酸縮合体はエポキシ樹脂の透明な硬化物を形成させることが可能である。同一分子中の複数のRxは同一でも異なっていてもよい。Rxの飽和炭化水素環はハロゲン原子又は直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基で置換されていてもよい。飽和炭化水素環を置換する炭化水素基は好ましくは飽和炭化水素基である。飽和炭化水素環は単環でもよいし、2以上の環から構成される縮合環、ポリシクロ環、スピロ環又は環集合であってもよい。Rxの炭素数は好ましくは3〜15である。
【0037】
Rxは上記式(2)で表される成分(重合体)を得るために用いられるモノマーとしての多価カルボン酸からカルボキシル基を除いて誘導される基である。モノマーとしての多価カルボン酸は、重縮合の反応温度よりも高い沸点を有することが好ましい。
【0038】
より具体的には、Rxはシクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、シクロオクタン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、アダマンタン、水素化ヒドロナフタレン及び水素化ビフェニルから選ばれる環式脂肪族炭化水素から水素原子を除くことにより誘導される2価の基であることが好ましい。Rxがこれらの基であることにより、透明で熱による着色の少ない硬化物が得られるという効果がより一層顕著に奏される。これら環式飽和炭化水素は、ハロゲン原子又は直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基(好ましくは飽和炭化水素基)で置換されていてもよい。
【0039】
特に、Rxは1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸又はこれらの誘導体からカルボキシル基を除いて誘導される基であることが好ましい。すなわち、Rxは下記式(3)で表される2価の基であることが好ましい。下記式(3)中、mは0〜4の整数を示す。Rzはハロゲン原子又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4の炭化水素基を示す。mが2〜4であるとき、複数のRzは同一でも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。
【0040】
【化2】

【0041】
上記式(2)中の末端基であるRyは酸無水物基又はカルボン酸エステル基で置換されていてもよい1価の炭化水素基を示す。2個のRyは同一でも異なっていてもよい。Ryは、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数2〜15の脂肪族若しくは芳香族モノカルボン酸(安息香酸等)からカルボキシル基を除くことにより誘導される1価の基であってもよい。
【0042】
Ryは、好ましくは、下記式(4)で表される1価の基、又は、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、シクロオクタン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、アダマンタン、水素化ナフタレン及び水素化ビフェニルから選ばれる環式脂肪族炭化水素から水素原子を除くことにより誘導される1価の基である。Ryがこれらの基であることにより、熱による着色の少ない硬化物が得られるという効果がより一層顕著に奏される。また、Ryがこれらの基であると、多価カルボン酸縮合体中のカルボン酸残基の濃度が低減すると共に、分子量の分散を抑えることができる。
【0043】
【化3】

【0044】
Rxが上記式(3)で表される2価の基であり、同時に、Ryが上記式(4)で表される1価の基であってもよい。すなわち、本実施形態に係る多価カルボン酸縮合体は、上記式(2)で表される成分として、下記式(2a)で表される成分を含んでいてもよい。
【0045】
【化4】

【0046】
上記式(2a)のn1は、上記式(2)のn1と同様に、1以上の整数を示し、好ましくは1〜200の整数である。
【0047】
多価カルボン酸縮合体のMwは、500〜5000であり、500〜3000であることが好ましい。Mwが500未満では、粘度が低くなりすぎてトランスファー成形時に成形装置に熱硬化性樹脂粉末組成物が付着することがあり、5000を超えると、エポキシ樹脂との相溶性が低下する傾向や、熱硬化性樹脂粉末組成物のトランスファー成形時の流動性が低下する傾向がある。
【0048】
多価カルボン酸縮合体は、多価カルボン酸及び必要に応じて用いられるモノカルボン酸を含む反応液中で脱水縮合させることにより得られる。例えば、下記式(5)で表されるジカルボン酸及び下記式(6)で表されるモノカルボン酸を含む反応液中で、それぞれが有するカルボキシル基を分子間で脱水縮合させる工程を備える方法によって得ることができる。
【0049】
【化5】

【0050】
