説明

熱硬化性樹脂組成物とそれを用いたプリプレグ

【課題】耐熱性や靭性等の機械的特性に優れた複合材料を成形するのに適した熱硬化性樹脂組成物、及びこの熱硬化性樹脂組成物を用いたプリプレグを提供すること。
【解決手段】平均粒子径が1〜12μmのシリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と、熱可塑性樹脂99〜10重量%を混練して得られる平均粒子径が5〜70μmの熱可塑性複合微粒子5〜50重量部(成分[A])、熱硬化性樹脂100重量部(成分[B])、硬化剤20〜50重量部(成分[C])、及び成分[A]以外の熱可塑性樹脂5〜80重量部(成分[D])を必須成分として、前記割合で含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性や靭性等の機械的特性に優れた複合材料を成形するのに適した熱硬化性樹脂組成物、及びこの樹脂組成物をマトリックス樹脂としたプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂と、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維強化材とからなる複合材料であり、軽量で且つ強度特性に優れるため、近年、航空宇宙産業から一般産業分野に至るまで、幅広い分野において利用されている。
【0003】
一般的に、マトリックス樹脂を溶剤に溶かし、硬化剤や添加剤を混合して、クロス、マット、ロービング等の繊維強化材に含浸させることによってFRP用の成形中間基材であるプリプレグが得られる。そして、例えば、航空機の構造材料用としては、軽量化の観点から、プリプレグを面板としたハニカムサンドウィッチパネルが、多岐にわたり使用されているが、最近では、航空機用途においてハニカムサンドウィッチパネル用途以外への適用も試みられている。しかしながら、特に高度の耐熱性や靭性(タフネス)が要求される航空機用材料においては、従来のFRPは、高温度条件において、その靭性や耐衝撃性等の機械物性が顕著に低下するという問題があった。そこで、耐熱性等の基本性能を維持しながら、靭性や耐衝撃性等の機械物性の改善をすることが望まれている。
【0004】
例えば、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂に用いたプリプレグの場合、耐熱性、機械的特性が良好であるが、反面、マトリックス樹脂の伸度が低く、脆いために複合材料の靭性、耐衝撃性に劣るという問題がある。そこで、複合材料の耐衝撃性を向上させるため、プリプレグのマトリクス樹脂中に熱可塑性樹脂を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、十分な耐衝撃性を得るために熱可塑性樹脂の量を増やすとプリプレグの接着性が低下するため、成形工程での取扱性が低下してしまうという問題がある。また、かかるプリプレグでは、経時的にもプリプレグの接着性が低下し、取扱性が低下する。必要な熱可塑樹脂を添加しつつ、プリプレグの接着性・安定性を改善することが望まれている。そして、前記のような問題を解決するために、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂と粒子状の熱可塑性樹脂を用いる方法(特許文献4と5)、エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂とマイクロカプセル型エポキシ樹脂硬化剤を用いる方法(特許文献6と7)等が提案されている。しかしながら、積層性等の取扱い性と耐衝撃性等のコンポジット性能の改善効果は未だ十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−250021号公報
【特許文献2】特開昭62−36421号公報
【特許文献3】特開昭62−57417号公報
【特許文献4】特開平6−240024号公報
【特許文献5】特開2006−169541号公報
【特許文献6】特開平4−249544号公報
【特許文献7】特開平5−9262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐熱性や靭性等の機械的特性に優れた複合材料を成形するのに適した熱硬化性樹脂組成物、及びこの熱硬化性樹脂組成物を用いたプリプレグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された本発明の各態様によって達成される。
【0008】
本発明の請求項1に記載された発明は、少なくとも下記の成分[A] 、成分[B]、成分 [C]及び成分 [D]を必須成分として、下記の割合で含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
成分[A]:平均粒子径が1〜12μmのシリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と、熱可塑性樹脂99〜10重量%を混練して得られる平均粒子径が5〜70μmの熱可塑性複合微粒子5〜50重量部、
成分[B]:熱硬化性樹脂100重量部、
成分[C]:硬化剤20〜50重量部、
成分[D]:成分[A]以外の熱可塑性樹脂5〜80重量部。
【0009】
請求項2に記載された発明は、成分[A]の熱可塑性複合微粒子表面に、直径が1〜12μmのクレーター状の穴が存在することを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【0010】
請求項3に記載された発明は、成分[B]の熱硬化性樹脂が、少なくともエポキシ樹脂を含有していることを特徴とする請求項1又は2記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【0011】
