説明

熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いたプリプレグ及び積層板

【課題】非ハロゲン系難燃剤を使用しながらも、誘電特性、誘電損失、耐熱性、難燃性、耐湿性、銅箔との接着性に優れた熱硬化性樹脂組成物、並びにそれを使用したプリプレグ及び積層板を提供する。
【解決手段】(1)二置換ホスフィン酸の金属塩、及び(2)1GHz以上の周波数における比誘電率が2.9以下である樹脂を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物、並びにそれを用いたプリプレグ及びプリプレグを用いて積層形成された積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気特性、難燃性、耐熱性、耐湿性、接着性に優れる熱硬化性樹脂組成物及びこれを用いた電気絶縁材料用プリプレグ及び積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器用のプリント配線板としては、エポキシ樹脂を主とする樹脂組成物を用いた積層板が主流である。近年、電子機器における実装密度の増加によるパターンの細密化、表面実装方式の定着に加えて、信号伝播速度の高速化と取り扱う信号の高周波化に伴い、プリント配線板材料の低誘電率化・低誘電損失化及び耐熱性の向上が強く要望されている。
【0003】
その一方で、環境に悪影響を与えるという問題点のため、樹脂組成物にハロゲン系の難燃剤を使用しないことが求められている。そこで、非ハロゲン系の、良好な難燃性を有する代替材料に対する要望も強い。
【0004】
エポキシ樹脂以外の樹脂を主成分とする樹脂組成物については、スチレン又はポリフェニレンエーテル樹脂を用いる樹脂組成物等が研究されている。ポリフェニレンエーテル樹脂を使用する樹脂組成物又は積層板の事例として、例えば、特開平4−76018号、特開平4−76019号、特開平7−247415号、特開平7−258537号、特公平6−92532号、特公平6−92533号、特公平6−92534号等に、また、スチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル樹脂を使用する樹脂組成物又は積層板の事例として、特開平4−88054号、特開平7−268205号等に開示されている。しかしながら、これらの樹脂組成物又は積層板においては、いずれもハロゲン系の難燃剤が使用されている。
【0005】
エポキシ樹脂を他の樹脂と組み合わせることによる、特性の改善も試みられた。エポキシ樹脂を硬化剤とし、スチレンと無水マレイン酸からなる共重合樹脂を使用する樹脂組成物又は積層板の事例として、例えば、特開昭49−109476号には、可撓性付与のため、反応性エポキシ希釈剤とアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が必須である、可撓性エポキシ樹脂、スチレンと無水マレイン酸からなる共重合樹脂等による可撓性印刷配線板が記載されている。また、特開平1−221413号には、エポキシ樹脂、芳香族ビニル化合物及び無水マレイン酸から得られる酸価が280以上の共重合樹脂、並びにジシアンジアミドを含有するエポキシ樹脂化合物が記載されている。更に、特開平9−25349号には、ブロム化されたエポキシ樹脂、スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂(エポキシ樹脂硬化剤)、スチレン系化合物、溶剤を含むプリプレグ、電気用積層板材料が記載されている。特開平10−17685号や特開平10−17686号には、エポキシ樹脂、芳香族ビニル化合物と無水マレイン酸の共重合樹脂、フェノール化合物を含むプリプレグ、電気用積層板材料が記載されている。特表平10−505376号には、エポキシ樹脂、カルボン酸無水物型エポキシ樹脂用架橋剤、アリル網目形成化合物を含む樹脂組成物、積層板、プリント配線板が記載されている。しかし、これらはパターンの細密化、信号の高周波化等に伴い要求されている特性、例えば低誘電損失、高耐熱性、高耐湿性及び銅箔との高接着性等が不充分である。また、これらはハロゲン系の難燃性化合物を使用しているか又は難燃性が低いという問題点がある。
【0006】
通常、非ハロゲン系の難燃剤として、リン含有化合物が使用されている。例えば、赤リン、リン酸、トリフェニルホスフェート等の縮合リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウムのようなリン酸の誘導体;リン含有エポキシ樹脂、水酸基含有リン化合物のような反応性リン含有化合物が挙げられる。しかし、これらのリン含有化合物を用いて難燃性を付与すると、誘電率や誘電損失、耐熱性、耐湿性、耐電食性等に悪影響を及ぼす傾向があった。
【0007】
本発明の目的は、上記の問題を踏まえ、非ハロゲン系難燃剤を使用しながらも、誘電特性、誘電損失、耐熱性、難燃性、耐湿性、銅箔との接着性の全てに優れる熱硬化性樹脂組成物、並びにそれを使用したプリプレグ及び積層板等を提供するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、(1)二置換ホスフィン酸の金属塩、及び
(2)1GHz以上の周波数における比誘電率が2.9以下である樹脂を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、二置換ホスフィン酸の金属塩を含む熱硬化性樹脂組成物であり、かつ該熱硬化性樹脂組成物の1GHz以上の周波数における比誘電率が3.0以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物に関する。
また,本発明は、上記の熱硬化性樹脂を用いたプリプレグに関する。
更に本発明は、上記のプリプレグを用いて積層形成した積層板に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、重量平均分子量は、溶離液としてテトラヒドロフランを用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定し、標準ポリスチレン検量線により換算した値である。
【0010】
また本発明において、本発明の組成物の比誘電率及び誘電正接は、Hewllet・Packerd社製比誘電率測定装置(製品名:HP4291B)を用いて、周波数1GHzで測定した。このとき試験サンプルとしては、本発明の組成物を用いて作製した、樹脂板又は銅張積層板の銅箔を除去して得た基板を使用した。
【0011】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、二置換ホスフィン酸の金属塩である成分(1)を必須成分として含む熱硬化性樹脂組成物であり、かつ、該組成物の1GHz以上の周波数における比誘電率が、3.0以下であることを特徴とする。比誘電率は、低誘電損失、耐熱性、耐湿性及び難燃性等とのバランスを考慮すると、2.2〜3.0であることが好ましく、2.4〜2.9であることが特に好ましい。
【0012】
本発明の成分(1)の二置換ホスフィン酸の金属塩は、下記の一般式(I):
【化1】


