説明

熱硬化性樹脂組成物、シートモールディングコンパウンド及び成形品

【課題】成形時の流動性に優れ、得られる成形品の光沢が良好で且つ難燃性が自動車や鉄道の車両部材及び建材で要求されるレベルを満足する熱硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】不飽和ポリエステル及びビニルエステル樹脂からなる群から選択される熱硬化性樹脂と、重合性不飽和単量体と、水酸化アルミニウムと、リン系難燃剤と、繊維補強材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計100重量部に対して300〜550重量部の水酸化アルミニウムを含有し、リン系難燃剤をリン含有量として熱硬化性樹脂組成物の全重量に対して0.1〜0.5重量%含有し、水酸化アルミニウムは平均粒径(D50)が2μm〜7μmの範囲内にあり且つ重量基準頻度分布において平均粒径(D50)の前後にそれぞれ少なくとも1つのピークを有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い難燃性が要求される部材、例えば、自動車や鉄道の車両部材、住宅建材等に有用な熱硬化性樹脂組成物、それを用いたシートモールディングコンパウンド(以下、SMCという)及びそれを成形して得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
SMCは、不飽和ポリエステル及び/又はビニルエステル樹脂、重合性不飽和単量体、硬化剤、低収縮剤、充填材等を混合した後、これに繊維補強材を含浸させることにより得ることができる。SMCは、主に、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形により成形される。得られる成形品は、機械的強度に優れるだけでなく、光沢・平滑性等の意匠性にも優れている。また、SMCによる成形法は、非常に生産性が高いという利点がある。このような特長のために、SMCは主に浴室部材等の住宅設備に広く用いられてきた。
【0003】
一方、自動車や鉄道の車両部材及び住宅建材では、一般に高い難燃性が要求され、上記の浴室部材等に用いられるSMCではこの要求を満足することは出来ない。難燃性を付与させるための方法としては、ハロゲン化合物とアンチモン化合物とを組み合わせて用いる方法が一般的であるが、成形物を燃焼させる際に有害なガスを発生するため、安全性の点から上記の用途に対しては適当ではない。そこで、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を充填材として用いる方法がある。しかし、上記の用途で要求される難燃性を満足させるには、金属水酸化物を多量に含有させる必要があり、その場合、繊維補強材を除く熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、繊維補強材を充分に含浸させることが困難となる。また、SMCの流動性が著しく失われ、成形性の良好なものは得られない。
【0004】
このような問題を改善するため、特許文献1には、平均粒径の異なる2種類の水酸化アルミニウムを併用する方法が提案されている。特許文献1には、平均粒径10〜100μmの水酸化アルミニウムと平均粒径5μm以下の水酸化アルミニウムとを併用することにより、難燃性、成形性等に優れた成形材料が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−88004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが特許文献1の成形材料について検討したところ、この成形材料では光沢に優れる成形品が得られないことが分かった。
従って、本発明は、成形時の流動性に優れ、得られる成形品の光沢が良好で且つ難燃性が自動車や鉄道の車両部材及び建材で要求されるレベルを満足する熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱硬化性樹脂組成物中に添加する水酸化アルミニウムの平均粒径、粒度分布及び含有量を制御するとともに、リン系難燃剤を特定量配合することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下(1)〜(6)で示される。
(1)不飽和ポリエステル及びビニルエステル樹脂からなる群から選択される熱硬化性樹脂と、重合性不飽和単量体と、水酸化アルミニウムと、リン系難燃剤と、繊維補強材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計100重量部に対して300〜550重量部の水酸化アルミニウムを含有し、リン系難燃剤をリン含有量として熱硬化性樹脂組成物の全重量に対して0.1〜0.5重量%含有し、水酸化アルミニウムは平均粒径(D50)が2μm〜7μmの範囲内にあり且つ重量基準頻度分布において平均粒径(D50)の前後にそれぞれ少なくとも1つのピークを有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
(2)リン系難燃剤がリン酸塩であることを特徴とする(1)に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(3)繊維補強材を、熱硬化性樹脂組成物の全重量に対して15〜35重量%含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(4)不飽和ポリエステルが、ポリスチレン換算で5,000〜40,000の重量平均分子量を有するものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を用いたことを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
