説明

熱硬化性樹脂組成物、半導体デバイス用部材、及びそれを用いた半導体発光デバイス

【課題】種々の構成材料からなる半導体発光デバイス用パッケージに対する密着性、ガスバリア性、耐熱性、耐光性、成膜性に優れ、長期間使用してもクラックや剥離、着色を生じることなく半導体発光デバイスを封止し、必要に応じて蛍光体を保持することのできる新規な熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を硬化させた半導体デバイス用部材、およびこれらを用いた半導体発光デバイスを提供する。
【解決手段】(A)平均組成式が下記一般式(1):
(RSiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2(O1/2・・・(1)
で表され、エポキシ当量が250〜700g/当量であるポリシロキサン、(B)硬化剤および(C)硬化触媒を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
該熱硬化性樹脂組成物を熱処理することで形成される硬化物について、動的粘弾性測定によって得られる損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比が0.18以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物、該樹脂組成物を硬化させた硬化物よりなる半導体デバイス用部材、該半導体デバイス用部材を備えてなる半導体発光デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱硬化性樹脂組成物、半導体デバイス用部材、及びそれを備える半導体デバイスに関する。さらに詳しくは、耐熱性、耐光性、ガスバリア性に優れた熱硬化性樹脂組成物、半導体デバイス用部材、及びそれを用いた半導体発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、特に発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等の半導体発光デバイスにおいては、半導体発光素子を透明の樹脂等の部材(半導体デバイス用部材)によって封止したものが一般的である。
【0003】
この半導体発光デバイスとしては、例えばエポキシ樹脂が用いられている。また、この封止樹脂中に蛍光体などの波長変換物質を含有させることによって、半導体発光素子からの発光波長を変換するものなどが知られている。
【0004】
エポキシ樹脂は、その硬化物が高い架橋密度を有することに由来してガスバリア性に優れることから、素子や電極の封止材料として広く用いられている。これにより、素子や電極の金属が、大気中の酸素や硫黄系化合物との接触により腐食・変色する現象は回避できる。しかしながら、エポキシ樹脂は、可とう性が乏しく、かつ一般的に吸湿性が高いものが多いので、半導体発光デバイスを長時間使用した際に生ずる半導体発光素子からの熱応力によってクラックが生じたり、あるいは半導体発光デバイス用パッケージからの剥離また水分の浸入により蛍光体や発光素子が劣化したりするなどの問題があった。
【0005】
また近年、LEDなどの励起光源の発光波長の短波長化に伴いエポキシ樹脂が劣化して着色するために、長時間の点灯及び高出力での使用においては半導体発光デバイスの輝度が著しく低下するという問題もあった(特許文献1)。
【0006】
これらの問題に対して、分子内にエポキシ基とともに耐熱性、紫外耐光性、可とう性に優れるシリコーンユニットを併せ持つエポキシ基を有するポリシロキサンをエポキシ樹脂の代替あるいは併用アイテムとして使用することが提案されている。しかし、エポキシ基を有するポリシロキサンは、特に半導体発光デバイス容器部材の構造が多様化するなかで、分子中のエポキシ基量を増加させるとガスバリア性が良化するものの可とう性が乏しくなることから容器からのクラック、剥離、しわなどの信頼性および外観不良が回避できなくなる。一方、エポキシ基量を低減すると容器からのクラック、剥離は良化するものの、ガスバリア性が低くなるというトレードオフの関係であることから、両立についていまだ不十分であった(特許文献2)。
【0007】
さらに、エポキシ当量が800g/当量以下であり、かつ、(RSiO3/2)単位が40モル%以上である高密度のシロキサン架橋構造を有するエポキシ基を有するポリシロキサンに、Siを有しないエポキシ樹脂を複合させることで、はんだリフロー処理後やヒートサイクル処理におけるクラックを抑制するとの開示がある(特許文献3)。しかしながら、このエポキシ基を有するポリシロキサンを含む組成物は、極めて剛直なため、LEDパッケージの材種あるいは構造によっては、はんだリフロー時に外観不良やワイヤー切れなどの問題が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07−309927号公報
【特許文献2】国際公開第2007−125956号パンフレット
【特許文献3】特開2006−225515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の背景から、種々の構成材料からなる半導体発光デバイス用パッケージに対する密着性、ガスバリア性、耐熱性、耐光性、成膜性に優れ、長期間使用してもクラックや剥離、着色を生じることなく半導体発光デバイスを封止し、蛍光体を保持することのできる半導体発光デバイス用部材が求められていた。
【0010】
本発明は、上述の従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、種々の構成材料からなる半導体デバイス用パッケージに対する密着性、ガスバリア性、耐熱性、耐光性、成膜性に優れ、長期間使用してもクラックや剥離、着色を生じることなく半導体デバイスを封止し、必要に応じて蛍光体を保持することのできる新規な熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を硬化させた半導体デバイス用部材、およびこれらを用いた半導体発光デバイスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、エポキシ基含有炭化水素基を有するポリシロキサンを含む熱硬化性樹脂組成物について、実際の使用形態である硬化物構造と半導体デバイス用部材として要求されるガスバリア性との相関の把握について鋭意検討を重ねてきた。その結果、構造に関する情報として、動的粘弾性測定における損失正接(Tanδ)について着目したところ、構造の均一性を示す指標としての損失正接のピーク半値幅および構造の剛直性を示す指標としてのピーク温度が連動してガスバリア性と相関していることを見出すとともに、そのピーク半値幅と温度について比という形で整理した時に、その比をある範囲内に設定することで、同じ共重合構造から予想される水準を大きく超えるガスバリア性を発現することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、下記の〔1〕〜〔9〕に存する。
〔1〕(A)平均組成式が下記一般式(1):
(RSiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2(O1/2・・・(1)
〔式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、エポキシ基含有炭化水素基または酸素原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示すが、R、R、RおよびRの少なくとも1つはエポキシ基含有炭化水素基であり、aは0.2〜1.0、bは0.1〜0.7、cは0〜0.2、d>0を示し、a+b+c=1である。〕
で表され、エポキシ当量が250〜700g/当量であるポリシロキサン、(B)硬化剤および(C)硬化触媒を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
該熱硬化性樹脂組成物を熱処理することで形成される硬化物について、動的粘弾性測定によって得られる損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕が0.18以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
〔2〕一般式(1)における(RSiO2/2)成分が、質量平均分子量(Mw)400以上のオリゴマーであることを特徴とする〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔3〕(A)ポリシロキサンが、アルコキシシラン化合物を、酸性化合物の存在下で加水分解し、次いで、塩基性化合物を添加して縮合反応を行うことで製造されることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔4〕アルコキシシラン化合物が、下記一般式(2):
(4−m−n)Si(OR・・・(2)
〔式(2)中、Rはエポキシ基含有炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の炭化水素基を示し、mは1または2、nは2または3、(4−m−n)は0、1または2の数を示す。〕
で表されるエポキシ基含有アルコキシシラン化合物またはそのオリゴマーと、
下記一般式(3):
HO(−Si(R)(R)−O−)H・・・(3)
