説明

熱硬化性樹脂組成物およびそれから得られる保護膜被覆材

【課題】フォトマスクの保護膜に用いられる熱硬化性樹脂組成物であって、防汚性に優れ、光の透過率が高く、しかも薄膜でも干渉縞が生じず、かつ金属パターンを形成するクロムマスクに用いても静電破壊を有効に防止できるものの提供。
【解決手段】アルコキシシリル基およびヒドロキシル基を有するシリコーンアクリル樹脂、フルオレン骨格を有する化合物、アルコキシシラン化合物および金属キレート剤を含有する熱硬化性樹脂組成物およびそれから得られた保護膜被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性に優れ、光の透過率が高く、しかも薄膜でも干渉縞が生じず、かつ金属パターンを有するフォトマスクに用いても静電破壊を有効に防止できるフォトマスクの保護膜に用いられる熱硬化性樹脂組成物、この樹脂組成物から得られる保護膜被覆材に関する。この組成物は、光学記録媒体、光学表示装置または光学部材の、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐磨耗性などを向上させることができるハードコート層を形成することもできる。
【背景技術】
【0002】
露光・現像という手段を用いて微細パターンを形成するいわゆるフォトリソグラフ技術には、フォトマスクと呼ばれる所定パターンを描画した露光用原版が用いられる。フォトマスクは大別すると、ガラス基板上にゼラチンとハロゲン化銀を混合したエマルジョン(乳剤)層を塗布してなるエマルジョンマスクと、ガラス基板上にクロムや酸化クロム等からなる金属を着膜して回路パターン等を形成するクロムマスクに分類される。
【0003】
いずれのタイプのフォトマスクにも、いくつかの欠点がみられる。例えば、エマルジョンマスクはゼラチンが主成分であるため、柔らかく、傷が付きやすい。また、膜面に指紋などの汚れが付着すると、除去するのが困難になる。クロムマスクは値段が高価であるばかりでなく、金属パターンが分離して構成されていると分離した金属パターン間で電位差が発生し、静電気が生じてパターン間で放電が起きるためにパターンが破壊されてしまい使用できなくなってしまう。
【0004】
これらの欠点を解消するために、回路パターン上に保護膜を形成することが必要である。しかし、保護膜は、単に回路パターンを保護する為だけではなく、クロムマスクにおいては静電破壊を防止する必要がある。また、保護膜が光の紫外線透過率を大きく減少してはならないし、未硬化のフォトレジストと接触するために樹脂の付着などを防止する防汚機能も重要である。さらに、薄膜の保護膜は、露光時に干渉縞が発生して、露光パターンに乱れが生じ、見た目も悪くなる。保護膜を干渉縞が発生しないように、厚膜にすると、光の透過率や作業性などの問題も生じる。
【0005】
特許文献1(特開2003−327896号公報)は、リチウムなどI族元素を含むアクリル系樹脂の水溶液にチタンなどIV族の微細金属を含有させた被覆用樹脂組成物を開示するが、この樹脂組成物は基本的に上記の金属回路パターンを有するクロムマスクの保護膜用の樹脂組成物であり、金属パターン間で生じる静電破壊を微細金属の配合で阻止するものである。しかし、この保護膜は微細金属を含むものであり、光の透過率の減少は避けられず、また微細金属の凝集による安定性が悪くなる等の欠点を有する。
【0006】
特許文献2(特開平11−305420号公報)には、2液架橋型防汚性表面コート剤(商品名「ディフェンサTR−310」大日本インキ化学工業株式会社製)と硬化剤(品名「バーノックDN−950」大日本インキ化学工業株式会社製)とを用いたフォトマスク原版用保護膜剤を記載されている。ここに記載された保護膜剤は主として、エマルジョンマスクの保護膜に用いるものであるが、2液架橋型防汚性表面コート剤(商品名「ディフェンサTR−310」大日本インキ化学株式会社製)が化学的に何を主剤とするものか明らかでなく、技術内容が明確でない。また、二液型であることから、作業効率の低下も予想される。
【特許文献1】特開2003−327896号公報
【特許文献2】特開平11−305420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、低温硬化が可能であり、一液型でも硬化するため作業安定性に優れた組成物を提供するフォトマスクの保護膜に用いられる熱硬化性樹脂組成物であって、防汚性に優れ、光の透過率が高く、しかも薄膜でも干渉縞が生じず、かつ金属パターンを形成するクロムマスクに用いても静電破壊を有効に防止できるものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明はアルコキシシリル基およびヒドロキシル基を有するシリコーンアクリル樹脂、フルオレン骨格を有する化合物、アルコキシシラン化合物および金属キレート剤を含有する熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【0009】
前記フルオレン骨格を有する化合物は、好ましくは官能基としてヒドロキシル基またはエポキシ基を有する化合物である。
【0010】
前記フルオレン骨格を有する化合物は、より好ましくは式:
【化1】