請求項4に記載された発明は、エポキシ樹脂が、少なくとも3官能以上のエポキシ樹脂を含有していることを特徴とする請求項3記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【0012】
請求項5に記載された発明は、成分[B]の熱硬化性樹脂が、成分[A]の熱可塑性樹脂を溶解しない熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の硬化性樹脂組成物である。本発明において、成分[B]の熱硬化性樹脂が熱可塑性樹脂を溶解しないとは、ペレット、粉砕物若しくはパウダー状で熱可塑性樹脂を成分[B]中に投入し、硬化温度以下で撹拌しても、粒子の大きさが殆ど変化しないことを意味する。
【0013】
請求項6に記載された発明は、成分[C]の硬化剤が、少なくとも芳香族アミン系硬化剤を含有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【0014】
請求項7に記載された発明は、平均粒子径が1〜12μmのシリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と、熱可塑性樹脂99〜10重量%を混練して得られる平均粒子径が5〜70μmの熱可塑性複合微粒子である。
【0015】
請求項8に記載された発明は、熱可塑性複合微粒子表面に、直径が1〜12μmのクレーター状の穴が存在することを特徴とする請求項7記載の熱可塑性複合微粒子である。
【0016】
請求項9に記載された発明は、請求項1〜6のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を、繊維強化材に含浸させてなるプリプレグである。
【0017】
請求項10に記載された発明は、繊維強化材が炭素繊維である請求項9記載のプリプレグである。
【0018】
そして、請求項11に記載された発明は、請求項9又は10記載のプリプレグを硬化させてなる複合材料である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂組成物をマトリックス樹脂としたプリプレグを積層し、硬化成形して得られる複合材料は、高い耐熱性を持ち、機械特性、特に靭性が向上したものが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも成分[A] 、即ち、平均粒子径が1〜12μmのシリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と、熱可塑性樹脂99〜10重量%を混練して得られる平均粒子径が5〜70μmの熱可塑性複合微粒子、成分[B]、即ち、熱硬化性樹脂、成分 [C]、即ち、硬化剤、及び成分 [D]、即ち、成分[A]以外の熱可塑性樹脂を必須成分として含むものである。
【0021】
そして、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、それを構成する成分の一つとして、熱可塑性樹脂内に耐熱性の高いシリコーン樹脂微粒子を含む熱可塑性複合微粒子(成分[A])を用いることを特徴としている。
【0022】
熱可塑性複合微粒子を構成するシリコーン樹脂微粒子の配合割合は、樹脂の種類に依存して、シリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と熱可塑性樹脂99〜10重量%の割合が適当である。好ましいのは、シリコーン樹脂微粒子が5〜70重量%の範囲にある場合である。該シリコーン樹脂粒子の平均粒子径は1〜12μmが適当で、好ましくは2〜10μmである。作製方法としては、平均粒子径が1〜12μmのシリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と、熱可塑性樹脂99〜10重量%を混練し、複合化させ、次いで、粉砕し粒子状とし、必要に応じて篩い分けして、平均粒子径が5〜70μmの熱可塑性複合微粒子を得る。かくして得られた複合微粒子表面には、通常、クレーター状の穴が存在するが、本発明においては、直径が1〜12μmのクレーター状の穴が存在するものが好ましい。なお、粉砕した粒子状物を風力分級処理に付すことによって、粒子の表面近傍に少量存在するシリコーン樹脂微粒子は取り除くのが好ましい。
【0023】
前記熱可塑性複合微粒子は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中に均質かつ成形性を維持して添加されるために、粒子状である必要がある。該熱可塑性樹脂微粒子の平均粒子径は、5〜70μmの範囲であることが必要である。5μmより小さいと、嵩密度が高くなり、熱硬化性樹脂組成物の粘度が著しく増粘したり、十分な量を添加することが困難となったりする場合がある。一方、70μmより大きいと、得られる熱硬化性樹脂組成物をシート状にする際、均質な厚みのシート状のものが得られにくくなる場合がある。より好ましくは、平均粒径5〜50μmである。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物中の前記熱可塑性複合微粒子(成分[A])の混合割合は、熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂(後記成分[B])の量を100重量部としたとき、5〜50重量部、好ましくは10〜40重量部である。混合の仕方は特に限定されるものではないが、できるだけ均一に混合するのが好ましい。上記のごとく熱可塑性複合微粒子を配合することにより、本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を殆ど低下させず、層間破壊靭性等の機械的特性を向上させることができる。
【0025】
