説明

熱硬化性樹脂組成物

【課題】低温で短時間の熱処理を行うことによって、従来のポリイミド樹脂の優れた物性を損なうことなく、加工性を大幅に改良した熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1):


(式中Arは4価の有機基、Rは2価の有機基を表し、nは1〜5である)で示されるイミドオリゴマーとエチニルフタル酸誘導体とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カプトン(登録商標)に代表されるポリイミドは、一般に、耐熱性、機械特性、電気特性に優れるため、電気電子分野だけでなく、医療、航空宇宙材料、構造材料など様々な分野で広範に使用されている。しかしながら、これらのポリイミドは、不溶・不融の性質のため、成形性が良いとは言い難いものであった。これらのポリイミドに成形性を付与するため、低分子量化させるとともに架橋基を導入した様々な種類の熱硬化性イミド樹脂が開発されている。
【0003】
例えば、アセチレン基末端型ポリイミドとして、優れた耐熱性、耐酸化性を有する「Thermid」があるが、エチニル基だけでなく主鎖中のカルボニル基も熱によって架橋するため、これの硬化を完了させるためには300℃以上の高温で、10時間以上に及ぶ長時間の熱処理が必要となる(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0004】
さらに、分子末端にフェニルエチニル基を導入して加工性を向上させた「PETI(登録商標)−5」があるが、架橋性の基がフェニルエチニル基であるため、これの硬化を完了させるためには370℃以上の熱処理が必要となる(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
他にも、ナジイミド環を導入し優れた耐熱性を有する「PMR」があるが、ナジイミド環の開環架橋反応には350℃以上の高温が必要である。また、「PMR」は、溶解性向上を目的として、組成物の全成分にモノマーを使用しているため、その硬化時に水、アルコールが大量に副生し、フィルム等の形成の際には、ボイドやクラックが生じるという問題点があった(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
一方で、前述した硬化温度の高さ及び熱処理時間の長さを改善した、アセチレン基末端型ポリイミドが本出願人により提供されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−118329号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/044382号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】繊維学会誌 Vol.50,No.3,106(1994)
【非特許文献2】J.Composite Mater. 30,109(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように「Thermid」や「PETI(登録商標)−5」は熱硬化反応を完了させるのに300℃以上の高温でかつ長時間にわたって熱処理を行わなければならないので、設備面や生産性において問題となっている。また、低分子量化された「PMR」においては、硬化時に大量の揮発分を発生するため、硬化物が極めて脆く、ガラスファイバーやカーボンファイバーとの複合材料や、接着剤といった限られた用途にしか用いることができない問題点があった。さらに、特許文献2記載の従来のアセチレン基末端型ポリイミドでは、硬化前の樹脂組成物のガラス転移温度が、アセチレン基の架橋開始温度と同等またはそれ以上であるため、加工温度の範囲が制限され、特に溶融した際の粘度(最低溶融粘度)も高いため、加工性に劣るという問題があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、熱硬化性樹脂組成物を低温で短時間の熱処理を行うことによって、従来のポリイミド樹脂の優れた物性を損なうことなく、加工性を大幅に改良した熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため研究を重ねた結果、本発明者らは一般式(1)で示されるイミドオリゴマーと式(2)または一般式(3)で示されるエチニルフタル酸誘導体を含む熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、従来では成し得なかった低温加工性と優れた硬化物の物性とを併せて持つ熱硬化性樹脂を提供できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]一般式(1):
【化1】


(式中Arは4価の有機基、Rは2価の有機基を表し、nは1〜5である)
で表わされるイミドオリゴマーと、
下記式(2)及び/または下記一般式(3):
【化2】


(式中、R及びRはそれぞれ独立して、同一であっても、異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。)
で示されるエチニルフタル酸誘導体とを含む熱硬化性樹脂組成物。
【0013】
[2]前記一般式(1)中のArが、下記一般式群(I):
【化3】


(ここでXはそれぞれ独立して、同一であっても、異なってもよく、−O−、−C(CH−及び−C(CF−からなる群から選択される2価の基を示す)
のいずれかで示される4価の有機基を含むことを特徴とする[1]記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0014】
[3]前記一般式(1)中のRが、下記一般式群(II):
【化4】


