説明

熱硬化性樹脂組成物

【課題】熱硬化性樹脂組成物を樹脂シート材料としてCFRP成形体の表面に設けた場合に、表面にクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れたCFRP成形体が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ系樹脂と、アクリル系樹脂と、シリカ微粒子と、硬化剤と、を少なくとも含んでなる熱硬化性樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子が、樹脂組成物に対して、20〜30重量%含まれてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂を主成分として含有する熱硬化性樹脂組成物に関し、さらに詳細には、繊維強化プラスチック等の表面保護層として好適な熱硬化性樹脂組成物およびその樹脂組成物を用いた樹脂シート、ならびに、プリプレグから繊維強化複合材を作製する際に、樹脂シートを用いて繊維強化複合材の表面に樹脂層を設けた繊維強化複合成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に炭素繊維等の強化用繊維材を混入させた繊維強化プラスチック(以下、FRPとも言う)は、軽量かつ高強度であることから、航空機、自動車、船舶等の分野をはじめ、建設産業等の広い分野で使用されている。このようなFRPは、繊維束からなる織布に樹脂を含浸させて硬化させたものや、同一方向に配列した繊維束からなる面材どうしを互いの繊維配列方向が異なるように積層したものに樹脂を含浸させて硬化させたものが知られている。
【0003】
近年、CO削減の観点から、自動車等の分野では車体の軽量化が望まれており、従来の鋼材に代えて、アルミやFRPを車体に使用することが進められている。FRPのなかでも、繊維として炭素繊維を使用したもの(以下、CFRPとも言う)は、より軽量で機械的強度にも優れるためCFRPを使用することが益々増えてきている。また、近年では、CFRPが自動車等の外装部材としても使用されるようになってきている。
【0004】
CFRP等の繊維強化複合材からなる面材を自動車等の外装部材として使用するに際しては、その表面側(即ち、視認される側)が高意匠性の外観を有する面材が使用されるのが一般的である。しかしながら、CFRPからなる面材は、上記したように、炭素繊維を経緯に織り込んだクロス材に熱硬化性樹脂を含浸させて所望の形状に成型(硬化)することにより製造させるため、得られた面材表面にクロス目が浮き出てしまったり、面材の表面の経糸と緯糸との交差部分に陥没孔が生じてしまい、CFRP部材の外観意匠性を損なう場合があった。
【0005】
そのため、CFRP面材を成型した後にその表面を塗装して外観意匠性を高めたり、成形時に金型に配置されたCFRPプリプレグの最表面に熱硬化性の樹脂シートを配置することが行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CFRP面材を成型した後にその表面に塗装を行うと工程が増えるためコストの上昇を招くことになる。これに対し、CFRPのプリプレグを硬化させて成形する際に、プリプレグの最表面に樹脂シートを配置しておく方法は、CFRP部材の成形と同時にその表面に保護層を形成できるため、複雑な工程を経ることなく外観意匠性を改善することができる。
【0007】
本発明者らは、今般、エポキシ系樹脂とアクリル系樹脂とを主成分として含む熱硬化性樹脂組成物を樹脂シート材料として使用する場合に、この樹脂組成物に特定量のシリカ粒子を添加することにより、表面にクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れたCFRP成形体が得られる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、熱硬化性樹脂組成物を樹脂シート材料としてCFRP成形体の表面に設けた場合に、表面にクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れたCFRP成形体が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供することである。
【0009】
また、本発明の別の目的は、上記の熱硬化性樹脂組成物を用いた樹脂シートおよび、その樹脂シートを用いた繊維強化複合成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ系樹脂と、アクリル系樹脂と、シリカ微粒子と、硬化剤と、を少なくとも含んでなる熱硬化性樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子が、樹脂組成物に対して、20〜30重量%含まれてなることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の態様によれば、前記エポキシ系樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の態様によれば、前記エポキシ系樹脂が、常温で液状のビスフェノール型エポキシ樹脂およびガラス転移温度が50〜70℃の範囲にある常温で固体のビスフェノール型エポキシ樹脂の2種のビスフェノール型エポキシ樹脂からなることが好ましい。
【0013】
