説明

熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂の優れた耐熱性や成形性を損ねることなく、高温での靭性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)エポキシ樹脂、(b)硬化剤及び(c)分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位を含有するシリコーン重合体を必須成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂のひとつであるエポキシ樹脂は、その優れた成形性や接着性及び絶縁信頼性等により、電子材料用途や塗料用途に幅広く使用されている。中でも、電子材料用途については、印刷配線板に用いられる積層板やレジストインク及び半導体回りに用いられる封止用材料やダイボンド材及びアンダーフィル材等と多岐に渡っている。近年、パーソナルコンピュータや携帯電話等の情報端末電子機器の普及に伴い、この中に搭載される各種電子部品の小型化・高性能化の進歩が著しい。このため、印刷配線板やその上に実装されるパッケージをはじめとした実装部品はこれまで以上に薄く、小さくそして高密度実装に耐えられる高い信頼性を発現する必要がある。
【0003】
このような状況において、これら電子部品に使用されるエポキシ樹脂についても、より高い耐熱性や接着性が要求されている。
従来、エポキシ樹脂の耐熱性を向上させる手法としては、ノボラック型に代表されるような多官能のエポキシ樹脂や硬化剤を用いるのが一般的である。しかしながら、これらの硬化物は架橋密度が高くなるため、堅くて脆くなる欠点がある。このような堅くて脆い樹脂は、吸湿後の耐熱性や金属との接着性が低下する傾向にある。
【0004】
一方、エポキシ樹脂の接着性向上策としては、樹脂硬化物の架橋密度を低減し、伸びを大きくする方法が一般的であった。しかしながら、架橋密度を低下させると、ガラス転移温度(以下、Tgと称す)が低下するため、高温での機械的な特性が低下するといった問題が発生し、又、配線板の信頼性に悪影響を及ぼす恐れがある。この傾向は、電子部品が薄く、高密度になりかつはんだ接続のためのリフロー回数が増えている現状では非常に大きな問題となっている。更に、鉛を含有しないはんだに代表されるようなこれからの地球環境を考慮した材料開発等が進むことにより、電子材料が高温雰囲気にさらされるケースが多くなることが予想されている。このためエポキシ樹脂には、高耐熱性と高い靭性の両立が要求されている。これらの特性を満足させるためには、高いTgを有しかつ高温域ではある程度の低弾性を発現することが重要となる。
【0005】
耐熱性を低下させずに接着性を向上させる代表的な手法には、熱可塑性樹脂等を用いて変性する方法がある。例えば、堅くて脆い高架橋した耐熱エポキシ樹脂に、靭性の高い耐熱性の熱可塑性樹脂を配合して変性することが挙げられる。しかしながら、スーパーエンプラに代表されるように、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂は軟化点が高く、溶融粘度も非常に高い。このため、エポキシ樹脂をうまく変性できても得られる変性エポキシ樹脂の溶融粘度は高くなり、一般的に加熱・加圧により成形される従来のエポキシ樹脂と比較して成形性が著しく低下する問題がある。また、熱可塑性樹脂は一般的に極性が低く金属との接着性が低いため、結果的に変性エポキシ樹脂の接着性も低下する場合が多い。又、室温付近での弾性率が低下する傾向があり、取り扱い性や剛性が低くなり易い。
【0006】
最近では、エポキシ樹脂の変性手法の一つとして、特開平8-100107号公報や特開平10-298405 号公報及び特開平11-92623号公報に示されるような無機化合物との配合物がある。しかしながら、これらの方法は、いずれもゾル−ゲル等により高弾性率の堅いゲル化物を熱硬化性樹脂中に配合するものであり、高耐熱性を発現するものの高温域での靭性は低下してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂の優れた耐熱性や成形性を損ねることなく、高温での靭性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、エポキシ樹脂及びその硬化剤に、分子内に式 R2 SiO2/2 で示される2官能性シロキサン単位を有するシリコーン重合体を配合した組成物が本発明の目的を達成し得ることを見いだして、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、硬化物の25℃における貯蔵弾性率が1.0GPa以上であり、200℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物を要旨とする。
【0010】
更に、本発明は、エポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とし、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物を要旨とする。
【0011】
又、本発明の樹脂組成物は、硬化物のガラス転移温度が170℃以上であることを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位を有するシリコーン重合体を含有することを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂100質量部に対してシリコーン重合体2質量部以上を含有することを特徴とする。
【0012】