本発明の成分[B]として用いられる熱硬化性樹脂としては、特に限定はないが、例えば、主としてエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、シアネートエステル樹脂などから構成される熱硬化性樹脂が挙げられる。前記熱硬化性樹脂は、適時選択して1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
熱硬化性樹脂として好ましいのは、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(例として、ジャパンエポキシレジン社製jER604、住友化学社製スミエポキシELM−434、同ELM−120、旭チバ社製アラルダイトMY9634、同MY−720、東都化成製エポトートYH434)、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール(例として、住友化学社製スミエポキシELM−100)等のグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂が挙げられる。更に、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等の各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。好ましいものとしては、前記のグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂の他に、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂が挙げられる。
【0027】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等が挙げられる。更に具体的には、市販の樹脂として、ジャパンエポキシレジン社製jER815、同jER828、同jER834、同jER1001、同jER807、三井石油化学製エポミックR−710、大日本インキ化学工業製EXA1514等を例示できる。
【0028】
脂環型エポキシ樹脂としては、市販の樹脂として、旭チバ社製アラルダイトCY−179、同CY−178、同CY−182、同CY−183等が例示される。フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社製jER152、同jER154、ダウケミカル社製DEN431、同DEN485、同DEN438、大日本インキ化学工業製エピクロンN740等が例示される。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、旭チバ社製アラルダイトECN1235、同ECN1273、同ECN1280、日本化薬製EOCN102、同EOCN103、同EOCN104等を例示できる。
更に、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂としては、旭電化製アデカレジンEPΜ−6、同EPΜ−4等が例示できる。
【0029】
本発明においては、エポキシ樹脂が、少なくとも3官能以上のエポキシ樹脂を含むものであるのが好ましい。3つの官能基を有するエポキシ樹脂としては、住友化学社製のELM−100、ELM−120、YX−4、ハンツマン社製のMY0510、大日本インキ社製
EXD506等が挙げられる。
【0030】
本発明において、成分[B]の熱硬化性樹脂は、成分[A]の熱可塑性複合微粒子に用いた熱可塑性樹脂を溶解しないことが好ましい。本発明において、熱硬化性樹脂が熱可塑性樹脂を溶解しないとは、熱可塑性樹脂をペレット、粉砕物若しくはパウダー状で熱硬化樹脂中に投入し、硬化温度以下で撹拌した際に、粒子の大きさが変化しない場合をいう。
【0031】
成分[B]の熱硬化性樹脂が溶解しない成分[A]の熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂としてグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂を用いた場合、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミドイミド(PAI)、ナイロン6、ナイロン12、非晶性ナイロン(TR−55)、非晶性ポリイミド(PIXA−M)などのポリアミド等が挙げられる。
【0032】
成分
[C]の硬化剤としては、特に限定されるものではない。例えば、エポキシ樹脂は、通常、公知の硬化剤と共に用いられるが、本発明においても同様である。本発明で用いられる硬化剤は、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるものなら何でもよいが、芳香族アミン系硬化剤が好ましい。具体的には、例えば、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルエーテル(DPE)、フェニレンジアミンが例示される。これらは単独で使用してもよく、あるいは2種以上の混合物として使用しても良いが、耐熱性を付与する点でDDSが好ましい。また、芳香族アミン系硬化剤は、例えば、メラニン樹脂などによりマイクロカプセル化されたものを用いることもできる。芳香族アミン系硬化剤を本発明のエポキシ樹脂組成物に含ませることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物に高い耐熱性を発現させることができる。
【0033】
また、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂以外の樹脂、たとえば芳香族ビスマレイミドやアルケニルフェノールなどを用いた場合も同様である。硬化剤の配合量は、硬化促進剤の有無と添加量、熱硬化樹脂との化学反応量論及び組成物の硬化速度などを考慮して、適宜、所望の配合量で用いることができるが、本発明においては、熱硬化性樹脂組成物中の前記硬化剤(成分[C])の混合割合が、熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂(前記成分[B])の量を100重量部としたとき、20〜50重量部であるのが適当であり、特に10〜40重量部であるのが好ましい。