式中、R1、R2は、それぞれ独立して、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であり;a及びbは、1〜9の整数である;そしてMは、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ge、Sn、Sb、Bi、Zn、Ti、Zr、Mn、Fe及びCeから選ばれる1の金属である、
で示される二置換ホスフィン酸の金属塩であることが好ましい。このような二置換ホスフィン酸の金属塩としては、ジアルキルホスフィン酸の金属塩が挙げられる。ジアルキルホスフィン酸の金属塩は、例えば、塩基の存在下、黄リンとアルキル化剤を反応させ、更にエステル化し、得られたエステル混合物からアルキル亜ホスホン酸のエステルを単離し、オレフィンとの遊離基開始反応によって、対応するジアルキルホスフィン酸のエステルを精製し、次いでその遊離の酸に転化するか、周期律表の第1〜5、12、14、17及び18族からの金属又はセリウムのジアルキルホスフィン酸塩に転化して製造することができる。また、商業的にドイツ・クラリアント社から入手できる。この二置換ホスフィン酸の金属塩を必須成分とすることにより、優れた難燃性、誘電特性及び耐熱耐湿性を付与することができる。
【0013】
一般式(I)のMは、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ge、Sn、Sb、Bi、Zn、Ti、Zr、Mn、Fe、Ceからなる群から選択される1種の金属であるが、化合物中のリン含有量を多くできることや耐湿性の点からAl又はNaが好ましく、低誘電特性の点からAlが特に好ましい。また一般式(I)のR1、R2は、それぞれ独立して、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であるが、化合物中のリン含有量を多くできることから炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基として、メチル基又はエチル基、プロピル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基として、フェニル、ベンジル、これらのアルキル置換物が挙げられる。メチル基又はエチル基、プロピル基であることが特に好ましい。
【0014】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の比誘電率を3.0以下に調整するために、当該樹脂組成物には、成分(1)以外に、熱硬化性樹脂成分を含有させている。このような成分としては、低比誘電率の熱硬化性樹脂を用いることができ、例えば下記の成分(2)のように比誘電率が2.9以下である樹脂を成分(1)と組み合わせることにより、本発明の樹脂組成物の比誘電率を3.0以下にすることができる。
【0015】
本発明の成分(2)の1GHz以上の周波数における比誘電率が、2.9以下である樹脂は、例えば、
【0016】
(2−1)
(a)一般式(II):
【化2】


式中、R3は、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5個の炭化水素基であり;R4は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基であり;xは、0〜3の整数であり;mは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(a)、及び
(b)一般式(III):
【化3】


式中、nは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(b)を含む共重合樹脂;
【0017】
(2−2)
(c)一般式(IV):
【化4】


式中、R5は、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5個の炭化水素基であり;R6は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基であり;yは、0〜3の整数であり;pは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(c)、及び
(d)一般式(V):
【化5】


式中、R7は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5個の炭化水素基であり;qは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(d)を含む共重合樹脂;及び
【0018】
(2−3)
(e)一般式(VI):
【化6】