更に、本発明は、(a)エポキシ樹脂、(b)硬化剤及び(c)分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位を含有するシリコーン重合体を必須成分とする熱硬化性樹脂組成物を要旨とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(b)の硬化剤がフェノール樹脂であることを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体が分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位及び式 RSiO3/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される3官能性シロキサン単位を含有することを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体が分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位及び式 SiO4/2 で示される4官能性シロキサン単位を含有することを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体が分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位、式 RSiO3/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される3官能性シロキサン単位及び式 SiO4/2 で示される4官能性シロキサン単位を含有することを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体が分子内に含有する上記2官能性シロキサン単位がシリコーン重合体全体の10モル%以上であることを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体の平均重合度が2〜2,000であることを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体の配合量がエポキシ樹脂に対して2質量%以上であることを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体末端の少なくとも1つがシラノール基若しくはアルコキシ基であることを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、カップリング剤をさらに含有することを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体が、2官能性シラン化合物、3官能性シラン化合物又は4官能性シラン化合物のモノマを混在していることを特徴とする。
又、本発明の樹脂組成物は、(c)のシリコーン重合体が、2官能性シラン化合物、3官能性シラン化合物及び4官能性シラン化合物から選ばれる1種の化合物の単独系オリゴマ又はそれらの2種以上の化合物の複合系オリゴマを混在していることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明は、上記(a)成分、(b)成分及び(c)成分を同時に配合することを特徴とする上記の熱硬化性樹脂組成物の製造方法を要旨とする。
更に、本発明は、上記(a)成分、(b)成分及び(c)成分を溶剤の存在下、同時に配合・攪拌することを特徴とする上記の熱硬化性樹脂組成物の製造方法を要旨とする。
更に、本発明は、上記(c)のシリコーン重合体として、2官能性シラン化合物並びに3官能性シラン化合物及び/又は4官能性シラン化合物の混合物を触媒の存在下、オリゴマ化した溶液をそのまま使用することを特徴とする上記の熱硬化性樹脂組成物の製造方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化後に、高温での優れた靭性を発現することから、成形性や接着性に優れ、又、常温での弾性率の低下がないことから、剛性や取り扱い性に優れる。更には、Tgが高く保たれるような熱硬化性樹脂を選択することで信頼性の高い基板とすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いられる(a)のエポキシ樹脂は、多官能であれば特に限定はされず、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂及びそれらのハロゲン化物、水素添加物等があり、分子量はどのようなものでもよく、また何種類かを併用することもできる。ビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂が好ましく用いられ、耐熱性の観点からノボラック型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0016】
(b)の硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として従来公知の種々のものを使用することができ、特に限定するものではない。例えば、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、フェノールノボラックやクレゾールノボラック等の多官能性フェノール樹脂等を挙げることができる。これらの硬化剤は何種類かを併用することも可能である。Tg等の向上により耐熱性を向上させるためには、フェノール樹脂を用いることが好ましい。中でも、ノボラック型のフェノール樹脂が好適である。硬化剤の配合量は特に限定するものではないが、エポキシ樹脂等の主材の官能基に対して0.5〜1.5当量程度が好ましい。
【0017】
(c)のシリコーン重合体は、高温域での靭性向上を目的としているため、シロキサン単位の中に少なくとも2官能性シロキサン単位(R2 SiO2/2 )を有していれば特に限定されるものではない。好ましくは、3官能性シロキサン単位(RSiO3/2 )及び4官能性シロキサン単位(SiO4/2 )(これらの式中のRは前記と同意義である。)から選ばれる少なくとも1種類以上のシロキサン単位を併用し、平均重合度は2〜2,000が好ましい。より好ましい平均重合度は5〜1,000、特に好ましい平均重合度は10〜100である。ここで、平均重合度は、その重合体の分子量(低重合度の場合)又はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレン若しくはポリエチレングリコールの検量線を利用して測定した数平均分子量から算出したものである。シリコーン重合体の中に各種シロキサン単位のモノマや複合したオリゴマが混在していてもかまわない。但し、平均重合度が2,000を超えると粘度が高すぎて均一な分散が困難となる。
【0018】
前記Rの有機基としては、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基等がある。又、オリゴマ末端の官能基としては、シラノール基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基等がある。
【0019】