脱水縮合の反応液は、例えば、多価カルボン酸及びモノカルボン酸と、これらを溶解する無水酢酸又は無水プロピオン酸、塩化アセチル、脂肪族酸塩化物及び有機塩基(トリメチルアミン等)から選ばれる脱水剤とを含有する。例えば、反応液を5〜60分にわたって窒素雰囲気下で還流した後、反応液の温度を180℃まで上昇させて窒素気流下の開放系で、生成する酢酸及び水を留去することにより重縮合を進行させる。揮発成分の発生が認められなくなった時点で、反応容器内を減圧しながら180℃の温度で3時間にわたって、より好ましくは8時間にわたって溶融状態で重縮合を進行させる。生成した多価カルボン酸縮合体を、無水酢酸等の非プロトン性溶媒を用いた再結晶や再沈殿法によって精製してもよい。
【0051】
なお、脱水縮合反応において、所望のICIコーンプレート粘度、重量平均分子量、軟化点が得られるように適宜反応条件を変えることができ、上記反応条件に限られるものではない。例えば、多価カルボン酸縮合体の縮合反応前の、多価カルボン酸とモノカルボン酸の仕込み組成比により、生成物のICIコーンプレート粘度、重量平均分子量及び軟化点を所望の値に調整することができる。多価カルボン酸の比率が多くなるほど、ICIコーンプレート粘度、重量平均分子量、軟化点が増加する傾向にある。
【0052】
多価カルボン酸縮合体は、モノカルボン酸の2分子との縮合物、多価カルボン酸とモノカルボン酸との縮合物、多価カルボン酸及びモノカルボン酸の未反応物、並びに、無水酢酸及び無水プロピオン酸等の反応試薬と多価カルボン酸又はモノカルボン酸とが縮合反応して生成する酸無水物のような副生成物を含んでいる場合がある。これら副生成物は、精製によって除いてもよく、また、混合物のまま硬化剤として用いることも出来る。
【0053】
多価カルボン酸縮合体の軟化点は、40℃〜180℃であることが好ましい。軟化点が40℃未満では熱硬化性樹脂粉末組成物の製造時においてハンドリング性、混練性及び白色顔料の分散性が低下し、トランスファー成形時の熱硬化性樹脂粉末組成物の汚れの発生を効果的に抑え難くなる傾向がある。軟化点が180℃を超えると、トランスファー成形によって170℃〜190℃に加熱した場合に樹脂粉末組成物中に硬化剤が溶け残る可能性があり、均一な成形体が得られ難くなる傾向がある。
【0054】
多価カルボン酸縮合体の軟化点は、主鎖の構造の選択と重量平均分子量の調整で所望の範囲にすることができる。一般に、モノマーとして長鎖の二価カルボン酸を用いると軟化点を低くすることができ、また、極性の高い構造を導入すると軟化点を高くすることができる。また、一般に、重量平均分子量を大きくすれば軟化点を低下させることができる。
【0055】
(B)硬化剤として、上記Mw500〜5000の酸無水物硬化剤と共に、電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料で一般に使用されている硬化剤を併用することができる。このような硬化剤としては、エポキシ樹脂と反応するものであれば、特に制限されないが、無色又は淡黄色であることが好ましい。このような硬化剤として、例えば、酸無水物系硬化剤、イソシアヌル酸誘導体及びフェノール系硬化剤が挙げられる。
【0056】
イソシアヌル酸誘導体としては、例えば、1,3,5−トリス(1−カルボキシメチル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3−カルボキシプロピル)イソシアヌレート及び1,3−ビス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0057】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
【0058】
これらの硬化剤の中では、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸又は1,3,5−トリス(3−カルボキシプロピル)イソシアヌレートを用いることが好ましい。また、上記硬化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0059】
上述の併用可能な硬化剤は、分子量が100〜400であることが好ましい。また、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の芳香環を有する酸無水物よりも、芳香環の不飽和結合のすべてを水素化した無水物が好ましい。
【0060】
(B)硬化剤の配合量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、1〜150質量部であることが好ましく、50〜120質量部であることがより好ましい。
【0061】
また、(B)硬化剤は、(A)エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、当該エポキシ基との反応可能な(B)硬化剤中の活性基(酸無水物基又は水酸基)が0.5〜0.9当量となるように配合することが好ましく、0.7〜0.8当量となることがより好ましい。上記活性基が0.5当量未満では、熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化速度が遅くなる傾向があり、上記活性基が0.9当量を超えると、硬化物の機械的強度が低下する傾向がある。
【0062】