(ここでYはそれぞれ独立して、同一であっても、異なってもよく、−O−、−SO−、−C(CH−及び−C(CF−からなる群から選択される2価の基を示す)
のいずれかで示される2価の有機基を含むことを特徴とする[1]または[2]記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0015】
[4]前記エチニルフタル酸誘導体の含有量が、前記イミドオリゴマーに対して100〜400モル%であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0016】
[5]0.1〜20MPaの圧力下、200〜250℃で30分の熱プレスにより得られる硬化物フィルムのガラス転移温度が250℃以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0017】
[6]前記熱硬化性樹脂組成物が粉末状であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0018】
[7]前記熱硬化性樹脂組成物が溶液状であることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、低温かつ短時間の熱処理で硬化することができ、また加熱溶融時に溶融粘度を下げることができるため加工面で非常に有用である。さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、硬化時の揮発成分の量が抑制できるため、硬化後の機械物性にも優れ、電子材料分野をはじめとした様々な分野への利用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1):
【化5】


(式中Arは4価の有機基、Rは2価の有機基を表し、nは1〜5である)
で示されるイミドオリゴマーと下記式(2)及び/または下記一般式(3):
【化6】


(式中、R及びRはそれぞれ独立して、同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。)
で示されるエチニルフタル酸誘導体とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0021】
本発明における式(1)のイミドオリゴマーは、対応するアミド酸オリゴマーをイミド化することによって製造することができる。アミド酸オリゴマーは、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを公知の方法で重合することによって製造することができる。通常、重合反応は、溶媒中、0〜100℃、好ましくは10〜50℃の温度で、10分〜24時間、好ましくは30分〜12時間の時間で行われる。重合反応における溶質濃度は、5〜80質量%であり、10〜50%質量であることが好ましい。
【0022】
アミド酸オリゴマーの製造に用いることができる溶媒としては、反応に不活性な溶媒なら特に限定されない。溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチル尿素などのアミド系溶媒、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトンなどのエステル系溶媒、ジグライム、トリグライム、アニソール、エトキシベンゼン、テトラヒドロフランなどエーテル系溶媒を、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。前記溶媒に、さらに、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒を任意の割合で混合することもできる。これらの溶媒は、本発明の熱硬化性樹脂を溶液とする場合にも利用できる。
【0023】
本発明におけるアミド酸オリゴマーの製造に用いられるテトラカルボン酸二無水物は、下記一般式(5):
【化7】


(式中Arは4価の有機基である)
で示される化合物である。一般式(5)中のArは、加工性を考慮すると、下記一般式群(I):
【化8】


(式中、Xはそれぞれ独立して、同一であっても、異なってもよく、−O−、−C(CH−及び−C(CF−からなる群から選択される2価の基を示す。)
から選択される二〜四環式の4価の有機基であることが特に好ましい。アミド酸オリゴマーの製造に用いられるテトラカルボン酸二無水物は、Arが一般式群(I)のいずれかで示されるテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。Arが一般式群(I)のいずれかで示されるテトラカルボン酸二無水物の量は、使用する全テトラカルボン酸二無水物のうち50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましい。
【0024】
Arが一般式群(I)のいずれかで示されるテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’−オキシジフタル酸二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。これらは単独でも2種類以上組み合わせても使用することができる。中でも、3,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物が好ましい。
【0025】
一般式(5)で示されるテトラカルボン酸二無水物としては、前記のArが一般式群(I)のいずれかで示されるテトラカルボン酸二無水物の他に、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などの、一般にポリイミドの原料として用いられるテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【0026】
本発明におけるアミド酸オリゴマーの製造に用いられるジアミン化合物は、下記一般式(6):
【化9】