また、本発明の態様によれば、前記シリカ微粒子の平均粒子径が、5〜30nmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様によれば、前記アクリル系樹脂が、メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−メチルメタクリレートの3元共重合体またはその変性物であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様によれば、前記エポキシ系樹脂と前記アクリル系樹脂との配合割合が、質量基準において、100:0.17〜100:2であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の態様によれば、前記室温で液状のビスフェノール型エポキシ樹脂と、前記室温で固体のビスフェノール型エポキシ樹脂とが、質量基準において、1:50〜10:50の割合で含まれていることが好ましい。
【0017】
また、本発明の態様によれば、前記エポキシ系樹脂が60〜77質量部、前記アクリル系樹脂が0.15〜1.5質量部、前記シリカ微粒子が20〜30質量部および、前記硬化剤が1〜3質量部、含まれてなることが好ましい。
【0018】
また、本発明の別の態様による樹脂シートは、第1離型紙と、樹脂層と、第2離型紙とを、この順で積層してなる樹脂シートであって、前記樹脂層が上記熱硬化性樹脂組成物を含んでなるものである。
【0019】
また、本発明の別の態様による繊維強化複合成形体の製造方法は、上記樹脂シートから第1または第2離型紙のいずれかを剥離し、
未硬化又は半硬化状態の熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸させてなるプリプレグに、前記樹脂シートの樹脂層を貼り合わせて積層体とし、
前記積層体を、加圧下で加熱して硬化成形を行って繊維強化複合成形体を形成し、
前記繊維強化複合成形体から、他方の離型紙を剥離する、
ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の別の態様によれば、上記の方法により得られた繊維強化複合成形体も提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、樹脂シートを構成する樹脂層が、エポキシ系樹脂およびアクリル系樹脂を主成分として含み、さらに特定量のシリカ微粒子が含まれる熱硬化性樹脂組成物からなるため、プリプレグから繊維強化複合成形体を作製する際に、この樹脂シートを用いて繊維強化複合成形体の表面に樹脂層を形成することにより、表面にクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れた繊維強化複合成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による樹脂シートの一実施態様による断面概略図である。
【図2】本発明による繊維強化複合成形体の一実施態様による断面概略図である。
【図3】実施例1の試験片の表面状態の写真である。
【図4】比較例1の試験片の表面状態の写真である。
【図5】比較例2の試験片の表面状態の写真である。
【図6】比較例4の試験片の表面状態の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明による熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ系樹脂と、アクリル系樹脂と、シリカ微粒子と、硬化剤とを必須成分として含む。以下、本発明による熱硬化性樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0024】
<エポキシ樹脂>
本発明において使用できるエポキシ系樹脂とは、少なくとも1つ以上のエポキシ基を有するプレポリマーが、硬化剤との併用により架橋重合反応により硬化したものを意味する。このようなエポキシ系樹脂としては、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられ、またフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾールフェノール樹脂等のフェノール樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。これらエポキシ系樹脂の中でも、本発明においては、ビフェニル骨格、ビスフェノール骨格、スチルベン骨格などの剛直構造を主鎖に持つエポキシ樹脂が好ましく、より好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂、特に好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0025】
上記したビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノール骨格の繰り返し単位の数によって、常温で液体のものと、常温で固体のものが存在する。主鎖が1〜3のビスフェノールA型エポキシ樹脂は常温で液体、主鎖が2〜10のビスフェノールA型エポキシ樹脂は常温で固体である。このような比較的低分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂は結晶性があり、常温で結晶化して固体のものも、融点以上の温度になると、急速に融解して低粘度の液状に変化する。したがって、後記するように繊維強化複合材の表面に樹脂層を設ける工程において、加熱によって樹脂組成物が繊維強化複合材に密着し、固化することによって樹脂層と繊維強化複合材とが強固に接着するため、接着強度を高めることができる。また、このような比較的低分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、架橋密度が高くなるため、機械的強度が高く、耐薬品性がよく、硬化性が高く、吸湿性(自由体積が小さくなるため)が小さくなる特徴もある。