<(C)白色顔料>
(C)白色顔料としては、公知のものを使用することができ、特に限定されない。(C)白色顔料として、例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム及び無機中空粒子が挙げられる。無機中空粒子としては、例えば、珪酸ソーダガラス、アルミ珪酸ガラス、硼珪酸ソーダガラス、シラス(白砂)が挙げられる。(C)白色顔料として、中でも特に、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム及び炭酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物を含むことが好ましい。
【0063】
(C)白色顔料を含むことにより、熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物は優れた反射率を有することとなり、光半導体搭載用基板に備えられる光反射用材料として用いた場合に、高輝度の光半導体装置を得ることができる。
【0064】
白色顔料の粒径は、中心粒径が0.1〜50μmであることが好ましい。中心粒径が0.1μm未満であると粒子が凝集しやすく分散性が低下する傾向があり、50μmを超えると熱硬化性樹脂粉末組成物からなる硬化物の反射特性が十分に得られ難くなる。
【0065】
(C)白色顔料の配合量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂粉末組成物全体に対して、10〜85体積%であることが好ましく、20〜75体積%であることがより好ましい。(C)白色顔料の配合量が10体積%以上未満であれば硬化後の熱硬化性樹脂粉末組成物の光反射特性が向上する傾向にあり、85体積%以下であれば熱硬化性樹脂粉末組成物の成形性が向上する傾向にある。
【0066】
<(D)撥水性粉末>
本実施形態の熱硬化性樹脂粉末組成物は、(D)撥水性粉末を含有することで、硬化前に乾燥粉末の形状をとることができ、室温での加圧成形が可能となる。また、(D)撥水性粉末を含有することで、疎水性の高いタブレットを作製することができる。
【0067】
(D)撥水性粉末は、無色固体の粉末であることが好ましい。無色固体の粉末は、例えば、日本工業規格(JIS)Z8722に準じた白度の測定方法により白度90%以上の固体を粉砕したものである。
【0068】
(D)成分として無色固体の粉末を用いることにより、硬化後の熱硬化性樹脂粉末組成物の光学反射率を向上することができる。
【0069】
(D)撥水性粉末として、金属石鹸、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む無機粉末を用いることができる。金属石鹸は溶融温度が低いため、低粘度で高流動性の樹脂粉末組成物が得られやすく、かつ、タブレットを作製した際の離型性を向上することができる。フッ素樹脂及びシリコーン樹脂についてはこれらそのものの溶融粘度が高く、これらを含有するタブレットは高い疎水性を示し、熱硬化性樹脂粉末組成物とした際に加熱溶融粘度が高く、流動性が低い樹脂粉末組成物が得られる傾向がある。
【0070】
(D)撥水性粉末として、下記式(I)で表される構造を有する金属石鹸を用いることができる。
(R−COO) (I)
【0071】
式(I)中、Mは、第3周期の金属元素、11族、2族、12族、3族、13族、14族、4族、8族、9族又は10族に属する金属元素を示す。Mとして、具体的には、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛が挙げられ、化学的又は物理的な安定性の観点から、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛が好ましく、亜鉛が更に好ましい。
【0072】
式(I)中、Rは、炭素数3〜50のアルキレン基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、エポキシ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する1価の有機基、又は、炭素数3〜500のポリアルキレンエーテル基を示す。Rとして具体的には、、脂肪族カルボン酸であるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸等の炭素数10〜50の1価の有機酸が挙げられる。
【0073】
式(I)中、qは、1〜4の整数を示す。
【0074】
下記式(I)で表される構造を有する金属石鹸として、具体的には、アルミニウムステアレート、亜鉛ステアレート等が挙げられ、市販品として入手可能なものとしては日本油脂株式会社製ジンクステアレート及びアルミニウムステアレート300が挙げられる。
【0075】
上記金属石鹸は、一般に、有機酸のアルカリ金属塩水溶液と、上記Mの金属塩とから湿式法により、又は、原料である脂肪酸と上記Mの金属とを直接反応させる乾式法により作製することができる。なお、金属石鹸は、遊離脂肪酸や水分を含んでいる場合がある。
【0076】