〔式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜10の炭化水素基を示し、qは1〜500の整数を示す。〕
で表されるシラン化合物との混合物であることを特徴とする〔3〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔5〕酸性化合物に対する塩基性化合物のモル比〔塩基性化合物(モル)/酸性化合物(モル)〕が、1.05〜5.00の範囲であることを特徴とする〔3〕または〔4〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔6〕損失正接(Tanδ)におけるピーク温度が、270〜470(K)であることを特徴とする〔1〕ないし〔5〕の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔7〕損失正接(Tanδ)におけるピーク半値幅が、50〜75(K)であることを特徴とする〔1〕ないし〔6〕の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔8〕〔1〕ないし〔7〕の何れかに記載の樹脂組成物を硬化させた硬化物よりなることを特徴とする半導体デバイス用部材。
〔9〕〔8〕に記載の半導体デバイス用部材を備えてなることを特徴とする半導体発光デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、半導体デバイス容器に対する密着性、ガスバリア性、耐熱性、耐光性、成膜性に優れ、長期間使用してもクラックや剥離、着色を生じることなく半導体デバイスを封止することが可能である。それ故、本発明によれば、優れた半導体デバイス用部材を提供することが可能である。
【0014】
また、本発明の半導体発光デバイスは、上述の本発明の半導体デバイス用部材を用いているため、長期間使用しても封止材などにクラックや剥離、着色を生じることなく、長期にわたって性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の半導体デバイス用部材を用いた半導体発光デバイスの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記のとおり、(A)平均組成式が上記一般式(1)で表され、エポキシ当量が250〜700g/当量であるポリシロキサン、(B)硬化剤および(C)硬化触媒を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
該熱硬化性樹脂組成物を熱処理することで形成される硬化物について、動的粘弾性測定によって得られる損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕が0.18以下であることに特徴を有するものである。
【0018】
<(A)ポリシロキサン>
本発明で用いる(A)ポリシロキサンは、平均組成式が、下記一般式(1):
(RSiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2(O1/2・・・(1)
〔式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、エポキシ基含有炭化水素基または酸素原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示すが、R、R、RおよびRの少なくとも1つはエポキシ基含有炭化水素基であり、aは0.2〜1.0、bは0.1〜0.7、cは0〜0.2、d>0の数を示し、a+b+c=1である。〕
【0019】
上記一般式(1)において、(RSiO2/2)は2官能成分(ジオルガノシロキサン)、(RSiO3/2)は3官能成分(オルガノシルセスキオキサン)、(SiO4/2)は4官能成分(シリケート)であり、(O1/2)は各成分のうち一部のシラン原子に直接結合する水酸基あるいはアルコキシ基単位である。
【0020】
先ず、上記各成分におけるR、R、R、RおよびRの定義中の基、原子、組成などについて説明する。
上記のとおり、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、エポキシ基含有炭化水素基または酸素原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示す。
【0021】
エポキシ基含有炭化水素基は一価の基であり、この基における炭化水素基の炭素数としては、通常2〜15、好ましくは3〜12、より好ましくは3〜10である。具体的には、例えば、2,3−エポキシプロピル基、3,4−エポキシブチル基、4,5−エポキシペンチル基などのエポキシアルキル基;2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基などのグリシドキシアルキル基;β−(または2−)(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ−(または3−)(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル基などのエポキシシクロヘキシルアルキル基などが例示される。中でも、β−(または2−)(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基が好ましい。
【0022】
前記一般式(1)において、炭素数1〜10の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基などのアリール基;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ノナフルオロブチルエチル基などの置換アルキル基などの1価の炭化水素基が例示される。中でも炭素数1〜8の1価の炭化水素基が好ましく、特にメチル基やフェニル基が好ましい。
【0023】
上記炭化水素基は、酸素原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、その位置や数は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されない。なお、耐熱性や銀電極腐食性の観点からは、酸素原子や硫黄原子を含まない炭化水素基が好ましい。
【0024】
また、R、R、RおよびRの少なくとも1つはエポキシ基含有炭化水素基である。エポキシ基含有炭化水素基の数は、好ましくは2〜15、より好ましくは3〜12である。また、R、R、RおよびRの中で、R、Rがエポキシ基含有炭化水素であることが好ましく、Rがエポキシ基含有炭化水素基であることがより好ましい。
【0025】
上記一般式(1)において、a、bおよびcの数は、それぞれ、各成分(RSiO2/2)、(RSiO3/2)および(SiO4/2)のモル比である。aは、通常0.2〜1.0であるが、好ましくは0.5〜1.0、より好ましくは0.5〜0.9である。また、bは、通常0.1〜0.7であるが、好ましくは0.1〜0.5、より好ましくは0.1〜0.3である。さらに、cは、通常0〜0.2であるが、好ましくは0〜0.1、より好ましくは0〜0.05である。dは、各成分(RSiO2/2)、(RSiO3/2)および(SiO4/2)のうち、一部のシラン原子に直接結合する水酸基あるいはアルコキシ基単位(O1/2のモル比であり、0より大きいことが必要であるとともに、前記式(1)中のポリシロキサン中に通常0.001〜3wt%、好ましくは0.01〜2wt%、更に好ましくは0.01〜1.5wt%の範囲で含まれる数であればよい。そして、上記のとおり、a+b+c=1である。
【0026】
各成分のモル比を、上記範囲とすることによりゲル化等のハンドリング性を損なうことなく、半導体発光デバイス部材として必要な密着性、ガスバリア性を付与することができるという効果が得られる一方、上記の範囲を外れると、硬化性が低下したり、ゲル状の化合物となったりすることがあり、半導体発光デバイス部材用として取り扱いが困難になる可能性がある。
【0027】
本発明において、(A)平均組成式が上記一般式(1)で表されるポリシロキサンのエポキシ当量は、通常250g/当量以上、好ましくは300g/当量以上、より好ましくは330g/当量以上であり、また通常700g/当量以下、好ましくは650g/当量以下、より好ましくは600g/当量以下である。エポキシ当量が250g/当量以下であると、熱硬化性組成物を半導体発光デバイス用部材として熱処理にて硬化させた際、その硬化物が硬すぎることで、加熱、冷却時に発生する応力を緩和することが不十分となるため、半導体デバイス中に設けられた配線を切断し、半導体デバイスとしての機能を失ってしまう可能性がある。
【0028】
また、(A)ポリシロキサンの質量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、硬化時揮発分の抑制および硬化物の機械強度の観点から質量平均分子量(Mw)が500〜100,000の範囲であることが好ましく、特に1000〜30,000の範囲であることが好ましい。
なお、本明細書において、質量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られた値である。測定法の詳細は、実施例の項において示す。
【0029】
(A)ポリシロキサンを構成する各成分[(RSiO2/2)、(RSiO3/2)、(SiO4/2)]はオリゴマーであってもよい。
