説明

熱硬化性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備える熱硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)、および該熱硬化性樹脂(B)以外のその他の樹脂(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、
該熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂(B)により形成された連続相と、前記その他の樹脂(C)により形成された分散相とを備えるものであり、
前記分散相には前記導電性ナノフィラー(A)が存在し、
前記熱硬化性樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、および全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、Yが20容量%以上であり、Y/Xが1.1以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ナノフィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン系ナノフィラーに代表される導電性ナノフィラーは、熱伝導性、電気伝導性、機械的特性などに優れることから、これを樹脂に添加し、樹脂にこれらの特性を付与したり、向上させることが検討されている。このような導電性ナノフィラーの添加によって向上する樹脂特性のうち、電気伝導性については比較的容易に向上させることは可能であったが、熱伝導性を大幅に向上させることは容易ではなかった。
【0003】
そこで、熱伝導性を向上させた樹脂組成物として、特開2005−54094号公報(特許文献1)には、繊維状カーボンなどのカーボンを2種以上の樹脂混合物中に分散させてなる熱伝導性樹脂材料が提案されている。この樹脂材料においては、カーボンを1種の樹脂相のみに選択的に分散させてカーボンからなる熱伝導パスを形成することによって熱伝導性を高めている。また、特開2005−54095号公報(特許文献2)には、繊維状カーボンなどのカーボンを2種以上の樹脂混合物中に分散させてなる導電性樹脂材料が開示されている。この導電性樹脂材料においては、カーボンを1種の樹脂相のみに選択的に分散させてカーボンからなる電気伝導パスを形成することによって電気伝導性を高めている。すなわち、特許文献1〜2に記載の樹脂材料は同じ組成であり、カーボンからなるパスが熱伝導パスと電気伝導パスの両方として作用し、熱伝導性と電気伝導性の両方が向上する。このため、この樹脂材料は熱伝導性(放熱性)と絶縁性とが要求される用途には適用できなかった。
【0004】
また、特開2005−150362号公報(特許文献3)には、汎用樹脂である熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブなどの熱伝導性充填材を分散させた高熱伝導性シートが開示されており、さらに、シートの電気伝導性を抑え、電気的短絡を防止するためにアルミナなどの電気絶縁性材料を分散させることも開示されている。しかしながら、カーボンナノチューブを分散させた高熱伝導性シートにアルミナなどの電気絶縁材料を分散させても、高度な絶縁性は達成されず、また、絶縁性を向上させるためにこれらの比重が大きい電気絶縁性材料を多量に配合すると、シートの比重が増大したり、成形加工性および靭性が低下する傾向にあった。また、移動媒体の各種部品、電気・電子機器用各種部品などの用途、特に自動車用各種樹脂部品の用途においては、二酸化炭素の排出量の削減および省エネルギーの観点から材料の軽量化と高機能化が求められており、比重の増大を抑制し、良好な成形加工性を維持しながら熱伝導性と絶縁性とを兼ね備える樹脂材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−54094号公報
【特許文献2】特開2005−54095号公報
【特許文献3】特開2005−150362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備える熱硬化性樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、導電性ナノフィラー、熱硬化性樹脂およびこの熱硬化性樹脂以外のその他の樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物において、図1A〜図1C(図中の各相の成分は主成分を描いたものであり、本発明の熱硬化性樹脂組成物の各相中の成分はこれに限定されるものではない。)に示すような導電性ナノフィラーを含む分散相と熱硬化性樹脂からなる連続相とからなる相構造を形成し、このような相構造を有する熱硬化性樹脂組成物に硬化処理を施すことによって電気的短絡の防止が可能となり、熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備える成形体(硬化物)が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)、および該熱硬化性樹脂(B)以外のその他の樹脂(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、
該熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂(B)により形成された連続相と、前記その他の樹脂(C)により形成された分散相とを備えるものであり、
前記分散相には前記導電性ナノフィラー(A)が存在し、
前記熱硬化性樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、および全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、Yが20容量%以上であり、Y/Xが1.1以上であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)、および該熱硬化性樹脂(B)以外のその他の樹脂(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
前記導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部と前記その他の樹脂(C)の少なくとも一部との混合物を調製した後、該混合物と前記熱硬化性樹脂(B)とを混合することを特徴とするものである。
【0010】
本発明において、前記その他の樹脂(C)としては熱可塑性樹脂が好ましい。また、前記導電性ナノフィラー(A)としては異方性の導電性ナノフィラーが好ましい。
【0011】
このような本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、定常法により測定した、厚さ2mmの成形体の厚さ方向の熱伝導率が0.3W/mK以上であることが好ましい。また、JIS K6911に準拠して印加電圧500V、印加時間1分間の条件で測定した、厚さ2mmの成形体の体積抵抗率が1013Ω・cm以上であることが好ましい。
【0012】
なお、導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)およびこの熱硬化性樹脂(B)以外のその他の樹脂(C)を含有する本発明の熱硬化性樹脂組成物が、図1A〜図1Cに示すような導電性ナノフィラーを含む分散相と熱硬化性樹脂(B)により形成された連続相とからなる相構造となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、例えば、予め、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)とを混合し、得られた混合物と熱硬化性樹脂(B)とを混合して調製される。この場合、導電性ナノフィラー(A)は、先にその他の樹脂(C)と混合することによってその表面がその他の樹脂(C)で被覆され、その後、熱硬化樹脂(B)を混合してその他の樹脂(C)により形成された分散相2と熱硬化性樹脂(B)により形成された連続相3が形成されると、その他の樹脂(C)で被覆された前記導電性ナノフィラー(A)1は分散相2に選択的に取り込まれて偏在化(局在化)し、図1A〜図1Cに示すような相構造が形成されると推察される。また、前記その他の樹脂(C)として導電性ナノフィラー(A)に対する親和性が熱硬化性樹脂(B)よりも高い樹脂を使用する場合には、導電性ナノフィラー(A)と熱硬化性樹脂(B)とその他の樹脂(C)とを同時に混合しても、導電性ナノフィラー(A)に対する親和性の違いからその他の樹脂(C)により形成された分散相2に導電性ナノフィラー(A)1が選択的に取り込まれて偏在化(局在化)し、図1A〜図1Cに示すような相構造が形成されると推察される。
【0013】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物に硬化処理を施すことによって電気的短絡の防止が可能となり、熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備える成形体が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、一般に、熱硬化性樹脂に導電性ナノフィラーを添加すると熱伝導性が向上する。さらに、図1A〜図1Cに示すような相構造を有する本発明の熱硬化性樹脂組成物に硬化処理を施すと、図1A〜図1Cに示すような相構造が保持された状態で、連続相3を形成する熱硬化性樹脂(B)が硬化するため、硬化物(成形体)においても導電性ナノフィラー(A)1は、分散相2に偏在化(局在化)した状態、すなわち、分散相2に閉じ込められた状態となると推察される。このような分散相2中の導電性ナノフィラー(Adsp)1は、他の分散相中や連続相3中の導電性ナノフィラー(A)と接触しにくく、電気伝導パスを形成しにくいため、本発明の熱硬化性樹脂組成物においては絶縁性を大幅に低下させずに熱伝導性を向上させることが可能となると推察される。
【0014】
一方、従来の熱硬化性樹脂組成物においては、図2に示すように、熱硬化性樹脂(B)3中に導電性ナノフィラー(A)1が分散されており、このような熱硬化性樹脂組成物に硬化処理を施すと、導電性ナノフィラー(A)の作用により熱伝導性は向上するものの、導電性ナノフィラー(A)1同士の接触により電気伝導パスが形成され、絶縁性が低下する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備える熱硬化性樹脂組成物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】導電性ナノフィラーを含有する本発明の熱硬化性樹脂組成物の一実施態様を示す模式図である。
【図1B】導電性ナノフィラーを含有する本発明の熱硬化性樹脂組成物の他の実施態様を示す模式図である。
【図1C】導電性ナノフィラーを含有する本発明の熱硬化性樹脂組成物の他の実施態様を示す模式図である。
【図2】導電性ナノフィラーを含有する従来の熱硬化性樹脂組成物の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明の熱硬化性樹脂組成物について説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)、およびこの熱硬化性樹脂(B)以外のその他の樹脂(C)を含有するものである。この熱硬化性樹脂組成物においては、熱硬化性樹脂(B)により連続相が形成され、その他の樹脂(C)により分散相が形成されている。また、前記分散相には前記導電性ナノフィラー(A)が存在している。
【0019】
先ず、本発明に用いられる導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)およびその他の樹脂(C)について説明する。
【0020】
(A)導電性ナノフィラー
本発明に用いられる導電性ナノフィラー(A)としては特に制限はないが、例えば、カーボン系ナノフィラー、金属系ナノフィラー、および金属や導電性高分子などで被覆されたナノフィラーなどが好ましい。これらの導電性ナノフィラーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このような導電性ナノフィラーのうち、熱伝導性および機械強度の向上という観点から、異方性の導電性ナノフィラーが好ましく、異方性のカーボン系ナノフィラー、異方性の金属系ナノフィラーがより好ましく、異方性のカーボン系ナノフィラーが特に好ましい。
【0021】
前記カーボン系ナノフィラーとしては、特に制限はなく、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンマイクロコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、フラーレン、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノフレーク、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらのカーボン系ナノフィラーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなカーボン系ナノフィラーのうち、熱伝導性および機械強度の向上の観点から、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、グラファイトおよびグラフェンなどの異方性カーボン系ナノフィラーがより好ましく、熱伝導性のさらなる向上の観点から、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノウォールおよびカーボンナノチャプレットがさらに好ましく、カーボンナノファーバーおよびカーボンナノチューブが特に好ましく、カーボンナノチューブが最も好ましい。