金属石鹸中の遊離脂肪酸の含有量は、0〜35℃の条件下で測定される20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。金属石鹸中の遊離脂肪酸の含有量を20質量%以下とすることで、エポキシ樹脂の硬化性を阻害することを低減でき、硬化物の光反射率の低下や耐熱着色性を抑制することができる。
【0077】
金属石鹸中の水分の含有量は、0〜35℃の条件下で測定される10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。金属石鹸中の水分の含有量を10質量%以下とすることで、成形体の耐リフロー性の低下を抑制でき、硬化物の光反射率の低下や耐熱着色性を抑制することができる。
【0078】
(D)撥水性粉末は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤等の樹脂成分に対する分散性の観点から、融点が100℃以上200℃未満であることが好ましく、100℃以上、150℃未満であることがより好ましく、110℃以上135℃未満であることが更に好ましい。(D)撥水性粉末の融点が200℃未満であれば、樹脂成分に対する分散性を向上でき、トランスファー成形工程において、熱硬化性樹脂粉末組成物中に(D)撥水性粉末が固形のまま偏在することを防ぐことができ、離型性をより向上することができる。また、(D)撥水性粉末の融点が100℃以上であれば、ミキシングロールミルやニ軸押出混練時に、熱硬化性樹脂粉末組成物の粘度低下を抑制でき、十分な混練性を確保しやくすなる。
【0079】
(D)撥水性粉末の配合量は、特に限定されないが、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤及び(C)白色顔100質量部に対して、0.1〜5質量部とすることができる。
【0080】
<その他の成分>
(硬化促進剤)
本実施形態の熱硬化性樹脂粉末組成物には、必要に応じて硬化促進剤を配合することができる。硬化促進剤としては、(A)エポキシ樹脂及び(B)硬化剤の硬化反応を促進させるような触媒機能を有するものであれば、特に限定されることなく用いることができる。硬化促進剤としては、例えば、アミン化合物、イミダゾール化合物、有機リン化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの硬化促進剤の中でも、アミン化合物、イミダゾール化合物又は有機リン化合物を用いることが好ましい。
【0081】
アミン化合物としては、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、トリ−2,4,6−ジメチルアミノメチルフェノールが挙げられる。イミダゾール化合物として、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾールが挙げられる。有機リン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオエート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−テトラフルオロボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−テトラフェニルボレートが挙げられる。これらの硬化促進剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
硬化促進剤の配合量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、0.01〜8重量部であることが好ましく、0.1〜3質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の含有量が、0.01質量部以上であれば、十分な硬化促進効果が得られる傾向にあり、8質量部以下であれば、成形体の変色を抑制することができる。
【0083】
本実施形態の熱硬化性樹脂粉末組成物は、必要に応じて上記(C)白色顔料とは別に、無機充填材を更に含んでいてもよい。無機充填材としては、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム及び炭酸バリウムからなる群の中から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。熱伝導性、光反射特性及び成形性の点から、シリカが好ましい。また、無機の充填材の粒径は特に限定されるものではないが、白色顔料とのパッキングが効率良くなるように1〜100μmの範囲のものを用いることが好ましい。
【0084】
無機充填材の配合量は、熱硬化性樹脂粉末組成物全体に対して、10〜85体積%であることが好ましく、この範囲とすることで光反射特性及び成形性を両立し易くなる。
【0085】
(カップリング剤)