【0026】
本発明においては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂として、上記したような常温で固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、常温で液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂とを併用して使用することが好ましい。常温で固体のものと液体のものとを併用することにより、機械的強度を保ちつつ、柔軟性を得ることが出来るため、樹脂が本来有する機械的強度を維持しつつ、柔軟性を得ることができる。その結果、樹脂層を表面に設けた繊維強化複合成形体は、表面の耐擦性等が向上するとともに、表面にクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れた繊維強化複合成形体を実現できる。常温で固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、機械的強度および耐熱性の観点から、ガラス転移温度が50〜70℃の範囲にあるものが好ましい。具体的には、常温で液体である主鎖が1〜3のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社製、JER828が、常温で固体である主鎖が2〜10のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社製、JER1001などが例示できる。
【0027】
常温で液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂との配合割合は、接着剤を使用する用途にもよるが、質量基準において、1:50〜10:50の割合で含まれていることが好ましい。両者の配合割合を上記の範囲とすることによって、より外観意匠性に優れる接着剤とすることができる。
【0028】
<アクリル系樹脂>
本発明において使用できるアクリル系樹脂としては、後記するエポキシ樹脂と架橋反応し得るものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、これらアクリル酸エステルモノマーと、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、n−ブトキシ−N−メチロールアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ソーダ、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジル等の官能基含有モノマーや、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチルビニルエーテル等のモノマーとを共重合して得られるアクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0029】
上記の共重合体の中でも、メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−メチルメタクリレートの3元共重合体またはその変性物を好適に使用できる。このようなメタアクリル酸エステル重合体ブロック(以下、MMAと略す場合がある)と、アクリル酸ブチル重合体ブロック(以下、BAと略す場合がある)とからなる3元ブロック共重合体を、上記したエポキシ系樹脂に添加することにより、靱性を有し、かつ、高温環境下においても優れた強度を保持できる樹脂となる。そのため、CFRP等の繊維強化複合成形体の表面に樹脂層を設けることにより、その表面を保護する機能を有するとともに、表面にクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れた繊維強化複合成形体を実現できる。
【0030】
上記したMMA−BA−MMAの3元共重合体は、一般的なリビングラジカル重合を用いて製造することができる。このうち、重合反応の制御の容易さの点などから、原始移動ラジカル重合によって好適に製造することができる。原子移動ラジカル重合法は、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、金属錯体を触媒とする重合法である。リビングラジカル重合法によりMMA−BA−MMAの3元共重合体を製造する場合、モノマー単位を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次の重合体ブロックを重合する方法、別々に重合した重合体ブロックを反応により結合する方法などが挙げられるが、モノマー単位の逐次添加による方法によってMMA−BA−MMAの3元共重合体を製造することが好ましい。
【0031】