【0022】
このようなカーボン系ナノフィラーの形状としては、1本の幹状でも多数のカーボン系ナノフィラーが枝のように外方に成長している樹枝状であってもよいが、熱伝導性、機械強度などの向上の観点から、1本の幹状であることが好ましい。また、前記カーボン系ナノフィラーには炭素以外の原子、分子などが含まれていてもよく、必要に応じて金属や他のナノ構造体を内包させてもよい。
【0023】
本発明においては、カーボン系ナノフィラーについてラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に観察されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に観察されるDバンドの比(G/D)としては特に制限はないが、高熱伝導樹脂材料など高熱伝導性が要求される用途においては、0.1以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましく、5.0以上が特に好ましく、10.0以上が最も好ましい。G/Dが前記下限未満になると熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0024】
前記異方性カーボン系ナノフィラーのアスペクト比としては特に制限はないが、樹脂と混合した場合に、少量の添加で熱硬化性樹脂組成物の引張強度、衝撃強度などの機械強度、熱伝導性が向上するという観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましくは、40以上が特に好ましく、80以上が最も好ましい。
【0025】
また、導電性ナノフィラー(A)としてカーボンナノチューブおよび/またはカーボンナノファイバーを使用する場合、これらは単層、多層(2層以上)のいずれのものも用いることができ、用途に応じて使い分けたり、併用したりすることができる。
【0026】
このようなカーボン系ナノフィラーは、レーザーアブレーション法、アーク合成法、HiPcoプロセスなどの化学気相成長法(CVD法)、溶融紡糸法などの従来公知の製造方法を用途に応じて適宜選択することにより製造できるが、これらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0027】
本発明に用いられる金属系ナノフィラーとしては、金属フィラー、ならびに金属酸化物および金属水酸化物などの金属化合物のフィラーが挙げられる。このような金属系ナノフィラーを構成する金属としては特に制限はないが、例えば、銀、銅、金、黄銅、アルミニウム、鉄、白金、スズ、マグネシウム、モリブデン、ロジウム、亜鉛、パラジウム、タングステン、クロム、コバルト、ニッケル、チタン、金属ケイ素、およびこれらの合金などが好ましい。これらの金属のうち、成形加工性の向上の観点からは、低融点金属(例えば、Sn)、低融点金属化合物(例えば、SnO)、スズ系合金(例えば、Sn/Ag、Sn/Cu、Sn/Zn、Sn/Bi、Pb/Sn、Pb/Sn/Bi、Pb/Sn/Ag)およびPb/Agといった低融点合金などが好ましい。また、熱伝導性の向上の観点からは、銀、銅、金、黄銅、アルミニウム、鉄、白金、スズ、およびこれらの合金や酸化物などが好ましい。さらに、このような金属は、熱伝導性に加えて、各金属特有の機能(例えば、銀の場合は抗菌作用など)を熱硬化性樹脂組成物に付与することができる。
【0028】
このような金属系ナノフィラーの形状としては特に制限はなく、例えば、粒状、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状などが挙げられ、中でも、熱伝導性の向上の観点から、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状といった異方性形状が好ましい。
【0029】
また、本発明に用いられる金属や導電性高分子などで被覆されたナノフィラーとしては特に制限はなく、例えば、銀、銅、金などの金属により被覆されたガラスビーズ、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェンまたはポリフェニレンビニレンなどの導電性高分子により被覆されたガラスビーズなどが挙げられる。
【0030】
また、本発明においては、導電性ナノフィラー(A)として、前記カーボン系ナノフィラーや金属系ナノフィラーなどの導電性ナノフィラーの構造中にカルボキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、有機シリル基などの置換基、ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどの高分子、前記導電性高分子などが化学結合により導入されたものや、前記導電性ナノフィラーを他の導電性材料で被覆したものを用いることができる。
【0031】
本発明に用いられる導電性ナノフィラー(A)の平均直径としては特に制限はないが、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましく、100nm以下が最も好ましい。導電性ナノフィラー(A)の平均直径が前記上限を超えると、導電性ナノフィラー(A)を樹脂に添加しても少量の添加では十分に熱伝導性が向上しなかったり、曲げ弾性率などの機械強度が十分に発現しない傾向にある。なお、導電性ナノフィラー(A)の平均直径の下限値としては特に制限はないが、0.4nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましい。
【0032】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、導電性ナノフィラー(A)の含有量の下限としては特に制限はないが、熱硬化性樹脂組成物全体に対して0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.7質量%以上が特に好ましく、1.0質量%以上が最も好ましい。導電性ナノフィラー(A)の含有量が前記下限未満になると熱伝導性および機械強度が低下する傾向にある。また、導電性ナノフィラー(A)の含有量の上限としては絶縁性を維持できる限り特に制限はないが、熱硬化性樹脂組成物全体に対して50質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましく、5質量%以下が最も好ましい。導電性ナノフィラー(A)の含有量が前記上限を超えると、得られる熱硬化性樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0033】
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、このような導電性ナノフィラー(A)は、通常、前記分散相に局在化して存在しているが、一部は連続相に存在していてもよい。
【0034】
(B)熱硬化性樹脂
本発明に用いられる熱硬化性樹脂(B)としては特に制限はないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性イミド樹脂、芳香族ビスマレイミドおよびビスマレイミドトリアジン樹脂といったビスマレイミド樹脂、熱硬化性ポリアミドイミド、熱硬化性シリコーン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シアネート樹脂およびウレタン樹脂などが好ましく、中でも、得られる熱硬化性樹脂組成物が熱伝導性および絶縁性をより高水準で兼ね備えるという観点からエポキシ樹脂がより好ましい。これらの熱硬化性樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。なお、本発明において、「熱硬化性樹脂」とは硬化前のものをいう。
【0035】
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂および臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂といったビスフェノールアルカン類型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェニルベンゾエート型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、スピロ環型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂といったノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、トルイジン型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ケイ素含有エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)変性エポキシ樹脂、カルボキシル基末端ブタジエン−アクリロニトリルゴム(CTBN)変性エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエンといった各種エポキシ樹脂;ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエーテル、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ダイマー酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエーテルといったグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなエポキシ樹脂のうち、得られる熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性が向上するという観点から、その構造中に、メソゲン基(好ましくは、ビフェニル基、フェニルベンゾエート基、アジン基、アゾメチン基、ジアゾメチン基、2つ以上のビフェニル基がアルキレン基等のスペーサーで連結された基)と呼ばれる棒状もしくは板状の剛直な構造(芳香族環など)を有するものが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビフェニル型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0036】
熱硬化性樹脂(B)としてエポキシ樹脂を用いる場合、通常、硬化剤(B1)を使用する。このような硬化剤(B1)としては、公知のエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができ、例えば、アミン類、ポリアミド樹脂、カルボン酸類、酸無水物類、フェノール樹脂類、ポリスルフィフィド樹脂、ポリビニルフェノール類、およびこれらの塩などが挙げられる。これらの硬化剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0037】
また、エポキシ樹脂の硬化反応を促進させるために、硬化促進剤(B2)を併用することが好ましい。このような硬化促進剤(B2)としては、公知のエポキシ樹脂用硬化促進剤を使用することができ、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾールといったイミダゾール類、ジカルボン酸ジヒドラジド、ジシアンジアミド誘導体、トリフェニルホスフィンといった有機ホスフィン類、テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール−テトラフェニルボレート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7などが挙げられる。これらの硬化促進剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性樹脂(B)の含有量としては特に制限はないが、熱硬化性樹脂組成物全体に対して10質量%以上が好ましく、14質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましく、30質量%以上が最も好ましく、また、98質量%以下が好ましく、96質量%以下がより好ましく、94質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下が特に好ましく、85質量%以下が最も好ましい。熱硬化性樹脂(B)の含有量が前記下限未満になると絶縁性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱伝導性が低下する傾向にある。
【0039】
(C)その他の樹脂