熱硬化性樹脂粉末組成物には、(A)エポキシ樹脂及び(B)硬化剤と、(C)白色顔料との接着性を向上させる観点からカップリング剤を添加することが好ましい。カップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤及びチタネート系カップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、一般にエポキシシラン系、アミノシラン系、カチオニックシラン系、ビニルシラン系、アクリルシラン系、メルカプトシラン系及びこれらの複合系が挙げられ、任意の添加量で用いることができる。なお、カップリング剤の配合量は、熱硬化性樹脂粉末組成物全体に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0086】
また、熱硬化性樹脂粉末組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、離型剤、イオン捕捉剤等の添加剤を添加してもよい。
【0087】
熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物の反射率は、波長440〜800nmの範囲で80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。硬化物の反射率が80%以上であるこで、光半導体装置に用いた際に素子からの光を効率よく反射し、光取り出し効率に優れた光半導体素子搭載用基板を得ることができる。
【0088】
本実施形態の熱硬化性樹脂粉末組成物は、上記した各種成分を均一に分散混合することで得ることができ、その手段や条件等は特に限定されない。
【0089】
本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物の好適な一実施形態として、上記熱硬化性樹脂粉末組成物からなる熱硬化性樹脂タブレット及びその製造方法について、図2を参照しながら説明する。図2は、タブレットを成形する方法を示す概略断面図である。
【0090】
本実施形態の熱硬化性樹脂タブレットは、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤及び(C)白色顔料を溶融混合した後、粉砕して熱硬化性樹脂粉末を得る工程と、該熱硬化性樹脂粉末と(D)撥水性粉末とを乾式混合して熱硬化性樹脂粉末組成物を得る工程と、該熱硬化性樹脂粉末組成物を加圧成形してタブレットを作製する工程とを備える製造方法により作製することができる。具体的な方法について、以下に説明する。
【0091】
まず、(D)撥水性粉末以外の原料を、ニーダー、ロールミル、エクストルーダー等の混練機によって混練する。原料を混練する際には、各成分の分散性を向上する観点から、溶融状態で、スクリューを備える混練機を用いることが好ましい。混練の条件は、各成分の種類や配合量により適宜決定すればよく、例えば、40〜150℃で0.5〜40分間混練することが好ましく、50〜130℃で1〜20分間混練することがより好ましい。
【0092】
混練後の樹脂は、室温付近(−20〜40℃)に冷却され、粉砕され、熱硬化性樹脂粉末が形成される。上記冷却後の樹脂は、室温付近において乾式粉砕が可能である。乾式粉砕は、例えば、高速攪拌ミル、ヘンシェルミキサ、パワーミル、ジェットミル、ロールグラニュレータなどの粉砕装置を用いて行うことができる。これらの粉砕装置は、目的の粉末粒径により使い分けることができる。
【0093】
次いで、得られた熱硬化性樹脂粉末と、(D)撥水性粉末とを乾式混合して熱硬化性樹脂粉末組成物を得ることができる。乾式混合は、ロッキングミキサ等を用い室温付近で行うことができる。
【0094】
[熱硬化性樹脂タブレット]
本実施形態に係る熱硬化性樹脂タブレットは、上記熱硬化性樹脂粉末組成物を加圧成形する工程(打錠工程)により形成される。図2は、熱硬化性樹脂粉末組成物からタブレットを成形する工程を示す概略断面図である。図2の(a)及び(b)に示すように、原料粉末である熱硬化性樹脂粉末組成物を充填するための円筒形状の孔を有する第一の成形型(臼型状成形型)21に、原料粉末24を充填し、当該第一の成形型の円筒形状の孔に密着し、かつ、当該孔から出し入れ可能な大きさを有する円筒状の第二の成形型(杵型状成形型)22,23を用いて原料粉末24を加圧することにより、円筒形状に成形された熱硬化性樹脂粉末組成物25が得られる。加圧成形は、例えば、室温において、5〜50MPa、0.1〜5秒間、0.1〜10トンの加圧条件で行うことができる。
【0095】
上記の加圧成形後、成形された熱硬化性樹脂粉末組成物25を抜き出し、図2の(c)に示すようなタブレット26を得る。本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物からなる原料粉末から成形された熱硬化性樹脂粉末組成物25は、第一及び第二の成形型の表面に付着し難く、ひび割れ等が生じにくいため、良好な外観を有するタブレット26を得ることができる。また、タブレット26は、表面が疎水化されている。
【0096】