【0034】
成分
[D]、即ち、成分[A]以外の熱可塑性樹脂としては、熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂(前記成分[B])の量を100重量部としたとき、5〜80重量部、好ましくは5〜50重量部の範囲で用いられる。かかる熱可塑性樹脂[D]は、例えば、熱硬化性樹脂組成物の硬化過程で熱硬化性樹脂に溶解し、樹脂組成物の粘度を増加させ、熱硬化性樹脂組成物の粘度の低下を防ぐ効果がある。また、これらの熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂に一部又は全量を分散させて用いることもできる。
【0035】
熱可塑性樹脂[D]としては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)に代表される熱可塑性樹脂のほか、熱可塑性ポリイミド、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトンや、アリレート、ポリエステルカーボネート等が挙げられる。この中でも、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルフォンは耐熱性の観点からより好ましい例として挙げることができる。
【0036】
本発明において、前記の成分[A]以外の熱可塑性樹脂[D]の配合量が、熱硬化性樹脂100重量部に対して5重量部より少ないと、得られるプリプレグ及び複合材料の耐衝撃性が不十分になる。80重量部を超えると、樹脂組成の粘度が高くなり成形性・取扱性の劣るものとなる場合がある。前述のように、好ましくは、10〜80重量部であり、更に好ましくは20〜50重量部である。
【0037】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、適宜、上述の成分以外の硬化促進剤、反応性希釈剤、充填剤、老化防止剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤を含有していてもよい。硬化促進剤としては、酸無水物、ルイス酸、ジシアンジアミドやイミダゾール類の如く塩基性硬化剤、尿素化合物、有機金属塩等が挙げられる。より具体的には、酸無水物としては、無水フタル酸、トリメリット酸無水物、無水ピロメリット酸等が例示される。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素塩類が例示され、更に詳細には、BF3モノエチルアミン、BF3 ベンジルアミン等が例示される。イミダゾール類としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールが例示される。また、尿素化合物である3−[3,4−ジクロロフェニル]−1,1−ジメチル尿素等や、有機金属塩であるCo[III]アセチルアセトネート等を例示することができる。反応性希釈剤としては、例えば、ポリプロピレンジグリコール・ジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等の反応性希釈剤が例示される。
【0038】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、樹脂組成物製造時に適用される混練温度としては、10〜160℃の範囲が例示できる。160℃を超えると樹脂成分の熱劣化や、部分的な硬化反応が開始し、得られる熱硬化性樹脂組成物並びにそれを用いたプリプレグの保存安定性が低下する場合がある。10℃より低いと樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混練が困難となる場合がある。好ましくは20〜130℃であり、更に好ましくは30〜110℃の範囲である。
【0039】
混練機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を供えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混練は、大気中又は不活性ガス雰囲気下にて行うことができる。また、特に大気中で混練が行われる場合は、温度、湿度管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下にて一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下といった低湿度雰囲気にて混練されるのが好ましい。
【0040】
各成分の混練は一段で行われても、逐次添加することにより多段的に行われても良い。また、逐次添加する場合は、任意の順序で添加することができる。また、成分[A]以外の熱可塑性樹脂[D]については、その一部又は全量を予め、成分[B]に溶解せしめた後に、供することもできる。また、特に限定するものではないが、混練・添加順序として硬化剤を最後に添加することが、得られる熱硬化性樹脂組成物及びにそれからなるプリプレグの保存安定性の観点から、好ましい。
【0041】
次に、本発明の他の態様であるプリプレグについて説明する。本発明のプリプレグとは、上記の如くして得られる耐湿熱特性に優れた本発明の熱硬化性樹脂組成物を、シート状の繊維強化材に含浸させてなるプリプレグである。本発明のプリプレグに用いられる繊維強化材としては、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維などが挙げられる。これらは、単独又は、二種以上を併用することができる。特に限定されるものではないが、複合材料の機械的性質を向上させるためには、引っ張り強度に優れる炭素繊維を用いることが好ましい。また、繊維強化材の形態は、織物、多軸織物、一方向引き揃え物等のシート状のものが好ましい。