(6)(5)に記載のシートモールディングコンパウンドを成形して得られ、光沢度が70以上であることを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有害ガスの発生要因となるハロゲン系難燃剤を使用することなく、高い難燃性を有する成形品が得られる。更に、成形時の流動性に優れているため、成形不良等が発生し難く、生産性の向上に寄与することができる。また、得られる成形品は、光沢に優れているため、意匠性の必要な用途に好適である。このような成形品は、自動車や鉄道の車両部材、建材等の高い難燃性が要求される用途に広範囲に利用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、不飽和ポリエステル及びビニルエステル樹脂からなる群から選択される熱硬化性樹脂と、重合性不飽和単量体と、水酸化アルミニウムと、リン系難燃剤と、繊維補強材とを必須成分として含有するものである。
【0011】
本発明で用いる不飽和ポリエステルは、多価アルコールと、飽和多塩基酸及び/又は不飽和多塩基酸とのエステル化反応により得られる。
【0012】
不飽和ポリエステルの原料として用いられる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、グリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
不飽和ポリエステルの原料として用いられる不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等が挙げられる。また、飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
不飽和ポリエステルの分子量は、特に限定されるものではないが、ポリスチレン換算の重量平均分子量で、好ましくは5,000〜40,000であり、より好ましくは10,000〜30,000である。重量平均分子量が大き過ぎると粘度が高くなり、それに伴い熱硬化性樹脂組成物の粘度も高くなり、成形時の流動性が低下する場合がある。一方、重量平均分子量が小さ過ぎると、物性が低下するとともに、熱硬化性樹脂組成物の増粘が充分に進行しない場合がある。また、不飽和ポリエステルの不飽和度は、特に限定されるものではないが、低収縮性を付与させ、外観に優れた成形品が得られるという点で、70モル%〜100モル%の範囲であることが好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(昭和電工株式会社製Shodex GPC−101)を用いて、下記条件にて常温で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた値である。
カラム:昭和電工製LF−804
カラム温度:40℃
試料:共重合体の0.2質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
【0015】
不飽和ポリエステルの製造方法は、特に限定されることはなく、上記成分を用いて、公知の方法により製造することができる。例えば、窒素等の不活性ガス気流中で、140℃〜230℃の温度でエステル化させる方法で行なうことができる。エステル化反応では、必要に応じてエステル化触媒を使用することができる。その触媒の例としては、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド、シュウ酸第一錫、酢酸亜鉛、酢酸コバルト等の公知の触媒が挙げられる。
【0016】
本発明で用いるビニルエステル樹脂は、エポキシ樹脂とα,β−不飽和モノカルボン酸とを公知の方法によりエステル化させることで得られるエポキシ(メタ)アクリレートである。ここで使用されるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF及びビスフェノールSのジグリシジルエーテル並びにその高分子量同族体、フェノールノボラック型ポリグリシジルエ−テル、クレゾールノボラック型ポリグリシジルエ−テル類等が挙げられる。さらに合成過程で、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のフェノール類をこれらのグリシジルエーテルと反応させて得られたものや、脂肪族エポキシ樹脂を更に使用してもよい。なお、(メタ)アクリレートとはメタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0017】
ビニルエステル樹脂の合成に使用されるα,β−不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸が一般的であるが、これら以外にクロトン酸、チグリン酸、桂皮酸等のα,β−不飽和モノカルボン酸等を支障のない範囲で使用することができる。
【0018】
ビニルエステル樹脂は、上記ビスフェノール類のグリシジルエーテルとα,β−不飽和モノカルボン酸とを、カルボキシル基/エポキシ基=1.05から0.95の比率の範囲で、80〜140℃にてエステル化させることによって合成できる。更に、必要に応じて、反応触媒を使用することができる。触媒の例としては、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類や、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩や、塩化リチウム等の金属塩等が挙げられる。
【0019】