(式中のRは水素、メチル基またはエチル基を表し、RはOH、−O−R−OHまたは
【化2】

を表し、上記R中のRは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。)
で表される化合物である。
【0011】
本発明では、前記シリコーンアクリル樹脂の固形分中に、前記アルコキシシリル基を5〜55重量%、前記ヒドロキシル基を3〜30重量%有する。
【0012】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、さらに1価または2価のアルコール系溶剤を含有してもよい。
【0013】
本発明はまた、上記熱硬化性樹脂組成物を原版に被覆し、硬化した保護膜被覆材を提供する。
【0014】
前記熱可塑性樹脂組成物の被覆した層の膜厚が1〜5μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は一液型でも二液型であってもよく、シリコーンアクリル樹脂を主剤として使用するので、耐溶剤性が高く、また光の透過率も高いので、フォトマスク用の保護膜として優れている。また、シリコーン樹脂を利用する材料の場合、光の屈折率が下がる傾向にあるが、フルオレン系化合物を導入することにより、屈折率が改善され、薄膜でも干渉縞が生じない。さらに、フォトマスクを何度も付着・剥離を繰り返すと静電気が発生して、金属パターンを有するクロムマスクの場合には、放電現象が起こり回路パターンの破壊が起こるが、本発明の樹脂組成物を用いると、静電破壊耐性が高く、クロムマスクでも耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の熱硬化性樹脂組成物について、成分ごとに説明する。
【0017】
(シリコーンアクリル樹脂)
本発明の熱硬化性樹脂組成物の最初の成分は、アルコキシシリル基およびヒドロキシル基を有するシリコーンアクリル樹脂である。アルコキシシリル基はアルコキシシリル基を有する単量体により導入することができ、ヒドロキシル基はヒドロキシル基を有する単量体により導入することができる。また、シリコーン骨格はポリシロキサン基を有する単量体により導入することができる。
【0018】
本発明のアルコキシシリル基およびヒドロキシル基を有するシリコーンアクリル樹脂は、より具体的にはポリシロキサン基を有する単量体(a)、アルコキシシリル基を有する単量体(b)、ヒドロキシル基を有する単量体(c)および上記単量体とラジカル重合以外に反応しない官能基を有する単量体(d)のラジカル重合により形成される樹脂である。
【0019】
ポリシロキサン基を有する単量体(a)はより具体的には、一般式(1)
【化3】

〔式中のRは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基、デシル基が挙げられ、好ましくは水素原子、メチル基である。また式中のR、R、R、R、Rは互いに同一でも異なっていてもよい水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基、デシル基が挙げられ、好ましくはR、R、R、Rについてはメチル基、フェニル基、Rについてはメチル基、ブチル基、フェニル基である。また式中のnは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。〕で、及び/または、一般式(2)
【化4】