【0042】
本発明のプリプレグは、構成する熱硬化性樹脂組成物含有率(RC)が15〜70重量%であることが好ましい。15重量%より少ないと、得られる複合材料に空隙などが発生し、機械特性を低下させる場合がある。70重量%を超えると強化繊維による補強効果が不十分となり、実質的に重量対比機械特性が低いものとなる場合がある。好ましくは20〜60量%の範囲であり、より好ましくは30〜50重量%の範囲である。ここでいう熱硬化性樹脂組成物含有率(RC)とは、プリプレグの樹脂を硫酸分解にて分解させた場合における重量変化から算出される割合である。より具体的には、プリプレグを100mm×100mmに切り出して試験片を作成し、その重量を測定し、硫酸中で樹脂分が溶出するまで、浸漬または煮沸を行い、ろ過して残った繊維を水で洗浄し、乾燥してからその質量を測定し、算出することによって得られる値である。
【0043】
また、特に限定されるものではないが、具体的なプリプレグの好ましい形態としては、例えば、強化繊維及び前記強化繊維間に含浸された樹脂組成物からなる強化繊維層と、前記強化繊維層表面に被覆された樹脂被覆層とからなり、樹脂被覆層の厚みが2〜50μmであるものが例示される。2μm未満の場合、タック性が不十分となり、プリプレグの成形加工性が著しく低下する場合がある。50μmを超えると、プリプレグを均質な厚みでロール状に巻き取ることが困難となり、成形精度が著しく低下する場合がある。より好ましくは、5〜45μmであり、更に好ましくは10〜40μmである。
【0044】
航空機用複合材料が具備すべき特性の一つに、層間破壊靭性が挙げられる。層間破壊靭性とは、所定の方法でクラックを作製した供試体に荷重を付与し、クラックの生成に必要なエネルギー量を計測することで、供試体の破壊靱性を評価する手法である。層間破壊靭性は、その変形様式に応じてモードI(開口型)、モードII(面内せん断型)、モードIII(面外せん断型)に分類される。そのうち、航空機用複合材料として特に重要な特性は、モードIIの層間破壊靭性(GIIc)である。上記の如き構成の本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いることによって、GIIcの高い、即ち、靭性に優れる硬化物が得られる。本発明においては、成形・硬化して得られる複合材料のGIIcが、2500J/m以上となるようなプリプレグが特に好ましい。ここでいうGIIcは、EN6034に準拠し測定した値である。
【0045】
本発明のプリプレグの製法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいかなる方法を用いて製造することができる。例えば、上記本発明の熱硬化性樹脂組成物を、離型紙の上に薄いフィルム状に塗布し、剥離して得られた樹脂フィルムを、シート状の繊維強化材に積層成形して熱硬化性樹脂組成物を含浸させる、いわゆるホットメルト法や、熱硬化性樹脂組成物を適当な溶媒を用いてワニス状にし、このワニスを繊維強化材シートに含浸させる溶剤法が挙げられる。この中でも、特に本発明のプリプレグは、従来公知の製造方法であるホットメルト法により、好適に製造することができる。
【0046】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を、樹脂フィルム又はシートにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。より具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどにより、離型紙、フィルムなどの支持体上に流延、キャストをすることにより得ることが出来る。フィルム又はシート化の際の樹脂温度としては、その樹脂組成・粘度に応じて適宜設定可能であるが、前述の熱硬化性樹脂組成物の製造方法における混練温度と同じ条件が好適に用いることができる。
【0047】
樹脂シートをシート状の繊維強化材へ含浸させる際の含浸加圧は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、任意の圧力を用いることが出来る。樹脂シートの繊維強化材シートへの含浸温度は、50〜150℃の範囲である。50℃未満の場合、樹脂シートの粘度が高く、繊維強化材シートの中へ十分含浸しない場合がある。150℃以上の場合、樹脂組成物の硬化反応が開始され、プリプレグの保存安定性が低下したり、ドレープ性が低下したりする場合がある。好ましくは、60〜145℃であり、より好ましくは70〜140℃である。また、含浸は1回ではなく、複数回に分けて任意の圧力と温度にて、多段的に行うこともできる。
【0048】
かかる手段により得られるプリプレグを用いて、積層等の成形並びに硬化せしめて製造される複合材料は、高い耐湿熱特性を有し、更に優れた耐衝撃性を有しており、航空機用構造材料用途へと好適なものである。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本実施例、比較例において樹脂組成物の各種試験方法は下記の方法に従って行った。
【0050】
[複合微粒子表面のクレーター直径測定]
複合微粒子の表面に存在するクレーター状の穴の直径は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し求めた。
【0051】
[複合微粒子の平均粒子径測定]
複合微粒子の粒子径及び粒度分布測定は、日機装株式会社製の粒子径・粒度分布測定装置を用いて行った。測定条件は分散媒を水とし、測定に十分な散乱光が得られる量サンプルを加え、吸収モードで30秒測定を行い体積平均粒子径を粒子径とした。
【0052】
[層間破壊靭性(GIIc)の測定]