式中、rは、自然数であり、重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(e)を含む樹脂からなる群より選択される1以上の樹脂組成物であることが好ましい。本発明の成分(2)は、このような(2−1)、(2−2)及び(2−3)からなる群より選択される1以上の樹脂組成物であることが、誘電率、誘電正接、耐熱性、ガラス転移温度、はんだ耐熱性、及び銅箔との接着性等の特性を改善する点から好ましい。
【0019】
本発明によれば、本発明の成分(2)の(2−1)共重合樹脂において、モノマー単位(a)を示す一般式(II)中、R3としては、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5個の炭化水素基が挙げられ、水素原子又はメチル基が好ましい。xは、0〜3の整数が好ましく、0がより好ましい。R4としては、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基が挙げられる。
【0020】
本発明によれば、(2−1)共重合樹脂は、モノマー単位(a)及び(b)を含む、スチレン類と無水マレイン酸との共重合樹脂であることができる。本発明によれば、(2−1)共重合樹脂において、モノマー単位(a)は、例えば、スチレン、1−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、ビニルナフタレン等の構造を有することが好ましい。モノマー単位(a)としては、低価格であることや他の樹脂との相溶性の点から、スチレン構造を有することが特に好ましい。更に,上記のモノマー単位以外にも、各種の重合可能な成分と共重合させてもよく、これらの各種の重合可能な成分として、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アクリロニトリル等のビニル化合物;ブタジエン等のジエン化合物;メチルメタクリレート及びメチルアクリレート等のメタクリロイル基又はアクリロイル基を有する化合物等が挙げられる。また、任意にフリーデル・クラフツ反応や、リチウム等の金属系触媒を用いた反応により、置換基を導入することができる。導入される置換基としては、例えば、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
【0021】
本発明によれば、(2−1)共重合樹脂において、モノマー単位(b)の一部を、各種の水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、イソシアナト基含有化合物及びエポキシ基含有化合物等と反応させ、任意に置換基を導入することができる。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート又はアリルアミンと反応させて、メタクリロイル基、アクリロイル基、アリル基を導入することもできる。
【0022】
本発明によれば、また(2−1)共重合樹脂において、一般式(II)及び一般式(III)におけるm、nは、それぞれ、共重合体中のモノマー単位(a)とモノマー単位(b)の繰り返し数を表し、1以上の自然数である。各モノマー単位の共重合組成比は、比誘電率及び誘電正接と、ガラス転移温度、はんだ耐熱性及び銅箔に対する接着性とのバランスの点から、0.8≦m/n≦19の範囲にあることが好ましい。誘電特性を考慮すると、m/nは2以上が更に好ましく、4以上が特に好ましい。また、ガラス転移温度、耐熱性または接着性を考慮すると、m/nは9以下が更に好ましく、7以下が特に好ましい。(2−1)共重合樹脂の重量平均分子量は、耐熱性及び機械強度と、200℃以下での成形加工性とのバランスを考慮すると、1,000〜300,000であることが好ましい。
本発明の成分(2)の(2−1)共重合樹脂は、モノマー単位(a)及びモノマー単位(b)に加え、更に一般式(VII):
【化7】