〔式中のR10は水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基が挙げられ、好ましくは水素原子、メチル基である。また式中のR11、R12、R13、R14、R15は互いに同一でも異なっていてもよい水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基が挙げられ、好ましくはR11、R12、R13、R14についてはメチル基、フェニル基、R15についてはメチル基、ブチル基、フェニル基である。また式中のpは0〜10の整数であり、好ましくは3である。また、式中のqは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。〕で示される。
【0020】
このようなポリシロキサン基を有する単量体(a)は公知の方法にて調製することができるが、市販品を用いることもでき、市販品の例としては、サイラプレーン(登録商標)FM−0711(数平均分子量1,000;チッソ社製)、サイラプレーン(登録商標)FM−0721(数平均分子量5,000;チッソ社製)、サイラプレーン(登録商標)FM−0725(数平均分子量10,000;チッソ社製)、X−22−174DX(数平均分子量4,600;信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0021】
ポリシロキサン基を有する単量体(a)は、単独でも又は2種類以上混合して使用しても良い。
【0022】
ポリシロキサン基を有する単量体(a)は単量体全量に対して5〜40重量%の範囲で用いられ、好ましくは10〜30重量%の範囲である。5重量%未満とすると、被覆組成物の防汚性が悪化し、40重量%を越えると被覆組成物の単位面積あたりの架橋密度が低下し、膜硬度が不十分となる。
【0023】
本発明に用いられるアルコキシシリル基を有する単量体(b)はジアルコキシアルキル基又はトリアルコキシシリル基とラジカル重合性二重結合を有するものであれば特に制限なく用いられ、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、グリシジル(メタ)アクリレートや3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートとγ−アミノプロピルトリメトキシシランやγ−アミノプロピルトリエトキシシランのモル比1/1反応物、グリシジル(メタ)アクリレートや3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートとγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランやγ−メルカプトプロピルトリエトキシシランのモル比1/1反応物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとγ−イソシアナトプロピルトリメトキシシランのモル比1/1反応物等が挙げられる。中でも、共重合性の観点から、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましく、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0024】
これらのアルコキシシリル基を有する単量体(b)は、単独で使用しても又は2種類以上混合して使用しても良い。
【0025】
これらのアルコキシシリル基を有する単量体(b)は、単量体全量に対して5〜55重量%の範囲で用いられ、好ましくは10〜50重量%である。5重量%未満とすると被覆組成物の架橋密度が上がらなくなるため、被覆組成物の膜硬度および耐溶剤性が低下する。また、55重量%を越えると架橋密度が上がりすぎ被膜が脆くなったり、作業性が低下することがある。
【0026】
本発明に用いられるヒドロキシル基を有する単量体(c)はヒドロキシル基とラジカル重合性二重結合を有するものであれば特に制限なく用いられ、例えば、p−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレートをはじめ、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、またはこれらのε−カプロラクトン付加物、プラクセル(登録商標)FM乃至はFAシリーズ(ダイセル化学社製;カプロラクトン付加単量体)のごとき各種のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸のごときα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とε−カプロラクトンとの付加物、またはこれらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、カージュラ(登録商標)E(シェル化学社製)のごときエポキシ化合物との付加物等が挙げられる。中でも、主として重合体のTgを調整して硬くするという観点から2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0027】
これらのヒドロキシル基を有する単量体(c)は、単独で使用しても又は2種類以上混合して使用しても良い。
【0028】
このヒドロキシル基を有する単量体(c)は単量体全量に対して3〜30重量%の範囲で用いられ、好ましくは5〜15重量%の範囲である。ヒドロキシル基を有する単量体(c)を3量%未満とすると架橋密度が上がらず、被覆組成物の膜硬度および耐溶剤性が低下する。一方30重量%を越えると、架橋密度が上がりすぎて被膜が脆くなったり、作業性が低下するため好ましくない。
【0029】