(RSiO2/2)(2官能成分)はシラン化合物よりも加水分解縮合オリゴマーであるものが好ましく、その質量平均分子量(Mw)については、本発明の半導体発光デバイス用部材を得ることができる限り任意であるが、通常500以上であることが望ましい。
【0030】
これはシラン化合物を多用すると、重縮合体中の低沸環状体が多くなる可能性があり、低沸環状体は半導体デバイス部材として、硬化物を得る際に揮発してしまうため、質量歩留まりの低下や応力発生の原因となることがあるためである。さらに、低沸環状体を多く含む半導体デバイス用部材は耐熱性が低くなることがある。
【0031】
また、(RSiO3/2)(3官能成分)は、ゲル化等のハンドリング性の観点からシラン化合物の使用が望ましい。さらに、(SiO4/2)(4官能成分)は、ゲル化等のハンドリング性の観点からシラン化合物の使用が望ましい。
【0032】
本発明で用いる(A)ポリシロキサンの合成法は特に限定されないが、例えば、アルコキシシラン化合物を、酸性化合物の存在下で加水分解し、次いで、塩基性化合物を添加して縮合反応を行うことで製造することができる。ここで、アルコキシシラン化合物はそのオリゴマーであってもよく、またオリゴマーとの混合物であってもよい。
【0033】
アルコキシシラン化合物としては、上記一般式(1)で表される平均組成をもつポリシロキサンが生成可能なものであれば特に限定されないが、下記一般式(2):
(4−m−n)Si(OR・・・(2)
〔式(2)中、Rはエポキシ基含有炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の炭化水素基を示し、mは1または2、nは2または3、(4−m−n)は0、1または2の数を示す。〕
で表されるエポキシ基含有アルコキシシラン化合物またはそのオリゴマーと、
下記一般式(3):
HO(−Si(R)(R)−O−)H・・・(3)
〔式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜10の炭化水素基を示し、qは1〜500の整数を示す。〕
で表されるシラン化合物との混合物が好ましい。
【0034】
ここで、Rのエポキシ基含有炭化水素基は前記と同義であり、R、R、Rの炭素数1〜10の炭化水素基も前記と同義である。
qは繰り返し単位「−Si(R)(R)−O−」の数を規定するものである。qは、質量平均分子量(Mw)の調整の観点から通常1以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であり、通常500以下、好ましくは50以下、より好ましくは35以下の整数である。
【0035】
上記一般式(2)で表されるエポキシ基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メチル)ジメトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エチル)ジメトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メチル)ジエトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エチル)ジエトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メチル)ジメトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エチル)ジメトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メチル)ジエトキシシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エチル)ジエトキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メトキシ)ジメチルシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(メトキシ)ジエチルシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エトキシ)ジメチルシラン、(γ−グリシドキシプロピル)(エトキシ)ジエチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メトキシ)ジメチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(メトキシ)ジエチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エトキシ)ジメチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(エトキシ)ジエチルシラン、〔2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル〕(ジメチル)ジシロキサン、3−エポキシプロピル(フェニル)ジメトキシシランなどが例示される。
このうち特に好適に用いられるものは、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0036】
上記一般式(3)で表されるシラン化合物としては、例えば、RSiO2/2で示される2官能成分を導入するために使用される加水分解縮合物オリゴマーが好ましいものとして挙げられる。具体的には、例えば、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシ末端ポリメチルフェニルシロキサン、ヒドロキシ末端ポリジメチルジフェニルシロキサンなどが好適に使用される。
【0037】
さらに具体的には、製品例は次のとおりである。
GE東芝シリコーン社製の末端シラノール ポリジメチルシロキサンでは、例えば、XC96−723、XF3905、YF3057、YF3800、YF3802、YF3807、YF3897などが例示される。
GE東芝シリコーン社製のヒドロキシ末端ポリジメチルジフェニルシロキサンでは、例えば、YF3804などが例示される。
Gelest社製の両末端シラノール ポリジメチルシロキサンでは、例えば、DMSS12、DMS−S14などが例示される。
Gelest社製の両末端シラノール ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン コポリマーでは、例えば、PDS−1615が例示される。
Gelest社製の両末端シラノール ポリジフェニルシロキサンでは、例えば、PDS−9931が例示される。 これらの中で、両ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0038】
本発明において、(A)ポリシロキサンは、上記のとおり、アルコキシシラン化合物、好ましくは式(2)の化合物と式(3)の化合物との混合物を、酸性化合物と水の存在下で加水分解し、次いで、塩基性化合物を添加して縮合反応を行うことにより得られるものである。以下、この反応を「共加水分解・縮合反応」ということがある。
【0039】
酸性化合物は、アルコシキシラン化合物を加水分解し得るものであれば特に限定されず、鉱酸でも有機酸でも、強酸でも弱酸でも差支えない。具体的には、鉱酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などが挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、オレイン酸等などが挙げられる。これらの中で、塩酸、酢酸、ギ酸、リン酸が好ましく、塩酸、酢酸がより好ましい。
【0040】
塩基性化合物は、共加水分解・縮合反応させるための触媒であり、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属の水酸化物;ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシド、セシウム−t−ブトキシドなどのアルカリ金属のアルコキシド;ナトリウムシラノレート化合物、カリウムシラノレート化合物、セシウムシラノレート化合物などのアルカリ金属のシラノール化合物が挙げられる。
【0041】
酸性化合物の添加量としては、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物(シランカップリング剤)またはそのオリゴマーに対して、モル比で、通常0.001以上、好ましくは0.002以上、また通常2.0以下、好ましくは1.5倍以下である。
【0042】
酸性化合物に対する塩基性化合物の使用割合は、モル比〔塩基性化合物(モル)/酸性化合物(モル)〕で、通常1.1以上、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上であり、また、通常5.0以下、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。
【0043】
(反応温度)
酸性および/または塩基性化合物(触媒)による共加水分解・縮合反応において、反応温度は、常圧においては、10℃〜200℃であることが好ましく、特に30℃〜150℃であることが好ましい。反応温度が低すぎると反応が充分に進行しないことがあり、また反応温度が高すぎるとケイ素原子結合有機基が熱分解することが懸念される。また反応時間は反応温度によるが、通常、酸性化合物存在下においては1〜20時間、塩基性化合物おいては1〜20時間程度要する。また、必要に応じて有機溶剤により反応系中の固形分濃度を調節し、さらに反応させてもよい。