式中、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、水酸基、チオール基又はカルボキシル基であり;zは、0〜3の整数であり;sは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(f)を含む共重合樹脂であることが特に好ましい。
【0023】
モノマー単位(f)は、各種のN−置換フェニルマレイミドであり、例えば、N−フェニルマレイミド、フェノール性水酸基を有するN−ヒドロキシフェニルマレイミド等が挙げられ、1種または2種以上を混合した化合物から得ることができる。耐熱性の点から、N−ヒドロキシフェニルマレイミドが好ましく、難燃性の点から、パラ位にフェノール性水酸基を有するN−ヒドロキシフェニルマレイミドが特に好ましい。
【0024】
モノマー単位(f)を含む(2−1)共重合樹脂は、モノマー単位(a)、モノマー単位(b)及びモノマー単位(f)を含む共重合モノマーをラジカル等により重合することにより得られる。また、予めモノマー単位(a)及びモノマー単位(b)を含む共重合樹脂に、高分子反応でモノマー単位(f)に対応するモノアミン化合物、例えばアニリン、o−、m−又はp−アミノフェノール、o−、m−又はp−アミノトルエン、o−、m−又はp−アミノベンジルアルコール等を付加(イミド化)反応させることによっても得られる。製造が安価で容易である点から、予めモノマー単位(a)及びモノマー単位(b)を含む共重合樹脂に、高分子反応でモノマー単位(f)に対応するモノアミン化合物を付加(イミド化)反応させることによって得る方法が、より好ましい。ここで、モノアミン化合物には、誘電特性の点からアニリン、o−、m−又はp−アミノフェノールが好ましく、更に耐熱性の点からo−、m−又はp−アミノフェノールがより好ましく、難燃性の点からp−アミノフェノールが特に好ましい。
【0025】
また、(2−1)共重合体において、モノマー単位(a)、モノマー単位(b)及びモノマー単位(f)の共重合組成比は、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(VII)におけるm、n、sが0.8≦m/(n+s)≦19の範囲にあることがガラス転移温度、はんだ耐熱性及び銅箔に対する接着性とのバランスの点から好ましく、更に難燃性の点から0.8≦m/(n+s)≦7の範囲にあることがより好ましく、更に比誘電率及び誘電正接の点から2≦m/(n+s)≦7の範囲にあることが特に好ましい。また、n/sが1/9〜9の範囲であることがガラス転移温度、はんだ耐熱性及び銅箔に対する接着性とのバランスの点から好ましく、更に1/4〜4の範囲であることが難燃性、比誘電率及び誘電正接の点から特に好ましい。
【0026】
また、(2−1)共重合樹脂の重量平均分子量は、モノマー単位(f)を含む場合も、耐熱性及び機械強度と、200℃以下での成形加工性とのバランスを考慮すると、1,000〜300,000であることが好ましい。
【0027】
本発明の成分(2)の(2−2)共重合樹脂において、モノマー単位(c)を示す一般式(IV)中、R5としては、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5個の炭化水素基が挙げられ、水素原子又はメチル基が好ましい。R6としては、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基が挙げられる。yは、0〜3の整数が好ましく、0がより好ましい。
【0028】
本発明によれば、(2−2)共重合樹脂は、スチレンとグリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートの共重合樹脂であることができる。本発明によれば、(2−2)共重合樹脂において、モノマー単位(c)は、例えば、スチレン、1−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、ビニルナフタレン構造等を有することが好ましい。モノマー単位(c)は、低価格であることや他の樹脂との相溶性の点からスチレン構造を有することが特に好ましい。これらの構造は、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基及びヒドロキシル基等で置換することができる。更に,上記のモノマー単位以外にも、各種の重合可能な成分と共重合させてもよく、これらの各種の重合可能な成分として、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アクリロニトリル等のビニル化合物;、ブタジエン等のジエン化合物;メチルメタクリレート及びメチルアクリレート等のメタクリロイル基又はアクリロイル基を有する化合物等が挙げられる。また、任意にフリーデル・クラフツ反応や、リチウム等の金属系触媒を用いた反応により、置換基を導入することができる。導入される置換基としては、例えば、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
【0029】
本発明によれば、成分(2)の(2−2)共重合樹脂において、モノマー単位(d)を示す一般式(V)において、R7としては、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5個の炭化水素基が挙げられ、メチル基が好ましい。
【0030】
モノマー単位(d)は、低価格であることや安全性の点からグリシジルメタクリレート構造を有することが好ましい。モノマー単位(d)の一部を、各種の水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物及びチオール基含有化合物と反応させ、任意に置換基を導入することができる。例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート又はアリルアミンと反応させて、メタクリロイル基、アクリロイル基、アリル基を導入することもできる。
【0031】
本発明によれば、(2−2)共重合樹脂において一般式(IV)及び一般式(V)におけるp及びqはそれぞれ、共重合体中のモノマー単位(c)とモノマー単位(d)の繰り返し数を表し、1以上の自然数である。各モノマー単位の共重合組成比は、比誘電率及び誘電正接と、ガラス転移温度、はんだ耐熱性及び銅箔に対する接着性とのバランスの点から、2≦p/q≦20の範囲にあることが特に好ましい。(2−2)共重合樹脂の重量平均分子量は、耐熱性及び機械強度と200℃以下での成形加工性とのバランスを考慮すると、1,000〜300,000であることが好ましい。
【0032】
本発明によれば、本発明の成分(2)の(2−3)樹脂は、モノマー単位(e)を含む樹脂であり、一般式(VI)におけるrは、重合体中のモノマー単位(e)の繰り返し数を表し、1以上の自然数である。(2−3)樹脂は、例えばポリフェニレンエーテル樹脂の構造を含むものが好ましい。ポリフェニレンエーテルの一部、例えばその側鎖として、炭化水素基、アリル基等の置換基を導入した側鎖導入型ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。例えば、アリル基付加ポリフェニレンエーテル樹脂、n−ブチル基付加ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。(2−3)樹脂として、低価格であること及び成形加工性の点から、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンを押出成形等により混合した樹脂が特に好ましい。
【0033】
本発明の成分(3)の熱硬化性の窒素原子含有樹脂は、難燃性や耐熱性の点から、1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物、反応性置換基を有するイソシアヌレート化合物、メラミン樹脂、ジシアンジアミド等が好ましく、更に低誘電率性の点から1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物、及び反応性置換基を有するイソシアヌレート化合物が特に好ましい。
【0034】
シアネートエステル化合物の具体例としては、2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパン、ジ(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ジ(4−シアナトフェニル)チオエーテル、2,2−ジ(4−シアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ジ(シアナトフェニル)エタン;並びにフェノールとジシクロペンタジエン共重合体のポリシアネートエステル及びフェノールノボラックポリシアネート等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中で誘電特性や耐熱性の点から、2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパンがより好ましく、予め自己重合によりトリアジン環を伴う3量体以上の重合体を形成させたものを混合して含有するものが更に好ましく、比誘電率及び誘電正接と耐熱性及びゲル化防止とのバランスを考慮すると、2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパンの10〜90モル%が3量体以上の重合体を形成しているものが特に好ましい。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物の製法として、成分(3)において自己重合によりトリアジン環を伴う3量体以上の重合体を形成させる際に、予めシアネートエステル化合物と共に成分(2)を混合溶解し、成分(2)とシアネートエステル化合物によるトリアジン環を伴う3量体以上の重合体とのセミIPN(Interpenetrating Polymer Network)構造とすることも有効であり、このセミIPN構造とすることにより、成形加工性やガラス転移温度、銅箔接着性、誘電特性を向上させることができる。