本発明における単量体(a)〜(c)とラジカル重合以外に反応しない官能基を有する単量体(d)は、ラジカル重合するときの反応温度、反応条件において単量体(a)〜(c)とラジカル重合以外の反応をしないものが選ばれ、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基をもつ(メタ)アクリレート類、これらの水素原子をフッ素、塩素、臭素原子等で置換した(メタ)アクリレート類、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ベオバ(登録商標)(シェル化学社製;分岐状モノカルボン酸のビニルエステル)等のビニルエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル類、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、これらの水素原子をフッ素、塩素、臭素原子等で置換したビニルエーテル類、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド類、これらの水素原子をフッ素、塩素、臭素原子等で置換したアクリルアミド類、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシビニルシクロヘキサン等のエポキシ基含有ビニル化合物類、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン類、その他マレイミド、ビニルスルホン等が挙げられ、これらは適宜組み合わせて複数が用いられるが、主として共重合性の観点から(メタ)アクリレート類が好ましく用いられる。
【0030】
一方、単量体(d)として好ましくないものとしては、ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、4−(N,N−ジメチルアミノ)スチレン、N−{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}ピペリジン等の塩基性窒素含有ビニル化合物類、(メタ)アクリル酸、アンゲリカ酸、クロトン酸、マレイン酸、4−ビニル安息香酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、モノ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート等の酸性ビニル化合物類が挙げられる。上記塩基性窒素含有ビニル化合物類及び酸性ビニル化合物類はアルコキシシリル基を有する単量体(b)のアルコキシシリル基を解離、縮合させる触媒の働きをなすので、重合中あるいは樹脂を長期保存するときに増粘、ゲル化する場合がある。
【0031】
上記単量体(d)は、最終的なシリコーンアクリル樹脂のTgが40℃以上となるように組み合わせて用いるのが好ましい。最終的なシリコーンアクリル樹脂のTgが40℃未満の場合に被覆組成物の膜硬度が低下する場合がある。上記単量体(d)は、単量体全量に対し0〜85重量%の範囲で用いられる。85重量%を越えると他の単量体(a)〜(c)の導入量が低下することになる。
【0032】
重合の際に用いられる溶剤としては例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ(登録商標)100(エッソ石油社製)等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ミネラルスピリット、ケロシン等の脂肪族、脂環族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル,ブチルセロソルブアセテート等のエステル類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールまたはグリコールエーテル類が挙げられ、単独または2種類以上を併用して用いることができる。
【0033】
重合はアゾ系または過酸化物のような公知慣用の種々のラジカル重合開始剤を用いて常法により実施できる。
【0034】
重合時間は特に制限されないが、通常工業的には1〜48時間の範囲が選ばれる。また、重合温度は通常30〜150℃、好ましくは60〜120℃である。
【0035】
重合時、更に必要に応じて副反応を起こさなければ、公知慣用の連鎖移動剤、例えばブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー等を添加することもできる。
【0036】
本発明におけるシリコーンアクリル樹脂は、概ね重量平均分子量がポリスチレン換算のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により5,000〜1,000,000の範囲、好ましくは10,000〜500,000が適切である。5,000未満とすると成膜性、被覆物の膜硬度、及び耐溶剤性が低下し、1,000,000を越えると重合時ゲル化の危険があり好ましくない。また、シリコーンアクリル樹脂はOH価50〜200、好ましくは80〜120を有するのが好ましい。OH価が50より小さいと、架橋密度が上がらず、被覆組成物の膜硬度および耐溶剤性が低下する。200より大きいと、架橋密度が上がりすぎ、被膜が脆くなったり作業性が低下する。
【0037】
(フルオレン骨格を有する化合物)
フルオレン骨格を有する化合物は、シリコーン骨格を有する樹脂を用いたことによる屈折率の低下を防止して、屈折率を向上する働きを有する。この化合物のエポキシ基が、前述のシリコーンアクリル樹脂のヒドロキシル基と反応して、あるいはこの化合物のヒドロキシル基が前述のシリコーンアクリル樹脂やアルコキシシラン化合物のアルコキシ基と反応して、樹脂骨格にフルオレン基がペンダントするものと考えられる。従って、フルオレン骨格を有する化合物は、基本的に少なくともヒドロキシル基またはエポキシ基を有する化合物であり、下記化学式で表されるものが好ましい:
【化5】