(式中Rは2価の有機基である)
で示される化合物である。加工性を考慮して、一般式(6)中のRは、下記一般式群(II):
【化10】


(式中Yはそれぞれ独立して、同一であっても、異なってもよく、−O−、−SO−、−C(CH−及び−C(CF−からなる群から選択される2価の基を示す。)
から選択される二〜四環式の2価の有機基であることが特に好ましい。アミド酸オリゴマーの製造に用いられるジアミン化合物は、Rが一般式群(II)のいずれかで示されるジアミン化合物を含むことが好ましい。Rが一般式群(II)のいずれかで示されるジアミン化合物の量は、使用する全ジアミン化合物のうち50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましい。
【0027】
が一般式群(II)のいずれかで示されるジアミン化合物の具体例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテルなどが挙げられる。これらは単独でも2種類以上組み合わせても使用することができる。中でも、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0028】
一般式(6)で示されるジアミン化合物としては、前記のRが一般式群(II)のいずれかで示されるジアミン化合物以外の芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、シロキサンジアミンなども挙げられる。芳香族ジアミンの例としては、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ビフェニルや2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンなどポリイミド合成に一般的なジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンの例としては、ポリオキシアルキレンジアミン等が挙げられる。脂環族のジアミンとしては、主骨格にシクロヘキサン環等を含むジアミン等が挙げられる。
本発明における式(1)のイミドオリゴマーにおいては、Arの50モル%以上が一般式群(I)のいずれかで示される基であり、かつ、Rの50モル%以上が一般式群(II)のいずれかで示される基であることが好ましく;Arの70モル%以上が一般式群(I)のいずれかで示される基であり、かつ、Rの50モル%以上が一般式群(II)のいずれかで示される基であること、又は、Arの50モル%以上が一般式群(I)のいずれかで示される基であり、かつ、Rの70モル%以上が一般式群(II)のいずれかで示される基ことがより好ましく;Arの70モル%以上が一般式群(I)のいずれかで示される基であり、かつ、Rの70モル%以上が一般式群(II)のいずれかで示される基であることが特に好ましい。
【0029】
一般式(1)のイミドオリゴマーの製造に用いるジアミン化合物の使用量は、使用するテトラカルボン酸二無水物100モル%に対して120〜200モル%であることが好ましい。この範囲より少ないと、硬化後の耐熱性が低下したり、成型が困難になる場合があるため好ましくない。
【0030】
アミド酸オリゴマーをイミド化する方法は、通常、熱的に脱水する熱的方法などがある。化学的方法も公知ではあるが、一般的に脱水剤として用いられる無水酢酸、無水プロピオン酸などの酸無水物がイミドオリゴマー分子の末端のアミノ基と反応してしまう恐れがあるため、化学的方法は本発明においては適さない。熱的方法においては、前駆体のアミド酸オリゴマー溶液を150〜250℃程度の高温で加熱環流する。この際、イミド化反応によって生じた水は閉環反応を妨害するため、水と相溶しないトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒を系中に加えて共沸させてディーンスターク管などの装置を用いて系外に排出することができる。
【0031】
以上のようにして、得られたイミドオリゴマーの溶液は、そのまま溶液として本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いることができる。あるいは、イミドオリゴマーの溶液を大量の水中又はメタノール、エタノールなどの低級アルコール中に攪拌しながら投入することでイミドオリゴマーの結晶を析出させ、濾過によって結晶を単離した後、60〜150℃程度で乾燥させることで得られる粉末状のイミドオリゴマーを本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いることもできる。
【0032】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、式(2)及び/または一般式(3)で示されるエチニルフタル酸誘導体を含む。すなわち、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、式(2)で示される化合物及び一般式(3)で示される化合物から選択された1種以上のエチニルフタル酸誘導体を含む。