【0036】
また、シアネートエステル化合物(シアネートエステル樹脂)の硬化触媒の例としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸マンガン及びナフテン酸チタン等の有機酸金属触媒が挙げられる。これらの中で硬化触媒としては、誘電特性や耐熱性の点からナフテン酸亜鉛、ナフテン酸マンガンが好ましく、熱硬化反応の際の反応率の点からナフテン酸亜鉛が特に好ましい。シアネートエステル化合物の硬化触媒の使用量は、熱硬化反応の際の反応率、誘電特性及び耐電食性と、合成中の望まないゲル化及びワニスの安定性とのバランスを考慮すると、シアネートエステル樹脂に対し0.01〜1.00wt%が好ましい。
【0037】
シアネートエステル化合物(シアネートエステル樹脂)の硬化促進剤の例としては、フェノール、ノニルフェノール、フェノキシフェノール及びp−クミルフェノール等のモノフェノール化合物、ビスフェノールA、フェノールノボラック樹脂等の多価フェノール化合物のようなフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。耐熱性の点からモノフェノール化合物が好ましく、誘電特性や耐熱性の点からパラクミルフェノールが特に好ましい。また、シアネートエステル化合物の硬化促進剤の使用量は、シアネートエステル樹脂中のシアナト基当量に対する硬化促進剤中のフェノール性水酸基当量の比(フェノール性水酸基当量/シアナト基当量)が、誘電特性及び耐熱性と、ドリル加工性とのバランスを考慮すると、0.01〜1.00であることが好ましい。
【0038】
反応性置換基を有するイソシアヌレート化合物の例としては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、トリアクリロイルエチルイソシアヌレート、トリメタクリロイルエチルイソシアヌレート等が挙げられる。これらの中で、低温硬化性の点からトリアリルイソシアヌレート、トリアクリロイルエチルイソシアヌレートが好ましく、誘電特性の点からトリアリルイソシアヌレートが特に好ましい。
【0039】
反応性置換基を有するイソシアヌレート化合物の硬化触媒の例としてはラジカル開始剤であるベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−へキセン−3等の有機過酸化物等が挙げられる。2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−へキセン−3が好ましい。イソシアヌレート化合物の硬化触媒の使用量は、反応率、耐熱性、ワニスの安定性を考慮すると、イソシアヌレ−トに対し1〜4wt%であることが好ましい。
【0040】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、難燃性、耐熱性及び銅箔接着性とのバランスの点から、該成分(2)、(3)及び(4)の総和100重量部当たり、該成分(1)を1〜100重量部とすることが好ましく、10〜100重量部とすることがより好ましく、20〜90重量部とすることが特に好ましい。成分(1)の配合量が少ないと難燃性が低下する。
【0041】
本発明では成分(4)として、改質剤として、エポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂を添加することにより、樹脂組成物の耐湿性、耐熱性、特に吸湿後の耐熱性が改善される。エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビフェニル系、ノボラック系、多官能フェノール系、ナフタレン系、脂環式系及びアルコール系等のグリシジルエーテル、グリシジルアミン系並びにグリシジルエステル系等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、誘電特性、耐熱性、耐湿性及び銅箔接着性の点から、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びポリジメチルシロキサン含有エポキシ樹脂等が好ましく、難燃性や成形加工性の点から、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂の硬化剤の例としては、酸無水物、アミン化合物及びフェノール化合物等が挙げられる。エポキシ樹脂の硬化促進剤の例としては、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類及び第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0043】
本発明によれば、任意に公知の熱可塑性樹脂、エラストマー、難燃剤及び充填剤等の併用ができる。
【0044】
熱可塑性樹脂の例としては、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0045】
エラストマーの例としては、ポリブタジエン、アクリロニトリル、エポキシ変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、フェノール変性ポリブタジエン及びカルボキシ変性アクリロニトリル等が挙げられる。
【0046】
成分(1)以外の難燃剤の例としては、本発明の目的の範囲において、次の難燃剤を用いることができる。例えば、トリクレジルホスフェート及びトリフェニルホスフェート等のリン酸エステル系難燃剤、赤リン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム等の無機物の難燃剤等が挙げられる。
【0047】
充填剤の例としては、シリカ、マイカ、タルク、ガラス短繊維又は微粉末及び中空ガラス等の無機物粉末、シリコーンパウダー、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、並びにポリフェニレンエーテル等の有機物粉末等が挙げられる。
【0048】
本発明において、任意に有機溶剤を使用することができ、その種類は特に限定されない。有機溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メチルセロソルブ等のアルコール系溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶剤、ジメチルホルムアミドジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0049】
本発明において、任意に該樹脂組成物に対して、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤及び密着性向上剤等の添加も可能であり、特に限定されない。これらの例としては、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系やスチレン化フェノール等の酸化防止剤、ベンゾフェノン類、ベンジルケタール類、チオキサントン系等の光重合開始剤、スチルベン誘導体等の蛍光増白剤、尿素シラン等の尿素化合物やシランカップリング剤等の密着性向上剤等が挙げられる。
【0050】
本発明のプリプレグは、前記した本発明の熱硬化性樹脂組成物を、基材に含浸又は塗工してなるものである。以下、本発明のプリプレグについて詳述する。
【0051】
本発明のプリプレグは、例えば、成分(1)、該成分(1)とともに硬化する熱硬化性樹脂成分(2)、及び任意に、成分(3)を含む熱硬化性樹脂組成物を、基材に含浸又は塗工し、加熱等により半硬化(Bステージ化)して本発明のプリプレグを製造することができる。本発明の基材として、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている周知のものが使用できる。その材質の例としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス及びQガラス等の無機物繊維、ポリイミド、ポリエステル及びテトラフルオロエチレン等の有機繊維、並びにそれらの混合物等が挙げられる。これらの基材は、例えば、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット及びサーフェシングマット等の形状を有するが、材質及び形状は、目的とする成形物の用途や性能により選択され、必要により、単独又は2種類以上の材質及び形状を組み合わせることができる。基材の厚さは、特に制限されず、例えば、約0.03〜0.5mmを使用することができ、シランカップリング剤等で表面処理したもの又は機械的に開繊処理を施したものが、耐熱性や耐湿性、加工性の面から好適である。該基材に対する樹脂組成物の付着量が、乾燥後のプリプレグの樹脂含有率で、20〜90重量%となるように、基材に含浸又は塗工した後、通常、100〜200℃の温度で1〜30分加熱乾燥し、半硬化(Bステージ化)させて、本発明のプリプレグを得ることができる。
【0052】
本発明の積層板は、前述の本発明のプリプレグを用いて、積層成形して、形成することができる。本発明のプリプレグを、例えば、1〜20枚重ね、その片面又は両面に銅及びアルミニウム等の金属箔を配置した構成で積層成形することにより製造することができる。金属箔は、電気絶縁材料用途で用いるものであれば特に制限されない。また、成形条件は、例えば、電気絶縁材料用積層板及び多層板の手法が適用でき、例えば多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機等を使用し、温度100〜250℃、圧力2〜100kg/cm2、加熱時間0.1〜5時間の範囲で成形することができる。また、本発明のプリプレグと内層用配線板とを組合せ、積層成形して、多層板を製造することもできる。
【実施例】
【0053】
次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。下記例中の部は特に断らない限り、重量部を意味する。
【0054】
実施例に用いた物質を以下に示す。
成分(1)の二置換ホスフィン酸の金属塩:
【0055】
(1−1)メチルエチルホスフィン酸のアルミニウム塩
【化8】