(式中のRは水素、メチル基またはエチル基を表し、RはOH、−O−R−OHまたは
【化6】

を表し、上記R中のRは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。)。
【0038】
フルオレン骨格を有する化合物は、具体的にはビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、ビスフェノキシエタノールフルオレンまたはそれらの混合物が挙げられる。フルオレン骨格を有する化合物は両者とも大阪ガスケミカル株式会社から市販されている。
【0039】
フルオレン骨格を有する化合物は樹脂組成物中5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%で配合する。5重量%より少ないと、屈折率が低下し、干渉縞が生じやすい。30重量%を超えると被覆組成物の膜硬度の低下や防汚性が悪くなる。
【0040】
(アルコキシシラン化合物)
本発明で用いるアルコキシシラン化合物は、シリコーンアクリル樹脂中に存在するアルコキシシリル基と反応して硬化する硬化剤として作用する。アルコキシシラン化合物は、具体的にはアルキルアルコキシシランおよびその縮合物を意味するものとする。
【0041】
上記アルキルアルコキシシランとして、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、トリデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ノナデシルトリメトキシシラン、ノナデシルトリエトキシシラン、エイコシルトリメトキシシラン、エイコシルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシランを挙げることができる。
【0042】
アルコキシシラン化合物は樹脂組成物中に20〜70重量%、好ましくは30〜50重量%の量で配合される。20重量%より少ないと、硬度が十分でなく、50重量%より多いと、被覆組成物の塗膜が脆くなったり、基材との密着性、防汚性および安定性が悪くなる。
【0043】
(金属キレート剤)
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、キレート化剤が添加される。キレート化剤を加えることによってアルコキシシラン化合物の硬化触媒として機能し、塗膜性能を向上させる。キレート化剤としてはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートなどが好適に用いられる。
【0044】
キレート化剤を添加する場合は、本発明の全樹脂組成物中、5〜15重量%、より好ましくは7〜11重量%添加する。キレート化剤の添加量が5重量%未満では膜硬度が十分ではなく、一方15重量%を越えると液の経時安定性が悪化する。
【0045】
(その他の成分)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記4成分を必須成分とするが、それ以外に種々の成分、例えば反応停止剤や溶剤などを含んでも良いが、それらの成分が透明性や屈折率、あるいは耐久性などの特性を低下させてはならない。
【0046】
反応停止剤は、貯蔵安定性を高めるために添加されるものであり、具体的にはアセチルアセトン、アセト酢酸エチル、オルト酢酸トリエチルなどが挙げられる。反応停止剤の組成物への配合量は、樹脂組成物の固形分量に基づいて、10〜55重量%、好ましくは20〜50重量%である。55重量%を超えると、液の安定性や膜硬度の低下などの欠点を有し、10重量%より少ないと、液の安定性を高めることができない。
【0047】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、塗布方法や均一性のために溶剤を用いることができる。溶剤は上記成分が溶解あるいは均一分散しうるものであって、具体的にはアルコール類、エーテル類またはアセテート類が挙げられる。アルコール類の例としては、炭素数1〜8のアルキルアルコール、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。エーテル類の例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等が挙げられ、アセテート類はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチルアセテート、酢酸エチルアセテート等が挙げられる。溶剤は、上記のものの混合物であっても良い。溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、イソプレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールが挙げられる。
【0048】
溶剤の量は、塗装形態や使用成分の種類に応じて大きく変化して、特定することは難しいが、例えば樹脂組成物全量の30〜99重量%、好ましくは50〜95重量%である。もちろんこれらの量を逸脱した範囲の使用も可能である。
【0049】
(熱硬化性樹脂組成物)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記成分を混合することにより形成することができる。混合方法は、特に限定されず、塗料等の混合時に用いる混合機で混合することにより行われる。上記成分を混合した組成物は、通常一液硬化型になるが、シリコーンアクリル樹脂とフルオレン骨格を有する化合物の成分と、アルコキシシラン化合物と金属キレート剤の成分を分けて二液型とすることもできる。用途に応じて、使用しやすい硬化型を用いることができる。
【0050】
(原版への応用)
原版への本発明の熱硬化性樹脂組成物の応用は、通常、原版(ガラス基板上に所定のパターンを形成したもの)に保護膜として塗布することにより形成する。塗布方法は、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、ロールコートなど種々の方法があるが、いずれの方法を用いても良い。実用的である塗布方法は、スピンコートである。塗布し乾燥後の膜厚は1〜5μmが好ましい。原版は、エマルジョンマスクまたはクロムマスクのいずれであっても良いが、本発明の熱硬化性樹脂組成物から形成された保護膜が静電破壊耐性が高いことから、クロムマスクの保護膜に最も好適である。
【0051】
(基材への応用)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記原版以外に通常の基材に塗布して、その性能を発揮させることもできる。基材としては、各種プラスチックフィルム、プラスチック板およびガラスなどが使用できる。プラスチックフィルムとしては、例えばトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンフタレート(PET)フィルム、ジアセチレンセルロースフィルム、アセテートプチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリロニトリルフィルム等が挙げられる。プラスチック板としては、例えばポリアクリル系樹脂板、ポリカーボネート樹脂板、ポリウレタン樹脂板等が使用できる。また、基材としては、シリコン基板を使用することもできる。
【0052】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を塗布したのち、通常、昇温下に硬化する。硬化は、60〜210℃、好ましくは100〜180℃の温度で、10〜120分、好ましくは30〜60分行われる。硬化は通常オーブン中で行われるが、これに限らず当業者に公知の種々の装置で硬化が行われる。
【実施例】
【0053】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれらに実施例に限定されるものと解してはならない。
【0054】
実施例1、2および比較例1、2
下記表1に記載の配合を混合することにより、保護膜用塗料を形成した。
【0055】
形成された保護膜用塗料を基板上にスピンコート塗装し、150℃で30分加熱硬化した。得られた塗膜について、膜硬度、接触角、干渉縞ムラ、静電破壊特性、光透過率、ガラス密着性、耐アセトン性、貯蔵安定性および傷つき強度を下記記載の方法で試験した。結果を表2に示す。
【0056】
【表1】