【0044】
(溶媒)
共加水分解・縮合反応させるために、必要に応じて水を添加してもよい。共加水分解・縮合反応を行なうために使用する水の量は、原料中のすべてのアルコキシ基が変換されるのに要する水量を100%基準とした場合、通常80質量%以上、中でも100質量%以上の範囲が好ましい。加水分解率がこの範囲より少ない場合、共加水分解・縮合反応が不十分なため、硬化時に原料が揮発したり、硬化物の強度が不十分となったりする可能性がある。
【0045】
また、共加水分解・縮合反応させるために、必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。80℃〜200℃の沸点を有する有機溶剤を選択することにより、還流温度で容易に共加水分解・縮合反応を行うことができる。
有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜3の低級アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンを任意に用いることができるが、中でも強い酸性や塩基性を示さないものが共加水分解・縮合反応に悪影響を与えない理由から好ましい。
有機溶媒は1種を単独で使用しても良いが、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用することもできる。
【0046】
共加水分解・縮合反応時に系内が分液し不均一となる場合には、溶媒を使用しても良い。
溶媒としては、例えば、炭素数1〜3の低級アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、水等を任意に用いることができるが、中でも強い酸性や塩基性を示さないものが共加水分解・縮合に悪影響を与えない理由から好ましい。
溶媒は1種を単独で使用しても良いが、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用することもできる。
【0047】
溶媒使用量は自由に選択できるが、半導体デバイスに塗布する際には溶媒を除去することが多いため、必要最低限の量とすることが好ましい。また、溶媒除去を容易にするため、沸点が100℃以下、より好ましくは80℃以下の溶媒を選択することが好ましい。なお、外部より溶媒を添加しなくても加水分解反応によりアルコール等の溶媒が生成するため、反応当初は不均一でも反応中に均一になる場合もある。
【0048】
なお、触媒を中和することにより、共加水分解・縮合反応を停止することができる。中和のためには、炭酸ガス、カルボン酸、炭酸水素塩、リン酸水素塩などの弱酸、アンモニア水などの弱塩基を添加することが好ましい。中和により生成した塩は、ろ過または水洗することにより、簡単に除去することができる。
【0049】
上記の共加水分解・縮合反応において溶媒を用いた場合には、通常、硬化させる前に共加水分解・縮合物から溶媒を留去することが好ましい。これにより、溶媒を含まない半導体発光デバイス用部材形成液(液状の共加水分解・縮合物)を得ることができる。溶媒を乾燥前に留去しておくことにより、脱溶媒収縮によるクラック、剥離、断線などを防止することができる。
【0050】
溶媒の留去を行なう際の温度条件の具体的な範囲を挙げると、共加水分解・縮合反応物の主成分が留出しない程度の減圧下において、通常60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下である。この範囲の下限を下回ると溶媒の留去が不十分となる可能性があり、上限を上回ると共加水分解・縮合反応物がゲル化する、あるいは歩留まりが低下する可能性がある。
【0051】
<(B)硬化剤>
本発明における(B)硬化剤としては、(A)ポリシロキサンと結合して後述する硬化物を形成し得るものであれば特に制限されないが、耐光性の観点からカルボン酸無水物などの酸無水物硬化剤が好ましく、酸無水物硬化剤としては、例えば脂環式カルボン酸無水物が好ましい。
【0052】
脂環式カルボン酸無水物としては、例えば、下記[化1]の式(10)〜(15)で表される化合物や、4−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物のほか、α−テルピネン、アロオシメン等の共役二重結合を有する脂環式化合物と無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応生成物やこれらの水素添加物等を挙げることができる。
【0053】
【化1】

【0054】
なお、前記ディールス・アルダー反応生成物やこれらの水素添加物としては、任意の構造異性体および任意の幾何異性体を使用することができる。また、前記脂環式カルボン酸無水物は、硬化反応を実質的に妨げない限り、適宜に化学的に変性して使用することもできる。
【0055】
これらの脂環式カルボン酸無水物のうち、組成物の流動性や透明性の点から、式(10)、式(11)、式(12)または式(13)で表される化合物等が好ましく、特に好ましくは式(10)または式(11)で表される化合物である。
本発明において、脂環式カルボン酸無水物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0056】
(B)硬化剤の使用量は、(A)ポリシロキサンのエポキシ当量から算出されるエポキシ基1モルに対して、カルボン酸無水物基の当量比として、好ましくは0.4〜1.2、より好ましくは0.5〜1.0である。この場合、該当量比が0.4未満でも1.2を超えても、得られる硬化物のガラス転移点(Tg)の低下や着色等の不都合を生じることがある。
【0057】
<(C)硬化触媒>
本発明における(C)硬化触媒としては、(A)ポリシロキサンと(B)硬化剤の混合物を硬化し得るものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、3級アミン類、イミダゾール類、有機リン系化合物、4級フォスフォニウム塩類、ジアザビシクロアルケン類、有機金属化合物、4級アンモニウム塩類、ホウ素化合物、金属ハロゲン化合物等が挙げられる。
【0058】
さらに具体的には、3級アミン類としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、シクロヘキシルジメチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0059】
イミダゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−n−ヘプチルイミダゾール、2−n−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−n−ウンデシルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジ(ヒドロキシメチル)イミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニル−4,5−ジ〔(2’−シアノエトキシ)メチル〕イミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−n−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2 ’−メチルイミダゾリル−(1')〕エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−n−ウンデシルイミダゾリル)エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1')〕エチル−s−トリアジン、2−メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1')〕エチル−s−トリアジンのイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
【0060】
有機リン系化合物としては、例えば、ジフェニルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニル等が挙げられる。
【0061】
4級フォスフォニウム塩類としては、例えば、ベンジルトリフェニルフォスフォニウムクロライド、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムブロマイド、メチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、n−ブチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、テトラフェニルフォスフォニウムブロマイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムヨーダイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムアセテート、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート、テトラブチルホスホニウムジエチルホスホジチオネート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムベンゾトリアゾレート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムテトラフルオロボレート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルフォスフォニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0062】