ここで、本実施形態における「疎水性」とは、成形物表面又は金型固体表面に存在する物質表面の物理化学的な性質を示すパラメータである。疎水性の測定方法は特には限定されないが、静的接触角法(液滴法:固体表面に水滴を滴下)、動的接触角法、滑落法、極小接触角等が挙げられる。本明細書においては、静的接触角法の場合には水滴の接触角が90°以上となる場合を疎水性とし、接触角が90°未満である場合、又は、水滴がタブレット内に浸透してしまい接触角が測定できない場合は親水性又は吸水性と見なす。タブレット表面が疎水性であるようなタブレットを与える熱硬化性樹脂粉末組成物は、タブレット成形時に成形型との摩擦が小さくなる傾向があり、圧縮後金型から取り出す際に付着、コスレ、ひび割れ等の破壊が発生しにくくなる。また、同時に得られたタブレットの機械的強度の向上に伴いと梱包容器内に堆積・充填しても融着が発生しない傾向がある。

【0097】
本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物は、高い耐熱性を必要とする電気絶縁材料、光半導体封止材料、接着材料、塗料材料並びにトランスファー成形用エポキシ樹脂成形材料など様々な用途において有用である。特に、本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物により製造されるタブレット26は、トランスファー成形用の材料として特に有用である。
【0098】
[光半導体素子搭載用基板]
本発明の半導体素子搭載用基板は、底面及び壁面から構成される凹部を有し、凹部の底面が光半導体素子搭載部であり、凹部の壁面の少なくとも一部が本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物からなるものである。図3は、本発明の光半導体素子搭載用基板の一実施形態を示す斜視図である。光半導体素子搭載用基板110は、Ni/Agめっき104が形成された金属配線105と、リフレクター103とを備え、Ni/Agめっき104が形成された金属配線105とリフレクター103とから形成された凹部200を有している。すなわち、凹部200の底面はNi/Agめっき104が形成された金属配線105から構成され、凹部200の壁面はリフレクター103から構成されるものであり、リフレクター103は、上記本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物からなる成形体である。
【0099】
本実施形態の光半導体素子搭載用基板の製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物を用いたトランスファー成形により製造することができる。図4は、本発明の光半導体素子搭載用基板を製造する工程の一実施形態を示す概略図である。光半導体素子搭載用基板は、例えば、金属箔から打ち抜きやエッチング等の公知の方法により金属配線105を形成し、電気めっきによりNi/Agめっき104を施す工程(図4(a))、次いで、該金属配線105を所定形状の金型151に配置し、金型151の樹脂注入口150から本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物を注入し、所定の条件でトランスファー成形する工程(図4(b))、そして、金型151を外す工程(図4(c))を経て製造することができる。このようにして、光半導体素子搭載用基板には、熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物からなるリフレクター103に周囲を囲まれてなる光半導体素子搭載領域(凹部)200が形成される。好ましくは本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物により製造されるタブレット26は、予め30℃〜100℃に加熱することによって、金型151に注入し易い粘度にしておくとよい。なお、上記トランスファー成形の条件としては、金型温度170〜200℃、成形圧力0.5〜20MPaで60〜120秒間、アフターキュア温度120℃〜180℃で1〜3時間が好ましい。
【0100】
[光半導体装置]
本発明の光半導体装置は、上記光半導体素子搭載用基板と、光半導体素子搭載用基板の凹部内に設けられた光半導体素子と、凹部を充填して光半導体素子を封止する封止樹脂部とを備えるものである。
【0101】
図5は、本発明の光半導体素子搭載用基板110に光半導体素子100を搭載した状態の一実施形態を示す斜視図である。図5に示すように、光半導体素子100は、光半導体素子搭載用基板110の光半導体素子搭載領域(凹部)200の所定位置に搭載され、金属配線105とボンディングワイヤ102により電気的に接続される。図6及び図7は、本発明の光半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。図6及び図7に示すように、光半導体装置は、光半導体素子搭載用基板110と、光半導体素子搭載用基板110の凹部200内の所定位置に設けられた光半導体素子100と、凹部200を充填して光半導体素子を封止する蛍光体106を含む透明封止樹脂101からなる封止樹脂部とを備えており、光半導体素子100とNi/Agめっき104が形成された金属配線105とがボンディングワイヤ102又ははんだバンプ107により電気的に接続されている。
【0102】