本発明においては、前記熱硬化樹脂以外にその他の樹脂(以下、「その他の樹脂(C)」という)を使用する。前記その他の樹脂(C)としては、前記熱硬化性樹脂(B)として使用した樹脂以外の樹脂であって熱硬化性樹脂(B)に対して分散相を形成するものであれば特に制限はなく、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれの樹脂も使用することができる。このような熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の中でも、分散相に導電性ナノフィラー(A)が偏在化(局在化)しやすいという観点からは導電性ナノフィラー(A)に対する親和性が熱硬化性樹脂(B)より高い樹脂が好ましく、また、熱硬化性樹脂(B)に対して分散相を形成しやすいという観点からは熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0040】
本発明に用いられるその他の樹脂(C)の形状としては、直鎖状および分岐状のいずれでもよいが、連続相中での分散相の分散安定性の観点から分岐状が好ましい。このような分岐状の樹脂としては、グラフト重合により形成した側鎖を備えるグラフトポリマーが挙げられる。
【0041】
また、前記その他の樹脂(C)としては、熱硬化性樹脂(B)との親和性および/または反応性を示し、連続相中での分散相の分散安定性が向上し、得られる熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性および機械特性が向上するという観点から、官能基を備える樹脂が好ましい。また、このような官能基を備える樹脂1種以上と官能基を実質的に含まない樹脂1種以上とを併用することによって連続相中における分散相の分散安定性がより向上し、熱伝導性および機械特性にさらに優れた熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
前記官能基としては、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基、オキサゾリン基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基およびイソシアネート基が挙げられる。このような官能基は、樹脂1分子中に1種のみ含まれていても2種以上含まれていてもよい。このような官能基のうち、熱硬化性樹脂(B)に対するその他の樹脂(C)の親和性および/または反応性が高くなり、連続相中における分散相の分散安定性がより向上し、得られる熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性および機械特性がより向上するという観点から、エポキシ基、カルボキシル基および水酸基が好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。
【0043】
また、その他の樹脂(C)として官能基を備える樹脂を用いる場合、この官能基は、熱硬化性樹脂(B)が反応性官能基を備える樹脂であれば、溶融混練などの加工時の加熱によりin situで前記反応性官能基と反応することが可能である。これにより分散相と連続相との界面においてグラフトポリマーまたはブロックポリマー(好ましくはグラフトポリマー)が形成され、連続相中での分散相の分散安定性がさらに向上し、熱伝導性および機械特性に優れた熱硬化性樹脂組成物が得られる。その他の樹脂(C)が熱硬化性樹脂(B)と反応している場合には、その反応生成物はその他の樹脂(C)に含まれるものとする。
【0044】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、その他の樹脂(C)として用いられる熱硬化性樹脂としては、前記熱硬化性樹脂(B)において例示したものが挙げられる。このような熱硬化性樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、前記熱可塑性樹脂としては特に制限はないが、導電性ナノフィラー(A)に対する親和性が熱硬化性樹脂(B)より高いという観点からは、ポリオレフィン系樹脂、窒素原子を含有する樹脂、多環芳香族基含有重合体、共役高分子が好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、イミド環含有ビニル系重合体、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルアミド、ポリアミドイミド、多環芳香族基含有重合体がより好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、イミド環含有ビニル系重合体がさらに好ましく、得られる熱硬化性樹脂組成物が熱伝導性および絶縁性をより高水準で兼ね備えるという観点から、ポリオレフィン系樹脂、イミド環含有ビニル系重合体が特に好ましい。このような熱可塑性樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記ポリオレフィン系樹脂としては特に制限はなく、オレフィン系モノマーの単独重合体および共重合体、オレフィン系モノマーと前記官能基を含有するビニル系モノマー(以下、「官能基含有ビニル系モノマー」という)との共重合体、オレフィン系モノマーと、オレフィン系モノマーおよび官能基含有ビニル系モノマー以外のその他のビニル系モノマー(以下、「その他のビニル系モノマー」という)との共重合体、オレフィン系モノマーと官能基含有ビニル系モノマーとその他のビニル系モノマーとの共重合体、ならびにこれらの水素化共重合体などが挙げられる。また、未変性のポリオレフィン系樹脂を官能基含有ビニル系モノマーで変性して得られる変性ポリオレフィン系重合体も使用することができる。このようなポリオレフィン系樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0047】
このようなポリオレフィン系樹脂のうち、熱硬化性樹脂(B)との親和性および/または反応性を示し、連続相中での分散相の分散安定性が向上し、得られる熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性および機械特性がより向上するという観点から、オレフィン系モノマーと官能基含有ビニル系モノマーとの共重合体、オレフィン系モノマーと官能基含有ビニル系モノマーとその他のビニル系モノマーとの共重合体、および未変性のポリオレフィン系重合体を官能基含有ビニル系モノマーで変性して得られる変性ポリオレフィン系重合体(以下、これらをまとめて「官能基含有ポリオレフィン系重合体」という)が好ましく、エポキシ基、カルボキシル基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するポリオレフィン系重合体がさらに好ましく、カルボキシル基を含有するポリオレフィン系重合体が特に好ましい。
【0048】
前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−2−ブテン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンといったモノオレフィン系モノマー、アレン、メチルアレン、ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、クロロプレン、1,5−ヘキサジエンといったジエン系モノマーなどが挙げられる。これらのオレフィン系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのオレフィン系モノマーのうち、導電性ナノフィラー(A)との親和性が高いという観点から、少なくともエチレンを含む1種以上のモノマーが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0049】
前記官能基含有ビニル系モノマーは、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基、オキサゾリン基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するビニル系モノマーであり、具体的には、(メタ)アクリル酸といった不飽和カルボン酸およびその金属塩;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸(シトラコン酸)、メチルフマル酸(メサコン酸)、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸といった不飽和ジカルボン酸およびその金属塩;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルといった前記不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルおよびその金属塩;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、p−アミノスチレン、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタリルアミン、N,N−ジメチルアリルアミンといったアミノ基含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、メチル無水マレイン酸、メチル無水フマル酸、無水メサコン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物といった不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、マレイン酸グリシジル、フマル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、グルタコン酸グリシジル、p−グリシジルスチレン、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルといったエポキシ基含有ビニル系モノマー;2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、2−スチリル−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−オキサゾリンといったオキサゾリン基含有ビニル系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミドといったアミド基含有ビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4−ジヒドロキシ−2−ブテンといった水酸基含有ビニル系モノマーなどが挙げられる。これらの官能基含有ビニル系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの官能基含有ビニル系モノマーのうち、その他の樹脂(C)が熱硬化性樹脂(B)に対して親和性および/または反応性を示し、連続相中での分散相の分散安定性が向上し、得られる熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性および機械特性がより向上するという観点から、エポキシ基、カルボキシル基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するビニル系モノマーが好ましく、カルボキシル基を含有するビニル系モノマーがより好ましい。なお、本発明において、前記その他の樹脂(C)が前記熱硬化性樹脂(B)と反応している場合には、その反応生成物は前記その他の樹脂(C)に含まれるものとする。
【0050】
前記その他のビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ブロモスチレンなどの芳香族ビニル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アリル、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、酢酸ブチル、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、塩化ビニルなどが挙げられる。これらのその他のビニル系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記オレフィン系モノマーの共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−シクロヘキサジエン共重合体およびエチレン−1−オクテン共重合体といったエチレン系共重合体;プロピレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体およびプロピレン−1−ブテン共重合体といったプロピレン系共重合体;ポリブテン、ポリイソブテンおよび水添ポリイソブテンといったブテン系共重合体;ポリイソプレン、天然ゴム、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、水添ポリブタジエン、1−ヘキセン−4−メチル−1−ペンテン共重合体および4−メチル−1−ペンテン−1−オクテン共重合体などが挙げられる。このような共重合体の構造としては特に制限はなく、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などが挙げられるが、ブロック共重合体、グラフト共重合体がより好ましい。また、前記ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン系樹脂を使用する場合、このポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクティック、アタクティック、シンジオタクティックなどいずれのポリプロピレン系樹脂も使用することができる。