【0056】
(1−2)ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩
【化9】

【0057】
成分(2)の樹脂:
(2−1−1) スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂(Dylark社製、商品名Dylark D−332、重量平均分子量 150,000、共重合組成比は一般式(II)及び一般式(III)におけるmとnの比がm/n=7)
(2−1−2) スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂(エルフアトケム社製、商品名SMA−3000、重量平均分子量 10,000、共重合組成比は一般式(II)及び一般式(III)におけるmとnの比がm/n=3)
(2−2) スチレンとグリシジルメタクリレートを共重合成分とする共重合樹脂(東亞合成社製、商品名レゼダGP−505、重量平均分子量 50,000、エポキシ当量 1,724)
(2−3) ポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物(GE社製、商品名ノリル、重量平均分子量 80,000、ポリフェニレンエーテルとの混合比は、重量比で(ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン)=7/3)
【0058】
成分(3)の熱硬化性の窒素原子含有樹脂:
(3−2) トリアリルイソシアヌレート
【0059】
成分(4)のエポキシ樹脂:
(4−1) ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量 193)
(4−2) フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量 189)
【0060】
硬化触媒又は硬化促進剤:
TEA トリエチルアミン
ZnNph ナフテン酸亜鉛
P−25B 2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−へキセン−3
PCP パラクミルフェノール
2PZ 2−フェニルイミダゾール
【0061】
難燃剤(比較例):
A 赤リン 日本化学工業社製、商品名ヒシガードTP−10F
B トリフェニルホスフェート
C リン含有エポキシ樹脂 東都化成社製、商品名ZX−1548−4
【0062】
合成例1:成分(3):シアネートエステル樹脂(3−1)の調製
温度計、撹拌装置及び冷却管を備えた加熱及び冷却可能な3リットル容の反応容器に、2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパン1519g、パラクミルフェノール23.1g及びトルエン1022gを入れ、80℃に昇温し、77〜83℃に保ちながら、ナフテン酸亜鉛8重量%溶液0.22gを添加した。添加した後、反応を80℃で3.5時間行い、シアネートエステル樹脂の溶液(3−1)を得た。(3−1)の固形分は61重量%であり、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いた測定により、自己重合により原料である2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパンの45モル%が3量体以上の重合体を形成していることを確認した。
【0063】
合成例2:成分(2−1)及び(3):スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂とシアネートエステル樹脂のセミIPN(Interpenetrating Polymer Network)構造の調製(A−1)
温度計、撹拌装置及び冷却管を備えた加熱及び冷却可能な5リットル容の反応容器に、2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパン1519g、パラクミルフェノール23.1g、スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂(Dylark社製、商品名Dylark D−332)1519g、及びトルエン1022gを入れ、100℃に昇温して溶解した。溶解後、97〜103℃に保ちながら、ナフテン酸亜鉛8重量%溶液0.88gを添加した。添加した後、120℃で5時間反応を行い、スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂と、シアネートエステル樹脂によるトリアジン環を伴う3量体以上の重合体とのセミIPN(Interpenetrating Polymer Network)構造の溶液(A−1)を得た。(A−1)の固形分は67重量%であり、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いた測定により、自己重合により原料である2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパンの60モル%が3量体以上の重合体を形成していることを確認した。なお、スチレンと無水マレイン酸の共重合組成比は、一般式(II)及び一般式(III)におけるmとnの比がm/n=7.0であった。
【0064】
合成例3:成分(2−2)及び(3):スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合樹脂とシアネートエステル樹脂のセミIPN(Interpenetrating Polymer Network)構造の調製(A−2)
温度計、撹拌装置及び冷却管を備えた加熱及び冷却可能な5リットル容の反応容器に、2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパン1519g、パラクミルフェノール23.1g、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合樹脂(東亞合成社製、商品名レゼダGP−505)1519g、及びトルエン1022gを入れ、100℃に昇温して溶解した。溶解後、97〜103℃に保ちながら、ナフテン酸亜鉛8重量%溶液0.88gを添加した。添加した後、120℃で5時間反応を行い、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合樹脂と、シアネートエステル樹脂によるトリアジン環を伴う3量体以上の重合体とのセミIPN(Interpenetrating Polymer Network)構造の溶液(A−2)を得た。(A−2)の固形分は67重量%であり、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いた測定により、自己重合により原料である2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパンの60モル%が3量体以上の重合体を形成していることを確認した。なお、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合組成比は、一般式(IV)及び一般式(V)におけるpとqの比がp/q=15であった。
【0065】
合成例4:成分(2−3)及び(3):ポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物とシアネートエステル樹脂のセミIPN(Interpenetrating Polymer Network)構造の調製(A−3)
温度計、撹拌装置及び冷却管を備えた加熱及び冷却可能な5リットル容の反応容器に、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物(GE社製、商品名ノリル)759.5g、及びトルエン976gを入れ、100℃に昇温して溶解した。溶解後、更に2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパン1519g、パラクミルフェノール11.5gを添加し溶解した。溶解後、97〜103℃に保ちながら、ナフテン酸亜鉛8重量%溶液0.88gを添加した。添加した後、120℃で5時間反応を行い、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物と、シアネートエステル樹脂によるトリアジン環を伴う3量体以上の重合体とのセミIPN構造の溶液(A−3)を得た。(A−3)の固形分は71重量%であり、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いた測定により、自己重合により原料である2,2−ジ(シアナトフェニル)プロパンの60モル%が3量体以上の重合体を形成していることを確認した。なお、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物の混合比は、重量比で(ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン)=7/3であった。
