説明

熱硬化性樹脂組成物及び回路基板

【課題】再溶融やフラッシュ・ショートの発生を防止し、高温雰囲気中での密着性が高く、濡れ性が優れた、回路部品の接続材料を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂バインダー、金属粉末、フラックス成分を含有する熱硬化性樹脂組成物において、金属粉末が第一複合金属粉末と第二複合金属粉末とを含む。第一複合金属粉末は、Ag、Bi、Cu、In、Snを所定量含有する第1金属粒子と、Ag、Bi、Cu、In、Snを所定量含有する第2金属粒子とを含み、熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する。第二複合金属粉末は、Ag、Bi、Cu、In、Snを所定量含有する第3金属粒子と、Snからなる第4金属粒子とを含み、熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する。フラックス成分として、構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方が用いられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品実装のための導電ペースト、特に低温硬化性導電ペーストとして用いられる熱硬化性樹脂組成物及びこの熱硬化性樹脂組成物を用いて部品実装した回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能化してきた電子機器の実装には、通常、銀ペーストやクリームはんだと呼ばれる材料が用いられている(例えば、特許文献1参照)。この中でも特に、銀ペーストは、高価であることもあって、クリームはんだが最も一般的に用いられている。しかし、クリームはんだのリフロー温度は215〜260℃の高温のため、この温度に耐えることができない部品の実装や反りの起こり易い薄型プリント基板への実装には、スポットはんだを用いてその部品だけを別工程で実装したり、または銀ペーストを用いて別工程で実装したりしないとならないため、生産性を著しく低下させていた。
【0003】
しかも、銀ペーストは、エポキシ樹脂の中に銀粉末が高い充填比率で配合されており、通常160℃以下の温度でエポキシ樹脂が硬化することで被着体と接着し、銀粒子の接触によって電気が流れるというメカニズムを取っている。したがって、銀粒子は、粒子同士が接触する必要があるため、その充填比率はかなり高い比率であることが必須となる。しかし、このメカニズムでは、どうしても密着に寄与するエポキシ樹脂の比率が少なくなってしまうため、一般的に、銀ペーストは密着力が低いという課題がある。さらに、銀のイオン化に起因するマイグレーションの発生は、実装部品の不良発生の原因ともなっている。
【0004】
一方、クリームはんだは、はんだ粒子、フラックス成分及び溶剤を含む組成物であり、リフロー炉中で加熱されることで、フラックス成分がはんだ粒子表面の酸化層を除去した後、はんだ粒子が融点以上で溶解し、このはんだ粒子が一体化して部品実装を完遂するものであり、多くの部品を一括して接続できるという生産性の高いプロセスを提供するものである。このはんだ接合は、被着体の金属と金属溶融接合するので、銀ペーストに比べて、非常に高い密着強度を発揮することができる。
【0005】
ところで、はんだの種類については、Sn−Pb共晶はんだは、環境問題の高まりから使用禁止の方向となり、鉛を含まないSn−Ag−Cu系はんだが主流となっている。このSn−Ag−Cu系はんだの融点は、215℃以上であるため、耐熱性の弱い部品実装や薄型プリント基板への実装で不具合が生じるという状況になっている。
【0006】
鉛を含まないSn−Ag−Cu系はんだよりも低温で溶融可能なはんだとしては、Sn−Bi系はんだがあり、JIS Z3282に規定されたはんだ組成のSn42Bi58が挙げられる。このSn42Bi58はんだは、融点が139℃であるため、Sn−Ag−Cu系はんだに比べて、リフロー工程での部品に掛かる熱ストレスを大幅に低減することが可能となる。
【0007】
しかしながら、はんだを用いた接合は、高い接続強度を発揮するというメリットがある一方、はんだが、常に一定の融点を持つ金属であるという特性上、接続したものを再度、融点以上の温度に曝すと、再溶融して、場合によれば導通不良になるという課題がある。例えば、はんだ接続部分の周囲を樹脂で覆ったりした場合、それを再度、高温に曝すと、溶けたはんだが、体積膨張した樹脂に押され、樹脂の隙間を流れ、場合によっては、はんだ同士で繋がってしまい、回路ショートトラブル(いわゆるフラッシュ・ショート)を起こす原因となっている。そこで、150℃以下の低温で接続可能で、しかも再溶融の起こり難い導電性接続材料の登場が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−185884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記の点に鑑みて、先の出願において、高温に耐えられない部品を含む電子回路の実装にあたり、150℃以下の低温でも金属溶融接合が可能で、かつ、溶融した金属と熱硬化性樹脂の両方で部品を接続して高い接着強度を有し、さらには一度金属が溶融して接続した後は通常のはんだのような再溶融や液状化に起因するフラッシュ・ショートが起こり難いという特性を有する熱硬化性樹脂組成物を発明している(特願2008−246869)。
【0010】
この発明では、熱硬化性樹脂組成物中の金属組成として、3種類の合金粒子(第1から第3合金粒子)を用いているが、各合金粒子は、主元素としてBi、In、Snからなる150℃以下の低温で溶融する金属比率が高い粒子と、Ag、Cuからなる溶融温度の高い金属比率が高いコア系粒子から構成されている。
【0011】
この合金粒子を150℃で加熱した場合、融点の高いコア系金属は溶融しないが、その周囲の溶融系金属が溶けることで、コア系金属と溶融系金属との間で金属拡散が起こり、金属間化合物が形成される。この溶融系金属とコア系金属の配合比率を変えることで、この熱硬化性樹脂組成物を用いて接続した回路部品の再溶融防止・フラッシュ・ショートの発生を防止することが達成できたものである。
【0012】
しかしながら、この熱硬化性樹脂組成物で接続した電気部品は、高温雰囲気中での密着性(熱時密着)が十分でないという課題が新たに判明した。これは、構成金属中に低温で溶融する合金相が含まれているために、金属間化合物にならなかった当該合金相が、150℃の高温雰囲気中で融解し、構造体全体は、液状化しないまでも、部分的に金属が柔らかくなって、その結果、熱時密着が低くなっているものと推察される。
【0013】
さらに、この熱硬化性樹脂組成物で接続した電気部品は、はんだに比べると接続電極界面での金属の濡れが不足しており、大電流特性や熱伝導性で見劣りする傾向があった。したがって、はんだのように、接続電極界面での十分な金属の濡れが得られ、大電流特性や熱伝導性の向上したものが求められている。
【0014】
本発明は、上記の点に鑑み、熱硬化性樹脂組成物を用いて接続した回路部品の再溶融を防止し、またフラッシュ・ショートの発生を防止し、かつ高温雰囲気中での密着性が高いという特性を有し、さらには、接続電極界面の金属の濡れ性が優れた接続材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、熱硬化性樹脂バインダー、金属粉末、フラックス成分を含有する熱硬化性樹脂組成物において、金属粉末が第一複合金属粉末と第二複合金属粉末とを含むものである。
【0016】
そして、第一複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを15〜25質量%、Cuを10〜20質量%、Inを15〜25質量%、Snを15〜55質量%含有する第1金属粒子と、Agを25〜40質量%、Biを2〜8質量%、Cuを5〜15質量%、Inを2〜8質量%、Snを29〜66質量%含有する第2金属粒子とを含み、第1金属粒子及び第2金属粒子の混合比が、第1金属粒子100質量部に対し、第2金属粒子90〜110質量部であり、150℃以下の温度で第1金属粒子及び第2金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられている。
【0017】
また、第二複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを2〜8質量%、Cuを49〜81質量%、Inを2〜8質量%、Snを10〜20質量%含有する第3金属粒子と、Snからなる第4金属粒子とを含み、第3金属粒子及び第4金属粒子の混合比が、第3金属粒子100質量部に対し、第4金属粒子175〜195質量部であり、220℃以下の温度で第3金属粒子及び第4金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられている。