本発明におけるシリコーン重合体は、高温域での靭性向上を目的としているため、3官能性シロキサン単位や4官能性シロキサン単位だけで重合したものは、堅くなりすぎてしまい、高靭性を発現することが困難となる。例えば、2官能性シロキサン単位のみからなるもの、2官能性シロキサン単位と4官能性シロキサン単位からなるもの、2官能性シロキサン単位と3官能性シロキサン単位からなるもの、2官能性シロキサン単位と3官能性シロキサン単位と4官能性シロキサン単位からなるものが好ましい。又、これらシリコーン重合体が樹脂硬化物の中で均一に分散するために、シリコーン重合体の末端の少なくとも1つが官能基を有していることが好ましい。官能基を有していないシリコーン重合体は、エポキシ樹脂の中に入り込みにくく、成形時等に樹脂硬化物表面に染み出してしまい、均一な分散は望めない。
【0020】
シロキサン単位を形成するモノマの配合量は、全シロキサン単位に対して、2官能性シロキサン単位が10〜100モル%、好ましくは25〜90モル%、及び3官能性シロキサン単位と4官能性シロキサン単位の合計が0〜90モル%、好ましくは10〜75モル%となるように調整される。
【0021】
本発明おけるシリコーン重合体は、下記一般式(I)で表されるシラン化合物を加水分解、重縮合させて得ることができる。
R′n SiX4-n (I)
上記式中Xは、−ORを示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルキルカルボニル基を示す。又、R′は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基等のアリール基を示し、nは0〜2の整数を意味する。
【0022】
前記一般式(I)で表されるシラン化合物は、具体的には
【化1】

等のテトラアルコキシシラン等の4官能性シラン化合物(以下、シラン化合物における官能性とは、縮合反応性の官能基を有することを意味する。)、
【化2】

等のモノアルキルトリアルコキシシラン、
【化3】

(但し、Phはフェニル基を示す。以下同様)
等のフェニルトリアルコキシシラン、
【化4】

等のモノアルキルトリアシルオキシシラン等の3官能性シラン化合物、
【化5】

等のジアルキルジアルコキシシラン、
【化6】

等のジフェニルジアルコキシシラン、
【化7】

等のジアルキルジアシルオキシシラン等の2官能性シラン化合物等がある。
【0023】
本発明で用いられる前記一般式(I)で表されるシラン化合物は、2官能性シラン化合物が必須成分として用いられ、3官能性シラン化合物や4能性シラン化合物は必要に応じて適宜使用される。特に、2官能性シラン化合物としてはジアルキルジアルコキシシランが好ましく、3官能性シラン化合物としてはモノアルキルトリアルコキシシランが好ましく、4官能性シラン化合物としてはテトラアルコキシシランが好ましい。
【0024】
本発明におけるシリコーン重合体は、前記の一般式(I)で表されるシラン化合物を加水分解、重縮合して製造されるが、このとき、触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、フッ酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、スルホン酸、ギ酸等の有機酸を使用することが好ましく、アンモニア、トリメチルアンモニウムなどの塩基性触媒を用いることもできる。これら触媒は、一般式(I)で表されるシラン化合物の量に応じて適当量用いられるが、好適には一般式(I)で表されるシラン化合物1モルに対し0.001〜0.5モルの範囲で用いられる。
【0025】
又、上記の加水分解・重縮合は、エポキシ樹脂組成物に配合する前に予め行うことが重要である。この反応に際して、均一の重合体を得るために任意の溶媒を用いてもよい。使用する溶媒は特に限定はなく、例えば各種アルコール系やケトン系、セロソルブ系、アミド系等がある。又、この反応は水により促進される。水の量も適宜決められるが、通常アルコキシ基1モル当たり5モル以下、好ましくは0.1〜2モルの範囲で使用される。水の配合量が多すぎる場合には、シリコーン重合体の保存安定性が低下したり、樹脂硬化物の靭性が低下するなどの問題が発現する可能性がある。
【0026】
又、これらのシリコーン重合体は各種カップリング剤と併用してもよい。カップリング剤としてはシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等が挙げられ、シラン系カップリング剤としては、一般にエポキシシラン系、アミノシラン系、カチオニックシラン系、ビニルシラン系、アクリルシラン系、メルカプトシラン系及びこれらの複合系等がある。
【0027】
これらシリコーン重合体の配合量は、使用する樹脂組成や発現する靭性のレベル、シリコーン重合体の組成等で決定され、特に限定するものではないが、エポキシ樹脂に対して2〜50質量%が好ましい。2質量%よりも少ないと、靭性向上の効果がうすく、50質量%よりも多くなると耐熱性が低下しやすい。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化を促進する目的で硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤はエポキシ樹脂と硬化剤の反応を促進するものであれば、特に限定するものではなく、例えば、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩などが用いられる。ここで用いられるイミダゾール化合物としては、イミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリン等があり、これらのイミノ基をマスク化したものもある。マスク剤としては、アクリロニトリル、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート、メラミンアクリレート等がある。
これらの硬化促進剤は何種類かを併用してもよく、配合量はエポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましい。0.01質量部より少ないと促進効果が小さく、5質量部より多いと保存安定性が悪くなる。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて無機充填剤を配合してもよい。無機充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、ガラス繊維、ガラス粉等が挙げられる。