図8もまた、本発明の光半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。図8に示す光半導体装置では、リフレクター303が形成されたリード304上の所定位置にダイボンド材306を介してLED素子300が配置され、LED素子300とリード304とがボンディングワイヤ301により電気的に接続され、蛍光体305を含む透明封止樹脂302によりLED体素子300が封止されている。
【0103】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0104】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
<合成例A1>
[多価カルボン酸縮合体の作製]
繰り返し単位用モノマーとして、125gの水素化テレフタル酸(東京化成社製)と、両末端用のモノマーとして、126gの水素化−1,2−無水トリメリット酸(三菱ガス化学社製)とを、無水酢酸中で5〜60分にわたって窒素雰囲気下で還流した後、温度を180℃まで上昇させ、窒素気流下、開放系で反応させ、生成した酢酸及び水を留去した。揮発成分が認められなくなったところで、反応容器内を減圧しながら180℃の温度で1〜15時間にわたって溶融縮合し、多価カルボン酸縮合体を得た。得られた多価カルボン酸縮合体のMwは1780であった。
【0106】
[熱硬化性樹脂粉末組成物の作製]
(実施例1〜7)
表1に示した配合比(質量部)に従い金属石鹸以外の材料を配合して混合し、更に金属石鹸を加えて、ミキサーを用いて十分混合した後、ミキシングロールにより所定条件で溶融混練し、冷却した後、25℃において粉砕を行い熱硬化性樹脂粉末を得た。さらにロッキングミキサを用い常温で15分にわたって乾式混合し、熱硬化性樹脂粉末組成物を作製した。
【0107】
(比較例1〜7)
表2に示した配合比(質量部)に従い各材料を配合し、ミキサーを用いて十分混合した後、ミキシングロールにより所定条件で溶融混練し、冷却した後、25℃において粉砕を行い、熱硬化性樹脂粉末組成物を作製した。
【0108】
[タブレットの作製]
外径φ13mmのタブレットを成形できるように加工された成形型を用いて、得られた熱硬化性樹脂粉末組成物を、室温(25℃)、成形圧力2トンで1秒間加圧してタブレットを成形した。タブレット1個当たりの重量は5gとした。成形型の材質は、超硬合金を表面に施した成形型(臼型及び杵型)を使用した。
【0109】
[タブレットの評価]
(タブレット成形性の評価)
タブレット成形時におけるタブレットの成形型(杵型)への張り付きの有無、又はそれによるタブレットの破壊の有無を目視にて観察し、下記基準に基づき評価した。結果を表1及び2に示す。
A:成形型へのタブレットの張り付きがなく、タブレットの破壊がない。
B:成形型へのタブレットの張り付きがある、又は、タブレットの破壊が認められる。
【0110】
(タブレットのひび割れの評価)
作製したタブレットの外観を目視にて観察し、下記基準に基づき評価した。結果を表1及び2に示す。
A:タブレットのひび割れ無し。
B:タブレットのひび割れ有り。
【0111】
(タブレットの側壁コスレの評価)
作製したタブレットの側壁コスレの有無を目視にて観察し、下記基準に基づき評価した。結果を表1及び2に示す。
A:タブレットの側壁コスレ無し。
B:タブレットの側壁コスレあり。
【0112】
(タブレットの変形の評価)
タブレットを1Lポリカップに充填した際のタブレットの変形を観察し、下記基準に基づき評価した。結果を表1及び2に示す。
A:タブレットの変形なし。
B:タブレットの変形が認められる。
【0113】
(疎水性試験)
タブレットの接触角を液適法により測定することで、タブレット表面の疎水性を評価した。接触角の測定には、協和界面科学社製の固液界面解析システムDROP MASTER 500を用いた。接触角90°以上である場合を疎水性とし、接触角が90°未満である場合、又は、水滴がタブレット内に浸透してしまい接触角が測定できない場合を親水性又は吸水性とした。結果を表1及び2に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
*1:トリスグリシジルイソシアヌレート(エポキシ当量100、日産化学社製、商品名:TEPIC−S)
*2:脂環式エポキシ樹脂(エポキシ当量181、重量平均分子量2200、ダイセル化学社製、商品名:EHPE3150)
*3:ヘキサヒドロ無水フタル酸(和光純薬工業社製)
*4:テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチエート(日本化学工業社製、商品名:PX−4ET)
*5:トリメトキシエポキシシラン(東レダウコーニング社製、商品名:A−187)
*6:溶融シリカ(電気化学工業社製、商品名:FB−950)
*7:溶融シリカ(電気化学工業社製、商品名:S0−25R)
*8:中空粒子(住友3M社製、商品名:S60−HS)
*9:酸化チタン(堺化学工業社製、商品名:FTR−700)
*10:ジンクステアレート(日油製、商品名:ジンクステアレート)
【0117】
以上のことから、本発明の熱硬化性樹脂粉末組成物は、タブレット打錠時に成形型への付着を十分に低減できることが確認された。また、作製したタブレットの表面が撥水性となることで、成形型との摩擦性が低下し、引っかき傷やコスレを低減することができた。