【0052】
また、前記オレフィン系モノマーと前記その他のビニル系モノマーとの共重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体およびこれらの水素化共重合体などが挙げられる。このような共重合体の構造としては特に制限はなく、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などが挙げられるが、ブロック共重合体、グラフト共重合体がより好ましい。
【0053】
また、本発明に用いられる官能基含有ポリオレフィン系重合体は、前記オレフィン系モノマーと前記官能基含有ビニル系モノマー、および必要に応じて前記その他のビニル系モノマーとを共重合させる方法;未変性のポリオレフィン系重合体に前記官能基含有ビニル系モノマーを、必要に応じてラジカル重合開始剤などの重合開始剤の存在下でグラフト重合させる方法、前記官能基を備える重合開始剤や連鎖移動剤の存在下で前記オレフィン系モノマーおよび必要に応じて前記その他のビニル系モノマーを重合させる方法などにより製造することができる。これらの重合体の重合方法としては特に制限はなく、従来公知の方法を好適に採用することができる。また、得られる共重合体の構造としては特に制限はなく、ランダム構造、ブロック構造、グラフト構造が挙げられる。また、本発明においては、その他の樹脂(C)として市販の官能基含有ポリオレフィン系重合体を使用することも可能である。
【0054】
このような官能基含有ポリオレフィン系重合体において、前記官能基含有ビニル系モノマー単位の含有率としては、官能基含有ポリオレフィン系重合体中の全構成単位に対して0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上が特に好ましく、8質量%以上が最も好ましく、また、99質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が最も好ましい。前記官能基含有ビニル系モノマー単位の含有率が前記下限未満になると熱硬化性樹脂(B)に対する官能基含有ポリオレフィン系重合体の親和性および/または反応性が低く、連続相中での分散相の分散安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱硬化性樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0055】
このようなポリオレフィン系樹脂の形状としては、直鎖状および分岐状のいずれでもよい。分岐状のポリオレフィン系樹脂としては、ポリブタジエンやスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体などを主鎖として、これにスチレンやアクリロニトリルなどのビニル系モノマーをグラフト重合させて側鎖を形成したグラフトポリマーが挙げられる。
【0056】
このようなポリオレフィン系樹脂のうち、導電性ナノフィラー(A)との親和性が特に高くなるという観点から、ポリエチレン系樹脂(エチレンの単独重合体および共重合体、官能基含有ポリエチレン系重合体)が好ましく、エチレンの単独重合体および/またはエチレン−1−ブテン共重合体がより好ましい。前記エチレンの単独重合体としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(Very Low Density Polyethylene(VLDPE)またはUltra Low Density Polyethylene(ULDPE))、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE、一般に分子量150万以上のもの)などが挙げられ、熱伝導性が高いという観点から、特にHDPEが好ましい。
【0057】
また、エチレン−1−ブテン共重合体のようなエチレン系共重合体は、その一部または全部をクロロホルムなどの有機溶媒中で導電性ナノフィラー(A)の表面に吸着させることにより溶媒中での導電性ナノフィラー(A)の分散性を向上させることができ、これら共重合体の一部または全部を導電性ナノフィラー(A)の表面に吸着させた後に溶媒を留去することによって、これらのエチレン系共重合体が導電性ナノフィラー(A)に吸着した複合体を調製して本発明の熱硬化性樹脂組成物に使用することもできる。導電性ナノフィラー(A)の表面にエチレン−1−ブテン共重合体などのその他の樹脂(C)を吸着させることにより、例えば、熱硬化性樹脂組成物製造時の混合工程において、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)との界面の濡れ性が向上し、得られる熱硬化性樹脂組成物が熱伝導性および絶縁性を特に高水準で兼ね備える傾向にある。このようなエチレン−1−ブテン共重合体としては、例えば、三井化学(株)製「タフマーA0550S」などが挙げられる。
【0058】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂の比重としては特に制限はないが、0.85以上が好ましく、0.90以上がより好ましく、0.94以上がさらに好ましく、0.95以上が特に好ましく、0.96以上が最も好ましい。ポリオレフィン系樹脂の比重が前記下限未満になると熱伝導性が十分に向上しにくい傾向にある。
【0059】
また、その他の樹脂(C)として使用する場合におけるポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR、JIS K6922−1に準拠して測定)としては特に制限はないが、絶縁性向上の観点から0.1g/10min以上が好ましく、0.2g/10min以上がより好ましく、0.3g/10min以上がさらに好ましく、0.4g/10min以上が特に好ましく、0.5g/10min以上が最も好ましい。また、本発明にかかる相構造が好適に形成されるという観点から、100g/10min以下が好ましく、90g/10min以下がより好ましく、80g/10min以下がさらに好ましく、60g/10min以下が特に好ましい。ポリオレフィン系樹脂のMFRが前記下限未満になると熱硬化性樹脂組成物の絶縁性と流動性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると機械的特性が低下する傾向にある。
【0060】
本発明に用いられるポリアミドとしては、アミノ酸、ラクタムおよびジアミンのうちの少なくとも1種と、ジカルボン酸とを主たる原料として得られるホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。このようなポリアミドは公知の重縮合反応により得ることができる。
【0061】
前記アミノ酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸および12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸が挙げられ、前記ラクタムとしては、ε−カプロラクタムおよびω−ラウロラクタムなどが挙げられ、前記ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族または芳香族のジアミンが挙げられる。
【0062】
前記ジカルボン酸としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族または芳香族のジカルボン酸が挙げられる。
【0063】
このようなポリアミドの具体例としては、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ナイロン9T、ナイロンMXD6、ナイロン6/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマー(ナイロン6/610)、ナイロン6/6Tコポリマー、ナイロン6/66/610コポリマー、ナイロン6/12コポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン6T/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6I)、ナイロン66/6I/6コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6I/66コポリマー、ナイロン6/66/610/12コポリマー、ナイロン6T/M−5Tコポリマーなどが挙げられる。中でも、得られる熱硬化性樹脂組成物の耐薬品性、耐衝撃性および流動性のバランスがよいという観点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12およびこれらを主成分とする共重合体が好ましく、ナイロン6およびナイロン6を主成分とする共重合体がより好ましい。
【0064】
本発明に用いられるポリアミドの分子量としては特に制限はないが、ポリアミドを96%濃硫酸に1g/dlの濃度で溶解させた溶液の相対粘度が25℃で1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、1.9以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることが特に好ましく、また、5.0以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましい。前記相対粘度が前記下限未満になると、得られる熱硬化性樹脂組成物の機械強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱硬化性樹脂組成物の流動性が低下する傾向にある。
【0065】
本発明に用いられるイミド環含有ビニル系重合体としては、イミド環含有構成単位のみからなるものでもよいし、イミド環含有構成単位とその他のビニル系モノマー単位を含むものでもよい。
【0066】
前記イミド環含有構成単位としては、下記式(I):
【0067】
【化1】

【0068】
(式(I)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、Rは水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるマレイミド系モノマー単位、下記式(II):
【0069】
【化2】

【0070】
(式(II)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、Rは水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるグルタルイミド基含有構成単位などが挙げられる。
【0071】
これらのイミド環含有構成単位は、前記イミド環含有ビニル系重合体中に1種が単独で含まれていても2種以上が含まれていてもよい。また、これらのイミド環含有構成単位のうち、マレイミド系モノマー単位が好ましく、N−アリールマレイミドモノマー単位、N−アルキル置換アリールマレイミドモノマー単位およびN−長鎖アルキルマレイミドモノマー単位のうちの少なくとも1種が特に好ましい。これらのマレイミドモノマー単位を含むビニル系重合体を用いると、得られる熱硬化性樹脂組成物が熱伝導性および絶縁性をより高水準で兼ね備える傾向にある。
【0072】
前記イミド環含有ビニル系重合体におけるイミド環含有構成単位の含有率としては特に制限はないが、1質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましく、80質量%以上が最も好ましい。イミド環含有構成単位の含有率が前記下限未満になると導電性ナノフィラー(A)への吸着量が減少したり、吸着安定性が低下する傾向にある。また、得られる熱硬化性樹脂組成物の耐熱性が低下する傾向にある。
【0073】
また、前記その他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる他のビニル系モノマーとしては、ポリアルキレンオキシド基含有ビニル系モノマー、ポリスチレン含有ビニル系モノマーおよびポリシロキサン含有ビニル系モノマーといったビニル系マクロモノマー、多環芳香族基含有ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸エステルモノマー、シアン化ビニル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸モノマー、その酸無水物およびその誘導体、エポキシ基含有ビニル系モノマー、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー、アミノ基含有ビニル系モノマー、アミド基含有ビニル系モノマー、ヒドロキシル基含有ビニル系モノマー、シロキサン構造含有ビニル系モノマー、シリル基含有ビニル系モノマーおよびオキセタニル基含有ビニル系モノマーなどが挙げられる。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0074】