*1 富士化成工業(株)製、アルコキシシリル基及びヒドロキシル基含有のアクリル系シリコーン樹脂。
*2 大阪ガスケミカル(株)製、高屈折率材料。
【化7】

(式中、R=(CHで、nは1〜4の整数を示す。)
*3 コルコート(株)製、硬化剤、メチルポリシリケート。
*4 東レ・ダウコーニング(株)製、硬化剤、ジメチルフェニルメトキシシロキサン。
*5 川研ファインケミカル(株)製、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート。
*6 日本乳化剤(株)製、溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート。
*7 日本乳化剤(株)製、溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル。
【0057】
膜硬度
JIS K 5400に基づいて測定した。
【0058】
接触角
共和界面科学株式会社製CA‐XP型を用い、純水の接触角を測定した。
【0059】
干渉縞ムラ
保護膜ガラス基材をナトリウムランプにて目視観察を行った。
◎…放射線状や等高線状の模様が全く見えない
○…放射線状や等高線状の模様が基材コーナーのみに見える
△…放射線状や等高線状の模様がやや見える
×…放射線状や等高線状の模様が見える
【0060】
静電破壊特性
ELECTROSTATIC DISCHARGE SIMULATOR(放電試験装置)を用い、10kVでクロムパターン膜面に放電したときの膜面を目視評価した。
○:クロムパターン破壊無し。
×:クロムパターン破壊有り。
【0061】
UV透過率
島津製作所製MPC‐3100を用い、空気の透過率を基本にして、熱硬化性樹脂組成物の透過率を測定した。
【0062】
ガラス密着性
保護膜剤とガラスの密着性を碁盤セロファンテープ剥離試験(クロスカット法)にて評価した。
【0063】
耐アセトン性
アセトンを含浸させたフェルトを用い、ラビングテスターにて500g荷重で100回ラビング後の表面の目視観察を行い、膜べりやきず擦り性の低下のないものを○、あるものを×とした。
【0064】
貯蔵安定性
室温で1ヶ月貯蔵した後の保護膜用塗料の状態について、目視観察を行い、液の状態の変化がないものを○、変化があるものを×とした。
【0065】
【表2】

【0066】
本発明の実施例1および2では、高屈折率材料(フルオレン骨格を有する化合物)を含むので、干渉縞ムラが生じず、その他の性能も優れている。一方、比較例1および2の例では、高屈折率材料を含んでいないので、静電破壊特性が悪く、干渉縞ムラが生じ、耐溶剤性も悪い。なお、比較例1ではアクリル系シリコーン樹脂では無く、通常のアクリル樹脂なので、貯蔵安定性やその他の性能も悪い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシリル基およびヒドロキシル基を有するシリコーンアクリル樹脂、フルオレン骨格を有する化合物、アルコキシシラン化合物および金属キレート剤を含有する熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記フルオレン骨格を有する化合物が、官能基としてヒドロキシル基またはエポキシ基を有する化合物である請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記フルオレン骨格を有する化合物が式:
【化1】

(式中のRは水素、メチル基またはエチル基を表し、RはOH、−O−R−OHまたは
【化2】

を表し、上記RのRは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。)
で表される化合物である請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリコーンアクリル樹脂の固形分中に、前記アルコキシシリル基を5〜55重量%、前記ヒドロキシル基を3〜30重量%有する請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに1価または2価のアルコール系溶剤を含有する請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物を原版に被覆し、硬化した保護膜被覆材。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物の被覆した層の膜厚が1〜5μmである、請求項6記載の保護膜被覆材。

【公開番号】特開2007−182537(P2007−182537A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209951(P2006−209951)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】