説明

熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いたプリプレグ、積層板及び多層プリント配線板

【課題】耐熱性、低熱膨張性に優れた熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いたプリプレグ、積層板及び多層プリント配線板を提供する。
【解決手段】(a)1分子構造中に少なくとも2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物、(b)分子構造中にエポキシ基を有するシリコーン化合物、及び(c)フェノール性水酸基を有する化合物を含有してなる熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いたプリプレグ、積層板及び多層プリント配線板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、低熱膨張性に優れた熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いたプリプレグ、積層板及び多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化・高性能化の流れに伴い、プリント配線板では配線密度の高度化、高集積化が進展し、これに伴って、配線用積層板の耐熱性の向上による信頼性向上への要求が強まっている。このような用途においては、優れた耐熱性、低線膨張係数を兼備することが要求されている。
プリント配線板用積層板としては、エポキシ樹脂を主剤とした樹脂組成物とガラス織布とを硬化・一体成形したものが一般的である。一般にエポキシ樹脂は、絶縁性や耐熱性、コスト等のバランスに優れるが、近年のプリント配線板の高密度実装、高多層化構成に伴う耐熱性向上への要請に対応するには、どうしてもその耐熱性の上昇には限界がある。さらに、熱膨張率が大きいため、芳香環を有するエポキシ樹脂の選択やシリカ等の無機充填材を高充填化することで低熱膨張化を図っている(特許文献1参照)。
特に近年、半導体用パッケージ基板では、小型化、薄型化に伴い、部品実装時やパッケージ組み立て時において、チップと基板との熱膨張係数の差に起因した反りが大きな課題となっており、低熱膨張化が求められているが、充填量を増やすことは吸湿による絶縁信頼性の低下や樹脂−配線層の密着不足、プレス成形不良を起こすことが知られている。
【0003】
また、高密度実装、高多層化積層板に広く使用されているポリビスマレイミド樹脂は、その耐熱性は非常に優れているものの、吸湿性が高く、接着性に難点がある。さらに、積層時にエポキシ樹脂に比べ高温、長時間を必要とし生産性が悪いという欠点もあった。一般的に、エポキシ樹脂の場合180℃以下の温度で硬化可能であるが、ポリビスマレイミド樹脂を積層する場合は220℃以上の高温でかつ長時間の処理が必要である。特許文献2に記載の変性イミド樹脂組成物では、耐湿性や接着性が改良されるものの、メチルエチルケトン等の汎用性溶剤への可溶性確保のため水酸基とエポキシ基を含有する低分子化合物で変性するので、得られる変性イミド樹脂の耐熱性がポリビスマレイミド樹脂と比較すると、大幅に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2740990号公報
【特許文献2】特開平6−263843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性、低熱膨張性に優れた熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いたプリプレグ、積層板及び多層プリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に対して、(a)1分子構造中に少なくとも2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物、(b)分子構造中にエポキシ基を有するシリコーン化合物、及び(c)フェノール性水酸基を有する化合物を含有した熱硬化性樹脂組成物とすることにより、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)(a)1分子構造中に少なくとも2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物、(b)分子構造中にエポキシ基を有するシリコーン化合物、及び(c)フェノール性水酸基を有する化合物を含有してなる熱硬化性樹脂組成物、
(2)前記(b)が両末端にエポキシ基を有するシリコーン化合物である、上記(1)の熱硬化性樹脂組成物、
(3)前記(b)がどちらか一方の末端にエポキシ基を有するシリコーン化合物である、上記(1)の熱硬化性樹脂組成物、
(4)前記(b)が側鎖にエポキシ基を有するシリコーン化合物である、上記(1)の熱硬化性樹脂組成物、
(5)前記(b)が側鎖と少なくとも一方の末端とにエポキシ基を有するシリコーン化合物である、上記(1)の熱硬化性樹脂組成物、
(6)前記(c)が分子内にアミノ基を有する化合物である、上記(1)〜(5)のいずれかの熱硬化性樹脂組成物、
(7)前記(c)が多官能性フェノール化合物である、上記(1)〜(6)のいずれかの熱硬化性樹脂組成物、
(8)無機充填材を含有してなる、上記(1)〜(7)のいずれかの熱硬化性樹脂組成物、
(9)熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂及び/又はイソシアネート樹脂を含有してなる、上記(1)〜(8)のいずれかの熱硬化性樹脂組成物、
(10)下記一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を含有してなる、上記(1)〜(9)のいずれかの熱硬化性樹脂組成物、
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R6,R7,R8,R9は、各々独立に、水素原子,又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基,フェニル基を示し、Dは、アルキレン基,芳香族炭化水素基等のイソシアネート樹脂の残基である。)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R6,R7,R8,R9は、各々独立に、水素原子,又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基,フェニル基を示し、Bは、短結合,アルキレン基,アルキリデン基,エーテル基,スルフォニル基のいずれかである。)