【0018】
また、フラックス成分として、下記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方が用いられている。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、R〜Rは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。Xは、金属が配位可能な孤立電子対または二重結合性π電子を有する有機基を示す。Yは、構造式(1)又は構造式(2)における主鎖骨格を形成する原子または原子団を示す。)
以上のような構成を特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0021】
請求項2に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、第一複合金属粉末と第二複合金属粉末との配合比率が、〔第一複合金属粉末〕/〔第二複合金属粉末〕=9/1〜1/9であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0022】
請求項3に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、第1金属粒子、第2金属粒子、第3金属粒子及び第4金属粒子の平均粒径が、0.5〜30μmであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0023】
請求項4に係る発明は、熱硬化性樹脂バインダー、金属粉末、フラックス成分を含有する熱硬化性樹脂組成物において、金属粉末が、第一複合金属粉末及び第二複合金属粉末の少なくとも一方とはんだ粉末とを含む熱硬化性樹脂組成物である。
【0024】
そして、第一複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを15〜25質量%、Cuを10〜20質量%、Inを15〜25質量%、Snを15〜55質量%含有する第1金属粒子と、Agを25〜40質量%、Biを2〜8質量%、Cuを5〜15質量%、Inを2〜8質量%、Snを29〜66質量%含有する第2金属粒子とを含み、第1金属粒子及び第2金属粒子の混合比が、第1金属粒子100質量部に対し、第2金属粒子90〜110質量部であり、150℃以下の温度で第1金属粒子及び第2金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられている。
【0025】
また、第二複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを2〜8質量%、Cuを49〜81質量%、Inを2〜8質量%、Snを10〜20質量%含有する第3金属粒子と、Snからなる第4金属粒子とを含み、第3金属粒子及び第4金属粒子の混合比が、第3金属粒子100質量部に対し、第4金属粒子175〜195質量部であり、220℃以下の温度で第3金属粒子及び第4金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられている。
【0026】
また、フラックス成分として、下記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方が用いられている。
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、R〜Rは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。Xは、金属が配位可能な孤立電子対または二重結合性π電子を有する有機基を示す。Yは、構造式(1)又は構造式(2)における主鎖骨格を形成する原子または原子団を示す。)
以上のような構成を特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0029】
請求項5に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、はんだ粉末の含有量が、金属粉末全量に対して40質量%以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0030】
請求項6に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、はんだ粉末が、Sn−Bi系はんだであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0031】
請求項7に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、はんだ粉末が、Sn−Ag−Cu系はんだであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0032】
請求項8に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、はんだ粉末が、Sn−In−Ag−Bi系はんだであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0033】
請求項9に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、上記構造式(1)又は(2)中のXが、下記構造式(3)〜(8)で示される有機基の少なくともいずれかであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、Rは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。)
請求項10に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、上記構造式(1)又は(2)中のYが、下記構造式(9)〜(12)で示される原子又は原子団の少なくともいずれかであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、R及びRは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。)
請求項11に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、上記構造式(1)又は(2)で示される化合物が、レブリン酸、グルタル酸、コハク酸、リンゴ酸、5−ケトヘキサン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−アミノ酪酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトイソブチル酸、3−メチルチオプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、3−フェニルイソブチル酸、4−フェニル酪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0038】
請求項12に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、上記構造式(1)又は(2)で示される化合物が、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、ジチオジグリコール酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0039】
請求項13に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性樹脂バインダーとして、エポキシ樹脂が用いられていることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0040】
請求項14に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性樹脂バインダーに対して、フラックス成分が3〜50PHR含有されていることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0041】
請求項15に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性樹脂組成物全量に対して、熱硬化性樹脂バインダー及びフラックス成分の合計量が5〜30質量%であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0042】
請求項16に係る発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物を用いて、部品が基板に接着されていることを特徴とする回路基板である。