【符号の説明】
【0118】
21…第一の成形型(臼型)、22,23…第二の成形型(杵型)、24…熱硬化性樹脂粉末組成物、25…加圧成形中の熱硬化性樹脂粉末組成物、26…タブレット、100…光半導体素子、101…透明封止樹脂、102…ボンディングワイヤ、103…熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物(リフレクター)、104…Ni/Agめっき、105…金属配線、106…蛍光体、107…はんだバンプ、110…光半導体素子搭載用基板、200…光半導体素子搭載領域、150…樹脂注入口、151…金型、300…LED素子、301…ボンディングワイヤ、302…透明封止樹脂、303…リフレクター、304…リード、305…蛍光体、306…ダイボンド材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)白色顔料及び(D)撥水性粉末を含有する熱硬化性樹脂粉末組成物であって、
前記(A)エポキシ樹脂は、重量平均分子量500〜5000のエポキシ樹脂を含み、前記(B)硬化剤は、重量平均分子量500〜5000の酸無水物硬化剤を含む、熱硬化性樹脂粉末組成物。
【請求項2】
前記(D)撥水性粉末が、無色固体である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物。
【請求項3】
前記(D)撥水性粉末が、金属石鹸、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む無機粉末である、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物。
【請求項4】
前記(D)撥水性粉末が、下記式(I)で表される構造を有する金属石鹸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物。
(R−COO) (I)
[式中、Rは、炭素数3〜50のアルキレン基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、エポキシ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する1価の有機基、又は、炭素数3〜500のポリアルキレンエーテル基を示し、Mは、第3周期の金属元素、11族、2族、12族、3族、13族、14族、4族、8族、9族又は10族に属する金属元素を示し、qは1〜4の整数を示す。]
【請求項5】
前記Mが、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛である、請求項4に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物。
【請求項6】
前記(C)白色顔料が、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム及び炭酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物を加圧成形して得られる、熱硬化性樹脂タブレット。
【請求項8】
請求項7記載の熱硬化性樹脂タブレットの製造方法であって、
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤及び(C)白色顔料を溶融混合した後、粉砕して熱硬化性樹脂粉末を得る工程と、
前記熱硬化性樹脂粉末と(D)撥水性粉末とを乾式混合して熱硬化性樹脂粉末組成物を得る工程と、
前記熱硬化性樹脂粉末組成物を加圧成形してタブレットを作製する工程と、
を備える、熱硬化性樹脂タブレットの製造方法。
【請求項9】
底面及び壁面から構成される凹部を有し、
前記凹部の底面が光半導体素子搭載部であり、前記凹部の壁面の少なくとも一部が請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物の硬化物からなる、光半導体素子搭載用基板。
【請求項10】
底面及び壁面から構成される凹部を有する光半導体素子搭載用基板の製造方法であって、
前記凹部の壁面の少なくとも一部を、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂粉末組成物をトランスファー成形して形成する工程を備える、光半導体素子搭載用基板の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の光半導体素子搭載用基板と、
前記光半導体素子搭載用基板に搭載された光半導体素子と、
前記凹部を充填して前記光半導体素子を封止する封止樹脂部と、
を備える、光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−32433(P2013−32433A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168689(P2011−168689)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】