靭性の指標として、GIIcの評価をEN6034に準拠し測定した。所定の方法により得られたプリプレグをカットし、0°方向に8層積層した積層体を2つ作製した。初期クラックを発生されるための離型フィルムを、2つの積層体の間にはさみ、両者を組み合わせ、積層構成[0]16の厚さ約3mmのプリプレグ積層体を得た。真空オートクレーブ成形法を用い、0.49MPaの圧力下、180℃の条件で2時間成形した。得られた成形物を幅25.0mm
× 長さ110mm以上の寸法に切断し、GIIcの試験片を得た。この試験片を用いて、GIIc試験を行った。
【0053】
離型フィルムにより作製したクラックが、支点から35±1mmとなる位置に試験片を配置し、1mm/minの速度で曲げの負荷をかけGIIc試験を実施した。
【0054】
[ガラス転移温度(ホット/ウエット条件)測定]
耐湿熱性の指標として、ガラス転移温度を、EN6032に準拠しDMA測定より求めた。所定の方法により得られたプリプレグをカットし0°方向に16層積層した約3mmの積層体を得た。真空オートクレーブ成形法を用い、0.49MPaの圧力下、180℃の条件で2時間成形した。得られた成形物を幅5mm
× 長さ50mmの寸法に切断し試験片を得た。この試験片を71℃の水に2週間サンプルを浸漬させ吸湿させた。取り出し後、DMA測定装置((株)ユービーエム社製Rheogel−E4000)を用いて、3点曲げにて3℃/分の昇温速度、周波数1Hzの歪をかけて樹脂組成物を測定して得られる、損失粘弾性(E”)のピーク温度である。
【0055】
[実施例1]
成分[A]用の熱可塑性樹脂として、ポリアミドイミド・トーロン4000T(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)を27重量部、シリコーン樹脂微粒子としてトスパール130(平均粒子径3μm)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)を3重量部用いた。これを栗本鐵工所製卓上二軸混練機KRS−S1を用いて230℃で混練し、ポリアミドイミド・シリコーン樹脂からなる複合樹脂を得た。この複合樹脂を、ジェットミルを用いて粉砕した。同時に風力分級を行うことにより、表面のシリコーン樹脂微粒子を取り除き、平均粒子径が30μmの複合微粒子を得た。微粒子表面の状態を電子顕微鏡で観察したところ、表面に平均直径が約2μmのクレーターが存在していた。
【0056】
成分[B]の熱硬化性樹脂として、グリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製jER604)を65重量部、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製jER828)を15重量部、ウレタン変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭電化製アデカレジンEPU−6)を20重量部の配合比で用いた。 成分[C]の硬化剤として、芳香族アミン系硬化剤である、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)(和歌山精化社製)を40重量部、成分[D]の熱可塑性樹脂として、ポリエーテルスルホン(平均粒子径10μm)(住友化学製スミカエクセルPES5003P)を35重量部用いた。
【0057】
上記の各種原材料を、表1に示す組成で、以下の手順で配合した。先ず、jER604、jER828及びEPU−6を、ニーダー中にて加熱・混合させた。続いて、得られた樹脂混合物をロールミルに移し、硬化剤成分[C]と熱可塑性樹脂成分[D]、及び複合微粒子成分[A]とを良く混練し、実施例1のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0058】
上記で得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、以下の手順でプリプレグを作成した。実施例1で得られた樹脂組成物を、フィルムコーターにて60℃にて流延し、樹脂フィルムを作成した。この樹脂フィルムを、東邦テナックス社製の炭素繊維のテナックス(東邦テナックス社商標)IMS60・E13・24Kの、一方向繊維強化材(繊維目付190±10g/m)に含浸せしめることにより、樹脂量(RC)35%のプリプレグを得た。
【0059】
得られたプリプレグを16枚積層し、オートクレーブ(硬化条件180℃、2時間、5kgf/mm)にて複合材料(成形板)に成形し、層間破壊靭性(GIIc)及びガラス転移温度(Tg)測定用試験片を得た。この試験片を用いて、GIIc試験とTg測定を行いその結果を表1に示した。
【0060】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた複合樹脂を、実施例1と同様にジェットミルを用いて粉砕した。その後は、微粒子表面からシリコーン樹脂微粒子を風力分級により除去することなく、平均粒子径が30μmの複合微粒子を得た。微粒子表面の状態を電子顕微鏡で観察したところ、表面に平均直径が約2μmのクレーターが存在していた。この複合微粒子[A]を用いて、その他は実施例1と同様にして複合材料の試験片を調製し、GIIc試験とTg測定を行いその結果を表1に示した。シリコーン樹脂微粒子が単体で存在していることにより、GIIc値が実施例1に比べて低下しているのが分かる。
【0061】
[実施例3]
成分[A]の熱可塑性樹脂とシリコーン樹脂微粒子は実施例1のものと同じものを用い、但し、配合割合を22.5重量部と2.5重量部に変更して、実施例1と同様な方法で平均粒子径が30μmの複合微粒子[A]を作製した。かかる複合微粒子[A]を25重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。表1より、複合微粒子[A]の減量によりGIIcが低下しているのが分かる。
【0062】
[実施例4]