【発明の効果】
【0043】
本発明の請求項1に係る熱硬化性樹脂組成物によれば、高温に耐えられない部品を基板に実装するにあたって、150℃以下の低温でも金属溶融接合が可能であり、かつ、室温での高い接着強度が得られるのに加えて高温雰囲気下でも高い接着強度を得ることができると共に、一度、150℃以下の温度で金属が溶融した後は、再溶融や液状化に起因するフラッシュ・ショートを起こり難くすることができるものである。
【0044】
請求項2に係る発明によれば、第一複合金属粉末と第二複合金属粉末との配合比率が、上記の範囲であることにより、効率的な金属溶融性と高温雰囲気下での高い接着強度とを両立することができるものである。
【0045】
請求項3に係る発明によれば、平均粒径が上記範囲の金属粒子を用いることにより、効果的な金属溶融性と高温雰囲気下での高い接着強度とを両立することができるものである。
【0046】
請求項4に係る発明によれば、第一複合金属粉末及び第二複合金属粉末の少なくとも一方と、はんだ粉末とが含まれているので、高温に耐えられない部品を基板に実装するにあたって、再溶融がしにくく高い接着強度で実装することができると共に、この熱硬化性樹脂組成物で接続した電気部品は、接続電極界面ではんだと同等の金属の濡れがもたらされて、大電流特性や熱伝導性を向上することができるものである。
【0047】
請求項5に係る発明によれば、はんだ粉末の含有量が上記の量の範囲となることで、回路基板の電極界面との濡れ性を確実に向上させることができ、かつ再溶融や液状化に起因するフラッシュ・ショートを防止することができるものである。
【0048】
請求項6に係る発明によれば、Sn−Bi系はんだを用いることにより、回路基板の電極界面との濡れ性をより確実に向上させることができるものである。
【0049】
請求項7に係る発明によれば、Sn−Ag−Cu系はんだを用いることにより、回路基板の電極界面との濡れ性をより確実に向上させることが出来るものである。
【0050】
請求項8に係る発明によれば、Sn−In−Ag−Bi系はんだを用いることにより、回路基板の電極界面との濡れ性をより確実に向上させることができるものである。
【0051】
請求項9に係る発明によれば、構造式(3)〜(8)で示される有機基のいずれかであるXを有するフラックス成分を用いることにより、効果的に金属粉末の酸化被膜を除去することができ、接着強度を向上することができるものである。
【0052】
請求項10に係る発明によれば、構造式(9)〜(12)で示される原子又は原子団のいずれかであるYを有するフラックス成分を用いることにより、さらに効果的に金属粉末の酸化被膜を除去することができ、接着強度を向上することができるものである。
【0053】
請求項11に係る発明によれば、一層効果的に金属粉末の酸化被膜を除去することができ、接着強度を向上することができるものである。
【0054】
請求項12に係る発明によれば、室温では溶融しないフラックス成分を用いているので、室温でのフラックス活性を比較的小さくすることができ、保存安定性に優れた熱硬化性樹脂組成物を得ることが可能となると共に、フラックス成分がカルボキシル基を両末端に有していることにより、加熱により溶融したフラックス成分が優れた活性力(還元力)を発揮して、カルボキシル基と金属粉末表面の金属酸化被膜との反応を促進させて、金属粉末から酸化被膜を効果的に除去することができ、低温加熱により溶融した金属粉末の一体化を促進することができるものである。
【0055】
請求項13に係る発明によれば、熱硬化性樹脂バインダーとしてエポキシ樹脂を用いることにより、エポキシ樹脂は比較的低温で硬化すると共に接着性が高いため、従来のはんだリフロー処理よりも低い温度で十分な硬化性を発揮して部品実装を可能にすると共に十分な補強効果を発揮することができるものである。
【0056】
請求項14に係る発明によれば、フラックス成分の作用を十分に発揮させることができると共に、熱硬化性樹脂組成物の硬化後における補強性を高く得ることができるものである。
【0057】
請求項15に係る発明によれば、流動可能な熱硬化性樹脂組成物を得ることができ、また、溶融一体化した金属粉末の周囲に、ボイドが存在しない熱硬化性樹脂バインダーの硬化物からなる樹脂層が形成され、この樹脂層によって十分な補強性を得ることができ、また、金属粉末の溶融一体化が阻害されるのを防止することができ、十分に低い接続抵抗を得ることができるものである。
【0058】
本発明の請求項16に係る回路基板によれば、基板に対する部品の接着性を高く得ることができると共に、基板と部品との間の接続抵抗を著しく低下させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る回路基板の一例を示すものであり、(a)(b)は断面図である。
【図2】従来の回路基板の一例を示すものであり、(a)(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0061】
本発明者らは、鋭意検討して、銀ペーストのように熱硬化性樹脂バインダーを保有し、その中の金属成分がはんだのように熱によって溶けて融着し接続する複合金属粉末を配合した組成物を発明した。その複合金属粉末は、150℃以下の熱によって金属が溶融し、金属同士で溶融接合し、また、電極金属とも溶融接続する。またその金属の周囲を覆っている熱硬化性樹脂バインダーは、150℃以下の温度で硬化反応し、硬化樹脂と溶融金属との複合構造を形成する。
【0062】
また上記複合金属粉末の他に、はんだ粉末を加えることで、熱硬化性樹脂組成物で接続した電気部品の接続電極界面での濡れが向上し、大電流特性や熱伝導性が向上することを見出した。
【0063】
すなわち、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂バインダー(マトリックス樹脂)、金属粉末、フラックス成分を必須成分として含有するものにおいて、次のような構成を有するものである。
【0064】
まず、第一に、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、金属粉末が第一複合金属粉末と第二複合金属粉末の両方を含む熱硬化性樹脂組成物である。また、第二に、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、金属粉末が第一複合金属粉末と第二複合金属粉末の少なくとも一方(又は両方)と、はんだ粉末とを含む熱硬化性樹脂組成物である。
【0065】
ところで、本発明における「はんだ」とは、単一の融点を持つ合金を意味しており、例えば、Sn−Ag−Cu系はんだであるSn96.5Ag3Cu0.5(融点217℃)や、Sn−Bi系はんだであるSn42Bi58(融点139℃)などが挙げられる。すなわち、はんだには、電気部品の接合用として一般的に知られているはんだ金属が含まれる。
【0066】
それに対して、本発明における「複合金属粉末」とは、Ag、Bi、Cu、In、Snなどの金属元素から形成される成分の異なる合金相、つまり融点の異なる合金相を複数有する金属粒子同士の組合せ、あるいは、単金属粒子との組合せからなり、均一溶融しない金属粒子と定義される。この複合金属粉末は、融点の違う金属粒子の集合体であるため、加熱した場合、低温から高温まで、複数の融点を示すことになり、単一の融点を示すはんだとは、明らかに違う溶融挙動を示すものである。
【0067】
単一の融点を持つはんだは、融点以上の温度では、液状化・再溶融する。そのため、再溶融して体積膨張したはんだが、周囲に濡れ広がって、フラッシュ・ショートするという不具合が発生し易い。上述のように、これまでに本発明者らは、複合金属粉末を用いることでフラッシュ・ショートを防止する発明をしている。すなわち、低温で溶融する金属比率が高い粒子と、溶融温度の高い金属比率が高いコア系粒子から構成されている複合金属粉末を用いれば、融点の高いコア系金属は溶融せず、その周囲の溶融系金属が溶けることで、コア系金属と溶融系金属との間で金属拡散が起こり、金属間化合物が形成され、それにより回路部品の再溶融防止・フラッシュ・ショートの発生を防止することができた。しかしながら、さらに高温雰囲気中においても十分な密着性(熱時密着)を得ることができ、また接続電極界面での濡れ性が高い熱硬化性樹脂組成物の開発が求められた。
【0068】
そこで、低温溶融性と密着性向上の両立及び濡れ性の向上を図るべく、2種類の複合金属粉末を配合すること、又は複合金属粉末とはんだ粉末と併用することにより、これらの両立が可能となることを見出し、本発明は完成されたものである。
【0069】