モノマー単位の逐次添加によりMMA−BA−MMAの3元共重合体を製造する方法においては、MMAブロックを構成するメタアクリル酸エステルと、BAブロックを構成するアクリル酸ブチルとの添加順序について、先にメタアクリル酸エステルモノマーを重合した後にアクリル酸ブチルモノマーを追加する方法と、先にアクリル酸ブチルモノマーを重合した後にメタアクリル酸エステルモノマーを追加する方法が挙げられるが、先にアクリル酸ブチルモノマーを重合して、BAブロックの重合末端からMMAブロックを重合させる方が、重合制御が容易である。
【0032】
MMAとBAとの比率は、リビングラジカル重合反応させる際のモノマーの投入量によって制御することができる。MMA−BA−MMAの3元共重合体におけるMMAブロックとBAブロックとの割合は、BAブロックの割合が増加すると、接着剤の靱性や柔軟性が向上し、一方、MMAブロックの割合が増加すると、接着剤の耐熱性が向上する。本発明においては、接着剤の靱性および耐熱性の観点から、MMAブロックとBAブロックとの割合は、モノマー単位の数において、1:1〜50:1であることが好ましい。
【0033】
上記したMMA−BA−MMAの3元共重合体は、BAブロックの一部にカルボン酸や水酸基等の官能基を導入した変性物であってもよい。このような変性物を使用することにより、より耐熱性が向上するとともに、上記したエポキシ系樹脂との相溶性も向上するため、繊維強化複合成形体の保護層としての機能がより向上する。
【0034】
上記したエポキシ系樹脂にMMA−BA−MMA3元共重合体を添加すると、MMAブロック部分がエポキシ系樹脂と相溶し、BAブロック部分がエポキシ系樹脂と相溶しないため、エポキシ系樹脂をマトリックスとした自己組織化が起こる。その結果、エポキシ系樹脂が海、アクリル系樹脂が島である海島構造が発現する。このような海島構造が発現されることにより、界面破壊を避けることができ、繊維強化複合成形体表面との密着性に優れ、かつ保護層としての機能を向上することができる。
【0035】
上記のような海島構造を発現させるには、エポキシ系樹脂とアクリル系樹脂(MMA−BA−MMA3元共重合体)とを、質量基準において、100:0.1〜100:50の割合で配合することが好ましい。上記のような割合で両者を配合すると、エポキシ系樹脂(海)中に、ナノオーダーレベルの微粒子状にアクリル系樹脂(島)が分散する。上記した配合比率は、樹脂の流動性の観点からは、100:0.17〜100:2の範囲であることがより好ましい。
【0036】
上記のような海島構造を有する場合、エポキシ系樹脂中にアクリル系樹脂が相溶ないし分散するため、組成物を硬化させて樹脂とした場合にも透明性が損なわれない。そのため、後記するように、繊維強化複合成形体の表面に樹脂層を設けた場合であっても、繊維強化材料特有の外観を損なうこともない。
【0037】
<シリカ微粒子>
本発明による熱可塑性樹脂組成物は、上記したエポキシ系樹脂およびアクリル系樹脂を主成分とするものであるが、樹脂組成物中に20〜30重量%の割合でシリカ微粒子を含むものである。このような特定の量でシリカ微粒子が含まれることにより、樹脂層が表面に設けられた繊維強化複合成形体は、表面にクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れたものとなる。その理由は明らかではないが、以下のように考えられる。
【0038】
炭素繊維を経緯に織り込んだクロス材に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグは、成形型内で加圧下で加熱されることにより、含浸樹脂が硬化して成形体となる。得られた繊維強化複合成形体の表面には、クロス目が浮き出てしまったり、面材の表面の経糸と緯糸との交差部分に陥没孔が生じる場合がある。本発明による熱硬化性樹脂組成物は、樹脂シートとしてプリプレグ表面に張り合わされて、プリプレグの硬化時に樹脂シートも硬化されて繊維強化複合形成体と一体化する。樹脂が未硬化の状態の樹脂シートは、プリプレグに貼り合わされて加圧されると、樹脂の一部がクロス目(即ち、繊維間の隙間)や経糸と緯糸との交差部分に滲みこみ、その状態で硬化されることにより、表面が平滑でクロス目や陥没孔のない外観意匠性に優れる成形体を得ることができるものと考えられる。樹脂組成物中のシリカ微粒子の含有量が20重量%未満であると、樹脂がクロス目や陥没孔に滲みこみ過ぎて、成形体の表面を平滑にすることができない。一方、樹脂組成物中のシリカ微粒子の含有量が30重量%を超えると、樹脂がクロス目や陥没孔に滲みこみにくく、外観意匠性に優れる成形体を得ることができなくなる。
【0039】
本発明において使用されるシリカ微粒子は、一般的に使用されているシリカ微粒子であれば制限なく使用することができるが、オルガノシリカゾルを使用することが好ましい。オルガノシリカゾルは、有機分散媒中にコロイダルシリカを安定に分散させたゾルである。有機分散媒としては、例えば、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、プロピレングルコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、ジメチルアセトアミド等のアミド類、キシレン等の炭化水素類、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0040】