本発明における式(2)で示される化合物は、試薬(東京化成工業製:4−エチニルフタル酸無水物)として入手ことができる。また、工業的には、公知の方法(J.Org.Chem. 48,5135(1983))を参考にして製造することができる。
【0033】
また、本発明における一般式(3)のR及びRが共に水素であるジカルボン酸体は、式(2)で示される化合物を、酢酸などの有機酸と水との酸性水溶液中で、加水分解させることで得ることができる。
【0034】
一般式(3)で示される化合物がハーフエステル体の場合、式(2)の化合物を炭素数1〜6のアルコール中で加熱反応させることで得ることができる。
【0035】
一般式(3)で示される化合物がジエステル体の場合、オートクレーブ中で、式(2)の化合物と炭素数1〜6のアルコールとを硫酸、トルエンスルホン酸などの強酸の存在下で反応させることで得ることができる。一般式(3)の化合物としては、反応性の良好なジカルボン酸体やハーフエステル体の使用が好ましい。
【0036】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物について説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記のようにして製造した一般式(1)のイミドオリゴマーと、式(2)及び/または一般式(3)で示されるエチニルフタル酸誘導体とを混合することにより得られる。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、粉末状または溶液状で提供することが可能である。ここで、粉末状とは粉粒体状のほか、スラリー状、ペースト状などの状態を含み、溶液状とは、各種溶媒に均一に溶解した状態のことを指す。
【0037】
式(2)及び/または一般式(3)のエチニルフタル酸誘導体は、一般式(1)のイミドオリゴマーの理論分子量100モル%に対して100〜400モル%、好ましくは150〜250モル%の割合で混合することができる。一般式(1)のイミドオリゴマーの理論分子量は、以下の式より算出することができる。
【0038】
理論分子量=n×テトラカルボン酸二無水物の分子量
+(n+1)×ジアミン化合物の分子量
−2×n×水の分子量
ここで、nは理論重合度を示し、1〜5である。具体的には、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の使用量から、以下の式より算出することができる。テトラカルボン酸二無水物の使用量(mol)/ジアミン化合物の使用量(mol)=n/(n+1)
【0039】
一般式(1)のイミドオリゴマーと式(2)及び/または一般式(3)のエチニルフタル酸誘導体との混合方法は、公知の方法であれば特に限定されない。例えば、粉粒体同士を混合する場合には、一般的な混合機や混練機を用いる方法が挙げられる。具体的には、容器回転型(V型混合機、二重円錐型混合機、湿式混練ミル、ミキサーなど)、機械撹拌型(単軸リボン型混合機、複軸パドル型混合機など)、流動撹拌型(気流撹拌型混合機など)、固定容器型(ニーダ、ミルなど)、ロール型(ロールミルなど)などの装置を用いる混合方法が挙げられる。
【0040】
より均一に混合する目的で、混合中に溶媒を加え、または得られた混合物に溶媒を加えて、スラリー状またはペースト状として本発明の熱硬化性樹脂を得てもよい。使用する溶媒は、一般式(1)のイミドオリゴマーと式(2)及び/または一般式(3)のエチニルフタル酸誘導体とが反応しない溶媒であれば特に限定されない。溶媒としては、水、アルコール類、グリコール類が好ましい。溶媒として、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ポリエチレングリコールなどのグリコール類が挙げられる。ハンドリングの観点から、溶媒として、低沸点のメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールまたはこれらの水溶液の使用が好ましい。
【0041】
また、溶液として混合する場合は、一般式(1)のイミドオリゴマーと式(2)及び/または一般式(3)のエチニルフタル酸誘導体を良溶媒に溶解し、撹拌することで均一な溶液として得ることができる。一般式(1)のイミドオリゴマーと式(2)のエチニルフタル酸が溶媒中で反応することを考慮すると、溶液として混合する場合は、一般式(1)のイミドオリゴマーと一般式(3)のエチニルフタル酸誘導体を使用することが好ましい。使用する良溶媒は、特に限定されないが、前述のアミド酸オリゴマー製造時に使用した溶媒を利用することができる。
【0042】
得られた熱硬化性樹脂の溶液は、そのまま溶液状(ワニス)として用いてもよいし、一般的な方法により結晶を単離して粉体状として用いてもよい。