すなわち、第一複合金属粉末のみでは、金属間化合物にならなかった合金相が高温雰囲気中で部分的に融解して柔らかくなって熱時密着力が低くなるものと推察されたところ、低温溶融性の良好な第一複合金属粉末と、低温溶融性は十分ではないものの融点が高いため高温雰囲気での金属強度を高くすることができる第二複合金属粉末とを併用すると、第一複合金属粉末の熱時密着性の劣化を補うことが可能となることが見出された。これは、第二複合金属粉末に含まれる第3金属粒子と第4金属粒子とが熱拡散により形成した金属間化合物の耐熱性が高いためと考えられる。そして、第二複合金属粉末のみでは、溶融に232℃以上の高い温度が必要であるが、第一複合金属粉末と併用することで、150℃の低温でも金属結合を形成することができるのである。これは、第二複合金属粉末と第一複合金属粉末中の溶融成分が、150℃の低温でも溶融接合可能であるためと考えられる。
【0070】
また、上記の複合金属粉末だけでは濡れ性が十分でなかったところ、はんだ粉末と併用することにより、再溶融によるフラッシュ・ショートを防いで高い密着力が得られると共に、接続電極界面での濡れが向上し、大電流特性や熱伝導性を向上することができることが見出された。
【0071】
本発明はこのようにして完成されたものである。以下、各構成要素について説明する。
【0072】
第一複合金属粉末は、第1金属粒子と第2金属粒子とを含む金属粉末である。第1金属粒子は、Agを5〜15質量%、Biを15〜25質量%、Cuを10〜20質量%、Inを15〜25質量%、Snを15〜55質量%含有する金属粒子である。第2金属粒子は、Agを25〜40質量%、Biを2〜8質量%、Cuを5〜15質量%、Inを2〜8質量%、Snを29〜66質量%含有する金属粒子である。第一複合金属粉末において、第1金属粒子及び第2金属粒子の混合比は、第1金属粒子100質量部に対し、第2金属粒子90〜110質量部である。また、第一複合金属粉末は、150℃以下の温度で第1金属粒子及び第2金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末である。
【0073】
第二複合金属粉末は、第3金属粒子と第4金属粒子とを含む金属粉末である。第3金属粒子は、Agを5〜15質量%、Biを2〜8質量%、Cuを49〜81質量%、Inを2〜8質量%、Snを10〜20質量%含有する金属粒子である。第4金属粒子は、Snからなる金属粒子である。第二複合金属粉末において、第3金属粒子及び第4金属粒子の混合比は、第3金属粒子100質量部に対し、第4金属粒子175〜195質量部である。また、第二複合金属粉末は、220℃以下の温度で第3金属粒子及び第4金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末である。
【0074】
このような構成の第一複合金属粉末、第二複合金属粉末を用いることにより、溶融温度が適切なものとなって、再溶融を防止する効果が得られるのに加え、高温雰囲気中における密着性(熱時密着)の向上という効果が得られるものである。
【0075】
第一複合金属粉末及び第二複合金属粉末を構成する金属粒子(第1〜4金属粒子)の製造法としては、微細な粉末の製造技術として、急冷凝固法であるガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法、プラズマアトマイズ法等が挙げられるが、ガスアトマイズ法が好ましい。ガスアトマイズ法では、通常、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが使用されるが、本発明に関しては、比重の軽いヘリウムガスを用いることが好ましく、造粒時の冷却速度は、500〜5000℃/秒の範囲であることが好ましい。
【0076】
第1金属粒子の好適な製造法を例示すると、Ag5〜15質量%、Bi15〜25質量%、Cu10〜20質量%、In15〜25質量%、Sn15〜55質量%の比で黒鉛坩堝に入れ、99体積%以上のヘリウム雰囲気下で、高周波誘導加熱装置により1300〜1500℃で加熱、融解する。各金属の純度は、99質量%以上が好ましい。次に液温を800〜900℃に下げ、溶融金属を坩堝の先端より、ヘリウムガス雰囲気の噴霧槽内に導入した後、坩堝先端付近に設けられたガスノズルから、ヘリウムガス(純度99体積%以上、酸素濃度0.1体積%未満、圧力2.5±5MPa)を噴出してアトマイズを行い作製する。この時の冷却速度は2500〜2700℃/秒が好ましい。
【0077】
第2金属粒子の好適な製造法を例示すると、Ag25〜40質量%、Bi2〜8質量%、Cu5〜15質量%、In2〜8質量%、Sn29〜66質量%の比で黒鉛坩堝に入れ、99体積%以上のヘリウム雰囲気下で、高周波誘導加熱装置により1300〜1500℃で加熱、融解する。各金属の純度は、99質量%以上が好ましい。次に溶融金属を坩堝の先端より、ヘリウムガス雰囲気の噴霧槽内に導入した後、坩堝先端付近に設けられたガスノズルから、ヘリウムガス(純度99体積%以上、酸素濃度0.1体積%未満、圧力2.5±5MPa)を噴出してアトマイズを行い作製する。この時の冷却速度は2400〜2600℃/秒が好ましい。
【0078】
第3金属粒子の好適な製造法を例示すると、Ag5〜15質量%、Bi2〜8質量%、Cu49〜81質量%、In2〜8質量%、Sn10〜20質量%の比で黒鉛坩堝に入れ、99体積%以上のヘリウム雰囲気下で、高周波誘導加熱装置により1300〜1500℃で加熱、融解する。各金属の純度は、99質量%以上が好ましい。次に溶融金属を坩堝の先端より、ヘリウムガス雰囲気の噴霧槽内に導入した後、坩堝先端付近に設けられたガスノズルから、ヘリウムガス(純度99体積%以上、酸素濃度0.1体積%未満、圧力2.5±5MPa)を噴出してアトマイズを行い作製する。この時の冷却速度は2400〜2600℃/秒が好ましい。
【0079】
第4金属粒子の好適な製造法を例示すると、Snを黒鉛坩堝に入れ、99体積%以上のヘリウム雰囲気下で、高周波誘導加熱装置により1300〜1500℃で加熱、融解する。各金属の純度は、99質量%以上が好ましい。次に溶融金属を坩堝の先端より、ヘリウムガス雰囲気の噴霧槽内に導入した後、坩堝先端付近に設けられたガスノズルから、ヘリウムガス(純度99体積%以上、酸素濃度0.1体積%未満、圧力2.5±5MPa)を噴出してアトマイズを行い作製する。この時の冷却速度は2400〜2600℃/秒が好ましい。
【0080】
前記第1〜4金属粒子は、分級により所定の粒子サイズにすることができる。第1〜4金属粒子の平均粒径は、0.5〜30μmであることが好ましく、さらには、第1金属粒子、第2金属粒子、第4金属粒子の平均粒径が1〜30μmであることが好ましく、第3金属粒子の平均粒径が0.5〜20μmであることが好ましい。平均粒径がこの範囲内であることにより、効果的な金属溶融性と高温雰囲気下での高い接着強度とを両立することが一層可能となるものである。
【0081】
第一複合金属粉末は、第二複合金属粉末に比べて、溶融性が優れているので、粒子径が小さくても容易に溶融することができるが、第二複合金属粉末は、粒子径が小さ過ぎると粒子の表面積が大きく金属表面の酸化膜を取り除き難いため、溶融接合しにくくなる。したがって、第1〜4金属粒子の平均粒径は上記の範囲であることが好ましい。
【0082】
なお、平均粒径は、レーザー式粒度測定により測定することができる。また、粒度分布は、ペースト用途に応じて定めることができる。すなわち印刷用途では、印刷性を重視して、比較的広い分布の粒子を使い、ディスペンス用途では、ノズル径に応じたシャープな分布の粒子を使うのが好ましい。
【0083】
第一複合金属粉末は、前記第1金属粒子と第2金属粒子とを混合し、第二複合金属粉末は、前記第3金属粒子と第4金属粒子とを混合して製造する。混合方法としては、前記金属粒子を均一混合できるものであれば、特に制限はないが、混合時の粒子酸化を抑制するため、気流や攪拌翼を用いる開放系の混合機よりも、容器密閉型で容器自体が回転、揺動するものが好ましい。また、さらには、金属粒子を入れる容器内を窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスで置換できるものがより好ましい。
【0084】
第一複合金属粉末と第二複合金属粉末の配合比率としては、〔第一複合金属粉末〕/〔第二複合金属粉末〕=9/1〜1/9であることが好ましい。それにより、熱時密着性をさらに向上させることができる。第一複合金属粉末の比率がこの範囲より高いと、熱時の密着性が低くなるおそれがある。一方、第一複合金属粉末の比率がこの範囲より低いと、溶融性が悪くなるおそれがある。
【0085】
はんだ粉末の種類としては、特に限定されるものではなく、はんだ金属として知られている種々のものを用いることができるが、150℃で硬化させる場合には、Sn−Bi系はんだが適している。具体的には、Sn42Bi58(融点139℃)が挙げられる。また、240℃で硬化させる場合には、Sn−Ag−Cu系はんだや、Sn−In−Ag−Bi系はんだが適している。具体的には、Sn96.5Ag3Cu0.5(融点217℃)やSn92In4Ag3.5Bi0.5(融点210℃)などが挙げられる。