コロイダルシリカとして用いられるシリカ微粒子は、その平均粒子径が5〜30nmであること好ましい。シリカ微粒子は、平均粒子径が小さい方が有機分散媒に安定的に分散できる。なお、本発明において、シリカ微粒子の平均粒子径D(nm)は、BET法により得られた比表面積S(m/g)を用いて、換算式:D=6000/ρ・S(式中、ρは、比重を表し、SなBET法比表面積値を表す)に基づいて慣用の方法により算出することができる。このような平均粒子径を有するコロイダルシリカとしては、市販のものを使用してもよく、例えば。MEK−ST−40(球状シリカ)やMEK−ST−UP(鎖状シリカ)等を好適に使用することができる。
【0041】
<硬化剤>
アクリル系樹脂とエポキシ系樹脂とは加熱等により反応が進行して接着剤組成物が硬化するが、本発明においては、硬化反応を促進するために、接着剤組成物中に硬化剤が含まれる。硬化剤としては、例えばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物等のアミン系硬化剤、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物(液状酸無水物)、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等の酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂等のフェノール系硬化剤が例示できる。特に、ジシアンジアミド(DICY)は潜在性の硬化剤のため、保存安定性に優れ、室温保存でもポットライフが数週間もあるので好ましい。また、硬化促進剤としてイミダゾール類を含ませてもよい。
【0042】
硬化剤の接着剤組成物中の含有量は、エポキシ系樹脂の含有量を60〜77質量部、アクリル系樹脂が0.15〜1.5質量部とした場合に、1〜3質量部含まれていることが好ましい。硬化剤の配合比がこの範囲未満であると、耐熱性が低く、また樹脂層(保護層)が温度変化で劣化しやすくなる。硬化剤の含有量がこの範囲を超えると、樹脂シートを保管した場合に、その保管期間中の保存安定性(ポットライフ)が低下し、また、樹脂硬化後も未反応の硬化剤が残留することで、繊維強化複合成形体の表面との密着性が低下する場合がある。
【0043】
さらに、熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、例えば、加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度、その他等を改良、改質する目的で、例えば、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、染料、顔料等の着色剤、その他等を添加してもよい。また、必要に応じて、さらにシラン系、チタン系、アルミニウム系などのカップリング剤を含むことができる。これにより樹脂と繊維強化複合成形体との密着性を向上させることができる。
【0044】
本発明による熱硬化性樹脂組成物は、上記した各成分を混合し、必要に応じて混練、分散して調製することができる。混合ないし分散方法は、特に限定されるものではなく、通常の混練分散機、例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ペブルミル、トロンミル、ツェグバリ(Szegvari)アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、デスパー、高速ミキサー、リボンブレンダー、コニーダー、インテンシブミキサー、タンブラー、ブレンダー、デスパーザー、ホモジナイザー、および超音波分散機などが適用できる。エポキシ系樹脂として複数種を用いる場合は、先に常温で固体のエポキシ系樹脂を混合撹拌し、次に硬化剤を混合撹拌し、溶媒で希釈した後に、常温で液体のエポキシ系樹脂を混合撹拌し、次いで、アクリル系樹脂を混合撹拌することが好ましい。
【0045】
<樹脂シート>
本発明による樹脂シートは、図1に示すように、上記の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層の両面に第1離型紙および第2離型紙が設けられている層構成を有する。なお、本明細書では、第1離型紙21Aと第2離型紙21Bとを合わせて離型紙21と呼称する。このような樹脂シートは、第1離型紙または第2離型紙のいずれか一方に、熱硬化性樹脂組成物を適当な溶剤に溶解させた塗布液を塗布して乾燥させた後、他方の離型紙を貼り合わせることにより製造することができる。
【0046】
離型紙への熱硬化性樹脂組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、コンマコート、ロッドコ−ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ダイコート、リップコート、ディップコートなどが適用できる。熱硬化性樹脂組成物を、第1離型紙21Aの離型面へ、上記のコーティング法で塗布して、乾燥した後に、第2離型紙21Bを貼り合わせればよい。熱硬化性樹脂組成物(塗布液)の粘度は、1〜20000センチストークス(25℃)程度、好ましくは1〜2000センチストークスに調製する。
【0047】