上記のエポキシ(メタ)アクリレートからなるビニルエステル樹脂以外に、飽和ジカルボン酸及び/又は不飽和ジカルボン酸と多価アルコ−ルから得られる末端カルボキシル基の飽和ポリエステル樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂とを反応させて得られるものや、ビスフェノールA、AD、F、S等のビスフェノール類とエポキシ基を有するα,β−不飽和カルボン酸誘導体とを反応させて得られる飽和ポリエステル樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂のポリエステル(メタ)アクリレ−トも使用することができる。ここで使用されるエポキシ基を有するα,β−不飽和カルボン酸誘導体の例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。また、飽和ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸及び多価アルコ−ルとしては、上記不飽和ポリエステルの原料成分として例示したものと同様のものを使用することができる。フェノール類の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が挙げられる。
【0020】
本発明では、上記した不飽和ポリエステル及びビニルエステル樹脂を重合性不飽和単量体に溶解させて用いる。このような重合性不飽和単量体としては、不飽和ポリエステル及びビニルエステル樹脂と重合可能な重合性二重結合を有しているものであればよい。例えば、スチレンモノマー、ジアリルフタレートモノマー、ジアリルフタレートプレポリマー、メタクリル酸メチル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。重合性不飽和単量体は、不飽和ポリエステル及び重合性不飽和単量体の合計に対し、30〜60重量%となる量で使用することが好ましく、40〜55重量%となる量で使用することが更に好ましい。重合性不飽和単量体の使用量が少な過ぎると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、成形時の流動性が低下する場合がある。一方、重合性不飽和単量体の使用量が多過ぎると、成形品の外観を損なうなどの不具合が生じる場合がある。
【0021】
本発明で用いる水酸化アルミニウムは、レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が2〜7μmの範囲内にあり且つ重量基準頻度分布において平均粒径(D50)の前後にそれぞれ少なくとも1つのピーク(極大値)を有するものである。本発明における重量基準頻度分布とは、レーザー回折散乱法で測定した重量基準の粒径(μm)を常用対数で表示したときの粒径に対する粒子重量の頻度分布(重量%)を意味する。このような粒径分布の水酸化アルミニウムは、平均粒径(D50)が10μm未満であって重量基準頻度分布の異なる少なくとも2種類の水酸化アルミニウムを混合することにより得ることができる。混合後の平均粒径(D50)が2μm未満である水酸化アルミニウムを用いた場合、熱硬化性樹脂組成物の粘度を低く抑えることができず、製造上の問題から、必要な量を含有させることが困難となる。一方、平均粒径(D50)が7μmを超える水酸化アルミニウムを用いた場合、成形品の光沢が低下する。また、平均粒径(D50)の前後のいずれか一方にピークを有さない水酸化アルミニウムを用いた場合、成形時の流動性が低下したり、成形品の光沢が低下する。
水酸化アルミニウムの量は、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計100重量部に対して300〜550重量部であることが必要であり、400〜500重量部であることが好ましい。水酸化アルミニウムの量が300重量部未満であると、充分な難燃性が得られない。一方、550重量部を超えると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。
【0022】
本発明で用いるリン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸塩、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート等の縮合リン酸エステル、フォスファゼン等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
リン系難燃剤の量は、熱硬化性樹脂組成物の全重量に対してリン含有量として0.1〜0.5重量%であることが必要であり、0.10〜0.30重量%であることが好ましい。リン含有量が0.1重量%未満であると、充分な難燃性を得ることができない。一方、リン含有量が0.5重量%を超えると、成形時に難燃剤が表面に析出して成形品の光沢が低下するばかりか、難燃性も低下する。
【0023】
本発明で用いる繊維補強材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。通常、これらは0.5〜2インチ(12.7〜50.8mm)に切断して用いる。繊維補強材の量は、要求される強度により異なるが、熱硬化性樹脂組成物の全重量に対して15〜40重量%であることが好ましく、20〜35重量%であることが更に好ましい。繊維補強材の量が少な過ぎると、成形品の強度が不足する場合がある。一方、繊維補強材の量が多過ぎると、成形時の流動性が低下する場合がある。
【0024】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、硬化剤、低収縮化剤、重合禁止剤、着色剤、増粘剤等を添加してもよい。
【0025】