【0086】
第一複合金属粉末及び第二複合金属粉末は、非溶融系の金属成分を含むために、加熱時の溶融性が不足し、接続電極界面への金属の濡れ広がり性が乏しいという特性を有している。その際、はんだを添加することで、複合金属粉末間の濡れ性を向上する成分として働き、接続電極界面への金属の濡れ広がり性を向上させることができる。それによって、電流通過パスが広くなるために、電気抵抗も小さくなり、大電流導通性が良くなり、また熱伝導性も向上することができるものである。
【0087】
はんだ粉末を用いる場合、第一複合金属粉末及び第二複合金属粉末の少なくとも一方が用いられるが、好ましくは、第一複合金属粉末と第二複合金属粉末の両方が用いられる。それにより、濡れ性を高めて大電流特性や熱伝導性を向上することができると共に、効率的な金属溶融性と高温雰囲気下での高い接着強度とを両立することができるものである。
【0088】
はんだ粉末の含有量は、全金属粉末中に、40質量%以下であることが好ましい。はんだ粉末の量が上記の範囲を超えると、再リフロー時に再溶融してフラッシュ・ショートが起こり易くなるおそれがある。
【0089】
次に、フラックス成分について説明する。フラックス成分は、金属を融解しやすくするために添加される成分である。
【0090】
フラックス成分としては、従来のアビエチン酸に代表されるロジン成分材料や各種アミン及びその塩、さらにはセバシン酸、アジピン酸等の高融点有機酸など、高温で解離し、金属酸化物に対して還元作用を及ぼすものが知られているが、これらは、150℃以下の低温では、活性力が十分ではなく、効果的なフラックス作用を発揮しないために、金属粉末の溶融接合が促進されにくい。
【0091】
そこで、本発明では、フラックス成分として、上記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方を用いる。
【0092】
これらの化合物は、末端にカルボキシル基を有しており、室温でのフラックス活性はさほど大きくないが、下記構造式(13)(14)に示すようなキレートを生成し、各金属粒子表面に安定に局在化し、プロトンが完全に解離するような高温に晒さなくても、効果的に金属粉末の表面の酸化被膜を除去する機能を持っている。なお、下記構造式(13)(14)中、MはAg、Bi、Cu、In、Sn等の金属を示し、また、R〜Rは省略している。
【0093】
【化5】

【0094】
上記構造式(13)(14)において、Xとしては、具体的には、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の孤立電子対を持ってキレート形成可能な基、カルボニル基、カルボキシル基、チオカルボニル基、イミノ基等の炭素/ヘテロ原子間二重結合π電子を持つ有機基、フェニル基、ピリジル基、イミダゾイル基等の芳香族基、さらには炭素―炭素二重結合を有するビニル基、共役二重結合を有する有機基などを例示することができる。
【0095】
この中でも、上記構造式(1)又は(2)中のXが、上記構造式(3)〜(8)で示される有機基の少なくともいずれかであることが好ましい。これにより、Xが他の有機基である場合に比べて、効果的に金属粉末の酸化被膜を除去することができるものである。
【0096】
そして特に、上記構造式(1)又は(2)中のYが、上記構造式(9)〜(12)で示される原子又は原子団の少なくともいずれかであることが好ましい。これにより、他のフラックス成分に比べて、金属粉末の酸化被膜を十分に除去することができるものである。
【0097】
具体的には、上記構造式(1)又は(2)で示される化合物が、レブリン酸、グルタル酸、コハク酸、リンゴ酸、5−ケトヘキサン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−アミノ酪酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトイソブチル酸、3−メチルチオプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、3−フェニルイソブチル酸、4−フェニル酪酸の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これにより、構造式(1)又は(2)で示される化合物が他の化合物である場合に比べて、一層効果的に金属粉末の酸化被膜を除去することができるものである。なお、これらの化合物は上記構造式(1)又は(2)においてYが上記構造式(9)のものである。
【0098】
また、上記構造式(1)又は(2)で示される化合物が、ジグリコール酸(下記構造式(15))、チオジグリコール酸(下記構造式(16))、ジチオジグリコール酸(下記構造式(17))の群から選ばれる少なくとも1種であることも好ましい。
【0099】
【化6】

【0100】
これらの化合物は、カルボキシル基を両末端に有しているが、室温では溶融しないためフラックス活性はそれ程大きくなく、室温での保存安定性に優れている。一方、これらの化合物が100℃以上の温度に加熱されると溶融し、優れた活性力(還元力)が顕在化してカルボキシル基と金属粉末表面の金属酸化被膜との反応が促進され、金属粉末から酸化被膜を効果的に除去することができるようになる。このため、低温加熱により溶融した金属粉末の一体化を促進することができるものである。
【0101】
なお、カルボキシル基を両末端に有する化合物としては、一般的には脂肪族骨格を有するグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、コルク酸等が挙げられる。しかし、これらは180℃以下の低温では還元力が不足気味であるため、金属表面の酸化膜に対する十分な還元作用を期待することができず、その還元力は十分に満足できるレベルではない。
【0102】
これに対して、上記構造式(15)〜(17)に示すような、主骨格に酸素原子、又は1個若しくは2個の硫黄原子が結合した構造の化合物は、脂肪族骨格の化合物と比べて、優れた還元力を発揮することができる。その理由は、主骨格の酸素原子及び硫黄原子が電子供与性の原子であるために、金属との配位接合性が高くなり、その結果、脂肪族骨格の化合物と比べて優れた還元力を発揮するためであると推察される。
【0103】
なお、本発明においては、上記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方を用いると共に、一般に用いられている他のフラックス成分を併用しても差し支えない。
【0104】
次に、熱硬化性樹脂バインダーについて説明する。
【0105】
熱硬化性樹脂バインダーとしては、特に制限されず、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリエステル樹脂等の適宜の熱硬化性樹脂を使用することができる。このうち、特にエポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は比較的低温で硬化すると共に接着性が高いため、従来のはんだリフロー処理の温度(240℃程度)より低い温度でも十分な硬化性を発揮して部品実装を可能とすると共に十分な補強効果を発揮することができる。
【0106】
熱硬化性樹脂バインダーとして液状等のエポキシ樹脂を用いる場合は、通常は熱硬化性樹脂組成物中に硬化剤を含有させ、あるいはさらに必要に応じて硬化促進剤を含有させる。
【0107】
硬化剤としては公知公用の適宜のものを使用することができる。例えばフェノールノボラック樹脂、ナフタレン骨格含有フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂等を使用することができる。硬化剤の使用量は適宜設定されるが、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対する硬化剤の化学量論上の当量比が0.8〜1.2の範囲となるようにすることが好ましい。また、硬化促進剤を使用する場合も、公知公用の適宜のものを使用することができる。例えばトリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン等の有機リン化合物、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類等が挙げられる。
【0108】