(11)上記(1)〜(10)のいずれかの熱硬化性樹脂組成物を用いて製造してなるプリプレグ、
(12)上記(11)のプリプレグを用いて積層形成してなる積層板、
及び
(13)上記(12)の積層板を用いて製造してなる多層プリント配線板、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いたプリプレグ、積層板及び多層プリント配線板は、耐熱性、低熱膨張性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いたプリプレグ、積層板及び多層プリント配線板について説明する。
【0014】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における成分(a)の1分子構造中に少なくとも2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物としては、例えば、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン,ポリフェニルメタンマレイミド,ビス(4−マレイミドフェニル)エーテル,ビス(4−マレイミドフェニル)スルホン,3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド,4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド,m−フェニレンビスマレイミド,2,2’−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン等が挙げられ、これらの中で、反応率が高く、より高耐熱性化できるビス(4−マレイミドフェニル)メタン,ビス(4−マレイミドフェニル)スルホン,3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド,2,2’−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンが好ましく、溶剤への溶解性の点から、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド,ビス(4−マレイミドフェニル)メタンがより好ましく、安価である点からビス(4−マレイミドフェニル)メタンが特に好ましい。
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における成分(b)の分子構造中にエポキシ基を有するシリコーン化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、両末端にエポキシ基を有する「X−22−163」(官能基当量200),「KF−105」(官能基当量490),「X−22−163A」(官能基当量1000),「X−22−163B」(官能基当量1750),「X−22−163C」(官能基当量2700),両末端に脂環式エポキシ基を有する「X−22−169AS」(官能基当量500),「X−22−169B」(官能基当量1700),一方の末端にエポキシ基を有する「X−22−1730X」(官能基当量4500),側鎖及び両末端にエポキシ基を有する「X−22−9002」(官能基当量5000),側鎖にエポキシ基を有する「X−22−343」(官能基当量525),「KF−101」(官能基当量350),「KF−1001」(官能基当量3500),「X−22−2000」(官能基当量620),「X−22−4741」(官能基当量2500),「KF−1002」(官能基当量4300),側鎖に脂環式エポキシ樹脂を有する「X−22−2046」(官能基当量600),「KF−102」(官能基当量3600)などが挙げられ、これらは単独で、または2種類以上を混合して、さらには各種エポキシ樹脂と混合して使用することができる。これらの中で、耐熱性の点から「X−22−163A」,「X−22−163B」,「X−22−343」,「X−22−9002」,「KF−101」が好ましく、「X−22−163A」,「X−22−163B」がより好ましく、低熱膨張率の点から「X−22−163B」が特に好ましい。(いずれも、信越化学工業(株)の製品名である。)
【0016】
成分(b)の含有量は、成分(a)の固形分換算量100質量部当たり、20質量部〜200質量部とすることが好ましく、50質量部〜100質量部とすることがより好ましい。
この含有量を20質量部以上とすることにより低熱膨張性が低下することがなくなり、200質量部以下とすることにより成形性が低下することがなくなる。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における成分(c)のフェノール性水酸基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA,ビスフェノールF,ビスフェノールS,4,4’−ビフェニルフェノール,テトラメチルビスフェノールA,ジメチルビスフェノールA,テトラメチルビスフェノールF,ジメチルビスフェノールF,テトラメチルビスフェノールS,ジメチルビスフェノールS,テトラメチル4,4’−ビフェノール,ジメチル−4,4’−ビフェニルフェノール,1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−[4−(1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニル]プロパン,2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール),4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール),トリスヒドロキシフェニルメタン,レゾルシノール,ハイドロキノン,ピロガロール,ジイソプロポリデン骨格を有するフェノール類,1,1’−ジ−4−ヒドロキシフェニルフルオレン等のフルオレン骨格を有するフェノール類,フェノール化ポリブタジエン,フェノール,クレゾール類,エチルフェノール類,ブチルフェノール類,オクチルフェノール類,ビスフェノールA,ビスフェノールF,ビスフェノールS,ナフトール類等の各種フェノールを原料とするノボラック樹脂,キシリレン骨格含有フェノールノボラック樹脂,ジシクロペンタジエン骨格含有フェノールノボラック樹脂,ビフェニル骨格含有フェノールノボラック樹脂,フルオレン骨格含有フェノールノボラック樹脂等の各種ノボラック樹脂等が挙げられる。