硬化剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1,ジ−t−ブチルパーオキシ3,3,5,トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。硬化剤は、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計100重量部に対して5重量部以内の範囲で添加することができる。
【0026】
低収縮化剤としては、SMCにおいて一般に使用されているものを使用することができ、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、ポリカプロラクトン等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。低収縮剤は、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計に対して50重量%以内で添加することができる。
【0027】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、t−ブチルハイドロキノン、カテコール、p−t−ブチルカテコール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合禁止剤は、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計100重量部に対して0.3重量部以内で添加することができる。
【0028】
着色剤は、成形品を着色する必要のある場合に用いるものであり、SMCにおいて通常使用されている各種の無機顔料や有機顔料を使用することができる。着色剤は、成形品の着色度合いによって適宜その使用量を調整すればよいが、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計100重量部に対して20重量部以内で添加することができる。
【0029】
増粘剤としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等の金属酸化物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。SMCにおいては、酸化マグネシウムが一般的に用いられる。増粘剤の量は、熱硬化性樹脂組成物の作業性によって決定されるが、通常、熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体とを合計した全重量に対して0.5〜5重量%の範囲で添加することができる。増粘剤が少な過ぎると、熱硬化性樹脂組成物の粘度上昇効果が得られない場合があり、一方、増粘剤が多過ぎると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が上昇し過ぎて流動性が低下する場合がある。
【0030】
本発明のSMCは、本発明の熱硬化性樹脂組成物を通常のSMC製造装置を用いて、通常の方法により製造することができる。例えば、繊維補強材以外の上述した熱硬化性樹脂組成物原料を、上下に設置されたキャリアフィルムに均一な厚さになるように塗布し、このキャリアフィルムで所定の長さにカットされた繊維補強材を挟み込み、次いで、全体を含浸ロールの間に通して、圧力を加えて繊維補強材を熱硬化性樹脂組成物原料に含浸させた後、ロール状に巻き取るか又はつづら折りに畳むことによりSMCが得られる。必要に応じて、この後に熟成等を行ってもよい。増粘剤を配合した場合は、室温〜60℃の温度に加温して熟成することが好ましい。キャリアフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等を用いることができる。
【0031】
このようにして得られた本発明のSMCは、各種の成形手段に供することができる。例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形により成形され、広範囲な成形品を得ることができる。本発明のSMCは、成形時の流動性に優れているため、成形不良等が発生し難く、生産性の向上に寄与することができる。また、得られる成形品は、光沢に優れているため、意匠性の必要な用途に好適である。このような成形品は、自動車や鉄道の車両部材、建材等の高い難燃性が要求される用途において極めて有用である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
SMC製造装置を用い、ラインスピード8m/分、単位面積当たりのSMC重量が約3kg/m2となるような条件で、下記表1及び2に示す配合割合の実施例1〜5及び比較例1〜7のSMCの作製を試みた。なお、実施例1〜5、比較例1、4及び5では、製造上問題が無かったが、比較例6では、SMCの一部に含浸不良が見られた。比較例2、3及び7は、ガラス繊維を除く熱硬化性樹脂組成物の粘度が高く、ガラス繊維を充分に含浸させることができず、SMCを製造することができなかった。
なお、ここで使用したSMC原料は、以下のものである。
【0033】
<不飽和ポリエステルA>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四口フラスコに、マレイン酸100モル、ジプロピレングリコール30モル及びプロピレングリコール70モルを仕込み、窒素気流下で加熱撹拌しながら210℃まで昇温して、常法手順によりエステル化反応を行なった。この不飽和ポリエステルの不飽和度は100モル%であり、重量平均分子量は20,000であった。
次に、この不飽和ポリエステルにハイドロキノン0.015質量部を添加し、これをスチレンに溶解させて、スチレン含量40質量%の不飽和ポリエステルAを調製した。
【0034】
<スチレンモノマー>
前述の通り不飽和ポリエステルAには重合性不飽和単量体としてスチレンモノマーが既に含有されているが、本発明の実施例及び比較例においては、SMC原料として更にスチレンモノマーを別途添加した。