【0066】
合成例5:成分(2):共重合樹脂(2−1−3)の調製
温度計、撹拌装置及び冷却管及び水分定量器を備えた加熱及び冷却可能な2リットルの反応容器に、スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂(サートマー社製、商品名EF−40)514g、トルエン100g及びシクロヘキサノン120gを入れ、100℃に昇温し、p−アミノフェノール54.5gを少量づつ添加した。添加後100℃で1時間保温した後、125℃〜135℃に昇温し、4時間還流により反応を行った。その後約90℃に冷却してメチルエチルケトン237gを添加し、スチレン、無水マレイン酸及びN−ヒドロキシフェニルマレイミドからなる共重合樹脂の溶液(2−1−3)を得た。(2−1−3)の固形分は55重量%であり、スチレン、無水マレイン酸及びN−ヒドロキシフェニルマレイミドの共重合組成比は、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(VII)におけるm、n、sが、モル比でm:n:s=8:1:1、m/(n+s)=4,n/s=1であった。また、重量平均分子量は10,000であった。
【0067】
合成例6:成分(2):共重合樹脂(2−1−4)の調製
温度計、撹拌装置及び冷却管及び水分定量器を備えた加熱及び冷却可能な2リットルの反応容器に、スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂(サートマー社製、商品名EF−40)514g、トルエン100g及びシクロヘキサノン120gを入れ、80℃に昇温し、アニリン46.5gを少量づつ添加した。添加後80℃で1時間保温した後、125℃〜135℃に昇温し、4時間還流により反応を行った。その後約90℃に冷却してメチルエチルケトン237gを添加し、スチレン、無水マレイン酸及びN−フェニルマレイミドからなる共重合樹脂の溶液(2−1−4)を得た。(2−1−4)の固形分は55重量%であり、スチレン、無水マレイン酸及びN−フェニルマレイミドの共重合組成比は、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(VII)におけるm、n、sが、モル比でm:n:s=8:1:1、m/(n+s)=4,n/s=1であった。また、重量平均分子量は10,000であった。
【0068】
(実施例1〜18、比較例1〜6)
上記の、成分(1)である二置換ホスフィン酸の金属塩((1−1)又は(1−2))、成分(2)であるスチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂((2−1−1)及び(2−1−2))、スチレン、無水マレイン酸及びN−ヒドロキシフェニルマレイミドの共重合樹脂(2−1−3)、スチレン、無水マレイン酸及びN−フェニルマレイミドの共重合樹脂(2−1−4)、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合樹脂(2−2)、及びポリフェニレンエーテルとポリスチレンの混合物(2−3)、成分(3)である合成例1で得られたシアネートエステル樹脂(3−1)及びイソシアヌレート化合物(3−2)、合成例2〜4で得られた成分(2)と成分(3)であるシアネートエステル樹脂とのセミIPN構造の重合体((A−1)、(A−2)及び(A−3))、成分(4)であるエポキシ樹脂((4−1)及び(4−2))、また硬化触媒又は硬化促進剤として、トリエチルアミン、ナフテン酸亜鉛、2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−へキセン−3、及びパラクミルフェノールを、表1〜4に示した配合割合(重量部)で混合して均一なワニスを得た。
得られたワニスを、下記の方法により樹脂板、及び銅張積層板の評価基板に形成し、それぞれ、特性を評価した。結果を表1〜4に示す。
【0069】
(a)樹脂板
ワニスをPETフィルム上に展開し、160℃で10分加熱乾燥してキャスト法により固形分を取り出した。次にこの固形分を用いて、圧力25kg/cm2、温度185℃で90分間プレスを行って、樹脂板を得た。
このようにして得られた樹脂板を用いて、比誘電率(1GHz)、誘電正接(1GHz)について、以下の方法で測定した。
【0070】
(b)銅張積層板
ワニスを厚さ0.1mmのEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で10分加熱乾燥して樹脂含有量55重量%のプリプレグを得た。
次に、このプリプレグを4枚重ね、18μmの電解銅箔を上下に配置し、圧力25kg/cm2、温度185℃で90分間プレスを行って、銅張積層板を得た。
得られた銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板を得た。
【0071】
このようにして得られた銅張積層板の評価基板を用いて、比誘電率(1GHz)、誘電正接(1GHz)、吸湿性(吸水率)、はんだ耐熱性、接着性(ピール強度)、ガラス転移温度について以下の方法で測定・評価した。
(1)比誘電率及び誘電正接の測定法
Hewllet・Packerd社製比誘電率測定装置(製品名:HP4291B)を用いて、得られた樹脂板及び銅張積層板の評価基板の周波数1GHzでの比誘電率及び誘電正接を測定した。
(2)ガラス転移温度の測定
TMA試験装置を用い、得られた銅張積層板の評価基板の熱膨張特性を観察することにより評価した。
(3)難燃性の評価
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板から、長さ127mm、幅12.7mmに切り出した試験片を作製し、UL94の試験法(V法)に準じて評価した。
(4)はんだ耐熱性の評価
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板を作製し、温度288℃のはんだ浴に、評価基板を20秒間浸漬した後、外観を観察することによりはんだ耐熱性を評価した。
(5)吸湿性(吸水率)の評価
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板を作製し、平山製作所(株)製プレッシャー・クッカー試験装置を用いて、121℃、2atmの条件で4時間までプレッシャー・クッカー処理を行った後、評価基板の吸水率を測定した。
(6)接着性(ピール強度)の評価
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより1cm幅の銅箔を形成して評価基板を作製し、レオメータを用いてピール強度を測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
表1、表2及び表4から明らかなように、本発明の実施例1〜18の樹脂組成物は、低誘電性、低誘電正接性、難燃性、耐熱性、耐湿性及び銅箔との接着性の全てに優れている。
【0077】
これに対して、表3から明らかなように、比較例の樹脂組成物は、本発明の組成物の特性を有しておらず、また、難燃性、耐熱性、耐湿性及び銅箔との接着性に劣っている。
産業上の利用可能性
【0078】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、低誘電性、低誘電正接性、難燃性、耐熱性、耐湿性及び銅箔との接着性に優れ、該組成物を基材に含浸又は塗工して得たプレプリグ、及び該プレプリグを積層成形することにより製造した積層板は、低誘電性、低誘電正接性、難燃性、耐熱性、耐湿性及び銅箔との接着性に優れ、電子機器用プリント配線板として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)二置換ホスフィン酸の金属塩、
(2)1GHz以上の周波数における比誘電率が2.9以下である樹脂、及び
(4)エポキシ樹脂
を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂組成物の1GHz以上の周波数における比誘電率が3.0以下である、請求の範囲第1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(3)熱硬化性の窒素原子含有樹脂を更に含む、請求の範囲第1項又は第2項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(2)が、
(2−1)
(a)一般式(II):
【化10】