また、熱硬化性樹脂バインダーに対して、フラックス成分は3〜50PHR含有されているのが好ましい。これにより、フラックス成分の作用を十分に発揮させることができると共に、熱硬化性樹脂組成物の硬化後における補強性を高く得ることができるものである。しかし、フラックス成分の含有量が3PHR未満であると、濃度が薄すぎてフラックス成分として十分な作用を発揮させることができない場合があり、そのため金属粉末の溶融一体化が阻害され、接続抵抗が高くなってしまうおそれがある。逆に、フラックス成分の含有量が50PHRを超えると、熱硬化性樹脂組成物の硬化後においてタック性が残ったり、補強性を十分に高く得ることができなくなったりするおそれがある。なお、フラックス成分(PHR)は、{(フラックス成分の質量/熱硬化性樹脂バインダーの質量)×100}によって算出することができる。この場合、熱硬化性樹脂バインダーには、硬化剤や硬化促進剤も含まれる。
【0109】
また、熱硬化性樹脂組成物全量に対して、熱硬化性樹脂バインダー及びフラックス成分の合計量が5〜30質量%であることが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂バインダーには、硬化剤や硬化促進剤も含まれる。これにより、流動可能な熱硬化性樹脂組成物を得ることができるものである。また、溶融一体化した金属粉末の周囲に、ボイドが存在しない熱硬化性樹脂バインダーの硬化物からなる樹脂層が形成され、この樹脂層によって十分な補強性を得ることができるものである。さらに、金属粉末の溶融一体化が阻害されるのを防止することができ、十分に低い接続抵抗を得ることができるものである。しかし、熱硬化性樹脂バインダー及びフラックス成分の合計量が5質量%未満であると、パテ状又は粉状となって、流動可能な熱硬化性樹脂組成物を得ることができないおそれがあり、また、金属粉末が溶融一体化した後、この周囲には熱硬化性樹脂バインダーの硬化物からなる樹脂層が形成されるが、この樹脂層にはボイドが多く含まれることとなり、このような樹脂層によっては十分な補強性を得ることができなくなるおそれがある。逆に、前記合計量が30質量%を超えると、金属粉末の割合が少なすぎて、これらの溶融一体化が阻害されたり、十分に低い接続抵抗を得ることができなくなったりするおそれがある。
【0110】
なお、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物には、上記必須成分のほか、通常用いられる改質剤、添加剤等が含有されていてもよい。また、熱硬化性樹脂組成物の粘度を低減し、流動性を付与する目的で、低沸点の溶剤や可塑剤を加えることもできる。さらに、印刷形状を保持するためのチクソ性付与剤として、硬化ヒマシ油やステアリン酸アミド等を添加することも有効である。
【0111】
そして、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂バインダー、金属粉末、フラックス成分、必要に応じてその他の成分をディスパー等を用いて均一に混合・混練することによって製造することができる。
【0112】
また、熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂を用いる場合には、熱硬化性樹脂組成物は、次のようにして製造することもできる。すなわち、金属粉末、上記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方からなるフラックス成分、液状エポキシ樹脂を混合・混練した後、硬化剤を添加することによって、熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0113】
このように、金属粉末、フラックス成分、液状エポキシ樹脂、硬化剤の4成分を一度に混合・混練するのではなく、硬化剤を添加する前に、金属粉末、フラックス成分、液状エポキシ樹脂の3成分を混合・混練しておくことで、金属粉末及びフラックス成分によるキレートを効率よく形成することができるものである。キレートの形成をより効率よく行わせるためには、硬化剤を添加する前に前記3成分の混練物を一昼夜放置して室温まで冷やしておくのが好ましい。また、金属粉末の比率が高いと、混練時の摩擦熱で混練物の温度が上昇する場合があるが、この混練時においてはまだ硬化剤が添加されていないので、混練物の増粘を防止することができるものである。つまり、エポキシ樹脂との硬化反応を起こす硬化剤を最後に添加することで、製造工程中でのエポキシ樹脂の反応に伴う増粘を防止することができるものである。なお、最初に金属粉末及びフラックス成分のほか、液状エポキシ樹脂も一緒に混合・混練しておくのは、この液状エポキシ樹脂で金属粉末の表面の濡れ性を向上させるためである。
【0114】
また、熱硬化性樹脂バインダーとしてエポキシ樹脂を用いる場合には、熱硬化性樹脂組成物は、次のようにして製造することもできる。すなわち、金属粉末、上記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方からなるフラックス成分、メチルエチルケトン(MEK)等の溶剤を混合し、次にこの溶剤を乾燥除去した後、エポキシ樹脂及び硬化剤を添加することによって、熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。液状エポキシ樹脂よりも溶剤の方が金属粉末の表面の濡れ性を一層向上させることができ、これによってフラックス成分の馴染みがさらに良くなるので、上記のように、最初に、金属粉末、フラックス成分、溶剤の3成分を混合・混練しておくと、金属粉末及びフラックス成分によるキレートをさらに効率よく形成することができるものである。
【0115】
これらの製造方法を使用すると、次のような効果が得られる熱硬化性樹脂組成物を得ることができるものである。すなわち、フラックス成分が金属粉末の表面でキレートとして吸着され、金属粉末が溶融する温度でフラックス成分のカルボキシル基が金属酸化被膜と還元反応を起こすことにより、金属粉末の一体化を助け、かつ、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる熱硬化性樹脂バインダー中において有効に作用しないフラックス成分の濃度を減少させ、一体化した金属粉末の周囲に熱硬化性樹脂バインダーの硬化物からなる強固な樹脂層を形成することができるものである。
【0116】
次に、上記の熱硬化性樹脂組成物を用いて部品を基板に接着した回路基板について説明する。
【0117】
図1は、上記のようにして得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて、部品3を基板4に接着することによって回路基板を形成する様子の一例を示している。図示のような回路基板は、例えば、部品3として表面実装用のチップ部品を用いると共に、基板4としてFR−4等のプリント配線板を用いる場合において、プリント配線板に設けたパッド5とチップ部品の端子6との間に上記の熱硬化性樹脂組成物を介在させて導通接続を行うことによって、チップ部品をプリント配線板に実装して形成することができる。
【0118】
回路基板を形成するにあたっては、まず、図1(a)に示すように、熱硬化性樹脂組成物を各パッド5に個別に塗布して部品3を載せる。次いで、熱硬化性樹脂組成物によって部品3が載った回路基板を、例えば150℃で加熱する。すると、最初に熱硬化性樹脂組成物中の金属粉末1が、金属同士で溶融し一体化して接続部7を形成すると共に、パッド5及び端子6とも溶融接合する。その後、熱硬化性樹脂バインダー2が硬化し樹脂層8を形成する。そのような工程で、硬化した熱硬化性樹脂組成物内部に均一に分布した状態で溶融した金属が接続層7を形成し、熱硬化性樹脂バインダー2と溶融金属との複合体10が形成されることにより、図1(b)に示すような回路基板が完成する。
【0119】
一方、図2に従来の回路基板を示す。すなわち、図2(a)に示す回路基板は、熱硬化性樹脂バインダーを用いずにSn42/Bi58合金(融点139℃)等の金属粉末1、すなわちはんだを用いて、部品3を基板4に接着したものである。また、図2(b)に示す回路基板は、上記構造式(1)と(2)で示されるフラックス成分をいずれも用いずにSn42/Bi58合金(融点139℃)等の金属粉末1及び熱硬化性樹脂バインダー2を用いて、部品3を基板4に接着したものである。
【0120】
図2(a)に示す回路基板においては、熱硬化性樹脂バインダー2が用いられていないので、金属粉末1による接続部7だけで部品3を基板4に固定することとなり、融点以上の温度で部品3が基板4から欠落したり、温度サイクルや衝撃により接続部7にクラックが発生しやすい。また、接続部7の金属粉末1が再溶融する場合には、基板4に対して部品3の位置がずれるおそれもある。これに対して、図1に示す回路基板においては、金属粉末1による接続部7の周囲に熱硬化性樹脂バインダー2による強固な樹脂層8が形成されているので、部品3が基板4から欠落することがない上に、温度サイクルや衝撃により接続部7にクラックが発生することもない。また、接続部7の金属粉末1が再溶融しても、その周囲の樹脂層8は再溶融しないので、基板4に対して部品3の位置がずれることもない。
【0121】