【0030】
これら樹脂材料を希釈してワニス化する場合は溶剤が用いられる。この溶剤は特に制限はなく、例えばアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール等があり、これらは何種類かを混合してもよい。又、ワニスの固形分濃度は特に制限はなく、樹脂組成や無機充填剤の有無や配合量等により適宜変更できる。
【0031】
前記各成分を配合して得たワニスは、溶剤を揮発させ樹脂をある程度硬化させる目的で乾燥後、加熱硬化することにより硬化物が得られる。加熱温度や時間等は樹脂組成やシリコーン重合体の組成等で大きく異なるが、一般的には20℃〜230℃の温度で、15分間〜24時間硬化させる。必要に応じて加圧成形する場合もある。この硬化物は、エポキシ樹脂硬化物の中に数μm以下のシリコーンゲル化物を分散させることで目的とする靭性を発現している。
【0032】
一般に、印刷配線板の取り扱い性、剛性等を考慮すると、印刷配線板に用いる樹脂組成物には、室温付近での硬化物の弾性率が1.0GPa以上であることが要求される。硬化物の室温付近での弾性率の上限は特にないが、他の特性等とのバランスを考慮すると通常10.0GPa程度とされる。また、はんだリフロー時の耐熱性や金属との接着性等を考慮すると、200℃以上といった高温下では樹脂硬化物の弾性率が100MPa以下であることが必要とされ、80MPa以下であることが好ましい。高温下での硬化物の弾性率について特に下限はないが、通常は1MPa程度とされる。また、樹脂硬化物のTgが低いと高温時の機械特性が低下し、また、スルーホールの接続信頼性等、配線板の信頼性に悪影響を及ぼす恐れがあることから、Tgは170℃以上であることが好ましい。Tgは高いほど好ましく、特に上限はないが、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合には通常200℃程度が上限となる。
【0033】
以上のように、室温付近での硬化物の弾性率が1.0MPa以上であり、200℃以上といった高温下では樹脂硬化物の弾性率が100MPa以下である樹脂組成物を用いることで、取り扱い性、成形品の剛性、耐熱性、接着性、信頼性等に優れる印刷配線板を作製することが可能となる。このような樹脂組成物としては、200℃以上といった高温下では樹脂硬化物の弾性率が100MPa以下であるエポキシ樹脂組成物を用いることができ、具体例としては、前記のシリコーン重合体を含有するエポキシ樹脂組成物が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。なお、実施例及び比較例における部は質量部である。
【0035】
(実施例1)
撹拌装置、コンデンサ及び温度計を備えたガラスフラスコに、ジメトキシジメチルシランを40g、メタノールを10g配合した溶液に、酢酸を0.33g、蒸留水を12g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーン重合体を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン繰り返し単位の平均重合度は10であった。この重合体溶液を下記のエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(住友化学工業(株)製、商品名:ESCN-195、エポキシ当量195)100部、フェノールノボラック樹脂(日立化成工業(株)製、商品名:HP-850N 、水酸基当量106)55部、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5部及びメチルエチルケトン35部を混合してエポキシ樹脂組成物とする。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同様に、ジメトキシジメチルシランを30g、テトラメトキシシランを10g、メタノールを10g配合した溶液に、酢酸を0.31g、蒸留水を13.7g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーン重合体を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン繰り返し単位の平均重合度は18であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0037】
(実施例3)
実施例1と同様に、ジメトキシジメチルシランを20g、テトラメトキシシランを20g、メタノールを10g配合した溶液に、酢酸を0.29g、蒸留水を15.5g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーン重合体を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン繰り返し単位の平均重合度は24であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0038】
(実施例4)
実施例1と同様に、ジメトキシジメチルシランを20g、トリメトキシメチルシランを20g、メタノールを10g配合した溶液に、酢酸を0.31g、蒸留水を14g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーン重合体を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン繰り返し単位の平均重合度は20であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0039】
(実施例5)
実施例1と同様に、ジメトキシジメチルシランを30g、トリメトキシメチルシランを10g、メタノールを10g配合した溶液に、酢酸を0.32g、蒸留水を13g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーン重合体を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン繰り返し単位の平均重合度は11であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0040】
(実施例6)