ジアザビシクロアルケン類としては、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7やその有機酸塩等が挙げられる。
有機金属化合物としては、例えば、オクチル酸亜鉛、アクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトン錯体等が挙げられる。
【0063】
4級アンモニウム塩類としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
ホウ素化合物としては、例えば、三フッ化ホウ素、ホウ酸トリフェニル等が挙げられる。
金属ハロゲン化合物としては、例えば、塩化亜鉛、塩化第二錫等が挙げられる。
【0064】
これら化合物の他に、ジシアンジアミドやアミンとエポキシ樹脂との付加物等のアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性硬化促進剤;前記イミダゾール類、有機リン系化合物や4級フォスフォニウム塩類等の硬化促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性硬化促進剤;アミン塩型潜在性硬化剤促進剤;ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等の潜在性硬化促進剤等が挙げられる。
【0065】
これらの(C)硬化触媒のうち、4級フォスフォニウム塩類、ジアザビシクロアルケン類、有機金属化合物および4級アンモニウム塩類が、無色透明で長時間加熱しても変色し難い硬化物が得られる点で好ましい。
前記(C)硬化触媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0066】
(C)硬化触媒の使用量は、(A)ポリシロキサンと(B)硬化剤の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.1〜0.7質量部である。この場合、(C)硬化触媒の使用量が0.01質量部未満であると、硬化反応の促進効果が低下する傾向があり、一方1質量部を超えると、得られる硬化物に着色などの不都合を生じることがある。
【0067】
<熱硬化性樹脂組成物、硬化物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記(A)ポリシロキサン、(B)硬化剤および(C)硬化触媒を含むものであって、該熱硬化性樹脂組成物を熱処理することで形成される硬化物について、動的粘弾性測定によって得られる損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕が0.18以下であることに特徴をもつものである。
【0068】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化後の特性を把握することが重要である。ここで、硬化構造に関して、分子剛直性と均一性の観点から考察した場合、これらに関する情報を一般的、かつある程度の確度をもって入手できる方法は極めて限られているなか、動的粘弾性測定における損失正接(Tanδ)測定が最も適合することが判明した。つまり、具体的には構造の均一性を示す指標としての損失正接のピーク半値幅および構造の剛直性を示す指標としてのピーク温度を採用した場合、この2つの指標についてピーク半値幅と温度について比という形で整理した時に、その比をある範囲内に設定することで、同じ共重合構造から予想される水準を大きく超えるガスバリア性を発現することを見出した。なお、動的粘弾性測定における損失正接(Tanδ)は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0069】
損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕は、通常0.18以下、好ましくは0.17以下である。なお、この比の下限は特に特に限定されず、構造が完全に均一な硬化物がとり得る値以上である。
【0070】
損失正接(Tanδ)におけるピーク温度は特に限定されないが、通常270(K)以上、好ましくは300(K)以上、より好ましくは310(K)以上であり、また、通常470(K)以下、好ましくは460(K)以下である。270K以下であると、室温での取り扱い時に柔らかすぎるため加工性などのハンドリング性に問題が生じる可能性がある。一方、470K以上になると、LED発光装置内で、電極とチップをワイヤーで連結しているが、温度変化などの要因で樹脂に応力が発生した際にワイヤーが切断するなどの不良が発生することで信頼性が低下する可能性がある。
【0071】
損失正接(Tanδ)におけるピーク半値幅は特に限定されないが、通常50(K)以上であり、また、通常75(K)以下、好ましくは70(K)以下である。
【0072】
樹脂組成物の調製方法は特に制限されず、(A)ポリシロキサン、(B)硬化剤および(C)硬化触媒が均一に混合可能な方法であればよい。可能であれば、50℃ぐらいまでの加温あるいは減圧等の方法にて、混合の際に巻き込む泡を除く方が望ましい。
【0073】
本発明の半導体デバイス用部材は、上述の熱硬化性樹脂組成物を熱処理することで形成される硬化物よりなるものである。
熱処理するための加熱方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、熱風循環式加熱、赤外線加熱、高周波加熱等の従来公知の方法を採用することができる。
【0074】
熱処理条件は、熱硬化性樹脂組成物を所望の硬化状態にすることができれば特に制限はないが、例えば90℃〜200℃で、0.2時間〜10時間程度が好ましい。
得られる硬化物の内部応力を低減させることを目的とする場合は、例えば80℃〜120℃で0.5時間〜3時間程度の条件で予備硬化させたのち、例えば120℃〜180℃で0.5時間〜3時間程度の条件で後硬化させることがさらに好ましい。
【0075】
<半導体デバイス用部材、半導体発光デバイス>
本発明の熱硬化性樹脂組成物の用途は特に制限されないが、硬化により硬度が高く、ガスバリア性に優れる透明なエラストマー状の物質を形成することができるので、半導体デバイス用部材として特に好適である。また、用途に応じて、その他の成分を併用することができる。例えば、封止材として用いる場合は、蛍光体、無機微粒子などを併用することが好ましく、ダイボンド剤として用いる場合は熱伝導剤、無機微粒子などを併用することが好ましく、パッケージ材として用いる場合は無機微粒子などを併用することが好ましい。
【0076】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物よりなる半導体デバイス用部材としては、例えば、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等の半導体発光デバイス(光半導体装置)、光検出器、電気光学的ディスプレイ、有機半導体、有機発光ダイオード(OLED)、電子発光ディスプレイ、有機太陽電池(OPV)装置、照明装置などに用いる発光素子の封止材料、光取出し膜、保持部材などが挙げられる。
【0077】
これら装置の部材として本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いる場合、必要に応じて蛍光体や無機酸化物粒子を配合し、各用途や特性に応じた条件により硬化させて部材とすればよい。半導体デバイス用部材への応用方法は、それ自体既知の通常用いられる方法で行うことができる。
【0078】
以下、本発明の半導体デバイス用部材を、例えば、半導体発光デバイスの封止材(波長変換用部材)として用いる場合を一例として、より具体的に説明する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、通常は液状であるので、それに、必要に応じて蛍光体、無機微粒子などを含有させた組成物とし、該組成物を半導体発光デバイスのパッケージのカップ内に充填後、硬化したり、適当な透明支持体上に薄層状に塗布したりすることにより、波長変換用部材として使用することができる。
【0079】
なお、蛍光体や無機微粒子などは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、蛍光体や無機微粒子の他に必要に応じてその他の成分を含有させてもよい。
【0080】
蛍光体としては、後述の半導体発光素子の発する光に直接的または間接的に励起され、異なる波長の光を発する物質であれば特に制限はなく、無機系蛍光体であっても有機系蛍光体であっても用いることができる。例えば、以下に例示するような青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体、橙色ないし赤色蛍光体の1種または2種以上を用いることができる。所望の発光色を得られるよう、用いる蛍光体の種類や含有量を適宜調整することが好ましい。
【0081】