【0018】
また、成分(c)は、分子内にアミノ基を有するものであってもよく、例えば、m−アミノフェノール,p−アミノフェノール,o−アミノフェノール,p−アミノ安息香酸,m−アミノ安息香酸,o−アミノ安息香酸,o−アミノベンゼンスルホン酸,m−アミノベンゼンスルホン酸,p−アミノベンゼンスルホン酸,3,5−ジヒドロキシアニリン,3,5−ジカルボキシアニリン等が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。これらの中で、溶解性や合成の収率の点からm−アミノフェノール,p−アミノフェノール,o−アミノフェノール,p−アミノ安息香酸,m−アミノ安息香酸,及び3,5−ジヒドロキシアニリンが好ましく、耐熱性の点からm−アミノフェノール及びp−アミノフェノールがより好ましく、低熱膨張性の点からp−アミノフェノールが特に好ましい。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、成分(a)と成分(c)を、必要により加熱・保温しながら0.1〜10時間撹拌し、あらかじめ反応させておくことができる。この場合、成分(c)のフェノール性水酸基を有する化合物は、分子内にアミノ基を有する化合物であれば特に限定されないが、低熱膨張性の点からp−アミノフェノールが好ましい。
ここで、成分(c)として分子内にアミノ基を有する化合物を使用する場合の使用比率は、成分(c)の−NH2基換算の当量に対する成分(a)のマレイミド基当量の当量比が、次式に示す範囲であることが望ましい。
2.0≦(マレイミド基当量)/(−NH2基換算の当量)≦10.0
この当量比を、2.0以上とすることによりゲル化を起こしたり、熱硬化性樹脂の耐熱性が低下することがなく、10.0以下とすることにより、溶剤への溶解性が不足したり熱硬化性樹脂の耐熱性が低下することがない。
【0020】
この反応で使用される有機溶媒は特に制限されないが、例えばエタノール,プロパノール,ブタノール,メチルセロソルブ,ブチルセロソルブ,プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン等のケトン系溶剤,テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤,トルエン,キシレン,メシチレン等の芳香族系溶剤,ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,N−メチルピロリドン等のN原子含有溶剤,ジメチルスルホキシド等のS原子含有溶剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。これらの中で、溶解性の点からシクロヘキサノン,プロピレングリコールモノメチルエーテル,メチルセロソルブが好ましく、低毒性である点からシクロヘキサノン,プロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましく、揮発性が高くプリプレグの製造時に残溶剤として残りにくいプロピレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
有機溶媒の使用量は、成分(a)と成分(c)の総和100質量部当たり、10質量部〜1000質量部とすることが好ましく、100質量部〜500質量部とすることがより好ましく、200質量部〜500質量部とすることが特に好ましい。有機溶剤の配合量を10質量部以上とすることにより、溶解性が不足することがなくなり、また1000質量部以下とすることにより、合成に長時間を要することがなくなる。
【0021】
また、この反応には、必要により任意に反応触媒を使用することができ、特に限定されない。反応触媒の例としては、トリエチルアミン,ピリジン,トリブチルアミン等のアミン類,メチルイミダゾール,フェニルイミダゾール等のイミダゾール類,トリフェニルホスフィン等のリン系触媒等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。
上記の成分(a)と成分(c)を有機溶媒中で反応させる際、反応温度は70〜150℃であることが好ましく、100〜130℃であることがさらに好ましい。反応時間は0.1〜10時間であることが好ましく、1〜6時間であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂には、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等の向上化のため硬化促進剤を用いることが望ましく、硬化促進剤の例としては、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類及び第四級アンモニウム塩等が挙げられる。その中でもイミダゾール類及びその誘導体が耐熱性や難燃性、銅箔接着性等の点から好ましく、更に下記一般式(1)で表されるイソシアネート樹脂によって置換された化合物や、下記一般式(2)で表されるイミダゾール基がエポキシ樹脂によって置換された化合物が200℃以下での比較的低温での硬化成形性とワニスやプリプレグの経日安定性に優れるためより好ましく、下記式(3)又は(4)で表される化合物が少量の配合使用でよく、また商業的にも安価であることから特に好ましい。
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、R6,R7,R8,R9は、各々独立に、水素原子,又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基,フェニル基を示し、Dは、アルキレン基,芳香族炭化水素基等のイソシアネート樹脂の残基である。)