【0043】
溶液状(ワニス)、スラリー状、ペースト状の本発明の熱硬化性樹脂組成物は、これを基材上に塗布、加熱乾燥することで容易にフィルム化することができる。
【0044】
粉粒体状の本発明の熱硬化性樹脂組成物は、これを型に入れ加熱し、軟化(溶融)させた後、プレスすることで硬化物フィルムとすることができる。ここで、加熱は、100℃〜300℃で行うが、処理時間の全体にわたって一定の温度であってもよく、徐々に昇温させながら行うこともできる。軟化した熱硬化性樹脂組成物をプレスする時の温度は130℃〜300℃が好ましい。さらに好ましくは200℃〜260℃である。プレスの際の加熱時間は5〜60分間が好ましい、さらに好ましくは5〜30分間である。またプレス時の圧力は特に限定はないが、型への負荷が小さい20MPa以下が好ましい。
【0045】
前記プレスの前に、前処理として脱気工程を設けることが好ましい。この工程を設けることにより、空気や微量に発生する揮発分を除くことができ、発泡や膨れのないフィルムを作成することができる。脱気工程は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を型に入れた後、130℃〜180℃の温度範囲で1分〜30分間加熱することにより行われる。脱気を促進するために、圧力を加えてもよい。この時の圧力は特に限定されないが、型への負荷が小さい20MPa以下が好ましい。
【0046】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は耐熱性、機械特性が良好なため、耐熱接着剤、炭素、ガラス繊維との複合材料のバインダーや接着材料として用いることができるほか、プリント配線板、半導体封止材、半導体搭載用モジュール、その他各種の電子部品の組み立て周辺部材として用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例をもって説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例、比較例及び試験例において、得られたものの評価方法を以下に示す。
【0048】
(1)ガラス転移温度(Tg)及び末端アセチレン基の架橋開始温度
示差走査熱量計(島津製作所製:DSC−60)を用い、窒素雰囲気下で20℃/分の昇温の条件で測定を行った。解析ソフトによりDSC曲線の外挿点からガラス転移温度(Tg)を算出した。また、DSC曲線の約180〜220℃における発熱挙動の低温側の直線部分と高温側の直線部分とをそれぞれ補外した交点より末端アセチレン基の架橋開始温度を算出した。
【0049】
(2)引張試験
島津製作所製オートグラフAGS−Jを用い、室温にて、引張速度1cm/分で行い、引張弾性率、破断強度、破断伸びを解析ソフトにて算出した。試験片形状は、測定長10cm、幅1cmのフィルムとした。
【0050】
(3)溶融粘度
粉末状の試料を圧力20MPaで5分間圧縮成型し、直径15mm、厚さ1.2mmのペレット作成した。得られたペレットを測定試料とし、TA Instruments製AR−2000を用い、以下の条件で測定した。
測定温度:100〜300℃
昇温速度:4℃/min
測定周波数:100rad/sec
法線応力:1.0N
ジオメトリー:直径15mmパラレルプレート
【0051】
<4−エチニルフタル酸の合成>
【0052】
[合成例1]
温度計、冷却器、撹拌機を備えた四つ口フラスコに4−エチニルフタル酸無水物(東京化成工業(株)製)17.21g(0.1mol)、水75ml、アセトニトリル50ml、酢酸2.5gを投入し、60℃で1晩撹拌した。得られた溶液をフッ素コーティングされたステンレスバットに取り出し、60℃で8時間減圧乾燥させ、固体の4−エチニルフタル酸18.94g(0.996mol)を得た。
【0053】
<本発明の熱硬化性樹脂組成物の合成>
[実施例1]
窒素ガス導入管、温度計、冷却器、撹拌機、ディーンスターク管を備えた四つ口フラスコにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)74.1g、および2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)12.3152g(30mmol)を投入し、次いで3,4’−オキシジフタル酸二無水物(3,4’−ODPA)6.2043g(20mmol)を添加し室温で3時間撹拌した。その後キシレンを15g投入し、キシレン還流温度まで徐々に昇温させ、イミド化脱水反応により生成する水を系外に除去しながら、210℃にて5時間撹拌した。得られたイミドオリゴマー溶液を室温まで冷却し、メタノール300ml中に投入しイミドオリゴマー懸濁液を得た。この懸濁液を濾過して結晶を得、これをメタノールで洗浄した。濾過およびメタノール洗浄を2回繰り返して結晶を得、これを150℃で5時間乾燥させ、黄色の粉末状イミドオリゴマーを得た。(理論分子量:1779.95)