また、前記その他のビニル系モノマー以外にも、例えば、オレフィン系モノマー、ハロゲン化ビニル系モノマー、カルボン酸不飽和エステルモノマー、ビニルエーテルモノマー、カチオン性ビニル系モノマー、アニオン性ビニル系モノマー、双性イオンモノマーといったビニル系モノマーなどを用いることもできる。これらのモノマーも1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0075】
本発明に用いられる多環芳香族基含有重合体としては、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位のみからなるものでもよいし、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位とその他のビニル系モノマー単位、およびさらに前記イミド環含有構成単位を含むものでもよい。
【0076】
前記多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位としては、ビニル系モノマー単位に多環芳香族基が直接または2価の有機基を介して結合したものや、アミド基含有ビニル系モノマー単位に多環芳香族基が直接または2価の有機基を介して結合したものなどが挙げられる。中でも、下記式(III):
【0077】
【化3】

【0078】
で表される多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位が好ましい。前記式(III)中、Rは、炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Rは1価の多環芳香族含有基を表し、R、R10およびR11はそれぞれ独立に水素または炭素数1〜20の1価の有機基を表す。
【0079】
としては、炭素数1〜20の2価の有機基が好ましく、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、およびこれらの1つまたは2つ以上の水素原子が他の原子に置換された置換体がより好ましく、導電性ナノフィラー(A)に対する吸着性および吸着安定性の観点や共重合による製造時の重合反応性の観点から、ブチレンが特に好ましい。Rとしては、ナフチル、ナフタレニル、アントラセニル、ピレニル、ターフェニル、ペリレニル、フェナンスレニル、テトラセニル、ペンタセニルおよびこれらの1つまたは2つ以上の水素原子が他の原子に置換された置換体が好ましく、導電性ナノフィラー(A)に対する吸着性および吸着安定性の観点からピレニルが特に好ましい。RおよびR10としては、水素原子、アルキルエステル基、カルボキシル基およびカルボキシレートアニオン基が好ましく、水素原子が特に好ましい。R11としては、水素原子、メチル基、アルキルエステル基およびカルボキシル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。本発明において、このような多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位は1種が単独で含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
【0080】
前記多環芳香族基含有ビニル系重合体における多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位の含有率としては特に制限はないが、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましく、20質量%以上が最も好ましい。多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位の含有率が前記下限未満になると導電性ナノフィラー(A)への吸着量が減少したり、吸着安定性が低下する傾向にある。
【0081】
また、前記その他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる他のビニル系モノマーとしてはイミド環含有ビニル系重合体において例示したビニル系モノマーなどが挙げられる。
【0082】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、その他の樹脂(C)の含有量の下限としては特に制限はないが、熱硬化性樹脂組成物全体に対して1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましく、14質量%以上が最も好ましい。また、その他の樹脂(C)の含有量の上限としては、その他の樹脂(C)により分散相が形成される限り特に制限はないが、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が最も好ましい。その他の樹脂(C)の含有量が前記下限未満になると熱伝導性および絶縁性が十分に向上しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると絶縁性が低下する傾向にある。
【0083】
(D)相溶化剤
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、必要に応じて相溶化剤(D)を含有させてもよい。また、このような相溶化剤(D)の少なくとも一部は、前記その他の樹脂(C)により形成された分散相と熱硬化性樹脂(B)により形成された連続相との界面に存在していることが好ましい。これにより、前記分散相と前記連続相との相溶性が向上し、前記界面の熱抵抗がより低減され、熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性がより向上するとともに、前記界面の絶縁性もさらに向上する傾向にある。
【0084】
このような相溶化剤(D)としては公知のものを使用することが可能であるが、熱硬化性樹脂(B)およびその他の樹脂(C)のうちの少なくとも1種として末端反応性基などの反応性官能基を有する樹脂を用いる場合においては、熱伝導性がさらに向上するという観点から、これらの樹脂と化学結合を形成し得る相溶化剤が好ましい。このような相溶化剤を添加することによって、分散相と連続相との界面に安定した層が形成され、分散相中に導電性ナノフィラー(A)を安定して内包することが可能となる。また、分散相と連続相との界面においては、相溶化剤(D)同士が反応していることがより好ましい。これにより、分散相と連続相との界面に形成された層がより厚く強固なものとなり、前記分散相中に導電性ナノフィラー(A)が効果的に内包されるとともに、絶縁性がより向上し、界面の熱抵抗がより低減される(熱伝導性がより向上する)傾向にある。
【0085】
このような熱硬化性樹脂(B)および/またはその他の樹脂(C)と反応し得る相溶化剤(D)としては、アルコキシシリル基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、オキセタン基およびオキサゾリン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0086】
このような相溶化剤(D)の具体例としては、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシランといったエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;N−ジグリシジル−N,N−ビス(3−(メチルジメトキシシリル)プロピル)アミン、N−ジグリシジル−N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミンといったエポキシ基とアルコキシシリル基を含有するアミン化合物;イソシアン酸3−(トリメトキシシリル)プロピル、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピルといったアルコキシシリル基含有イソシアン酸エステル化合物;1,3,5−N−トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートといったアルコキシシリル基含有イソシアヌレート化合物;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリエトキシシランといったアミノ基含有アルコキシシラン化合物;ビニルトリエトキシシランといったアルコキシシリル基含有ビニル化合物;クロロシラン、ブロモシランといったハロシランやポリハロシラン;N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミン、N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)エチレンジアミン、N,N−ビス((メチルジメトキシシリル)プロピル)アミン、N,N−ビス(3−(メチルジメトキシリル)プロピル)エチレンジアミンといった複数のアルコキシシリル基を含有するアミン化合物;N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)メタクリルアミド、N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アクリルアミド、N,N−ビス((メチルジメトキシシリル)プロピル)メタクリルアミドといったアルコキシシリル基含有アミド化合物;ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルファン、ビス(トリエトキシシリルエチルトリレン)ポリスルファンといったアルコキシシリル基含有ポリスルファン;メチルメトキシシリコーンオリゴマー、ジメトキシシリコーンオリゴマーといったシリコーンオリゴマー;ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルといったビスフェノールA型エポキシ化合物;ビスフェノールF−ジグリシジルエーテルといったビスフェノールF型エポキシ化合物;ビスフェノールAD−ジグリシジルエーテルといったビスフェノールAD型エポキシ化合物;フタル酸グリシジルエステルといったグリシジルエステル系エポキシ化合物;N−グリシジルアニリンといったグリシジルアミン系エポキシ化合物;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂といったノボラック型エポキシ樹脂;エポキシ基含有ポリメタクリル酸メチル、エポキシ基含有アクリロニトリル−スチレン共重合体、エポキシ基含有アクリルエラストマーといったエポキシ基含有ビニル系ポリマーなどが挙げられる。
【0087】
また、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、サリチルアルコール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリエトキシシランなども相溶化剤(D)として使用することができる。
【0088】
このような相溶化剤(D)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。本発明においては、分散相と連続相との界面が強化され、導電性ナノフィラー(A)が分散相中に高度に偏在化(局在化)した相構造が形成され、得られる熱硬化性樹脂組成物の機械強度が向上するという観点から、相溶化剤(D)としては、アルコキシシリル基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、オキセタン基およびオキサゾリン基からなる群から選択される少なくとも2種の官能基を有する化合物が好ましく、アルコキシシリル基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基からなる群から選択される少なくとも2種の官能基を有する化合物がより好ましく、アルコキシシリル基、シラノール基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも2種の官能基を有する化合物が特に好ましい。これは、相溶化剤(D)が2個以上の官能基を有することによって、後述するような熱硬化性樹脂(B)および/またはその他の樹脂(C)との反応と相溶化剤(D)(その反応生成物を含む)同士の架橋反応とが起こり、より厚く強固な界面層が形成され、その結果、分散相中に導電性ナノフィラー(A)が効果的に内包されるとともに、絶縁性がより向上し、界面の熱抵抗がより低減される。また、本発明においては、前記界面層の強度を向上させるために、製造時に、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、酸無水物、光・紫外線硬化剤などの公知の硬化促進剤を添加することが好ましい。
【0089】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、相溶化剤(D)の含有量としては特に制限はないが、熱硬化性樹脂組成物全体に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、0.2質量%以上が特に好ましく、また、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。相溶化剤(D)の含有量が前記下限未満になると絶縁性が十分に確保されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱硬化性樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0090】