成分[A]の熱可塑性樹脂とシリコーン樹脂微粒子は実施例1のものと同じものを用い、但し、配合割合を31.5重量部と3.5重量部に変更して、実施例1と同様な方法で平均粒子径が30μmの複合微粒子[A]を作製した。かかる複合微粒子[A]を35重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。表1より、複合微粒子[A]の増量の場合には、GIIcの値にあまり影響を与えていないことが分かる(実施例1と4の比較)。
【0063】
[実施例5]
成分[A]の熱可塑性樹脂とシリコーン樹脂微粒子は実施例1のものと同じものを用い、但し、配合割合を29.4重量部と0.6重量部に変更して、実施例1と同様な方法で平均粒子径が30μmの複合微粒子[A]を作製した。かかる複合微粒子[A]を30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。表1より、複合微粒子[A]に含まれるシリコーン粒子の減量に伴い、複合微粒子として靭性に与える影響が小さくなっていることが分かる(実施例1に比較して靭性が低下)。
【0064】
[実施例6]
成分[A]の熱可塑性樹脂とシリコーン樹脂微粒子は実施例1のものと同じものを用い、但し、配合割合を9重量部と21重量部に変更して、実施例1と同様な方法で平均粒子径が30μmの複合微粒子[A]を作製した。かかる複合微粒子[A]を30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。シリコーン粒子の増量に伴い、複合微粒子として靭性に与える影響が小さくなったことが分かる(実施例1と6の比較)。
【0065】
[実施例7]
成分[A]用の熱可塑性樹脂は実施例1のものと同じものを27重量部、シリコーン樹脂微粒子としてはトスパール130(平均粒子径12μm)を3重量部用いた。これを実施例1と同様にして混練し、ポリアミドイミド・シリコーン樹脂からなる複合樹脂を得た。この複合樹脂を、ジェットミルを用いて粉砕した。同時に風力分級を行うことにより、表面のシリコーン樹脂微粒子を取り除き、平均粒子径が30μmの複合微粒子を得た。微粒子表面の状態を電子顕微鏡で観察したところ、表面に平均直径が約1μmのクレーターが存在していた。かかる複合微粒子[A]を30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。シリコーン粒子の小径化に伴い、複合微粒子として靭性に与える影響には差が無いと言える。
【0066】
[実施例8]
成分[A]用の熱可塑性樹脂は実施例1のものと同じものを27重量部、シリコーン樹脂微粒子としてはトスパール130(平均粒子径12μm)を3重量部用いた。これを実施例1と同様にして混練し、ポリアミドイミド・シリコーン樹脂からなる複合樹脂を得た。この複合樹脂を、ジェットミルを用いて粉砕した。同時に風力分級を行うことにより、表面のシリコーン樹脂微粒子を取り除き、平均粒子径が30μmの複合微粒子を得た。微粒子表面の状態を電子顕微鏡で観察したところ、表面に平均直径が約10μmのクレーターが存在していた。かかる複合微粒子[A]を30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。シリコーン粒子の大径化に伴い、複合微粒子として靭性に与える影響が小さくなる(靭性が小さくなる)ものの、複合化していない粒子より、その効果があると言える(後記比較例参照)。
【0067】
[実施例9]
成分[A]用の熱可塑性樹脂は実施例1のものと同じものを27重量部、シリコーン樹脂微粒子としてはトスパール130(平均粒子径2μm)を3重量部用いた。これを実施例1と同様にして混練し、ポリアミドイミド・シリコーン樹脂からなる複合樹脂を得た。この複合樹脂を、ジェットミルを用いて粉砕した。同時に風力分級を行うことにより、表面のシリコーン樹脂微粒子を取り除き、平均粒子径が5μmの複合微粒子を得た。微粒子表面の状態を電子顕微鏡で観察したところ、表面に平均直径が約1μmのクレーターが存在していた。かかる複合微粒子[A]を30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。複合微粒子の小径化に伴い、複合微粒子として靭性に与える影響が小さくなるものの、複合化していない粒子より、その効果があると言える(後記比較例参照)。
【0068】
[実施例10]
成分[A]用の熱可塑性樹脂は実施例1のものと同じものを27重量部、シリコーン樹脂微粒子としてはトスパール130(平均粒子径12μm)を3重量部用いた。これを実施例1と同様にして混練し、ポリアミドイミド・シリコーン樹脂からなる複合樹脂を得た。この複合樹脂を、ジェットミルを用いて粉砕した。同時に風力分級を行うことにより、表面のシリコーン樹脂微粒子を取り除き、平均粒子径が70μmの複合微粒子を得た。微粒子表面の状態を電子顕微鏡で観察したところ、表面に平均直径が約10μmのクレーターが存在していた。かかる複合微粒子[A]を30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表1に示した。複合微粒子の大径化に伴い、複合微粒子として靭性に与える影響が小さくなるものの、複合化していない粒子より、その効果があると言える。
【0069】
[比較例1]
実施例1において複合微粒子[A]を除いた熱硬化性樹脂組成物を作製し、実施例1と同様に試験片を調製しGIIc試験を行い、その結果を表2に示した。複合微粒子[A]を含まない場合、得られた複合材料のGIIcは大幅に低下した。
【0070】
[比較例2]