式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5個の炭化水素基であり;Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基であり;xは、0〜3の整数であり;mは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(a)、及び
(b)一般式(III):
【化11】


式中、nは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(b)を含む共重合樹脂;
(2−2)
(c)一般式(IV):
【化12】


式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5個の炭化水素基であり;Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基であり;yは、0〜3の整数であり;pは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(c)、及び
(d)一般式(V):
【化13】


式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5個の炭化水素基であり;qは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(d)を含む共重合樹脂;及び
(2−3)
(e)一般式(VI):
【化14】


式中、rは、自然数であり、重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(e)を含む樹脂
からなる群より選択される1以上の樹脂組成物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記共重合樹脂(2−1)が、更に
(f)下記の一般式(VII):
【化15】

式中、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜5個の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、水酸基、チオール基又はカルボキシル基であり;zは、0〜3の整数であり;sは、自然数であり、共重合体中のモノマー単位の繰り返し数を示す、
で示されるモノマー単位(f)を含む共重合樹脂である、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を用いたプリプレグ。
【請求項7】
請求項6に記載のプリプレグを用いて積層形成した積層板。
【請求項8】
二置換ホスフィン酸の金属塩を含む熱硬化性樹脂組成物であり、かつ該熱硬化性樹脂組成物の1GHz以上の周波数における比誘電率が3.0以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−225883(P2011−225883A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106958(P2011−106958)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【分割の表示】特願2009−111298(P2009−111298)の分割
【原出願日】平成15年4月16日(2003.4.16)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】