(E)充填材
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、必要に応じて充填材(E)を含有させてもよい。これにより、得られる熱硬化性樹脂組成物の強度、剛性、耐熱性、熱伝導性などを向上させることができる。このような充填材(E)は繊維状のものであっても粒状などの非繊維状のものであってもよい。その具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラステナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、モンモリロナイトに代表される粘土鉱物、マイカ(雲母)鉱物およびカオリン鉱物に代表される層状ケイ酸塩、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウムおよびドロマイトなどが挙げられる。本発明の熱硬化性樹脂組成物における充填材(E)の含有率としては、充填材の種類によって異なるため一概に規定はできないが、例えば、熱硬化性樹脂組成物全体に対して0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、また、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0091】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、充填材(E)として熱伝導性フィラーを含有させることもできる。このような熱伝導性フィラーとしては特に制限はないが、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、結晶性シリカ、溶融シリカ、ダイヤモンド、酸化亜鉛などが挙げられる。これらの形状としては特に制限はなく、例えば、粒状、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状などが挙げられる。これらの熱伝導性フィラーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。この熱伝導性フィラーの熱伝導率としては特に制限はないが、0.5W/mK以上が好ましく、1W/mK以上がより好ましく、5W/mK以上がさらに好ましく、10W/mK以上が特に好ましく、20W/mK以上が最も好ましい。
【0092】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における熱伝導性フィラーの含有率は特に制限されないが、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以上が好ましく、また、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましく、40質量%以下が最も好ましい。熱伝導性フィラーの含有率が前記下限未満になると得られる成形体の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱硬化性樹脂組成物の比重が増大し、流動性が低下しやすい傾向にある。
【0093】
(その他の添加剤)
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、カーボンブラック、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェンおよびポリフェニレンビニレンといった導電性ポリマーなどの導電性物質、および前記導電性物質で被覆されたフィラーなどを含有させることもできる。このような導電性物質および導電性物質で被覆されたフィラーの添加量としては特に制限はないが、絶縁性(体積抵抗率が好ましくは1013Ω・cm以上)を維持できる範囲内であることが好ましい。また、前記導電性物質および前記導電性物質で被覆されたフィラーの分散状態としては特に制限はないが、絶縁性を維持したまま、これらの添加による効果を得るという観点からは、これらの少なくとも一部が前記その他の樹脂(C)により形成された分散相中に含まれていることが好ましく、これらの添加量の半分以上が前記その他の樹脂(C)により形成された分散相中に含まれていることがより好ましい。
【0094】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、その他の成分、例えば、塩化銅、ヨウ化第I銅、酢酸銅、ステアリン酸セリウムなどの金属塩安定剤、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系、アクリレート系、リン系有機化合物などの酸化防止剤や耐熱安定剤、ベンゾフェノン系、サリチレート系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤や耐候剤、光安定剤、離型剤、滑剤、結晶核剤、粘度調節剤、着色剤、シランカップリング剤などの表面処理剤、顔料、蛍光顔料、染料、蛍光染料、着色防止剤、可塑剤、難燃剤(赤燐、金属水酸化物系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、およびこれらのハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせなど)、木材粉、もみがら粉、くるみ粉、古紙、蓄光顔料、ホウ酸ガラスや銀系抗菌剤などの抗菌剤や抗カビ剤、マグネシウム−アルミニウムヒドロキシハイドレートに代表されるハイドロタルサイトなどの金型腐食防止剤を添加することができる。
【0095】
<熱硬化性樹脂組成物の製造方法>
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)(硬化前のもの)、その他の樹脂(C)、および必要に応じて、硬化剤(B1)、硬化促進剤(B2)、相溶化剤(D)、充填材(E)、その他の添加剤を一括で混合する方法(以下、「第一の製造方法」という);導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部(好ましくは全部)とその他の樹脂(C)の少なくとも一部(好ましくは全部)との混合物を予め調製した後、この混合物と残りの成分(熱硬化性樹脂(B)(硬化前のもの)、および必要に応じて、硬化剤(B1)、硬化促進剤(B2)、相溶化剤(D)、充填材(E)、その他の添加剤)とを混合する方法(以下、「第二の製造方法」という)などが挙げられる。
【0096】
このような製造方法のうち、本発明にかかる相構造が好適に形成され、得られる熱硬化性樹脂組成物が熱伝導性および絶縁性をより高水準で兼ね備えるという観点から、前記第二の製造方法が好ましい。また、前記その他の樹脂(C)として、導電性ナノフィラー(A)に対する親和性が熱硬化性樹脂(B)より高い樹脂を使用する場合には、前記第一および第二のいずれの製造方法を採用しても、本発明にかかる相構造を容易に形成することができ、熱伝導性および絶縁性を高水準で兼ね備える熱硬化性樹脂組成物を容易に得ることができるが、このような熱硬化性樹脂組成物をより安定して得ることができるという観点から、前記第二の製造方法が好ましい。
【0097】
前記第一の製造方法において各成分を混合する方法としては、例えば、高速撹拌機やミル(例えば、ボールミル)などによる撹拌;超音波処理(液状の場合);熱硬化性樹脂(B)の硬化温度よりも低い温度での押出機やバンバリーミキサー、ゴムロール機などによる溶融混練などが挙げられる。
【0098】
また、前記第二の製造方法においては、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)との混合物の調製と、この混合物と前記残りの成分との混合とを、独立して実施してもよいし、連続して実施してもよい。導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)との混合物を調製する方法としては特に制限はなく、例えば、高速撹拌機やミル(例えば、ボールミル)などによる撹拌;超音波処理(液状の場合);押出機やバンバリーミキサー、ゴムロール機などによる溶融混練;導電性ナノフィラー(A)の存在下でのその他の樹脂(C)の合成などが挙げられる。また、前記混合方法により得られた導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)との混合物と前記残りの成分とを混合する方法としては、例えば、高速撹拌機やミル(例えば、ボールミル)などによる撹拌;超音波処理(液状の場合);熱硬化性樹脂(B)の硬化温度よりも低い温度での押出機やバンバリーミキサー、ゴムロール機などによる溶融混練などが挙げられる。
【0099】
さらに、前記第二の製造方法においては、1つまたは複数のサイドフィーダーを備える押出機の上流のホッパーから、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)とを投入して予め溶融混練し、次いで、この混練物に、残りの成分を前記サイドフィーダーから同時にまたは独立して投入して溶融混練してもよい。また、残りの成分のうち、充填材(E)およびその他の添加剤については、機械的特性や熱伝導性の向上の観点から、熱硬化性樹脂(B)を投入する投入口より下流のサイドフィーダーから投入することが好ましく、また、導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)(硬化前のもの)およびその他の樹脂(C)を含有する溶融混練物に、単軸押出機や混練能力の弱いスクリューアレンジメントに設定した二軸押出機を用いて最後に添加することも好ましい。
【0100】
このような第一または第二の製造方法に用いられる押出機としては、十分な混練能力のあるものであれば特に制限はなく、一軸または多軸のベントを有するものなどが挙げられる。
【0101】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法において、前記各成分の形状としては特に制限はなく、ペレット状、粉末状、細片状などいずれの形状のものを使用してもよい。また、高速撹拌機やミルを用いる場合や超音波処理を施す場合には溶媒を使用することができる。この場合、得られた混合物から溶媒を除去するために、再沈殿、ろ過および乾燥などの後処理を施すことが好ましい。さらに、得られた混合物の形状が塊状である場合には、粉砕処理を施すことが好ましい。
【0102】
<熱硬化性樹脂組成物>
このようにして調製された本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上述したように、前記その他の樹脂(C)により形成された分散相と熱硬化性樹脂(B)により形成された連続相を備えており、前記分散相に導電性ナノフィラー(A)が存在するものである。これにより、本発明の熱硬化性樹脂組成物は熱伝導性および絶縁性を高水準で兼ね備えるものとなる。なお、本発明の熱硬化性樹脂組成物において分散相とは、前記その他の樹脂(C)が熱硬化性樹脂(B)に取り囲まれた部分を意味する。
【0103】
このような相構造を備える本発明の熱硬化性樹脂組成物の熱伝導率としては特に制限はないが、厚さ2mmの成形体について定常法により測定した厚さ方向の熱伝導率が0.3W/mK以上であることが好ましく、0.4W/mK以上であることがより好ましく、0.5W/mK以上であることが特に好ましく、0.6W/mK以上であることが最も好ましい。また、体積抵抗率としては特に制限はないが、厚さ2mmの成形体についてJIS K6911に準拠して印加電圧500V、印加時間1分間の条件で測定した体積抵抗率が1013Ω・cm以上であることが好ましく、1014Ω・cm以上であることがより好ましく、1015Ω・cm以上であることが特に好ましく、1016Ω・cm以上であることが最も好ましい。
【0104】
図1A〜図1Cは、このような熱硬化性樹脂組成物の相構造を模式的に示したものであるが、本発明の熱硬化性樹脂組成物の相構造はこれに限定されるものではない。分散相2は、前記その他の樹脂(C)により形成されたものであるが、分散相2と連続相3が形成される限りにおいて、導電性ナノフィラー(A)と親和性を有する他の樹脂や熱硬化性樹脂(B)が含まれていてもよい。分散相2の1つあたりに含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)1の数として特に制限はなく、図1Aに示すように1本でもよいし、図1Bおよび図1Cに示すように複数でもよい。さらに、分散相2中に導電性ナノフィラー(Adsp)1が複数存在する場合、その分散状態としては特に制限はなく、導電性ナノフィラー(Adsp)1は、互いに接触していても接触していなくてもよく、図1Bに示すように完全に孤立分散していても、図1Cに示すように個々が完全に接触していてもよい。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、図1A〜図1Cで示される状態のうちの2つ以上の状態が混在していてもよい。分散相2の形状は特に制限はなく、真円形であっても、筋状、多角形状、楕円形などの非円形であってもよい。
【0105】
連続相3は、熱硬化性樹脂(B)により形成されたものであるが、分散相2と連続相3が形成される限りにおいて前記その他の樹脂(C)が含まれていてもよい。また、連続相3には、導電性ナノフィラー(A)が含まれていてもよいが、絶縁性が要求される用途においては、その含有量は熱硬化性樹脂組成物の絶縁性(体積抵抗率が好ましくは1013Ω・cm以上)が維持される範囲であることが好ましい。