第1離型紙21Aと第2離型紙21Bは同じものでも異なったものを用いてもよい。離型紙21としては、離型フィルム、セパレート紙、セパレートフィルム、セパ紙、剥離フィルム、剥離紙等の従来公知のものを好適に使用できる。また、上質紙、コート紙、含浸紙、プラスチックフィルムなどの離型紙用基材の片面または両面に離型層を形成したものを用いてもよい。離型層としては、離型性を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂、有機樹脂変性シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アミノアルキド樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂などがある。これらの樹脂は、エマルジョン型、溶剤型または無溶剤型のいずれもが使用できる。
【0048】
離形層は、離形層成分を分散および/または溶解した塗液を、離型紙用基材フィルムの片面に塗布し、加熱乾燥および/または硬化させて形成する。塗液の塗布方法としては、公知で任意の塗布法が適用でき、例えば、ロールコート、グラビアコート、スプレーコートなどである。また、離形層は、必要に応じて、基材フィルムの少なくとも片面の、全面または一部に形成してもよい。
【0049】
第1および第2離型紙の剥離力は、樹脂シートに対し、1〜2000mN/cm程度、さらに100〜1000mN/cmであることが好ましい。離形層の剥離力が1mN/cm未満の場合は、接着シートや被着材との剥離力が弱く、剥がれたり部分的に浮いたりする。また、2000mN/cmより大きい場合は、離形紙の剥離力が強く、剥離しにくい。安定した離形性や加工性の点で、ポリジメチルシロキサンを主成分とする付加および/または重縮合型の剥離紙用硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
【0050】
<繊維強化複合体成型物の製造方法>
本発明による繊維強化複合体成型体の製造方法は、1)上記した樹脂シートから第1または第2離型紙のいずれかを剥離する工程と、2)未硬化又は半硬化状態の熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸させてなるプリプレグに、前記樹脂シートの樹脂層を貼り合わせて積層体とする工程と、3)前記積層体を、加圧下で加熱して硬化成形を行って繊維強化複合成形体を形成する工程と、4)前記繊維強化複合成形体から、他方の離型紙を剥離する工程と、を含むものである。
【0051】
上記の硬化成形工程は、プリプレグと樹脂シートを積層したものをオートクレーブバッグで包装し、該オートバック包装内を真空に保ち、オートクレーブ装置により熱硬化させる。このように、本発明によれば、従来のプリプレグの硬化工程と同様の工程により、繊維強化複合形成体の表面に樹脂層を形成することができる。また、オートクレーブバッグやオートクレーブ装置も従来の既存のものが使用できる点でも低コストである。
【0052】
上記のようにして得られた繊維強化複合成型体2は、図2に示すように、繊維強化複合材3の表面に樹脂層11を有しており、クロス目や陥没孔がないため、外観意匠性に優れている。そのため、自動車等の外装部材として好適に使用することができる。また、上記したような組成からなる樹脂で繊維強化複合材を被覆することになるため、耐光性も向上する。
【実施例】
【0053】
本発明を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例の内容に限定されるものではない。なお、各層の各組成物は溶媒を除いた固形分の質量部である。
【0054】
実施例1〜6および比較例1〜3
<熱硬化性樹脂組成物の調製>
下記の表1に示す組成に従って熱硬化性樹脂組成物を調製した。各成分の混合は、以下のようにして行った。先ず、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と硬化剤とを攪拌機により混合し混合物Aとした。次に、固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂をメチルエチルケトン溶剤に溶解させて固形分80%の溶液Bとした。また、アクリル系樹脂をメチルエチルケトン溶剤に溶解させて固形分30%程度の溶液Cとした。続いて、メチルエチルケトン20質量部に対してメチルイソブチルケトン溶剤10質量部を加えた溶剤に、シリカ微粒子20質量部を加えて穏やかに撹拌した混合物Dを調製し、この混合物Dに上記で調製した溶液Bを加えて撹拌し、混合物Eとした。その後、この混合物Eに、上記で得られた混合物Aを加えて撹拌した後、さらに溶液Cを加えて撹拌することより、熱可塑性樹脂組成物を調製した。なお、下記の表1中、
JER828、JER1001およびJER1009は、三菱化学社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂を、
SM4032XM10は、アルケマ社製のカルボキシル基が導入された変性メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−メチルメタクリレートの3元共重合体を、
M22は、アルケマ社製のメチルメタクリレート−ブチルアクリレート−メチルメタクリレートの3元共重合体を、
M22Nは、アルケマ社製の水酸基が導入された変性メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−メチルメタクリレートの3元共重合体を、
MEK−ST−40およびMEK−ST−UPは、日産化学社製のナノシリカを、
HIPA−2E4MZは、日本曹達社製の包接イミダゾールを、それぞれ表す。