実施例1と同様に、ジメトキシジメチルシランを20g、トリメトキシメチルシランを10g、テトラメトキシシランを10g、メタノールを10g配合した溶液に、酢酸を0.15g、蒸留水を14.8g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーン重合体を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン繰り返し単位の平均重合度は25であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0041】
(実施例7)
実施例2で得られたシリコーン重合体溶液に、シランカップリング剤(CP)としてのγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー(株)製、商品名:A−187)を質量比でシリコーン重合体:A−187=50:50となるように配合した。この溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0042】
(実施例8)
実施例2で得られたシリコーン重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で12部配合して、ワニスを調製した。
【0043】
(実施例9)
実施例2で得られたシリコーン重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で150部配合し、更にメチルエチルケトンを5部配合して、ワニスを調製した。
【0044】
(実施例10)
撹拌時間を8時間から24時間にした以外は、実施例3と同様にしてシリコーン重合体を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン繰り返し単位の平均重合度は98であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0045】
(実施例11)
実施例2で得られたシリコーン重合体溶液を下記のエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(住友化学工業(株)製、商品名:ESCN-195、エポキシ当量195)100部、ジシアンジアミド(日本カーバイド(株)製、活性水素基当量21)6部、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5部及びメチルエチルケトン35部を混合して、エポキシ樹脂組成物を調製する。
【0046】
(比較例1)
実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物をそのまま用いた。
【0047】
(比較例2)
実施例11で得られたエポキシ樹脂組成物をそのまま用いた。
【0048】
(比較例3)
撹拌装置、コンデンサ及び温度計を備えたガラスフラスコに、テトラメトキシシランを40g、メタノールを93g配合した溶液に、酢酸を0.47g、蒸留水を18.9g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーンオリゴマを合成した。得られたシリコーンオリゴマのシロキサン繰り返し単位の平均重合度は20であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0049】
(比較例4)
実施例1と同様に、トリメトキシメチルシランを40g、メタノールを93g配合した溶液に、酢酸を0.53g、蒸留水を15.8g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーンオリゴマを合成した。得られたシリコーンオリゴマのシロキサン繰り返し単位の平均重合度は15であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0050】
(比較例5)
実施例1と同様に、トリメトキシメチルシランを20g、テトラメトキシシランを22g、メタノールを98g配合した溶液に、酢酸を0.52g、蒸留水を18.3g配合後50℃で8時間撹拌し、シリコーンオリゴマを合成した。得られたシリコーンオリゴマのシロキサン繰り返し単位の平均重合度は25であった。この重合体溶液を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0051】
(比較例6)
シリコーン重合体溶液の代りに、シランカップリング剤(CP)としてのγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー(株)製、商品名:A−187)を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0052】
(比較例7)
シリコーン重合体溶液の代りに、シリコーンゴムパウダ(SRP)(東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名:トレフィルE601)を実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物に固形分換算で25部配合して、ワニスを調製した。
【0053】
実施例1〜11及び比較例1〜7で作製したワニスを、厚さ約0.1mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布し、150℃で5分間加熱、乾燥後、得られた樹脂をPETフィルムから揉み解してBステージの樹脂粉を得た。この樹脂粉を厚さ1.6mmのスペーサに必要量入れ、その両側に厚さ18μmの銅箔を光沢面を内側にして重ね、170℃、90分、4.0MPaでプレス後、銅箔を剥がして樹脂板を作製した。
【0054】
得られた樹脂板について、次の方法で動的粘弾性を測定し、それらの結果を表1に示した。
(動的粘弾性の測定)
粘弾性測定器としてレオメトリック社製、機種名:RSA-IIを用い、25℃から250℃まで昇温し(昇温速度:10℃/分)、スパン間距離は6mmとし、引張りモードにて測定した。試験片サイズは5mm×20mmとした。得られた粘弾性曲線から50℃及び200℃の貯蔵弾性率を、tan δの最大値からTgを求めた。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から、次のことが明らかである。