<低収縮剤A>
重量平均分子量が220,000のポリスチレンをスチレンに溶解させて、スチレン含量60質量%としたもの。
<水酸化アルミニウムA>
レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が1μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-42M)とレーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が8μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-32)とを重量比25:75で混合したもの。レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)は5μmであり、重量基準頻度分布において0.5〜2μmの間、及び7〜20μmの間に頻度ピークを有する。
<水酸化アルミニウムB>
レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が1μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-42M)とレーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が8μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-32)とを重量比45:55で混合したもの。レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)は2μmであり、重量基準頻度分布において0.5〜2μmの間、及び7〜20μmの間に頻度ピークを有する。
<水酸化アルミニウムC>
レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が1μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-42M)とレーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が8μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-32)とを重量比17.5:82.5で混合したもの。レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)は6μmであり、重量基準頻度分布において0.5〜2μmの間、及び7〜20μmの間に頻度ピークを有する。
<水酸化アルミニウムD>
レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が1μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-42M)をそのまま使用。レーザー回折散乱法で測定した重量基準頻度分布において0.5〜2μmの間に頻度ピークを有する。
<水酸化アルミニウムE>
レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が1μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-42M)とレーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が8μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-32)と平均粒径(D50)が73μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-100ME)とを重量比55:165:220で混合したもの。レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)は10μmであり、重量基準頻度分布において0.5〜2μmの間、7〜20μmの間、及び、60〜90μmの間に頻度ピークを有する。
<水酸化アルミニウムF>
レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D50)が8μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-32)をそのまま使用。レーザー回折散乱法で測定した重量基準頻度分布において7〜20μmの間に頻度ピークを有する。
<着色剤>
市販のSMC用トナーカラー。
<添加剤>
酸基含有コポリマーと、界面活性成分を含むコポリマーとを重量比1:1で混合したもの。
<重合禁止剤>
5%p−ベンゾキノン溶解品。
<増粘剤>
酸化マグネシウム。
<リン系難燃剤>
市販のリン酸塩系難燃剤(商品名:株式会社ADEKA製 アデカスタブFP−2200、リン含有量19重量%)。
<硬化剤>
t−ブチルパーオキシベンゾエート。
<繊維補強材>
市販のEガラス繊維。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
実施例1〜5、比較例1、4、5及び6のSMCについて、成形流動性、成形品の光沢及び成形品の難燃性を下記の方法に従って評価した。評価結果を表3及び4に示す。
【0038】
(1)成形流動性
以下に示すような条件により得られた成形品の流動面積を測定することにより、成形時の流動性を評価した。流動性の評価基準は、流動面積が650cm2以上であるものを非常に良好(◎)、500cm2以上650cm2未満であるものを良好(○)、500cm2未満であるものを劣る(△)とした。
成形品形状:320mm×220mmの寸法の平板