【0055】
【表1】

【0056】
<樹脂シートの作製>
上記のようにして得られた熱可塑性樹脂組成物を、基材として厚さ38μmのシリコーン処理のされている剥離PET(SP−PET 03BU、東セロ社製)に、乾燥後の重量が50g/mになるように、コンマコーターにて塗布し、100℃で3分間乾燥して樹脂層を形成した後に、軽剥離のセパフィルム(SPーPET 01BU、東セロ製)を貼り合わせることにより、樹脂シートを作製した。
【0057】
<繊維強化複合成形体の作製>
樹脂シートの一方の面のセパフィルムを剥離し、樹脂層の面を基材(未硬化のプリプレグ、F6347B−05K、東レ社製)に貼り付けた。次いで、他方のセパフィルムを剥離し、樹脂層の面を、離型処理をしたガラス板に貼り付けて積層体とした。
【0058】
この積層体をオートクレーブバッグに入れたものをオートクレーブ装置に入れ、オートクレーブバッグの口に真空ポンプを接続させて真空脱気しながら、3気圧、130℃で2時間加熱硬化させることにより試験片を作製した。
【0059】
比較例4
樹脂シートを使用しなかった以外は、実施例1同様にして試験片を作製した。
【0060】
<評価>
得られた試験片の表面を肉眼で観察し、凹みの有無および表面の平滑性の評価を行った。表面が平滑で凹みや窪みのないものを○、凹みや窪みはないがクロス目の凹凸がわかるものを△、凹みや窪みがあり、クロス目の凹凸もわかるものを×とした。評価結果は、表2および図4〜6に示されるとおりであった。なお、図3は、実施例1の試験片の表面を観察したもの、図4は、比較例1の試験片の表面を観察したもの、図5は、比較例2の試験片の表面を観察したもの、図6は、比較例4の試験片の表面を観察したものである。
【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系樹脂と、アクリル系樹脂と、シリカ微粒子と、硬化剤と、を少なくとも含んでなる熱硬化性樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子が、樹脂組成物に対して、20〜30重量%含まれてなることを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ系樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ系樹脂が、常温で液状のビスフェノール型エポキシ樹脂およびガラス転移温度が50〜70℃の範囲にある常温で固体のビスフェノール型エポキシ樹脂の2種のビスフェノール型エポキシ樹脂からなる、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリカ微粒子の平均粒子径が、5〜30nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂が、メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−メチルメタクリレートの3元共重合体またはその変性物である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ系樹脂と前記アクリル系樹脂との配合割合が、100:0.17〜100:2である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記室温で液状のビスフェノール型エポキシ樹脂と、前記室温で固体のビスフェノール型エポキシ樹脂とが、1:50〜10:50の割合で含まれている、請求項3〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記エポキシ系樹脂が60〜77質量部、前記アクリル系樹脂が0.15〜1.5質量部、前記シリカ微粒子が20〜30質量部および、前記硬化剤が1〜3質量部、含まれてなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
第1離型紙と、樹脂層と、第2離型紙とを、この順で積層してなる樹脂シートであって、前記樹脂層が、請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を含んでなる、樹脂シート。
【請求項10】
繊維強化複合成形体の製造方法であって、
請求項9に記載の樹脂シートから第1または第2離型紙のいずれかを剥離し、
未硬化又は半硬化状態の熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸させてなるプリプレグに、前記樹脂シートの樹脂層を貼り合わせて積層体とし、
前記積層体を、加圧下で加熱して硬化成形を行って繊維強化複合成形体を形成し、
前記繊維強化複合成形体から、他方の離型紙を剥離する、
ことを含んでなることを特徴とする、繊維強化複合成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により得られた繊維強化複合成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23511(P2013−23511A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156844(P2011−156844)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】