図2(b)に示す回路基板においては、熱硬化性樹脂バインダー2は用いられているものの、効果的なフラックス成分が用いられていないので、金属粉末1を構成する各金属粉末表面の酸化被膜を十分に除去することができず、金属粉末1の溶融一体化が阻害され、部品3と基板4との間の接続抵抗が増大する。これに対して、図1に示す回路基板においては、上記構造式(1)と(2)で示されるフラックス成分の少なくとも一方が用いられているので、金属粉末1を構成する各金属粉末表面の酸化被膜を十分に除去することができ、金属粉末1の溶融一体化が促進され、部品3と基板4との間の接続抵抗を著しく低下させることができる。
【0122】
そして、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物にあっては、上記のような複合金属粉末が用いられているので、高温に耐えられない部品を基板に実装するにあたって、150℃以下の低温でも金属溶融接合が可能で、かつ、金属と熱硬化性樹脂の両方で部品を接続するため、高い接着強度を得ることができる。また、150℃以下の温度で金属が溶融した後は、通常のはんだのような再溶融や液状化に起因するフラッシュ・ショートを起こり難くすることができる。また、さらに、第一複合金属粉末と第二複合金属粉末の両方が用いられることにより、熱時の密着力を高く保つことができる。そして、はんだ粉末が用いられることにより、熱硬化性樹脂組成物の電極界面での濡れ性を向上させ、大電流特性や熱伝導性を向上させることができるものである。
【実施例】
【0123】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0124】
(実施例1)
[熱硬化性樹脂組成物]
第一複合金属粉末として、Agを10質量%、Biを20質量%、Cuを15質量%、Inを20質量%、Snを35質量%含有する第1金属粒子と、Agを32質量%、Biを5質量%、Cuを10質量%、Inを5質量%、Snを48質量%含有する第2金属粒子とを含んでいる金属粉末(以下、金属粉末A)を用いた。第1金属粒子及び第2金属粒子の混合比は、第1金属粒子100質量部に対し、第2金属粒子103質量部である。また、金属粉末Aは、150℃以下の温度で金属間化合物を形成する特性を有する。また、この金属粉末Aの平均粒径(すなわち第1金属粒子と第2金属粒子の混合物の平均粒径)は7μmであり、最低溶融温度は65℃であり、他に195℃に溶融に伴う吸熱ピークが見られる。
【0125】
第二複合金属粉末として、Agを10質量%、Biを5質量%、Cuを65質量%、Inを5質量%、Snを15質量%含有する第3金属粒子と、Snからなる第4金属粒子とを含んでいる金属粉末(以下、金属粉末B)を用いた。第3金属粒子及び第4金属粒子の混合比は、第3金属粒子100質量部に対し、第4金属粒子186質量部である。また、金属粉末Bは、220℃以下の温度で金属間化合物を形成する特性を有する。また、この金属粉末Bの平均粒径(すなわち第3金属粒子と第4金属粒子の混合物の平均粒径)は5μmであり、最低溶融温度は232℃である。
【0126】
金属粉末AとBの配合比率は、質量比でA/B=7/3とした。
【0127】
また、フラックス成分として、レブリン酸を用いた。
【0128】
また、熱硬化性樹脂バインダーとして、液状エポキシ樹脂である東都化成(株)製「YD128」及び硬化剤である味の素ファインテクノ(株)製「アミキュアPN−23」を用いた。
【0129】
そして、前記金属粉末(85質量部)、フラックス成分(3質量部)、液状エポキシ樹脂(10質量部)、硬化剤(2質量部)をディスパーを用いて均一に混合・混練することによって、ペースト状の熱硬化性樹脂組成物を製造した。
【0130】
[回路基板]
FR−4基板上に通常の方法でAuメッキにて2個の独立した電極パッドを形成した。この電極パッドは、1608型チップ抵抗の電極部と同じサイズとなるように形成した。次にメタルマスクを用いて、FR−4基板の電極パッドに熱硬化性樹脂組成物をスクリーン印刷で供給した。電極パッドに供給された熱硬化性樹脂組成物の厚みは約70μmであった。この熱硬化性樹脂組成物が塗布されたFR−4基板を次の各試験に用いた。
【0131】
[試験1]
部品として0Ωの1608型チップ抵抗(錫電極)を用い、このチップ抵抗をFR−4基板の電極パッドに載せた後、150℃のオーブンに入れて60分間加熱処理して回路基板を形成した。
【0132】
その後、オーブンから回路基板を取り出し、4端子法にてチップ抵抗の抵抗値(チップ部品抵抗値:室温)を測定した。
【0133】
また、ボンドテスターを用いて、FR−4基板とチップ抵抗との間の剪断シェア強度(チップ部品シェア強度)を測定した。その際、測定の温度は、室温(20℃)と熱時100℃にて行った。
【0134】
[試験2]
上記と同様の方法で、10Ωの1608型チップ抵抗を実装して形成した回路基板をトランスファーモールド金型に設置し、半導体封止用のエポキシ樹脂系トランスファーモールド封止材(パナソニック電工(株)製「CV8710」)にて、オーバーモールドを行って、オーバーモールド回路部品を形成した。さらにアフターベークして、このオーバーモールド回路部品のトランスファーモールド封止材を完全硬化させた。そしてこの直後、10Ωのチップ抵抗の抵抗値を測定すると共に、軟X線透過装置にて熱硬化性樹脂組成物部分の金属の溶け出しの有無(モールドパッケージ(PKG)でのフラッシュ有無:初期)を観察して確認した。
【0135】
その後、このオーバーモールド回路部品をピーク温度260℃のリフロー炉に20回通した。そしてこの直後、上記と同様に10Ωのチップ抵抗の抵抗値を測定すると共に、軟X線透過装置にて熱硬化性樹脂組成物部分の金属の溶け出しの有無(モールドパッケージでのフラッシュ有無:リフロー20回後)を観察して確認した。
【0136】
なお、「モールドパッケージでの短絡の有無」については、リフロー20回後に金属の溶け出し(フラッシュ)でチップ抵抗の両電極間がつながって、10Ωのチップ抵抗の抵抗値が5Ω以下に下がった場合を短絡有り、それ以外の場合を短絡無しと判定した。
【0137】
[試験3]
熱硬化性樹脂組成物が塗布されたFR−4基板を150℃のオーブンに入れて60分間加熱処理した後、その硬化物の断面を埋め込み・研磨して、金属の溶け具合を観察した。Au電極と、ペーストの溶融金属との境界でのペーストの溶融金属の濡れ性(電極界面の濡れ性)について、
◎ 80〜100%で、溶融金属が覆っている
○ 50〜80%未満で、溶融金属が覆っている
△ 20〜50%未満で、溶融金属が覆っている
× 0〜20%未満で、溶融金属が覆っている
の基準にて判定した。なお上記%は面積率である。
【0138】
(実施例2〜14、18〜20)
フラックス成分として、[表1][表2]に示すものを用いるようにした以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。
【0139】
(実施例15)
熱硬化性樹脂バインダーとして、液状エポキシ樹脂及び硬化剤の代わりに、シアン酸エステル樹脂であるLonza製「L−10」(10質量部)及びFeアセチルアセトナート(0.1質量部)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。
【0140】
(実施例16、17)
フラックス成分として、[表2]に示すように、2種類のものを用いるようにした以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。
【0141】
(実施例21〜24)
[表3]に示すように、金属として、はんだ金属を用いるようにし、[表3]に示す活性剤を用いた点以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。ただし、実施例23及び24については、接合にあたって、はんだの融点以上に加熱する必要があるため、240℃5分の加熱処理を行った。
【0142】
(比較例1)
フラックス成分として、アビエチン酸(3質量部)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。
【0143】
(比較例2)
フラックス成分として、セバシン酸(3質量部)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。
【0144】
(比較例3)
金属粉末として、金属粉末Aのみを用いるようにした以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。
【0145】
(比較例4)
金属粉末として、金属粉末Bのみを用いるようにした以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物及び回路基板を製造し、その性能を評価した。
【0146】
以上の結果を下記[表1]〜[表3]に示す。