得られた粉末状イミドオリゴマー8.90g(5mmol)に合成例1で得られた4−エチニルフタル酸のメタノール溶液(溶質:1.90g(10mmol)、濃度10質量%)を加え乳鉢を用いて混合し、40℃で1時間乾燥させ粉末状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0054】
[実施例2]
ジアミンを1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)8.7699g(30mmol)に変更し、NMPの使用量を59.9gに変更した以外は実施例1と同様の方法で粉末状のイミドオリゴマーを得た。(理論分子量:1425.52)
得られた粉末状イミドオリゴマー7.13g(5mmol)に合成例1で得られた4−エチニルフタル酸のメタノール溶液(溶質:1.90g(10mmol)、濃度10質量%)を加え乳鉢を用いて混合し、40℃で1時間乾燥させ粉末状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0055】
[実施例3]
テトラカルボン酸二無水物を2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6−FDA)8.8848g(20mmol)に変更し、NMPの使用量を84.8gに変更した以外は実施例1と同様の方法で粉末状のイミドオリゴマーを得た。(理論分子量:2048.00)
得られた粉末状イミドオリゴマー10.24g(5mmol)に合成例1で得られた4−エチニルフタル酸のメタノール溶液(溶質:1.90g(10mmol)、濃度10質量%)を加え乳鉢を用いて混合し、40℃で1時間乾燥させ粉末状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0056】
[実施例4]
テトラカルボン酸二無水物を6−FDA8.8848g(20mmol)に変更し、ジアミンをTPE−R8.7699g(30mmol)に変更し、NMPの使用量を70.6gに変更した以外は実施例1と同様の方法で粉末状のイミドオリゴマーを得た。(理論分子量:1693.47)
得られた粉末状イミドオリゴマー8.47g(5mmol)に合成例1で得られた4−エチニルフタル酸のメタノール溶液(溶質:1.90g(10mmol)、濃度10質量%)を加え乳鉢を用いて混合し、40℃で1時間乾燥させ粉末状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0057】
[実施例5]
テトラカルボン酸二無水物を2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)g(30mmol)に変更し、ジアミンを4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DPE)8.0095g(40mmol)に変更し、NMPの使用量を94.4gに変更した以外は実施例1と同様の方法で粉末状のイミドオリゴマーを得た。(理論分子量:2254.41)
得られた粉末状イミドオリゴマー11.27g(5mmol)に合成例1で得られた4−エチニルフタル酸のメタノール溶液(溶質:1.90g(10mmol)、濃度10質量%)を加え乳鉢を用いて混合し、40℃で1時間乾燥させ粉末状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0058】
[実施例6]
合成例1で得られた4−エチニルフタル酸を4−エチニルフタル酸無水物(東京化成工業(株)製)1.72g(10mmol)に変更した以外は実施例5と同様の方法で粉末状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0059】
<硬化物の機械特性評価>
[試験例1]
実施例1〜6で得られた熱硬化性樹脂組成物1gを、厚さ50μmのユーピレックスS(宇部興産製)で作成した型に入れ、熱プレス機(アズワン製:AH−2003)を用いて、180℃、2分(荷重1.5〜6.0MPa)の熱プレス(前処理)の後、250℃、30分(荷重6.0MPa)の熱プレス(本プレス)を行い硬化物フィルムを得た。得られたフィルムの機械特性を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
ポットにBAPP12.3152g(30mmol)、3,4’−ODPA6.2043g(20mmol)、4−エチニルフタル酸3.8030g(20mmol)、ジルコニアビーズ(直径2mm)を入れ、8時間ポットミル混合し、粉末状の低分子量の熱硬化性樹脂組成物を合成した。これを用いて試験例1と同様の方法で硬化物フィルムを得ようとしたところ、発泡が激しく、自立したフィルムは得られなかった(表1参照)。
【0061】
【表1】