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、R6,R7,R8,R9は、各々独立に、水素原子,又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基,フェニル基を示し、Bは、短結合,アルキレン基,アルキリデン基,エーテル基,スルフォニル基のいずれかである。)
【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
硬化促進剤の使用量は、成分(a)〜(c)の固形分換算の総和量100質量部当たり、0.1質量部〜10質量部とすることが好ましく、0.1質量部〜5質量部とすることがより好ましく、0.1質量部〜1質量部とすることが特に好ましい。硬化促進剤の使用量を0.1質量部以上とすることで、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等の低下が防止でき、また10質量部以下とすることにより、耐熱性、経日安定性及びプレス成形性の低下を防止することができる。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂には、任意に、無機充填剤を含有させることができ、その例としては、シリカ,アルミナ,タルク,マイカ,カオリン,水酸化アルミニウム,ベーマイト,水酸化マグネシウム,ホウ酸亜鉛,スズ酸亜鉛,酸化亜鉛,酸化チタン,窒化ホウ素,炭酸カルシウム,硫酸バリウム,ホウ酸アルミニウム,チタン酸カリウム,EガラスやTガラス,Dガラス等のガラス粉や中空ガラスビーズ等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。
これらの中で、誘電特性、耐熱性、低熱膨張性の点からシリカが特に好ましい。シリカとしては、例えば、湿式法で製造され含水率の高い沈降シリカと、乾式法で製造され結合水等をほとんど含まない乾式法シリカが挙げられ、乾式法シリカとしてはさらに、製造法の違いにより破砕シリカ,フュームドシリカ,溶融球状シリカが挙げられる。これらの中で、低熱膨張性及び樹脂に充填した際の高流動性から溶融球状シリカが好ましい。
【0031】
無機充填材として溶融球状シリカを用いる場合、その平均粒子径は0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜8μmであることがより好ましい。該溶融球状シリカの平均粒子径を0.1μm以上にすることで、樹脂に高充填した際の流動性を良好に保つことができ、さらに10μm以下にすることで、粗大粒子の混入確率を減らし粗大粒子起因の不良の発生を抑えることができる。ここで、平均粒子径とは、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めた時、ちょうど体積50%に相当する点の粒子径のことであり、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
無機充填材の含有量は、成分(a)〜(c)の固形分換算の総和量100質量部当たり、10質量部〜70質量部とすることが好ましく、30質量部〜55質量部とすることがより好ましい。この範囲内の含有量とすることで、樹脂組成物の成形性と低熱膨張性を良好に保つことができる。
【0032】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、他の熱硬化性樹脂を含有させることができる。
かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,不飽和イミド樹脂,シアネート樹脂,イソシアネート樹脂,ベンゾオキサジン樹脂,オキセタン樹脂,アミノ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アリル樹脂,ジシクロペンタジエン樹脂,シリコーン樹脂,トリアジン樹脂,メラミン樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用できる。これらの中で、成形性や電気絶縁性の点からエポキシ樹脂,シアネート樹脂が好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂,フェノールノボラック型エポキシ樹脂,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂,ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂,スチルベン型エポキシ樹脂,トリアジン骨格含有エポキシ樹脂,フルオレン骨格含有エポキシ樹脂,トリフェノールフェノールメタン型エポキシ樹脂,ビフェニル型エポキシ樹脂,キシリレン型エポキシ樹脂,ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂,ナフタレン型エポキシ樹脂,ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂,脂環式エポキシ樹脂,多官能フェノール類及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物およびこれらにリン化合物を導入したリン含有エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの中で、耐熱性、難燃性の点からビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂,ナフタレン型エポキシ樹脂が好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0034】
また、シアネート樹脂としては、例えば、ノボラック型シアネート樹脂,ビスフェノールA型シアネート樹脂,ビスフェノールE型シアネート樹脂,テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂などのビスフェノール型シアネート樹脂およびこれらが一部トリアジン化したプレポリマーなどを挙げることができる。これらの中で耐熱性、難燃性の点からノボラック型シアネート樹脂が好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0035】
本発明の熱硬化性樹脂には、任意に、公知の熱可塑性樹脂、エラストマー、難燃剤、有機充填剤等を含有させることができる。