ポリアミドイミド・トーロン4000Tのみの微粒子を、実施例1に準じて調製した。この微粒子(平均粒子径が30μm)を電子顕微鏡で観察したところ、表面は平滑でありクレーターは存在しなかった。この微粒子を複合粒子[A]の代わりに30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表2に示した。シリコーン樹脂微粒子と複合化されていないこと、また、表面にクレーター状の孔が存在しないため表面積が小さく、エポキシ樹脂との接着面積が小さいこと、孔内にエポキシ樹脂が入り込むことによるアンカー効果がないことにより、GIIc値が低下したと考えられる(実施例1との比較)。
【0071】
[比較例3]
複合微粒子[A]の代わりに、実施例1と同じシリコーン樹脂微粒子・トスパール130(平均粒子径3μm)のみを30重量部を用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表2に示した。シリコーン微粒子のみでは破壊靭性が大幅に低下する。これは表面エネルギーの小さなシリコーン樹脂では、エポキシ樹脂との接着性が弱く、これが欠陥と認識されたことによると考えられる。
【0072】
[比較例4]
複合微粒子[A]の代わりに、比較例2で調製したトーロン4000T微粒子27重量部と、比較例3で用いたトスパール130微粒子3重量部を個別に単独で用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表2に示した。両者を複合化させずに単体で添加した場合では、GIIcが非常に低い値を示している。これは単独で存在するシリコーン樹脂微粒子の影響によるものと考えられる。
【0073】
[比較例5]
成分[A]の熱可塑性樹脂とシリコーン樹脂微粒子(平均粒子径3μm)は実施例1のものと同じものを用いた。配合割合は熱可塑性樹脂6重量部とシリコーン樹脂24重量部とし、実施例1と同様な方法で平均粒子径が120μmの複合微粒子[A]を作製した。かかる複合微粒子[A]を30重量部用い、その他の成分は実施例1のものと同じものを同じ量だけ用い、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表2に示した。過剰割合のシリコーン粒子を含み、粒子径の大きな複合粒子を用いた場合、GIIcは著しく低い値を示した。
【0074】
[比較例6]
実施例1に準じて、但し、成分[D]の熱可塑性樹脂であるPES5003Pを除いた系で、実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表2に示した。PES5003Pの添加が無い場合、GIIcの値は大きく低下した。
【0075】
[比較例7]
成分[B]の熱硬化性樹脂として、2官能エポキシ樹脂であるjER828のみを使用し、その他は実施例1と同様に複合材料の試験片を作成し、GIIc試験とTg測定を行い、その結果を表2に示した。GIIcの値は向上するものの、ホットウエット下でのガラス転移温度が著しく低下した。
【0076】
表1と表2の結果から、本発明の実施例のものは、比較例のものに比べて優れた層間破壊靭性(GIIc)と、吸湿後の高いガラス転移温度を有することが分かる。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の成分[A]
、成分[B]、成分 [C]及び成分 [D]を必須成分として、下記の割合で含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
成分[A]:平均粒子径が1〜12μmのシリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と、熱可塑性樹脂99〜10重量%を混練して得られる平均粒子径が5〜70μmの熱可塑性複合微粒子5〜50重量部
成分[B]:熱硬化性樹脂100重量部
成分[C]:硬化剤20〜50重量部
成分[D]:成分[A]以外の熱可塑性樹脂5〜80重量部
【請求項2】
成分[A]の熱可塑性複合微粒子表面に、直径が1〜12μmのクレーター状の穴が存在することを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
成分[B]の熱硬化性樹脂が、少なくともエポキシ樹脂を含有していることを特徴とする請求項1又は2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂が、少なくとも3官能以上のエポキシ樹脂を含有していることを特徴とする請求項3記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
成分[B]の熱硬化性樹脂が、成分[A]の熱可塑性樹脂を溶解しない熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
成分[C]の硬化剤が、少なくとも芳香族アミン系硬化剤を含有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
平均粒子径が1〜12μmのシリコーン樹脂微粒子1〜90重量%と、熱可塑性樹脂99〜10重量%を混練して得られる平均粒子径が5〜70μmの熱可塑性複合微粒子。
【請求項8】
熱可塑性複合微粒子表面に、直径が1〜12μmのクレーター状の穴が存在することを特徴とする請求項7記載の熱可塑性複合微粒子。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を、繊維強化材に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項10】
繊維強化材が炭素繊維である請求項9記載のプリプレグ。
【請求項11】
請求項9又は10記載のプリプレグを硬化させてなる複合材料。


【公開番号】特開2011−57907(P2011−57907A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211155(P2009−211155)
【出願日】平成21年9月12日(2009.9.12)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】