【0062】
<硬化時間の評価>
[試験例2]
実施例5で得られた粉末状の熱硬化性樹脂組成物0.5gをアルミカップに入れ、加熱温度、加熱時間を変更して熱処理を行った。熱処理後のガラス転移温度(Tg)を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2から、実施例5で得られた粉末状の熱硬化性樹脂組成物は、250℃で熱処理を行った場合は1時間、350℃で熱処理を行った場合は10分で十分硬化が完了していることを確認した。
【0065】
<硬化前の熱硬化性樹脂組成物における加工温度の評価>
[試験例3]
実施例1〜6で得られた粉末状の熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度及び末端アセチレン基の架橋開始温度を測定した。結果を表3に示す。
【0066】
[比較例2]
国際公開WO2008/044382号パンフレット、合成例1と同様の方法で粉末状の樹脂組成物を合成した。すなわち、500mlのナス形フラスコに、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)15.6146g(30mmol)、4−エチニルフタル酸無水物3.4428g(20mmol)及びメタノール100mlを仕込み、80℃のオイルバス中で還流させながら3時間加熱撹拌を行い均一溶液とした;次に、この溶液を50℃まで冷却した後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル8.0094g、(40mmol)及びメタノール40mlを加えて均一溶液とした;この溶液をエバポレーターで濃縮し、さらに、160℃まで温度を上げ、1時間減圧、加熱を行い、固形物を得た;さらに、この固形物を乳鉢で粉砕した後、150℃で5時間乾燥し、熱硬化性のイミドオリゴマー粉末を得、これを樹脂組成物とした。この樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)及び末端アセチレン基の架橋開始温度を測定した。結果を表3に示す。
【0067】
[比較例3]
国際公開WO2008/044382号パンフレット、合成例2と同様の方法で粉末状の樹脂組成物を合成した。すなわち、500mlのナス形フラスコに、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物12.4386g(28mmol)、4−エチニルフタル酸無水物4.8198g(28mmol)及びメタノール100mlを仕込み、80℃のオイルバス中で還流させながら3時間加熱撹拌を行い均一溶液とした;次に、この溶液を50℃まで冷却した後、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル8.0094g(42mmol)、メタノール40mlを加えて均一溶液とした;この溶液をエバポレーターで濃縮し、さらに、150℃まで温度を上げ、1時間減圧、加熱を行い、固形物を得た;さらに、この固形物を乳鉢で粉砕した後、150℃で5時間乾燥し、熱硬化性のイミドオリゴマー粉末を得、これを樹脂組成物とした。この樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)及び末端アセチレン基の架橋開始温度を測定した。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
<溶融粘度の評価>
[試験例4]
実施例5及び比較例2で得られた樹脂組成物の溶融粘度を測定した。結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
以上のように、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いれば、硬化前のガラス転移温度(Tg)及び最低溶融粘度が低下するため、より低温での容易な加工が可能となり、かつ、ガラス転移温度(Tg)と末端アセチレン基の架橋開始温度の差が広がることにより、加工中に硬化する恐れも無くなる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の樹脂組成物によれば、硬化前において優れた低温加工性を有し、硬化後においては、従来のポリイミドと同等の物性を示すと共に、フィルム化した場合も十分な機械特性を有するため、電子材料分野をはじめとした様々な分野への利用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化11】


(式中Arは4価の有機基、Rは2価の有機基を表し、nは1〜5である)
で表わされるイミドオリゴマーと、
下記式(2)及び/または下記式(3):
【化12】


(式中、R及びRはそれぞれ独立して、同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。)
で示されるエチニルフタル酸誘導体とを含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)中のArが、下記一般式群(I):
【化13】


(ここでXはそれぞれ独立して、同一であっても、異なってもよく、−O−、−C(CH−及び−C(CF−からなる群から選択される2価の基を示す)
のいずれかで示される4価の有機基を含むことを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のRが、下記一般式群(II):
【化14】


(ここでYはそれぞれ独立して、同一であっても、異なってもよく、−O−、−SO−、−C(CH−及び−C(CF−からなる群から選択される2価の基を示す)
のいずれかで示される2価の有機基を含むことを特徴とする請求項1または2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチニルフタル酸誘導体の含有量が、前記イミドオリゴマーに対して100〜400モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
0.1〜20MPaの圧力下、200〜250℃で30分の熱プレスにより得られる硬化物フィルムのガラス転移温度が250℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂組成物が粉末状であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物が溶液状であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−231318(P2011−231318A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84983(P2011−84983)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】