【0147】
表より、比較例1、2は抵抗値が高い、比較例3は高温でのシェア強度が低い、比較例4は抵抗値が比較的高いと共に濡れ性があまり良くない、ということが分かる。一方、各実施例は、抵抗値、シェア強度、濡れ性、フラッシュ有無の各項目で良好な結果が得られた。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【符号の説明】
【0151】
1 金属粉末
2 熱硬化性樹脂バインダー
3 部品
4 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂バインダー、金属粉末、フラックス成分を含有する熱硬化性樹脂組成物において、金属粉末が第一複合金属粉末と第二複合金属粉末とを含み、
第一複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを15〜25質量%、Cuを10〜20質量%、Inを15〜25質量%、Snを15〜55質量%含有する第1金属粒子と、Agを25〜40質量%、Biを2〜8質量%、Cuを5〜15質量%、Inを2〜8質量%、Snを29〜66質量%含有する第2金属粒子とを含み、第1金属粒子及び第2金属粒子の混合比が、第1金属粒子100質量部に対し、第2金属粒子90〜110質量部であり、150℃以下の温度で第1金属粒子及び第2金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられており、
第二複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを2〜8質量%、Cuを49〜81質量%、Inを2〜8質量%、Snを10〜20質量%含有する第3金属粒子と、Snからなる第4金属粒子とを含み、第3金属粒子及び第4金属粒子の混合比が、第3金属粒子100質量部に対し、第4金属粒子175〜195質量部であり、220℃以下の温度で第3金属粒子及び第4金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられており、
フラックス成分として、下記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方が用いられていることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R〜Rは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。Xは、金属が配位可能な孤立電子対または二重結合性π電子を有する有機基を示す。Yは、構造式(1)又は構造式(2)における主鎖骨格を形成する原子または原子団を示す。)
【請求項2】
第一複合金属粉末と第二複合金属粉末との配合比率が、
〔第一複合金属粉末〕/〔第二複合金属粉末〕=9/1〜1/9
であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
第1金属粒子、第2金属粒子、第3金属粒子及び第4金属粒子の平均粒径が、0.5〜30μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
熱硬化性樹脂バインダー、金属粉末、フラックス成分を含有する熱硬化性樹脂組成物において、金属粉末が、第一複合金属粉末及び第二複合金属粉末の少なくとも一方とはんだ粉末とを含み、
第一複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを15〜25質量%、Cuを10〜20質量%、Inを15〜25質量%、Snを15〜55質量%含有する第1金属粒子と、Agを25〜40質量%、Biを2〜8質量%、Cuを5〜15質量%、Inを2〜8質量%、Snを29〜66質量%含有する第2金属粒子とを含み、第1金属粒子及び第2金属粒子の混合比が、第1金属粒子100質量部に対し、第2金属粒子90〜110質量部であり、150℃以下の温度で第1金属粒子及び第2金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられており、
第二複合金属粉末として、Agを5〜15質量%、Biを2〜8質量%、Cuを49〜81質量%、Inを2〜8質量%、Snを10〜20質量%含有する第3金属粒子と、Snからなる第4金属粒子とを含み、第3金属粒子及び第4金属粒子の混合比が、第3金属粒子100質量部に対し、第4金属粒子175〜195質量部であり、220℃以下の温度で第3金属粒子及び第4金属粒子の一部又は全部が熱拡散により金属間化合物を形成する特性を有する複合金属粉末が用いられており、
フラックス成分として、下記構造式(1)と(2)で示される化合物の少なくとも一方が用いられていることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【化2】

(式中、R〜Rは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。Xは、金属が配位可能な孤立電子対または二重結合性π電子を有する有機基を示す。Yは、構造式(1)又は構造式(2)における主鎖骨格を形成する原子または原子団を示す。)
【請求項5】
はんだ粉末の含有量が、金属粉末全量に対して40質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
はんだ粉末が、Sn−Bi系はんだであることを特徴とする請求項4又は5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
はんだ粉末が、Sn−Ag−Cu系はんだであることを特徴とする請求項4又は5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
はんだ粉末が、Sn−In−Ag−Bi系はんだであることを特徴とする請求項4又は5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
上記構造式(1)又は(2)中のXが、下記構造式(3)〜(8)で示される有機基の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化3】

(式中、Rは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。)
【請求項10】
上記構造式(1)又は(2)中のYが、下記構造式(9)〜(12)で示される原子又は原子団の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化4】

(式中、R及びRは、水素、又はアルキル基、又は水酸基を示す。)
【請求項11】
上記構造式(1)又は(2)で示される化合物が、レブリン酸、グルタル酸、コハク酸、リンゴ酸、5−ケトヘキサン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−アミノ酪酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトイソブチル酸、3−メチルチオプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、3−フェニルイソブチル酸、4−フェニル酪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
上記構造式(1)又は(2)で示される化合物が、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、ジチオジグリコール酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
熱硬化性樹脂バインダーとして、エポキシ樹脂が用いられていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
熱硬化性樹脂バインダーに対して、フラックス成分が3〜50PHR含有されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
熱硬化性樹脂組成物全量に対して、熱硬化性樹脂バインダー及びフラックス成分の合計量が5〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を用いて、部品が基板に接着されていることを特徴とする回路基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−285580(P2010−285580A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142443(P2009−142443)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】