青色蛍光体としては、発光ピーク波長が、通常420nm以上、中でも430nm以上、更には440nm以上であり、また、通常490nm以下、中でも480nm以下、更には470nm以下の範囲にあるものが好ましい。
【0082】
具体的には、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Sr)MgSi:Euが好ましく、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu、(Ca,Sr,Ba)10(PO(Cl,F):Eu、BaMgSi:Euがより好ましい。
【0083】
緑色蛍光体としては、発光ピーク波長が、通常500nm以上、中でも510nm以上、更には515nm以上であり、また、通常550nm以下、中でも542nm以下、更には535nm以下の範囲にあるものが好ましい。
【0084】
具体的には、Y(Al,Ga)12:Ce、CaSc:Ce、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、β型サイアロン、(Ba,Sr)Si12:N:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0085】
黄色蛍光体としては、発光ピーク波長が、通常530nm以上、中でも540nm以上、更には550nm以上であり、また、通常620nm以下、中でも600nm以下、更には580nm以下の範囲にあるものが好適である。
【0086】
具体的には、YAl12:Ce、(Y,Gd)Al12:Ce、(Sr,Ca,Ba,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr)Si:Eu、(La,Y,Gd,Lu)(Si,Ge)11:Ceが好ましい。
【0087】
橙色ないし赤色蛍光体としては、発光ピーク波長が、通常570nm以上、中でも580nm以上、更には585nm以上であり、また、通常780nm以下、中でも700nm以下、更には680nm以下の範囲にあるものが好ましい。
【0088】
具体的には、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:Eu、Eu(ジベンゾイルメタン)・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体、カルボン酸系Eu錯体、KSiF:Mnが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSi(N,O):Eu、(La,Y)S:Eu、KSiF:Mnがより好ましい。
【0089】
また、橙色蛍光体としては、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ceが好ましい。
【0090】
無機微粒子(フィラー)の種類としては、シリカ、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化イットリウムなどの無機酸化物粒子やダイヤモンド粒子が例示されるが、目的に応じて他の物質を選択することもでき、これらに限定されるものではない。無機微粒子を含有させることで光学的特性や作業性を向上させることができる。混合する無機微粒子の種類は目的に応じて選択すればよい。
【0091】
無機微粒子の形態は、粉体状、スラリー状等、目的に応じいかなる形態でもよいが、透明性を保つ必要がある場合は、本発明の部材、例えば半導体発光デバイス用の部材と屈折率を同等としたり、水系・溶媒系の透明ゾルとして、本発明の熱硬化性樹脂組成物に加えたりすることが好ましい。
【0092】
これらの無機微粒子(一次粒子)の質量平均メジアン径(D50)は特に限定されないが、蛍光体粒子の1/10以下程度であることが好ましい。具体的には、目的に応じて以下の質量平均メジアン径(D50)のものが用いられる。
【0093】
例えば、無機粒子を光散乱材として用いるのであれば、その質量平均メジアン径(D50)は0.1〜10μmが好適である。また、例えば、無機微粒子を骨材として用いるのであれば、その質量平均メジアン径(D50)は1nm〜10μmが好適である。また、例えば、無機微粒子を増粘剤(チキソ剤)として用いるのであれば、その質量平均メジアン径(D50)は10〜100nmが好適である。また、例えば、無機粒子を屈折率調整剤として用いるのであれば、その質量平均メジアン径(D50)は1〜10nmが好適である。
【0094】
また、分散性を改善するためにシランカップリング剤などの表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0095】
本発明において、半導体発光デバイスは、半導体発光素子を有し、且つ、少なくとも本発明の部材を使用している他は、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。装置構成の具体例については後述する。
【0096】
半導体発光デバイスにおける本発明の部材の使用方法に特に制限はないが、上述の通り封止材、ダイボンド剤等として用いることができる。具体的には、例えば、本発明の熱硬化性樹脂組成物を目的とする形状を有する型に入れた状態で硬化させて部材を形成してもよいし、本発明の熱硬化性樹脂組成物を目的とする部位に塗布した状態で硬化させることにより、目的とする部位に部材を直接形成してもよい。
【0097】
また、半導体発光素子としては、特に制限はないが、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等が使用できる。
【0098】
半導体発光素子の発光ピーク波長は、上述の発光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができる。通常は、紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体が使用される。
【0099】
半導体発光素子の発光ピーク波長の具体的数値としては、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、より好ましくは360nm以上であり、また、通常510nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは450nm以下である。
【0100】
中でも、半導体発光素子としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDとしては、AlGaN発光層、GaN発光層又はInGaN発光層を有しているものが好ましい。中でも、発光強度が非常に高いことから、GaN系LEDとしては、InGaN発光層を有するものが特に好ましく、InGaN層とGaN層との多重量子井戸構造のものがさらに好ましい。
【0101】
なお、上記においてX+Yの値は、通常0.8〜1.2の範囲である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましい。
【0102】
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、又はInGaN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高くて好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高いためより好ましい。
【0103】
なお、半導体発光素子は、1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0104】
半導体発光デバイスは、例えば図1に示す様に、半導体発光素子1、樹脂成形体2、ボンディングワイヤ3、蛍光体含有部(波長変換部)4、リードフレーム5等から構成される。なお、本明細書においてリードフレーム5等の導電性材料と絶縁性の樹脂成形体からなるものを、パッケージと称することがある。
【0105】
半導体発光素子1は、近紫外領域の波長を有する光を発する近紫外半導体発光素子、紫領域の波長の光を発する紫半導体発光素子、青領域の波長の光を発する青色半導体発光素子などを用いることが可能であり、300nm以上520nm以下の波長を有する光を発する。図1においては半導体発光素子が1つのみ搭載されているが、複数個の半導体発光素子を線状に、あるいは平面状に配置することも可能である。半導体発光素子1を平面状に配置することで、面照明とすることができ、このような実施形態はより出力を強くしたい場合に好適である。
【0106】
パッケージを構成する樹脂成形体2は、リードフレーム5と共に成形されていてもよい。パッケージの形状は特段限定されず平面型でもカップ型でもよい。本発明の部材は、この樹脂成形体2として用いることもできる。
【0107】
リードフレーム5は導電性の金属からなり、半導体発光デバイス外から電源を供給し、半導体発光素子1に通電する役割を果たす。
【0108】
ボンディングワイヤ3は、半導体発光素子1をパッケージに固定する役割を有する。また、半導体発光素子1が電極となるリードフレームと接触していない場合には、導電性のボンディングワイヤ3が半導体発光素子1への電源供給の役割を担う。ボンディングワイヤ3は、リードフレーム5に圧着し、熱及び超音波の振動を与えることで接着させる。本発明の部材は、このボンディングワイヤの接着に用いるダイボンド剤としても用いることができる。
【0109】