実施例1〜11に係る組成物は、シリコーン重合体を配合していない比較例1に係る組成物や比較例2に係る組成物と比較して、ほとんどTg及び25℃での弾性率の低下がなく、200℃での弾性率が低減した。一方、比較例3〜6に係る組成物は、比較例1に係る組成物に比べてTgは高くなるが、200℃での弾性率が逆に高くなった。比較例7に係る組成物もTgは高くなるものの、全ての温度域の弾性率が顕著に低下した。以上から、実施例に係る組成物は、200℃における弾性率が100MPa以下であり、高温で優れた靭性を示すことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化物の25℃における貯蔵弾性率が1.0GPa以上であり、200℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とし、硬化物の200℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
硬化物のガラス転移温度が170℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位を有するシリコーン重合体を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂100質量部に対してシリコーン重合体2質量部以上を含有することを特徴とする請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
(a)エポキシ樹脂、(b)硬化剤及び(c)分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位を含有するシリコーン重合体を必須成分とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
(b)の硬化剤がフェノール樹脂である請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
(c)のシリコーン重合体が分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位及び式 RSiO3/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される3官能性シロキサン単位を含有する請求項6又は7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
(c)のシリコーン重合体が分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位及び式 SiO4/2 で示される4官能性シロキサン単位を含有する請求項6又は7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
(c)のシリコーン重合体が分子内に式 R2 SiO2/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される2官能性シロキサン単位、式 RSiO3/2 (式中、Rは同じか異なる有機基である。)で示される3官能性シロキサン単位及び式 SiO4/2 で示される4官能性シロキサン単位を含有する請求項6又は7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
(c)のシリコーン重合体が分子内に含有する上記2官能性シロキサン単位がシリコーン重合体全体の10モル%以上である請求項6〜10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
(c)のシリコーン重合体の平均重合度が2〜2,000である請求項6〜11のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
(c)のシリコーン重合体の配合量がエポキシ樹脂に対して2質量%以上である請求項6〜12のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
(c)のシリコーン重合体末端の少なくとも1つがシラノール基若しくはアルコキシ基である請求項6〜13のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
カップリング剤をさらに含有する請求項6〜14のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
(c)のシリコーン重合体が、2官能性シラン化合物、3官能性シラン化合物又は4官能性シラン化合物のモノマを混在している請求項6〜15のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項17】
(c)のシリコーン重合体が、2官能性シラン化合物、3官能性シラン化合物及び4官能性シラン化合物から選ばれる1種の化合物の単独系オリゴマ又はそれらの2種以上の化合物の複合系オリゴマを混在している請求項6〜16のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項18】
上記(a)成分、(b)成分及び(c)成分を同時に配合することを特徴とする請求項6〜17のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項19】
上記(a)成分、(b)成分及び(c)成分を溶剤の存在下、同時に配合・攪拌することを特徴とする請求項6〜17のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項20】
(c)のシリコーン重合体として、2官能性シラン化合物並びに3官能性シラン化合物及び/又は4官能性シラン化合物の混合物を触媒の存在下、オリゴマ化した溶液をそのまま使用することを特徴とする請求項6〜17のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−31431(P2012−31431A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242269(P2011−242269)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2001−125538(P2001−125538)の分割
【原出願日】平成13年4月24日(2001.4.24)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】