熱可塑性樹脂の例としては、テトラフルオロエチレン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリフェニレンエーテル樹脂,フェノキシ樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリエステル樹脂,ポリアミド樹脂,ポリイミド樹脂,キシレン樹脂,石油樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられる。
エラストマーの例としては、ポリブタジエン,アクリロニトリル,エポキシ変性ポリブタジエン,無水マレイン酸変性ポリブタジエン,フェノール変性ポリブタジエン及びカルボキシ変性アクリロニトリル等が挙げられる。
難燃剤の例としては、臭素や塩素を含有する含ハロゲン系難燃剤,トリフェニルホスフェート,トリクレジルホスフェート,トリスジクロロプロピルホスフェート,リン酸エステル系化合物,赤リン等のリン系難燃剤,スルファミン酸グアニジン,硫酸メラミン,ポリリン酸メラミン,メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤,シクロホスファゼン,ポリホスファゼン等のホスファゼン系難燃剤,三酸化アンチモン等の無機系難燃剤が挙げられる。
【0036】
本発明の熱硬化性樹脂には、任意に、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤及び密着性向上剤等を添加することも可能であり、特に限定されない。
これらの例としては、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系やスチレン化フェノール等の酸化防止剤、ベンゾフェノン類,ベンジルケタール類,チオキサントン系等の光重合開始剤、スチルベン誘導体等の蛍光増白剤、尿素シラン等の尿素化合物やシランカップリング剤等の密着性向上剤等が挙げられる。
【0037】
本発明のプリプレグは、本発明の熱硬化性樹脂組成物を溶剤で希釈したワニスを基材に含浸又は塗工し、加熱等により半硬化(Bステージ化)することにより製造することができる。
溶剤としては、前記した成分(a)と成分(c)との反応に使用されるものとして例示した有機溶剤を使用することができる。
基材として、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている周知のものが使用できる。
その材質の例としては、Eガラス,Dガラス,Sガラス及びQガラス等の無機物繊維、ポリイミド,ポリエステル及びテトラフルオロエチレン等の有機繊維、並びにそれらの混合物等が挙げられる。これらの基材は、例えば、織布,不織布,ロービンク,チョップドストランドマット及びサーフェシングマット等の形状を有するが、材質及び形状は、目的とする成形物の用途や性能により選択され、必要により、単独又は2種類以上の材質及び形状を組み合わせることができる。基材の厚さは、特に制限されず、例えば、約0.03〜0.5mmを使用することができ、シランカップリング剤等で表面処理したもの又は機械的に開繊処理を施したものが、耐熱性や耐湿性、加工性の面から好適である。該基材に対する樹脂組成物の付着量が、乾燥後のプリプレグの樹脂含有率で、20〜90質量%となるように、基材に含浸又は塗工した後、通常、100〜200℃の温度で1〜30分加熱乾燥し、半硬化(Bステージ化)させて、本発明のプリプレグを得ることができる。
【0038】
本発明の積層板は、前述の本発明のプリプレグを用いて、積層成形して、形成することができる。
例えば、本発明のプリプレグを1〜20枚重ね、その片面又は両面に銅及びアルミニウム等の金属箔を配置した構成で積層成形することにより製造することができる。金属箔は、電気絶縁材料用途で用いるものであれば特に制限されない。また、成形条件は、例えば、電気絶縁材料用積層板及び多層板の手法が適用でき、例えば多段プレス,多段真空プレス,連続成形,オートクレーブ成形機等を使用し、温度100〜250℃、圧力2〜100kg/cm2、加熱時間0.1〜5時間の範囲で成形することができる。また、本発明のプリプレグと内層用配線板とを組合せ、積層成形して、積層板を製造することもできる。
【0039】
本発明の多層プリント配線板は、前記積層板の表面に回路を形成して製造される。
すなわち、本発明に係る積層板の導体層を通常のエッチング法によって配線加工し、前述のプリプレグを介して配線加工した積層板を複数積層し、加熱プレス加工することによって一括して多層化する。その後、ドリル加工又はレーザー加工によるスルーホール又はブラインドビアホールの形成と、メッキ又は導電性ペーストによる層間配線の形成を経て多層プリント配線板を製造することができる。
【実施例】
【0040】
次に,実施例により本発明を更に詳しく説明するが,これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
【0041】
実施例1〜10及び比較例1〜3
表1に記載した配合割合(質量部)の、成分(a)〜(c)、硬化促進剤、無機充填剤を、希釈溶剤にメチルエチルケトンを使用して混合して、樹脂分65wt%の均一なワニスを得た。
次に、上記ワニスを厚さ0.1mmのEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で10分加熱乾燥して樹脂含有量50質量%のプリプレグを得た。
次に、このプリプレグを4枚重ね、18μmの電解銅箔を上下に配置し、圧力25kg/cm2、温度230℃で90分間プレスを行って、銅張積層板を得た。
このようにして得られた銅張積層板について、ガラス転移温度、熱膨張率、はんだ耐熱性、そり特性について以下の方法で測定・評価し、その結果を表2に記載した。
【0042】
(1)ガラス転移温度(Tg)の測定
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5mm角の評価基板を作製し、TMA試験装置(デュポン社製、TMA2940)を用いて圧縮法で熱機械分析をおこなった。評価基板を前記装置にZ方向に装着後、荷重5g、昇温速度10℃/分の測定条件にて連続して2回測定した。2回目の測定における熱膨張曲線の異なる接線の交点で示されるTgを求め、耐熱性を評価した。
【0043】