パッケージを構成する樹脂成形体2は、半導体発光素子1が搭載され、蛍光体を混合した蛍光体含有部(波長変換部)4により封止されている。
【0110】
本発明の部材は、封止材として蛍光体含有部4に好適に用いることができる。蛍光体含有部4は、例えば、本発明の熱硬化性樹脂組成物に蛍光体、無機微粒子等を混合し、必要に応じて硬化させることで得ることができる。蛍光体含有部4に含まれる成分として本発明の部材を選択しない場合は、通常封止材に用いられることが知られている透光性の樹脂を適宜選択すればよく、具体的にはエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられ、シリコーン樹脂を用いることが好ましい。なお、これらの透光性の樹脂と、本発明の部材とを併用してもよい。
【0111】
蛍光体は半導体発光素子1からの励起光を変換し、励起光と波長の異なる可視光を発する。蛍光体含有部4に含まれる蛍光体は、半導体発光素子1の励起光の波長に応じ、適宜選択される。白色光を発する半導体発光デバイス(白色LED)において、青色光を発する半導体発光素子を励起光源とする場合には、緑色及び赤色の蛍光体を蛍光体層に含ませることで白色光を生成することができる。紫色光を発する半導体発光素子の場合には、青色及び黄色の蛍光体を蛍光体層に含ませること、または青色、緑色及び赤色の蛍光体を蛍光体層に含ませることで白色光を生成することができる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実験例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0113】
[1]測定方法
下記の実験例において、ポリシロキサン(合成シリコーン樹脂)、熱硬化性樹脂組成物、硬化物の物性等の測定を次のとおり行った。
【0114】
[1−1]ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定
質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより下記条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として示した。また、ポリシロキサンの0.5質量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、その後、0.45μmのフィルターにて濾過したものを測定試料溶液とした。
装置:ポンプユニットCCPD、RIユニットRI−8012、カラムオーブンユニットCO−8011(東ソー社製)
カラム:GF−7M HQ、GF−510 HQ(昭和電工社製)
溶離液:THF、流量1.0mL/分、サンプル濃度0.5%、注入量100μL
【0115】
[1−2]エポキシ当量
合成シリコーン樹脂(ポリシロキサン)約0.5gを2−プロパノール50mlに溶解した。この溶液に、塩酸/2−プロパノール混合溶液(体積比1:4)25ml、クレゾールレッドを添加した後、0.2規定水酸化ナトリウムにて滴定し、反応系内が赤色から黄色になり、紫色に変化した点を当量点とした。当量点より、合成シリコーン樹脂(ポリシロキサン)のエポキシ当量を以下の式に従って算出した。
エポキシ当量(g/当量)=(W/(Vr−V))×(1000/0.2)
W:試料の質量(g)
Vr:塩酸/2−プロピルアルコール混合溶液25mlの滴定に必要な0.2N水酸化ナトリウムの溶液量(mL)
V:滴定量(mL)
【0116】
[1−3]動的粘弾性測定
熱硬化性樹脂組成物について、内径50mmのアルミ製のカップに2.0g滴下したものについて、100℃にセットした熱風乾燥機内に0.5時間静置後、150℃に昇温後、さらに2時間静置することで、硬化物を得た。その硬化物について、幅5〜10mm×長さ15〜30mm×厚み0.5〜1mmのフィルムを試験用サンプルとして作成し、下記条件により−150℃〜260℃における動的粘弾性測定を行い、損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕を求めた。測定条件は以下のとおりである。
チャック間距離:5〜20mm
昇温速度:−150℃〜260℃の温度範囲で3℃/分
測定周波数:10Hz
測定装置:EXSTAR6000 DMS6100(セイコ−インスツル株式会社製)
【0117】
[1−4]水蒸気透過性評価
熱硬化性樹脂組成物を乾燥膜厚が1mmとなるようにアルミカップに仕込み、100℃1時間、150℃3時間保持して、測定用サンプルを作製した。JIS Z0208を参考に、容積20cmの容器内に2.0gの塩化カルシウムを秤量し、半径5.5mmのサンプルを用いて容器を密閉した。この容器を温度60℃および湿度95%RHで保管し、24時間、または48時間経過後、試験サンプルを秤量し、質量増加で評価した。なお、水蒸気透過量は、比較例2の透過量が100となるように、次の算出式により定義した値である。
水蒸気透過量=100×(Ws×Ds)/(Wr×Dr)
Ws:サンプルの透湿による質量変化
Wr:比較例2の透湿による質量変化
Ds:サンプルの膜厚
Dr:比較例2の膜厚
【0118】
[1−5]外観評価
ポリフタルアミド製カップに熱硬化性樹脂組成物を滴下後、100℃1時間、150℃3時間保持して、測定用サンプルを作製した。目視及び顕微鏡観察により、剥離、しわ、濁りの発生がないものは「○」、一部について発生しているものは「△」、全面に認められるものは「×」とした。
【0119】
[2]シリコーン樹脂(ポリシロキサン)の合成
[合成例1]
質量平均分子量(Mw)700のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(モメンティブ社製、商品名:XC96−723)68g、エポキシ基含有アルコキシシランとして2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン96g、1モル濃度塩酸水溶液28gを混合し、イソプロピルアルコール(1)105gを加えて25℃で3時間反応させた。この反応溶液の溶液量が833mlになるようにイソプロピルアルコール(2)で希釈し、水酸化カリウム1.9gを加えた後に、加熱して4時間還流操作を行った。その後、リン酸二水素ナトリウム水溶液(10質量%)で中和してから、減圧下で揮発成分を除去し、得られたポリマーをトルエン/リン酸二水素ナトリウム水溶液(10質量%)、トルエン/水層を用いて洗浄後、減圧下で揮発成分を除去して質量平均分子量(Mw)3860のシリコーン樹脂(1)を得た。このシリコーン樹脂(1)のエポキシ当量は391であった。
【0120】
[合成例2]
合成例1において、各原料の使用量を表1に記載のとおり変更したこと以外は合成例1と同様の条件で反応させ、質量平均分子量(Mw)2600のシリコーン樹脂(2)を得た。このシリコーン樹脂(2)のエポキシ当量は569であった。
【0121】
[合成例3]
質量平均分子量(Mw)700のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(モメンティブ社製、商品名:XC96−723)100g、エポキシ基含有アルコキシシランとして2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン70g、触媒としてジアザビシクロウンデセン14gを混合し、25℃で8時間反応させた。この反応生成物にメチルイソブチルケトン420g、メタノール136g、水136gを添加し、25℃で1時間加水分解反応を行った後、6%シュウ酸水溶液157gを加えて室温で1時間中和反応を行った。その後、水層を分離し、有機相を水136gで洗浄した。この水洗操作を3回行った後、溶媒を留去して質量平均分子量(Mw)3320のシリコーン樹脂(3)を得た。このシリコーン樹脂(3)のエポキシ当量は573であった。
【0122】
[合成例4]
質量平均分子量(Mw)700のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(モメンティブ社製、商品名:XC96−723)20g、エポキシ基含有アルコキシシランとして2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン14g、触媒として15%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液0.93g、純水2.1g、イソプロピルアルコール(3)81gを加えて、25℃で3時間反応させた。その後、リン酸二水素ナトリウム水溶液(10質量%)で中和してから、減圧下で揮発成分を除去し、得られたポリマーをトルエン/リン酸二水素ナトリウム水溶液(10質量%)、トルエン/水層を用いて洗浄後、減圧下で揮発成分を除去して質量平均分子量(Mw)4150のシリコーン樹脂(4)を得た。このシリコーン樹脂(4)のエポキシ当量は495であった。
【0123】
[合成例5]
合成例4において、各原料の使用量を表1に記載のとおり変更したこと以外は合成例4と同様の条件で反応させ、質量平均分子量(Mw)4370のポリシロキサンを得た。このポリシロキサンのエポキシ当量は366であった。
【0124】
なお、表1に、合成例1〜5における各原料等の使用量とともに、合成したシリコーン樹脂(ポリシロキサン)の共重合組成(モル比)、質量平均分子量(Mw)、エポキシ当量(g/当量)を示す。
【0125】
【表1】

【0126】
[3]熱硬化性樹脂組成物の調製と評価