【0106】
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、分散相2と連続相3との界面に相溶化剤(D)が存在していることが好ましい。これにより、分散相2と連続相3の相溶性が向上し、前記界面の熱抵抗がより低減され、熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性がより向上するとともに、前記界面の絶縁性もさらに向上する傾向にある。
【0107】
また、熱硬化性樹脂(B)およびその他の樹脂(C)のうちの少なくとも1種として末端反応性基などの反応性官能基を有する樹脂を用いた場合においては、熱伝導性が向上するという観点から、前記相溶化剤(D)は、前記熱硬化性樹脂(B)および/または前記その他の樹脂(C)と化学結合を形成していることが好ましい。これにより、分散相2と連続相3との界面に安定した層が形成され、分散相2中に導電性ナノフィラー(A)を安定して内包することが可能となる。さらに、分散相2と連続相3との界面においては、相溶化剤(D)同士が反応していることがより好ましい。これにより、分散相2と連続相3との界面に形成された層がより厚く強固なものとなり、前記分散相2中に導電性ナノフィラー(A)が効果的に内包されるとともに、絶縁性がより向上し、界面の熱抵抗がより低減される(熱伝導性がより向上する)傾向にある。
【0108】
このような熱硬化性樹脂組成物の相構造は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡により観察することによって確認することができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、熱硬化性樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、これらの比(Y/X)は1.1以上である。Y/X値が前記下限未満になると絶縁性が低下する。また、絶縁性が向上しやすいという観点から、Y/X値としては1.5以上が好ましく、1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、2.2以上が特に好ましく、2.4以上が最も好ましい。
【0109】
また、全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合Yは20容量%以上である。前記割合Yが前記下限未満になると熱伝導性および絶縁性が低下する。また、熱伝導性および絶縁性が向上しやすいという観点から、Yは40容量%以上が好ましく、50容量%以上がより好ましく、60容量%以上がさらに好ましく、80容量%以上が特に好ましく、100容量%が最も好ましい。
【0110】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性樹脂組成物全体に対する前記導電性ナノフィラー(Adsp)を含む分散相の割合Zとしては特に制限はないが、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましく、5容量%以上がさらに好ましく、7容量%以上が特に好ましく、10容量%以上が最も好ましく、また、85容量%以下が好ましく、80容量%以下がより好ましく、70容量%以下がさらに好ましく、60容量%以下が特に好ましく、50容量%以下が最も好ましい。前記割合Zが前記下限未満になると熱伝導性および絶縁性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱硬化性樹脂組成物の流動性が低下する傾向にある。
【0111】
なお、本発明において、X、YおよびZの値は、以下のようにして走査型電子顕微鏡(SEM)写真に基づいて求めた値である。すなわち、本発明の熱硬化性樹脂組成物から所定の厚みの成形品を作製し、この成形品の中心部(表面から全厚みの40〜60%の深さの範囲)のうちの任意の部分を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、厚みが均一な印画紙に現像する。得られたSEM写真において、成形品の大きさで90μm×90μmの範囲を任意に5箇所抽出する。この抽出した範囲の質量を測定し、この抽出範囲から所定の部分(導電性ナノフィラー、分散相など)を切り取り、切り取った部分の写真の質量を測定して、所定の部分に関する写真の質量割合(質量%)を算出する。この写真の質量割合は、使用した印画紙の厚みが均一であるため、所定の部分に関する実際の容量割合(容量%)とみなすことができる。この容量割合を前記抽出した任意の5箇所について求め、その平均値をX、YまたはZの値(容量%)とする。
【0112】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物において、分散相の直径または長径の数平均値としては特に制限はないが、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、500nm以上がさらに好ましく、1μm以上が特に好ましく、2μm以上が最も好ましく、また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。分散相の直径または長径の数平均値が前記下限未満になると熱伝導性および絶縁性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱硬化性樹脂組成物の機械強度が低下する傾向にある。
【0113】
なお、本発明において、分散相の直径または長径は、電子顕微鏡写真において成形品の大きさで90μm×90μmの範囲を任意に5箇所抽出して測定を実施し、これらの測定値を平均した値である。
【0114】
このような本発明の熱硬化性樹脂組成物を成形体に加工する方法としては特に制限はなく、熱硬化性樹脂組成物から成形体を製造する従来の加工方法が挙げられる。また、成形加工時に磁場、電場、超音波などを印加することにより導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)およびその他の樹脂(C)の配向を制御することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、得られた樹脂組成物の物性は以下の方法により測定した。
【0116】
(1)体積抵抗率
実施例および比較例で得られた厚み2mmの成形体から直径100mm、厚み2mmの円盤状の試料を切り出し、ハイレジスタンスメータ(アジレント・テクノロジー(株)製「AGILENT4339B」)を用い、JIS K6911に準拠して500Vを印加し、1分後の体積抵抗率を測定した。
【0117】
(2)熱伝導率
実施例および比較例で得られた厚み2mmの成形体から25mm×25mm×2mmの試料を切り出し、定常法熱伝導率測定装置(アルバック理工(株)製「GH−1」)を用い、40℃(上下の温度差24℃)で試料の厚み方向の熱伝導率(W/mK)を測定した。
【0118】
(3)Y/X値
実施例で得られた厚み2mmの成形体から40mm×5mm×2mmの試料を切り出し、この試料の中央部の凍結破断面の中心部(表面から0.8〜1.2mmの範囲の部分)のうちの任意の部分を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、厚みが均一な印画紙に現像した。得られたSEM写真において、成形体の大きさで90μm×90μmの範囲を任意に5箇所抽出した。この抽出した範囲の写真の質量を測定した後、前記抽出範囲からその他の樹脂(C)により形成された分散相に相当する部分を切り取り、切り取った部分の写真の質量を測定し、前記抽出範囲に対する前記分散相に相当する部分の写真の質量割合(質量%)を算出した。この写真の質量割合は、使用した印画紙の厚みが均一であるため、前記抽出範囲における樹脂組成物に対する分散相の容量割合(容量%)とみなすことができる。以下の実施例においては、前記抽出した任意の5箇所について前記分散相の容量割合を求め、その平均値を、樹脂組成物全体に対する分散相の割合X(単位:容量%)とした。
【0119】
また、上記と同様にしてSEM写真撮影を行い、得られたSEM写真において任意の5箇所(それぞれ、成形体の大きさで90μm×90μmの範囲)を抽出した。この抽出した範囲の写真から導電性ナノフィラー(A)に相当する部分を全て切り取り、切り取った部分の写真の総質量を測定した。また、前記導電性ナノフィラー(A)に相当する部分のうち、分散相に含まれていた導電性ナノフィラー(Adsp)に相当する部分の写真の質量を測定し、前記抽出範囲ついて全導電性ナノフィラー(A)に対する分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の写真の質量割合(質量%)を算出した。この場合も上記と同様に、前記写真の質量割合を、前記抽出範囲における全導電性ナノフィラー(A)に対する分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の容量割合(容量%)とみなすことができ、以下の実施例においては、前記抽出した任意の5箇所について前記分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の容量割合を求め、その平均値を、樹脂組成物中の全導電性ナノフィラー(A)に対する分散相中の導電性ナノフィラー(Adsp)の割合Y(単位:容量%)とした。
【0120】
このようにして算出したXおよびYの値からY/X値を求めた。
【0121】
また、実施例および比較例において使用した導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)およびその他の樹脂(C)などの各成分を以下に示す。なお、下記導電性ナノフィラー(A)のG/D値は、レーザーラマン分光システム〔日本分光(株)製「NRS−3300」〕を用い、励起レーザー波長532nmにおいて測定を行い、約1585cm−1付近に観察されるGバンドと約1350cm−1付近に観察されるDバンドのラマンスペクトルのピーク強度から求めた。
【0122】
(A)導電性ナノフィラー:
・導電性ナノフィラー(a−1)
カーボンナノファイバー(昭和電工(株)製「VGCF」、平均直径150nm、アスペクト比60、G/D値9.6)。
・導電性ナノフィラー(a−2)
多層カーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジーズ(株)製「MWNT−7」、直径分布40〜90nm、アスペクト比100以上、G/D値8.0)。
【0123】
(B)熱硬化性樹脂:
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製「EPICLON850」、エポキシ当量:約190)。
【0124】
(B1)熱硬化性樹脂の硬化剤:
4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸。
【0125】
(B2)熱硬化性樹脂の硬化促進剤:
2−エチル−4−メチルイミダゾール。
【0126】
(C)その他の樹脂:
・樹脂(c−1)
カルボキシル基末端の液状水添ポリブタジエン(日本曹達(株)製「NISSO−PB−CI−1000」、比重0.89)。
・樹脂(c−2)
カルボキシル基末端の液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム(日本ゼオン(株)製「Nipol DN601」、比重0.98)。
・樹脂(c−3)
エチレン−1−ブテン共重合体(三井化学(株)製「A−0550S」、比重0.86)。
・樹脂(c−4)
以下の方法により合成したマレイミド系共重合体。すなわち、原料モノマーとしてN−フェニルマレイミド2.8g、メタクリル酸メチル1.1gおよびメタクリル酸0.1gと、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル6mg、分子量調整剤としてn−ドデシルメルカプタン5.1mgとをメチルエチルケトン12mLに溶解し、還流管を備えた三つ口フラスコに入れた。この混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら60℃まで昇温し、60℃で4時間攪拌した後、室温まで冷却した。得られた溶液をクロロホルム30mlで希釈した後、10倍の量のメタノールに滴下して再沈殿により精製した。得られた沈殿物をろ過により回収し、80℃で12時間の真空乾燥処理により溶媒を除去してN−フェニルマレイミド−メタクリル酸メチル−メタクリル酸共重合体(以下、「マレイミド系共重合体」という)を得た(収率60%)。
【0127】
このマレイミド系共重合体の組成をH−NMRにより確認したところ、N−フェニルマレイミド骨格/メタクリル酸メチル骨格/メタクリル酸骨格=50.7モル%/46.3モル%/3.0モル%であった。また、クロロホルムを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、「GPC」と略す。昭和電工(株)製「Shodex GPC−101」、ポンプ:昭和電工(株)製「DU−H7000」、カラム:昭和電工(株)製「K−805L」を直列に3本接続、カラム温度:40℃)を用いて前記マレイミド系共重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量は(Mw)を測定したところ、標準ポリメタクリル酸メチル樹脂換算でMn=62400、Mw=149800、Mw/Mn=2.4であった。