(2)熱膨張率の測定
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5mm角の評価基板を作製し、TMA試験装置(デュポン社製、TMA2940)を用いて圧縮法で熱機械分析をおこなった。評価基板を前記装置にX方向に装着後、荷重5g、昇温速度10℃/分の測定条件にて連続して2回測定した。2回目の測定における30℃から100℃の平均熱膨張率を算出し、これを熱膨張率の値とした。
【0044】
(3)はんだ耐熱性の評価
5cm角の銅張積層板を作製し、温度288℃のはんだ浴に、評価基板を1分間浮かべた後、外観を観察することにより評価した。
【0045】
(4)そり量の評価
AKROMETRIX社製 サーモレイ PS200シャドーモアレ分析を用いて、基板の反り量を評価した。基板のサンプルサイズは、40 mm×40 mmで、測定エリアは36 mm×36 mmとした。室温から260℃まで加熱し、その後50℃まで冷却した時のそり量を測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表中の含有成分の記号は、それぞれ、次の化合物を示している。
a1:ビス(4−マレイミドフェニル)メタン
a2:3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド
b1:X−22−163A
b2:X−22−163B
b3:KF−101
b4:4官能ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC(株)製、商品名:EXA−4710)
b5:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、商品名:NC−3000−H)
c1:ビスフェノールA
c2:ビスフェノールF
c3:p−アミノフェノール
G−8009L:商品名/前記の化学式(3)で示す構造のヘキサメチレンジイソシアネート樹脂と2−エチル−4−メチルイミダゾールの付加反応物
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
表から明らかなように、本発明の実施例は、ガラス転移温度、熱膨張率、はんだ耐熱性、そり特性に優れている。一方、比較例は、ガラス転移温度、熱膨張率、はんだ耐熱性、そり特性において実施例と比較し、いずれかの特性に劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸、又は塗工して得たプリプレグ、及び該プリプレグを積層成形することにより製造した積層板、及び該積層板を用いて製造されてなる多層プリント配線板は、ガラス転移温度、熱膨張率、はんだ耐熱性、そり特性に優れ、電子機器用プリント配線板として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1分子構造中に少なくとも2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物、(b)分子構造中にエポキシ基を有するシリコーン化合物、及び(c)フェノール性水酸基を有する化合物を含有してなる熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b)が両末端にエポキシ基を有するシリコーン化合物である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b)がどちらか一方の末端にエポキシ基を有するシリコーン化合物である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(b)が側鎖にエポキシ基を有するシリコーン化合物である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(b)が側鎖と少なくとも一方の末端とにエポキシ基を有するシリコーン化合物である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(c)が分子内にアミノ基を有する化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(c)が多官能性フェノール化合物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
無機充填材を含有してなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂及び/又はイソシアネート樹脂を含有してなる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
下記一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を含有してなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R6,R7,R8,R9は、各々独立に、水素原子,又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基,フェニル基を示し、Dは、アルキレン基,芳香族炭化水素基等のイソシアネート樹脂の残基である。)
【化2】

(式中、R6,R7,R8,R9は、各々独立に、水素原子,又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基,フェニル基を示し、Bは、短結合,アルキレン基,アルキリデン基,エーテル基,スルフォニル基のいずれかである。)
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を用いて製造してなるプリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグを用いて積層形成してなる積層板。
【請求項13】
請求項12に記載の積層板を用いて製造してなる多層プリント配線板。

【公開番号】特開2012−149154(P2012−149154A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8308(P2011−8308)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】