チャージ面積:100mm×100mm×2ply
金型温度:140℃(上型)/140℃(下型)
成形圧力:7MPa
成形時間:120秒
【0039】
(2)成形品の光沢
以下に示すような条件により得られた成形品を、JIS Z 8741に準拠した方法で、測定角度60℃での光沢度を測定した。光沢の評価基準は、光沢度が90以上であるものを非常に良好(◎)、70以上90未満であるものを良好(○)、70未満であるものを劣る(△)とした。
成形品形状:320×220×3mmの寸法の平板
金型温度:150℃(上型)/140℃(下型)
成形圧力:7MPa
成形時間:240秒
【0040】
(3)成形品の難燃性
(3−1)鉄道車両用材料燃焼試験
B5判の供試材(182mm×257mm)を45°傾斜に保持し、燃料容器の底の中心が、供試材の下面中心の垂直下方25.4mm(1インチ)のところにくるように、コルクのような熱伝導率の低い材質の台にのせ、純エチルアルコール0.5ccを入れて着火し、燃料が燃え尽きるまで放置する。燃焼判定は、アルコールの燃焼中と燃焼後とに分けて、燃焼中は供試材への着火、着炎、発煙状態、炎の状態等を観察し、燃焼後は、残炎、残じん、炭化、変形状態を調査する。供試体の試験前処理は、吸湿性の材料の場合、所定寸法に仕上げたものを通気性のある室内で直射日光を避け床面から1m以上離し、5日以上経過させる。試験室内の条件は、温度:15℃〜30℃、湿度:60%〜75%で空気の流動はない状態とする。
【0041】
(3−2)コーンカロリーメーター試験
(2)で得られた平板を縦横100mmの正方形に切り出し、ISO5660−1に準じた方法により、縦横100mmの正方形で厚み3.0mmの試験片を用い、放射熱50kW/m2で10分間行う。鉄道車両用材料(天井部)に用いられるための規格に適合する条件は、総発熱量が8MJ/m2を超え30MJ/m2以下であり、着火時間が60秒以上であり且つ最大発熱速度が300kW/m2以下である。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
実施例1〜5のSMCでは、成形品の光沢度はいずれも70以上であり、優れた光沢を有する成形品が得られた。また、実施例1〜5のSMCでは、鉄道車両用材料燃焼試験において、最も難燃性が高い水準の不燃性の判定となった。更に、コーンカロリーメーター発熱性試験において、鉄道車両部材(天井部)への適合性に関して合格の判定となった。
【0045】
比較例1のSMCは、水酸化アルミニウムの量が少ないために、鉄道車両材料燃焼試験において、不燃性より1水準下である極難燃性の判定であり、コーンカロリー発熱性試験においては、鉄道車両部材(天井部)への適合性に関して不合格の判定となり、充分な難燃性が得られなかった。
【0046】
比較例4のSMCは、平均粒径が7μmを超える水酸化アルミニウムを使用したものであるが、成形流動性が劣るとともに、成形品の光沢も満足できるものではなかった。
【0047】
比較例5のSMCは、リン系難燃剤を添加しないものであるが、鉄道車両材料燃焼試験において、不燃性より1水準下である極難燃性の判定であり、コーンカロリー発熱性試験においては、鉄道車両部材(天井部)への適合性に関して不合格の判定となり、充分な難燃性が得られなかった。
【0048】
比較例6のSMCは、リン系難燃剤の量が多いために、成形品の表面に析出物が見られ、光沢が低下するとともに、鉄道車両材料燃焼試験において、不燃性より1水準下である極難燃性の判定であり、コーンカロリー発熱性試験においては、鉄道車両部材(天井部)への適合性に関して不合格の判定となり、充分な難燃性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル及びビニルエステル樹脂からなる群から選択される熱硬化性樹脂と、重合性不飽和単量体と、水酸化アルミニウムと、リン系難燃剤と、繊維補強材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂と重合性不飽和単量体との合計100重量部に対して300〜550重量部の水酸化アルミニウムを含有し、リン系難燃剤をリン含有量として熱硬化性樹脂組成物の全重量に対して0.1〜0.5重量%含有し、水酸化アルミニウムは平均粒径(D50)が2μm〜7μmの範囲内にあり且つ重量基準頻度分布において平均粒径(D50)の前後にそれぞれ少なくとも1つのピークを有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
リン系難燃剤がリン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
繊維補強材を、熱硬化性樹脂組成物の全重量に対して15〜35重量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
不飽和ポリエステルが、ポリスチレン換算で5,000〜40,000の重量平均分子量を有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を用いたことを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
【請求項6】
請求項5に記載のシートモールディングコンパウンドを成形して得られ、光沢度が70以上であることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2013−87133(P2013−87133A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226062(P2011−226062)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】