[実施例1、2]
(A)ポリシロキサンとして合成例1、2で得られたシリコーン樹脂(1)、(2)、硬化剤として酸無水物〔4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=7/3の混合物(新日本理化社製、MH−700)〕、硬化触媒としてメチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート(商品名:ヒシコーリンPX−4MP、日本化学工業社製)の使用量を表2に示すとおりとして、室温、大気雰囲気下で混合し、全体が均一になるまで撹拌を行ったのちに、硬化触媒を加えてさらに撹拌をおこなって、シリコーン樹脂組成物を調製した。
【0127】
この熱硬化性樹脂組成物を所定の条件で硬化させた硬化物について、動的粘弾性測定、水蒸気透過性評価、外観評価を行った。その結果を表2に示す。
【0128】
[比較例1〜3]
比較例のポリシロキサンとして合成例3〜5で得られたシリコーン樹脂(2)〜(5)、硬化剤として酸無水物〔4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=7/3の混合物(新日本理化社製 MH−700)〕、硬化触媒としてメチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート(商品名:ヒシコーリンPX−4MP、日本化学工業社製)の使用量を表2に示すとおりとした以外は、実施例1、2と同様の条件で熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0129】
この熱硬化性樹脂組成物を所定の条件で硬化させた硬化物について、動的粘弾性測定、水蒸気透過性評価、外観評価を行った。その結果を表2に示す。
【0130】
【表2】

【0131】
表2の結果から明らかなとおり、動的粘弾性測定によって得られる損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕が0.18以下である実施例1、2については、外観が良好であり、かつガス透過性の指標となる水蒸気透過量も低く、ガスバリア性に優れた半導体デバイス用部材である。一方、比較例1〜3については、実施例1、2とポリシロキサンの共重合比あるいは、硬化剤、硬化触媒の種類、添加量比ともに同一にもかかわらず、いずれもピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕が0.18を超えている。また、外観においては一部で不良部分が認められるとともに、ガス透過性の指標となる水蒸気透過量も高く、ガスバリア性も劣る。
【0132】
[3]半導体デバイスの作製
実施例2で得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて次のとおり半導体デバイスを作製し、その評価を行った。
【0133】
(半導体発光素子およびパッケージ)
半導体発光素子として、サファイア基板を用いて形成された350μm角、主発光ピーク波長450nmのInGaN系LEDチップ1個を、シリコーン樹脂ベースの透明ダイボンドペーストを用いて、3528SMD型PPA樹脂パッケージのキャビティ底面上に接着した。接着後、150℃、2時間の加熱によりダイボンドペーストを硬化させたうえで、直径25μmのAu線を用いてLEDチップ側の電極とパッケージ側の電極とを接続した。ボンディングワイヤは2本とした。
【0134】
(封止材形成液)
半導体デバイス用部材(封止材)として実施例2で得られた熱硬化性樹脂組成物1.7335質量部に対し、赤色蛍光体としてCaAlSi(ON)3:Eu(三菱化学社製、BR−101A)0.0275質量部と、緑色蛍光体としてβ型サイアロン0.1361質量部と、無機微粒子(チキソ剤)としてアエロジルRX−200(日本アエロジル社製)0.103質量部を添加し、全体が均一になるまで攪拌を行った。次いで、硬化触媒としてメチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート0.002質量部をさらに加えて撹拌を行い、封止材形成液とした。
【0135】
(半導体発光デバイスの作製)
前記封止材形成液4μLを、エアーディスペンサーを用いて、前記半導体発光素子を設置した半導体発光装置に注液し、100℃で0.5時間保持、次いで150℃で2時間保持して前記封止材形成液を硬化させ、半導体発光装置(白色LED)を得た。
【0136】
(半導体発光デバイスの評価)
半導体発光装置に20mAの電流を通電したところ、白色光が得られた。さらに25℃、湿度55%RHで1450時間連続点灯を実施して、輝度低下がないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の熱硬化性組成物の用途は特に制限されず、何れの用途に用いても良いが、例えば、半導体デバイス用の封止材料などの部材として、特に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 半導体発光素子
2 樹脂成形体
3 ボンディングワイヤ
4 蛍光体含有部(波長変換部)
5 リードフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均組成式が下記一般式(1):
(RSiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2(O1/2・・・(1)
〔式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、エポキシ基含有炭化水素基または酸素原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示すが、R、R、RおよびRの少なくとも1つはエポキシ基含有炭化水素基であり、aは0.2〜1.0、bは0.1〜0.7、cは0〜0.2、d>0の数を示し、a+b+c=1である。〕
で表され、エポキシ当量が250〜700g/当量であるポリシロキサン、(B)硬化剤および(C)硬化触媒を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
該熱硬化性樹脂組成物を熱処理することで形成される硬化物について、動的粘弾性測定によって得られる損失正接(Tanδ)におけるピーク温度(K)に対するピーク半値幅(K)の比〔ピーク半値幅(K)/ピーク温度(K)〕が0.18以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
一般式(1)における(RSiO2/2)成分が、質量平均分子量(Mw)400以上のオリゴマーであることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリシロキサンが、アルコキシシラン化合物を、酸性化合物の存在下で加水分解し、次いで、塩基性化合物を添加して縮合反応を行うことで製造されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
アルコキシシラン化合物が、下記一般式(2):
(4−m−n)Si(OR・・・(2)
〔式(2)中、Rはエポキシ基含有炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の炭化水素基を示し、mは1または2、nは2または3、(4−m−n)は0、1または2の数を示す。〕
で表されるエポキシ基含有アルコキシシラン化合物またはそのオリゴマーと、
下記一般式(3):
HO(−Si(R)(R)−O−)H・・・(3)
〔式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜10の炭化水素基を示し、qは1〜500の整数を示す。〕
で表されるシラン化合物との混合物であることを特徴とする請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
酸性化合物に対する塩基性化合物のモル比〔塩基性化合物(モル)/酸性化合物(モル)〕が、1.05〜5.00の範囲であることを特徴とする請求項3または4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
損失正接(Tanδ)におけるピーク温度が、270〜470(K)であることを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
損失正接(Tanδ)におけるピーク半値幅が、50〜75(K)であることを特徴とする請求項1ないし6の何れか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1項に記載の樹脂組成物を硬化させた硬化物よりなることを特徴とする半導体デバイス用部材。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体デバイス用部材を備えてなることを特徴とする半導体発光デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−57000(P2013−57000A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196085(P2011−196085)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】