【0128】
(実施例1)
先ず、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:約190)12.3g、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸10.7gおよび2−エチル−4−メチルイミダゾール0.1gと、樹脂(c−1)6gとを混合し、この混合物に導電性ナノフィラー(a−1)2gを添加した後、超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を2時間施して、本発明の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0129】
この熱硬化性樹脂組成物を150℃に予熱した金型に流し込み、15分間放置して厚み2mmの成形体を作製した。この成形体を金型から取出し、150℃で4時間加熱して二次硬化させ、導電性ナノフィラー(a−1)を6.4質量%含有する成形体を得た。この成形体を用い、前記方法に従ってY/X値、体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0130】
(実施例2)
導電性ナノフィラー(a−1)の代わりに導電性ナノフィラー(a−2)0.6gを用いた以外は実施例1と同様にして、導電性ナノフィラー(a−2)を2.0質量%含有する成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従ってY/X値、体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0131】
(実施例3)
樹脂(c−1)の代わりに樹脂(c−2)6gを用いた以外は実施例2と同様にして、導電性ナノフィラー(a−2)を2.0質量%含有する成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従ってY/X値、体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0132】
(実施例4)
導電性ナノフィラー(a−2)0.6gと樹脂(c−2)6gをクロロホルム300mlに溶解し、超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を1.5時間施して、導電性ナノフィラー(a−2)の分散液を得た。この分散液からクロロホルムを留去し、樹脂(c−2)6gと導電性ナノフィラー(a−2)0.6gとの混合物を得た。
【0133】
この混合物に、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量約190)12.3g、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸10.7gおよび2−エチル−4−メチルイミダゾール0.1gからなる混合物を添加した後、前記超音波洗浄機を用いて超音波処理を0.5時間施して本発明の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0134】
この熱硬化性樹脂組成物から実施例1と同様にして導電性ナノフィラー(a−2)を2.0質量%含有する成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従ってY/X値、体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0135】
(実施例5)
導電性ナノフィラー(a−2)0.9gと樹脂(c−3)9gをクロロホルム300mlに溶解し、超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を1.5時間施して、導電性ナノフィラー(a−2)の分散液を得た。この分散液を過剰量のメタノールに滴下して再沈殿を行い、得られた沈殿物をろ過により回収し、60℃で24時間真空乾燥を行い、導電性ナノフィラー(a−2)と樹脂(c−3)との粒子状混合物を得た。
【0136】
この粒子状混合物について、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で室温から800℃まで熱重量分析(TGA)を行なった。その結果、前記分析条件においては、導電性ナノフィラー(a−2)に起因する重量減少は起こらず、粒子状混合物の重量減少量は樹脂(c−3)の含有量に相当するので、前記粒子状混合物中の導電性ナノフィラー(a−2)と樹脂(c−3)との質量比は、(a−2):(c−3)=1:10であることが確認された。
【0137】
次に、前記粒子状混合物6.6g(導電性ナノフィラー(a−2)0.6gと樹脂(c−3)6gからなるもの)を、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量約190)12.3g、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸10.7gおよび2−エチル−4−メチルイミダゾール0.1gからなる混合物に添加した後、前記超音波洗浄機を用いて超音波処理を0.5時間施して本発明の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0138】
この熱硬化性樹脂組成物から実施例1と同様にして導電性ナノフィラー(a−2)を2.0質量%含有する成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従ってY/X値、体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0139】
(実施例6)
樹脂(c−3)の代わりに樹脂(c−4)9gを使用し、導電性ナノフィラー(a−2)の量を1.35g、クロロホルムの量を450mlに変更した以外は実施例5と同様にして導電性ナノフィラー(a−2)と樹脂(c−4)との粒子状混合物を得た。この粒子状混合物中の導電性ナノフィラー(a−2)と樹脂(c−4)との質量比を実施例5と同様にして測定したところ、(a−2):(c−4)=1.5:10であった。
【0140】
次に、導電性ナノフィラー(a−2)0.6gと樹脂(c−3)6gからなる前記粒子状混合物の代わりに前記粒子状混合物6.9g(導電性ナノフィラー(a−2)0.9gと樹脂(c−4)6gからなるもの)を用いた以外は実施例5と同様にして本発明の熱硬化性樹脂組成物を得た後、導電性ナノフィラー(a−2)を3.0質量%含有する成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従ってY/X値、体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0141】
(比較例1)
導電性ナノフィラー(a−1)および樹脂(c−1)を使用しなかった以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従って体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0142】
(比較例2)
樹脂(c−1)を使用せず、導電性ナノフィラー(a−1)の量を0.8gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性ナノフィラー(a−1)を3.3質量%含有する成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従って積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0143】
(比較例3)
導電性ナノフィラー(a−2)を使用しなかった以外は実施例3と同様にして成形体を作製した。この成形体を用い、前記方法に従って体積抵抗率および熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0144】
【表1】

【0145】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の熱硬化性樹脂組成物(実施例1〜6)は、熱硬化性樹脂(B)のみを用いた場合(比較例1)、熱硬化性樹脂(B)に導電性ナノフィラー(A)のみを添加した場合(比較例2)および導電性ナノフィラー(A)を添加しなかった場合(比較例3)に比べて、熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備えるものであった。
【0146】
具体的には、熱硬化性樹脂(B)に導電性ナノフィラー(A)のみを添加した場合(比較例2)には、熱伝導率は若干向上するものの、十分ではなく、また、絶縁性は著しく低下した。さらに、熱硬化性樹脂(B)にその他の樹脂(C)のみを添加した場合(比較例3)には、絶縁性が大幅に低下することはなかったが、熱伝導性は全く向上しなかった。これに対して、熱硬化性樹脂(B)に導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)を混合した場合(実施例1〜6)には、絶縁性を大幅に低下させることなく、熱伝導率を向上させることが可能であった。
【0147】
また、予め、導電性ナノフィラー(A)とその他の樹脂(C)との混合物を調製した後、この混合物に熱硬化性樹脂(B)を混合して硬化させた場合(実施例4〜6)には、導電性ナノフィラー(A)と熱硬化性樹脂(B)とその他の樹脂(C)とを同時に混合して硬化させた場合(実施例1〜3)に比べて、絶縁性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
以上説明したように、本発明によれば、熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備える熱硬化性樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0149】
したがって、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性、放熱性および絶縁性などが要求される用途、例えば、自動車用各種部品、電気・電子機器用各種部品、高熱伝導性シート、放熱板、電磁波吸収体などの用途として有用である。
【符号の説明】
【0150】
1:導電性ナノフィラー(A)、2:分散相(主としてその他の樹脂(C))、3:連続相(主として熱硬化性樹脂(B))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)、および該熱硬化性樹脂(B)以外のその他の樹脂(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、
該熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂(B)により形成された連続相と、前記その他の樹脂(C)により形成された分散相とを備えるものであり、
前記分散相には前記導電性ナノフィラー(A)が存在し、
前記熱硬化性樹脂組成物全体に対する前記分散相の割合をX(単位:容量%)、および全導電性ナノフィラー(A)に対する前記分散相中に含まれる導電性ナノフィラー(Adsp)の割合をY(単位:容量%)としたとき、Yが20容量%以上であり、Y/Xが1.1以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記その他の樹脂(C)が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記導電性ナノフィラー(A)が異方性の導電性ナノフィラーであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
定常法により測定した、厚さ2mmの成形体の厚さ方向の熱伝導率が0.3W/mK以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
JIS K6911に準拠して印加電圧500V、印加時間1分間の条件で測定した、厚さ2mmの成形体の体積抵抗率が1013Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
導電性ナノフィラー(A)、熱硬化性樹脂(B)、および該熱硬化性樹脂(B)以外のその他の樹脂(C)を含有する熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
前記導電性ナノフィラー(A)の少なくとも一部と前記その他の樹脂(C)の少なくとも一部との混合物を調製した後、該混合物と前記熱硬化性樹脂(B)とを混合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−195614(P2011−195614A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60714(P2010−60714)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】